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“Fetih 1453 (The Conquest 1453)”

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“Fetih 1453” (2012) Faruk Aksoy
(トルコ盤DVDで鑑賞、米アマゾンで入手可能→amazon.com

 2012年制作のトルコ映画。メフメト二世とその腹心の軍人ハサンを主人公に、1453年のコンスタンティノープル陥落を描いた大作史劇で、トルコ国内では大ヒットを記録。英題”The Conquest 1453″。

 とある夜、コンスタンティノープルの夜空に凶兆である帚星が現れる。それと共に時のオスマン帝国のスルタンに王子が誕生、予言者はその子が偉業を成し遂げると告げる。
 やがて成長した王子が、腹心ハサンと剣の稽古をしている最中に父王崩御の報が届き、やがて王子はメフメト2世として即位する。祖父の夢を見たメフメトは、周囲の豪族を束ねコンスタンティノープル攻略を夢見るようになる。
 メフメトの勢いを恐れた東ローマ皇帝コンスタンティノス11世は、裏から手を回しカラマン侯国をメフメトにけしかけるが、メフメトはハサンの活躍によって情報を事前に入手、カラマン侯国に勝利する。コンスタンティノープル攻略に反対する宰相ハリル・パシャを押し切り、メフメトはその第一歩として城塞(ルメリ・ヒサル)を建設する。
 一方でハサンはウルバンという腕の良い技術者と出会い、その美しい養女エラに恋をする。コンスタンティノスはウルバンに大砲を建造させようとするが、ウルバンが拒否したため、エラを人質に取って建造を強要しようとする。しかしハサンが二人を救出し、メフメトの元へ届ける。ウルバンとエラは、オスマン軍のために、不落のコンスタンティノープルの城壁を破壊できる巨大砲を作ることにする。
 コンスタンティノスはヴァチカンと手を結んで十字軍の協力を得ようとするが、ローマはその条件として、東方教会がカトリックの権威にくだることを要求する。コンスタンティノスはそれを受け入れるが、第4回十字軍とラテン帝国の暴虐を知る重臣や、コンスタンティノープル総主教らは、それに反発する。一方のメフメトは、東方教会に対して信教の自由を保障する。
 やがて巨大砲が完成し、いよいよコンスタンティノープル包囲戦が始まる。しかしコンスタンティノープルに付いたジェノヴァからの援軍と、その隊長ジョヴァンニの働きにより攻城戦は難航する。しかもジョヴァンニは以前エラに結婚を申し込んだことがあり、ハサンとはライバル関係にあたる男だった。
 戦況が膠着する中、ハンガリーから十字軍が来て挟み撃ちにされるとの噂が流れ、疲弊したオスマン軍の兵士たちは次第に戦意を失っていく。またハリル・パシャも、そもそもこの作戦は間違いだったのだとメフメトに迫る。
 そういった状況に押されて、やがてメフメト自身も戦意を挫かれそうになるのだが、しかし……といった内容。

 スペクタクル史劇好きなら、間違いなく大いに楽しめる一本。
 160分の長尺のうち、前半の80分でコンスタンティノープル攻略に至るあらましを、後半の80分で攻城戦をたっぷり見せるという構成で、若干CGの粗はあるものの、スケール感や物量感では文句なしの大作。
 作劇的には、歴史劇的な叙事要素を、メフメト2世とコンスタンティノス11世を軸としたドラマで描き、アクション・アドベンチャーやロマンスといった娯楽要素を、ハサンとエラとジョヴァンニのパートで押さえるという構成をとっており、これがなかなか効果的で、重厚な歴史劇の魅力と痛快娯楽作の魅力が、上手い具合にサンドイッチ状態になっている印象。
 最大の見せ場であるコンスタンティノープル攻城戦は、表現自体は昨今のハリウッド史劇のアレコレと同じような感じで、特に個性や目新しさはないものの、既視感があれども迫力のある画面、テンポが良い展開、ハリウッド的ながらも効果的な劇伴など、諸々の要素が合わさって、十分手に汗握る見せ場になっています。
 そこに加えて、仲間意識や自己犠牲といった泣かせ場面とか、ライバル同士がぶつかり合う激しいアクション・シーンとかいった、娯楽ドラマ的に美味しい要素があれこれ出てくるので、気分的な盛り上がりはかなりのものですし、クライマックスなんかもベタながらも感動的で、ちょっと目頭が熱くなっちゃったりして。
 欲を言えば、ちょっとエピソードのつなぎがぎこちなかったり、説明不足と感じられる部分はあります。
 鑑賞後にウィキペディアで確認してみたところ、ウルバンの巨砲は連続発射が出来なかったとか、オスマン艦隊がジェノヴァ艦隊に破れた結果、丸太のコロを使って艦隊を山越えさせるという奇策をとったとか、そういったあたりはスペクタクル的な見せ場という面も込みで着実に描かれている反面、それらに至るあらましといった部分が些か犠牲になっている感があり。ハギア・ソフィア大聖堂(アヤ・ソフィア)で迎えるエンディングも、舞台設定や絵的な魅力は十分ながらも、もうちょっと余韻が欲しかった。

