鐘馗地獄行(2)

 鬼たちは、鎖で縛った鍾馗を閻魔王庁に連行した。誰も、まだ何が起こっているのかは判らずにいたが、何にせよ、まずは上司にお伺いをたてなければならない。
 玉座に座していた閻魔大王は、恐ろしい神であるはずの鍾馗さまが、まるで人のように惨めに縛られ、連行されてきたのを見て、びっくり仰天した。しかし、流石は地獄を統べる大王である。鍾馗の下袴の前が膨らんでいるのを見て、たちまちのうちに何が起こったのかを察してしまった。
 閻魔大王は、脱衣婆を呼ぶと、鍾馗の下衣を脱がせるよう命じた。婆の手が帯にかかると、鍾馗は必死に抵抗しようとしたが、左右から鬼に押さえ込まれて動きがとれない。
 今まで、数え切れないほどの亡者の衣を脱がしてきた脱衣婆は、慣れた手つきで帯を解くと、手際よく袴を脱がせ、続いて下帯もはぎ取った。
 股間に締めこんだ布がほどかれると、その下から、隆々と勃起したいちもつが、まるで奔馬の如く、ぶるんと頭を振って飛び出した。
 何が何だか判らぬまま成り行きを見守っていた鬼どもは、一瞬あっけにとられたが、やがてどっと笑いだし、下半身裸でびくびくと怒張を振っている虜囚の姿を、指さして嘲った。
 鍾馗は、怒りと屈辱に顔が熱くなるのを感じた。しかしその股間は、主の想いを無視して、千年ぶりに満たされた血に酔い痴れたように、まるで別の生き物のように暴れ狂っている。
 閻魔大王は、虜囚の衣の下が自分の想像した通りになっているのを見てほくそ笑みつつ、同時にそれが自分の想像を越えた偉容であったので、心中密かに嫉妬のような念を覚えた。
 まこと鍾馗のいちもつは、人に羨まれるに相応しい巨根であった。
 茎は見事なまでに太く、血管を縦横に浮かび上がらせながら生え反り、鰓を張り出した亀頭は暗紫色に充血し、鏡のようにぴかぴかと輝いている。根本には艶やかな黒毛が鬱蒼と茂り、そこから鶏の卵ほどもあろうかという巨大なきんたまが、ゆったりと息づきながら垂れている。
 閻魔大王は、嘲りと羨望の入り交じった複雑な表情で、玉座から立ち上がって鍾馗に近寄り、その巨根をむんずと握った。
 充血しきって敏感になったそこを握られて、鍾馗は思わず、くっと喘ぎ声をあげた。閻魔大王はそれに構わず、握った掌をぐいぐいと上下にしごき立てる。
 鍾馗は顔を真っ赤にして、その手を離せと怒鳴ったが、自分を辱めている地獄の大王は、不適な笑みを浮かべたまま何も答えずに、相も変わらずそこをしごき続ける。
 下腹部に、堪えきれぬ快美が集まっていくのを感じ、鍾馗は心中に焦りを覚えた。このまま無様に精を漏らしてしまえば、自分の神通力は、今度こそ完全に喪われてしまうだろう。気をやってはいけない。何としてでも、堪え抜かねばならない。
 しかし、千年ものあいだ孤閨に耐えてきた男根には、そんな自制は言うだけ酷だ。肉茎をしごく淫らな指は、着実に鍾馗をその絶頂へと追いつめていった。
 やがて、心中の抵抗もむなしく、鍾馗の男根は、その鈴口から夥しい白い汁を噴き上げた。
 鍾馗は、千年ぶりに味わった男の快感に、脳天が真っ白に吹き飛ばされるような思いだった。への字に引き締めた口から、堪えようにも堪えきれない呻き声を洩らし、荒い毛の生えた太股を突っ張らせながら、鍾馗は、幾度も幾度も白濁した粘液を迸らせた。
 長い射精がようやく終わり、ぐったりとして息を荒げる鍾馗を見ながら、閻魔大王は満足げな笑みを浮かべた。これで、神通力が蘇る心配は当分の間ないだろう。長年、自分とその眷属を苦しめてきた怨敵が、いまやまさに俎板の上の鯉だった。煮ようが焼こうがこちらの自由、積年の恨みを存分に晴らせるのだ。
 とはいえ、念には念を入れだ。いつ何時、鍾馗の神通力が戻るとも判らない。一計を案じた閻魔大王は、懐から小さな壺を取り出した。
 壺の中身は、大王が日頃から可愛がっている蟲たちだった。それも、日頃は人の身体や心に潜んで、病気や悪心を生じさせるような、外道蟲、悪道蟲ばかりである。
