投稿者「Gengoroh Tagame」のアーカイブ

“The Lost Future (ロスト・フューチャー)”

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“The Lost Future” (2010) Mikael Salomon
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2010年製作の南ア/独/米テレビ映画。人類の文明が崩壊し穴居人に退行している未来世界で、若者たちの冒険を描くSci-fiアクション・アドベンチャー。
 重要なサブキャラでショーン・ビーン出演。

 毛皮を着て骨の武器を手に狩りをする人々の村に、感染するとモンスター化してしまう疫病が襲いかかる。村人たちは対処法を相談するが、既に人類は絶滅の危機に瀕していて他に逃げ場もなかった。
 やがて村は、モンスターの集団に襲われる。村長の息子で勇敢だが思慮の欠ける青年と、その恋人の美しい娘、そして行方不明の父親を持つ親の代から変人扱いされている青年の三人が、辛うじて襲撃から逃れ、残りの村人たちは洞窟内に立てこもる。
 逃れた三人は森の中で、双眼鏡を持った不思議な中年男に出会う。その中年男は疫病に侵されない体質で、それは《黄色い粉》の効き目だという。
 3人は彼の導きで《黄色い粉》を手に入れるために旅立つのだが、そうしている間にも洞窟に立てこもった村人たちと、そして彼ら自身の身体も、徐々に疫病に蝕まれていき……といった内容。

 なんかすっごく懐かしい感じのSFでした。
 ホント「……バローズ?」(もちろんウィリアムじゃなくてエドガー・ライスの方ね)って感じで、個人的にこ〜ゆ〜のは大好物。あと私は原始人萌え属性があるので、そこいらへんのツボにもヒット。
 映像的にも、そこそこ佳良。
 最初の森の中のシーンとかは、少し安っちいかなと思ったんですが、それ以降は絵面の安さで白けるということもなく、廃墟となった森の中の教会とか、後に出てくる廃墟となって林立する高層ビル街とか、なかなか頑張っていて、雰囲気もあっていい感じ。
 演出も手練れた感じで、ちょうどいい塩梅にあれこれイベントを挟みながらテンポ良く進んでいき、ダレたり白けたりさせずにコンパクトに纏めている職人芸系。ちょっとしたディテールを使って、成長ドラマとか嫉妬めいた反発などを描き、程よく膨らませているキャラ描写も佳良。
 ストーリー自体は、まあ実にクラシックな感じで特に新味はないんですが、手堅い演出やクリシェを活かしたキャラの立て方なんかのおかげで、そんなお約束展開のアレコレもまた楽し。
 あと、ショーン・ビーンの歯がすっげぇ汚いんですが(笑)、そういった具合に、ディテールへの気配りもちゃんとあるあたりも、きちんと作品を作ろうという姿勢を感じました。

 まぁ、《黄色い粉》のリアリティとかは、ちょっとアレな気もするんですが(笑)、細かいことを気にしなければ、クラシックな異世界冒険SFが好きな人なら、まずは手堅く楽しめる出来かと。別に飛び抜けて良いとか、特筆すべきものがあるわけではないんですけど、個人的には大好きです、こーゆーの。
 そのうち日本でも、DVDスルーで出そうな予感。

【追記】日本盤DVDめでたく発売。

ロスト・フューチャー [DVD] ロスト・フューチャー [DVD]
価格:¥ 5,040(税込)
発売日:2013-01-09

『プリンセス・オブ・ペルシャ エステル記』

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『プリンセス・オブ・ペルシャ エステル記』(2006)マイケル・O・サイベル
“One Night with the King” (2006) Michael O. Sajbel
(日本盤DVDで鑑賞→amazon.co.jp

 2006年製作のアメリカ映画。タイトル通り旧約聖書のエステル記を題材に、そこにアレンジを加えて《ヒストリカル・ロマンス+宮中陰謀劇》に仕上げた、なかなか楽しめる娯楽エピック史劇。
 主人公のエステル役にティファニー・デュポン、お相手のクセルクセス1世役はルーク・ゴス。共演にジョン・リス=デイヴィス、ジョン・ノーブル、他にもオマー・シャリフや、ほとんどカメオみたいな感じですけどピーター・オトゥールまで出てきます。