 人間ドラマの方は、メフメト2世とコンスタンティノス11世のパートは、やはりキャラクターとして自由に動かせる制約的なものがあるのか、またセリフ等に専門的な要素が多く、私の語学力ではちょっと追い切れない部分もあったせいか、生き生きというには少し物足りなさがあったんですが、ハサンとエラとジョヴァンニのパートに関しては、これはもう痛快娯楽時代活劇といった感じの判りやすさで、もうタップリ楽しめました。オマケに、ハサンもジョヴァンニも実にカッコ良い(笑)。
 ただこの二人、髪型といいヒゲといい衣装の色といい、実に良く似た外見で、慣れるまで見分けがつかなくて大変だったんですが(笑)、これはおそらくヒロインを挟んで相似形の対称関係ということで、意識して似せているんでしょうね。でないとここまで紛らわしくする理由はないし。因みに、こっちがハサンで、
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こっちがジョヴァンニ。
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 セミヌードなのは単に私の趣味(笑)。
 この二人もなかなかマッチョなんですが、他にも、ウチの相棒が大胸筋に興奮していたこのキャラとか、
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きっと全員ヤールギュレシ(トルコ国技のオイルレスリング)の選手なんじゃないかというこの連中とか、
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マッチョやヒゲといった目の保養もあれこれあり(笑)。
 ともあれ前述したように、全体を通して物量感はバッチリですし、衣装やセットも文句なしのハイ・クオリティなので、史劇好きだったらそれらを見ているだけでも目の御馳走。それに加えて、ダイナミックなストーリーと、魅力的な役者たちによる良く立ったキャラ……と、スペクタクル史劇的な醍醐味はタップリと堪能できます。
 題材に興味を惹かれた人なら、まず見て損はない一本だと思うので、日本盤DVD発売を切に希望。

「映画秘宝EX 最強アクション・ムービー決定戦」

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 本日発売のムック『映画秘宝EX 最強アクション・ムービー決定戦 〜筋肉と爆発のチャンピオンまつり〜」に、80年代以降のソードアクション映画(……の主にマッチョ系)について、ちょいと文章を書かせていただいております。
 混ぜていただけて感謝! ^^
 で、このムックなんですが、とても21世紀の映画本とは思えない暑苦しい表紙イメージ(褒め言葉です)の通り、中身の方も、写真図版といい可読性の限界まで詰め込まれた文字レイアウトといい、何とも素晴らしく暑苦しい(繰り返しますが褒めています)。
 日ごろ暑苦しい男を専門に描いている私が言うんだから、これはもう間違いなし(笑)。それぞれの書き手さんたちによる、愛と熱意と変な汁がギッチリ詰まったって感じの本で、熱気ムンムン。
 どのページ捲っても、「筋肉と爆発のチャンピオンまつり」という副題に相応しく、ひたすら過剰なパワーで押しまくり。図版は眉顰めて凄みを効かせたアクションスターばっかだし、テキストの情報量もスゴくて全部読むにはけっこう時間がかかりそう。
 というわけで大いに読み応えがあって秋の夜長の友としてバッチリ、少し肌寒くなってきた今の季節にもピッタリなので(そうか?)、宜しかったら是非お読みくださいませ。

映画秘宝EX最強アクション・ムービー決定戦 (洋泉社MOOK) 映画秘宝EX最強アクション・ムービー決定戦 (洋泉社MOOK)
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2012-11-01

