投稿者「Gengoroh Tagame」のアーカイブ

“Keep the Lights On” (2012) Ira Sachs

bluray_keepthelightson
“Keep the Lights On” (2012) Ira Sachs
(アメリカ盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com、日本のアマゾンでも購入可能→amazon.co.jp

 2012年のアメリカ製ゲイ映画。NYに住む二人の男性の出会いと、10年近くにわたる関係をリアルに淡々と、しかし情感豊かに描いた内容。
 主演は『誰がため』などのデンマーク人男優、トゥーレ・リントハート。
 ベルリン国際映画祭テディ賞受賞。

 90年代末、NYに住むドキュメンタリー映画作家のエリックは、ゲイがセックス相手を探す伝言ダイヤルで、大手出版社に努めるポールと出会う。二人の相性は良く、エリックはポールに連絡先を渡すが、彼は「自分にはGFがいる」と断る。
 しかしポールはGFとの関係を清算し、エリックと付き合うようになり、やがて二人は一緒に暮らすようになる。ハッピーな関係に見えた二人だったが、実はポールにはドラッグの習慣があり、やがてそのことが二人の関係に次第に影を落としていき…といった内容。

 ストーリーとしては、特にドラマチックなイベント的なことが起きるわけではなく、エリックとポール、そしてその周囲の友人たちや家族などの、些細だが極めてリアルで細かなエピソードが積み重ねられ、9年間(だったかな?)に渡る二人の軌跡が淡々と綴られるというもの。
 何よりそのリアリティと、淡々としながらもゆったりとした空気感が素晴らしく、描かれるのは些細なことだけながらも、見ていて全く飽きさせず。作為の感じられない作劇と、ディテールのリアリズムと柔らかな空気感は、昨年の東京レズビアン&ゲイ映画祭で上映された、アンドリュー・ヘイ監督の傑作『ウィークエンド』とも似たテイスト。
 興味深いのは、いわゆる恋愛テーマの映画では、惚れた腫れた憎んだ裏切っただのといった、恋愛感情の起伏が主に描かれるのに対して、この映画の場合は、互いに相手のことを好きであるにも関わらず、その間にリレーションシップを築いていくことの難しさにフォーカスが当たっているところ。
 これは周囲の人間に関しても同様で、エリックがポールと一緒に生きる関係を築くことで悩むように、エリックの女友達もまた、最適のパートナーに巡り会えって自分の理想とするものを手に入れることができない。そんな誰でも身に覚えがありそうなリアルな「思い」を、ふわりと描いているという感じ。

 というわけで、作為性のないドラマ作りが好きで、しかもこの空気感を心地よく感じられる人だったら、気に入ること間違いなし。いわゆるゲイ映画的な枠を越えた、単館上映系の映画のクオリティの高さがあるというあたりも、前述の『ウィークエンド』と同様。
 ただ、大きな事件は何も起きないけれども、微細な起伏を丁寧に描いて、それが面白いという点では、ムードを音楽に頼っている部分も多く、そういう意味では、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作品ほどのストイックで厳格な凄みはないし、ストーリーのタイムスパンが長い分、『ウィークエンド』ほどの濃密さはありません。

 とはいえ、クオリティの高さや全体のリアルな空気感は、好き嫌いはあるにせよ、間違いなく一見の価値はあり。エロティックな場面も生々しく、しかし心地よい空気感を持続したまま描かれているし、ラストの余韻も上々。
 ゲイ映画好きの方、単館上映系が好きな方、そして、好きだからこそ関係を築く難しさという普遍的なテーマに興味のある方には、がっつりオススメしたい一本。

[amazonjs asin=”B009PJ1S5S” locale=”JP” title=”Keep the Lights on Blu-ray (2012)  Import”]
[amazonjs asin=”B009PJ1Q82″ locale=”JP” title=”KEEP THE LIGHTS ON”]