 紀元前5世紀頃、ペルシャ王アハシュエロス(クセルクセス1世)は臣下の企みにより王妃を追放してしまう。そして領内から美しい娘を集め、その中から新しい妃を選ぶことになるが、その中にバビロン捕囚の後も同国内に留まっていたユダヤ人の娘ハダサがいた。
 叔父のアドバイスにより、名前をバビロニア風のエステルと改めたハダサは、アハシュエロス王と出会い互いに恋に落ちる。やがてエステルは晴れて王妃に選ばれるが、宮廷内では密かに王の地位を狙う重臣や、ユダヤ人に恨みを持ち根絶しようと企む者たちによる陰謀が渦巻いていた。
 また最初は愛し合い信頼し合っていた王とエステルも、ふとした行き違いからその仲が冷えてしまう。そんな中、ついにユダヤ人のジェノサイド計画が動き始め、エステルは自分の生死を賭けた重大な選択を迫られるのだが……といった内容。

 こういったDVDスルーの聖書モノ映画って、原典や教えに忠実であらんとするが故に、単なる絵解きでしかなかったり、テンポがチンタラしていて信者以外は門前払いみたいなものが少なくないんですが、これは色々アレンジを加えてドラマチックに仕上げてあり、けっこうハラハラドキドキ楽しめました。
 映像的には主にインド(ジョードプル)でロケをしていて、まあ「古代ペルシャ帝国なのに、なんか……ムガール調?」みたいな感じはあるんですが(笑)、実在する宮殿等を使った存在感やスケール感が、全体的にはプラスに働いている印象。反面、それ以外の拡がりを出すCGとかは、ちょっとショボいですが。
 ひょっとして衣装や美術に、ボリウッド映画のスタッフが入っているのか、そういったあたりにインド映画みたいなゴージャスさがあるのも佳良。物語のベースの一つにロマンス劇があるんですが、これまたインド映画的なオーセンティック&ロマンティックな雰囲気があって佳良。
 スペクタクル性としては、特に合戦シーンとかがあるわけではないですが、前述したようなゴージャス感やロマンティック感によって、《ハレ》系のスペクタクル味があるのも、個人的には嬉しいところ。こういった感覚って、わりと昨今のハリウッド系では見られないものなので。
 ストーリーとしては、陰謀渦巻くハラハラ系とヒロインの心情の寄り添うロマンティック系の並行進行。
 勢力分布が複雑だったり説明不足もあったりして、ちょっと判りにくい部分もあるんですが、各々のエピソードを上手くエモーショナルに見せてくれるので、見ていてけっこう盛り上がります。キャラが良く立っているのも佳良。

 まぁ、あんまり期待しすぎるとアレだとは思いますが、聖書史劇系の退屈さとは無縁ですし、あちこち楽しい見所もあるので、史劇好きやヒストリカル・ロマンス好きなら、充分楽しめるのではないかと。
 特に、ヒストリカル・ロマンス好きにはオススメしたい一本。
 予告編。

 挿入歌を使ったクリップ(MAD動画?)。映画の雰囲気は、こっちの方が掴みやすいかも(ただしロマンス劇としてはネタバレありなので注意)。

 ……ね? そこはかとなくインド映画っぽくない?(笑)

新単行本『筋肉奇譚』9月12日発売です

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 アマゾンにデータが出たので告知します。
 新単行本『筋肉奇譚』が、9月12日に発売になります。 オークスコミックスから予価1,200円で、成年コミック指定となります。
 内容は主に「肉体派」掲載の単行本未収録作品で、『鬼祓え』や『MISSING 〜ミッシング〜』、そして異色作『クレタの牝牛』や問題作(笑)『おでんぐつぐつ』など、2009〜2012年にかけて描いた短編、全8作を収録。
 この単行本の出版にあたっては、ちょっと紆余曲折があったんですが、最終的には従来のアクアコミックスではなく、成年コミック指定で出していただけることになり、結果、修正も大きなモザイクではなく、以前の「肉体派」と同様のレベルになる予定です。
 版形も『ウィルトゥース』や『髭と肉体』よりは一回り大きい、A5版(「肉体派」や『田舎医者/ポチ』などと同じサイズ)になります。ただその分、価格が少し高くなり、また部数も少ないので、店頭で見つけにくくなるかも知れません。
 というわけで、発売まで一ヶ月ちょいありますが、どうぞお楽しみに!

