投稿者「Gengoroh Tagame」のアーカイブ

“Parada (The Parade)”

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“Parada” (2011) Srdjan Dragojevic
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2011年のセルビア/スロヴェニア/クロアチア/マケドニア/フランス/イギリス映画。英題”The Parade”。
 元ユーゴ内戦の兵士でホモ嫌いの中年男が、ひょんなことからセルビアのゲイ・パレード護衛をすることになるという、社会派コメディ・ヒューマンドラマ。
 監督&脚本のSrdjan Dragojevicは、2001年にベオグラードのゲオ・パレードで実際に起きた、アンチゲイによる暴行事件のフッテージを見て、この映画の企画を思いついたとのこと。件の暴行事件の映像は、映画の導入部分でも使われており、また、それと対比させるように、エンディングでは2010年のベオグラード・ゲイ・プライド・パレードの映像も使われている。
 2012年のベルリン映画祭パノラマ部門観客賞受賞。

 セルビアの首都ベオグラード。
 結婚式の演出などを手掛けるゲイのミルコ以下、LGBTアクティビストたちがプライド・パレードをしようと計画しているが、セルビア社会にはホモフォビアが根強く、過去には極右スキンヘッズによる暴力事件も起きている。そして今日もまた、LGBTアクティビストたちが集まって会議をしているところに、スキンヘッドたちが殴り込みに来る。アクティビストたちは、警察にパレードの護衛を頼みに行くが、取り合って貰えないどころか、逆に侮蔑的な態度であしらわれてしまう。
 そんな中、ミルコのパートナーで、彼ほどはアクティブではないゲイである獣医のラドミロの元に、負傷したブルドッグが担ぎ込まれる。ブルドッグの飼い主は、元ユーゴ内戦の兵士で、その後ギャングを経て、現在は柔道道場とボディーガード業をやっている男リムン(あだ名。レモンの意)だった。
 リムンは現在、若くて美人の娘ビセルカと再婚しようとしているところだったが、ビセルカはリムンの提案するダサい結婚式が気に入らない。そして、もっとオシャレな結婚式を……と、ローンを組んででも、ミルコの会社に頼みたいと言う。リムンも、仕方なく折れてそれに同行するが、そこでラドミロに会ってしまい、自分たちの結婚式を預ける相手がホモだと知って激昂してしまう。
 リムンに胸ぐらを捕まれたはずみに、ミルコは転倒して大怪我をしてしまう。介抱するラドミロに、ミルコは「頑張ってきたけどもう限界だ、僕は自分の国を憎みそうだ」と本心を吐露し、実はカナダへの移民申請もしているのだと告げる。
 一方ビセルカは、リムンのとった態度に激怒して、彼の家を出て行ってしまう。リムンが彼女の居所を探す間、彼女はミルコだけにお詫びの電話を掛けるが、それをラドミロが受け、彼の心に1つのアイデアが閃く。
 ラドミロはリムンの元に赴き「貴方が愛するビセルカのためになら何でもしたいと思うように、僕も愛するミルコのためになら何でもしたい」と、リムンの結婚式をミルコにプロデュースさせ、ビセルカがリムンの元に帰ってくるように計らうかわり、リムンとその部下たちにプライド・パレードの護衛をしてくれるよう、提案する。
 リムンはその提案を受けるのだが、部下たちは「オカマのパレードの護衛なんてとんでもない」と拒否する。ベオグラードで護衛を見つけるのは無理だと考えたリムンは、それなら町の外で見つけようと、ゲイ・グループの中でも一番ゲイゲイしくないラドミロを連れて、ボディーガードの仲間捜しに出掛ける。
 リムンとラドミロは、車体に「ホモ死ね」と落書きされているピンクの車に乗り、かつてユーゴ内戦で戦ったライバルたちを訪ねて、セルビアからクロアチア、ボスニア、コソボ……と、旧ユーゴ圏内を巡って、ゲイ・パレードの護衛を捜しに出掛ける。
 最初は全くの水と油だったリムンとラドミロだったが、次第に互いを理解し始め、護衛仲間も一人ずつ増えていく。しかし実は、リムンの前妻との間の息子が、今はスキンヘッズになって、パレード襲撃を企てている一味に入っていた。
 果たして、ベオグラードのゲイ・プライド・パレードは実現できるのか、そして極右スキンヘッドたちの攻撃をかわすことはできるのか? ……といった内容。

 題材から期待していた通り、これは実に面白かった!
 コメディ・タッチでテンポ良く進めつつも、ホモフォビアとゼノフォビアを重ね合わせることで、《異なる者への理不尽な嫌悪》という差別の本質を見せ、クライマックスに向けてエモーショナルに盛り上げ、感動とメッセージ性をしっかり押さえて、ジ・エンド……といった構成。
 まず、出てくるキャラたちが実に良く、メインはリムンとラドミロなんですが、ホモフォビアはあるものの実は悪い人間ではないリムンと、アクティビズムとは距離を置きクローゼット気味のラドミロが、それぞれストーリーを通じてきっちり成長していくので、それがラストの感動へと繋がる。
 オシャレ系ゲイのミルコは、志が高い反面ちょっと鼻につくところもあり、ここいらへんもリアル&魅力的。リムンの彼女ビセルカも、集会場に火炎瓶を投げ込まれ、パニックになるゲイたちを尻目に「アマチュアね!」とテキパキ火を消したりして、実にかっこいい。その他、50代でようやくカムアウトした有名デザイナーのゲイとか、ビセルカと仲良くなるレズビアンとか、護衛として集まるリムンの戦争仲間のオッサンたちとか、誰もかれも良くキャラが立っていて、それが生き生きと楽しく動くのが、何とも魅力的。
 また、全体が『荒野の七人(七人の侍)』を模した構造になっていることや、リムンの一番好きな映画が『ベン・ハー』で、彼はそれを《男同士の真の友情》だと信じ込んで見ているのだが、ご存じのように実は……みたいな、仕掛けのあれこれも楽しい。

