投稿者「Gengoroh Tagame」のアーカイブ

単行本『冬の番屋/長持の中』表紙絵メイキング

 今回の単行本表紙をどんな感じにするか考えたとき、最近いくつか続けて手掛けた出版以外の作品で、墨で描いた白描に朱墨や金色墨汁などで色を加えるとか、或いは2〜3色の版画であるとか、そういった手法が自分でも新鮮で面白かったので、そのテイストを出せないかと考えました。
 因みに以下がその最近手掛けた作品で、順に、オーストラリアの企画展用に描いた『波濤 A』、日本のTシャツ企画展用に描いた『串刺し』、カナダTCAFの依頼で描いた『竜巻』になります。
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 というわけで、担当編集氏に「クラフト紙っぽい色合いの用紙に特色3色刷りで版画風に」と提案し、予算の範囲で何が可能で何が不可能か、見積もりをとってもらいました。
 最初の段階では、黒(もしくは濃紺か焦げ茶)の線描をメインに、そこにポイントカラーとして赤と金を加えたいと希望。すると担当デザイナー氏&印刷所の方から「赤は沈むのでオペーク赤を使った方がいい、それも下地にオペーク白を敷いて2度刷りで」とのご提案。
 しかしそうすると、インクが一色増えてしまうので、さてどうしたものかと思っていたら、「こんな感じになります」というサンプルで、色の濃い用紙にオペーク白を敷いた上に特色で刷った見本を見せていただきまして、そこで「え、こんな感じになるのなら、逆に色を入れるのはやめて、オペーク白の効果を活かした方がカッコイイんじゃね?」と思いまして。
 予算的にもOKだったので、注意点などを確認の上《茶色の板紙に濃紺・オペーク白・金の三色刷り》に決定。
 条件が決まれば、後は描くだけ。
 用紙見本や刷り見本などをお借りして、頭のなかでイメージを固めつつ、コピー用紙に水色鉛筆と鉛筆で下絵を描いていきます。オペーク白の効果を活かしたかったので、翻る白褌を天使の羽に見立てた、ボンデージ毛深マッチョ天使の絵にすることにしました。
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 下絵が出来上がったところで、スキャンしてパソコンに取り込み、印刷時のタチキリ線入りテンプレート(サイズは後で描く原画原寸)上に配置して、構図を決定。
 絵自体の構成要素が少なく、しかも文字等はいっさい入らないデザインなので、余白のバランスなどがだらしなくなってしまうと致命傷。位置や大きさなどを、検証しながら厳密に詰めていきます。
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 構図が決まったら、それを原寸でプリントアウトして、ライトボックスで透かしながらドローイング。
 今回は「天使」というモチーフ上、いつもの自分の和のテイストと、洋の宗教画的なテイスト(具体的にはビザンチン絵画をイメージ)をミックスしてみたかったので、用紙は和紙ではなく洋紙(といっても単なる画用紙ですが)をセレクト。
 メインの描線は墨と毛筆ですが、前述のテイストを出すために滲みや掠れは使わず、描線もあまり走らせすぎず、かっちりと形を抑えるような描き方にしました。
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 坊主頭の表現は、金網+ぼかし刷毛でスパッタリング。
 体毛は、くっきり&緻密に表現したかったので、ペンを使用。
 で、今回、画材屋で見つけた日光の超研磨ペン先(丸ペン)というのを初めて使ってみたんですが、これが実に優れもの。普通の丸ペンに比べると引っかかりも少なく、繊細な線がスイスイ引ける。
 おまけに保ちも良くて、私の場合普段だと丸ペンは、16ページのマンガ原稿を描く間にも2本消費してしまったりするんですが、この超研磨ペン先は、この表紙イラストで目の粗い画用紙にみっちり描いた後、そのまま雑誌の連載マンガ16ページ用にも使いましたが、いまだにへたれておりません。
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 線画が出来上がったところで、それをスキャンしてパソコンに取り込み、Photoshopで使う版(色)ごとにレイヤー分け。背景は、用紙の色をシミュレート。
 体毛の描線を繊細&しっかり出したいので、製版時に網掛けをしないように頼み、作業もアンチエイリアスをかけない2値/1200 dpi/印刷原寸で進めます。
 背景のパターンはIllustratorを使用。
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 レイヤー構成は、こんな感じ。
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『天使 B』の方は、右側の布が煩く感じられたので、最終的には消しました。
 この画像は、仕上がりイメージに近づけるために、ちょっとレイヤーの透明度をいじってみたもの。
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 いろいろと初めての試みもあるので、果たして自分のイメージ通りのものが出来上がるか、いささか不安もあったんですが、いざ出てきた校正刷りがもうバッチリの仕上がりで、安心すると同時に大喜びしました(笑)。
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単行本『冬の番屋/長持の中』発売です

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 新刊マンガ単行本『冬の番屋/長持の中』、本日発売です。
 とはいえゲイショップ等の直販店では、既に先週末くらいから店頭に並べられていた模様ですし、アマゾンでも昨日ごろからステータスが《近日発売》から《在庫有り》に変わっていましたが。

 収録作品は雑誌「バディ」掲載作から、以下の三本。
『冬の番屋』〜北の果て、雪と氷に閉ざされた世界で繰り広げられる、白ヒゲ熊親爺と気弱ホモ青年の恋愛情話。
『ACTINIA [man-cunt]』〜近未来、エリート軍人の辿る苛酷な運命を描いた、エクストリーム系Sci-fi。
『長持の中』〜大正時代、暗黒の箱に閉じ込められた少年と、その義父が織りなす暗黒童話。

 内容見本は以下のPVをご参照ください。

単行本『冬の番屋/長持の中』PV from Gengoroh Tagame on Vimeo.

