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『さらば美しき人』

さらば美しき人 [DVD] さらば美しき人 (1971) ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ
“Addio, Fratello Crudele” (1971) Giuseppe Patroni Griffi

 個人的なトラウマ&偏愛映画。先日、目出度く国内盤DVDが出たので、早速購入&久々の鑑賞。
 中世イタリア、美しい兄妹の近親相姦と、それが巻き起こす悲劇を描いた物語。
 原作は、シェイクスピアと同時代の劇作家ジョン・フォードの戯曲『あわれ彼女は娼婦』。何でも「裏・ロミオとジュリエット」とも呼ばれるエリザベス朝演劇の名作らしいですが、これって、男優ルパート・エヴェレットの自伝的ゲイ小説『哀れ、ダーリンは娼夫?』のタイトルの元ネタでもあるんですな。
 とにかく、まず絵作りが魅力的。いかにもクラシック然とした古城の佇まいと、そこに配置されたモダン・アートのオブジェを思わせるようなセットの対比は、いま見てもなかなか新鮮。騙し絵のようなベッドの天蓋、砂丘に立ち並ぶ白い旗、水に浮かぶ城、馬を乗せた筏……ちょっとピーター・グリーナウェイの諸作とか、勅使河原宏の『利休』なんかに通じるモノがあります。
 カメラは、一連のベルナルド・ベルトリッチ監督とのコンビを通して、今や完全に名匠として定着した感のあるヴィットリオ・ストラーロ。画面の構成要素が極端に少ないながら、完璧な緊張感を保つコンポジション、光と影を生かした人物の陰影、抑えた色調……ああ、なんて美しいんだ。
 哀感を帯びた古楽のような、美しく魅力的な音楽を付けているのは、エンニオ・モリコーネ。この古典悲劇に重厚さを与えるのに、一役買っています。ところどころ、いささか饒舌に過ぎる感も否めませんが、まあそういう部分もモリコーネの魅力のうちかな。
 監督のジュゼッペ・パトローニ・グリッフィは、他には『スキャンダル 愛の罠』を見た記憶がありますが、これはさほど面白くなかったような……。女が男を監禁する話なんですが、ラウラ・アントネッリが出てたってコトと、ベッドに縛られた男の前で、少女がキーボードを狂ったように弾きまくるってゆー、ヘンなシーンしか覚えていません(笑)。
 さて、映画は前述したような魅力的な世界の中で、近親相姦の悲劇が、ストイックなまでに淡々と、しかし情熱を秘めながら描かれていきます。
 そしてクライマックス、ついにその情熱が爆発……っつーか暴発するんですが、そのコントラストのスゴさといったら! もう私にとってのトラウマ映画となった由縁が、このクライマックスとエンディング。
 興味を削がないように詳述は避けますが、私のマンガがお好きだと言ってくださる方や、残酷美やら鮮血の美学なんて言葉に心惹かれる方、映画の後味が悪くてもぜんぜん平気っていう方だったら、是非ご覧になっていただきたい。
 初見時、タイトルとスチル写真から「ロマンチックでちょっとエッチな悲恋ものかな〜?」なんて軽い気持ちで見ていた私は、このクライマックスで、もう絶句。幕切れの凄まじさにも、ズッシ〜ンと打ちのめされて、以来、忘れじの一作となった次第でして。
 久々に再見したら、最初に見たときほどのダメージはありませんでしたが、それでも今回が初見だった相棒は「……怖すぎ」と申しておりました(笑)。
 悲劇の妹を演じるのは、シャーロット・ランプリング。まだ二十歳ということもあり、透き通るような美しさ。まあ、若いわりには既に口角にシワがあったりしますけど、個人的にご贔屓の女優さんだから気にしないもんね(笑)。いつもと変わらぬ謎めいた魅力も漂わせながら、この作品では、まだ娘っぽい初々しさが残っているのもステキ。
 脇を固める三人の若い男たち、兄役のオリヴァー・トビアスと、結婚相手のファビオ・テスティと、修道士役のアントニオ・ファルジも、それぞれの役割に合った魅力を見せてくれます。特に前者二人はヌード・シーンもあり、カメラの良さも相まって、そのスジ筋ボディが実に美しい。腰布一丁で井戸の底でのたうつオリヴァー・トビアスと、上半身裸にピチピチタイツで裸馬にまたがるファビオ・テスティには、裸身の美しさにフェティッシュな魅力も加わって、共に初見の際にかなりドキドキさせられましたっけ。皆さん、フルフェイスのおヒゲさんってのも、私的には嬉しい限り(笑)。
 父親役のリク・バッタリアは、愛しのスティーヴ・リーブス様と『サンドカン総攻撃』で共演アリってのが、個人的なチェック・ポイント(笑)。
 追記。オリヴァー・トビアスはチ○コも見せてくれます。今回のDVDでは、嬉しいことに無粋なボカシもなし。
 このシーンを偏愛する私は大ヨロコビですが、さて、皆様はどうお感じになられるか、まあ見てのお楽しみということで(笑)。
 もひとつ追記。くれぐれも、同じシャーロット・ランプリング主演の映画『さらば愛しき女(ひと)よ』と、お間違えのなきようにね(笑)。こっちはレイモンド・チャンドラー原作のハードボイルドものですんで。

