鐘馗地獄行(6)

 閻魔大王は、長い時間をかけて鍾馗の尻を味わったあげく、ようやくその中に射精したが、それでもまだ飽き足らなかった。
 もっともっと、この虜囚を嬲りたい。その肉体を味わい尽くし、骨の髄までしゃぶり尽くしたい。
 尻を鮮血に染め、柘榴のようにはじけた肛門に閻魔大王の精液を光らせ、自らの巨根からも未だ精液を迸らせ続け、四肢を釘付けにされてぐったりと俯せた鍾馗の姿を見下ろしながら、閻魔大王はそんなことを考えていた。
 それは、魅せられてしまったと言っても良いかも知れない。大王は、自分が手に入れたこの毛むくじゃらのおもちゃに、もう夢中になってしまったのだ。
 閻魔大王は、大刀を抜くと、鍾馗の肘と膝から先を切り落とした。鍾馗が悲鳴をあげた瞬間、縫い止められていた唇が千切れ、血飛沫が飛び散った。
 切り取られた腕と脚の断面から、びゅうびゅうと血を吹き出しながら、ごろごろとのたうちまわる鍾馗の姿を、大王は、しばらく嗜虐心に満ちた目で眺めていたが、やがて、その上に覆い被さると、今度は向かい合わせの態勢で犯しはじめた。
 傷ついた肛門を、再び棘のある凶器でえぐられ、鍾馗は苦痛に絶叫した。巨大な肉の杭は、情け容赦なく鍾馗の腹の中をずぶずぶと突きまわす。おそらくは、腸壁が突き破られているのだろう。肉棒をいっぱいにつめこまれた肛門の隙間から、どす黒い血が溢れ出た。
 襲いかかる苦痛にのたうちまわりながらも、鍾馗の股間は固く屹立したままだった。目の前で踊り狂うそれを、大王は面白げに手にとると、じっくりとそこを嬲りはじめた。
 極太のそれは、掌の中でびくびくと暴れ回り、先端の唇からひっきりなしに露を吐き続けている。閻魔大王は、それに興味を示して、両手の爪を尿道口の縁に掛けると、思い切り左右にこじ開けた。
 淫液に濡れた唇がぱっくりと開き、紅(くれない)にぬめった内壁が見える。大王は、指に更に力を入れた。鍾馗の絶叫と共に亀頭の裏筋が裂け、鈴口がまるで桃でも切ったような形に捲れあがる。
 鍾馗の肛門が苦痛に痙攣し、その締め付けの心地よさに、閻魔大王は目を細めて、満足そうな溜め息をついた。
 大王は、人差し指の爪にふっと息を吹きかけ、そこを長く、剃刀のように鋭く変えると、その爪を引き裂かれた鈴口に差し込み、そのまま根本にむかってさくさくと切りはじめた。
 鍾馗は、身をよじりながら悲鳴をあげ続けた。分厚い樽のような胴体をびくびくと痙攣させ、太い首には縄をよじったように筋肉が浮かび、逞しい下腹には稲妻のような青筋が浮いた。
 囚虜の巨根は、太い裏筋沿いに、まるで魚でもおろすかのように、ざくざくと切り裂かれていく。溢れだした血と精液が混じり合い、男根を薄紅色のだんだら模様に染め上げる。
 閻魔大王は、そこを根本まですっかり切ると、開いた傷口に指を入れて、まるで愛おしむかのように撫でさすった。尿道の粘膜をざらついた指に擦られて、鍾馗は、そこを焼かれるような苦痛と、吐き気を催すような悪寒におそわれた。
 男根が、痛い。亀頭から茎から、自分の脈と同じ調子で、ずきずきと痛い。蟻の門渡りが、ぎゅうっと強張り、針を千本突き刺された上に万力で締め付けられているかのように、痛い。
 悪寒に背筋が凍り付く。尾骨のあたりから首の後ろに向かって、耐えきれぬような不快感が駆けのぼってくる。胃がむかつく。口の中で鉄の味がする。
 閻魔大王が、割れた裏筋に両手の親指を差し込んで、裂かれた男根をべろりと裏返した。もはやそこは、男の器官には見えない。醜悪で奇怪な芋虫のようだ。大王はその芋虫を、鋭く尖った爪の先で、つつきながら嬲る。肉に爪が刺さるたびに、もはや叫ぶ力も無くした鍾馗が、口から血泡を吹きながらびくびくと痙攣する。
 それでも、身体に寄生された蟲によって、強制的に呼び起こされる淫欲は途切れない。無惨に解剖された男根の、その根本の暗い穴から、白濁した精液がじくじくと膿のように湧き出す。
 閻魔大王は、この拷問を楽しみながら、それでも冷静に鍾馗の様子を伺っていた。巨根を二つに切り裂かれながらも、鍾馗の神通力が戻る気配はない。どうやら、問題は睾丸のようだ。そこから精液が供給され、快感と共に垂れ流されている限り、鍾馗は神通力を喪失したままなのだ。