 装丁は、これまでポット出版から出させていただいた中短編集ど同様のシンプルな外函入りで、函から出すとご覧のような表裏全面イラスト入りとなっています。
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 毎回装丁には、予算の許す範囲内で工夫して、少しでも「本を所有する喜び」を感じていただければと思っているんですが、今回はカラー印刷というよりは版画風のテイストを狙って、クラフト紙系の色合いの板紙に、ほとんど黒に近い濃紺/オペーク白/ゴールドの3色刷にしてみました。また、体毛描写をクリアかつ繊細に出すために、印刷方法にもこだわってみました。
 是非、現物をお手にとってお楽しみいただければと思います。

 そして一つご注意。
 今回の『冬の番屋/長持の中』は、R18指定の成年コミックとなります。よって販路も、過去の無指定の単行本よりもかなり狭まりました。その結果、店舗によっては以前の本は入荷していたけれど、今度は入荷しないという場合もありますので、ご注意ください。
 一例を挙げると、新宿紀伊國屋本店(フォレスト)では、過去の単行本は入荷していましたが、今回は取り扱いがありません。しかし、新宿南口店の方では取り扱いがあるかもという話もあったりして、申し訳ないんですが私の方でも、そこいらへんの詳細把握はできていません。
 とりあえず、同様に成年コミックとして出た『筋肉奇譚』を取り扱っていた書店であれば、今回の『冬の番屋/長持の中』も問題なく置いて貰えるのではないかとは思います。
 また、アマゾンでも同様にアダルト扱いになりますので、海外発送はして貰えないはずです。日本国外在住の方で、もしオーダーしようと思っている方がいらっしゃいましたら、Rainbow Shoppersなどのご利用をお願いいたします。

 それでは、一人でも多くの方にお買い上げいただけますように!
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“Parada (The Parade)”

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“Parada” (2011) Srdjan Dragojevic
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2011年のセルビア/スロヴェニア/クロアチア/マケドニア/フランス/イギリス映画。英題”The Parade”。
 元ユーゴ内戦の兵士でホモ嫌いの中年男が、ひょんなことからセルビアのゲイ・パレード護衛をすることになるという、社会派コメディ・ヒューマンドラマ。
 監督&脚本のSrdjan Dragojevicは、2001年にベオグラードのゲオ・パレードで実際に起きた、アンチゲイによる暴行事件のフッテージを見て、この映画の企画を思いついたとのこと。件の暴行事件の映像は、映画の導入部分でも使われており、また、それと対比させるように、エンディングでは2010年のベオグラード・ゲイ・プライド・パレードの映像も使われている。
 2012年のベルリン映画祭パノラマ部門観客賞受賞。

 セルビアの首都ベオグラード。
 結婚式の演出などを手掛けるゲイのミルコ以下、LGBTアクティビストたちがプライド・パレードをしようと計画しているが、セルビア社会にはホモフォビアが根強く、過去には極右スキンヘッズによる暴力事件も起きている。そして今日もまた、LGBTアクティビストたちが集まって会議をしているところに、スキンヘッドたちが殴り込みに来る。アクティビストたちは、警察にパレードの護衛を頼みに行くが、取り合って貰えないどころか、逆に侮蔑的な態度であしらわれてしまう。
 そんな中、ミルコのパートナーで、彼ほどはアクティブではないゲイである獣医のラドミロの元に、負傷したブルドッグが担ぎ込まれる。ブルドッグの飼い主は、元ユーゴ内戦の兵士で、その後ギャングを経て、現在は柔道道場とボディーガード業をやっている男リムン(あだ名。レモンの意)だった。
 リムンは現在、若くて美人の娘ビセルカと再婚しようとしているところだったが、ビセルカはリムンの提案するダサい結婚式が気に入らない。そして、もっとオシャレな結婚式を……と、ローンを組んででも、ミルコの会社に頼みたいと言う。リムンも、仕方なく折れてそれに同行するが、そこでラドミロに会ってしまい、自分たちの結婚式を預ける相手がホモだと知って激昂してしまう。
 リムンに胸ぐらを捕まれたはずみに、ミルコは転倒して大怪我をしてしまう。介抱するラドミロに、ミルコは「頑張ってきたけどもう限界だ、僕は自分の国を憎みそうだ」と本心を吐露し、実はカナダへの移民申請もしているのだと告げる。
 一方ビセルカは、リムンのとった態度に激怒して、彼の家を出て行ってしまう。リムンが彼女の居所を探す間、彼女はミルコだけにお詫びの電話を掛けるが、それをラドミロが受け、彼の心に1つのアイデアが閃く。
 ラドミロはリムンの元に赴き「貴方が愛するビセルカのためになら何でもしたいと思うように、僕も愛するミルコのためになら何でもしたい」と、リムンの結婚式をミルコにプロデュースさせ、ビセルカがリムンの元に帰ってくるように計らうかわり、リムンとその部下たちにプライド・パレードの護衛をしてくれるよう、提案する。
 リムンはその提案を受けるのだが、部下たちは「オカマのパレードの護衛なんてとんでもない」と拒否する。ベオグラードで護衛を見つけるのは無理だと考えたリムンは、それなら町の外で見つけようと、ゲイ・グループの中でも一番ゲイゲイしくないラドミロを連れて、ボディーガードの仲間捜しに出掛ける。
 リムンとラドミロは、車体に「ホモ死ね」と落書きされているピンクの車に乗り、かつてユーゴ内戦で戦ったライバルたちを訪ねて、セルビアからクロアチア、ボスニア、コソボ……と、旧ユーゴ圏内を巡って、ゲイ・パレードの護衛を捜しに出掛ける。
 最初は全くの水と油だったリムンとラドミロだったが、次第に互いを理解し始め、護衛仲間も一人ずつ増えていく。しかし実は、リムンの前妻との間の息子が、今はスキンヘッズになって、パレード襲撃を企てている一味に入っていた。
 果たして、ベオグラードのゲイ・プライド・パレードは実現できるのか、そして極右スキンヘッドたちの攻撃をかわすことはできるのか? ……といった内容。