筋肉奇譚 (OKS COMIX) 筋肉奇譚 (OKS COMIX)
価格:¥ 1,200(税込)
発売日:2012-09-12

男性下着ブランドAndrew Christianのデザイナー氏から下着をいただきました

andrewchristian
 Andrew Christianというアメリカのセクシー男性下着ブランドがありまして、そこの商品PVがいつも凝っていて、しかもゲイビですかってなくらいにセクシーなので、気に入ったのがあるとちょくちょくツイッターでツイートしていたんですが、その話が同ブランドでデザイナーをしていらっしゃるGodaさんに、お友達経由で伝わり、御礼としてバディ編集部経由で、同社の下着をいくつも贈っていただきました!
 いやぁ、ツイッターでこういうことが起きたのは初めてで、とてもビックリ&嬉しく、まずこの場を借りて御礼を申し上げます。
 ググってみると、Andrew Christianの下着は、日本でもあちこち扱っているショップがあるようなので、セクシー下着好きの皆様、ぜひお買い求めくださいませ。
 普段使いのプレーンなものでも、クロッチ部分が立体縫製になっていて、股間のモッコリがとてもとても強調されたり、或いはグッと扇情的に、バックが丸出しになっていたり、ジョックストラップ(いわゆるケツ割れ)にちょっとオシャレな工夫があったり……と、勝負下着 or プレイ用としても、実にヨロシイかと。

 というわけで自慢かたがた、いただいた下着をご紹介。
 まず、お尻が丸出しになるやつ。
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 商品名が”Almost Naked (ほとんど裸)”というので、袋から出してバックを見たときに「……なるほど」とか思ったんですが、実際は、生地の肌触りがとても良く、ほとんど履いてないみたいな感じということらしいです。ケツ割れと比べるとストラップの食い込みがないとか、臀球のホールドがしっかりしていて心地よいとかいった感想も。

 そして、ブリーフ系と、ローライズ・ボクサーブリーフと、おしゃれケツ割れ。
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 フロント部分を見ると判るように、どれもクロッチ部分が立体縫製になっていて、じっさいに履いてみると、ホント嫌ってほど股間が目立ちます。
 ……なんて言うと「履いた写真をアップしろ!」とか言われるんですが、そんなことをしたら逆に営業妨害になりそうなので(笑)、ここは前述したセクシーPVの数々の中から幾つか貼りますので、それでご確認くださいませ。

LICK by Andrew Christian from Andrew Christian on Vimeo.

A “Brief” Love Affair by Andrew Christian from Andrew Christian on Vimeo.

Andrew Christian Booty Camp from Andrew Christian on Vimeo.

Pink Paradise Pool Party by Andrew Christian: REMIX from Andrew Christian on Vimeo.

 検索したら、アマゾンでも幾つかヒットしました。あんまり過激なのはなかったけど(笑)。

(アンドリュークリスチャン) ANDREW CHRISTIAN アンドリュークリスチャン オールモスト ネイキッド ヒップ ボクサーパンツ ALMOST NAKED HIP BOXER [並行輸入品] (アンドリュークリスチャン) ANDREW CHRISTIAN アンドリュークリスチャン オールモスト ネイキッド ヒップ ボクサーパンツ ALMOST NAKED HIP BOXER [並行輸入品]
価格:(税込)
発売日:
(アンドリュークリスチャン) ANDREW CHRISTIAN アンドリュークリスチャン ショック ジョック ブリーフパンツ SHOCK JOCK BRIEF [並行輸入品] (アンドリュークリスチャン) ANDREW CHRISTIAN アンドリュークリスチャン ショック ジョック ブリーフパンツ SHOCK JOCK BRIEF [並行輸入品]
価格:(税込)
発売日:

“Hamam (Steam: The Turkish Bath)”