シドニーの企画展に新作2点出展します

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 11月1日〜7日まで、オーストラリアはシドニーのギャラリーMe & Art Galleryで開催される企画展、“The Boys Of Summer”に新作ドローイング2点を出展します。
 2点とも、耳付きの和紙(楮紙)に筆と墨でドローイングした後、朱墨・金墨汁・銀色筆ペンで部分彩色したもので、ちょっと面白い味が出た感じがして、自分でもけっこう気に入っております。
 額装もいつものデッサン額+窓開けマットではなく、写真用のアクリルフレームを使ってみました。
 アクリル板2枚で作品を挟み込むタイプなので、和紙の耳部分まで見え、かつ余白部分は透明で後ろの壁面が透けて見えるので、これまたけっこう良い感じになったような。
 というわけで、もしお近くの方がいらっしゃいましたら、是非足をお運びくださいませ。
 詳細情報はこちら(英文)。
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映画『人狼村 史上最悪の田舎』&トークイベントのご案内

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 明日10月27日(土)から11月2日(金)まで、シアターN渋谷にて、松竹株式会社・映像商品部提供による映画上映イベント「シッチェス映画祭 ファンタスティックセレクション」が開催されます。
 世界最古&最大のスペインのファンタスティック映画祭から、より抜きの作品6本が日本初上映。
◎公式サイト→www.shochiku.co.jp/sitgesfanta/
(大阪と名古屋でも開催、詳細は公式サイト参照のこと)
 このイベントでは、映画上映に加えてトークイベントなどもございまして、つきましては私どういうご縁か、その中の一本であるスペイン映画『人狼村 史上最悪の田舎』のトークイベントに出演させていただくことになりました。10月30日(火)、18:30から。
 映画の内容は、スペインの田舎の閉鎖的な村で、青年たちが人狼騒動に巻き込まれるというアクション・ホラー・コメディー。
 個人的な《推し》ポイントは、
(1)主演のボンクラ男三人組
(2)ヨーロッパのホラー映画だけあって、映像や美術のクラシカルなムードが上々
(3)でも、ブラックユーモアやしょーもない下ネタにも事欠かず
(4)ボンクラやオッサンやババァは出てきても、イケメンや若い美女は一人も出てこないという潔さ
(5)どう見ても作り手はオタク系
(6)犬が可愛い!
……ってな感じでしょうか。
 ファンタスティック映画好きなら気楽に楽しめる一本かと。
《予告編》

 よろしければ、他作品の上映&イベント共々、ぜひ足をお運びくださいませ。
◎全ての上映&トークショーのスケジュール一覧→www.shochiku.co.jp/sitgesfanta/lineup.html

お待たせしました『銀の華 <復刻版>』全三巻発売です

 お待たせしました、『銀の華 <復刻版>』全三巻、本日取次に搬入されるので、早いところで今週末から遅くても来週前半には、全国の書店&ネット書店で発売されます。ポット出版直販では既に販売中、ゲイショップにも昨日搬入されたとのこと。
 ポット出版に予約くださった方には、一昨日夜に発送とのことですので、昨日から明日にかけて順次お手元に届くかと思います。

【外函】
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【本体表紙】
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【書誌データ】
『男女郎苦界草紙 銀の華 上 【復刻版】』
田亀源五郎
希望小売価格:2,500円 + 税 (この商品は非再販商品です)
ISBN978-4-7808-0186-6 C0979
A5判 / 292ページ /函入り
発行:ポット出版
『男女郎苦界草紙 銀の華 中 【復刻版】』
田亀源五郎
希望小売価格:2,500円 + 税 (この商品は非再販商品です)
ISBN978-4-7808-0187-3 C0979
A5判 / 308ページ /函入り
発行:ポット出版
『男女郎苦界草紙 銀の華 下 【復刻版】』
田亀源五郎
希望小売価格:2,500円 + 税 (この商品は非再販商品です)
ISBN978-4-7808-0188-0 C0979
A5判 / 308ページ /函入り
発行:ポット出版

*全巻購入者には特典小冊子『「銀の華」単行本未収録図画集』(非売品)をプレゼント!
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【あらすじ(出版社による紹介文)】
 時は明治39年、春。日本橋「月島屋」の主人、月島銀次郎は株でひと財産を築き、浅草、新吉原の遊郭で金にものを言わせて派手に遊んでいた。
 しかし一年後、株の暴落とともに財産を失った銀次郎は借金を帳消しにしてもらう代わりに、「金華楼」という廓の用心棒となることとなる。
 が、銀次郎に与えられた本当の役職とは、「男女郎」だった。銀次郎に科せられる数多の責め苦。やがて銀次郎は身も心も女郎へと堕ちていく──。
 田亀源五郎の原点。男女郎が受ける責め地獄を描いたゲイ・SMコミック傑作長編を復刻!!

