“The Passion of Gengoroh Tagame”

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 なんか慌ただしく過ごしているうちに、今年の4月30日に発売された初英語版単行本“The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga”の、きちんとした紹介をすっかりし忘れていたので、 遅ればせながら記事アップです。

 サイズはB5(週刊誌サイズ)の大判、ページ数は256ページ、収録作品は『Hairy Oracle』『闘技場〜アリーナ』『鬼祓え』『田舎医者』『スタンディング・オベーション』『MISSING』、そしてこの単行本用の新作描きおろし『Class Act』となります。
 収録作品の内容見本は、こちら
 装丁はブック・デザイン界の鬼才チップ・キッド、翻訳&プロデュースはアン・イシイ、編集&解説はグラハム・コルベインス、序文は『美しい部屋は空っぽ』『ジュネ伝』等の文豪エドマンド・ホワイト。

 まずは装丁の話から。
 手掛けてくれたチップ・キッドは、先頃NHKの『スーパー・プレゼンテーション』でTEDの「本をデザインするのは笑いごとではない…なんてね(笑い事ではないけど笑える本のデザインの話)」が放送され、あちこち話題にもなったアメリカのブック・デザイン界ではカリスマ的な存在のグラフィック・デザイナー。日本での有名どころでは、村上春樹や手塚治虫の英訳本や、マイケル・クライトン『ジュラシック・パーク』のオリジナル装丁を手掛け、それが後に映画版のロゴにもそのまま使用されたりしています。
 私の”Passion”では、本の下半分をテクスチャの異なる紙質の環状の帯で覆い、テキストも全てそこに集約。帯を外すと絵の全体像が現れ、書籍本体には文字もバーコードも一切ない、シンプルで大胆な装丁の本になる……という仕掛けになっています。
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 同様の《遊び》は、本体見返し部分にも仕掛けられていますので、実物を手に取られた方は、是非そこいらへんも含めてご覧ください。

 チップはコミック・マニアとしても知られていて、アメコミ関係の書籍にも多く関わっており、日本の桑田次郎版『バットマン』のアメリカでの復刻『バットマンガ』も、この人が立役者です。
 そんなチップが、もう10年以上も前に仕事で来日した際、先頃亡くなった日本在住の映画批評家/映画監督、ドナルド・リチーに連れられて新宿二丁目に行き、ゲイショップで私の本を手にとったのが、今回の英訳版出版に繋がるそもそものスタート。
 有り難いことにチップは私の本を気に入り、以来、新刊が出ると、全てではないけれど買い集めてくれていたそうな。そんなチップが仕事でアン・イシイと知り合い、自分のプライベートの愉しみのために、彼女に私のマンガの英訳を個人的に頼んだんだそうです。そして二人が、私のマンガの英訳本が出るといいのにね……と話していたところ、やがて若い映像作家で、日本のゲイマンガ好きのグラハム・コルベインスが合流。
 こうして、チップ/アン/グラハムというチームが出来て、彼らがあちこちに企画を持ち込んだところ、オルタナティブ・アートやポップカルチャー、オルタナティブ・コミックなどの出版を手掛けていた、ピクチャー・ボックスの社長ダン・ナダルが手を挙げてくれた……という次第。
 先頃の渡航は、そこに、やはり私のファンだというトロント・コミックス・アート・フェスティバルのディレクター、クリス(クリストファー)・ブッチャーが加わり、私、チップ、アン、グラハム、ダン、クリスの連携で、あれこれ動いたものです。

 また、チップ/アン/グラハムは、私以外にも日本のゲイマンガをアメリカで紹介したいというプロジェクトを組んでおり、これには私も、彼らがコンタクトを取りたがっている日本の作家を紹介するという形で関わらせていただきました。先頃どこかでプレス・リリースが出ていましたが、形になるのは来春の予定。
 日本のゲイマンガは、作家にとっては頭が痛いことなんですが、ネット上でシェアされたり無断で翻訳されたりして(スキャンレーションと言って、日本のみならず世界中のコミック・アーティストや出版社が悩まされている問題)、確実に海外のオタク系ゲイ・コミュニティ内では知名度が上がっており、デフォルメや表現手法といった面での影響力も、年月を追うごとにどんどん大きく見られるようになっています。
 今後、オフィシャルな出版物や、作家にもちゃんと利益が還元される形で、日本のゲイマンガがどんどん海外進出していけば、面白いことになるだろうな……と、ちょっと期待。

 閑話休題。
 話は”Passion”に戻りますが、個人的に嬉しいのは、これは過去の仏西伊語版でも同じですが、絵に修正を入れずに出すことができたということ。自分の描く絵が、自分の母国では完全な形で出版することができないというのは、初めて自分の絵がアメリカのゲイ雑誌に無修正で掲載された1993年以来、ずっと変わらぬストレスですから。
 それともう1つ、これは今回ならではの嬉しさは、大判単行本で出せたということ。現状「バディ」本誌ではB5サイズで作品を発表することができますが、基本はA5でしたし、今まで出た単行本は全て、国内外を問わずA5かB6サイズ。
 何のかんの言って、やはり画面の大きさと迫力は比例するので、同じ『田舎医者』を日本版と米版を見比べると、受ける印象の違いは大きいです。
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 この単行本用に描きおろした『Class Act』は、チップの依頼による制作。
「北米読者用の描きおろし新作を入れて欲しい」ということで、チップと話し合った結果、読者ウケの良い教師と生徒でいこうということになりました。ここいらへん、日本もアメリカも同じなんですな。
 ただ、ここでちょっと珍しい事例が発生しまして、チップが「キャラを自分と自分のパートナーにしてくれないか」とリクエストしてきまして……。ファンメールとかで「自分をマンガに出してくれ」と、本人の全裸写真添付で送られてくるなんてのは、実はそんなに珍しいことでもないんですが(笑)、仕事でそういうリクエストが出たことはなかったので、正直かなり戸惑いました。
 詳細は省きますが、とりあえず私は、自分にとっての《夢の男》を描くのがポリシーなので、キャラを誰かに似せて描くというのはやらない、その代わり、キャラの名前を彼らと同じにして、特徴も少し取り入れる(チップはメガネキャラ、パートナー氏はシロクマ系……といった具合)ということで納得して貰いました。
 チップは「出過ぎた真似かもしれないけれど、気を悪くしないでくれ」と、ストーリーの原案も送ってきたんですが、私のテイストとは違うのと、予定ページ数では収まりきらない内容だったので、ストーリーも完全に私のオリジナルでいかせて貰っています。
 そんな『Class Act』ですが、いざ作品を仕上げて渡し、そして翻訳やレイアウトも済んだ校正用PDFを見たら、キャラの名前が別のものに変わっていまして……何だったんだ(笑)。
 でも、”Passion”の巻末にはボーナス・コンテンツ的に、この『Class Act』の鉛筆下描きが何ページか収録されておりまして、そっちには私の手書きの日本語で、オリジナル・タイトルや元々のキャラ名がバッチリ入ってるんだよな〜(笑)。ここいらへんは、日本語話者の読者にしか判らない面白さかも(笑)。

 そんなこんなで、“The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga”、アメリカ/カナダのみならず、世界のあちこちで販売中(現在、スペインとフランスとノルウェーの本屋で「買ったよ!」という報告あり)です。
 そして日本でもアマゾンで買えますので、宜しかったら是非、お手元に一冊どうぞ!

The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga
価格:¥ 3,118(税込)
発売日:2013-04-30