投稿者「Gengoroh Tagame」のアーカイブ

『映画秘宝』2012年度ベスト&トホホ10

 本日発売『映画秘宝』3月号の「爆選! 2012年度ベスト&トホホ10」で、投票&コメントで参加させていただいております。
 まぁ去年の私のベスト1は、これはもうぶっちぎりで《これ》でした。何というかね、映画にしろマンガにしろ小説にしろ、良いと感じる判断基準は自分の中にも色々ありますけれど、最終的には「どれだけそれを愛せるか」ということに尽きるので(例えそれが偏愛の類であったとしても)、去年はもう「ようやく見られた!」しかも「ある意味で期待も上回ってくれた!」という多幸感にひたすら酔い痴れた、この一本に即決でした。
 5位以降はけっこう悩みに悩みまして、ジャック・オーディアールの『預言者』やヌリ・ビルゲ・ジェイランの『Once Upon a Time in Anatolia (昔々、アナトリアで/Bir Zamanlar Anadolu’da)』は泣く泣く落としたし、マーカス・ニスペル&ジェイソン・モモアの『コナン・ザ・バーバリアン』は個人的に擁護したいのでランク入りさせたかったとか、『アイアンクラッド』も入れるべきだったかしらとか、まぁ色々と(笑)。
 というわけで、宜しかったら是非お買い求めくださいませ。

映画秘宝 2013年 03月号 [雑誌] 映画秘宝 2013年 03月号 [雑誌]
価格:¥ 1,050(税込)
発売日:2013-01-21

電子書籍『デカとヤクザとニンジンと 田亀源五郎小説作品集』発売です

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 電子書籍(アマゾンKindle)で『デカとヤクザとニンジンと 田亀源五郎小説作品集』を発売しました。
 Kindle端末の他、iPhone、iPad、タブレットやスマホのAndroid端末などでも、Kindleアプリ(無料)をインストールすればお読みいただけます。
https://amzn.to/4cXaObR

 副題にもありますように、内容は小説作品集です。
 1988〜96年にかけて、ゲイ雑誌「さぶ」や「G-men」に《田亀源五郎/城戸呉八/鬼頭大吾》各名義で発表した、官能ゲイ小説の中から、ハードコアからラブストーリーまで厳選4本をセレクトしました。
 ヴォリュームは文庫本換算で約280ページ(換算基準は後述)。

*収録作
『デカとヤクザとニンジンと』
 95年、「さぶ」に城戸呉八名義で発表したもの。中年ヤクザとマル暴デカの、エロ&ラブ・ストーリー。
『無情の皿』
 96年、「G-men」に鬼頭大吾名義で発表したもの。壮年の板前を主人公にした、和風SM。いわゆる《抜ける系》ゲイポルノ。一部加筆。
『竹の家』
 88年、「さぶ」に田亀源五郎名義で発表したもの。後に「ロマンJune」「Super SM-Z」にも再録。18歳の青年が叔父に奴隷調教されていく、一人称小説。
『檻穽の獣』
 93年、「さぶ」に城戸呉八名義で発表したもの。後に「ロマンJune」にも再録。90年代初頭の東京の風俗を織り込んだ、ミステリー&ハードロマン仕立てのゲイSMもの。
『あとがき』
 各作品の内容や、執筆当時の背景などについて、簡単に解説。

 過去にゲイ雑誌では、マンガやイラストレーションの他、《田亀源五郎/城戸呉八/鬼頭大吾》のペンネームを用いて、それなりの量の小説も発表してきましたが(一部は本家ウェブサイトでも公開)、このままハードディスクのこやしにしておくのも勿体ないので、今回Kindleを使って電子書籍化してみました。
 まだまだストックはありますので、機会を見て出来ればまた続きを出していきたいと思っておりますが、とりあえずこれが第1弾。
 私の書く小説をご存じの方も、そうでない方も、よろしければ是非一度お試しください。
 試し読みも可能で、アマゾンの商品ページにある《今すぐ無料サンプルを送信》ボタンを使って、表題作『デカとヤクザとニンジンと』の冒頭かなりの部分をお読みいただけます。
 文庫本換算の基準は、元となったテキストファイル(強制改ページ含まず)を、Adobe InDesignで《43字×15行》のフォーマットに、自動流し込みした際の総ページ数を基準に算出しています。

