投稿者「Gengoroh Tagame」のアーカイブ

“Henri 4 (Henry of Navarre)”

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“Henri 4” (2010) Jo Baier
(英盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2010年製作のドイツ/フランス/チェコ/スペイン映画。
 ハインリヒ・マン(トーマス・マンの兄)の歴史小説(未読)を原作とした、16世紀フランスのユグノー戦争と、アンリ4世の生涯を描いた史劇。

 ナバラ国(フランスとスペインの境にあった国)王子アンリは、幼少時にノストラダムスから、将来フランス王になると予言される。当時のフランスはカソリックとユグノー(プロテスタント)の争いで内戦状態にあり、アンリもまだ幼いうちからユグノーの盟主として戦場に立つことになる。
 アンリが成長すると、フランス王母后カトリーヌ・ド・メディシスは、カソリックとユグノーの講和のため、アンリと自分の娘マルゴとの婚姻を持ちかける。アンリの母であるナバラ女王ジャンヌ・ダルブレもそれに同意しパリに赴くが、遅れてアンリがパリに入ったときには、母は謎の死をとげていた。
 アンリとマルゴは反発しあいながらも結婚するが、程なくして聖バーソロミューの虐殺(カソリックによるユグノーの虐殺)が起き、アンリは兄弟の身を守るためカソリックに改宗し、そのままルーブル宮に幽閉されてしまう。
 しかし暫くの雌伏を経た後、狩りの際に遁走しユグノーを率いて兵を起こし……とまあ、こういった感じで時系列に準じて歴史が綴られていき、最終的にアンリ4世の死で幕を下ろすという内容。

 宗教戦争と権力闘争が絡み合ったドロドロの内容に、戦闘シーンや愛欲シーンなんかも交えた盛り沢山で面白い内容ではあるんですが、いかんせん、この内容で148分という尺は短すぎ。
 どうしても一つ一つのエピソードや、キャラクターの内面等が掘り下げ不足の感は拭えず、エピソードのつなぎもスポ〜ンと省略されたりするので、面白いんだけど、何だか総集編を見させられているような、ちょっと手応え不足とか味わい不足な印象。
 また、視点があくまでもキャラクター寄りで、全体を俯瞰するマクロなものが出て来ないので、前述したストーリー的なダイジェスト感とも相まって、映像的な物量は決して貧弱ではないのに、意外にスケール感に乏しい。
 とはいえ、これはエピック的な見応えという点に関しての話で、コスチュームものとしての雰囲気や、映像的な説得力自体は佳良。ゴージャス感はさほどないものの、衣装や美術は決して悪くないし、合戦シーンのも見応えもそこそこ。
 雰囲気としては、BBCの歴史ドラマを、ちょい映画寄りにスケールアップしたみたいな感じ。

 表現手法的には、あちこち面白い試みもあり。
 例えば合戦シーンは、ある合戦では戦場での殺し合いを、ダイレクトに血生臭く見せたかと思うと、別の合戦ではテント内で怯える女性の姿と、戦いの物音と天幕に写る影法師だけで描ききったり。
 また、女好きで知られるアンリ4世の話らしく、主人公の濡れ場がけっこう多いんですが、王妃マルゴとの険悪かつ獣的な、挑戦的に互いを貪り合う表現なんかも、なかなか面白かったです。

 というわけで、まああちこち物足りない感はありますし、重要な登場人物の死がセリフでサラッと流されたりして、背景事情に疎いと取り残されてしまう感もありますが、絵解き再現ドラマだと割り切れば、史劇好きならそこそこ楽しめるかと。
 ただし、過大な期待は禁物(笑)。

“BearCity”

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“BearCity” (2010) Douglas Langway
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2010年製作のアメリカ映画。ニューヨークのベア・コミュニティを舞台に、痩せ形でヒゲも体毛もないけどベア好きな若者と、その友人たちを巡るアレコレを描いたゲイ・ベア版ロマンティック・コメディ。
 キャッチコピーは「ロマンスは毛深くなれる」(笑)

 主人公タイラーは、NYに住む役者志望の青年。ゲイで、好きなタイプは「ヒゲ+毛深い+デカい」のベア系なのだが、自分は細くてヒゲも体毛もないので、ベア系の掲示板に登録しているプロフィールは写真なし、キレイ系の男が好きなルームメイトのゲイにも、自分はベア好きだとカムアウト出来ずにいる。
 そんなタイラーだったが、ある日、掲示板のチャットで話しかけられたことを切っ掛けに、勇気を出してベア系ゲイバーのイベントに出掛ける。そこにいるのはベア、ベア、ベア。そんな中に偶然、タイラーがオーディションを受けたときのカメラマンで、彼がちょっと意識していたベア系のフレッドがいた。
 フレッドはタイラーを、パートナーのブレントや他の仲間に紹介する。フレッドたちの部屋に空き部屋があり、ルームシェアの相手を探していた。タイラーはそこに引っ越し、更にブレントの働くベア・コーヒーショップでの職も得る。
 こうしてベア・コミュニティ内に入ったタイラーは、そこで出会った年上の男ロジャーを好きになる。ロジャーもタイラーを意識するのだが、彼のライフスタイルは特定のパートナーを持たない自由なもので、二人が何となくいい感じになりかけても、すぐに邪魔が入ってしまい……といった内容。