 題材から期待していた通り、これは実に面白かった!
 コメディ・タッチでテンポ良く進めつつも、ホモフォビアとゼノフォビアを重ね合わせることで、《異なる者への理不尽な嫌悪》という差別の本質を見せ、クライマックスに向けてエモーショナルに盛り上げ、感動とメッセージ性をしっかり押さえて、ジ・エンド……といった構成。
 まず、出てくるキャラたちが実に良く、メインはリムンとラドミロなんですが、ホモフォビアはあるものの実は悪い人間ではないリムンと、アクティビズムとは距離を置きクローゼット気味のラドミロが、それぞれストーリーを通じてきっちり成長していくので、それがラストの感動へと繋がる。
 オシャレ系ゲイのミルコは、志が高い反面ちょっと鼻につくところもあり、ここいらへんもリアル&魅力的。リムンの彼女ビセルカも、集会場に火炎瓶を投げ込まれ、パニックになるゲイたちを尻目に「アマチュアね!」とテキパキ火を消したりして、実にかっこいい。その他、50代でようやくカムアウトした有名デザイナーのゲイとか、ビセルカと仲良くなるレズビアンとか、護衛として集まるリムンの戦争仲間のオッサンたちとか、誰もかれも良くキャラが立っていて、それが生き生きと楽しく動くのが、何とも魅力的。
 また、全体が『荒野の七人(七人の侍)』を模した構造になっていることや、リムンの一番好きな映画が『ベン・ハー』で、彼はそれを《男同士の真の友情》だと信じ込んで見ているのだが、ご存じのように実は……みたいな、仕掛けのあれこれも楽しい。

 前述した差別の本質に関しては、まず冒頭からテロップで《チェトニク:セルビア人の蔑称:クロアチア、ボスニア、アルメニア系コソボ人が使用》《ウスタシャ:クロアチア人の蔑称:セルビア、ボスニア、アルメニア系コソボ人が使用》《バイジャ(略)》《シプタール(略)》といった解説が出てきまして、その最後に《ペデー(fag):同性愛者の蔑称:皆が使用》と出てくるといった具合に、もう最初がらガッツリ描いてきます。
 で、そこから、毛むくじゃらのオッサン(リムン)のシャワーシーンに続くんですが、これがシャワーを浴びながら、セルビア愛国歌、旧ユーゴの共産主義俗謡、旧ユーゴの80’sポップスなどを、ゴチャマゼに続けて歌い、それと並行して男の肌に入っている、ユーゴ内戦の戦場の名前やら、二次大戦の反共リーダーの顔やらといった、これまたゴチャマゼのタトゥーがクローズアップされていく…といった洒落具合。
 中盤の仲間捜しのエピソードで、最初は《ホモ死ね!》と落書きされていた車が、旧ユーゴ圏内をあちこち渡り歩くうちに、《チェトニクの豚!》とか《ウスタシャ死ね!》とか、どんどん上書きされていくのも、風刺と洒落っ気が見事に効いていて実に可笑しい。
 それ以外にも、警察風刺もあれば米軍風刺もあり……といった感じで、とにかくネタ的にはテンコモリで、逆にネタが多すぎて、リムンと息子の確執やラドミロと父親の確執など、いささか描き込み不足や捌き切れていない部分もあるんですが、それらも引っくるめてお楽しみどころは盛り沢山。