 実際の表示例は、こちら。
《Kindle Paper Whiteの場合》
(Kindle Previewerでシミュレート)
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《Kindle for iPhoneでの表示》
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 電子書籍ファイル(EPUB)の作成にあたっては、ひまつぶし雑記帳(doncha.net)様の「EPUB3::かんたん電子書籍作成(縦書き小説)」に大いにお世話になりました。謹んでここに御礼申し上げます。
 ワークフローとしては、まず上記の「かんたん電子書籍作成」のガイドラインに沿った形で、コンテンツを収録したプレーンテキストファイルを作成、EPUB3に変換。
 それを、フリーののEPUBファイル編集ソフトSigilを使って、細かなところを自分好みの形に整えてから、アマゾンが配布しているKindle用の確認ソフト、Kindle Previewerで仕上がりをチェック。
 こうして出来上がったEPUBファイルを、KDP(Kindle Direct Publishing)にアップロードして出版しています。
 Sigilで成形する部分は、これは私の好みの問題なので、別にそのパートはなくても問題ありません。ある程度のHTMLの知識があれば、それを使って見た目の細部を整えることができるといった程度の作業です。
 単純な小説本を出す限りでは、やり方は極めて簡単なので、こんな感じで、かつてゲイ雑誌に小説を書いていらした方々が、それぞれ過去の埋もれた作品とかを電子化して出版していただけると、楽しいんだがなぁ……などと妄想中。

 実際に自分が出版するにあたって、ちょいとアマゾンのKindleストアを調べてみたところ、小玉オサム先生が幾つか御自作をKindleで出していらしたので、早速私も購入してみました。

 電子化にあたって判らないところなどありましたら、訊いて下されば出来る範囲内で個別にお手伝いもいたしますので、ゲイ小説を書いていらした皆様、Kindle出版はいかがですか?
 こんな感じで、僅かながらでも日本のゲイ・アダルト・エンターテイメント文化が、また盛り上がっていくと楽しいかなぁ……なんて妄想しております。
 ま、そのためにも、何はともあれ、拙著『デカとヤクザとニンジンと』、お買い上げ下さいまし(笑)。

“La Mission”

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“La Mission” (2009) Peter Bratt
(米盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com

 2009年のアメリカ映画。サンフランシスコのミッション地区に住む男根主義的なチカーノの父親と、高校生でゲイの息子の確執を、音楽たっぷりに描いたヒューマン・ドラマ。
 監督ピーター・ブラット、主演ベンジャミン・ブラット。

 サンフランシスコのミッション地区に住むメキシコ系移民チェは、かつてはアルコール依存症だったが現在は社会復帰し、トロリーバスの運転手をしている。彼は地域で一目置かれる親分的存在で、週末は仲間と一緒に、リストアして飾り立ててたローライダー車を連ねて街を流すのが習慣だった。
 チェの妻は早くに亡くなっていたが、一人息子で今は高校生のジェスがいて、真面目で成績も良い息子のことをチェは誇りに思っていた。しかしジェスは実はゲイで、同年代で富裕層の白人のボーイフレンドと付き合っていた。
 とある週末、チェはいつものように仲間と街を流しに行き、その間ジェスはBFと一緒にカストロ地区のゲイクラブへと踊りに行く。しかし翌朝、ゲイクラブで記念に撮られたジェスのポラロイド写真を、チェが見つけてしまう。
 チェはジェスを殴りつけ、そのまま殴り合いになったところを、隣人でウーマン・シェルターに勤務している黒人女性がようやく取りなす。しかしチェはジェスに「家から出て行け!」と怒鳴り、ジェスはそのまま叔父夫妻の家に身を寄せることになる。
 やがて弟(ジェスの叔父)や黒人女性の説得もあり、チェはジェスを再び家に迎え入れ、息子の同性愛についても何とか理解しようとするのだが、自身が敬虔なカトリックということもあり、どうしてもそれを受け入れることができない。
 そんな中、ジェスと同じ高校に通うチカーノ・ギャングの男子学生が、かつてチェにトロリーバス内でマナーを咎められたことを根にもって、ジェスがゲイであることを学校内で言いふらす。
 ジェスは、友人のサポートもあってそれに絶えるのだが、父親との関係は依然ぎくしゃくしたままで、そこにやがてある事件が起き……といった内容。