“Alois Nebel (アロイス・ネーベル)” (2011) Tomas Lunak

dvd_aloisnebel
“Alois Nebel” (2011) Tomas Lunak
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2011年のチェコ製アニメーション映画。
 共産党政権末期、国境近くで働く鉄道員が、二次大戦終結直後の幼い日の記憶のフラッシュバックに悩まされ……というグラフィック・ノベルを、ロトスコープ技法を用いてモノクロームでアニメーション化した、大人向けの文芸系作品。
 2012ヨーロッパ映画賞アニメーション映画部門最優秀作品賞、オランダ・アニメーション映画祭グランプリ受賞。アニメーション・フェスティバル<GEORAMA2014>にて日本上映予定。詳細は記事末尾を参照。

 共産党政権末期のチェコスロバキア。ポーランド国境近くの鉄道駅駅長アロイス・ネベルは、中年男性ながら未だ独身で、一匹の猫と一緒に暮らしている。そんなある日、IDを持たず口もきかない不審な男が駅に現れ、秘密警察に連行されていく。
 アロイスは、霧の中から蒸気機関車が現れ、幼い日の自分が駅のプラットフォームで、大勢の人々が貨車に乗せられる中、自分が慕っていた女性が汽車に乗ろうとするのと、それを押しとどめようとする男が揉み合っているという、記憶のフラッシュバックに悩まされるようになる。やがてアロイスは神経衰弱となり、精神病院に収容されるが、そこで彼と同室になったのが、件の口をきかない謎の男だった。
 病院で謎の男は、治療のようにも拷問のようにも見える、電気ショック処方を受けていたが、ある日逃亡する。そして彼の残した所持品の仲から、アロイスのフラッシュバックに出てくる人々が写った、一枚の古い写真が見つかる。
 アロイスは精神病院を退院するが、元の駅には既に自分の仕事はなかった。鉄道の仕事を得るために、彼はプラハ中央駅へと行くが、そこでも仕事は何もなく、中央駅で暮らすホームレスや私娼たちの仲間入りをする。
 中央駅には、そんなホームレスたちの面倒を何かとみてくれる、トイレの中年掃除婦クヴェタがいた。やがてアロイスとクヴェタは、互いに好意を持つようになるのだが、些細なことからその仲はこじれてしまい、また、中央駅長に言われたクリスマスや新年を過ぎても、未だに鉄道の職は与えられない。
 アロイスは、再び元の国境近くの駅へ戻り、そこで何とか鉄道整備の職を得るのだが、そこに例の謎の男が再び現れ……といった内容。

 内容的には文芸寄りで、ストーリーの起伏ではなくディテールやキャラの内面などで見せていくタイプ。
 メインとなるのは主人公アロイスの《旅》(内面的にも物理的にも)で、そこに歴史の闇や殺人事件、時代の転換期における混乱などが絡んでくるというもの。
 提示される断片的なディテールによって、「あ、そういうことか」と判る作りになっているので、例えばドラマ内の《現在》が共産党政権末期であるとか、あるいは二次大戦終結後に、物語の舞台となっているズデーデン地方から、ドイツ人の追放があったこととか、そういった事情を判りやすく説明はしてくれないので、ちょっと予備知識が必要とされる面があり。
 映像は極めて魅力的。非デフォルメ系のキャラクターは太い線のドローイングで描かれ、コントラストの効いたモノクロ画面にフラットなグレーのトーンが被り、まるで木版画のような美麗さ。
 それがロトスコープでリアルに動くのも、なんとも言えない不思議な魅力で、そんなリアリズム主体の動きの中に、フラッシュバック場面などの幻想的な演出が入って来る瞬間は、思わずはっとさせられるほど。ただ、そういった場面が見られるのは前半のみで、後半のリアルな展開部になると、そんな魅力がやや薄れてしまうのが少し残念。
 原作はJaroslav Rudišという人のグラフィック・ノベル3部作。それを1時間半の尺に収めているせいか、正直もうちょっと見たいという感はあり。とはいえ、現在(作品時間内の)を生きる主人公を軸に、過去の決算と未来の予感を交錯させ、時代の転換点を個と社会両方に重ねて見せる構成は、これはお見事!