『スパルタカス』(TV版)

スパルタカス [DVD] 『スパルタカス』(2004)ロバート・ドーンヘルム
“Spartacus” (2004) Robert Dornhelm

『スパルタカス』というと、どうしても1960年版(スタンリー・キューブリック監督作)と比較したくなってしまうのが人の情。でもまあ、TVムービー相手に、それは酷ってもんだよなぁ。
 特にスケールに関しては、1960年版にはあの戦闘シーンがあるからねぇ。丘陵に整然と居並ぶモブのスゴイこと。あれを見たら、この映画に限らず、大概のスペクタクル映画は影が薄くなっちゃう。俳優陣も、あっちは主演のカーク・ダグラスはまあ置いといても(何でじゃ……って、あんまり好きじゃないのよ、私)、他はローレンス・オリヴィエ、チャールズ・ロートン、ピーター・ユスティノフ、ジーン・シモンズなんつー、錚々たる面子だもんなぁ。比べるだけ酷です。
 とはいえ、この2004年版が出来が悪いとか、そーゆーわけでは決してなく、これはこれで充分に楽しませてくれる内容です。
 1960年版は、スケール感のある堂々たる大作ではあるものの、エピック的な単純で骨太な部分と、近代的な人間の内面を描く部分が、いささか乖離を見せいている感が否めない、というのが私的な印象。それに比べると、今回のバージョンは全体的にこぢんまりしている分、逆に人間ドラマ的な部分に焦点がカッチリ合ってる。圧倒的なパースペクティブとか、物量のスゴさといった、スペクタクル映画的な興奮度には欠けるが、その分、ドラマ的な面白さがタップリあります。
 鉱山奴隷だったスパルタカスが剣闘士養成所の所長に目を付けられて買い取られ、剣闘士としての訓練を受けつつ、やがて反乱を起こしてローマに戦いを挑むといった前半の展開は、けっこう細かな部分も含めて1960年版とほぼ同じ。これはきっと、原作としてクレジットされているハワード・ファストの小説が、こういうお話なんでしょうな。
 後半、スパルタカスが反乱軍を興して以降は、若干展開が異なってきます。今回は反乱軍対ローマ軍の細かな戦闘が幾つもあり、そこにローマ側のパワーゲームが絡んできたり、反乱軍の内部も、単細胞のガリア人とか、思慮深いユダヤ人とか、ベビーフェイスだけど脱ぐとスゴいマッチョとか(笑)、キャラが立っているせいもあって、なかなか面白く進めてくれる。ここいらへんは、ちょっと『ブレイブハート』みたいな感じ。
 あとまあ、あんまりネタバレになるのもアレなので詳述は避けますが、ラストもところどころちょっと変わっている。まあ、いきなり三角関係みたいな話になっちゃって「???」となるあたりは同じですが(笑)。冒頭からしつこく出てくるアレは、絶対にラスト・シーンの伏線だと思ったのに、それがなかったのは、ちと拍子抜け。
 全体を通して、当然のことながらクラシック作品と比較すると展開のテンポが早いので、冗長さは全くない。ただ、その反面、悪く言えば重厚さには欠けるので、これはもうどちらが好みに合うか、人それぞれでしょう。
 美術やセットは、TVムービーでこれだけ見せてくれるんだから、これはもう充分以上に合格点。細部の汚し等のリアル感などは、逆に昔の映画では無かった味わいだし、アレコレ重箱の隅つついて文句言う必要もないでしょう。
 