 コメディとしては、あちこちでくすりとさせるタイプで、どっかんどっかん笑えるわけではないですが、内容の濃さ、理想と現実のバランス配分、感動要素やメッセージ性の確かさは保証します。
 とにかく情報量が多いので、ついていくのが大変な部分もありますが、ゲイ映画好きにも一般の映画好きにも、どっちもしっかり楽しめる一本。オススメです。そして、これがセルビアでスマッシュヒットしたというのも嬉しい話。

ちょっと宣伝、新連載『奴隷調教合宿』スタートです

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 7月20日発売「バディ」9月号から、新連載マンガ『奴隷調教合宿』スタートです。
 短期集中連載で全4話くらいを目処に考えていますが、ひょっとしたらもうちょっと長くなるかも……という予感もなきにしもあらず。
 タイトルが全てを語っているような気がしますが(笑)、前の連載『転落の契約』同様、王道の直球SMものです。
 ただ、『転落…』の被虐者が《オヤジ/ヒゲ/体毛》だったの対して、今回の主人公は《若者/イケメン/すべすべ》系。考えてみると、ここ数年で若者系もそこそこ描いてはいるのものの、道具とかガンガン使ってネッチリと《責め》もやるSMものは、もっぱらオヤジ系や熊系の主人公ばかり。若者系の主人公でそういうネタは、あまりやっていない気がしたので、今回はそれにチャレンジということで。
 というわけでまだ第1話ながら、3ページ目から早くもBDSM描写が始まり、後はもう全ページ、エロ、エロ、エロ。縛りに猿轡にレイプに恥辱に鼻フック……と、フルスロットルでやっております。
 イケメン凌辱SM抜きネタがお好みの方、乞う御期待(笑)。
 さて、この「バディ」9月号ですが、表紙でも謳っているように、先日惜しくも急逝した真崎航さんの追悼号となっております。残念ながら、私個人はお会いしたことがないんですが、日本のゲイ・カルチャーの未来を感じさせるご活躍ぶりは、誌面などを通して拝見していました。
 真崎航さんをモデルにピエールとジルが手掛けた、グリコのマークをモチーフにしたカバー写真から始まり、レスリー・キーや下村一喜、その他の写真家たちが撮った作品、在りし日のプライベート・ライフ、関係者の談話、寄せられた追悼メッセージ、DVDコンテンツなど、充実した特集になっています。
 ゲイ・メディアで活躍した著名人の物故を、しっかりとした特集を組んできちんと追悼し、リスペクトするというのは、日本のゲイ・カルチャー史上でも、これが初かも知れません。
 その急逝が、海外のゲイ・ニュースでも報道された、真崎航さんの追悼特集号、ファンならずともマスト&永久保存版でしょう。
 是非、お買い求めあれ。

Badi (バディ) 2013年 09月号 [雑誌] Badi (バディ) 2013年 09月号 [雑誌]
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2013-07-20

“The Passion of Gengoroh Tagame”

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 なんか慌ただしく過ごしているうちに、今年の4月30日に発売された初英語版単行本“The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga”の、きちんとした紹介をすっかりし忘れていたので、 遅ればせながら記事アップです。

 サイズはB5(週刊誌サイズ)の大判、ページ数は256ページ、収録作品は『Hairy Oracle』『闘技場〜アリーナ』『鬼祓え』『田舎医者』『スタンディング・オベーション』『MISSING』、そしてこの単行本用の新作描きおろし『Class Act』となります。
 収録作品の内容見本は、こちら
 装丁はブック・デザイン界の鬼才チップ・キッド、翻訳&プロデュースはアン・イシイ、編集&解説はグラハム・コルベインス、序文は『美しい部屋は空っぽ』『ジュネ伝』等の文豪エドマンド・ホワイト。

 まずは装丁の話から。
 手掛けてくれたチップ・キッドは、先頃NHKの『スーパー・プレゼンテーション』でTEDの「本をデザインするのは笑いごとではない…なんてね(笑い事ではないけど笑える本のデザインの話)」が放送され、あちこち話題にもなったアメリカのブック・デザイン界ではカリスマ的な存在のグラフィック・デザイナー。日本での有名どころでは、村上春樹や手塚治虫の英訳本や、マイケル・クライトン『ジュラシック・パーク』のオリジナル装丁を手掛け、それが後に映画版のロゴにもそのまま使用されたりしています。
 私の”Passion”では、本の下半分をテクスチャの異なる紙質の環状の帯で覆い、テキストも全てそこに集約。帯を外すと絵の全体像が現れ、書籍本体には文字もバーコードも一切ない、シンプルで大胆な装丁の本になる……という仕掛けになっています。
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 同様の《遊び》は、本体見返し部分にも仕掛けられていますので、実物を手に取られた方は、是非そこいらへんも含めてご覧ください。