【内容サンプル】
 スライドショーを用意しました。こちら

【概要】
 1994年から99年にかけて、ゲイ雑誌「バディ」で連載した、総計900ページ近くに及ぶ長編大河ドラマです。私にとって、専業作家になってから初の連載ということもあり、当時の自分の全身全霊を傾けた、極めて思い入れの深い作品です。
 2001年から02年にかけて、ジープロジェクトから全三巻で単行本化、直販店のみで販売され、完売後は絶版状態となり長らく入手困難だった単行本が、ポット出版から完全復刻。
 全巻購入者には特典小冊子『「銀の華」未収録図画集』を無料進呈。

【特典小冊子の入手法】
◎書店、ネット書店、ゲイショップでお求めの方
 単行本にはそれぞれチラシ(下の画像参照)が1枚ずつ封入されています。応募券(右下方の赤い三角形)3枚をを切り取って葉書に貼り、ポット出版までお申し込みください。送料無料。
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◎ポット出版へ三巻同時に直接ご注文の方
 本と一緒にお送りします。
*特典小冊子プレゼントは、在庫がなくなり次第終了となります。

【旧版と復刻版の異同について】
◎ページ構成
 基本的に、旧版と復刻版は同じように分冊されています。よって仮に「旧版の上中巻は持っているが下巻を買いそびれていたた」という場合、旧版中巻の続きがそのまま復刻版下巻となります。
◎内容の異同
 旧版収録の原稿は《カラー口絵》や《扉絵コレクション》を含めて、基本的に全て復刻版にも収録されています。
 例外的に、旧版のカバーを外した本体表紙に載っていた《アイデアスケッチ》は、復刻版本体には未収録となりますが、全三巻お買い上げの方への特典小冊子『「銀の華」未収録図画集』に、その他のスケッチ等と一緒に収録されています。
◎復刻版で増えるコンテンツ
 復刻版の本体裏表紙には、旧版には未収録のカラーイラストが載っています。上中下巻それぞれ1点ずつの、計3点。1点は雑誌に既発表のもの、もう1点は雑誌に既発表のものに加筆訂正を加えたもの、最後の1点は描きおろしの新作です。
 更に復刻版には、旧版のあとがきに加えて、復刻版用あとがきが追加収録されます。
◎修正方法の変更
 基本的にマンガ本文は、オリジナルが輪郭線のみ&白抜き処理なので、特に修正方法は変わっていません。
 ただし、本編の一部(銀次郎の悪夢のシーンなど)、および扉絵、カラー口絵などは、旧版の黒マジックによる全面ジグザグ処理から、ポット出版から既刊の拙マンガ単行本同様の、図像の一部のみを白棒で隠す処理へと変わっています。
◎全巻購入特典小冊子の中身
 上中下全巻購入いただいた方には、特典小冊子『銀の華/単行本未収録図画集』のプレゼントがあります。
 内容はアイデア・スケッチ、関連イラスト、休載広告などで、特に最初期のアイデア・スケッチは、雑誌でもウェブでも完全に未発表のものです。

“For Greater Glory: The True Story of Cristiada”

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“For Greater Glory: The True Story of Cristiada” (2012) Dean Wright
(米盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com

 2012年のメキシコ映画(ただしセリフは主に英語)。
 1920年代後半、宗教弾圧に端を発した、メキシコのクリステロ戦争を戦った男たちを描いた、歴史アクションスペクタクル。
 主演アンディ・ガルシア、共演オスカー・アイザック、サンティアゴ・カブレラ。ゲスト出演的にピーター・オトゥールも。監督は『ロード・オブ・ザ・リング』等でSFXスーパーバイザーをしてきた人で、これが初監督作作品らしいです。