 主演のゴラン・ヴィシュニックは、TVシリーズ『ER』に出てた方らしい(実は『ER』を見たことがない私)です。ルックスの方は、若干鼻の穴が目立つのが気にはなるものの(笑)、まあ「GQ」あたりの表紙を飾りそうな、スーツが似合いそうなフツーにカッコイイお方でした。ただ、正直なところ、こーゆーコスプレは似合わないな〜。特に皮鎧の剣闘士スタイルは、肩幅が足りないせいもあって、もう絶望的なまでに似合わない。その余りの似合わなさに、私同様にカーク・ダグラスがあまり好きではない相棒も「う〜ん、これだったらカーク・ダグラスの方がまだマシかも……」なんて申しておりました(笑)。
 仇役クラッススのアンガス・マクファーデンは、どっかで見た顔だと思ったら、同じくTVムービーの『アルゴノーツ 伝説の冒険者たち』(佳品)でゼウス役を演っていたお方ですな。他にも『ブレイブハート』や『タイタス』なんかでお見かけしました。自信過剰で憎々しいんだけどビミョーに小物でもある感じ、悪くないです。でもこの方、今回初めて知ったけど、首の上と下が「別人?」ってくらい雰囲気が違うのね。顔だけ見ると、さほど太っているようなカンジはしないのに、ヌード・シーンでは見事なまでの太鼓腹。思わず、撫で回したくなります(笑)。
 ヒロインを演じるロナ・ミトゥラも、芯の強さと同時に凛とした気品のようなものも感じさせ、なかなか美しくて良うございました。
 アグリッパ役のアラン・ベイツは、これは流石。単純に悪とも善とも言えない複雑な役どころですが、しっかり魅力的に見せてくれます。特にラスト近辺なんか、この人によって映画全体がかなり救われている印象。ただ、エンドクレジットに Dedicated to … の文字が出て、初めて知ってビックリしたんですが、この方、昨年亡くなられていたんですねぇ。個人的に、ケン・ラッセルの『恋する女たち』で魅せられて以来「出てくると嬉しい俳優さん」のお一人だったし、最近でも『ゴスフォード・パーク』やTVムービーの『アラビアン・ナイト』なんかで再会できて嬉しかっただけに、何とも残念であります。そういえば、その『恋する女たち』で一緒に素っ裸でレスリングを見せてくれたオリバー・リードも、同様の史劇『グラディエーター』が遺作になってしまったっけ。う〜む、ちょっとシンミリ。
 その他、前述の「アタシ、脱ぐとスゴイんです」ベビーフェイス君(このコはかなりカワイイ)や、反乱のきっかけとなる黒人剣闘士、その他モロモロ、マッチョ好きには目のご馳走のお方たちも、まあイロイロよりどりみどり(笑)。
 ああ、そういや『エクソシスト ビギニング』に引き続き、これにもベン・クロスが出てたなぁ。こっちは情けない役だった(笑)。
 え〜、責め場についても書いておきましょうか(笑)。
 まず主演のスパルタカス君、冒頭の鉱山シーンで、タコ殴りに鞭打ちの後、磔姿を見せてくれます。鞭打ちは打撃とシンクロして肌に赤筋が走るし、磔は位置がかなり高いことと、両脚が少し開かされていることもあって、この一連のシークエンスはなかなかヨロシイです。カーク・ダグラスみたいに着衣なんて無粋なこともなく、ちゃんと腰布一枚だし。
 また、羞恥責め系ですが、ユダヤ人奴隷剣闘士が、「え〜、ユダヤ人って割礼するんでしょ〜、アタシ、割礼した○○○って見たことな〜い」とヌカすスケベ女に、腰布解いてソレを見せろと強要されるシーンなんぞもあり。私、けっこう好きです、こーゆーの(笑)。
 あと、放火犯が、見せ物として磔で火炙りにされるシーンなんてのもあったっけ。
 ラストの有名なシーンは、現在の技術を生かしてスゴい画面を見せてくれるかと期待していたんですが、残念ながら比較的アッサリ気味。でもまあ、絵面としては悪くなかったけど。
 責め場らしい責め場はこんなもんですが、まあ奴隷剣闘士の反乱の話ですから、鎖に繋がれたり檻に入れられたり、殺し合いをさせられたりするシーンは枚挙に暇がありませんし、男の半裸もふんだんに出てきますんで、そーゆー意味でのお楽しみは盛り沢山です(笑)。
 もう一つ。
 1960年版では、ホモセクシュアルの要素があったことが有名(そのシーンは長らく削除されていたが、現在販売されている「完全版」DVDでは復元されている)ですが、残念ながら今回のヴァージョンでは、そこいらへんの絡みはハナっからいっさいナシ。ソッチを期待すると肩すかし食らいますんで、ご注意をば。