 前述した差別の本質に関しては、まず冒頭からテロップで《チェトニク:セルビア人の蔑称:クロアチア、ボスニア、アルメニア系コソボ人が使用》《ウスタシャ:クロアチア人の蔑称:セルビア、ボスニア、アルメニア系コソボ人が使用》《バイジャ(略)》《シプタール(略)》といった解説が出てきまして、その最後に《ペデー(fag):同性愛者の蔑称:皆が使用》と出てくるといった具合に、もう最初がらガッツリ描いてきます。
 で、そこから、毛むくじゃらのオッサン(リムン)のシャワーシーンに続くんですが、これがシャワーを浴びながら、セルビア愛国歌、旧ユーゴの共産主義俗謡、旧ユーゴの80’sポップスなどを、ゴチャマゼに続けて歌い、それと並行して男の肌に入っている、ユーゴ内戦の戦場の名前やら、二次大戦の反共リーダーの顔やらといった、これまたゴチャマゼのタトゥーがクローズアップされていく…といった洒落具合。
 中盤の仲間捜しのエピソードで、最初は《ホモ死ね!》と落書きされていた車が、旧ユーゴ圏内をあちこち渡り歩くうちに、《チェトニクの豚!》とか《ウスタシャ死ね!》とか、どんどん上書きされていくのも、風刺と洒落っ気が見事に効いていて実に可笑しい。
 それ以外にも、警察風刺もあれば米軍風刺もあり……といった感じで、とにかくネタ的にはテンコモリで、逆にネタが多すぎて、リムンと息子の確執やラドミロと父親の確執など、いささか描き込み不足や捌き切れていない部分もあるんですが、それらも引っくるめてお楽しみどころは盛り沢山。

 コメディとしては、あちこちでくすりとさせるタイプで、どっかんどっかん笑えるわけではないですが、内容の濃さ、理想と現実のバランス配分、感動要素やメッセージ性の確かさは保証します。
 とにかく情報量が多いので、ついていくのが大変な部分もありますが、ゲイ映画好きにも一般の映画好きにも、どっちもしっかり楽しめる一本。オススメです。そして、これがセルビアでスマッシュヒットしたというのも嬉しい話。

ちょっと宣伝、新連載『奴隷調教合宿』スタートです

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 7月20日発売「バディ」9月号から、新連載マンガ『奴隷調教合宿』スタートです。
 短期集中連載で全4話くらいを目処に考えていますが、ひょっとしたらもうちょっと長くなるかも……という予感もなきにしもあらず。
 タイトルが全てを語っているような気がしますが(笑)、前の連載『転落の契約』同様、王道の直球SMものです。
 ただ、『転落…』の被虐者が《オヤジ/ヒゲ/体毛》だったの対して、今回の主人公は《若者/イケメン/すべすべ》系。考えてみると、ここ数年で若者系もそこそこ描いてはいるのものの、道具とかガンガン使ってネッチリと《責め》もやるSMものは、もっぱらオヤジ系や熊系の主人公ばかり。若者系の主人公でそういうネタは、あまりやっていない気がしたので、今回はそれにチャレンジということで。
 というわけでまだ第1話ながら、3ページ目から早くもBDSM描写が始まり、後はもう全ページ、エロ、エロ、エロ。縛りに猿轡にレイプに恥辱に鼻フック……と、フルスロットルでやっております。
 イケメン凌辱SM抜きネタがお好みの方、乞う御期待(笑)。
 さて、この「バディ」9月号ですが、表紙でも謳っているように、先日惜しくも急逝した真崎航さんの追悼号となっております。残念ながら、私個人はお会いしたことがないんですが、日本のゲイ・カルチャーの未来を感じさせるご活躍ぶりは、誌面などを通して拝見していました。
 真崎航さんをモデルにピエールとジルが手掛けた、グリコのマークをモチーフにしたカバー写真から始まり、レスリー・キーや下村一喜、その他の写真家たちが撮った作品、在りし日のプライベート・ライフ、関係者の談話、寄せられた追悼メッセージ、DVDコンテンツなど、充実した特集になっています。
 ゲイ・メディアで活躍した著名人の物故を、しっかりとした特集を組んできちんと追悼し、リスペクトするというのは、日本のゲイ・カルチャー史上でも、これが初かも知れません。
 その急逝が、海外のゲイ・ニュースでも報道された、真崎航さんの追悼特集号、ファンならずともマスト&永久保存版でしょう。
 是非、お買い求めあれ。

Badi (バディ) 2013年 09月号 [雑誌] Badi (バディ) 2013年 09月号 [雑誌]
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2013-07-20

“The Passion of Gengoroh Tagame”

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 なんか慌ただしく過ごしているうちに、今年の4月30日に発売された初英語版単行本“The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga”の、きちんとした紹介をすっかりし忘れていたので、 遅ればせながら記事アップです。

 サイズはB5(週刊誌サイズ)の大判、ページ数は256ページ、収録作品は『Hairy Oracle』『闘技場〜アリーナ』『鬼祓え』『田舎医者』『スタンディング・オベーション』『MISSING』、そしてこの単行本用の新作描きおろし『Class Act』となります。
 収録作品の内容見本は、こちら
 装丁はブック・デザイン界の鬼才チップ・キッド、翻訳&プロデュースはアン・イシイ、編集&解説はグラハム・コルベインス、序文は『美しい部屋は空っぽ』『ジュネ伝』等の文豪エドマンド・ホワイト。