 チップはコミック・マニアとしても知られていて、アメコミ関係の書籍にも多く関わっており、日本の桑田次郎版『バットマン』のアメリカでの復刻『バットマンガ』も、この人が立役者です。
 そんなチップが、もう10年以上も前に仕事で来日した際、先頃亡くなった日本在住の映画批評家/映画監督、ドナルド・リチーに連れられて新宿二丁目に行き、ゲイショップで私の本を手にとったのが、今回の英訳版出版に繋がるそもそものスタート。
 有り難いことにチップは私の本を気に入り、以来、新刊が出ると、全てではないけれど買い集めてくれていたそうな。そんなチップが仕事でアン・イシイと知り合い、自分のプライベートの愉しみのために、彼女に私のマンガの英訳を個人的に頼んだんだそうです。そして二人が、私のマンガの英訳本が出るといいのにね……と話していたところ、やがて若い映像作家で、日本のゲイマンガ好きのグラハム・コルベインスが合流。
 こうして、チップ/アン/グラハムというチームが出来て、彼らがあちこちに企画を持ち込んだところ、オルタナティブ・アートやポップカルチャー、オルタナティブ・コミックなどの出版を手掛けていた、ピクチャー・ボックスの社長ダン・ナダルが手を挙げてくれた……という次第。
 先頃の渡航は、そこに、やはり私のファンだというトロント・コミックス・アート・フェスティバルのディレクター、クリス(クリストファー)・ブッチャーが加わり、私、チップ、アン、グラハム、ダン、クリスの連携で、あれこれ動いたものです。

 また、チップ/アン/グラハムは、私以外にも日本のゲイマンガをアメリカで紹介したいというプロジェクトを組んでおり、これには私も、彼らがコンタクトを取りたがっている日本の作家を紹介するという形で関わらせていただきました。先頃どこかでプレス・リリースが出ていましたが、形になるのは来春の予定。
 日本のゲイマンガは、作家にとっては頭が痛いことなんですが、ネット上でシェアされたり無断で翻訳されたりして(スキャンレーションと言って、日本のみならず世界中のコミック・アーティストや出版社が悩まされている問題)、確実に海外のオタク系ゲイ・コミュニティ内では知名度が上がっており、デフォルメや表現手法といった面での影響力も、年月を追うごとにどんどん大きく見られるようになっています。
 今後、オフィシャルな出版物や、作家にもちゃんと利益が還元される形で、日本のゲイマンガがどんどん海外進出していけば、面白いことになるだろうな……と、ちょっと期待。

 閑話休題。
 話は”Passion”に戻りますが、個人的に嬉しいのは、これは過去の仏西伊語版でも同じですが、絵に修正を入れずに出すことができたということ。自分の描く絵が、自分の母国では完全な形で出版することができないというのは、初めて自分の絵がアメリカのゲイ雑誌に無修正で掲載された1993年以来、ずっと変わらぬストレスですから。
 それともう1つ、これは今回ならではの嬉しさは、大判単行本で出せたということ。現状「バディ」本誌ではB5サイズで作品を発表することができますが、基本はA5でしたし、今まで出た単行本は全て、国内外を問わずA5かB6サイズ。
 何のかんの言って、やはり画面の大きさと迫力は比例するので、同じ『田舎医者』を日本版と米版を見比べると、受ける印象の違いは大きいです。
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 この単行本用に描きおろした『Class Act』は、チップの依頼による制作。
「北米読者用の描きおろし新作を入れて欲しい」ということで、チップと話し合った結果、読者ウケの良い教師と生徒でいこうということになりました。ここいらへん、日本もアメリカも同じなんですな。
 ただ、ここでちょっと珍しい事例が発生しまして、チップが「キャラを自分と自分のパートナーにしてくれないか」とリクエストしてきまして……。ファンメールとかで「自分をマンガに出してくれ」と、本人の全裸写真添付で送られてくるなんてのは、実はそんなに珍しいことでもないんですが(笑)、仕事でそういうリクエストが出たことはなかったので、正直かなり戸惑いました。
 詳細は省きますが、とりあえず私は、自分にとっての《夢の男》を描くのがポリシーなので、キャラを誰かに似せて描くというのはやらない、その代わり、キャラの名前を彼らと同じにして、特徴も少し取り入れる(チップはメガネキャラ、パートナー氏はシロクマ系……といった具合)ということで納得して貰いました。
 チップは「出過ぎた真似かもしれないけれど、気を悪くしないでくれ」と、ストーリーの原案も送ってきたんですが、私のテイストとは違うのと、予定ページ数では収まりきらない内容だったので、ストーリーも完全に私のオリジナルでいかせて貰っています。
 そんな『Class Act』ですが、いざ作品を仕上げて渡し、そして翻訳やレイアウトも済んだ校正用PDFを見たら、キャラの名前が別のものに変わっていまして……何だったんだ(笑)。
 でも、”Passion”の巻末にはボーナス・コンテンツ的に、この『Class Act』の鉛筆下描きが何ページか収録されておりまして、そっちには私の手書きの日本語で、オリジナル・タイトルや元々のキャラ名がバッチリ入ってるんだよな〜(笑)。ここいらへんは、日本語話者の読者にしか判らない面白さかも(笑)。

 そんなこんなで、“The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga”、アメリカ/カナダのみならず、世界のあちこちで販売中(現在、スペインとフランスとノルウェーの本屋で「買ったよ!」という報告あり)です。
 そして日本でもアマゾンで買えますので、宜しかったら是非、お手元に一冊どうぞ!