 1920年代後半、メキシコ革命直後のメキシコ。
 カリェス大統領は新法で教会の閉鎖や外国人神父の追放を定め、宗教弾圧を始める。反対派は街頭書名やストライキなどで同法の撤廃を求めるが、やがて軍隊による神父の処刑や教会信徒の虐殺などが始まる。元々は悪ガキだった少年ホセは、自分を導いてくれたクリストファー神父が、生きるために信念を曲げるよりも、信念を貫き通すことを選び、目の前で処刑されるのを見て、深く感銘を受ける。
 やがて《クリステロ》と呼ばれる民衆の武力蜂起も始まり、聖職者でありながら自ら銃を持って戦うヴェガ神父の一団や、スゴ腕の地方豪族《14人殺しのヴィクトリアーノ》一派などが、それぞれ政府軍に対して戦いを始めるが、それらを取り纏める中枢が欠けていた。
 そこで、都心部のクリステロ支援一派は、往年の名将軍で現在は石鹸工場を経営しているゴロスティエタ将軍をスカウトする。ゴロスティエタ将軍によって纏まったクリステロたちは、いくつかのトラブルを経ながらも、やがて自由のために戦う一つの軍隊として生まれ変わり、政府軍を圧倒していく。
 そんな中、ホセ少年の家族が処刑され、誰もそれを助けられなかったことをきっかけに、彼もクリステロに参加する。息子を持たないゴロスティエタ将軍は、ホセ少年を我が子のように可愛がる。
 一方でカリェス大統領は、これが内戦だとは認めず、あくまでも一部の過激派によるテロだと主張し、石油利権が目当てのアメリカも、立場的にはメキシコ政府側につく。激化していく戦闘の中、ゴロスティエタ将軍は次第に、この戦いは宗教的なものでも政権争いでもなく、自由を求める民衆の戦いなのだという意識を深めていく。
 ところが、とある戦闘中にホセ少年が、身を挺してヴィクトリアーノを助けた結果、そのまま行方不明になってしまい……といった内容。

 スケール感のある娯楽大作としてたっぷり楽しめる出来で、およそ2時間半の尺も、長さを感じさせない面白さ。
 見所も盛り沢山で、いかにも歴史大作系のスペクタクル感もあれば、シーンによってはマカロニ・ウェスタンですかってな感じのガンアクションもあり、更に男泣き系のエピソードやエモーショナルな泣かせにも事欠かず。
 エンドクレジットで明かされるように、この戦争の犠牲者たちは、21世紀になってから列聖されたという事実もあるために、キリスト教色が濃厚な内容ですが、信仰オンリーの一辺倒ではなく、それに対して主要登場人物が疑問を呈したり、前述したように単なる宗教戦争とは捉えていない視点もあるので、非クリスチャンでも馴染みやすい感じ。
 キャラも良く、百戦錬磨の頼れる男ゴロスティエタ将軍(アンディ・ガルシア)の貫禄を筆頭に、神父服に弾帯をたすき掛けしたハンサムなヴェガ神父(サンティアゴ・カブレラ)、マカロニ・ウェスタンのならず者風の《14人殺し》ヴィクトリアーノ(オスカー・アイザック)……などなど、メインの登場人物は皆、文句なしのカッコ良さ。
 その反面、女性キャラは少なく、ゴロスティエタ将軍夫人(エヴァ・ロンゴリア)と、クリステロ支援組織の娘さんと、ホセ少年の母親くらいで、それぞれに見せ場は用意されているものの、基本的には男ばっかの話。
 折り重なる虐殺死体とか、線路脇に延々と立ち並ぶ絞首刑の列とか、ハードなイメージもあちこち出てきますが、そこいらへんはあまりエグくなり過ぎないように配慮してある感じで、ちょっと薄味に感じられる面もありますが、それが娯楽作品的な見やすさになっているというメリットもあり。
 また、ハリウッド映画では避けられがちな、子供が処刑されるシーンとかも、逃げずにしっかり描かれているので、そこいらへんはけっこう見ていて気持ちをかき乱されます。それだけでなく、少年を拷問にかけるシーンなんてのもあったり。

 というわけで、ガツンとくる重みというよりは、ダイナミックな娯楽史劇という味わいで、ちょいと盛り込みすぎの感はありますが、十分以上に面白い映画でした。モチーフに興味があれば見て損はなし、歴史物や戦争物が好きな方なら、たっぷり楽しめるかと。
 個人的にはヒゲのむっさい男ばっかなのも嬉しかったんですが(笑)、そういうの抜きにしても、燃える系の男の子映画好きにはオススメできる一本。