“Retro Stud”

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“Retro Stud” David Chapman
ここんとこ、続けざまにソード&サンダル映画について書いていたら、タイミング良くこんな本を入手。
副題に Muscle Movie Posters from Around the World とあるように、50’s〜70’sのソード&サンダル(+マッスル)映画のポスターをコレクションした画集です。いや〜ン、欲しかったのよ、こんな本(笑)。
版型は約22×21センチでハードカバー。およそ130ページ弱、フルカラーで、スティーブ・リーブス、ゴードン・スコット、レジ・パーク、マーク・フォレスト、ブラッド・ハリス、アラン・スティール、カーク・モリス、ダン・ヴァディス、ゴードン・ミッチェル、etc、etcの主演映画ポスター画像が、これでもか、これでもかってなくらいに収録されております。
もう、どのページめくっても半裸のマッチョばっかりで、皆さん顔を顰めて歯ァ剥いて、鎖をブン廻したり、人や巨石を持ち上げたり、縛られて悶えたり、スパイクの生えた石壁に押し潰されそうで危機一髪だったり……ああ、暑苦しい(笑)。
Around the World と銘打つだけあって、アメリカ、イタリア、フランスあたりはモチロンのこと、ベルギー、スペイン、メキシコはおろか、トルコのポスターまで収録されているのにはビックリ。
見比べると、いろいろお国柄があって面白いです。イタリアは筋肉描写にリキが入っているのが多く、流石にルネッサンスのお膝元ってカンジだし、フランスは変に色が鮮やかだったり筋肉がアッサリだったりして、ロココか印象派ってカンジ(ホントかよ)。トルコのポスターは、なんかキッチュでかわいいなぁ(笑)。日本のポスターがないのは残念。
印刷・造本等のクォリティはおおむね良好ですが、アップの図版の中には、デジタル製版でモアレを回避する際の弊害なのか、微妙な色ムラや粒状感といったノイズが出ているのものがあるのは残念。
あと、図版の収録数が多い反面、どうしてもサイズが小さくなってしまうものもあり、これは仕方ないこととはいえ、でもやっぱり全部でっかいサイズで見たかった……ってのは、ワガママなファン心理か(笑)。
“Retro Stud” (amazon.co.jp)