 というわけで、アニメーション好きや、内容に興味のある人なら、まず見て損はない一本でした。

【追記】朗報、アニメーション・フェスティバル<GEORAMA2014>にて日本上映!
会期と会場:2014年4月12日(土)~25日(金)東京・吉祥寺バウスシアター、2014年6月21日(土)~22日(日)山口、2014年7月19日(土)~25日(金)神戸
*詳しい上映スケジュールは、上記リンク先の公式サイトにてご確認を。

“Paradesi” (2013) Bala

DVD_Paradesi
“Paradesi” (2013) Bala
(海外版DVDで鑑賞→Bhavani DVD
2013年のインド/タミル映画。個人的にご贔屓のタミル映画の鬼才、“Sethu” (1999)、“Nandha” (2001)、“Pithamagan” (2003)、 “Naan Kadavul” (2009)、“Avan Ivan” (2011)などの、バラ監督作品。
 イギリス統治下の紅茶プランテーションにおける、奴隷労働者たちの苛酷な運命を描いた内容で、英題はNomad、Vagabondなど(つまり『放浪者』)。

 20世紀初頭、イギリス統治下のインド。
 南インドの貧しい農村に、ラサというちょっと頭の弱い青年がいた。両親のいない彼は年老いた祖母と二人暮らしで、太鼓を叩きながら、結婚式の報せを村中に触れ回り、それで食事を貰ったり、ゴミ拾いや薪割りなどをしている。
 頭の弱い彼をからかう村人もいて、中でもアンガマという若い娘は、しょっちゅう彼にちょっかいを出したり、意地悪をしたりする。そんな中、村で結婚式が行われ、ラサも下働きをしてから宴席に着くのだが、彼だけ食事を分けて貰えない。
 泣きながら立ち去ったラサに、アンガマは食事を持っていく。ここで初めてアンガマは、実は自分がラサのことを好きで、だからいじめていたのだと自覚し、彼に愛を告白する。彼もそれを受け入れ、二人は急速に仲良くなり、やがて男と女の関係になる。
 こうしてアンガマとの結婚を夢見るようになったラサだが、それを知ったアンガマの母は猛反対し、それは村の会議にかけられるほどの問題に発展する。ラサはアンガマと結婚するために、村を離れて仕事を探しにいき、別の場所で薪割りの仕事を得る。
 しかし仕事を終えても、薪割りを命じた人はお金を払ってくれない。ラサが路傍で泣いていると、身なりの良い男が声をかけてきて、ラサの村の名前を聞いて目を光らせる。男はラサと一緒に村へ行き、村人たちに「自分は遠方の農園で働く出稼ぎ労働者を捜している」と告げる。
 男が話す、一年間の契約労働の条件の良さや、契約時に渡されるアドバンスに惹かれ、ラサも他の村人たちも、ある者は妻を残し単身で、別の者は女子供でも働き手になれて稼ぎも増えるという言葉に誘われて家族ぐるみで、次々とその男と契約する。
 別れを嘆く祖母とアンガマを残し、ラサたち一行は男に連れられて出発するが、それは徒歩で二ヶ月近くもかかるような遠方への旅だった。しかも男の態度は豹変し、旅の途中で行き倒れた男を瀕死のまま置き去りにし、その妻が泣いて抵抗するのを無理矢理連れて行くような冷酷さを見せ始める。
 やがて一行は目的地に着くが、そこで待っていたのはイギリス人がインド人を使って経営している、地獄のような茶畑だった。一方、村ではアンガマがラサの子供を妊娠していることが発覚し、彼女は母親から家を追い出されてしまう。しかしラサの祖母が、彼女を迎え入れてくれ……といった内容。