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“Hamam” (1997) Ferzan Ozpetek
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 1997年製作のイタリア/トルコ/スペイン映画。イタリアで活動するオープンリー・ゲイのトルコ人監督フェルザン・オズペテク(『向かいの窓』『あしたのパスタはアルデンテ』)の処女長編。英題”Steam: The Turkish Bath”。

 トルコのイスタンブールを訪れたイタリア人男性が、次第にその地に魅せられていき、そこに同性愛の要素も絡めて描いた内容。
 ローマ在住のフランチェスコは、今まで会ったこともない伯母が亡くなり、その遺産整理のために一人、伯母が長年暮らしていたイスタンブールへと赴く。
 そこで彼は、伯母がハマム(蒸し風呂、トルコの伝統的な公衆浴場)を買い取っていたことを知り、叔母と一緒に働いていたトルコ人一家に暖かく迎えられる。ハマムは既に長年使われておらず廃墟のようになっており、フランチェスコも始めはそれをさっさと処分してローマへ帰ろうと思っていたのだが、自分を家族のように歓待してくれる件の一家や、イスタンブールの空気、伯母が残した手紙などから、次第にその地に惹かれていく。
 やがてフランチェスコは、ハマムを買いたがっている人間が、その旧市街一帯を取り壊して、近代的な都市開発をしようとしていることを知り、売るのをやめて改修することにする。こうしてイスタンブール滞在が長引くにつれ、彼は件の一家の中でも、特にハンサムな息子メフメットと親交を深めていく。
 そんな中、フランチェスコの妻マルタが、ローマからイスタンブールにやってくる。彼女もまた、件のトルコ人一家に歓迎されるが、実はフランチェスコとの夫婦仲は既に冷え切っており、彼女は彼に離婚を切り出すつもりだった。
 しかしマルタは、この地での夫の変わり様に戸惑う。ローマにいた頃とは見違えるように生き生きとして、トルコの地にも溶け込んでいるような夫を見て、彼女は一人取り残されたような気持ちを味わう。
 そんなある晩、マルタがふと目覚めると、自分の隣で寝ていたはずの夫の姿がない。そして彼女は、改装を終えた夜のハマムで、裸になった夫とメフメットが、互いに愛撫しあっている姿を見てしまい……という話。

 ヨーロッパ文化におけるオリエンタリズム的な興味をキャッチとして使いつつ、イスタンブールという街とハマムという場所を寓意的に重ね合わせて、個々の人間の人生というドラマに落とし込んでいく構成は、なかなかお見事。
 前半をフランチェスコの、後半をマルタの視線で描くという切り替えも上手い。
 映像表現や人間描写の繊細さという点では、同監督が後年に撮った『向かいの窓』(2003)や『あしたのパスタはアルデンテ』(2010)などと比較すると、まだちょっと荒い感は否めません。特に心理面での掘り下げは、もうちょっと欲しかったところ。
 ストーリーもちょっと作りすぎの感があり、特にクライマックスが、何というかキャラクターにとって都合が良すぎるという気も正直。まぁ、表現自体が丁寧で繊細なので、鼻白むまではいかないんですが、でもちょっとギリギリかなぁ……というのが、個人的な印象。
 ただ、これがデビュー長編ということを踏まえれば、やはり充分に佳良です。
 映像もおそらく美しいっぽいんですが、DVDのマスターがあまり良い状態ではなく、あまり酔えなかったのが残念。
 伝統音楽にエレクトロニクスを絡めた、ちょっとエスノ・トランス〜アンビエント系の音楽(Trancendental)もなかなか魅力的で、サントラ盤を買いました。
 作家性という面では、主人公より前の世代の逸話や、異邦人、同性愛といった要素が、ストーリーに有機的に絡んでくるのが、前述した2作とも共通していて興味深いところ。監督の背景を考えると、パーソナルな要素が色濃く出ている感があります。

 そんな感じで、モチーフ的に興味のある方ならば、充分以上に見る価値のある佳品かと。

Steam (Hamam: The Turkish Bath) - Original Motion Picture Soundtrack Steam (Hamam: The Turkish Bath) – Original Motion Picture Soundtrack
価格:¥ 1,408(税込)
発売日:1999-01-19
向かいの窓 [DVD] 向かいの窓 [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2007-10-13
あしたのパスタはアルデンテ [DVD] あしたのパスタはアルデンテ [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2012-03-02