 まずは装丁の話から。
 手掛けてくれたチップ・キッドは、先頃NHKの『スーパー・プレゼンテーション』でTEDの「本をデザインするのは笑いごとではない…なんてね(笑い事ではないけど笑える本のデザインの話)」が放送され、あちこち話題にもなったアメリカのブック・デザイン界ではカリスマ的な存在のグラフィック・デザイナー。日本での有名どころでは、村上春樹や手塚治虫の英訳本や、マイケル・クライトン『ジュラシック・パーク』のオリジナル装丁を手掛け、それが後に映画版のロゴにもそのまま使用されたりしています。
 私の”Passion”では、本の下半分をテクスチャの異なる紙質の環状の帯で覆い、テキストも全てそこに集約。帯を外すと絵の全体像が現れ、書籍本体には文字もバーコードも一切ない、シンプルで大胆な装丁の本になる……という仕掛けになっています。
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 同様の《遊び》は、本体見返し部分にも仕掛けられていますので、実物を手に取られた方は、是非そこいらへんも含めてご覧ください。

 チップはコミック・マニアとしても知られていて、アメコミ関係の書籍にも多く関わっており、日本の桑田次郎版『バットマン』のアメリカでの復刻『バットマンガ』も、この人が立役者です。
 そんなチップが、もう10年以上も前に仕事で来日した際、先頃亡くなった日本在住の映画批評家/映画監督、ドナルド・リチーに連れられて新宿二丁目に行き、ゲイショップで私の本を手にとったのが、今回の英訳版出版に繋がるそもそものスタート。
 有り難いことにチップは私の本を気に入り、以来、新刊が出ると、全てではないけれど買い集めてくれていたそうな。そんなチップが仕事でアン・イシイと知り合い、自分のプライベートの愉しみのために、彼女に私のマンガの英訳を個人的に頼んだんだそうです。そして二人が、私のマンガの英訳本が出るといいのにね……と話していたところ、やがて若い映像作家で、日本のゲイマンガ好きのグラハム・コルベインスが合流。
 こうして、チップ/アン/グラハムというチームが出来て、彼らがあちこちに企画を持ち込んだところ、オルタナティブ・アートやポップカルチャー、オルタナティブ・コミックなどの出版を手掛けていた、ピクチャー・ボックスの社長ダン・ナダルが手を挙げてくれた……という次第。
 先頃の渡航は、そこに、やはり私のファンだというトロント・コミックス・アート・フェスティバルのディレクター、クリス(クリストファー)・ブッチャーが加わり、私、チップ、アン、グラハム、ダン、クリスの連携で、あれこれ動いたものです。

 また、チップ/アン/グラハムは、私以外にも日本のゲイマンガをアメリカで紹介したいというプロジェクトを組んでおり、これには私も、彼らがコンタクトを取りたがっている日本の作家を紹介するという形で関わらせていただきました。先頃どこかでプレス・リリースが出ていましたが、形になるのは来春の予定。
 日本のゲイマンガは、作家にとっては頭が痛いことなんですが、ネット上でシェアされたり無断で翻訳されたりして(スキャンレーションと言って、日本のみならず世界中のコミック・アーティストや出版社が悩まされている問題)、確実に海外のオタク系ゲイ・コミュニティ内では知名度が上がっており、デフォルメや表現手法といった面での影響力も、年月を追うごとにどんどん大きく見られるようになっています。
 今後、オフィシャルな出版物や、作家にもちゃんと利益が還元される形で、日本のゲイマンガがどんどん海外進出していけば、面白いことになるだろうな……と、ちょっと期待。

 閑話休題。
 話は”Passion”に戻りますが、個人的に嬉しいのは、これは過去の仏西伊語版でも同じですが、絵に修正を入れずに出すことができたということ。自分の描く絵が、自分の母国では完全な形で出版することができないというのは、初めて自分の絵がアメリカのゲイ雑誌に無修正で掲載された1993年以来、ずっと変わらぬストレスですから。
 それともう1つ、これは今回ならではの嬉しさは、大判単行本で出せたということ。現状「バディ」本誌ではB5サイズで作品を発表することができますが、基本はA5でしたし、今まで出た単行本は全て、国内外を問わずA5かB6サイズ。
 何のかんの言って、やはり画面の大きさと迫力は比例するので、同じ『田舎医者』を日本版と米版を見比べると、受ける印象の違いは大きいです。
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 この単行本用に描きおろした『Class Act』は、チップの依頼による制作。
「北米読者用の描きおろし新作を入れて欲しい」ということで、チップと話し合った結果、読者ウケの良い教師と生徒でいこうということになりました。ここいらへん、日本もアメリカも同じなんですな。
 ただ、ここでちょっと珍しい事例が発生しまして、チップが「キャラを自分と自分のパートナーにしてくれないか」とリクエストしてきまして……。ファンメールとかで「自分をマンガに出してくれ」と、本人の全裸写真添付で送られてくるなんてのは、実はそんなに珍しいことでもないんですが(笑)、仕事でそういうリクエストが出たことはなかったので、正直かなり戸惑いました。
 詳細は省きますが、とりあえず私は、自分にとっての《夢の男》を描くのがポリシーなので、キャラを誰かに似せて描くというのはやらない、その代わり、キャラの名前を彼らと同じにして、特徴も少し取り入れる(チップはメガネキャラ、パートナー氏はシロクマ系……といった具合)ということで納得して貰いました。
 チップは「出過ぎた真似かもしれないけれど、気を悪くしないでくれ」と、ストーリーの原案も送ってきたんですが、私のテイストとは違うのと、予定ページ数では収まりきらない内容だったので、ストーリーも完全に私のオリジナルでいかせて貰っています。
 そんな『Class Act』ですが、いざ作品を仕上げて渡し、そして翻訳やレイアウトも済んだ校正用PDFを見たら、キャラの名前が別のものに変わっていまして……何だったんだ(笑)。
 でも、”Passion”の巻末にはボーナス・コンテンツ的に、この『Class Act』の鉛筆下描きが何ページか収録されておりまして、そっちには私の手書きの日本語で、オリジナル・タイトルや元々のキャラ名がバッチリ入ってるんだよな〜(笑)。ここいらへんは、日本語話者の読者にしか判らない面白さかも(笑)。