 こういったアウトラインをメインに、付き合って長いので倦怠期っぽくなっているカップルが、公認浮気や3Pに挑戦しようとするエピソードや、痩せるために胃の縮小手術をしようとする男と、それに反対して気まずくなってしまうパートナーとかいったエピソードが、合間合間に挿入されます。
 まあ何と言うか、いかにも「ベア系ゲイが、ベア系ゲイのために作った、ベア系ゲイの映画」といった感じの映画。
 というわけで、扱っている世界が良くも悪くも狭いので、ベア好きのゲイならけっこう楽しめると思うけれど、それ以外の人には……う〜ん、ちょっとどうなんだろうなぁ(笑)。
 コメディとしては、笑いのとり方が「あるある」系の小ネタと、ゲイゲイしい会話の応酬なので、クスクス笑えるネタは盛り沢山。個人的にお気に入りなのが、ベア好きなのをカムアウト出来ない云々の件で「ホントはジョン・ グッドマンがタイプなんだけど、人には『ブラピかっこいい!』とか心にもないことを言っちゃうんだよね……」ってヤツ(笑)。
 ただ、笑いがそういった小ネタに終始していて、大きな仕掛けがないのはちょっと残念。
 でもサービス精神は実に旺盛で、ヌードもカラミもエッチ場面もあり。主人公がなかなかラブをゲットできない分、脇キャラがあれこれにぎにぎしく動いてくれて、エッチ場面もロマンティックから3Pや乱交まで、もうタップリ入ってます(笑)。
 また、実際にNYのベア・コミュニティの人々が主体となって作っているらしく、そういったコミュニティ内を描いたリアル感は素晴らしい。出てくる人がホントに、実際にそこで生活しているゲイにしか見えないほどで、ベア系ゲイ・カルチャーを探訪できる観光映画的な魅力は大。

 というわけで、基本的には罪のないロマコメで、ベア好きのゲイだったらお楽しみどころも多々ありますが、それ以上のものはなし。
 個人的には、もうちょっとキャラの内面に迫るとか、普遍性や批評性とかいったプラスアルファが欲しいというのは正直な感想ですけど、まあこれはこれで良いのかな(笑)。
 ベア系ゲイが好きな人にとっては、実に愛らしい映画であることは確かです。軽〜い気持ちでお楽しみあれ。

 で、この”BearCity”、台湾版の公式予告編があったんだけど、タイトル『慾望熊市』…って、なんかスゴいわぁ(笑)。

 でもって、この台湾版予告編の中で「Who wants to eat my ass?」の中文字幕が「誰要品嘗我的熊菊?」ってのにも大ウケ(笑)。「熊菊」って(笑)。
 更にこの映画、ラストで「次はサンフランシスコだ!」みたいな感じで終わるんですが、何とホントに続編ができたようで、先日その続編”BearCity 2″のティーザー予告編が公開されました。

 来春アメリカ公開だそうな。
 相変わらずベア好きゲイ限定御用達の軽いロマコメっぽいですが、スタッフもキャストも続投している様子なので、なんかちょっと楽しみに(笑)。

“Howl”

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“Howl” (2010) Rob Epstein & Jeffrey Friedman
(アメリカ盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com

 2010年製作のアメリカ映画。ビートニクスの詩人でゲイでもあったアレン・ギンズバーグの詩集『吠える』の猥褻裁判を軸に、彼の詩の世界と、詩人自身の姿を疑似ドキュメンタリー形式で描いた作品。
 監督は『セルロイド・クローゼット』のロブ・エプスタイン&ジェフリー・フリードマン。ギンズバーグを演じるのはジェームズ・フランコ。

 実在の人物の言動を役者が再現し、それをドキュメンタリー的な手法で構築していく作品なので、いわゆる劇映画的な作りではありません。
 作品の構成要素は、主に5つに分かれます。
 まず、『吠える』の猥褻裁判を法廷劇的に描いていくパート。主役のギンズバーグは、このパートには出てきませんが、これがいわば全体をストーリー的に牽引する軸になっています。
 2つ目は、裁判と並行して別の場所で行われている、ギンズバーグへのインタビューを再現したパート。ギンズバーグのプライベート・ヒストリーや、詩作に対する考え、様々な想いなどが、モノローグのみで語られます。自身のホモセクシュアリティに関して赤裸々に語られるのも、このパート。
 3つ目は、このギンズバーグのモノローグに準じて描かれる、プライベート・ヒストリーの再現ドラマ的な映像パート。前述したホモセクシュアル要素も、このパートで実写ドラマとして描かれます。
 4つ目は、『吠える』の出版以前(おそらく)に、詩人が仲間の前で自作を朗読しているシークエンス。
 そして5つ目が、前述した4つのパートのそこかしこで出てくるギンズバーグの詩の朗読と共に、その詩のイメージをアニメーションを使ってヴィジュアル化したパート。
 以上の5つのパートが、入れ替わり立ち替わり出てきて、最終的にギンズバーグという詩人と、その詩の世界の両方が浮かびあがるという構成です。

 かなり意欲的な作品だとは思います。
 しかし、いかんせん私の語学力では台詞が難しすぎて……出てくる単語も難しければ、語られる内容も抽象的だったり法廷の論議だったりで、もう内容の半分も理解できたかどうか(笑)。
 それでも判った部分だけで言えば、なかなか興味深くはありました。
 まず、法廷パートの、検事が押してくる「文学的な価値があるか否か」という要素(つまり「猥褻か芸術か」と同じ構図)。この論議が、最終的には無効化して「自由の尊さ」に帰着し、そして映画自体も、ギンズバーグ(を演じるジェームズ・フランコ)による「holy, holy, holy……」の朗読で締めくくられるんですが、この一連の流れはちょっと感動的。
 検事が詩の文章に「特定の意味」を見つけようとし、感覚を論理で解釈して是非を判断しようとするあたりも、そういった姿勢そのもの滑稽さが良く伝わってきて面白かった。
 ギンズバーグへのインタビューも、詩がどのようにして生まれるか、作者にとってそれはどんなものなのか……といったことが語られるので、実に興味深し。作家像を垣間見ると同時に、芸術論的な面白さもあります。
 もちろんホモセクシュアル関係の話も興味深く、再現ドラマ部には、ちょっとしたセクシーな雰囲気や、ゲイ的に見ていてハッピーな気分になれる場面も多し。裁判とインタビューはカラー、パーソナル・ヒストリーと仲間の前でのポエトリー・リーディングは白黒という構成なんですが、この白黒の映像も美しい。