 なかなか丁寧に撮られた作品。
 キャラクターの心情を生活感のある細かなエピソードで、1つ1つじっくりと描いて積み重ねていき、それが同時にチカーノ・コミュニティ内の風俗描写ともなり、更にソウル、ファンク、ヒップホップ、メキシコ先住民音楽から、インドの瞑想音楽まで、様々な音楽が劇中でふんだんに流れるというもの。
 ただ、丁寧に撮られている反面、いささか冗長な感はなきにしもあらずで、このモチーフで2時間近くというのは、正直ちょっと長すぎの感はあり。出来事を最初から順番に追っていく撮り方なのだが、ここはもうちょっと構成に工夫して、全体をタイトに引き締めた方が良かったんじゃないかなぁ。
 とはいえ、ストーリーや描かれるエピソード自体が面白いので、見ていて退屈するということは全くなく、またローライダー改造車を巡る文化とか、メキシコ先住民文化を受け継ぐ民間信仰的な宗教描写とか、目新しいものがあれこれ見られるので、全体的にはとても楽しめる出来。

 ゲイ描写に関しては、あくまでもフォーカスは息子がゲイであることを受け入れられない父親の方にあるので、ゲイ文化自体に関してはさほど描写はなし。
 しかし、自分がゲイであることを受け入れてくれない父親との確執や決断、愛するBFとの関係描写、周囲の人々によるサポートといった、息子を軸としたゲイ回りのドラマも、前述したようなディテール描写の豊かさもあって、やはり見ていて面白いし描かれ方も気持ち良い。
 また、単にゲイという要素だけではなく、そこに人種や格差の問題が絡んでくる(つまりワーキングクラスのチカーノであるチェやジェスに対して、ジェスのBFはアッパークラスの白人なので、それが尚更チェを意固地にしてしまう側面がある)のも、ドラマの要素として興味深くて佳良。

 役者陣も、メキシカンなヒゲにスジ筋ボディ&全身刺青というチェを演じるベンジャミン・ブラットと、大きな黒目が印象的なジェスを演じるジェレミー・レイ・バルデスの二人を筆頭に、隣人の黒人女性、チェの弟とその美人妻、ローライダー車の仲間たち、ジェスの友人である太っちょのネイティブ・アメリカン青年など、メインから脇に至るまで実に魅力的な面々が揃っている。
 映像的には、音楽(や歌詞の内容)を上手く使った印象的なシーンが多々あり、ここも大きな見所の1つ。
 エンディングの余韻も心地よい。

 こういう感じで、モチーフに興味のある方だったら、まず見て損はない内容かと。
 男根主義の父親とゲイの息子の確執というテーマに興味がある方にはもちろん、チカーノ文化に興味がある方や音楽好きの方にもオススメの一本。

“Vampires: Brighter in Darkness”

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“Vampires: Brighter in Darkness” (2011) Jason Davitt
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com、イギリス盤もあり→amazon.co.uk

 2011年制作のイギリス製テレフィーチャー。マッチョ系ゲイ・ヴァンパイアもので、いちおうシリーズ化の予定らしく、続編は”Vampires: Lucas Rising”となる模様。
 どんな内容かというと、一言で言えば……すっげー中二病でした(笑)。