 そんなこんなで、“The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga”、アメリカ/カナダのみならず、世界のあちこちで販売中(現在、スペインとフランスとノルウェーの本屋で「買ったよ!」という報告あり)です。
 そして日本でもアマゾンで買えますので、宜しかったら是非、お手元に一冊どうぞ!

The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga
価格:¥ 3,118(税込)
発売日:2013-04-30

ドイツのフェティッシュ/BDSM系ゲイ雑誌”Toy”に記事&作品掲載

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 もう一年くらい前のことになっちゃうと思うんですが(笑)、ドイツのフェティッシュ/BDSM系ゲイ雑誌”Toy”の309号に記事と作品が掲載されました。
 Twitterでは4月頃に呟いていたんですが、

それからブログにもアップしようと思いながら、さっきまですっかり失念してました(笑)。

 簡単な紹介記事と一緒に5ページ(作品10点程度)が掲載。
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新刊マンガ単行本『冬の番屋/長持の中』予約受け付け開始です

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 7月25日、新刊マンガ単行本『冬の番屋/長持の中』が、ポット出版さんから刊行予定です。
 収録作品は雑誌「バディ」掲載作から、以下の三本。

『冬の番屋』〜北の果て、雪と氷に閉ざされた世界で繰り広げられる、白ヒゲ熊親爺と気弱ホモ青年の恋愛情話。
『ACTINIA [man-cunt]』〜近未来、エリート軍人の辿る苛酷な運命を描いた、エクストリーム系Sci-fi。
『長持の中』〜大正時代、暗黒の箱に閉じ込められた少年と、その義父が織りなす暗黒童話。

 版元・ポット出版のサイトでは、ただいま予約受け付け中。先着50名様には、直筆サイン本のサービスあり。
ポット出版:『冬の番屋/長持の中』いよいよ発売! 田亀源五郎直筆サイン本、予約開始します
 サイン本が終了後も、本の予約は引き続きできます。版元なので在庫切れがなく、書店に並ぶより早めに届くので、オススメです。

 因みに外装は、これまでのポット出版刊単行本同様にシンプルな外函入りですが、本体表紙は描きおろしイラスト2点を用いて、版画のような雰囲気を狙った、かなり凝った仕様にしました。
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 紙のテクスチャーや印刷効果も含めて、デジタル画像ではまず味わえないテイストが出せたと思うので、ぜひ本をお買い求めの上、函から出してご堪能いただければと。

 収録作品のうち、『冬の番屋』と『長持の中』は、共にガッツリ読み応えありの100ページ前後の中編、『ACTINIA [man-cunt]』は短編(とはいえ50ページ弱あり)になります。
 いずれも雑誌掲載時と比べると、各回のタイトルロゴを抜いて新規のコマに差し替えたり、部分的に加筆したりトーンを加えたりと、より満足のいく状態になるよう、あれこれ手を加えています。特に『冬の番屋』は、仕上げのコンセプトを全面的に見直して、ほぼ全ページに渡って何かしら手を入れたので、情感などがぐっとアップしたかと。

 収録作品の内容紹介を兼ねて、プロモーション・ビデオを作ってみました。映画の予告編を見る感じで、ご覧ください。

単行本『冬の番屋/長持の中』PV from Gengoroh Tagame on Vimeo.

ちょっと宣伝、レディコミ誌でホラー短編マンガ描きました

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 本日発売のレディースコミック誌「月刊 いちばん残酷なまんがグリム童話」8月号(ぶんか社)に、ホラー短編マンガ『帝都闇物語〜東京伝説〜 第一話・不福耳』(原作・平山夢明)掲載です。
 レディコミ誌での新作は久しぶり。また同社刊のレディコミ誌では、過去に「ほんとうに怖い童話」「このミステリーが面白い」等でお世話になっておりますが、「まんがグリム童話」本誌に描かせていただくのは、確か今回が初めて。
 ……あ、ご存じない方のために付け加えておきますが、誌名はグリム童話と入っていますが、掲載されている作品は、ファンタジーあり実話ものあり歴史ものあり名作文学アレンジありのセクシーありホラーありの、レディコミジャンルの総まくり的なラインナップ。
 で、今回私が描かせていただいたのは、作家・平山夢明さんの著書『東京伝説 彷徨う街の怖い話』という、都市伝説系怪談アンソロジーをマンガ化したもので、今回がシリーズ連載の第一回。以後の掲載ペースは隔月を予定しています。

【追記】発売直後に同誌編集部から、編集長交代→方針転換で誌面リニューアル→連載中止という連絡があり、雑誌表紙にもマンガの扉ページにも「シリーズ連載スタート!」と銘打たれていたにも関わらず、連載はこの第一回のみで終了しました。
 この経緯には色々と思うところはありますが、実際マンガ業界ではこういった話を聞いたことがないわけではなく、しかしまさか自分の身にも降りかかるとはなぁ……という感想に留めておきます(笑)。【追記ここまで】