『ヘラクレス』&『ヘラクレスの逆襲』

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『ヘラクレス』(1957)+『ヘラクレスの逆襲』(1959)ピエトロ・フランシスキ
“Die unglaublichen Abenteuer des Herkules” (1957) + “Herkules und die Konigin der Amazonen” (1959) Pietro Francisci
(前回の続き)というわけで、こういった映画の元祖にして定番中の定番である、スティーブ・リーブス主演のヘラクレス映画二本(因みに伊語原題はそれぞれ”Le Fatiche di Ercole”と”Ercole e Ia Regina di Lidia”、英題は”Hercules”と”Hercules Unchained”)のドイツ盤DVDを買ってみました。二枚組ワンセットのお買い得盤です。
で、結論から申し上げましょう。このドイツ盤、かなり「当たり」でした。
残念ながら現在販売されている米盤は、『ヘラクレス』は退色してディテールも潰れ、傷やノイズも多く、音声も割れ……と、フィルムの状態がかなり悪い。加えて画面も、トリミングで左右が切れたテレビサイズで、クォリティ的には下の上クラス。『ヘラクレスの逆襲』(以下『逆襲』)は、『ヘラクレス』に比べると若干状態が良いですが、それでも暗部の潰れやディテールの再現性には不満が残るし、やはりトリミング版なので、中の中どまり。
対してドイツ盤(あ、もちろんPALです。リージョンは2)は、まず二作共にノー・トリミング版。『ヘラクレス』はスクィーズなしのビスタのレターボックスですが、『逆襲』はシネスコのスクィーズ収録。
画質もかなり良く、『ヘラクレス』の方がいささか劣り、少々ボケている感はありますが、退色もなく、発色は極めて美麗。上の下クラス。『逆襲』は更に状態が良く、米メジャー作品のDVDと比較しても全く遜色のない(いや、下手なクラシック作品と比べると上回るかも)上の上クラス。
この画質の良さは実にありがたく、特に花や泉や海といったロマンチックな色彩設計のシーンや、また、色照明や凝ったセットによる人工美のシーン(ここいらへんは、この二作で撮影と照明を兼任し、後のイタリアン・ホラー映画で名を馳せるマリオ・バーヴァが、その実力のほどをたっぷりと発揮しています)などでは、その差は歴然とします。ホント、『逆襲』のオンファーレの宮殿なんか、こうやって改めて高画質で見ると、もう溜め息が出るほど美しい。まるで、動く「ピエールとジル」です。
音声も割れやノイズはなく、加えてありがたいことに独語と英語の二カ国語収録。ただこの英語音声は米盤に収録されているものとはまた別のバージョンのようで、役者の声も違うようだし(独盤収録の英語音声は、米盤と比べるとリーブスの声が少し高め)、セリフの内容が変わっている部分もありました。
一つ残念なのは、独盤は米盤よりランニング・タイムが短いこと。
『ヘラクレス』は、米盤が105分なのに対して、独盤は88分と20分近く短い。『逆襲』も、米盤の98分に対して、独盤は90分と、これまた10分近く短い。
どこがどうカットされているのか、厳密に比較していないので詳しくは判りませんが、『ヘラクレス』をざっと見て気付いたところでは、イフィトス(イフィト)がライオンに殺された後ヘラクレスがシビラの元に再度赴くシーンと、アルゴ船の出航前にヘラクレスとイオレ(ヨーレ)が噴水の前で諍うシーンが、丸々カット。特に前者は、雷雨の中でヘラクレスが父ゼウス(ジュピター)に呼びかける、いわば「見得を切る」良いシーンなので、ここがないのはかなり残念。他にも、細かいところであちこちつままれているかも知れません。