The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga
価格:¥ 3,118(税込)
発売日:2013-04-30

ドイツのフェティッシュ/BDSM系ゲイ雑誌”Toy”に記事&作品掲載

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 もう一年くらい前のことになっちゃうと思うんですが(笑)、ドイツのフェティッシュ/BDSM系ゲイ雑誌”Toy”の309号に記事と作品が掲載されました。
 Twitterでは4月頃に呟いていたんですが、

それからブログにもアップしようと思いながら、さっきまですっかり失念してました(笑)。

 簡単な紹介記事と一緒に5ページ(作品10点程度)が掲載。
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新刊マンガ単行本『冬の番屋/長持の中』予約受け付け開始です

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 7月25日、新刊マンガ単行本『冬の番屋/長持の中』が、ポット出版さんから刊行予定です。
 収録作品は雑誌「バディ」掲載作から、以下の三本。

『冬の番屋』〜北の果て、雪と氷に閉ざされた世界で繰り広げられる、白ヒゲ熊親爺と気弱ホモ青年の恋愛情話。
『ACTINIA [man-cunt]』〜近未来、エリート軍人の辿る苛酷な運命を描いた、エクストリーム系Sci-fi。
『長持の中』〜大正時代、暗黒の箱に閉じ込められた少年と、その義父が織りなす暗黒童話。

 版元・ポット出版のサイトでは、ただいま予約受け付け中。先着50名様には、直筆サイン本のサービスあり。
ポット出版:『冬の番屋/長持の中』いよいよ発売! 田亀源五郎直筆サイン本、予約開始します
 サイン本が終了後も、本の予約は引き続きできます。版元なので在庫切れがなく、書店に並ぶより早めに届くので、オススメです。

 因みに外装は、これまでのポット出版刊単行本同様にシンプルな外函入りですが、本体表紙は描きおろしイラスト2点を用いて、版画のような雰囲気を狙った、かなり凝った仕様にしました。
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 紙のテクスチャーや印刷効果も含めて、デジタル画像ではまず味わえないテイストが出せたと思うので、ぜひ本をお買い求めの上、函から出してご堪能いただければと。

 収録作品のうち、『冬の番屋』と『長持の中』は、共にガッツリ読み応えありの100ページ前後の中編、『ACTINIA [man-cunt]』は短編(とはいえ50ページ弱あり)になります。
 いずれも雑誌掲載時と比べると、各回のタイトルロゴを抜いて新規のコマに差し替えたり、部分的に加筆したりトーンを加えたりと、より満足のいく状態になるよう、あれこれ手を加えています。特に『冬の番屋』は、仕上げのコンセプトを全面的に見直して、ほぼ全ページに渡って何かしら手を入れたので、情感などがぐっとアップしたかと。

 収録作品の内容紹介を兼ねて、プロモーション・ビデオを作ってみました。映画の予告編を見る感じで、ご覧ください。

単行本『冬の番屋/長持の中』PV from Gengoroh Tagame on Vimeo.

ちょっと宣伝、レディコミ誌でホラー短編マンガ描きました

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 本日発売のレディースコミック誌「月刊 いちばん残酷なまんがグリム童話」8月号(ぶんか社)に、ホラー短編マンガ『帝都闇物語〜東京伝説〜 第一話・不福耳』(原作・平山夢明)掲載です。
 レディコミ誌での新作は久しぶり。また同社刊のレディコミ誌では、過去に「ほんとうに怖い童話」「このミステリーが面白い」等でお世話になっておりますが、「まんがグリム童話」本誌に描かせていただくのは、確か今回が初めて。
 ……あ、ご存じない方のために付け加えておきますが、誌名はグリム童話と入っていますが、掲載されている作品は、ファンタジーあり実話ものあり歴史ものあり名作文学アレンジありのセクシーありホラーありの、レディコミジャンルの総まくり的なラインナップ。
 で、今回私が描かせていただいたのは、作家・平山夢明さんの著書『東京伝説 彷徨う街の怖い話』という、都市伝説系怪談アンソロジーをマンガ化したもので、今回がシリーズ連載の第一回。以後の掲載ペースは隔月を予定しています。

【追記】発売直後に同誌編集部から、編集長交代→方針転換で誌面リニューアル→連載中止という連絡があり、雑誌表紙にもマンガの扉ページにも「シリーズ連載スタート!」と銘打たれていたにも関わらず、連載はこの第一回のみで終了しました。
 この経緯には色々と思うところはありますが、実際マンガ業界ではこういった話を聞いたことがないわけではなく、しかしまさか自分の身にも降りかかるとはなぁ……という感想に留めておきます(笑)。【追記ここまで】

 ゲイマンガではないので、残念ながら筋肉も体毛も出てきませんが、そのかわり××がいっぱい出てきますので(笑)、近くの書店でもコンビニでも、はたまたアマゾンでも、是非お買い求めの上お読みくださいませ。

まんがグリム童話 2013年 08月号 [雑誌] まんがグリム童話 2013年 08月号 [雑誌]
価格:¥ 650(税込)
発売日:2013-06-29

 因みにこの号では、「肉体派」でお馴染みだった葉月つや子先生も、イタリアの高級娼婦を描いた華麗な新作『コーティザン』を描かれておられます。
 で、その葉月先生の先頃出た「肉体派」掲載作+αを収録した単行本『落ちる先には練乳地獄』(アクアコミックス)でも、私ちょっとばかりお手伝いいたしておりますので、未チェックだった方は是非そちらもよろしく!