 ゲイマンガではないので、残念ながら筋肉も体毛も出てきませんが、そのかわり××がいっぱい出てきますので(笑)、近くの書店でもコンビニでも、はたまたアマゾンでも、是非お買い求めの上お読みくださいませ。

まんがグリム童話 2013年 08月号 [雑誌] まんがグリム童話 2013年 08月号 [雑誌]
価格:¥ 650(税込)
発売日:2013-06-29

 因みにこの号では、「肉体派」でお馴染みだった葉月つや子先生も、イタリアの高級娼婦を描いた華麗な新作『コーティザン』を描かれておられます。
 で、その葉月先生の先頃出た「肉体派」掲載作+αを収録した単行本『落ちる先には練乳地獄』(アクアコミックス)でも、私ちょっとばかりお手伝いいたしておりますので、未チェックだった方は是非そちらもよろしく!

落ちる先には練乳地獄 (アクアコミックス) 落ちる先には練乳地獄 (アクアコミックス)
価格:¥ 680(税込)
発売日:2013-05-11

トークショー&ビュッフェパーティー「やっぱり映画が好き!」出演のお知らせ

 来る7月5日~6日と7月12日〜15日の日程で、第22回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭が開催されますが(上映プログラムやスケジュールはリンク先を参照、チケットは既に発売中です)、そのオフィシャル・イベントの1つ、六本木のレストラン・バーで開催されるトークショー&ビュッフェパーティー「やっぱり映画が好き!」に、映画ライターのよしひろまさみちさん(各種映画雑誌の他、最近はTV出演もされていますが、個人的にはジーメン時代からの長いお付き合い)と一緒に出演します。
■日時:7月4日(木)19:00〜22:00(トークショーは20:00より)
■場所:The Pink Cow(六本木ロアビルB1F)
■料金:3,000円(1ドリンク+ビュッフェスタイルのお食事)
■申込:http://goo.gl/v04wZよりお申し込み下さい。 ※〆切:6月30日(日)
■その他、詳細はこちらでご確認ください。
 よしひろさんと一緒に、ゲイ映画というものについて、往年の名作から個々の想い出の作品、最近の注目作や珍作・怪作の類まで、あれこれ時間の許す限り、楽しく紹介&トークしたいと思っております。申し込みフォームには備考欄も付いておりますので、「この映画について語って欲しい!」みたいなリクエスト等もご遠慮なくどうぞ。
 ご都合のよろしい方、いらっしゃいましたら、皆さんお誘い合わせのうえ、是非ご来場ください!

“Ardhanaari”

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“Ardhanaari” (2012) Santhosh Souparnika
(インド盤DVDで鑑賞→Bhavani DVD

 2012年のインド/マラヤラム映画。南インドのトランスジェンダー文化を通して、個としてのTGの苦悩や、TG集団であるヒジュラへの差別などの問題を、社会派ヒューマン・ドラマ的に描きながら、更にそこに、ヒンドゥー神話を重ね合わせて見せるという意欲作。
 タイトルは、両性具有の神アルダナーリシュヴァラから。

 南インド、ケーララ州に住む少年ヴィナヤンは、子供の頃から自分の体は男だけれど心は女だと感じていて、アイラインを引いて爪を染め、装身具を付けて学校に通っている。歳の離れた兄や学校の教師はそれを疎ましく思っているが、父や姉は彼の好きなようにさせてくれ、同級生の少年も彼の味方だ。
 やがて青年になった彼は、髪を伸ばし、例の同級生とも互いに愛し合い、お付き合いをしていたが、政界に出た兄はますます彼のことを忌み嫌い「妹に縁談がこないのもお前のせいだ」と罵り、ついには殺し屋を雇ってヴィナヤンを始末させようとする。
 ヴィナヤンは殺し屋を返り討ちにし、兄のことも赦すが、殺人犯として警察から追われる身になってしまう。また恋人だった幼馴染みも、仕事で国外に行くことをきっかけに、今までの関係を「少年時代の愚かな戯れ」と切り捨て、ヴィナヤンとの関係を清算してしまう。
 家を出て故郷を離れたヴィナヤンは、とある寺院で一人の美しいヒジュラ(芸能や売春を生業とするインドのトランスジェンダー集団)と出会い、彼女に誘われ、ヒジュラたちが共同生活を送るハマム(マッサージパーラーという名目の娼館)へと連れていかれる。最初は戸惑ったヴィナヤンだったが、ヒジュラたちのリーダーが「自分たちのような人間は一般社会からは拒絶されている」と話すのを聞き、ハマムで暮らすことを決意する。
 やがて儀式が行われ、ヴィナヤンは名前をマンジュラに改め、先輩ヒジュラのジャミーラが、彼の新しい《母親》として名乗りを上げる。優しいジャミーラに可愛がられ、他のヒジュラとも仲良くなり、マンジュラは楽しい日々を過ごすが、いざ本当のヒジュラとなり、女性として生まれ変わる儀式の際、マンジュラはそれを拒絶してしまう。
 というのもマンジュラは、ときおり自分の中で、男性としての欲望が持ち上がるのを感じていたからだ。しかし、そのことを素直に語るマンジュラを、ヒジュラたちは「素晴らしい、では貴方は両性者アルダナーリだ」と祝福し、このハマムで唯一、女でもあり男でもある存在(普段は女性として振る舞いつつも、男性として他のヒジュラと結婚することもできる存在)として迎え入れる。
 こうして正式にハマムで暮らし始めたマンジュラは、例の自分をここに連れてきた美しいヒジュラに、彼女のBFを紹介されるが、その男に何かうさんくさいものを感じる。同時に彼女に、男性としての欲望を感じて結婚を迫るが、彼女はマンジュラの警告を聞き入れれず、求婚も拒絶する。
 男も女も、自分のことを愛してはくれないと嘆くマンジュラを、母親役のジャミーラは優しく慰め、マンジュラもまた、ジャミーラが実の母親以上に自分のことを愛してくれていると感じるのだが、そんなジャミーラが、娼館ではつきものの性病に倒れてしまい……といった内容。