“The Secret of Kells (ブレンダンとケルズの秘密)”

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“The Secret of Kells” (2009) Tomm Moore, Nora Twomey
(米盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com)

 2009年製作のフランス/ベルギー/アイルランド合作長編アニメーション。
 ヴァイキングの略奪に晒されるアイルランドを舞台に、装飾写本『ケルズの書』の成立を絡めて、少年の冒険を描いたもの。
 大阪ヨーロッパ映画祭、他で『ブレンダンとケルズの秘密』の邦題で上映あり。

 主人公ブレンダンは、ヴァイキングの侵攻に備えて防壁を建設しているケルズに住む少年。
 そこに侵攻を受けて滅ぼされたアイオナ島から、一人の彩飾者が未完成の装飾写本を携えて逃げてくる。ブレンダンは装飾写本に魅せられるが、少年の保護者でケルズの長は写本の価値を認めず、防壁こそ重要だと説く。
 しかしブレンダンは保護者に背き、件の彩飾者のために顔料になる木の実を探そうと、初めて城壁から出て森に入り、そこで少女の姿をした妖精アイスリングに出会う。少年は彼女の助けで無事に木の実を手に入れることができるが、同時に森の奥に潜む邪悪な者の存在も知る。
 ブレンダンはアイオナの彩飾者と共に装飾写本の作成に取りかかるが、長はそれを許そうとはしない。また写本作成に必要なクリスタルも喪われたままで、それを手に入れるには危険を冒す必要があった。
 更にヴァイキングの軍勢も、刻々とケルズに迫りつつあり……といった内容。

 まあ、とにかく目の御馳走。
 華麗な色彩、装飾的な造型、大胆にフラットな画面構成は、アニメーションという「動く絵」の醍醐味をタップリ味わえます。もう、それ見ているだけでも満足できちゃうくらい、画面そのものが美しい。
 大胆なデフォルメによるキャラクター造型も魅力的。
 ストーリーは、魅力的で面白い要素も多々ありますが、いささか史実とファンタジーの板挟みになって、大胆に飛躍しきれていないきらいがあり。また、けっこうタイムスパンが長いストーリーの割りには、尺が75分しかないので、どうしてもディテール不足の感は否めず。
 特にストーリーのフォーカスが、写本の完成、ヴァイキングの侵攻、クリスタルの探求……と、あちこち散ってしまっているのが残念。ここはもうちょっと、ポイントを絞り込んで見せた方が良かったのでは。
 ただ、主人公の少年と妖精の少女が交流するあたりのキャラクタードラマは、何とも生き生きしていて実に魅力的。

 そういう感じで、あちこち惜しい感もなきにしもあらずではありますが、映像の美しさだけでも、それを補って充分に余りあるほど。《動く絵の美しさ》を、これだけタップリ味わわせてくれるなら、それ意外にアレコレないものねだりをするのは贅沢かも。
 そのくらい映像はパーフェクトに美しく、また、トラッドベースの音楽も素晴らしい。
 眼福でした。

[amazonjs asin=”B0036TGSWG” locale=”JP” title=”SECRET OF KELLS”]

“A Year Without Love (Un año sin amor)”

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“A Year Without Love” (2005) Anahi Berneri
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2005年製作のアルゼンチン製ゲイ映画。原題”Un año sin amor”。
 実在するHIV+の若い作家/詩人、パブロ・ペレスによる日記形態の小節を基にした内容だそうで、同年のベルリン国際映画祭テディ賞受賞作。
 HIV+である主人公のライターが、死への恐怖に怯えながら、愛を探しセックスを求め、ブエノスアイレスのゲイシーンを彷徨し、レザーSMの世界に踏み込んでいくのだが、やがてそのことを通じて、自分自身のHIVという病とも向き合っていく……という内容を、彼の日記を通じて私小説的に描いたもの。

