投稿者「Gengoroh Tagame」のアーカイブ

“Sculpture”

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“Sculpture” (2009) Pete Jacelone
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2009年製作のアメリカ映画。ボディビル・ジムのインストラクターが次々に殺されていくC級スプラッター映画。
 因みにIMDbの点数は堂々の2.9/10.0点……だけど、米アマゾンのユーザーレビューは星4つ半だったり(笑)。

 主人公は新進女性アーティスト。
 プロのボディビルダーだった父の死を切っ掛けに、長らく距離を置いていた実家に戻り、残された兄と二人で父の残したボディビル・ジムの経営を手伝うことになるのだが、子供時代の恐ろしい体験のトラウマに悩まされる。
 そんな中、アートディーラーから個展の誘いがあり、彼女はジムのインストラクターの一人にモデルを頼むのだが、それを彼女を溺愛する兄に見咎められ、それがきっかけでトラウマが暴走。やがて血まみれの惨劇が……といった内容。

 え〜、謎解きなし、サスペンスなし。ストーリーも予告編を見て「こんな話だろうな〜」って想像したそのまんまで意外性はゼロ。……だってあーた、新進アーティストがオカしくなって、ボディビルダーを次々殺していくC級スプラッターで、タイトルが『彫刻』っていったら、もうオチまで判ったでしょ?(笑)
 ところが逆に言うと、要素が殺されるマッチョを見せるという一点、およびその前戯となるセクシー場面だけに絞られていて、そういう意味ではなかなか潔い作品でした。低予算なのでスプラッター場面も大したことはありませんが、見せ物的な感覚自体は悪くないので、悪ノリも含めてグランギニョール的にはけっこう楽しめます。
 そんなこんなで、まぁこっちのスケベ心も手伝ってのことなんですが、鼻クソほじりながらも、けっこう楽しく見られちゃいました(笑)。だってなにしろ、殺されるのがボディビル・ジムのインストラクターだけで、しかも色仕掛け付きということもあって、何のかんので脱ぎっぷりもいいし(笑)。
 売り手側も、どういう層がDVDを買うかは判っているようで、映像特典にはお決まりのメイキングや予告編以外に、出演ビルダーたちが下着姿でポージングするクリップなんてのが入ってます(笑)。
 しかしヒロインの顔と体型は、もうちょい何とかならんかったのか……。

 というわけで、スプラッター好きで、半裸のマッチョが殺されるのを見るのも好きという、私と同じ趣味をお持ちの方だったら、充分お楽しみいただけるかと。
 但し、出てくるボディビルダーの体型は、フィットネス・モデルからナチュラル・ボディビルくらいまで。ステロイド・モンスター系は出てきませんので、筋量命の方だと、けっこう食い足りないかも。
 まあ、演出とか脚本とか役者の演技とかは完全にアレなんですけど(笑)、予告編見て「おっ!」と思った方なら、迷わずオススメいたします。

“Frat House Massacre”

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“Frat House Massacre” (2008) Alex Pucci
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2008年制作のスラッシャー映画。
 80年代のアメリカの学生寮を舞台に、血みどろ描写やディスコ音楽といった70年代後半〜80年代初頭の映画へのオマージュ+青年の裸満載という内容。

 80年代のアメリカ、とある大学のフラタニティ(友愛会)の寮では、馬鹿学生たちがパーティーやセックスやドラッグに明け暮れていた。
 そんな中でも特に、ΔΙΕフラタニティの代表でサディストのマークは、皆を率先して新入生たちに拷問のようなイジメをし、更にその後、内輪の数人だけで、その犠牲者を殺害していた。
 メンバーの一人で、その異常さについていけなくなったショーンは、マークたちの殺人をやめさせようとするが、逆に殺されてしまう。しかしショーンが殺された瞬間、事故でずっと昏睡状態だったショーンの弟、ボビーが目を覚ます。
 目覚めたボビーは、兄のいたフラタニティの寮に入るのだが……といった内容。