 ただ残念なのが、アニメーションによる詩の視覚化のパート。
 ここはいわば、映画的には最大の見せ場であるはずなんですが、イメージ自体は面白いし雰囲気も悪くないものの、2D表現の部分はともかく、3DCGのキャラクター・アニメーションが、ちょっと安っぽくていただけない。制作はタイのスタジオらしいです。
 時間や予算の関係もあるんでしょうが、このアニメーション・パートで、もっとスゴいものを見せていてくれれば、この映画はかなりの傑作になったんじゃないかと思うんですがが、残念ながらそこまでは及ばず。決して悪くはないんだけど、いかんせん、20世紀を代表する詩のヴィジュアライゼーションとしては、イメージ的なパワーが弱すぎるし、完成度も充分とも言えない。
 ここで例えば、最近で言えばジュリー・テイモアの『アクロス・ザ・ユニバース』くらいの、ハイ・クオリティなヴィジョンを見せてくれれば、この映画、かなりの傑作になっただろうに……何とも惜しいです。

 ギンズバーグ役のジェームス・フランコは、雰囲気は上々なんですが、ちょっと坊やっぽいというか甘いというか……ナイーブな感じはあるんだけれど、もう少しシャープさとか深みがあると良かったかも。
 個人的には、裁判長でボブ・バラバン、証人の一人でトリート・ウィリアムズという、20代の頃に好きだった役者さんたちが見られたのは、何だか得した気分でした。
 再現ドラマパートでジャック・ケルアック、ニール・キャサディ、ピーター・オルロフスキーなんて面子が出てくるので、ビートニクスに興味のある方なら、そこいらへんも大いに楽しめるかと。

 まあ私は、ビートニクスはよ〜知らんミーハーですし、内容の理解度もおぼつかないんですが、実写パートの映像の雰囲気の良さや、散見されるホモセクシュアル・モチーフだけでも、けっこう楽しめちゃいました(笑)。
 いかにもこの監督コンビらしく、ゲイ映画的な側面も色濃い内容ですし、時代のムードにも惹かれるし、それに何と言っても、前述したようにラストで感動しちゃったので、「判らない&惜しい」なりにも、それでも「かなり好き」と言える一本です。

“Bang Rajan 2 (Blood of Warriors: Sacred Ground)”

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“Bang Rajan 2” (2010) Tanit Jitnukul
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2010年製作のタイ映画。2000年の傑作アクション史劇“Bang Rajan”の正統続編で、監督も同じサニット・ジトヌクル(タニット・チッタヌクン)。
 イギリス盤DVDタイトル”Blood of Warriors: Sacred Ground”。

 18世紀、アユタヤ王朝時代のタイで、ビルマの侵攻に立ち向かって全滅したバーンラジャン村(これが前作のストーリー)だったが、実は殺されていたと思っていた村の精神的な中枢である僧侶は、バーンラジャン村と同様に彼の指導を望む、別の村の者たちに密かに救出されていた。
 村人たちは、僧侶から授かった僧衣の切れ端を二の腕に巻き、神出鬼没のゲリラ戦法で、ビルマの捕虜となったタイ人たちを救い出しては、山中の隠れ里に匿う。ビルマ軍は、彼らの存在を幽霊のように怖れるが、侵攻自体が留まることなく、村人たちは次第に日々の食糧にも窮するようになる。そんなある日、ゲリラ戦士たちは、ジャングルの中でビルマ軍に襲われていたアユタヤ軍の部隊を救い、彼らを隠れ里へ連れ帰る。
 しかし人員が増えたことでますます食糧は乏しくなり、また、国のために戦う軍人と、隠れて生き延びながら、生き残るために戦っている村人の間では、気持ちの齟齬も生じる。隠れ里には不穏な空気が漂い始めるが、件の僧侶の人徳がそれを収める。
 一方ビルマ軍は、ゲリラの力の源は僧侶の霊力にありと考え、間諜を送り込んでの暗殺を謀る。同時に腹黒いビルマの将軍は、戦乱のどさくさに紛れてタイの黄金大仏を盗み出そうと計画していた。
 そんな折り、ついにアユタヤが陥落する。帰る国を失った隠れ里の兵士たちは出撃を決意し、村人たちにも「このまま隠れていても、今はいいが、いつかは国全体が敵の手に落ちてしまう、そうなってしまえば、村どころか祖国も失ってしまうのだ」と説き、助力を求めるが……といった内容。

 白状すると、鑑賞前はあまり期待していませんでした。
 というのも、”Bang Rajan”はあれ1本で完結した作品だと思っていたし、この監督の作品も、素晴らしかったのはそれ1本だけで、その後の『ラスト・ウォリアー』『セマ・ザ・ウォリアー』『アート・オブ・デビル』『デッドライン』などは、決して褒められた出来ではなかったので……。
 しかしこの”Bang Rajan 2″、無印”Bang Rajan”には全く及ばないものの、それでもその後の作品の中ではダントツに出来が良く、これは嬉しい驚きでした。
 あちこち残念な部分はあるものの、全体的にはかなり楽しめる仕上がりですし、続編にありがちな無理矢理感(特に”Bang Rajan”は『あの話にどーやって続編を作るっていうの!?』ってな内容なので)も、上手いこと最小限に抑えられている感じ。
 バトルシーンは相変わらず見せます。前半のゲリラ戦はアクロバティックなアクション映画風に見せ、クライマックスは史劇風のスペクタクル的にする対比も良し。
 ただスペクタクルの方は、チープなCGが興を削いでしまった感アリで、本格的にセットを組んだ前作と比べてしまうと、かなり見劣りがするのも事実。でも、CGのチープさに目を瞑れば、大雨が降りしきる中での集団肉弾戦に加えて、大仏も倒れれば地割れも起きるという大盤振る舞いなので、それはそれで楽しかったり(笑)。
 クライマックスが二段構えにしたのは、パワーやフォーカスが散ってしまったきらいはあるものの、そのかわり真のクライマックスには、前作のファン感涙の仕掛けがあります。まあコテコテでベタベタではあるんですが、ファン心理としては「キタ━(゚∀゚)━!!!!!」って感じ(笑)で、ぐわーっと熱くなって気分的に盛り上がります。
 バトルシーン以外に、隠れ里の日常風景を叙情的にじっくり描いているのも佳良なんですが、エピソード配分に失敗していて、そればかり延々と続くのはイマイチ。おかげでちょっと間延び&中だるみ感があって、これまたそこいらへんの作劇が上手かった前作に比べて残念なポイント。
 キャラクター・ドラマの方は、将来を誓い合いながらも運命に引き裂かれる男女、妻が妊娠中の夫婦、子供を人質にとられている夫婦、惹かれ合いながらも口には出せない初心な男女、父と息子、母と娘……といった設定を駆使して、燃える場面と泣かせる場面がテンコモリ。ベタなお約束と判っていても、つい熱くなったりウルウルきたり。