 まず、原作小説の作者本人が脚本に関わっているだけあって、レザーやサドマゾヒズムに対する視線が、露悪的であったり扇情的であったりしないのが、私的にはマル。
 ただし、それらをメタファー的に使っているために、BDSMがまるでイニシエーションのような、一過性の趣味的なものに見えてしまったのは、個人的にはペケ。とはいえそれは、単に私のフィロソフィーとは合致しないというだけのことで、そういう捉え方があっても別に良いと思いますが。
 人間の肉体、医療行為や薬品、セックスやSMの描写などで、一貫して極端なクローズアップを多用し、フェティシズム的な視線を感じさせる演出は面白かった。16ミリのようなザラついた映像も、90年代の未だアングラめいたブエノスアイレスのゲイシーンという状況に、リアリティを与えていて効果的。
 欲を言えば主演男優が、演技自体は素晴らしいんだけど、ルックスがエイドリアン・ブロディ似であまり私のタイプではなく、逆にメイキングで見られる作家本人(レザーパーティーの一員として出演もしていた模様)の方が、私的にはこの役者さんよりよっぽどイケていたのが残念(笑)。
 個人的な好みから言うと、こういったドラマ的な造りや映像的なハッタリを排除した作風は、正直さほどピンとこないんですが、描かれるパーソナル・ヒストリー自体の興味深さと、淡々としつつもリアリティのある作風で、わりと面白く見られた感じです。

 90年代のアルゼンチンのゲイ・シーン、レザーSM、HIV、実話ベース……と、モチーフ自体に興味深い要素が多いので、それらに惹かれる方なら見てもいいかも。
 ”A Year Without Love (Un año sin amor)”、予告編。

 予告編だけだと、どんな雰囲気の映画かさっぱり判らないと思うので、いちおう映画のワンシーンのクリップも貼っておきます。

ちょっと宣伝、エッセイマンガ描きました

karen
 今月30日に発売のBL雑誌「花恋 カレン」9月号に、エッセイマンガを4ページ描かせていただきました。
『リレーエッセイ お気に入り☆萌えブーム』というシリーズで、様々なマンガ家さんたちが知り合い繋がりでリレーしていくというマンガエッセイ。で、鬼嶋兵伍先生(前々号)→松崎司先生(前号)→私(今号)……という順番で廻ってきまして、次回は……って、これは実際に読んでいただく方のお楽しみのために、ここでは伏せておいた方がいいかしらん(笑)。
 自分の萌えツボについてエッセイを描くというご依頼だったので、ヒゲや体毛についてガッツリと語らせていただきました。

 さてこの「花恋」、BLマンガ誌ということで、もう表紙からして超乙女、内容もキラキラのBLマンガのオンパレードで、私の場違い感の甚だしいこと甚だしいこと(笑)。
 まぁBL誌関係とのご縁は、決して今回が初めてというわけではなく、旧くは別名義による「小説June」や、実質「さぶ」の女性向け再録誌であった「ロマンJune」から始まり、6、7年くらい前にも「麗人ドラマチック」「コミックJune」「小説ピアス(……だったかな?)」なんかに、マンガやらエッセイやら挿絵やらを、描かせていただいたことはあるんですが、場違い感は今回がダントツかも(笑)。
 というわけで、「花恋」編集部のご英断に大感謝。
 これに限らず、私の絵でも良ければ(笑)、BL誌さんからのお仕事も大歓迎であります。

 そんなこんなで、女性読者さんならともかく、男性ファンはちょっとレジに持って行きづらい雑誌かとは思いますが(笑)、宜しかったらぜひお読みくださいませ。

花恋 (カレン) 2012年 09月号 [雑誌] 花恋 (カレン) 2012年 09月号 [雑誌]
価格:¥ 780(税込)
発売日:2012-07-30

最近お気に入りのCD

インス:コンスタンティノープルの陥落 カムラン・インス『トルコの民族楽器と声楽のための協奏曲/交響曲第二番「コンスタンチノープルの陥落」/ピアノ協奏曲/赤外線のみ』
価格:¥ 1,250(税込)
発売日:2011-09-14