 これは実に面白かった!
 異色作であると同時に、かなりの意欲作。まずは、主人公の人生ドラマや内面の苦悩などだけでも、充分以上に見応えがあるんですが、それに加えて、ヒジュラのコミュニティー内のしきたり等、今までほとんど知る機会がなかった世界を垣間見られるのと、更にはそれと同時に、社会に受け入れられてはいるものの、しかし扱いはあくまでも被差別層であるという、そういった社会問題の数々も、ダイナミックなエピソードや、はっきりとした問題提起を込めたセリフで打ち出してきます。
 ストーリー的にも波瀾万丈で、前述したあらすじの後も、幼なじみのBFの再登場、病に倒れる父親、再会した兄との再確執、ヒジュラを食い物にする極悪犯罪、犯罪組織と警察との癒着……等々、マンジュラの心の葛藤をメインに、ドラマチックなエピソードがテンコモリ。
 では、そういう不幸の釣瓶打ち的な内容なのかというと、必ずしもそうではなかったりします。
 じっさい悲劇的なエピソードも多々あるし、イントロからして、年老いて乞食のようになったマンジュラの語りから始まるので、この後どうなるのか戦々恐々なんですが、でも決して「悲惨な話でお涙ちょうだい」タイプの作品ではない。
 そういった、社会的な不条理による悲劇の数々を描きつつも、クライマックスでは(ネタバレ含むので白文字で)父親が病に倒れ、死ぬ前にひと目我が子に会いたいと願うのを受け、ヴィナヤン/マンジュラは意を決して故郷へ帰り、臨終の父親を見舞うのだが、そこで父親は、息子が完全に女性の姿になったことにショックを受けつつも、そこに両性具有の神アルダナーリシュヴァラの姿を見て(ホントにCGでピカーっと神様の姿になるもんだから、おもわず目が点になっちゃいましたw)伏し拝む……といった具合に、今まで描かれてきた諸問題をヒンドゥー神話に結びつけてきます。そして、「では、そんな世界で正義を求めるために、次は何をしようか?」と、運命に敢然と立ち向かう主人公の姿を、まるで頌歌のように高らかに謳いあげたところで終幕……という構成。
 これはちょっと、今までに見たことがないタイプの作品。インドのクィア映画ならではといった味わいです。
 全体が2時間あるかないかという短い尺なので、特に後半は描写不足の部分が多々ありますが(まぁそれもインド映画では良くあるパターン)、ドラマチックでエモーショナルな話(一箇所マジ泣きしました……)、確固とした社会派的な視点、そしてクライマックスの高揚感が合わさって、面白い、見応えあり、後味も上々……と、三拍子揃った満足感。

 ほぼ完全女装で通す主演の男優さん(Manoj K. Jayanという人で、前に感想を書いた『ケーララの獅子』にも出ています)は、力強い演技と目力で醸し出す色気が素晴らしかった。この映画だとこんな感じですが、
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素はこんな感じのヒゲが濃い太目のオジサンなので、役になりきっている様がホントお見事。
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子供時代を演じた子役の子も、とてもチャーミングで良かった。
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 それ以外の、ヒジュラたちのリーダーや、
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主人公の義母となるジャミーラも、実に良いキャラ&良い演技。
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 あちこちユーモラスな描写もありますが、決して女装自体で安易に笑いをとりにいくようなことはせず(インド映画では、コメディ・リリーフとして女装という要素を使うのが、決して珍しくはない)、全体をしっかりとシリアスな内容のドラマとして描ききるあたりにも、制作陣の意識の高さが感じられます。
 あと、余談になりますが、マラヤラム映画って前に見たときもそう思ったんですが、とにかく男優さんが皆ヒゲで太ったおじさんなので、この映画でも主人公の夫となる男性は、こんな感じ(右)だし、
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悪徳警官ですら、こう。
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 インド映画なので色っぽいシーンとかはないですけど、こんな感じのラブシーンもあり。
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 太ったおじさん同士のラブシーンというのは、ゲイビだとそういうジャンルは確立してますけど、映画では全く見た記憶がないので、これはちょっと貴重かも知れません。

 今年のバンガロール・クィア映画祭で上映されたというので、興味を持ってDVDを購入してみたんですが、まさにインドならではのクィア映画という一本。
 面白いし、志は高いし、見応えはあるし、個性もあり、後味も上々……という、題材に興味のある方なら必見の一本。 実は最初は、予告編とDVDジャケの雰囲気から、「《可哀想でしょ〜悲惨でしょ〜+コテコテの女装コメディ》だったら嫌だな〜」と結構おっかなびっくりだったんですが、その予想を悉く裏切ってくれたので、なおさら満足度も大でした。

ちょっと宣伝、ファスビンダーとか西太后とか

 6月10日、ドイツの映画監督、故ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(ゲイ)の命日に、Ustreamで放送されたトークライブ『ファスビンダーの白鳥の歌』にゲストとして出演させていただきまして、そのアーカイブ映像が公開されました
 後日、Ustreamのアーカイブは削除されたので、改めてYouTubeにアップされたクリップを貼っておきます。設定が埋め込み無効なのでリンクのみ。