 いや、これはきた……ずっしりヘビー級の見応え。やってくれましたバラ監督。
 前作”Avan Ivan”は、部分的な見所のみで、全体的にはちょっと残念な出来でしたが、本作は力作だった前々作”Naan Kadavul”を完成度という点で凌ぎ、傑作”Pithamagan”にも近い出来映え。
 最初はわりと気楽に見られます。もちろん村人にハブられてしまう主人公なんかは可哀想なんですが、それでも村娘とのロマンスはあるし、何だかんだで楽しく見られる。農園に着いてからもしばらくは、確かに酷いところなんですが、それでも見ていてこっちの神経がやられるまでではない。
 ところが農園に着いてから一年後、契約期間が終わるところになって、一気に地獄が牙を剥き、後はもう「うわああぁぁぁ……」の連続。希望はどんどん叩き潰され、しかも達者な演出でエモーションも刺激されまくりで、見ていてどんどん鉛のような気分が溜まっていきます……。
 基本的に、人の世の醜さや残酷さをえぐり出すのは、この監督のいつもの作風ではあるんですが、今回とにかくキツかったのは、イギリス人がインド人監督を酷く扱い、そのインド人監督がインド人労働者を酷く扱い、労働者間でも嫌がらせなどがあり……といった差別や虐待の連鎖を、容赦なくえぐり出してくるところ。
 また、ろくな医者もいなかった農園に、ようやくヒューマニストらしき医者がきた……と見せかけて、実は彼らの主たる目的はキリスト教の布教にあり、彼らがインド映画風に脳天気に宣教を歌い踊っている間に、メインの登場人物が病気で死んでいったり……という、徹底して醒めた視点による容赦なさ。
 そしてクライマックス、この冷徹な眼差しはピークに達し、素晴らしくエモーショナルな演出と、真に迫った演技によって、ある側面だけ取り出して見ればハッピーエンドとも言えるんだけど、それが同時に徹底的なバッドエンドでもあるというラストシーンに……もうここは、思い出すだけで「うわああぁぁぁ……」って感じ。
 決して後味が良いとは言えないとか、何とも複雑な後味だという意味では、バラ監督の他の作品も、割と似たり寄ったりなんですが、それでも以前の作品では、主人公である異者が神話的に変容するというカタルシス等があったけれど、今回はそれすらなく、ひたすら打ちのめされて終わるので、とにかく後味がヘビー級。
 演出は相変わらず素晴らしく、画面のスケール感やカメラワークも見事(冒頭の移動撮影とか、クライマックスのクレーン撮影とか!)だし、主演の青年を筆頭に、役者陣も皆素晴らしい演技。

 見終わった後、何とも言えない気分になってどよ〜んとしますが、間違いなく一見の価値有り。後味をどう感じるかはともかくとして、見応えとクオリティは保証します。
 バラ監督作品の中でも、個人的にはベスト2(一位はやっぱり”Pithamagan”)の作品でした。

“I Want Your Love” (2012) Travis Mathews

dvd_iwantyourlove
“I Want Your Love” (2012) Travis Mathews
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk
 2012年のアメリカ製ゲイ映画。住み慣れたサンフランシスコから故郷に帰らなければならなくなったゲイ青年と、その友人たちの一日を描いたもの。
 赤裸々なセックス描写のためにオーストラリアの映画祭で上映禁止となり、物議を醸した一本。

 主人公ジェシーはゲイで、パフォーマンスに携わるアーティスト。サンフランシスコで同じくゲイの友人とルームシェアをして暮らしていたが、故郷(アイオワだったかな?)に帰らなければならなくなり、お別れパーティが開かれることになる。
 ジェシーのルームメイトは、自分のボーイフレンドをジェシーの後に住まわせようとするが、そのボーイフレンドはルームメイトと別の友人の仲に嫉妬を覚え、二人の仲は少しギクシャクする。
 一方のジェシーは旅立ち前の落ち着かない気持ちの中、元彼とのハッピーなセックスのことを思い出す。ジェシーから連絡を貰った元彼は、ジェシーに会いに行くための服を服屋で選び、そこで黒人青年と親しくなる。元彼は服を着替えてジェシーと会いに行くが、二人は和やかな時間を過ごすものの、何も起こらない。元彼は黒人青年に連絡し、ジェシーのお別れパーティで落ち合おうと言う。
 騒がしいお別れパーティで、ルームメイトとボーイフレンド、そしてボーイフレンドが嫉妬したルームメイトの友人は、一緒に3Pをする。ジェシーの元彼と例の黒人青年もセックスをする。
 しかしジェシーはパーティの喧噪に加わる気がせずに、独り部屋で音楽を聴いている。そこにもう一人のルームメイトがやってくる。ジェシーはそのもう一人のルームメイトと他愛のない会話を交わすうち、やがて今後の不安に襲われ思わず涙ぐんでしまう。そんなジェシーを、もう一人のルームメイトは優しくいたわり、やがて二人は服を脱ぎ愛撫を交わすのだが……といった内容。