 1960年生まれのトルコ系アメリカ人作曲家。幼少期からアメリカとトルコを行き来しながら音楽を学び、長じた後も両国で音楽の教鞭をとるといった経歴の持ち主らしいです。
 しょっぱなの『トルコの民族楽器と声楽のための協奏曲』から、いきなり耳を奪われました。ドンドンと打ち鳴らされる太鼓(キョスやダウルも入っているのかな?)から始まり、そこをつんざくように高らかに絡むズルナ(管楽器)、そして吹き鳴らされる金管、木管、そこに重厚な弦のうねりが絡み……と、まるでメフテル(オスマン時代に端を発するトルコの軍楽)と伊福部昭が合体したかのようなカッコ良さ。
 作曲者本人のサイトで一部試聴ができますので、興味のある方は是非お試しあれ。こちら
『交響曲第二番「コンスタンチノープルの陥落」』も、民族楽器こそ使われていないものの、全体的の感触は似た感じで、やはりズシンと打ち鳴らされる打楽器と、つんざくような管の叫びが印象的。重々しくトラジックで、何ともハッタリの効いたドラマチックな曲調から、哀切で美しいメロウな楽章もあり、かなり視覚的な感じで楽しめます。
『赤外線のみ』は、かなりミニマル音楽寄りの作風ですが、それでもハッタリの効き具合は変わらず。今にも怪獣でも出てきそうな感じでガンガン攻めてくるので、聴いていて実に楽しい(笑)。

マルコプーロス:オルフェウスの典礼 ヤニス・マルコプーロス『オラトリオ「オルフェウスの典礼」〜古代オルフェウス教の詩に基づく』
価格:¥ 1,250(税込)
発売日:2009-03-25

 1939年生まれのギリシャ人作曲家による、1994年度作品。
 古代を思わせる平明でちょっと異教的なリリシズムと、頌歌のような荘厳さが合体した、不思議な清々しさのある大曲。
 ハープやフルートによるエキゾチックでシンプルなメロディや、儀式的なムードを醸し出す鳴り物をバックに、古代ギリシャの神々を讃える語り(この部分は英語)をブリッジにして、バリトン・ソロやソプラノ・ソロやクワイアによる神々への頌歌が、美麗なオーケストラをバックに、ギリシャ語で壮大に歌われるという構成。
 この頌歌部分が、何というかもう「真っ直ぐ!」という感じで、この魅力は何というんだろう……素朴とか牧歌的というのとも、ちょっと違うし……とにかく、ひたすら対象を讃えることで高みに昇っていくような、崇高ではあるんだけれど同時に軽やかでもあるというか……やはり牧歌的というのが近いのかなぁ……。
 とにかく、ロンゴスの『ダフニスとクロエー』を読んだときみたいな、何とも大らかで清々しい魅力があって、すっかり気に入ってしまいました。
 試聴はこちらで可能。

Voice of Komitas コミタス・ヴァルダペット『ザ・ヴォイス・オブ・コミタス・ヴァルダペット』
価格:¥ 1,657(税込)
発売日:1995-08-15

 アルメニア正教の聖職者にして音楽家であったコミタス(1869〜1935)が作曲した聖歌と、彼が収集・編曲したアルメニア民謡を、コミタス本人と(おそらく)弟子であるアルメナク・シャームラディアン(?)が歌っている、1912年の録音盤。
 最近ちょっと、このアルメニアン・クラシック音楽の父と言われている(……だそうです)、コミタスの音楽に凝っていまして、アレコレ色々と聴いているんですが、確かに室内楽曲なんかはクラシック的な雰囲気が濃厚なんですけど、ピアノ曲や歌曲なんかは全体的にとてもシンプルで、旋律のエキゾチックさや、ちょっと神秘的な雰囲気なんかもあったりして、グルジェフの音楽に通じるものがあるような気がしています。
 そんな中でもこの録音は、クラシック声楽家がコンサート・ピース風に歌い上げたり、後代の作曲家達が技巧的に編曲したものとはひと味違う、何というか生(き)の味わいがあるという感じで、個人的には最も魅力を感じた一枚。
 もちろん音質は決して良くはありませんが、それでもノイズリダクションは施されているし、何と言っても無伴奏で滔々と歌うコミタス本人の歌は、一種の崇高さを感じさせる美しさがありますし、シンプルなピアノ伴奏で朗々と歌い上げられるシャームラディアンの歌も、地声に近い力強さや素朴さなどもあって、クラシック声楽家の歌うそれとは、またひと味違う美しさ。
 試聴はここここでどうぞ。