YouTube:ファスビンダーの白鳥の歌

 東京国際大学准教授のドイツ映画研究家で、ファスビンダー研究&字幕翻訳なども手掛けていらっしゃる、渋谷哲也先生の胸を借りて、私が偏愛する遺作『ケレル』(ジャン・ジュネ原作のゲイ映画)を中心に、クィア&死という切り口で、『自由の代償』(トラウマものゲイ映画)、『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(レズビアンもの)、『悪魔のやから』(変な映画w)、『13回の新月のある年に』(TGもの)などについて、かなり好き勝手に喋らせていただいております。
 一時間以上ありますが、お時間ありましたらご覧ください。私の妄言はともかく(笑)、渋谷先生のファスビンダー解説を拝聴するだけでも鑑賞の価値は大。

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 もう1つ、本日発売のレディースコミック誌「まんが グリム童話デラックス vol.74」に、2007年に描いた旧作『落日〜西太后と東太后』が再録されております。
 ゲイものではないですし、歴史物とレディコミ的なお約束の狭間で、制作時にかなり悩んだ作品でして、更にちょうど自分の絵に迷いが出ていた時期ということもあって、改めて読み直すと、我ながらあれこれ思うところも多い作品ではあるんですが、よろしかったらお読みください。

まんがグリム童話デラックス 74 (恐怖の快楽 2013年07月号増刊) [雑誌] まんがグリム童話デラックス 74 (恐怖の快楽 2013年07月号増刊) [雑誌]
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発売日:2013-06-14

トロント〜ニューヨーク紀行(5)

5月16日
 今日は一日まるごとオフ。
 というわけで、メトロポリタン美術館とセントラルパークで一日過ごす。
 休日、休日(笑)。

5月17日
 Butt Magazineのインタビュー。ただしSkype使用。
 チップの家で、アンに横に付いてもらい、パソコン越しにインタビューを受けていたところ、チップの家政婦さんがやってくる。何も聞いていなかったので、私もアンもちょっとビックリ。
 家政婦さんが後ろで掃除をする中、インタビュー開始。ところが相手がButt Magazineなので、質問内容がかなりきわどい。で、私がチンコだの肛門だの先走りだのと言うのを、アンが英語で通訳してくれているところに、後ろからガチャンという音。家政婦さんが何かを落としたのか……一瞬凍りつく我々。そして大爆笑(笑)。
 その話を後でチップにしたところ「うわ、彼女がくるのは来週だとばかり思ってた!」と青ざめておりました。ごめん、チップ(笑)。

 月末から個展をやるチェルシーのギャラリー、Shoot the Lobsterへ打ち合わせに。
 アン、ダンと一緒に、日本から持参した原画を並べ、展示のレイアウト等を決める。
 このニューヨーク個展の詳細は、こちら
 ダンとはここでお別れ。

 打ち合わせを終え、夕方まで時間があるので、グラウンド・ゼロを見に行くことにする。
 9/11メモリアムは、予約をしていなかったのでどうしようかと思ったけれど、予約なしでも見られるということで、列に並んでドネーションして中へ。
 前に写真で見たときは、正直なんとも思わなかったメモリアムだったけど、いざ実物を見たら、これが実に素晴らしい。シンプルで荘厳、そして恐ろしさを感じさせる、見事な設計。感銘しきり。

 夕方、アンとチップと一緒に、彼のパートナー、サンディの家へ。サンディは留守。
 これがまた、歴史ある建物を改装した高級集合住宅で、ロビーに入るなり「博物館ですか?」ってな感じだし、サンディの家も「美術館ですか?」ってな具合。
 私からすると、今泊めて貰っているチップの家も、充分以上にゴージャスだけど、このサンディの家はそれを上回る豪華さ。チップの趣味がポップカルチャーなのに対して、サンディの趣味は完全にクラシック。部屋中、美術品と骨董品だらけ。エドワード・ホッパーのヌード・デッサンまで飾ってあるし、トイレを借りたら、バスルームのドアが真鍮の枠にマジック・ランタン用の古いガラス製のスライドがびっしりはめ込まれ……といった具合。
 なんかチップとサンディが同居しない理由も判るような。これだけ趣味性と美意識がはっきりしていて、しかし方向性が全く違う2人が、同じ家に住んだらインテリアがどうなるのか、見当もつかない。アンにそう言ったら、彼女も同意してくれた(笑)。
 遅れて、クリスチャンとクリスチャン兄も合流。
 食前の一杯をいただいた後(とはいえ私は飲めないので炭酸水)、皆で揃って夕飯へ。

 夕飯は、今ニューヨークでとても人気だというチャイニーズ・レストランへ。
 何でも入るのに二時間待ちだとかいうのを、アンの口利きですんなりと。オーナーの奥さんと友人だそうな。ダンが「その日は予定があるから行けない!」と悔しがっていたところを見ると、本当に人気店らしい(笑)。
 料理はぶっちゃけ中華ではなく、中華、インド、タイなど様々なエッセンスを取り入れた創作料理といった趣。日本だったら「無国籍エスニック料理」とでも呼ばれそう。いずれもスパイシーで、それがちょっと今までに食べたことがないようなオリジナリティあふれる味。そして美味しい。人気のほども納得。
 とはいえ店自体は小さく、内装も下北沢あたりにありそうな、ゴチャッとした穴蔵バー的な雰囲気。店内が暗く、クラブばりの音響でレゲエやメタルがガンガンかかり、更に大声の英会話が飛び交うという環境は、私的にはちょっと辛いものがありましたが、とにかく料理は独特の魅力。
 食事の後、どっかに飲みに行こうと誘われたけれど、ちょっと疲れが溜まっていたので、私はパス。
 地下鉄に乗って帰宿。