 蓋を開けた大王は、壺の中から一匹の蚯蚓のような蟲を選んでつまみ出した。太さが親指ほどもある桃色の蟲で、その名を誘淫蟲と言う。大王は、それを親指と人差し指でつまむと、射精を終えて半萎えになっている男根の前にぶら下げた。蟲は、すぐに淫ら汁の臭いを嗅ぎつけて、頭をもたげて鈴口に近付いた。
 鍾馗は、射精の快感に朦朧としたまま、半ば意識を失いかけていたが、下腹部に感じる違和感に我に返った。
 蟲は、既に鍾馗の尿道に潜り込みはじめていた。
 鍾馗は、怒号とも悲鳴ともつかない大声をあげて身悶えしたが、鎖に縛られ屈強な鬼どもに押さえ込まれた姿では、そんな抵抗もむなしいだけだ。尿道の粘膜を擦りあげられるおぞましい感触と共に、蟲がじりじりと身体の中へ潜り込んでいく。
 この蟲は、尿道から睾丸に潜り込み、そこに寄生する蟲だった。睾丸に棲みついた蟲は、一種の毒を分泌する。すると、宿主の男根は四六時中おっ勃ったまま、決して萎えなくなってしまう。つまり鍾馗の神通力は、体内にこの蟲がいる限り、永遠に封じ込められてしまうのだ。
 閻魔大王の説明を聞いて、鍾馗は、怒りと悔しさに歯噛みした。しかし、囚われの身ではなすすべもない。やがて蟲はすっかり男根に潜り込むと、やがて睾丸へと至り、その中にとぐろを巻いて棲みついた。
 それと同時に、鍾馗は、自分の身体がかっと熱くなるのを感じた。さっき射精を終えて萎えかけていた男根が、再びむくむくと頭をもたげはじめる。
 やがて、それは立派に勃起したが、それでもまだ足りぬという様子で、更に、いや増しに、反りかえっていく。
 それは、さきほど以上の怒張だった。身体の血が全てそこに流れ込んでしまったように、頭がくらくらとする。幹には青筋が網目のように浮かび上がり、亀頭は恐ろしいまでに充血して、磨いた玉(ぎょく)のようにぴかぴかと輝き、今にも破裂して血が噴き出しそうなほどであった。
 閻魔大王は、蟲の効き目に満足して、にやにや笑いを浮かべながら、剥きだしの亀頭を擦りはじめた。
 その瞬間、襲いかかったあまりの快美に、鍾馗は堪えきれずに淫らな喘ぎ声をあげてしまった。尿道口がぱっくりと開き、濡れた鮮紅色の唇から、卑しの露がしとどに溢れだし、閻魔大王の掌をびっちょりと濡らした。
 大王が手を離した後も、鍾馗のそこはびくんびくんと脈動しながら、先端から透明な露をとめどなく滴らせ続けていた。
 大王は、鍾馗を押さえつけている鬼どもに、虜囚の衣を全て剥いで素っ裸にするよう命じた。鬼たちは、我先に群がると手に手にびりびりと衣を引き裂いた。
 やがて鍾馗は、生まれたままの丸裸にされ、再び閻魔大王の御前に立たされた。鍾馗は、黙って下唇を噛みしめ、この屈辱に耐えていた。
 裸にされた虜囚を見て、大王は、改めてその肉体のすばらしさに、感嘆と嫉妬の念を覚えた。
 鍾馗の身体は骨太で、どこもかしこも逞しい筋肉が隆々と盛り上がり、さながら肉の鎧をまとっているかのようだった。肌は滑らかで浅黒く、丸太のように太い腕にも、柱のように頑丈な脚にも、荒い体毛が針のように生い茂っている。漆黒の剛毛は厚い胸板も覆い、そのまま腹から下腹部へ、渦巻きながら途切れることなく続いている。
 そして、その中心からそそり立つ、見事なまでの男の証(あかし)。卑しい露を吐きながら、それでも威容を喪わぬ堂々たる肉の塔。垂れ下がった毛むくじゃらの睾丸は、中に蟲が寄生したせいで、さきほどより膨れあがり、蜜柑ほどの大きさになっている。
 その肉体のあまりの濃密さに、閻魔大王以下地獄の鬼たちは、いちように何か息苦しいような思いを覚えていた。
 しかし、やがて大王は相手に呑まれそうな気持ちを追い払うと、いまや無力となった鍾馗に、ありとあらゆる地獄の責めを与えよと命じた。
 鬼たちは色めき立って、全裸で縛られた鍾馗を、最初の責め場へと連行していった。