“Kahaani”(『女神は二度微笑む』)

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“Kahaani” (2012) Sujoy Ghosh
(インド盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com
 2012年制作のインド/ヒンディ映画。
 インドで消息を断った夫を捜しに、独りロンドンからやってきた身重の若妻が、謎の事件に巻き込まれていくという、歌舞シーンなしのミステリー・スリラー。
 本国ではスロースタートながら高評価に押され、最終的にはスーパーヒット作になったそうな。

 身重の若妻バグチー夫人は、夫が仕事でコルカタ(カルカッタ)に赴任した後、消息を断ち行方も判らなくなってしまったのを探しに、独りロンドンからコルカタにやってくる。
 彼女は真っ直ぐに警察署に向かうが、夫の情報はなにもない。しかし若い警官ラーナは、彼女を案じ捜査を手伝うようになる。
 奇妙なことに、夫が滞在していた宿はホテルではなく安宿で、しかも記録は何も残っていない。更に赴任先であるはずの会社でも同様だった。しかしその会社で、彼女から相談を受けた老婦人アグネスは、行方不明のバグチー氏の写真を見て、かつてその会社にいたミラン・ダムジーという男に似ていると言う。
 バグチー夫人は警官ラーナと共に、夫が卒業したはずの学校や、夫の親戚を探し当てるが、学校には彼が在籍していたという記録はなく、親戚も身内に該当する者はいないと言う。果たして彼女の結婚していたバグチー氏とは何物なのか、生きているのか死んでいるのか、ミラン・ダムジーという男と同一人物なのか、そしてミラン・ダムジーとは何物なのか……と、謎はどんどん深まっていく。
 更に、バグチー夫人がミラン・ダムジーを探しているという報を受け、内務省のエージェントが動き始める。実はその裏には、二年前にコルカタの地下鉄で起きた、死者百余名を出した毒ガステロ事件が関係していた。
 こうしてバグチー氏失踪事件は、やがて思いもよらぬ展開に及んでいき……といった内容。

 いやこれは面白かった!
 ヒッチコック風の巻き込まれ型スリラーなんですが、丁寧な描写を積み上げていく展開、キャラクターの魅力、二転三転する展開、要所要所で挟まれるサスペンス、そして最後のどんでん返しと、明らかになる伏線の数々……等々、ストーリー自体が文句なしの面白さ。
 身重の妊婦が、下町から高級オフィスまで様々な場所を動き回り、そしてクライマックスのドゥルガー祭に至るまで、コルカタの町というロケーションを存分に活かした映像も魅力的。特にクライマックスからエンディングにかけて、そういった光景とテーマを重ね合わせて見せるという、その手腕も見事。
 役者陣も押し並べて素晴らしく、ヒロインを演じるヴィディヤー・バーランは、まだ娘っぽい可愛らしさから、母の萌芽的な強靱さ、そして女神的な崇高さにまで至る、素晴らしい演技を披露。その他のアンサンブルも、キー・キャラクターからちょっとした箸休め的な子役に至るまで、悉く魅力的な面々。
 全体の尺も、約2時間とインド映画としてはコンパクトで、作りも極めてリアリズム志向。ミュージカル的な場面はなく、アヴァンタイトルとエンドクレジットに主題歌的なものが流れるのと、本編中で祭りの歌がちらっと聞こえる程度。
 こういった、インド映画の伝統芸能的な側面を排した作品としては、2010年の傑作“Ishqiya”(そういやヒロインが同じ女優さんだ)に肉薄する面白さ。”Ishqiya”共々、こういったラジニカーントでもサタジット・レイでもないインド映画が、もっと日本でも見られるようになれば良いんですが……。

 インド映画云々ではなく、普通に良く出来たミステリー映画が好きな人に、ぜひオススメしたい一本。
 IMDbで8.2点という高評価なのも、納得の出来映えでした。

【追記】『女神は二度微笑む』の邦題で2015年2月公開予定。