 続編モノなので、無印”Bang Rajan”を見ている人向けではありますが(そういう意味では今回見た英盤DVDは、タイトルを変えてそれを明示していないので不親切)、「あの傑作よ再び」という過大な期待(ストーリー自体の魅力、作劇、キャラ立ち、演出……等々、無印と比較してしまうと、どうしても全て見劣りしてしまうのは事実)さえしなければ、かなり楽しめると思います。
 個人的には、名も無き人々の熱い生き様による燃えと泣きといったテーマが、今回も変わらず引き継がれていたことや、クライマックスの仕掛けの効果でファン心理を上手く擽られたこと、そして前述したように、正直事前の期待値がかなり低かった反動もあって、鑑賞後の満足度はけっこう高し。
 そしてもちろん今回も、裸のアジアン・マッチョ出まくり&血飛沫ビシャビシャ&殺されまくりです(笑)。

“Остров (Ostrov / The Island)”

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“Остров (Ostrov)” (2006) Pavel Lungin
(ロシア盤DVDで鑑賞、米アマゾンで入手可能→amazon.com、米盤DVD→amazon.com、英盤DVD→amazon.co.ukもあり)

 2006年製作のロシア映画。英題”The Island”。『タクシー・ブルース』、『ラフマニノフ ある愛の調べ』“Царь (ツァーリ)”のパーヴェル・ルンギン監督作品。
 北の孤島にある修道院と、罪を抱えながらも聖人として崇拝されている修道士の姿を通して、人間の罪や赦しとは何かを静かに問う、寓意的な作品。
 二次大戦中、石炭運びのタグボートがドイツ船に拿捕され、一人の船員が、殺されたくなければ船長を撃てと強要される。辛うじて生き延びたその船員は、以降40年近く、外界から孤絶した修道院で、ボイラー室に寝起きしながら、釜にくべる石炭を運んで暮らしている。
 何故か未来を予知したり、病を治す能力を持つようになった彼は、いつしか聖人と崇められるようになり、その救いを求めて遠方からはるばる修道院を訪れる人も少なくない。修道士の中には、彼を擁護する者も反発する者もいるが、彼自身は自分の抱えている罪の重さに常に苦しんでいる。
 そんな彼のことを、真に理解できる者はいない。擁護する者も反発する者も、彼と触れあうことで改めて自身の信仰と直面することになり、奇跡を求めて訪れた人々も、それぞれの内面を問われることになる。
 そしてある日、一人の父親が精神を病んだ娘を伴い、聖者による救いと癒しを求めて修道院を訪れるのだが……といった内容。

 まず、極上の映像美に圧倒されます。
 雪深い北海の孤島の自然を捕らえた、まるで水墨画でも見るかのようなモノクロームに近い、詩情あふれる映像がとにかく素晴らしい。そして、淡々と進む静かな話を控えめに彩る、音楽(Vladimir Martynov)の深みのある美しさで、映像美もまた相乗効果に。
 主人公を演じるPyotr Mamonov(同監督の”Царь (ツァーリ)”でイヴァン雷帝を演じて圧倒的だった人)の存在感と演技もマル。滑稽な老人、苦悩する人間、聖者のような風格など、一人のキャラクターの様々な側面を自在に演じ分けることで、セリフも動きも少ないストーリーに、見事なメリハリと緊張感を与えています。
 テーマ的には、これは神の実在を前提とし、その前での人間の罪や赦しや信仰とは何かを問うというものなので、非キリスト教文化圏の人間には、いささか敷居が高いです。奇跡は奇跡のままとして描かれ、合理的な説明がなされたりはしない。
 しかしそれらを踏まえて見れば、深く静かな感動が訪れます。
 全編に渡ってストーリーは、俗世と隔絶した孤島のドラマとして描かれ、ソヴィエト体制下での宗教弾圧等の話は出てきません。鑑賞前は、ひょっとしたらソロヴェツキー修道院の悲劇なんかと似た展開もあるのかと想像していましたが、そういった要素は皆無でした。
 というわけで、おそらくこれは寓意的な内容だと思った次第。

 宗教色が濃い内容なので、見る人を選ぶタイプの映画だとは思いますが、淡々としつつユーモラスな描写もあり、ストーリー自体のドラマチックな仕掛けもあり、それに何と言っても前述したように、その詩情溢れる映像美だけでも素晴らしい一本。
 信仰について、特にロシア正教におけるそれに興味のある方にオススメです。

 Vladimir Martynovによる、美しく叙情的で、ちょっと感傷的なテーマ曲。

“Свои (Svoi / Our Own)”

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“Свои (Svoi)” (2004) Dmitri Meskhiyev
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2004年製作のロシア映画。英題”Our Own”。同年のモスクワ国際映画祭で最優秀作品賞を受賞。
 二次大戦の最中、ドイツ占領下のソ連東部で、脱走した3人のロシア人捕虜を巡る男泣き系ドラマ。