落ちる先には練乳地獄 (アクアコミックス) 落ちる先には練乳地獄 (アクアコミックス)
価格:¥ 680(税込)
発売日:2013-05-11

トークショー&ビュッフェパーティー「やっぱり映画が好き!」出演のお知らせ

 来る7月5日~6日と7月12日〜15日の日程で、第22回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭が開催されますが(上映プログラムやスケジュールはリンク先を参照、チケットは既に発売中です)、そのオフィシャル・イベントの1つ、六本木のレストラン・バーで開催されるトークショー&ビュッフェパーティー「やっぱり映画が好き!」に、映画ライターのよしひろまさみちさん(各種映画雑誌の他、最近はTV出演もされていますが、個人的にはジーメン時代からの長いお付き合い)と一緒に出演します。
■日時:7月4日(木)19:00〜22:00(トークショーは20:00より)
■場所:The Pink Cow(六本木ロアビルB1F)
■料金:3,000円(1ドリンク+ビュッフェスタイルのお食事)
■申込:http://goo.gl/v04wZよりお申し込み下さい。 ※〆切:6月30日(日)
■その他、詳細はこちらでご確認ください。
 よしひろさんと一緒に、ゲイ映画というものについて、往年の名作から個々の想い出の作品、最近の注目作や珍作・怪作の類まで、あれこれ時間の許す限り、楽しく紹介&トークしたいと思っております。申し込みフォームには備考欄も付いておりますので、「この映画について語って欲しい!」みたいなリクエスト等もご遠慮なくどうぞ。
 ご都合のよろしい方、いらっしゃいましたら、皆さんお誘い合わせのうえ、是非ご来場ください!

“Ardhanaari”

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“Ardhanaari” (2012) Santhosh Souparnika
(インド盤DVDで鑑賞→Bhavani DVD

 2012年のインド/マラヤラム映画。南インドのトランスジェンダー文化を通して、個としてのTGの苦悩や、TG集団であるヒジュラへの差別などの問題を、社会派ヒューマン・ドラマ的に描きながら、更にそこに、ヒンドゥー神話を重ね合わせて見せるという意欲作。
 タイトルは、両性具有の神アルダナーリシュヴァラから。

 南インド、ケーララ州に住む少年ヴィナヤンは、子供の頃から自分の体は男だけれど心は女だと感じていて、アイラインを引いて爪を染め、装身具を付けて学校に通っている。歳の離れた兄や学校の教師はそれを疎ましく思っているが、父や姉は彼の好きなようにさせてくれ、同級生の少年も彼の味方だ。
 やがて青年になった彼は、髪を伸ばし、例の同級生とも互いに愛し合い、お付き合いをしていたが、政界に出た兄はますます彼のことを忌み嫌い「妹に縁談がこないのもお前のせいだ」と罵り、ついには殺し屋を雇ってヴィナヤンを始末させようとする。
 ヴィナヤンは殺し屋を返り討ちにし、兄のことも赦すが、殺人犯として警察から追われる身になってしまう。また恋人だった幼馴染みも、仕事で国外に行くことをきっかけに、今までの関係を「少年時代の愚かな戯れ」と切り捨て、ヴィナヤンとの関係を清算してしまう。
 家を出て故郷を離れたヴィナヤンは、とある寺院で一人の美しいヒジュラ(芸能や売春を生業とするインドのトランスジェンダー集団)と出会い、彼女に誘われ、ヒジュラたちが共同生活を送るハマム(マッサージパーラーという名目の娼館)へと連れていかれる。最初は戸惑ったヴィナヤンだったが、ヒジュラたちのリーダーが「自分たちのような人間は一般社会からは拒絶されている」と話すのを聞き、ハマムで暮らすことを決意する。
 やがて儀式が行われ、ヴィナヤンは名前をマンジュラに改め、先輩ヒジュラのジャミーラが、彼の新しい《母親》として名乗りを上げる。優しいジャミーラに可愛がられ、他のヒジュラとも仲良くなり、マンジュラは楽しい日々を過ごすが、いざ本当のヒジュラとなり、女性として生まれ変わる儀式の際、マンジュラはそれを拒絶してしまう。
 というのもマンジュラは、ときおり自分の中で、男性としての欲望が持ち上がるのを感じていたからだ。しかし、そのことを素直に語るマンジュラを、ヒジュラたちは「素晴らしい、では貴方は両性者アルダナーリだ」と祝福し、このハマムで唯一、女でもあり男でもある存在(普段は女性として振る舞いつつも、男性として他のヒジュラと結婚することもできる存在)として迎え入れる。
 こうして正式にハマムで暮らし始めたマンジュラは、例の自分をここに連れてきた美しいヒジュラに、彼女のBFを紹介されるが、その男に何かうさんくさいものを感じる。同時に彼女に、男性としての欲望を感じて結婚を迫るが、彼女はマンジュラの警告を聞き入れれず、求婚も拒絶する。
 男も女も、自分のことを愛してはくれないと嘆くマンジュラを、母親役のジャミーラは優しく慰め、マンジュラもまた、ジャミーラが実の母親以上に自分のことを愛してくれていると感じるのだが、そんなジャミーラが、娼館ではつきものの性病に倒れてしまい……といった内容。