 紀元500頃、古代ローマの軍人ルーカスは仲間と共に、永遠の命を求めて東欧の某所を訪れる。そしてそこでヴァンパイアの女王と出会い、首尾良く自分もヴァンパイアになる。
 それから1500年後、イギリスに住むゲイの青年トビー(美味しそうな身体+タトゥーの、犬系カワイコちゃん、ヒゲ付き)は、姉のシャーロットが仕掛けたブラインド・デートに出掛けるが、その相手がヴァンパイアのルーカス(ハンサム&ノーブル系、ちとワイルド、身体良し、ヒゲ付き)だった。
 トビーは自分のためにレストランを丸ごと貸し切りにしたルーカスにちょっと引きつつ、それでも彼に惹かれるが、「ホテルの部屋に来ないか」というお誘いは、今日のところは淑女らしくお断りする(ゲイだったら、ここは直行すると思うけどw)。
 またの再会を約束してルーカスと別れたトビーだったが、自宅の前まできたところに、シュッと目にもとまらぬ早業でルーカスが現れる。どうしてここにいるのとうろたえるトビーに、文字通り目を光らせて「君が好きだ、中に入れてくれ」と迫るルーカス。
 催眠術にかかったように(って実際に術にかかってるわけですが)ルーカスを家に入れてしまうトビー。そこでまた目を光らせてトビーに迫るルーカス。最初は嫌々していたトビーも「俺が欲しいんだろ?」と迫られ、結局「欲しい」と返事。お互いのシャツを激しく剥ぎ合い、ソファーに倒れ込み、荒々しく互いの身体をまさぐるうちに、ルーカスが「シャーッ!」と牙を剥きだして、トビーの首筋にガブリ。哀れ血を吸われて意識朦朧となるトビー。
 そこにドアを激しく叩く音。何とそこには、もう一人のルーカスがいた! どーゆーこと???
 実はトビーの血を吸っていたのは、ルーカスに化けた仲間の吸血鬼アンソニーだったのだ! 玄関で「僕を招きいれてくれ、トビー!」と叫ぶルーカス。朦朧としながら「入っていいよ」と答えるトビー。途端、ルーカスは部屋内に突入、トビーからアンソニーを引きはがす。
 しかし血を吸われたトビーは哀れ虫の息。そんなトビーの命を助けるために、ルーカスは自分の血を飲ませる。邪魔をされたアンソニーは逃走。やがて意識が戻ってパニックるトビーに、ルーカスは全て説明する(…ってもヴァンパイアの血を飲めば、その主のライフ・ヒストリーが判るという便利な設定なんですがw)
 トビーは自分がヴァンパイアになっちゃったことにショックを受けるが、でもまあルーカスのことを愛しているし(いつから???)すぐ興奮して牙出して「シャーッ!」ってやっちゃうけど、でも空中浮揚とかもできるようになったし、これはこれで悪くないかな、と納得(いいのか?)。
 というわけで、二人はもっとカジュアルでオシャレな服に着替えて(さすがゲイ)、夜の街にデートに繰り出す。デートといってもゲイクラブに行くとかじゃなく、超人的な身体能力を活かして屋根の上をピョンピョン、満月の下でロマンティックにキスといった塩梅。
 しかしその頃、ルーカスが仲間の承諾なしに勝手にトビーをヴァンパイアにしたことを、アンソニーやもう一人の仲間マーカスは問題視していた。更に彼らヴァンパイアの元祖である女王は、地獄(だか何だか)の扉を開けて、世界を破滅させヴァンパイア天国にしようとしていた!
 ここはお約束通り、世界破滅計画には荷担しないことにしたルーカス。ヴァンパイアの女王は招集を拒否したルーカスを裏切り者と決定。一方トビーは、ヴァンパイア化して数時間にも関わらず、恐るべき潜在能力を発揮。
 果たして世界は滅亡から救われるのか? ……ってな内容。

 実はこの後まだまだ、ルーカスが飛行機の屋根に乗ってエジプトへ行き、古代エジプトの元祖ヴァンパイア(神殿に鎮座しアヌビス神を侍らせながらも、なぜかイヤホンでヒップホップを聴いているというモダンっ子)に指導を仰ぎに行くとか、トビーの元彼が彼のことを忘れられず、家に強引に押しかけたときにアンソニーに攫われてしまい、そして結局その元彼もヴァンパイア化し、クライマックス直前あたりでは、もうゲイのヴァンパイアたちの痴話喧嘩の様相を呈してきたり、何の伏線もなく「古の錬金術師が作った《生きていて血を滴らせる石・ブラッドストーン》」だの、強大な力を持つ偉大な魔女だの、女神ヘカテだの、巨大サソリだの、トビーとルーカス危機一髪の時に唐突に昔なじみのサキュバスが現れて加勢するだの、もうトンデモ展開の目白押し(笑)。
 そんなこんなでツッコミ出すときりがない、全編通じて中2病フルスロットル!
 もちろん「実は××が巨大な力を秘めていて、後になって覚醒する」という定番展開なんかももありましてよ!
 いやぁ、笑った笑った(笑)

 とはいえ、なんか作り手の《愛と情熱》を激しく感じるので、ひどい出来っちゃあそうなんだけど、個人的にはかなり好きです。低予算なのは丸わかりだけど、でもその中で頑張っているのは伝わってくるし。
 あと男優陣(基本的に全員ヴァンパイア)が、なかなか上玉を揃えていて、演技力はともかくルックは全員悪くない。ちゃんとトビーは可愛く、ルーカスは格好良く見えるし、体育会系のアンソニーもなかなか。
 反面、女優はひどいんですけど(笑)。やっぱゲイが作ってるから、女はどうでもいいのかしら(笑)。
 ゲイ的にセクシーなシーンだと、トビーとルーカスが一緒にシャワーを浴びながら、互いにガブガブ噛み合い(笑)、肌を伝う血を舐め合うなんてのは、けっこう上手く撮られていて、あー基本的にはここが撮りたかったんだろうなぁという感じ。だったら下手な色気ださずに、もっとこぢんまりした話にすりゃいいのに……という気もしますが(笑)。ヴァンパイアの女王の世界征服のせいで、話がシッチャカメッチャカになっちゃってるので(笑)。
 あと、とにかく考えなし&唐突に話がどんどん進んでいくので、2時間もあるのに余分なことをしている余裕がなく、結果的に展開が早くなっているのも佳良。正直、演出自体(撮影もね)はへっっったくそなんだけど、でも飽きはしないという。
 特撮系も、この手の作品にしては頑張っている方で、クリーチャーも何種類か出てくるし(とはいっても俳優と絡んでアクションとかは殆どないんですが)、デジタル合成なんかも駆使していたり。
 まぁ、牙が突き出たヴァンパイヤ入れ歯のせいで、役者さんの滑舌が悪くなっちゃって、なんか喋りがモゴモゴしてヒアリングするのが大変だったとか、あと何かっつーとヴァンパイア同士が、その牙を剥き出して「シャーッ!」「シャーッ!」と威嚇し合うのが、なんかネコの喧嘩を見てるみたいで、その度に笑っちゃったりはするんですけど(笑)。