 昨今のゲイ映画のトレンドの一つ(だと私が思っている)、あまりドラマらしいドラマは紡がれず、日常的で身近なエピソードを点景的に繋いで見せ、その中で微妙な感情の起伏などを見せるタイプの作品。
 というわけで交わされる会話も、ストーリーを進行させるためのそれではなく、日常的な雑談的なものが主で、しかも完全に現代口語なので、正直これをヒアリングのみで鑑賞するのは、私にはいささかハードルが高く、ディテールはかなり拾い損ねていると思います。
 ただ、キャラクターの存在感や全体の空気感が、これがもうリアルそのもので、俳優が演じる作られたドラマを見ているという気が全くしなくなるほど。おそらく低予算の作品なんですが、撮影技術なども悪くなく、カット繋ぎのテンポなどもこなれているので、全体の尺が70分というコンパクトさもあるんですが、自分でも意外なほど見ていて作品に引き込まれました。

 物議を醸したセックス描写は、これはもう赤裸々というかあからさまというか、もう完全にハードコアポルノ的なそれ。ペニスの勃起から手コキからフェラからゴム被せからツボ舐めから指マンから挿入から射精の瞬間から、もう全てズバリそのものを見せています。
 ただしいわゆる商業的なポルノと異なるのは、まずセックスしているのがポルノ的に理想化された男優ではなく、いかにもそこいらへんにいそうなアンチャンどもで、身体の線はゆるいわ顔もそこそこ止まりだわ、○○系といったステレオタイプやクローンでもないところ。
 また、行為そのものは赤裸々に、そして時間もたっぷりとって描写されるんですが、表現的にはいわゆるポルノのそれとは全く異なっています。つまり、一つの行為を延々と映したり、結合部にも照明が当たってよく見えたり、視聴者を挑発したりとかいった、そういった要素が皆無。
 では、具体的にはどういうものかというと、これまたドラマ部分の描写同様にリアルそのもの。赤裸々だけれど、挑発的でも露悪的でもなく、スタイリッシュに処理することもない、そんな多くの皆が日常で行っているようなセックスと同様の光景が、スクリーン上で(正確には液晶TVのモニターですが)繰り広げられます。
 また、日常的とはいっても、そこは素人生撮り的な退屈さとも無縁で、しっかりフェティッシュな感触のクローズアップが入ったり、上手い具合にカット割りを入れたり、描写に陰影が富んでいたり、情感を湛えていたり……と、セックスの表現自体の魅力も大。自然な空気感も実に良く、例えば、射精を終えた瞬間に笑い出してしまうペアの描写なんて、実に楽しげで、しかもナチュラルなので、見ていて思わずこちらの頬も弛みます。
 そんな具合に、ハード・コア・セックスをダイレクトに見せるという意味では、確かにポルノ的ではあるんですが、それでも表現としては非ポルノ的といった感じで、ちょっと今までに見たことがないタイプ。セックスの内容がバニラなので、正直私は見ていてさほど興奮しませんでしたが、しかしそんな表現の魅力だけでも、充分以上に見る価値大なくらいに良かった。

 というわけで、全体のナチュラルな空気感や、セックス場面の魅力、そして不思議と爽やかな後味など、《今》のゲイ映画に興味がある方なら、まず見て損はない一本。
 しかしここまで赤裸々だと、例えゲイ映画祭であっても、日本での上映は難しそうではありますが……。