 オマケ。
 個人的にご贔屓のヴェガ神父(サンティアゴ・カブレラ)の写真。
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“Aravaan”

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“Aravaan” (2012) Vasanthabalan
(インド盤DVDで鑑賞)

 2012年制作のインド/タミル映画。
 18世紀の南インドを舞台に、盗賊村や人身御供といったモチーフを、神話的な雰囲気で運命劇的に描いた時代物。

 18世紀の南インド。とある小さな村は盗賊で生計を立てているが、その村の盗賊団には、盗む相手は金持ちだけ、子供のいる家からは盗まない、盗みの際に血を流さない、などのルールがある。
 ある日、とある王妃の首飾りが盗まれ、その村に嫌疑がかかる。しかし村の盗賊団はその件には関与しておらず、盗んだのは一匹狼の別の盗賊だった。その盗賊を見つけ出し首飾りを取り戻せば、褒賞として大量の穀物を与えるとの条件で、村で一番の腕利きの盗賊コンブーディは、犯人を捜しに旅立つ。
 やがてコンブーディは、首飾りを盗んだ一匹狼の盗賊ヴァリプリを捕まえるが、彼の腕前と人柄に惚れ込み、仲間にしようと村に連れ帰る。村人たちは自分たちの濡れ衣の元となったヴァリプリを最初は拒否するが、彼が仲間になるための試練を見事にクリアする。しかしヴァリプリは、自分は天涯孤独の身だと過去を多く語ろうとしないため、村人の中にはまだ彼に疑惑を抱く者もいた。
 ある日コンブーディは、自分が村一番の腕利きだと証明するために、先祖代々難攻不落の砦に盗みに入ることにし、それにヴァリプリや他の仲間も同行する。盗みは上手くいったものの、逃走時にコンブーディが捕まってしまう。仲間たちは、もう彼の命運は尽きたのだと諦めるが、ヴァリプリは救いに戻るべきだと主張し、見事コンブーディを奪還する。しかしその最中、敵将がヴァリプリを《チーナン》と別の名で呼ぶ。
 コンブーディを連れて村に戻り、瀕死の彼を手厚く看護するヴァリプリに、コンブーディの妹は恋をしてしまい、恥を忍んで自分からヴァリプリに結婚して欲しいと頼むが、拒否されてしまう。そして、妹を思いやったコンブーディがヴァリプリを問い詰めると、彼は辛そうな様子で「自分は既に結婚していて妻がいる」と告白する。
 コンブーディはヴァリプリに、では天涯孤独と言ったのは嘘か、それにチーナンというのは誰のことだと詰め寄るが、ヴァリプリはそれに答えようとはせず、それをきっかけに二人の間には溝が生じてしまう。
 そんな中、様々な村から人が集まる祭りがあり、他の村から挑戦を受けたコンブーディは、一人で暴れ牛に立ち向かう。ヴァリプリは助力を申し出るが、コンブーディは拒否、その結果、牛の角で突かれて殺されそうになってしまう。
 見るに見かねたヴァリプリは、コンブーディを助けるために競技場に飛び込み、見事牛を倒すが、その直後、例の砦で彼を《チーナン》と呼んだ男が現れ、仲間と共に彼を取り押さえてしまう。コンブーディがそれに抗議をすると、男は「こいつは人殺しだ!」と答える。
 こうして、今まで謎だったヴァリプリの真の過去が、次第に明かされていくのだが、それは二つのいがみ合う村の間で起きた謎の殺人事件と、その背後の陰謀、そして過酷な人身御供の風習と、悲しい恋の物語だった……という内容。