 ストーリーはけっこう面白いです。
 途中で一回ツイストが入って、話が意外な方向に転がっていったかと思うと、クライマックスでもうひとひねり入れてきたりして、アイデアや意外性を楽しめる感じ。
 演出も、さほど凡庸というわけではなく、所々凝った見せ方なども交えて悪くないし、昔のスラッシャー映画のオマージュらしく、血糊がドバドバ、特殊メイクもあちこち、殺しの外連味もそこそこあるのは佳良。
 でも同じオマージュでも、ディスコダンスの場面がけっこう長かったりするのは、正直ちょいとウザい感もあり。長すぎる日常描写も、ちょっとダレる。もうちょっと刈り込んでテンポを良くすれば、だいぶ違うだろうに……ちょっと惜しい感じがします。
 そういやジャンル映画オマージュらしく、《オリジナル音楽:クラウディオ・シモネッティ》なんてクレジットもあるんですが、これは正直、いったいどの音楽を書いたのよ、って感じでした(笑)。

 でもって、学生寮の話なのに女の子のオッパイとかはチラッとしか出て来なくて、そのかわり若いイケメンのヌードはイッパイ出てくるのは、これは監督の趣味なのかしらん(笑)。
 まあ、スラッシャー映画としては、特に悪くもなし特に良くもなしですけど、皆の前でパンツ一丁で縛られて辱められた後、パンツ降ろされて尻をパドリングとか、裸で猿轡されてベッドに縛られて、胸板をダーツの的にされるとか、そんなシーンはあちこちあるので、ソッチ系目当てなら、けっこう楽しめるかと。
 そこそこ身体もいい男の子たちが、次々と裸で拷問めいたイジメにあい、そしてそのまま惨殺……てなコンボが多いのは、私的には変態アンテナに反応するものがあって、けっこうお得感がありました。
 そーゆーのが好きな方だったら、一見の価値アリかも。

『闇を生きる男 (Rundskop / Bullhead) 』

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『闇を生きる男』(2011)ミヒャエル・ロスカム
“Rundskop” (2011) Michael R. Roskam
(米盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com

 2011年制作のベルギー映画。原題”Rundskop”、英題”Bullhead”。
 2011年大阪ヨーロッパ映画祭で『闇を生きる男』の邦題で上映。また、2012年7月28日(土)から銀座テアトルシネマで二週間限定のレイトショー公開あり。
 ベルギーのフラマン語(オランダ語)圏であるフランデレン地域の、食肉牛の畜産業主を主人公にした、クライム・ドラマ風味の重厚な人間悲劇。アカデミー外国語映画賞ノミネート作品。

 主人公ジャッキーは30過ぎの格闘家のような肉体を持つ頑強な独身男で、食肉牛の飼育を生業としている。彼の牛は違法ホルモンを使って育てられており、彼の肉体もまたホルモン注射の産物だった。
 そんな彼のところに、とある食肉業者との取引の話が持ち上がる。彼はこの話に何か危険な臭いを感じるが、実際、違法ホルモンを調査していた警察官が殺害されるという事件が起きる。
 また、ジャッキーは少年の頃、睾丸を潰されるという過去を背負っており、彼のホルモン注射も、そもそもは喪われた男性ホルモンを補うために始まったことだった。そして壮年になった彼は、まるで喪われた男性性を取り戻そうとするかのように、ホルモン注射にのめり込んでいき、同時に感情を抑えられず凶暴化していく。
 やがて警察の捜査網は、ジャッキーの幼なじみや初恋の相手も巻き込みながら、徐々に食肉マフィアおよびジャッキーへと迫っていくのだが……という内容。

 いや、これは面白かった!
 主人公の設定がかなり特異ですが、それと彼の育てる食肉牛の姿を重ね合わせ、そんなどうしようもない運命の残酷さを、ずっしりとした重厚なドラマとして見せてくれます。
 ストーリー的にはクライム劇の要素はあるものの、主眼はそれではなく、まるでギリシャ悲劇を思わせる運命劇的な人間ドラマ。自分が背負わされてしまった軛から、逃れようとしても逃れられない男の悲痛さが、何とも胸に迫ります。
 彩度を抑えた色調や、シンメトリーや構図の美しさが印象的な画面も、大いに魅力的。演出は全体的に静かなタイプですが、その緊張感やシャープさや、そして全体に漂う重厚な雰囲気に魅せられます。
 そして何と言っても、主人公ジャッキー役の男優さん(マティアス・スーナールツ)の魅力。雄牛を思わせる見事な肉体と、クールな強面と悩めるナイーブさが同居した表情……う〜ん、惚れた。
 そしてこのキャラクター……私で良かったら、ギュッと抱きしめてあげたい……って余計なお世話(笑)。
 加えて、ちょっとしたオマケという感じですが、ゲイ要素があったのも良かった。まぁ、そのゲイキャラは、ルックス的には全くタイプではなかったですし、その出し方もさりげない感じなんですが、変に付加価値を背負わせることない、さらっとした描き方が、却って見ていて「判る判る!」という感じの好印象に。