 というわけで、作品の出来自体は決して褒められたもんではないにも関わらず、それでも変なDVDスルー映画やVシネの「たりぃ〜、まだやってんの〜、さっさと終わんねぇかな〜」とは無縁で、ぶっちゃけ個人的にはかなり楽しめました。続編を作る気マンマンで、唐突に《引き》で終わるラストも爆笑だったし(笑)。
 そんなこんなで、好きだわぁ、これ! でも、トラッシュ趣味のない相棒は、横で退屈して居眠りこいてましたし、万人にはオススメいたしかねますが、予告編でピンときた人なら、タップリ楽しめるはずです。

『映画秘宝』とか『ホビット 思いがけない冒険』とか

 本日発売中『映画秘宝』2013年2月号の、巻頭特集「『ホビット 思いがけない冒険』完全攻略!」で、柳下毅一朗さん、添野知生さん、朱鷺田祐介さんに混じって、映画『ホビット 思いがけない冒険』のクロスレビューを書かせていただいております。
 そしてこの巻頭特集、ピーター・ジャクソン監督の直撃インタビューはもちろん、登場人物や設定解説……特に13人もいて覚えにくいドワーフたちの図解とか、『ロード・オブ・ザ・リング』のおさらい、中つ国の歴史から、荒俣宏さんのロング・インタビュー、はたまた杉作J太郎さんの暴走語りなど、まぁ内容が濃いこと濃いこと。私なんかが混じっちゃって、ホント良かったのかしら(^^;)
 しかもこれ、完成披露試写が12月1日で、私はマンガの締め切り直前だったので、見させていただいたのはマスコミ試写の12月6日、原稿の締め切りから雑誌の発売まで10日程度しかなかったというのに、この特集の濃さって……『映画秘宝』さん恐るべし。心の底から感嘆。
 というわけで、とにかく読み応えタップリなので、ぜひお読みくださいませ。

映画秘宝 2013年 02月号 [雑誌] 映画秘宝 2013年 02月号 [雑誌]
価格:¥ 1,050(税込)
発売日:2012-12-21

 で、映画『ホビット 思いがけない冒険』ですが、まぁ詳し感想は雑誌を読んでいただくとして、ともあれ私は《絶賛》。
 あー生きてて良かった……そしてまたもや、三部作完結までは死ねません。

 そしてこうなるとやはり、周辺グッズとかにもちょびっと手を出したくなるので、まずはモレスキンのホビット限定手帳2種(ポケット版)をゲット。
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 あともちろんサントラも。2種類出ているうちの、当然の如く曲数が多いデラックス版。

Hobbit: An Unexpected Journey Hobbit: An Unexpected Journey
価格:¥ 2,183(税込)
発売日:2012-12-11

 この後どれだけ散財するかは、神のみぞ知る(笑)。とりあえずアート&デザイン本くらいは欲しいかなぁ(笑)。

ちょっと宣伝、『エンドレス・ゲーム』最終話です

EndlessGame11
 今月21日発売の雑誌「バディ」2月号に、連載マンガ『エンドレス・ゲーム』最終話掲載です。
 途中、急に変則ページ数が入ってページ構成に苦労したり(おかげで以降予定していた展開を改めて組み直す羽目に)、さりげなーく置いた伏線がモザイクで殆ど見えなくなってしまったり(笑)、いささか難儀はありましたが、ともあれ予定の内容を予定のページ数程度できちんと終わらせることができたので、今はホッと一安心。
 ゲイショップにはそろそろ掲載誌が置いてある頃だと思いますが、主人公のエロ坊主に、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