5月18日
 夕方までオフなので、グッゲンハイム美術館とMoMAをハシゴ。
 そしたら流石に疲れてクタクタに。歳を考えるべきだった(笑)。いったんチップの家に帰って、約束の時間まで仮眠。

 アン、チップと一緒に、ヴィレッジのフレンチ・レストランでディナー。
 その後、ゲイバー巡りへ。
 まず最初に行ったのは、野郎系っぽい店。客は疎ら。
 ニューヨーク在住のカズさん、サイン会にも来てくれたレザーシーンに詳しいというソーさんと合流。
 場所を変えて、別の店へ。こっちは客でごった返しており、ベア系も多し。
 ところがモニターで映画『スーパーマンII』をやっていて、案の定チップの目はそれに釘付けに。私も、数日前に観光に行ったナイアガラとかが出てくるもんだから、つい一緒になって鑑賞。で、ここがどーだ、あそこがどーだ、アメコミ映画で何が好きだ、ウォッチメンをどう思った……などとオタク話をしてしまい、何しにゲイバーに来てるんだ、私ら(笑)。
 そこに、カズさん、ソーさん、共通の友人である、アーティストのネイランド・ブレイクさんが合流。
 場所を変えることになり、先約があったカズさんは離脱。

 お次はピアノ・バー。店の中央にピアノがあり、ピアニストがそれでブロードウェイ・ミュージカル・ナンバーを弾き語りしていて、それに客(男女混合)が大声で合唱しているという、何とも不思議な店。
 店に入るなり、チップとアンも大声で歌い出す。曲は『ウェストサイド物語』『RENT』『コーラスライン』等なので(この曲は知らないな〜と思っていたら、アンが『ピピン』だと教えてくれた)私も知ってはいるものの、歌詞までは覚えていないので合唱には加われず。
 なんだかとっても「ニューヨークのゲイバー!」って感じ(笑)。
 ピアノ・バーには入らなかったソー、ネイランドと、アイスクリーム屋の前で再び合流。その名もBig Gay Ice Cream Shopという店。ネイランドが自分の本をプレゼントしてくれたので、店の前のベンチで互いの本にサイン交換。
NYCneyland
 そして、せっかくなので記念写真を…とかやっていたら、いきなり通りすがりの女性が飛び入り参加。
NYCicecream
 この一番左の女性。十年来の仲良しみたいな表情で笑ってますが、まったくの赤の他人です(笑)。う〜ん、アメリカン(笑)。
 そして私ら一行も、通行人にカメラをお願いして、花屋の前で記念写真。左から、アン、ソー、私、チップ、ネイランド。
NYCflower

 そしてもう一件、ゲイ・ライツの歴史に残る店Stonewall Innへ。ストーンウォール暴動の現場となった店に、自分が来たのかとかと思うと、実に感慨深いものあり。
 奥のソファ席に陣取って、じっくり歓談……のはずが、なぜかいつの間にか、きゃりー・ぱみゅぱみゅの話に。う〜むむ、この場所でこの話題は、実にシュール(笑)。しかも、こんな面子で(笑)。

 そうこうしている間に、いいかげん深夜もまわったので帰ることにする。遅いから、もうタクシー使用。

5月19日
 ハフィントン・ポストのインタビュー。
 質問がわりと散漫な感じで、正直これでいったいどんな記事にするんだろう……と思わされましたが、後にアップされた記事を読んだら、なんか取材者の事前印象を確認するみたいな内容だった。
 インタビュー中、蒸し暑かったので扇子を使っていたら、写真撮影の際に「さっきの扇子を構えてくれないか」というリクエスト。で、冗談で「こう?」とか変なポーズをとったら、それが記事に使われてしまった。教訓。写真を撮られる際はふざけるべからず。
 そんな変な写真が見られる記事は、こちら
 記事に載っていない写真は、またまたグラハムのTumblrで見られます。こちら

 インタビューの後、レザーバーEagleのハッピーアワーに。ここでチップと待ち合わせ。
 ハッピーアワーはドレスコードなしなので、すんなり入れた。ミックスもOKらしく、緊張していたアンも無事入店。
 内装はSMちっくで素敵だけど、時間が時間なだけに店は空いていて、10人ほどいる客のは、レザーマン2人、警官コスプレが1人いたものの、後はいたってカジュアルな装い。そんな中、サイン会に来てくれた人から声を掛けられる。
 やがてチップもやってきて、少ししてからディナーの店へ移動。
 ニューヨーク最後の夜は、アンのバースデー・ディナーでメキシコ料理店へ。チップ、アン、クリスチャン、クリスチャン兄、他、アンの友人たち。先日の無国籍チャイニーズ・レストランのオーナー夫妻も。
 とてもおしゃれな店で、出てくる料理も、私の知ってる「タコス! チリコンカン!」みたいなメキシカンとはだいぶ違う、凝った味付け&おしゃれな盛りつけ。とても美味しかった。
 食事の後、一行はまた別の店にハシゴするのを、私は荷造りもあるので、先に失礼することにする。アンともチップとも、ここでお別れ。

5月20日
 朝、タクシーを捕まえて空港へ。行き同様にトロント乗り継ぎなので、空港もラガーディア空港。近くてありがたい。
 そして何事もなく飛行機に乗って、21日に無事帰国。
 いやぁ、初カナダ&約20年ぶりのニューヨーク、楽しかった!
 とはいえ、予想以上に色々と忙しく、せっかく旅行中に読む本をKindle Paper Whiteに3冊入れていったのに、丸々2冊は手つかずのまま帰国してしまった(笑)。