 まぁ、はっきり言ってとても辛くて悲しい話なので、悲劇=バッドエンドと感じられる方には全く向かないとは思いますが、屈強な男が背負った運命的な悲劇、それもある意味で過度な男性性を巡るドラマだということもあって、個人的にはモロにツボを突かれてしまった感じです。
 好き嫌いや後味の良し悪しはともかく、とになく見応えタップリな一本なので、レイトショー公開ではありますが、興味のある方はぜひご覧あれ。

『闇を生きる男』、主人公の肉体性&雰囲気重視のアメリカ版予告編。

 ストーリー全体のアウトライン重視のインターナショナル版予告編。

 で、主演男優マティアス・スーナールツで検索してたら、こんなものが。”De rouille et d’os (Rust & Bone)” (2012)、予告編。

 やだ、これもすごく見たい……。監督が、先日見て面白かった『預言者』のジャック・オーディアールってのもポイント高し。

預言者 [DVD] 預言者 [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2012-07-06

 しっかし、これが
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これになっちゃうんだから、
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俳優さんってホントすごい……ってか、おっそろしいわ(笑)。

【追記】『闇を生きる男』めでたく日本盤DVD発売です。

闇を生きる男 [DVD] 闇を生きる男 [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2013-02-22

【追記】”De rouille et d’os (Rust & Bone)”も『君と歩く世界』という邦題で、目出度く日本公開&ソフト発売。


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ちょっと宣伝、『エンドレス・ゲーム』第7話(前編)です

endlessgame7a
 今月21日発売の「バディ」9月号に、連載マンガ『エンドレス・ゲーム』7話(前編)掲載です。
 今日、私の手元に見本誌が届いたので、一足先にゲイ・ショップにはもう並んでいる頃かも。
 えー《前編》という但し書きがついているように、諸般の事情で今回は8ページだけです。来月からは通常復帰……と言いたいところですが、次回もまた8ページということに。うーむ……。
 というわけで、毎月楽しみにお待ちいただいている皆様には、何とも誠に申し訳ない限りであります。
 ですが前回に引き続き、今回も次回もエロ展開の真っ最中ですので、とりあえず抜き要素はバッチリかと。
 それと今月号には、先日イタリアでも単行本出版が決まった『そらいろフラッター』のおくらさんのマンガも載っております。バディ初登場……かな?
 微細な心理描写を主軸にエッチシーンも入れつつ、そしてカミングアウトというモチーフを逆手にとった発想には、思わず「……上手い!」と唸らされたり。
 今月号が前編ということなので、続きが楽しみです。
 というわけで「バディ」9月号、よろしくお願いいたします。

Badi (バディ) 2012年 09月号 [雑誌] Badi (バディ) 2012年 09月号 [雑誌]
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2012-07-21

初めての英語版単行本、来春アメリカで発売

PassionOfGengorohTagame
 7月14日、アメリカはサンディエゴで開催されたコミック・コンベンション(通称コミコン)で、同国で来春発売予定の拙単行本 “The Passion Of Gengoroh Tagame: The Master of ‘Bara’ Manga” が、表紙画像と共に公式に発表されました。<記事>
 アナウンスをしてくれたのは、この英語版単行本の編集スタッフの一員チップ・キッド(Chip Kidd)氏。どうもブック・デザイナーとしてはけっこう高名な方らしく、何も知らずにメールをやりとりしている間は、ぜんぜんそんな感じがしなかったんですが、後からググったらこんな記事こんな記事が出てきて、ちょっとビビりました(汗)。コミックス関係の著作も色々あるようで、これまた後から確認したら、私の手元にも彼が編集&装丁を手掛けた『バットマンガ (Bat Manga)』やアレックス・ロスの画集なんかがあったり。