ちょっと宣伝、『奴隷調教合宿』第五話+対談(下村一喜さんと)掲載です

doreichokyogassyuku05
 12月21日発売「バディ」2月号に、マンガ『奴隷調教合宿』第5話掲載です。
 前回がチェンジ・オブ・ペースの回だったので、今回はちょっと趣向が変化。とはいえ、若めのイケメン野球部員を責め凌辱しまくる、ガッツリSM系という基本ライン(笑)は変わらず。
 メンタル面での煩悶も加わり羞恥心責め指数がアップ、見せ場は「重いコンダラ」登場場面でしょうか(笑)。野球=巨人の星となるあたりが、我ながら古い(笑)。

badi201402inside
 さて、この「バディ」2月号ですが、連載マンガと共に、私の対談記事も載っております。
 お相手は、ファッション写真から音楽PVまで、幅広く活躍されている写真家の下村一善さん。カラー3ページ。ゲイ・カルチャーから互いのアートに対する考え方まで、いろいろと熱く語り合っております。
 下村さんは、この号の表紙およびメインのグラビアで、お笑い芸人のレイザーラモンHGさんのヌード写真も撮り下ろしておられまして、このグラビアが素晴らしい。下村さんの美に対するフィロソフィーを、先の対談で伺った後だと、尚更感じ入る美しさ。ぜひ実際にご確認あれ。併せて掲載されているレイザーラモンHGさんのインタビューも、実に好感度大です。

 これ以外にも個人的には、今号のグラビアは全般的に「当たり」という感じで、新宿二丁目プロレス×堂山プロレスの格闘ヌードグラビアSM風味は、かなりツボを突かれた感じですし(SM好きの海外の某有名写真家も、チラ見せしたらコーフンしておりました)、もう一つのお笑い芸人グラビア(チーモンチョーチュウ 菊池浩輔…って、浅学にして私は知らない方でしたが)のナチュラルな雰囲気や、ラッシュクルーズとのタイアップグラビアの和の感じで装飾的に作り込まれた雰囲気、そして前述の、オーセンティックかつスタイリッシュな下村グラビアや動のSMテイストなど、全体のバランスも実に良い感じ。
 というわけで、よろしかったら是非お買い求めくださいませ。

Badi (バディ) 2014年 02月号 [雑誌] Badi (バディ) 2014年 02月号 [雑誌]
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2013-12-21

“Beards: An Unshaved History”

beards_cover
 ドイツBruno Gmünderから出版されたアートブック、”Beards: An Unshaved History”に作品を数点提供しました。
 古今東西の「ヒゲ文化」について、泰西名画からゲイポルノグラフィーまで豊富な図版を使いつつ、あれこれと論じた内容の本で、テキストは英独併記となっています。
 著者のケヴィン・クラークは、長くジャーナリストをやっていた人だそうで、新聞や雑誌の編集者や編集長の他、美術館のキュレーションを手掛けたり、ウィーンの大学でクィア・スタディーズを教えたりした人とのこと。2011年に出した”Porn: from Andy Warhol to X-Tube”がベストセラーになったそうです。
 内容は、大見出しとして「今日のヒゲ アウト&プライド」「70年代クローン・ルックの誕生」「ヒゲの歴史千年」「クローンの帰還」となっており、それに加えて更に「ヒゲ剃りの歴史」「ヒゲのあるクィアたち」「宗教とヒゲ」「オスカー・ワイルドのアンチヒゲ」だのといった様々なコラムが、いずれもたっぷりと図版を使って綴られています。

 私の提供した作品画像は「コミックスとヒゲ」の項で使用。こんな感じに参考図版的に、小さく数点載っております。
beards_inside1beards_inside2

 他のページは、例えばこんな感じ。左はイントロダクション部分の見開き、右は「ヒゲのあるクィアたち」の近現代編。
beards_inside3beards_inside4
 というわけで、古典名画やヴィンテージ写真から現代のファッション写真やゲイ・ポルノまで、ヒゲにまつわるありとあらゆる画像が収録されているので、ヒゲ好きならそれを見ているだけでもグッとくるはず。

 書籍のPR動画で全ページを繰っていく様子が見られますので(エロい部分にはボカシが入りますけど)、ご参考までにどうぞ。

 残念ながらいつものように、日本のアマゾンでは取り扱いなし。アメリカかイギリスのアマゾンで購入するのがオススメ。先頃出た拙著“Endless Game”と一緒に、如何ですか?