 前半部分は盗賊村とヴァリプリことチーナンの話、インターミッションを挟んだ後半が、殺人事件と人身御供を巡るチーナンの過去話で、最後にそれらが一体化して、ギリシャ悲劇を思わせるような運命劇的なクライマックスに……という構成。
 地肌が剥き出しの岩山が主体の荒々しい風景の中、腰布一枚の裸の男達が織りなす、血に彩られた因果のドラマが繰り広げられる……という映画の雰囲気自体は、原始的な生命力を感じさせてくれて大いに魅力的。部分部分では、かなり印象に残る場面も多々あります。
 そういう感じで、かなり異色……というか意欲的な内容で、モチーフやテーマも実に興味深いんですが、映画の出来としてはちょっと惜しい結果なのが残念。ストーリー、キャラクター、俳優、美術などは佳良なのに、肝心要の演出がイマイチ。
 ストーリー的にはエモーショナルなエピソードも多いんですが、演出に巧さや溜めが足りないので、イマイチ心に迫ってこない。また映像的にも、魚眼レンズを多用したり変に構図に凝ったりはしているんですが、それがこれといった効果には繋がらず、単に新奇さだけで終わってしまっている。編集もぎこちなさが感じられますし、牛の暴走などのスペクタキュラーな見せ場が、チープなCGやイマイチのデジタル合成で白けてしまうのもマイナス要素。
 ストーリーの後半、当時、神殿などの建築時に人柱を立てる習慣が珍しくなかったこの地方の村では、(ネタバレを含むので白文字で)殺人事件の仲裁として、殺された男の仇敵の村から同じ年頃の男を一人、人身御供にすることで痛み分けにするという方法がとられることになるんですが、主人公は籤でそれに選ばれてしまい、30日後に首を刎ねられる運命となります。
 主人公を愛していた村娘は、父親の反対を押しきって、30日後には寡婦になることを承知の上で彼と結婚する。しかし彼は、事件の真相が判らぬまま自分が生け贄にされるのに納得がいかず、残された30日間で真犯人を捜そうとするのだが……
といった緊迫した状況にも関わらず、その合間にコメディリリーフやミュージカル場面が入るのも、インド映画のお約束が完全に裏目に出てしまった感じ。
 これでもし監督に力量があれば、例えばタミル映画の監督で言えばマニ・ラトナムとかバラとか、そういった監督が撮っていれば、かなりの傑作に化けた可能性もあるだろうに……うーん、何とも惜しい。雰囲気的にはパゾリーニの古代モノみたいな感じもあって、かなりいい感じなんだがなぁ……。
 ヴァリプリ/チーナン役の男優さんは、多分初めて見る人だと思うんですが、整った顔立ち(ちょっと華には欠ける感がありますが)のフィットネス系マッチョさんで、身体の線なんか実に綺麗。コンブーディ役の男優さんは、何本か見たことがある人ですが、“Majaa”で演ったヴィクラムの弟分が印象的だった人。目力と豊かな表情が印象的で、ガチムチ系で美味しそう(笑)な身体共々、陽性の生命力を感じさせてハマり役。
 あと、過去編に出てくるマハラジャの役が、何とお懐かしや『アシャンティ』や『007/オクトパシー』のカビール・ベディだったんですが、いやもうすっかりオジイチャンになっちゃって、言われなきゃぜんぜん判らなかった……。

 全体としては、モチーフ的に好みの内容だけに尚更「惜しいな〜」という感が強いんですが、こういう題材ならではの映像的お楽しみどころは色々あるので、興味を惹かれた方なら一見の価値はありかも。
 多くを期待し過ぎずにご覧あれ。
 予告編。

 主人公が人身御供に決まった後の土俗的/神話的なミュージカル場面。途中からいきなり娼館での歌舞場面に繋がっちゃうのがビックリなんですが、そこいら辺の感覚がやっぱイマイチ雑なんだよなぁ……。

 盗賊村のお祝い騒ぎのミュージカル場面。前半部はこういった陽性の大らかさが魅力で、それと後半のシリアス運命劇とのコントラストは見所の一つ。

“Force”

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“Force” (2011) Nishikant Kamat
(インド盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2011年制作のインド/ヒンディ映画。警察と麻薬カルテルの闘いにロマンスを絡めて描いた、ジョン・エイブラハム主演のアクション映画。
 もともといい身体をしていたジョンだが、更にバルクアップしていてえっらいマッチョになっててビックリの一本。