 表紙イメージにも記載されているように、英語版単行本は、このキッド氏(アート・ディレクター&編集助言)と、アン・イシイ(Ann Ishii)嬢(プロデューサー&翻訳)、グラハム・コルビンズ(Graham Kolbeins)氏(エディトリアル・ディレクター)の3名が、プロジェクトを組んで関わってくれています。
 そしてもう一つ、私を大いにビビらせてくれたのが、この単行本に序文を寄せてくれるのが、『美しい部屋は空っぽ』や『ジュネ伝』で知られる作家、エドマンド・ホワイト氏だということ。
「序文をホワイト氏にお願いしようと思っている」と聞いたときには、思わず「うっそぉ!」とか思っちゃったんですが(笑)、いざその序文が届いたら、もう頭の中は完全にパニック。お礼のメールを出さなきゃ、出さなきゃ……と思いつつ、緊張のあまり全く書くことができず、ようやく思い切ってメールを出せたのは一週間後という体たらく(汗)。
 更に、そのメールに心優しいお返事もいただけたもんだから、それから二、三日、かなり有頂天気分でフワフワしてました(笑)。

 版元はPictureBoxという出版社。<出版社のサイト内記事>
 実際の発行は、まだ半年くらい先のことですが、けっこうなヴォリュームとバラエティに富んだ(とはいえ、流石にアメリカですので、ショタ系とかは入りませんけど)中短編集になる予定。描き下ろしの新作短編もあり。
 日本の読者さんには、ちょっと無縁の話ではありますが、もうかれこれ10年以上、米英その他のファンから「英語版の単行本が欲しい、欲しい、欲しい」と、ずーっとリクエストされ続けていたので、私としても待望の出版であると同時に、何だかちょっと肩の荷が下りた感じがしています。

《7月22日追記》
 PictureBoxのリリース文を、日本語訳して記事にしてくださったブログがありますので、よろしかったら是非お読みくださいませ。
ハル吉とゴッシー (Harukichi and Gosshie):田亀源五郎、2013年全米リリース決定!

7月15日(日)、新宿でトークショーに出ます

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 今度の日曜日(7月15日)、新宿のコミュニティスペースaktaで開催される、特定非営利活動法人日本HIV陽性者ネットワークJaNP+主催のトークショーに出ます。お相手はJaNP+代表・長谷川博史さんこと、元ジーメン編集長ピンクベア長谷川こと、熊夫人ベアリーヌ・ド・ピンクこと……えい、またの名が多い(笑)。
 男性のみのイベントとなりますが、事前予約不要・入場無料ですので、お気軽にお立ち寄りくださいませ。

セックスとファンタジーをテーマに、ゲストを交えて語る
「JaNP+トークショー」を、下記のとおり開催いたします。
【出演】田亀源五郎(ゲイ・エロティック・アーティスト)、長谷川博史(JaNP+)
【日時】2012年7月15日(日)18:00~20:00
【会場】akta (新宿2-15-13 第二中江ビル301)
※男性であれば、どなたでもご参加いただけます。
※HIV陽性者限定のイベントではありません。
※参加無料、事前申し込み不要です。
多くの皆様のご来場をお待ちしております。

BIG GYMさんのうちわ

 ゲイショップBIG GYMさんの販促用うちわに、カレンダー企画の流用ですけれど、拙イラストが載っています。こちら↓
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 作家リストは、市川和秀、犬義、戎橋政造、熊田プウ助、KeiCHANG、小日向、児雷也、田亀源五郎、龍谷尚樹、野原くろ、藤本郷、moriuo(五十音順・敬称略)。
 BIG GYM各店舗の他、コミュニティセンター/ZEL(仙台)、akta(東京)、SHIP(横浜)、rise(名古屋)、dista(大阪)、haco(博多)、mabui(沖縄)、バー/九州男、GREGORIO’S、タウンハウス東京などに置いてあるそうなので、欲しい方は是非足をお運びくださいませ。

“Thickness 3″に英語版『スタンディング・オベーション』掲載

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 アメリカはサンフランシスコを拠点に発行されている、エロティック・コミックのジン(インディペンデント雑誌)”Thickness”の3号に、拙作『スタンディング・オベーション』の英訳版が掲載されました。因みにオリジナルの日本語版は、初出は「バディ」誌で、単行本では『田舎医者/ポチ』に収録されています。