 1941年、ドイツ占領下のソ連東部(おそらくウクライナ)、ドイツ軍の捕虜となった大勢のロシア人の中から、初老の司令官、中年の人民委員、青年狙撃兵の3人が脱走し、近在の青年狙撃兵の実家がある村に逃げ込む。
 狙撃兵の父親は3人を納屋に匿うが、しかし既に村にはドイツ軍への内通者がいた。
 3人はまず、自分たちを殺しにきた男を返り討ちにするが、次にドイツ軍のために動いているロシア人の警察隊が、3人を探しに村へやってくる。しかもその長官は、青年狙撃兵とは恋人を巡って争う恋敵の男だった。
 その捜査をやり過ごした3人は、武器を手に入れるために、警邏中のドイツ兵を襲う。しかし、殺したドイツ兵の死体が発見され、犯人を捕らえるために近在の村から人質が集められ、狙撃兵の姉妹も捕らえられてしまう。
 狙撃兵の父親は娘を釈放してくれるよう警察に交渉に行くが、警察長官は彼の息子と恋敵の関係にあるので、他の人質のように賄賂が通用しない。
 父親は息子を守るため、そして娘たちを救うために、3人と共に警察長官を暗殺することを決意するのだが…といった内容。

 ストーリー自体はシンプルで、全体的にも比較的地味な作品ではあるんですが、冒頭、どこか長閑な雰囲気で始まり、それが軍の侵攻で一気に恐ろしい殺戮の場と化すコントラストがスゴい。この場面の容赦ない描写のおかげで、以降の「何が何でも生き延びる!」というストーリーの軸に、ガッチリ芯が通っています。
 そして、こういったストーリーを軸にして動き回るそれぞれのキャラが、決して高潔な英雄とかではなく、殺されないために軍服を脱いで民間人のふりをするわ、納屋に隠れながらも羽目板の隙間から外を覗き見て、女たちの太腿にハアハアするわ、襲撃が成功するとガキみたいにはしゃぎ回るわ、身に危険が迫ると泣いて命乞いをするわ……と、思いっきり生臭い人間たちなのが良い。
 そういった連中たちのサバイバル〜アクション・ドラマで、それがクライマックスに向けて、父子だの仲間だの愛国心だのといった「泣き」系のドラマへと盛り上がっていくので、これはなかなかグッときます。
 ただ愛国心に関しては、これはおそらく現在のロシア人にもアピールするだろうし、前述したモスクワ国際映画祭での受賞の一因という気もするんですが、それをソ連東部を舞台にしてウクライナ人俳優のボグダン・ステュープカを使って語るあたりは、ちと政治的な意図が感じられなくもない……かなぁ?

 配役も実に良いです。
 まず前述したように、狙撃兵の父親に2009年版『隊長ブーリバ』の主役だったボグダン・ステュープカ。司令官は“Край (The Edge)”の主演セルゲイ・ガルマッシュ。人民委員は『ナイト・ウォッチ』『デイ・ウォッチ』『提督の戦艦』の主演コンスタンチン・ハベンスキー。青年狙撃兵は『第九中隊(アフガン)』で(確か)「巨匠」役だったミハイル・エフラノフ。警察長官も同じく『第九中隊(アフガン)』のフョードル・ボンダルチュクという布陣。
 村の女たちも、狙撃兵と恋仲の娘といい、司令官といい仲になる少しトウのたった隣家の娘といい、ちっとも美人じゃないんだけれど、いかにもロシアの農家の女といった土臭さや逞しさがあって説得力大。

 戦時下の男のドラマとはいえ、必ずしも痛快アクション娯楽作というわけではなく、民謡などのうら寂しい音楽も相まって、ペーソスや哀愁なんかも漂っており、長閑な可笑しみもあれば、容赦ない残酷もあり。ここいらへんは好みが分かれるところだとは思いますが、個人的には、渋い小品ながらもなかなかの見応えという印象。
 作品自体のクオリティも高いので、題材に興味のある人なら見て損はないと思います。
 予告編が見つからなかったので、哀愁漂う音楽も魅力的なタイトル・シークエンスのクリップ。

『ブレスト要塞大攻防戦』(Брестская крепость / Brestskaya krepost / Brest Fortress)

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“Брестская крепость (Brestskaya krepost)” (2010) Aleksandr Kott
(ロシア盤DVDで鑑賞、米アマゾンで入手可能→amazon.com、”Fortress of War”のタイトルで英盤DVDあり→amazon.co.uk

 2010年製作のロシア映画。英題”Brest Fortress” a.k.a. “Fortress of War”。
 1941年、ドイツの侵攻を受け、後にソ連から英雄都市の称号を受けた要塞のある街ブレストの、九日間に渡る攻防戦を描いた戦争ドラマ。

 ソ連とポーランド国境の街ブレスト(現在はベラルーシ)では、独ソ戦開戦の噂が流れつつも、要塞に住居する兵士の家族を含めた街の人々は、ダンスに映画に音楽にと楽しい日々を過ごしていた。
 しかしある晩、ソ連軍の軍服を着たドイツ兵たちが、密かに列車で駅に到着する。人々の気付かぬうちに、ドイツ軍は街の水道と電気を断つ。
 翌朝、孤児で軍楽隊の少年兵サーシャが、互いに好き合っている少女アーニャと釣りに出掛けているとき、ドイツ軍の攻撃が始まる。街はあっという間に戦場となり、殺戮の場へと化してしまう。
 ドイツ軍は優勢で、ソ連軍は街の数カ所に分断されてしまう。サーシャは伝令として走りながら、行方不明になったアーニャを探し求め、他の恋人たちや家族にも過酷な運命が襲いかかる。
 それでもソ連軍は果敢に抵抗を試みるが、援軍は断たれ、やがて水も欠乏していき…といった内容。