ドイツのゲイ雑誌”Männer”に記事掲載

mannerCover
 ドイツのゲイ雑誌”Männer”の2013年12月号に記事が掲載されました。先日ベルリンでインタビュー取材を受けたアレです。
 雑誌自体は非ポルノグラフィー系の、カルチャー/ライフスタイル/情報誌といった趣。大判(A4強)のフルカラー誌で、紙質も印刷品質も上々。そこそこセクシーな写真とかも載ってますが、全体的な印象はファッション誌みたいな感じ。目次を見ると内訳は、特集/政治/ライフ/ボディー/カルチャー/情報/レギュラーコーナー…といったラインナップ。
 で、全てドイツ語なんで良く判らないんですけど、この号の特集は「フェティッシュ」で、スポーツギアをフィチャーしたメールヌードを撮る写真家の紹介や、レザーシーンの記事なんかに混じって、私の紹介記事も載っています。
mannerInner1mannerInner2
 二見開き4ページ。2ページ目に先日ベルリンでミーシャに撮られた写真がドバンと。雑誌自体の版型が大きいので、最初見たときちょっとビビった(笑)。雑誌の版元が、英語版”Endless Game”と同じBruno Gmünderなので、同作からのページあれこれが地紋的に散りばめられております。
 いちおうオンラインでの販売もありますので、出版社の該当ページリンクを貼っておきます。
http://www.brunogmuender.com/products/details/id/8605_MÄNNER_12_2013/

英語版単行本第二弾”Endless Game”発売です

EndlessGameENcover
 拙英語版単行本第二弾”Endless Game”、12月上旬に発売です。
 版元はBruno Gmünder。ドイツを拠点にして全世界向けに英語その他の書籍をリリースしている、おそらくゲイ出版関係では世界最大手の会社。様々なメールヌード写真集や画集、海外作家のゲイ・コミック本の他にも、有名どころではゲイ向けトラベルガイド”Spartacus”なんかも出しているところで、ゲイ・アートに興味のある人だったら、一度ならずこの出版社の本は目にしていたり、手元にあったりするのでは。
 私はこれまで、同社のテーマ別アートブック等に作品を提供したことは何度もありましたが、単著のマンガ単行本としてはこれが初めて。話が動き出したタイミングから察して、おそらく春に出た”The Passion of Gengoroh Tagame”の好評が追い風になったのだと思いますが、表紙画像右下にBruno Gmünder Gay Mangaとあるように、この新レーベルを立ち上げて日本のゲイマンガの英語訳出版を継続していきたいと考えている模様。先日のベルリンでのミーティングでも、そこいらへんのことを色々と相談されました。
 収録作品は、2011〜12年にかけて「バディ」で連載した長編(168ページ)『エンドレス・ゲーム』一本。日本でもまだ単行本にはなっていないので、本としてのリリースは世界初ということになります。
 実は過去にもこういったことはありまして、たとえば『軍次』シリーズや『闘技場〜アリーナ』はフランス語版単行本の方が先ですし、その他の短編色々なんかも、日本で単行本が出るよりも先に、フランス語版やイタリア語版の作品集に収録された例があります。