また、オープニング・クレジットのデザインも違うし、米盤にはあったエンド・クレジットが、独盤にはない等の違いもありました。もっともこれらはどちらがオリジナルに近いのか、日本公開当時まだ生まれていなかった私には判りませんが……。
まあとにかく、このランニング・タイムの短さという点さえなければ、ほぼ百点満点のソフトなだけに何とも残念です。
映像特典は特になし。映画の予告編が入っていますが、同じメーカーから出ている新作映画(『バレット・モンク』とか『アンダーワールド』とか……)ばかりで、『ヘラクレス』や他のソード&サンダル映画とは何も関係なし。
ただ、『逆襲』の米国版オリジナル・ポスターのレプリカ(ジャケットに使われているのと同じ図柄で、およそB3サイズ)が、オマケに付いていまして、これはちょっと嬉しいかも。折り畳まれて、パッケージの中に入っています。
何だか映画の内容についてはちっとも触れていませんが、とにかく、これらの映画で見せるスティーブ・リーブスの「神のごとき美しさ」は、この後ゾロゾロ出てきた他のフォロワーとは確実に一線を画していますし、現代に至るまで比肩する男優はいない、と、個人的には考えております。動くギリシャ彫刻というものがあるとすれば、それはまさにこのリーブスのことでしょう。
フランシスキ監督の、品格がありつつ同時に程良い俗っぽさもある、娯楽大作のツボを押さえた安定した演出も良い。私はこの監督の作品は、これら以外は”The Queen of Sheba (La Regina di Saba)” (1952) を見ただけですが、そのときも同じ印象を抱きました。前述したような画面づくりの美しさや、あるいは神殿の倒壊や合戦などのスペクタクル・シーンも、大きな見所の一つ。まあ、たまに覗くB級っぽさも、それはそれでご愛敬(笑)。
二作通じてのヒロインであるシルヴァ・コシナの、まだセクシー系になる以前の初々しい白いミニスカ姿を楽しむも良し、『ヘラクレス』のアマゾンの女王や『逆襲』のオンファーレのような、どーみてもドラァグ・クィーンにしか見えないほどのゴージャスなオンナっぷりを楽しむも良し。特にオンファーレは、個人的に「あんた『黒蜥蜴』かいっ?!」ってカンジで、もう大好き(笑)。
あるいは、『ヘラクレス』の若い戦士のトレーニング場のシーンで、仄かに香る「フィジーク・ピクトリアル」的なホモ・エロティシズムや、『逆襲』でのヘラクレスとオデュッセウス(ユリシーズ)の関係に、微かなホモ・セクシュアルの気配を感じるのも、お楽しみの一つかも。
いや、実はこういった関係性の描き方とか、前述したようなゴージャスな画面作りとか、女性キャラの描き方とか、とにかくミョーに「そこはかとなくゲイっぽい」んだよな〜、この二作は(笑)。
で、この二作、実は「責め場」は全くありません。いちおうリーブスは敵にとっ捕まったりしますし、いたるところでその怪力っぷり(という名のもとの筋肉美)を見せてはくれますが、いわゆる拷問されたりはしないんですな。ジャケになってるポスター画像も、実はこんなシーンはどこにもありゃしないし(笑)。
とはいえ、やはりこの二作は、ソード・&サンダル(+マッスル)映画の、マスターピースにしてエバーグリーン。必見の名品です。
なのに、国内ではDVDはおろかビデオも出ていないなんてなぁ……(泣)。