 いや、とにかく戦闘シーンに圧倒。
 まず、街が戦場ということもあり、爆発し崩れ落ちる建物といったスペクタクルがとにかく凄くて、これおそらく撮影用に街のセットを組んだんでしょうが、とにかくスケール感と迫力がハンパない。そこに、死屍累々、人体破壊容赦なしの、凄惨な戦場描写が襲いかかる。
 導入部の平和時の描写が、雰囲気は長閑だしユーモアもあるし画面も美麗なだけに、そこが残酷な戦場と化したときのコントラストも効果絶大。加えてそこに家族だの恋人だのといった、エモーショナルなヒューマン・ドラマのアレコレが入ってくるもんだから、もうグイグイ引き込まれてしまいます。
 内容が政治的に中立かどうかは、ドイツ軍の立ち位置が完全に悪役であるところとか、ポーランドの視点が欠けているような気がするとか、いささか疑問は残るんですけれど、それにしてもこのドラマとしてのパワーはスゴい。
 キャラクター描写も、それぞれ細かなエピソードを使って上手く立てているので、感情移入もバッチリ。音楽の使い方などに多少の通俗性は感じられるんですが、それらも最終的には良い方向に作用している感じ。
 ただ、スペクタクル・ヒューマン・ドラマとして出来がいい反面、鉛を呑んだような重さには欠けるのが、評価の分かれどころかも。
 いや、重いんですよ。重いしエグいし辛い。でも、同時にヒロイズム的な視点もあるので、描写自体は容赦ないんですけれど、変な言い方ですが「見やすい」映画に仕上がっているという印象。少なくとも内容のわりには、見終わってドヨ〜ンと落ち込んだりとかはなかった。

 ストーリーとしては、歴史の一幕とは言え実に悲惨な内容ですし、残酷描写もふんだんに出てきますが、なにしろドラマ的にパワフルなのと、見応えも見所もいっぱい、そしてまた変な言い方になりますけど、見終わった後に娯楽映画的な「面白かった!」感がちゃんとあるので、モチーフに興味ある方だったら、間違いなく一見の価値ありかと。

【追記】2015年1〜2月の「未体験ゾーンの映画たち2015」で、『ブレスト要塞大攻防戦』の邦題で日本上映、同8月にDVD発売。
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『サウナのあるところ』”Miesten vuoro (Steam of Life)”

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“Miesten vuoro” (2010) Joonas Berghäll & Mika Hotakainen
(フィンランド盤DVDで鑑賞、英アマゾンで英語字幕付きDVD入手可能→amazon.co.uk

 2010年製作のフィンランド映画。英題”Steam of Life”。
 サウナで身も心も解きほぐされた男たちが、悲喜こもごもの様々な個人史を率直に語る様子を、美麗な自然描写を交えて描いたドキュメンタリーで、同年のアメリカのアカデミー賞、外国語映画賞フィンランド代表作品。

 サウナ発祥の地フィンランド。我々日本人の感覚からは想像もつかないほど、いたるところにサウナがあり人々の生活に密着している。
 そんな同地で、工場労働者、林業従事者、高齢者、元犯罪者、軍人、ホームレス、等々、様々な男たちが、自分の気持ちや過去を赤裸々に語る。それぞれのエピソードの合間には、フィンランドの美しい自然や、同国の各地で見られる様々な仰天サウナの光景などが挿入される。
 そして男たちの語る悲喜こもごもの話は、やがて汎的な人生哲学へと繋がり、そして感動的なエンディングに……といった内容。

 いや、これはいい!
 サウナ風呂の中で裸の男たちが思い出話をするという、ホントそれだけの映画なんですが、ラストはもうウルウルに……。
 テーマとしてはおそらく、サウナの持つ人の精神を解放する力。よって語られる話も、家族の喪失や人生の挫折等、かなりシビアだったり重かったりする内容が多め。しかし同時に絶妙なユーモアも随所に挟まれ、加えて映像は実に美麗で、特に自然描写が詩情たっぷりの仕上がり。
 そんな中から、次第に「面白うてやがて悲しき」人の世の常々が浮かびあがってきて、そしてラストで一気に感動で揺さぶられて泣かされる。
 いや、いいわ、これ!

 ただ大きなクセがありまして、「サウナに入る男たち」という題材なので、当然のことながら裸の男のオン・パレード。映画の場面の8割方は、サウナに入っているマッパの男。3、4歳の幼児から70、80のオジイチャンまでいますが、とにかくこんなに大量に男の裸が出てくる映画も珍しいかも(笑)。
 でもって大らかな欧州人のことなので、当然ブラブラと丸出しなわけで、うむむむ、素晴らしい映画なので是非日本公開して欲しいけれど、こーゆーのって無修正で公開できるのかしらん……。
 ぶっちゃけ私は、そもそもはスケベ心で注目した映画でして(笑)、感動すると同時に、しっかりソッチの好奇心も満たされました(笑)。

 でも、スケベ心抜きにしても、ホントいい映画。
 前述の感動に加えて、面白場面やユーモアもアレコレ。畑をコンバインが走っていると思ったらサウナだったとか、「孤児を引き取って云々…」とか語っていたオジサンの話が実は……とか、何度かぷっと吹き出しました。
 というわけで、実に静かで内容も地味極まりないドキュメンタリー映画ですけど、感動あり笑いあり詩情ありで、しみじみ良い映画でした。『歌え!フィッシャーマン』とか好きな方だったらマストかと。

 映像の美麗さと、いかに男の裸しか出て来ない映画か(笑)ということは、下に貼った予告編からもお判りかと。
 いや〜、ホント良かったぁ……ラスト、マジで感動します。

 放送コードか何かの関係か、局部に修正が施されたバージョンの予告編も貼っておきます。 先に貼ったオリジナル版と見比べると、修正というノイズが美的効果に及ぼす影響について、その比較ができて興味深し。