 来月の「バディ」では一度お休みをいただきます。
 その後また何か描くと思いますが、『エンドレス・ゲーム』が「SM抜きのエロマンガ」というテーマで描いていた反動もあり、そろそろガッツリSMを描きたいという欲求がムクムクと(笑)。
 さて、どうなりますやら(笑)。

Badi201302 Badi (バディ) 2013年 02月号 [雑誌]
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2012-12-21

選挙の前に考えておきたいこと

 今朝ツイッターで、自民党の日本国憲法改正草案に始まる諸々について、主にLGBT視点からの所感をツイートしたので、補足を交えてそれをまとめておきます。

 ここにあるQ&Aとは、『日本国憲法改正草案 Q&A/自由民主党 (PDF)』のことです。以下、該当部分を引用。

 また、権利は、共同体の歴史、伝統、文化の中で徐々に生成されてきたものです。し たがって、人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要だ と考えます。現行憲法の規定の中には、西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると 思われるものが散見されることから、こうした規定は改める必要があると考えました。(Q13)

 そして私の所感。

 現在のアフリカの話については、情報が周知されているとは言えないので、参考としてカメルーンナイジェリアウガンダの実例を挙げておきます。そしてもう1つ、サンクトペテルブルグのLGBTオープン化禁止から活性化している現在のロシアの状況も。
 以上を踏まえての拙ツイート。

 上記記事の参考リンク→レインボープライド愛媛(性的マイノリティ政策アンケート
 そして併せてこちらも→毎日新聞/衆院選:ジェンダー政策 各党の違い浮き彫り(『性的マイノリティーへの差別・社会的排除をなくす』については、自民のみ『どちらかといえば反対』と回答)
 そして、なぜ現状の差別や人権侵害の有無だけではなく、将来的な展望も含めて考える必要があるかという意味でツイートしたのが、こちら。


【追記】ブログ人サービス終了に伴い、上記ツイート中のリンクは切れています。現在のリンクはこちら→https://www.tagame.org/jblog/?p=1753


 なぜ「起こってからでは遅い」と強調しているかというと、前述の拙ブログ記事「『タブウ』およびヴァルター・シュピース追補」後段に、詳しく理由が書いてありますが、それに対抗しうる政治力を日本のLGBTは持っていないからです。
 先ほどのツイートに対していただいたご意見の1つ。

 これに関しては、前出の『自民党憲法草案の条文解説』からの、以下の引用をご参考に。

1 憲法とはなんだったのか
 憲法は、法律ではありません。近代憲法は、国家権力を制限し人権を保障する法、要するに国民が国家に遵守させる法と考えられてきました(それを立憲主義というのが一般です)。少なくとも日本国憲法はそうなっています。
 今回の草案は、そうした従来の意味での憲法ではありません(そのことについてどう考えるかは自由です)。
 つまり、国民が憲法尊重義務を負い(102条1項)、人権衝突とは別個の概念である「公益又は公の秩序」(12条後段、13条後段、21条2項等)による人権制限が正当化され、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚」(12条後段)することが要求され、前文冒頭の主語が国家になっているなど、国家から国民への法へと変容を遂げているのです。

 再び、私の所感です。

 繰り返しますが「現状ではどうこう」ということではありません。現状のことであれば現実問題として、具体的な対処を色々と考えるべきでしょう。
 そうではなく、将来的にどういった思想に基づいた政治が運用されていく可能性があるのか、そこを考えることが重要だと思います。
 例えば、いささか乱暴かもしれませんが、この自民党による日本国憲法改正草案によれば、前述したロシアで起きている「ゲイのオープン化(権利を公に主張したり、可視化のためのパレード等を行うこと)を禁止する」ことは、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」(第二十一条抜粋)として正当化されるわけですから。
 もう1つ、前出のHuman Rights Watchの声明に見られる、石原慎太郎の発言「テレビなんかにも同性愛者が平気で出るでしょ。日本は野放図になり過ぎている」は、ロシアの「ゲイのオープン化禁止」と同じ発想であり、そういう人物が「憲法改正で自民に協力も」と発言していることにも注意しておきたい。
 以上、選挙権をお持ちのLGBTの皆さん(そしてもちろんLGBT問題に感心のあるヘテロの皆さん)には、こういったことを是非ご一考願えればと思います。

『アダムズ・アップル』”Adam’s Apples (Adams æbler)”

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“Adam’s Apples” (2005) Anders Thomas Jensen
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2005年のデンマーク映画。原題”Adams æbler”。監督は『ブレイカウェイ』『フレッシュ・デリ』等のアナス・トマス・イェンセン。主演ウルリク・トムセン&マッツ・ミケルセン。
 更正未満の犯罪者と神父の姿を通じて、人間社会における《善》の存在を問うた、オフビートなブラックユーモアで彩られたヒューマン・ドラマ。