 これは実に面白かった!
 異色作であると同時に、かなりの意欲作。まずは、主人公の人生ドラマや内面の苦悩などだけでも、充分以上に見応えがあるんですが、それに加えて、ヒジュラのコミュニティー内のしきたり等、今までほとんど知る機会がなかった世界を垣間見られるのと、更にはそれと同時に、社会に受け入れられてはいるものの、しかし扱いはあくまでも被差別層であるという、そういった社会問題の数々も、ダイナミックなエピソードや、はっきりとした問題提起を込めたセリフで打ち出してきます。
 ストーリー的にも波瀾万丈で、前述したあらすじの後も、幼なじみのBFの再登場、病に倒れる父親、再会した兄との再確執、ヒジュラを食い物にする極悪犯罪、犯罪組織と警察との癒着……等々、マンジュラの心の葛藤をメインに、ドラマチックなエピソードがテンコモリ。
 では、そういう不幸の釣瓶打ち的な内容なのかというと、必ずしもそうではなかったりします。
 じっさい悲劇的なエピソードも多々あるし、イントロからして、年老いて乞食のようになったマンジュラの語りから始まるので、この後どうなるのか戦々恐々なんですが、でも決して「悲惨な話でお涙ちょうだい」タイプの作品ではない。
 そういった、社会的な不条理による悲劇の数々を描きつつも、クライマックスでは(ネタバレ含むので白文字で)父親が病に倒れ、死ぬ前にひと目我が子に会いたいと願うのを受け、ヴィナヤン/マンジュラは意を決して故郷へ帰り、臨終の父親を見舞うのだが、そこで父親は、息子が完全に女性の姿になったことにショックを受けつつも、そこに両性具有の神アルダナーリシュヴァラの姿を見て(ホントにCGでピカーっと神様の姿になるもんだから、おもわず目が点になっちゃいましたw)伏し拝む……といった具合に、今まで描かれてきた諸問題をヒンドゥー神話に結びつけてきます。そして、「では、そんな世界で正義を求めるために、次は何をしようか?」と、運命に敢然と立ち向かう主人公の姿を、まるで頌歌のように高らかに謳いあげたところで終幕……という構成。
 これはちょっと、今までに見たことがないタイプの作品。インドのクィア映画ならではといった味わいです。
 全体が2時間あるかないかという短い尺なので、特に後半は描写不足の部分が多々ありますが(まぁそれもインド映画では良くあるパターン)、ドラマチックでエモーショナルな話(一箇所マジ泣きしました……)、確固とした社会派的な視点、そしてクライマックスの高揚感が合わさって、面白い、見応えあり、後味も上々……と、三拍子揃った満足感。

 ほぼ完全女装で通す主演の男優さん(Manoj K. Jayanという人で、前に感想を書いた『ケーララの獅子』にも出ています)は、力強い演技と目力で醸し出す色気が素晴らしかった。この映画だとこんな感じですが、
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素はこんな感じのヒゲが濃い太目のオジサンなので、役になりきっている様がホントお見事。
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子供時代を演じた子役の子も、とてもチャーミングで良かった。
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 それ以外の、ヒジュラたちのリーダーや、
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主人公の義母となるジャミーラも、実に良いキャラ&良い演技。
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 あちこちユーモラスな描写もありますが、決して女装自体で安易に笑いをとりにいくようなことはせず(インド映画では、コメディ・リリーフとして女装という要素を使うのが、決して珍しくはない)、全体をしっかりとシリアスな内容のドラマとして描ききるあたりにも、制作陣の意識の高さが感じられます。
 あと、余談になりますが、マラヤラム映画って前に見たときもそう思ったんですが、とにかく男優さんが皆ヒゲで太ったおじさんなので、この映画でも主人公の夫となる男性は、こんな感じ(右)だし、
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悪徳警官ですら、こう。
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 インド映画なので色っぽいシーンとかはないですけど、こんな感じのラブシーンもあり。
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 太ったおじさん同士のラブシーンというのは、ゲイビだとそういうジャンルは確立してますけど、映画では全く見た記憶がないので、これはちょっと貴重かも知れません。

 今年のバンガロール・クィア映画祭で上映されたというので、興味を持ってDVDを購入してみたんですが、まさにインドならではのクィア映画という一本。
 面白いし、志は高いし、見応えはあるし、個性もあり、後味も上々……という、題材に興味のある方なら必見の一本。 実は最初は、予告編とDVDジャケの雰囲気から、「《可哀想でしょ〜悲惨でしょ〜+コテコテの女装コメディ》だったら嫌だな〜」と結構おっかなびっくりだったんですが、その予想を悉く裏切ってくれたので、なおさら満足度も大でした。