 事の起こりは、エディター氏から本家サイトのメールフォーム経由で「作品を英訳して掲載させてくれないか」という連絡がありまして。で、過去の見本誌を送ってもらったり、お互いの条件をアレコレ詰めたりして、無事掲載に至りました。
 私のマンガは、ネット上では無許可のスキャンレーションが、勝手に海賊翻訳されて(中には翻訳ですらなく、絵から勝手に想像したセリフに差し替えられた、酷いオリジナル・ストーリー版も流布しているとのこと。アメリカ人の友人情報)シェアされている例が多々あるんですが、正式な許可をとってのオフィシャルな英語版は、これが初めてとなります。

 外側のクリアパックを開くと、こんな感じで、中からジン本体と、付録の小冊子が出てきます。
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 収録作品は、センターフォルドのピンナップも含めて全九作。
 私のマンガは、最初は左右反転して開きを他の欧米マンガと合わせたいという話だったんですが、出来れば反転はしないで欲しいと希望したところ、最終的には巻末に逆開きで掲載という形で合意しました。

 エロティック・コミックのジンとはいっても、実はこれゲイものの本というわけではなく、他のマンガは(ピンナップを除いて)皆ヘテロものでした。それも概して、ちょっと奇妙でアングラなテイストで、例えば「ゴキブリを退治してくれた男に、女がビールを振る舞っておスペでいかせてあげる」マンガとか、
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「カブトガニの交尾を見ながら、女が乳首にヒルを付けられ、クリトリスにもヒルを付けて男のアナルを犯し、最終的には膣に入ったザリガニの殻になる」というマンガとか。
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 そんな中、私のマンガもこんな感じに載っているんですが、
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何しろ他が皆、往年の「ガロ」みたいな雰囲気なもんだから、いやまぁ誌面から浮いていること浮いていること(笑)。
 そしてこのジン、実は印刷や製本も自分たちでやっているといて、印刷方法もリソグラフ(プリントゴッコの豪華版みたいなもの)が使われています。
 というわけで、ぶっちゃけディテールの再現性とかは良くないんですが、反面、版画的な存在感やロウファイな猥雑感があって、そこいらへんはなかなかカッコいいテイストに仕上がっています。ちょっと往年の「さぶ」(ザラついた紙に活版印刷でした)に、自分のマンガが載ってたときの味わいなんか思い出したりして。

 編集作業も丁寧で、先方の希望で手書きの擬音を外したデータを渡し、そこに新たに英文の擬音をレタリングしてくれているんですが、配置とか書体とか、かなりオリジナルのテイストを忠実に再現してくれています。ただ、ここは言語感覚の違いの面白さで、例えば勃起したペニスが《ぶるんっ》と頭を振る擬音が、《BOIOIOING》になっていて、つい笑ってしまったり(笑)。
 確か本国アメリカでは、先月にシカゴ(だったかな?)で開催されたインディーズ出版物のフェアで初売りとなったはずですが、流通形態としては日本で言うところの同人誌と同様なので、アマゾンとかでは扱っていません。
 いちおうオフィシャル・サイトでは通販をしていますし、ページ下方には取り扱い書店のリスト(アメリカとカナダだけですけど)がありますので、ご参考までに。

“Rajapattai”

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“Rajapattai” (2011) Suseenthiran
(インド盤DVDで鑑賞)
 2011年制作のインド/タミル映画。ご贔屓ヴィクラムの新作。監督は“Naan Mahaan Alla”のスセーンティラン(?)。
 一山いくらで仕事を得ているような、映画の悪役俳優を主人公にした、コメディタッチのアクション映画。