 主人公ヤシュは警察の麻薬対策班。3人の仲間と共に潜入捜査をして、麻薬組織に大打撃を与える。
 捜査の最中にヤシュは偶然、同じ若い娘と何度かでくわす。マヤというその娘は、最初は見るからにギャング然としたヤシュを敬遠するのだが、彼が実は警察官だと知って心が動き始める。ヤシュは最初からマヤに惹かれているのだが、これまで友人以外には特に愛する人間もいなかった彼は、その気持ちを押し隠す。しかし次第に快活で積極的なマヤに押されていき、ついに彼女の方から愛の告白をされるに至り、自分の気持ちに正直になり彼女との結婚を決める。
 そんな中、壊滅的な打撃を受けた麻薬組織のボスの、若い弟で今まで海外にいたヴィシュヌが帰国し、組織は海外の麻薬カルテルとも組んで、これまで以上に活発に動き始める。
 次々と発生する新たな麻薬事件に、ヤシュたちのチームも情報屋を使って反撃を始める。そしてついに、組織のボス自ら赴いた取引現場を押さえることに成功するのだが、その際にボスを逮捕するのではなく、正当防衛で射殺したことで人権査問委員会にかけられ、ヤシュたちのチームは全員停職処分にされてしまう。
 そんな折り、ヴィシュヌは殺された兄の復讐を誓い、まず裏切り者の情報屋を一家諸共惨殺し、同様にチーム全員とその家族の殺害と、ヤシュに予告する。そして予告通り仲間の一人が、停職中で無防備だったところを、一緒にいた恋人と共に殺されてしまい……といった内容。

 まあこれは何というか、主演のジョン・エイブラハム(の筋肉)を愛でるだけの映画です(笑)。
 話としては良くありがちなB級クライム・アクションといった感じで、それ自体は別に悪くはないんですけど、正直エピソードの組み方など、お世辞にも上手いとは言えない作劇。正義とは何だとか、法の限界とか、愛とか、男たちの絆とか、あれこれ盛りだくさんではあるんですけど、あまり上手く捌き切れていないので、話としてはどうにも取っ散らかった印象に。
 だったらいっそ、クリシェ通りの痛快アクションにしてくれればいいんですが、後半のハードな展開とかウェットな要素とかが邪魔になって、全体の爽快感はイマイチ。ラストも「う〜ん、こんな形で伏線を回収されても……」と後味が悪い。
 個々のアクションとかの見せ場はそこそこ面白いし、シャープでスタイリッシュな映像のテイスト自体も悪くないんですが、演出として見せるまでには至らず。
 ただ「うぉ〜、ジョン・エイブラハムかっけぇ!」というポイントだけに絞って見る分にはオッケー。前述したように以前と比べてえっらいバルクアップしていて、“Dostana”の頃と比べるとビックリするくらいに筋肉モリモリになっています。 ^^
 そんなジョンが、ギャング風のいでたちで殴り合ったり、重そうなバイクを持ち上げて相手に投げつけたり(笑)、はたまたオシャレな装いでヒロインとロマンチックに絡んだり、銃弾打ち込まれて崖から突き落とされたり、悪漢と取っ組み合ったり……と、ジョンを愛でるという点では見所はいっぱい。
 でもって、悪役のヴィジュット・ジャムワル(?)という人も、これまたなかなかのハンサム&マッチョガイ。
 そしてクライマックスではこの二人が、戦っている間にまずジョンの服がキレイに破けて(笑)上半身裸になり、続けて悪役の服も同様に破けて最後は裸に……ってな楽しい展開に(笑)。笑っちゃったけど、でも正しい演出(笑)。

 というわけで、残念ながら映画の出来そのものはイマイチですが、こんなジョンと、
force_john
こんな悪役が、
force_villan
こんな風に対決する映画なので、
force_battle
個人的にはそこだけでも充分オッケーでした(笑)。
 ジョンのファンやインディアン・マッチョが見たい方なら、お楽しみどころありです。
 ”Force”予告編。

 インド映画ですが制作にはFOXが入ってます。
 制作サイドが推す見所もやはりジョンの肉体美らしく、プロモ映像もこんな感じ。

ちょっと宣伝、『エンドレス・ゲーム』第9話掲載です

endlessgame09
 10月20日発売の「バディ」12月号に、連載マンガ『エンドレス・ゲーム』第9話掲載です。
 先月お約束した通り、今回は無事に通常仕様の16ページ。
 開始時点でアバウトに6回〜10回、キャラが良く動くようだったら長めになるかも……と予測していたこの連載も、だいたいの予定通りにそろそろ終盤となります。よってこの第9話も、ちょいとチェンジ・オブ・ペース要素が。

 今のところ私からは、残り2話で終わらせたいという希望は出しているんですが、まだ返事をいただけず。プラン通りに運べば、再来月が最終話となると思います。
 最後までよろしくお付き合いくださいませ!

Badi (バディ) 2012年 12月号 [雑誌] Badi (バディ) 2012年 12月号 [雑誌]
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2012-10-20