《追記》『サウナのあるところ』の邦題で2019年9月14日から日本公開。

“Aşk Tutulması”

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“Aşk Tutulması” (2008) Murat Şeker
(トルコ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2008年製作のトルコ映画。英語題は”The Goal of My Life”。
 サッカーチームの熱狂的なサポーターの青年と、恋愛にトラウマのあるキャリアウーマンの恋模様を描いた、ロマンチック・コメディ。

 30歳で製薬会社のセールスマンをしているウールは、ハンサムなのにまだ独身で、加えてサッカーチーム、フェネルバチェの熱狂的なサポーター。その熱狂ぶりは、昔ガールフレンドに「チームとあたしとどっちが大事?」と迫られて、チームを選んだほどであり、部屋はグッズで埋め尽くされ、チームの勝利のために様々な変わったジンクスを守っている。
 保険会社のキャリアウーマン、プナルは、ファッションモデルばりの美人だが、29歳でまだ独身。実は過去に恋人に捨てられたトラウマがあり、それも原因してか喘息の発作にも苦しめられている。
 ある日、ウールの運転する車がプナルの車に追突して、この二人は出会う。ウールはプナルの美しさに見とれるが、ある意味で男嫌いになっているプナルはまったく興味なし。しかし、実はウールの母とプナルの母には共通の友人がいて、年頃の息子と娘を持つ二人の母親は、偶然を装って密かに見合いを計画する。しかしプナルは、それをウールの計画だと誤解して「二度と顔を見せないで!」と言い放ってしまう。
 そんなある日、プナルの上司のエロ男が、彼女を騙して夕飯に誘い口説こうとする。プナルは拒絶して立ち去るが、喘息の発作に苦しんでいるところをウールに助けられる。プナルを忘れられないウールは改めて愛を告白し、やがてプナルもそれを受け入れ二人は相思相愛になる。
 こうして目出度く結ばれたかに見える二人だったが、ウールと同じくフェネルバチェのファンだったプナルの父親が、将来の義理の息子と一緒にサッカーの試合を見ようとした際、それがウールの守っているジンクスに触れてしまう。その結果、二人は大喧嘩をしてしまい、二人の婚約も破談。
 じきにウールはそれを悔いて、プナルに赦しを求めるが、プナルは「たかがサッカー」に振り回される男たちの子供っぽさにウンザリ。ウールを拒絶して父親に対しても怒りを爆発させたところ、喘息の発作が起きてそのまま重症化、病院で意識不明の重体になってしまう。
 ウールはプナルを救うため、そして自分が子供から一人前の男になるためにも、フェネルバチェのサポーター仲間に頼んで、一大願掛けをするのだが…といった話。

 まあ、他愛もないと言えば他愛もないロマコメですが、ウールのちょっとイカれた好青年ぶりと、プナルのコケティッシュで溌剌とした魅力もあって、軽く楽しく見られます。
 内容の盛り沢山さという点では、インド映画なんかと同様で、ロマンティックと笑いと人情と涙がテンコモリ。ウールのサッカー狂いのせいで、あちこちでおかしなことになってしまうという部分で笑いをとりながら、それと同時に、何故そんなにフェネルバチェを好きなのかといった理由に、少年時代の父親とのエピソードを絡めて人情味を絡めたり。
 ポップでカラフルな映像や、イタリアン・ポップ風の軽快な劇中歌、コテコテすぎないユーモア感覚も上々。ストーリー的にはもう少し、エピソードにひねりが欲しい感はありますが、人情や泣かせ要素も見せ方がトゥーマッチではないので、全体的に見やすくウェルメイドな印象。テイストとしては、泥臭くないインド映画から歌と踊りを抜いて、更にもうちょいハリウッド映画寄りにした……みたいな感じ。
 後半、ヒロインの生死が危ういという展開にまで至るのは、ちょいとトゥーマッチな感じもあるんですが、サッカーチームの熱狂的なサポーターという要素と、人を愛するというロマンス要素を、《ひたすら捧げる無償の愛》という共通点で重ね合わせて、上手くクライマックスから最後のオチまでを活かしているのが好印象で、さほど鼻白んだ感じにもなりませんでした。
 とはいえ、実は個人的には、とにかくウール役のTolgahan Sayışmanが「カ〜ワイイ !」ので、それだけでもう「全部オッケー!」だったり(笑)。このコを見ているだけでも、一時間半くらい全く苦にならないぞ(笑)。
 キャラクターとしても、ハンサムなんだけどちょっとイカれていて、抜けているところも子供っぽい所もあり、何でもかんでも真っ直ぐで一生懸命で、それが頑張って「男を見せ」て一人前になる……という話なので、もうかなり好みのツボ。かいぐりかいぐりしてやりたい(笑)。

 というわけで、役者の容姿で10点、キャラの魅力でもう10点プラスとなり、個人的には大甘の評価に(笑)。
 でも、罪のないロマンティック・コメディとして、軽く楽しく見られる一本であることは確かです。

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作品2本、”Üç Maymun (Three Monkeys)”+”Uzak(Distant/冬の街)”

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“Üç Maymun” (2008) Nuri Bilge Ceylan
(トルコ盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com米盤DVD英盤DVDもあり)

 2008年製作のトルコ映画、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作品。同年のカンヌでの監督賞受賞作。英題”Three Monkeys”。
 交通事故を起こしたボスの身代わりを引き受けたことにより、お抱え運転手の一家が徐々に崩壊していく様を描いた内容。

