“The Saragossa Manuscript” (1965) Wojciech Has
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk)
1965年制作のポーランド映画。ヤン・ポトツキの小説『サラゴサ手稿』をヴォイチェフ・ハス監督が映画化した三時間の大作。ポーランド語原題”Rękopis znaleziony w Saragossie”。
DVDジャケ解説によると、ルイス・ブニュエルやデヴィッド・リンチなどが絶賛しているそうな。
ナポレオンのスペイン侵攻時代。一人の仏軍兵士がサラゴサの旅籠で分厚い本を見つけ、その挿絵に魅せられる。そこに西軍兵士が彼を捕らえにやってくるが、彼もまた本に魅せられ、スペイン語が読めない仏人のために、その内容を語って聞かせる。それはスペイン人騎士アルフォンソの物語だった。
国外で生まれ育ったアルフォンソは、マドリッドへ行くために二人の従者を連れて、シエラ・モレナの峠を越えようとしていたが、そこで従者の一人が行方をくらましてしまう。アルフォンソが彼を探していると、盗賊のゾト兄弟が吊されている絞首台と、その近くに廃墟のような旅籠を見つける。
旅籠に入ったアルフォンソは、謎の女に導かれて地下の不思議な広間に通され、そこでチュニジアの王女たちだという二人の美しい姉妹に出会う。彼女らはアルフォンソをもてなしながら、彼が自分たちの従兄弟だと言い、二人一緒に娶るように言う。アルフォンソは彼女らと褥を共にし、髑髏の杯で酒を飲むのだが、そのまま眠りこんでしまう。しかし彼が目を覚ました場所は、地下の広間ではなく例の絞首台の下で、二人の王女たちも姿を消していた。
恐れをなしたアルフォンソは近くの修道院へと行き、そこで修道僧と、気のふれた隻眼の男に出会う。隻眼の男は修道僧に促され、アルフォンソに自分の身の上話を始めるのだが、それは父親の若い後妻の妹に恋をしてしまった息子の話で、奇しくもアルフォンソの昨夜の体験と重なるような内容だった。
その晩、アルフォンソは一人チャペルで眠るが、外からは彼を呼ばう怪しい声がする。
翌朝アルフォンソは出立するが、今度は異端審問官たちに捕らえられてしまう。彼らはアルフォンソを拷問にかけ、頭に鉄仮面をはめてしまうが、チュニジアの王女たちによって助けられる。しかし彼を助けにきた一団の中には、吊されて死んだはずのゾト兄弟も混じっていた。
王女達はアルフォンソを再び地下の広間へ連れて行き、鉄仮面を外して髑髏の杯で酒をふるまうのだが、眠りにおちたアルフォンソが目覚めたのは、またもや例の絞首台の下で……。
といった内容が、登場人物の語りによる入れ子構造で綴られる、幻想的な物語。
原作は有名な幻想文学の古典で、私もタイトルは知っていますが、浅学にして未読。ストーリーの入れ子構造と、魔術的な要素が絡んでくる雰囲気などは、アラビアン・ナイトを思わせますが、検索してみたところ日本語訳は抄訳のみで、残念ながら完訳版は出ていない模様。
映像はモノクロ。幻想ものとはいえ、朦朧としたり曖昧模糊とした映像ではなく、眩しい陽光が感じられるようなスッキリとクリアな映像で、そんな中でユーモラスにすら感じられるアッケラカンとした怪異描写が逆に新鮮。白昼の怪異といった雰囲気です。
ポーランド映画なので、実際にスペインロケをしたのかどうかちょっと判りませんが、雰囲気はバッチリ。セットや美術は文句なしの高クオリティ。そんな中で描かれるピーカンの幻想風景は、ちょいとシュルレアリスム的な味わいが。ただ、女性のメイクはいかにも60年代的。
全体が二部構成になっていて、現実と妖かしが目まぐるしく交錯する第一部に比べて、第二部のメインを占めるジプシー男の語る物語は、複雑な入れ子構造(ジプシーが語る話の、登場人物がまた話を始め、その中の登場人物もまた……といった塩梅)の魅力はあれども、超自然的要素はあまりない、どちらかというと『カンタベリー物語』や『デカメロン』系の艶笑譚になります。
で、この第二部が、まぁ内容的に面白いことは面白いんですが、しかし第一部で見られたような幻想性や奇想天外な魅力には欠けるのが物足りなく、ちょっと「それはもういいから、アルフォンソの話を続けてよ!」という気分になるのは否めません。
とはいえ最後はきちんとアルフォンソの話に戻りますし、それまでの《怪異譚》から《幻想》へとグワッと拡がるシークエンスには大いに魅せられますし、アッケラカンとした雰囲気はそのままに《狂気》が描かれる様子は、まるでホフマンみたいで大いに魅力的。