 主人公ムルガンは映画のやられ役俳優。同じやられ役の仲間たちや、使いっ走りの助監督と共に暮らし、お呼びがかかると撮影現場に行くが、いつかはポスターにドーンと顔が出るような、大物悪役俳優になることを夢見ている。
 そんな彼は、ある日街で誘拐されそうになっている老人を助ける。実はこの一帯では、マフィアと組んだ悪徳女性政治家が再開発を目論み、土地を奪い取ったり反対者を暗殺したりしていた。そして老人が所有していて、しかも妻の形見でもある孤児院の土地も狙われており、更に、政治家を夢見る老人の息子が、父を裏切り悪徳政治家の手先となっていた。
 事情を知ったムルガンたちは、老人を自分のところに匿うことにする。同居の助監督は、最初は老人を快く思わず《新入り》扱いしていじめるのだが、ムルガンから彼は金持ちだと聞かされ、自分の撮りたい映画のスポンサーになってくれるのではないかとチヤホヤするようになる。
 一方で老人は、こうみえても実は若い頃は、インド独立以前に英国人の娘を引っかけるくらいのプレイボーイだった。女に縁のない悪役商会の連中に、老人はナンパの仕方を手ほどきし、おかげでムルガンも、以前から気になっていた娘と接近することができた。
 その間にも老人の息子は、ボスである悪徳女政治家からせっつかれ、父を騙して孤児院の土地の権利書にサインさせるために、改心した風を装って老人に再接近する。しかも折悪しく、助監督の下らない讒言のせいで、老人は、ムルガンが自分を助けてくれるのは金目当てだと誤解してしまう。
 息子の元に戻ってしまった老人を、その裏を知るムルガンたちは取り戻そうとし、やがて老人の誤解も解けるのだが、時既に遅く、老人は息子に騙されて書類にサインした後だった。しかも悪徳政治家にとっては、老人の息子も捨て駒にしか過ぎず、あっさりと裏切って彼を捨てる。
 孤児院は重機で取り壊されてしまうが、ムルガンたちは何とか土地の権利を取り戻そうと、悪徳政治家の手先であるギャングの親玉に対して、自分たちの俳優という職業を活かした、とある計画を練るのだが……といった内容。

 ストーリーの大筋としては、特にこれといった新味はないですが、全体をテンポが早いコメディータッチでまとめているのと、主人公がやられ役の悪役俳優というのを活かして、インド映画のクリシェのパロディを、あちこち織り込んでいるのが目新しいところ。
 このパロディはけっこう可笑しくて、例えば、主人公とヒロインが街で目が合うと、さっそく舞台が風光明媚な海辺に変わり、いざミュージカル・シーンが始まり……そうな所に、何故か仲間の悪役たちが出てきて「何でお前らがいるんだ!」「俺たちも踊りたい!」となって、結局ミュージカルにならなかったり(笑)。で、それから後、再度主人公とヒロインが接近すると、今度は邪魔も入らず、さっきと同じ場面設定の海辺で、お約束のミュージカルに突入する……なんて仕掛けがあります。
 アクション・シーンも同様で、主人公がワイヤーワークで空中に静止すると、悪役が「あんな空中で止まるカンフーなんかできない!」とか言い出したり(笑)。他にも、主人公が悪役をブチのめしていると、通行人の子供が怖がって泣き出してしまい(おそらくタミル映画は暴力的だというイメージのパロディ)、主人公は慌てて「これはダンスなんだよ!」と、ダンス風の動きを装ってアクション・シーンを続けたとか、ちょっとしんみりしたムードになって、回想シーンが始まりそうになると「ちょっと待て、フラッシュバックはお断りだ!」と水をさすとか(笑)。
 こんな感じで、全体のテンポの早さと相まって、そういった小ネタはけっこう楽しめるんですが、まぁ全体的には他愛のない内容。善玉が映画俳優たちというネタは、小ネタレベルでは機能しているんですが、正直なところ、上手く活かせばもっと面白くなるだろうに……という感じで、ちと勿体ない。

 ただしヴィクラムのファンにとっては、逞しい肉体を活かしたカッコいいアクションあり、コメディあり、変装による一人何役もあり……と、お楽しみ要素はタップリ。ヴィクラム自身も肩の力が抜けた感じで、役を軽やかに楽しそうに演じているので、見ていてなかなか心地良いです。
 映画の結末も、収まる所に収まる予定調和で、ご都合主義はあれども極端な破綻はなく、全体のライトな味わいもまずまず。ただし、そのライトさを特徴と感じるか薄味と感じるかによって、印象の是非が別れそうな感じはしました。
 ヴィクラムと小ネタ以外はさほど印象に残りませんが、個人的には軽い娯楽作として、そこそこ楽しめました。