 選挙を控えた政治家が、夜道を一人で車を運転中に、人を轢いてしまう。通りがかりの車に、姿は見られなかったもののナンバーは控えられてしまい、政治家は自分のお抱え運転手に、事故の身代わりを引き受けてくれと頼む。服役は長くて数ヶ月、その間の給料も出すと言われ、運転手は身代わりを引き受けることにする。
 運転手には妻と息子が一人いたが、父親の服役中に、息子は受験に失敗してしまう。荒んでいく息子を案じた母親は、息子に頼まれるまま、車を買う金を例の政治家から貰おうとする。政治家は彼女に、金と引き換えに彼女の肉体を要求する。
 母親はその条件を受け入れるが、やがてそれは息子の知る所となり、そして出所してきた父親も、自分が服役している間に家族に何がおきたのか、徐々に知り始め……といった内容。

 ……いや、スゴいわ。
 私にとっては初ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作品ですが、この監督に対する世評の高さも思い切り納得。動きの少ない堅牢な構図と、セリフも少なく音楽も基本的に現実音のみという、実に静かで淡々とした作風ながら、見事なまでの緊張感と面白さ。
 ストーリー自体は、さほど目新しいものではないけれど、それでも「いったいどうなっちゃうんだろう」と目を離せません。ちょっとサイコ・サスペンス的な風味もあり。
 しかしそれ以上に、それぞれのキャラクターが抱えた複雑で重い心情を、セリフに頼らない映像表現によって、ものすごくリアルに、微細な部分まで描き出すあたりが、ホント面白くて見応えがある。簡単な言葉では説明できないような感情を、映像のみで表現していく凄さが素晴らしかった。
 加えて、アンバーを基調色にしたシャドウの深い、映像自体の美しさ。
 カメラは余り動かないタイプですが、堅牢な構図の引きの絵も、シズル感がすごいクローズアップも、どっちも素晴らしくて、思わず何度も「うわ、すごい絵!」と目を見張ったり。個人的には、夢か現かで顕れる幽霊のシーンもツボでした。
 こりゃ、他の作品も見んと……。

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『冬の街』(2002) ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
“Uzak” (2002) Nuri Bilge Ceylan
(英盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk米盤DVDあり)

 というわけで、カンヌでグランプリ(パルムドールの次点)および主演二人が男優賞を受賞という、2002年度作品”Uzak”(英題”Distant”、邦題『冬の街』)も見てみました。
 イスタンブールに住む中年写真家の元に、田舎から従弟の青年が来るという、それだけの話。

 冬のイスタンブール、写真家として成功している中年男マームットは、アパートに独り暮らしで、ときおりデリヘル嬢を買っている。そこに、田舎で失業してしまい、マームットを頼って上京してきた従弟の青年ユースフがやってくる。
 ユースフは居候をしながら、港で船の仕事を探し始めるが、なかなか見つからない。また、二人の関係もライフスタイルの違いから、どこかギクシャクしており……というのがひたすら淡々と続く、ホントそれだけの話。

 これまたセリフはが極端に少なく、感情吐露系のそれに至っては皆無で、音楽もなく現実音のみ。そして、美麗な画面と繊細極まりない演出で、微妙な感情の揺れ動きのみが表現されていく。
 そういった日常的な描写が、何ともまたリアルで、しかも不思議とちっとも飽きさせない。ホント、日常的などうってことない光景が続くだけなんですが、ディテールを見ているだけで面白いという不思議さ。
 ドラマ的には、別れた妻とか母親の病気とか、起伏がまったくないわけではないんですが、それらが発展して何らかのストーリーに繋がっていくかというと、そういうわけでもなく、ただそういった状況下での、喜怒哀楽等の単純な言葉では表現できない、微妙な感情の起伏を描くことに主眼が置かれている感じ。
 そんなこんなで、最もクライマックス的なのが、電気スタンドが倒れるとか(笑)、ネズミ取りにネズミがかかるとか(笑)、そんなことだったりするんですけど、でも不思議と面白いんだよなぁ……何なんだろう、これは(笑)。…… あ、時計がなくなるっていう《事件》もあったな(笑)。
 で、distantというタイトル通り、この映画では主人公二人を筆頭に、人々の間にはそれぞれ心理的な距離があるんですが、これまた縮まりもしなければ離れもしない。う〜ん、こういう非物語志向のドラマってのは、私はあんま得意じゃないんだけど、でもこの面白さは何なんだろう……自分でもちょっと不思議。
 とはいえ、別に辛気くさいとかではなく、例えば二人がビデオでタルコフスキーの映画を見ていて、ユースフが退屈して部屋に戻ってしまうと、マームットがビデオをエロビに交換するとかいったユーモアもあるし、何よりかにより、相変わらず映像美が素晴らしく、特に冬のイスタンブールの港の光景は、その美しい詩情に息を呑むほど
 もちろんこれを見て、これは現代人の置かれている状況を……みたいに解釈することも可能でしょうけど、なんかそれもヤボかなという気も。美麗な映像に酔い痴れながら、繊細な演出に驚きつつ、微妙な感情の起伏をドラマとして味わう、私にはそれで充分って感じ。ネズミの件は、明確にメタファーでしたが。
 あ、あと映像のリズムが生理的に好みに合っているのか、本筋と関係ないディテールでも、「この雪の固まりが落ちるタイミングすごい!」とか、「このネコが横切るタイミング完璧!」とか、ヘンなところでコーフンした箇所があちこちありました(笑)。

 そんなこんなで、このヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督作品、私はすごく好きでしたし、面白いとも思うんですが、ではどこがどう好きなのかと問われると、自分でも上手く説明できない感じ。
 ”Üç Maymun (Three Monkeys)”では、ストーリー的な興味深さや、幽霊といった超現実の介在も、私のツボにヒットしたんですが、それらの要素がない”Uzak(Distant/冬の街)”でも、やはり同様に面白かったということは、こりゃいったいどういうことなんだろう……困ったな(笑)。
 ともあれ、今年のカンヌでまたグランプリを獲ったという新作、”Bir Zamanlar Anadolu’da (Once Upon a Time in Anatolia/昔々、アナトリアで)”も、今度は殺人事件絡みの内容だというので、こりゃまた是非見てみたいものです。