 元ネオナチで刑務所から出たアダムは、社会奉仕プログラムで田舎の教会へと赴く。そこで彼を迎入れた神父イヴァンは善意の固まりのような人物で、自分は神の代理として悪魔と戦っていると信じている。その教会には他にも、アル中で盗癖のある元テニス選手や、ポリシーを持って強盗をするアラブ人といった、一癖も二癖もある連中が社会奉仕中だった。
 奉仕活動の内容は自分で決めなければいけないということで、教会の庭に生えているリンゴの巨木を見たアダムは、それでアップルパイを作るという目標を定める。しかしそんな矢先、リンゴの実がカラスの群れに食い荒らされ、続いて台所のオーブンが故障する。イヴァンはそれを、アダムにアップルパイを作らせないように、悪魔が邪魔をしているのだと説く。しかしアダムは次第に、イヴァンの言動に奇妙な点が多いことに気付き……という内容。

 今のところ、この監督の作品&彼が原案や脚本を手掛けた作品は、いずれも面白くてハズレがないという印象なんですが、今回もいかにもこの人の作品らしく、世間からはみだしてしまった者たちの姿を、ブラックユーモアとバイオレンスで彩った人情劇といった味わいで、面白かった。
 ただ、金をガメてトンズラしたギャングのチンピラどもが、イタリアン・レストランを開く羽目になる『ブレイカウェイ』や、肉屋をオープンしたロクデナシ兄弟が、人肉マリネで大繁盛してしまう『フレッシュ・デリ』と比べると、この”Adam’s Apples”はブラックな味は若干控えめ。
 また、ロクでもない連中なんだけど、でも愛すべき人間の姿を描くというスタイルは同様ながら、今回は宗教的なモチーフの比重が大きい。その分、テーマと自分との間にちょっと距離を感じてしまいましたが、一方では、信仰や善悪といった要素が絡んだ分、それに応じてテーマの深みも増したという印象も。
 とはいえ、下ネタヤバネタエグネタ込みの、オフビートでクスクス笑わせるユーモアは健在で、後味もすこぶる宜しく、相変わらず癖になる味わいで楽しい。

 卑俗な世界の中で真実を見ようとしない偽善者と、悪党ではあるが素直な男の対比を通して、《善》の存在を描いた作品といった感じで、可能であればちゃんと日本語字幕で再見してみたい一本。

【2019/04/28追記】日本公開決定。2019年10月から全国順次公開。 https://www.cinematoday.jp/news/N0108357

“Eega”(邦題『マッキー』)

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“Eega” (2012) S S Rajamouli
(インド盤Blu-rayで鑑賞、米アマゾンで入手可能→amazon.com

 2012年のインド/テルグ映画。殺された男が蝿に生まれ変わり、人間だったときの恋人を守り、自分を殺した相手に復讐するというファンタジー・アクション。
 監督は傑作”Magadheera“や話題作”Yamadonga“のS・S・ラジャムーリ。

