デジタル・ペインティング(基本編)

 もう十年以上昔に、初めてMS-DOSマシンで某CG製作プロダクションの開発したアプリケーションを使って絵を描いたときは、レスポンスは遅いし筆圧感知もなく、サイテックスの代用のようなフォト・レタッチ用としてならともかく、画材としてはとても使い物にならないという印象でした。
 しかしその後のマシンとアプリケーションの進化を見ているうちに、そろそろ画材としても使いやすくなったのではと判断し、2000年6月にPower Mac G4を購入。以来、本格的に仕事に導入しています。
 マンガ原稿のスクリーン・トーン貼りにはPhotoshopを使っていますが、単独のイラストレーションを描く時に愛用しているのはPainter 6です。
 私にとってのデジタル・ペイントの最大の利点は、画材として、特に絵具として考えた場合に「永遠に乾燥せずに、同時に常に乾燥している状態である」という点にあります。それによって、古典的な油絵のように線を使わずにマッスで見せるタイプの絵を、油絵具のように技術習得に時間をかける必要もなく、アクリル絵具のように画面上の混色で苦労することもなく、手軽に描けるようになりました。 また混色した絵具が足りなくなるとか、絵具の溶き加減の調節に神経を使うとか、画材を並べたり片付けたりするのが面倒臭いといった、とかく「絵を描く愉しみ」を疎外するストレスから解放されることと、修正が容易だというのも大きなメリットです。そういう意味でPainter 6は私にとって実に使いやすい画材でした。

 手法としては基本的にアナログで描く場合と同じです。紙やキャンバスがモニターになり、筆がペンタブレットになっただけ。解像度は基本的に印刷物原寸で350dpiです。
 下書きはタブレット(WACOM intuosを使用)で直描きしたり、紙と鉛筆を使ってアナログで描いたものをスキャナーで取り込んだり、時と気分でやり方が変わります。下絵が完成したら、そのクローン画像を開き、それを本描き用にします。
 彩色はブリストル・キャプチャというブラシ(豚毛のフィルバート筆のようなタッチが気に入っています)をメインに使って、最初は大まかにザックリ描いていきます。うまく形がとれてきたら、ときどき下絵をトレーシングペーパー表示にして、それをガイドに細部の描き込みに入ります。ぼかしは筆圧の調整(アナログ画材で言うところのドライブラシ技法に相当)や、丸筆/質感や水筆(アナログ画材で言うところのブレンディング技法に相当)などで表現します。こうしてひたすらちまちまコネコネ描き込んでいきます。カラーの場合は、水彩で色にニュアンスを加えたり(アナログ画材で言うところのグラッシ技法に相当)もします。
 余談ですが、全ての筆は自分で使い勝手に合わせてカスタマイズして、新しい名前(ヒゲ用とか体毛用とか)を付けて保存してあります。これもまた筆のコンディションを常に同じ状態に保っておけるという、アナログ画材では考えられないメリットとなっています。まあその反面、偶然性による効果・味は出しにくいというデメリットでもありますけれど……。また自分が使うブラシは限られている(具体的には筆、エアブラシ、鉛筆、消しゴム、水彩、ドライメディア、ペン、リキッドの中の更に一部だけ)ので、必要なものだけをセレクトしたブラシライブラリを作って、起動時にはそれを読み込むようにしておきます。テクスチャに関しても同様です。
 フィルター類は面白い効果も狙えますが、質感的に手書き部分と違和感が出るののが嫌なのでほとんど使いません。レイヤーも、輪郭線を使わずにマッスを主体に絵を描く場合は、あまりメリットがないのでほとんど使いません。ただ部分的な修正と体毛表現には便利なので活用しています。また、色の調整やクローン機能といった、デジタルならではの描画的メリットはフルに活用します。特に後者は前述の下絵表示の他にも、照明効果や3Dソフトでシミュレーションした色彩を拾うなど、けっこう恩恵を享受しています。

 さて、一応これで完成です。
 以前は最後にテクスチャーを適用していましたが、私の仕事の環境(印刷サイズはA5〜A4、印刷線数は175線)では、どうもあまり良い効果が出ない(印刷でテクスチャを美しく出そうとすると、倍率が大きすぎて嫌味だったり、凹凸が目立ちすぎて不自然になってしまい、視覚的に自然なラインを狙ってさりげなく設定すると、今度は線数の関係なのか、印刷効果がどうしても汚くなってしまう)ので、最近では全く使用していません。
 実際に絵を描き始める前段階として、Poserなどの3Dソフト(SAMPLE)を使って 陰影や光線、色彩のシミュレーションをすることもあります。 これは私にとって、いつでも使えるモデルと撮影スタジオがデスクトップにあるということに等しく、希望通りの資料写真を探して四苦八苦といったこともなくなりました。これらのアプリケーションに関しては、使いこなすための独自のコツ等はありません。私が作るのはあくまでも絵を描くための資料写真で、独立した作品として鑑賞に耐える3DCGを作っているわけではないので、もし不都合なところがあっても絵を描く時に手書きで修正すればいいだけだからです。だから私が注意しているのは、ライティングとカメラの画角と構図だけです。