 予告編。

 ヴィクラムの変装(某ジョーカーだの某パイレーツだの)が楽しめるミュージカル場面。

“72. Koğuş”

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“72. Koğuş” (2011) Murat Saraçoglu
(トルコ盤DVDで鑑賞、米アマゾンで購入可能→amazon.com

 2011年製作のトルコ映画。1940年代のトルコの監獄を舞台に、人間の尊厳について描いた内容で、同国の文豪だというオルハン・ケマルの小説『第72監房』(未読)の2度目の映画化だそうです。

 1940年代のトルコの監獄。
 囚人たちは食費等を自ら賄わねばならず、金のない囚人たちは飢えと寒さに震え、看守の投げ与える鶏の骨すら争って奪い合っている。そんな中、《キャプテン》と呼ばれる中年の囚人だけは、その争いに加わらず人としての誇りを守っている。
 そんなキャプテンの元に、ある日母親から150リラの金が届く。キャプテンはそれで同房の仲間に食事や衣服を買い与え、仲間たちも、ある者は感謝し、ある者は媚びへつらい、またある者はキャプテンをギャンブルに巻き込もうとする。
 そんな中、ファティマという女囚が他の監獄から移送され、その姿を垣間見たキャプテンは恋に落ちる。
 女囚たちは、男囚の衣服を洗うことで現金を得ており、自分を目に掛けてくれる男を取り合ったり、同房内での弱い者いじめなども横行しているが、ファティマはそういったことには関わり合いにならない。
 キャプテンは洗濯物を仲介する男に、ファティマに自分の思いを伝えてくれと、金を渡して頼む。やがてファティマから返事の恋文が届き、キャプテンは有頂天になるのだが、実はそれは仲介役の男が偽造したもので、キャプテンの思いはファティマには全く届いていなかった。
 仲介役がキャプテンを騙し、その持ち金をどんどん巻き上げていく一方、同房の男も、ファティマが金に困っていると嘘をつき、彼をギャンブルに誘うことに成功する。ツキもあって勝ち続けたキャプテンは、出所後にファティマと結婚して共に住む家を買おうと、ますますギャンブルにのめり込んでいく。
 一方のファティマは、同房の妊婦や聾唖の娘といった弱い者を庇いながら、しつこい男の誘いも拒み続けているのだが、ある晩、彼女の高潔さを快く思わない女たちに陥れられて、彼女に言い寄っていた老人に強姦されてしまい……といった内容。

 いや、これはキツい内容だった……。
 監獄という狭い空間を人間社会の縮図に見立てて、金銭や暴力によるヒエラルキー、それから生まれる支配/被支配の関係、飢えや金で歪められていく人間性、無実の者が死刑に処される理不尽さなどが、次々と抉りだされていきます。
 ストーリー的にも、ほんの僅かに救いはあるものの、基本的には勧善懲悪なんかとは無縁で、現実世界そのままの理不尽な悲劇が横行し、人間の醜さが、これでもかこれでもかと描かれます。結果、高潔であったはずの主人公の精神も崩壊していき、ラストなんかもう暗澹たる気持ちに……。
 映画としては、実にしっかりとした真面目な作りで、映像は実に美しく、演出も役者さんたちも文句なしのクオリティ。
 ただし、こういったテーマやストーリー自体の内容と比べると、ちょっと表現としてパワー不足なのは否めない。充分以上に佳良ではあるんですが、グイグイと巻き込んでいくような境地にまでは至らず。いささか逆説的ではありますが、前述した映像の美しさや端正さが、逆にテーマのわりにはパワー不足という印象に繋がってしまった感もあり。
 
 という感じで、ストーリー的には、鬱エピソードがテンコモリだわ救いも殆どないわ、テーマ的にも、ズッシリ鉛を呑み込んだような重さだわと、実に辛い内容ではあるんですが、でも面白いことも確かで、見応えはなかなかありました。

 ヨコシマ目線の追加情報。
 予告編でもラストの方にちょこっと出てきますが、ヒゲで毛深いオッサンたちの集団全裸責め場なんてのもゴザイマス。何でも、この撮影の余りの過酷さに、その後男優さんたちは寝込んでしまったそうで……。
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