 花火師のナニはもう二年もの間、隣家の美しい娘で、細かい細工物をするマイクロ・アーティストのビンドゥに恋をしていた。ビンドゥはそんなナニの気持ちを知りつつ、決して心憎く思ってはいないものの、でもそれを態度に表すことはない。
 ビンドゥは仲間と共に児童教育のNGOもしており、その資金繰りに奔走していた。そしてある日、大富豪で実業家のスディープのところへ寄付を願いに行のだが、スディープは目を付けた女は手に入れずにはおられず、欲のためには殺人をも厭わない大悪党だった。
 案の定ビンドゥの美貌に目をつけたスティープは、彼女を手に入れるために多額の寄付をし、更に食事に誘う。しかしそのレストランに、ナニが宴会用の花火を設置しに表れ、ビンドゥは改めてナニのことが気になっている自分に気付く。
 レストランからの帰り、スディープの車で送られていたビンドゥは、自分たちの後をナニが追いかけてくるのに気付き、口実を作って車から降りる。さりげなく一緒に青物市場へと行くビンドゥとナニを見て、スディープは嫉妬と怒りに燃える。
 そんなある日、ビンドゥはスクーターのガソリン切れに気付かないまま、独り遅くまで仕事をしてしまう。そして夜道を歩いて帰るのが怖いので、メールの誤発信を装ってナニに来て貰おうとする。ナニはビンドゥから初めて貰うメールに舞い上がり、早速駆けつけるが、ビンドゥの態度はつれない。
 ナニはそんなビンドゥの気持ちを察して、自分を下げることで彼女の夜道の供となる。何くれなく自分に行為を示してくれるナニに、ビンドゥも次第に打ち解け、そして別れ際、ナニのさりげない一言が、彼女が作品制作で行き詰まっていたことの打開策になる。
 作品を完成させたビンドゥは、それをナニに見せようと夜道に走り出るのだが、その時既にナニはスディープに車で拉致されてしまった後だった。スディープからの暴行を受けるナニは、最初は何が何だか判らないのだが、狙いはビンドゥだと知り「彼女に近づくと殺す!」と凄む。
 ビンドゥはナニの携帯に電話をかけ、ようやく自分も貴方を愛していると打ち明けるのだが、それはまさにナニがスディープに殺される瞬間だった。こうして、ビンドゥの愛の告白を聞きながら無念にも殺されたナニだったが、その魂は蝿になって生まれ変わる。
 最初は前世の記憶もおぼろげにしかなく、蝿としての初めての人生(蝿生?)に戸惑うナニだったが、しかしあるときスディープの顔を見て、全てを思い出し復讐を誓う。そんなことは何も知らないスディープは、ナニの死を知って嘆き悲しむビンドゥに近づき、彼女を手にれようとあれこれ策を練る。
 それを見たナニは、あれこれ蝿ならではの方法を使って、スディープがビンドゥに接近するのを邪魔する。スディープは次第に蝿ノイローゼのようになっていき、そしてついにその蝿が自分を殺そうとしていることに気付くのだが……といった内容。

 いやぁ面白かった、これは傑作!
 人間のナニはわりと早々に殺されてしまい、あとはハエが主人公になるんですが、このハエの演技(もちろん3DCGアニメですが)が、もうバッチリ。セリフもなければ表情もほとんどないのに、動きだけで喜怒哀楽をしっかり表現している。インド映画的な伝統に則って、挿入歌でキャラクターの気持ちを代弁する要素は少々見られるものの、蝿がカートゥーン的にキーキー声で喋るとか、心の声を使うとか、そういった表現面での安易さは皆無。
 で、この蝿があれこれ策を弄して、自分を殺した男に復讐しようとする、そういうアイデアの数々も実に楽しく、寝ているところを邪魔して寝不足にさせるなんていうチマチマしたやつから、交通事故を引き起こさせるなんてスペクタクルまで、もう実に盛り沢山で楽しい楽しい。
 ストーリー的にも、上手い具合に伏線を散りばめ、愛が成就する寸前に引き裂かれてしまった恋人たちという要素も、ロマンス的に良いスパイスになり、見ているこっちも、つい「蝿、がんばれ!」って気分になって、もうノリノリに。
 そして何よりかにより、《殺された男が蝿に生まれ変わって復讐する》なんていう荒唐無稽な話を、馬鹿馬鹿しさを狙ったりネタ的に消費するのではなく、真剣にしっかり全力で作っている感じが気持ちいい。
 蝿の一人称視点とか、飛び回る蝿をアップで追いかけるとか、実写とCGを上手く交えた映像の数々も良く、そういった技術的な部分でも、映画全体の質をしっかりサポート。
 もう全力で「見ているお客さんを楽しませよう!」という姿勢なので、ブッ飛び系のネタも《馬鹿馬鹿しい》のではなく、ちゃんと《楽しく》見られるのが素晴らしくて、ここいらへんは同監督の前述した傑作”Magadheera“なんかと同じ。
 後半、ヒロインがマイクロ・アーティストだという設定を活かしたブッ飛び小道具とか、土俗的な呪術まで出てくる展開とかもあるんですが、そこいらへんも上手い具合に白けずに楽しませてくれる感じで、そんな荒唐無稽さのレベルを制御する手綱さばきも上々。

 そんなこんなで、最後の最後までしっかり楽しませてくれた上に、エンドクレジットではオマケ付きのサービスなんかもあって、鑑賞後はとにかく「あー面白かった!」という満足感に。
 奇想系の設定良し、それを如何に活かすかというアイデアの豊富さ良し、そこにどれだけの説得力を持たせられるかという姿勢と技術良し、娯楽作品としての全力サービス良し……等々、文句なしの快作。オススメ!

【追記】『マッキー』の邦題で、2013年10月26日からヒンディ語版が日本公開されます。公式サイト

【追記2】DVDも発売。

マッキ― [DVD] マッキ― [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2014-03-28