 マンガ以外の収録コンテンツは、自作解説を兼ねた後書き(英語です)と、あと造本がちょっと変わっていまして、右の写真でお判りになると思うんですが、表紙と裏表紙が折り込み加工になっているので(フラップというんだそうです)、その部分にカラーイラストを4点収録。
EndlessGameENflap
 マンガ本文の方も、雑誌掲載時の扉ページやロゴ用に空白にしていた部分に手を入れ、コマを描き足したりページ丸々描きおろしたり、仕上で満足がいかなかった部分に手を入れたり……といった、新規加筆修正作業をしております。まぁこれは、日本で単行本が出るときにも、多かれ少なかれ毎度そういう作業はしているんですが。
 版型は、B5(マンガ週刊誌サイズ)よりもちょっとだけ小さい、縦23.6×横16.8センチ。サイズが大きめな分、マンガもイラストも迫力倍増。
 書き文字の効果音に関しては、いつものように私の方から、欧文に置き換えるために取り払うことも、そのまま残すことも両方可能と提案。結果、先方さんの判断で、日本語の書き文字を残したまま、その上に欧文を小さめに入れるというスタイルになっています。
 日英翻訳を手掛けてくれたのは、”The Passion”と同じくアン・イシイ。既に良く知っている仲ですし、担当編集者のセミョンともベルリンで会ったのが功を奏して、東京とベルリンとニューヨークの三角形でメールをやりとりしながら作業。いやはや、便利な世の中になったもんです(笑)。
 そして海外版なので、もちろん無修正。下のサンプル画像は、ブログ掲載用にモザイク入れてありますが、実際の本はモロ見え。こういう感じで自分の作品が、海外でしか完全な形で発表できないというのは、毎度のことながら複雑な気持ちになりますね……。
EndlessGameENcont01EndlessGameENcont02EndlessGameENcont03EndlessGameENcont04

 入手方法は、残念ながら”The Passion”のときと違って、日本のアマゾンでは取り扱いがないので(Bruno Gmünderの本はいつもそうです……)、海外から直接個人輸入という形になるかと。
 とりあえず、アメリカとイギリスのアマゾンの商品リンクを貼っておきますので、よろしかったらご利用ください。

 具体的な発売日は、出版社がドイツに拠点を置き、それをワールドワイドにリリースという形のせいなのか、国によってまちまちで、さきほど確認したところ、いずこもまだステータスはプレオーダー状態でしたが、発売日に関してはエディター氏が「クリスマスに間に合うスケジュールにする」と言っていたので、じきに発売中に変わるのではないかと。
 ともあれ、初の英語版単行本出版から一年未満(約八ヶ月)という、嬉しいスピードでの第二弾発売となりました。
 第一弾”The Passion”が、版元やブックデザインや序文や解説等の面子などが、サブカルチャー/オルタナティブ・コミック寄りだったのに対して、この第二弾は王道のゲイ出版系というのも、個人的には良い感じの展開に感じております。
 よろしかったら是非お買い上げくださいませ!

バディ創刊20周年

Badi (バディ) 2014年 01月号 [雑誌] Badi (バディ) 2014年 01月号 [雑誌]
価格:¥ 1,700(税込)
発売日:2013-11-21

 ゲイ雑誌「バディ」2014年1月号、11月21日発売です。直販系のゲイショップ等では既に店頭に並んでいるはず。
 創刊20周年記念号ということで、いつもよりも増ページ、内容も充実したものになっています。歴代のカバーモデルさんやグラビアモデルさんたち75名登場ってのもスゴいし、90年代初頭から現在に至る日本のゲイ・コミュニティ&カルチャー史をコンパクトに綴った記事は、資料的な価値も大。
 様々なジャンルの様々な方々からのお祝いコメントも寄せられており、そこに混じって私も、お祝いコメント&ちょっとしたイラストを寄稿させていただいております。自分が同誌に描いた懐かしいキャラを、久々に描いてみました。
 ただし連載マンガ『奴隷調教合宿』は、先日お伝えしたように、今号では休載です。12月発売の2月号から、再びスタートいたしますので、しばしお待ちを。
 しかし創刊当初、高蔵大介さん、戎橋政造くん、上条毬男くんと一緒に編集部を訪ねたときから、もう20年も経ったのかと思うと、おめでたいという気持ちと同時に「もうそんなに経ったの??? 速! 怖!」という感じもしたり(笑)。
 ごく初期の号で、小倉東くん(マーガレットさん)たちと一緒に「SM特集」の企画に参加したのも懐かしいし、後に「ジーメン」を一緒に立ち上げることになるTさんや長谷川博さんと最初に出会ったのも、この「バディ」の編集部。
 印刷媒体には何かと厳しい状況が続く昨今ですが、末永く頑張っていただきたいです!