作品全体に《翳り》がなく、どこかスコーンと突き抜けた感じがあるのが、好き嫌いが分かれるかとは思いますが、個人的には大いに楽しめた一本。
DVDはリマスター済みの英盤で、画質は極めて美麗。興味のある方なら見て損はないでしょう。
【追記】『サラゴサの写本』の邦題で、目出度く日本盤ソフト発売。
『砂時計』(1973)ヴォイチェフ・ハス
“The Hourglass Sanatorium” (1973) Wojciech Has
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk)
先の『サラゴサ手稿』と同じくヴォイチェフ・ハス監督による、1973年制作のポーランド映画で、
こちらの原作はブルーノ・シュルツの『クレプシドラ・サナトリウム』(未読)。ポーランド語原題”Sanatorium pod klepsydrą”。
73年のカンヌで審査員賞を受賞。
生気のない客達を乗せた不思議な列車。盲目の車掌が一人の若者に「もうすぐ着きますよ」と告げる。その若者ヨゼフは、サナトリウムに入っている父ヤコブの見舞いに来たのだ。
ヨゼフは雪の中に佇む古い洋館のようなサナトリウムに着くが、扉の向こうは奇怪な壁で塞がれていて中に入ることができない。ヨゼフが窓から中に入ると、内部は廃墟のように荒れ果てており、あちこちに植物が生い茂ったり、蜘蛛の巣が張っていたり、彫像やオブジェが散乱しており、人影がない。
しかしやがてヨゼフは、情事を終えたばかりのような姿の看護婦と出会う。看護婦に案内されてヨゼフは医師と会い、父の見舞いに来たと告げる。医師は彼を父親の病室に通すが、父親はベッドに眠ったように横たわっており、医師は「死んでもいないが生きてもいない」といったようなことを説明する。
病室に泊まることになったヨゼフが窓の外を見ると、一人の少年が見えるが、ヨゼフを見た彼は隠れてしまう。そしてヨゼフは、もう一人の自分がさっきと同じようにサナトリウムにやってくるのを見る。そして例の扉を開けると、さっきは閉ざされていたのに、今度は向こう側が広い空間になっている。そして先ほどの少年が現れ、もう一人のヨゼフを扉の向こうへ通す。
この時からヨゼフは、ユダヤ人街、ヨゼフの親の経営していた店、鳥を飼っている屋根裏、ロシア風の広場、ロココ調の大広間など、時間も場所も定かではない奇妙な夢のような場所を、次から次へと彷徨い、そこで父や母、ユダヤ人たち、切手のコレクションを持った少年、蝋人形と機械仕掛けの自動人形、カリブの兵隊たち、色狂いの娘、東方の三博士など、様々な不思議な人々と出会うのだが……といった内容。
え〜、ぶっちゃけ話の内容は、何が何だかサッパリ判りませんでした(笑)。
次から次へと奇妙な出来事が起こり、意味のあるような無いような変な会話が交わされ、ヨゼフ自身もそれに常識人的に驚くでなく、彼ら同様に奇妙な振る舞いを見せます。言うならば《不条理幻想もの》で、横で一緒に見ていた相棒いわく「頭がおかしくなりそう」な内容。
奇妙な出来事の数々は、時に可笑しく、時に荘厳で、時に不気味。後半になってくると、ユダヤ人ゲットーのイメージや、死のイメージが影を落とすようになり、ラストは怪談的な雰囲気も。
で、訳は判んないんですが、何よりかにより美術がスゴい!
廃墟めいたサナトリウムといい、先々で現れる奇妙な建物や部屋や風景といい、とにかくその美術が圧倒的。そこに加えて、様々な趣向を凝らした色彩や光や影の使い方で、その映像にひたすら感嘆。
『サラゴサ手稿』では、奇妙に乾いた感じの映像美が魅力でしたが、こちらはもっとウェットな感じで、映像自体の幻想性は更に高く、全く異なる映像美に酔わせてくれるのが、何と言っても魅力的。
そんなこんなで、全体のムードはデヴィッド・リンチかセルゲイ・パラジャーノフかといった感じなので、ナニガナンダカサッパリワカンナイんだけど、見終わったあとは「すっげ〜良かった!」という後味に。
そこいらへんが好きな方だったら、間違いなく楽しめると思います。DVDやはりレストア済みで、画質も上々。
【追記】『砂時計』の邦題で日本盤DVDが2014年12月20日に目出度く発売!
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