 ならばもう、遠慮はいらない。この巨根をいたぶり、切り裂き、ばらばらにしてやろう。
 そう確信した大王は、再び爪を鋭い刃のように変えると、嗜虐欲に目を輝かせながら、まるで果物でも剥くかのように、丁寧に鍾馗の男根の皮を剥ぎはじめた。
 縦に細く簾のように切れ目を入れ、一枚一枚ぴりぴりとゆっくり歯がしていく。血まみれの皮膚の下から、灰色の海綿体が露出する。その苦痛に、脂汗と血に汚れた逞しいトルソが、低い呻き声を上げながら、ぴくぴくと痙攣する。
 全ての皮をはぎ終わり、鍾馗の男根が、まるで血に浸されたなめくじのような姿に変わり果てると、閻魔大王はそれを握り、ゆっくりと上下にしごきはじめた。
 地獄の無限の闇の中、苦痛と快感に捕らわれた、哀れな鍾馗の絶叫が響き渡った。

 貴殿がいつか死に、もし地獄に堕ちたならば、亡者として閻魔王庁に引き出されたときに、大王の座る玉座の左斜め下を、良く見られると良い。
 乾いた血と泥に汚れているので、すぐには判らないとは思うが、注意してみれば、貴殿はそこに這う一匹の肌色の生き物に気付くはずだ。
 それはまるで、犬のようで犬ではなく、人のようで人でもない。もともとは貴殿と同じ人であり、その後に神となり、そして今では惨めな玩畜となった男の姿である。
 手足はそれぞれ、肘と膝から切断されたまま、未だ再生を許されていないはずだ。だから、人のように立ちあがることができずに、犬のように四つ這いしかできないのだ。
 首には、犬のように鉄の首輪をはめられて、やはり犬のように玉座の脚に鎖で繋がれている。しかし犬のように吠えることはできず、ましてや人のように喋ることもできない。既に舌を抜かれ、喉も潰されているからだ。
 喉を潰した道具は、貴殿の目の前に座している閻魔大王の男根だ。大王は、いきり勃ったそれを喉奥深くまで突き込み、男根に密生した棘のような疣で、声帯ごとずたずたに引き裂いたのだ。
 おそらく貴殿は、生前の罪を裁かれるために、大王の御前に平伏させられるだろう。そのときに、ちょっとだけ頭を左に向けて、この生き物の股ぐらを覗いてみたまえ。
 そこには、あるべきものが、ない。
 男根が無惨にも切り取られ、もとあった場所には、切り株のような残骸だけが残っている。そして、それとは反対に、睾丸が尋常ではない大きさに膨れあがっているのにも気付くだろう。中に蟲が寄生したそれは、今ではもう朱欒(ざぼん)ほどの大きさになっている。
 更に注意深く観察すれば、股間の切り株の真ん中から、絶えず透明な露が滴り落ちているのも見えるはずだ。
 この生き物は、常に燃えさかる淫欲に苦しめられている。蟲の作用で性欲が膨れあがり、溜まりに溜まった濃い精液が、睾丸がはち切れんばかりに渦巻いている。
 自分でしごいて放出したくとも、手も男根もないのでそれも叶わない。射精できるのは、自分の飼い主である閻魔大王が、肛門を犯してくれるときだけだ。
 運良くこの生き物が後ろを向けば、変わり果てた形となった肛門を見ることもできるだろう。
 そこはぽっかりと虚ろに開き、体内から飛び出した肉襞が、孔(あな)の周囲で火山の火口のように盛り上がり、出産を終えた雌猿のようになっている。
 この生き物は、閻魔大王に尻を犯されることを、心の中では嫌悪している。女のように犯されるたびに、屈辱に心を真っ黒に塗りつぶされるからだ。
 また、同時にその行為を恐れている。そのたびに恐ろしい凶器に、肛門も腹の中もずたずたに引き裂かれるからだ。
 しかしそれでもこの生き物は、その行為を待ち望んでいる。肛門を犯されるのを、待ちわびている。それほどまでに、異常に昂進した淫欲が、この生き物を常に苦しめているのだ。
 大王に犯されるたびに、この生き物は、目から涙を、尻から血を、股間から精液を同時に流す。陰毛の中に残った男根の痕跡から、糊のように濃い精液を、犯されている間中とめどなく垂れ流し続ける。
 この生き物こそが、鍾馗さまのなれの果てだ。
 あの日、地獄に落ちて以来、浮き世では既に百年千年と時が経過している。しかし鍾馗は、もはや鬼の糞で再生することすら許されず、永劫無限の時の中で、こうして玉座の傍らに這っている。
 それが、鍾馗を迎え入れた、最後の運命だったのである。
(了)