“Die Ruckkehr der Starksten Gladiatoren der Welt”

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“Die Ruckkehr der Starksten Gladiatoren der Welt” (1971) Bitto Albertini
ブラッド・ハリス主演のソード&サンダルもの輸入DVD。ドイツ盤なんで、タイトルも独語。伊語原題は”Il Ritorno del Gladiatore piu Forte del Mondo”っつーらしいんですが、英題や邦題は調べたけど判りませんでした。
オハナシは……すいません、ドイツ語なんてチンプンカンプンなんで、サッパリ判りません(笑)。
ともあれ舞台は、キリスト教が迫害されていた頃のローマ。迫害されるキリスト教徒を庇った軍人(タイトルにはグラディエーターとあるけど、そんなカンジはしなかったなぁ)が、政敵に陥れられて無実の罪を着せられたり、山賊(だと思う)の一人を味方に付けて暴れたり、ローマとゲルマン人(だと思うんだけど)の戦いがあったり……う〜ん、やっぱりよーワカラン(笑)。まあ、とにかくイロイロあって、大戦闘の末に仇敵を倒して、城を落として「いい人たち」を助けて万々歳。
戦闘シーンは、モブも多いしスケールもけっこうでかいし、なかなかの迫力ではありますが、おそらくこれは、他の大作のフッテージの流用だろうなぁ。メイン・キャラとモブが、同一画面で絡まないしね。だから、クライマックスはせっかく大戦闘シーンなのに、カンジンの仇敵を倒す場面は、誰もいない野っぱらでタイマン勝負(笑)。
主演のブラッド・ハリスは、今回はヒゲ全くナシのツルツル顔なんで、案の定、ぜんぜんイケませんでした(笑)。肉体の方も、この間の”Samson”から十年後に撮られた映画のせいか、残年ながらかなり萎んじゃっていて、お肌の方もしなび気味。まあそれでも、マッチョはマッチョなんですけどね。
仇敵を演じるジョン・バラクーダことマッシモ・セラートは、このテのソード&サンダル映画だと、ミッキー・ハージティ&ジェーン・マンスフィールドというオカマウケ必至の夫婦(何故だか判らない方は、ジェーンのことをググって調べてね。その生き様を知ったなら、例え主演映画は一本も見たことなくっても、オカマ心の持ち主ならばファンになること間違いなしだから)が主演した”The Loves of Hercules”(「B級もここまでいけば天晴れ!」ってなカンジの爆笑映画です)の仇役なんかで見覚えがありますが、他にもイロイロ出ているみたいですね。ソード&サンダル以外でも、ニコラス・ローグの『赤い影』(大好き!)に出てたなんて……う〜ん、ちっとも覚えていない(笑)。
さて、お楽しみの責め場の方ですが、この映画では一カ所だけです。
DVDのジャケット(オリジナル・ポスターの図柄らしい)にもなっている、両手首を縄で縛られ、左右から馬に引っ張られる「馬裂き」シーン。まあ、このテの映画では、もう何度見たか判らないくらいお馴染みの責め場ですが、ハリス君、なかなか熱演していてけっこうヨロシイ。筋なんかギンギンに浮かび上がって、表情も苦しそうで迫力あります。
また、このシーンの前には、腰布一丁でセント・アンドリュース・クロス(X字刑架)に磔になっているショットが(短いけど)あるし、馬裂きの後にも、ぐったりとなったハリス君を、兵士たちが左右から押さえて、腹にパンチ、棒きれでタコ殴り、地面に倒れたところを蹴っ飛ばす……なんてシーンが続くのもヨロシイ。
全編通して、ハリス君が肌を見せるのはここオンリーだけど、出し惜しみしただけあって(そうかぁ?)、そう長いシーンではないにも関わらず、満足度はけっこうあります。それをポスターにするんだから、まあ制作者も観客が何を見たがっているのかはお判りのようで。私自身、まんまとそれにつられてジャケ買いしちゃったわけだし(笑)。
ドイツ盤なんで、当然NTSCではなくPALのDVDです。リージョンは2。画像サイズはノートリミングで、スクィーズなしのワイド、レターボックス収録。音声は独語吹き替えのみで、おそらく音楽も差し変わってるっぽい。字幕なし。特典は映画のスチル数点&オリジナル・ポスター画像のスライド・ショー。スチルの方はモアレが出ているので、印刷物からのスキャンっぽいですな。
画質の方は、かなり良いです。色味は若干黄色がかっていますが、退色はそれほど目立たず、充分許容範囲内。ディテールも鮮明で、暗部のツブれもなし。まあ贅沢を言えばきりがないけど、これならほぼ問題なしのクォリティと言えるのでは。上の下ってとこでしょうか。
さて今回の買い物で、「ひょっとしてドイツ盤のソード&サンダル系DVDは、フランス盤同様に、画質的に比較的ハイ・クォリティ揃いかも?」と味をしめたので、今後は集中してドイツ盤をいくつか購入してみる予定。ドイツ語わかんないクセに(笑)。

“Samson”

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“Samson” (1961) Gianfranco Parolini
またまた輸入DVDのご紹介。ブラッド・ハリス主演のソード&サンダル映画です。
ヤヤコシイことにIMDBを見ると、この”Samson”(伊語原題”Sansone”)の他に、制作年も監督もキャストも全く同じ”The Fury of Hercules”(伊語原題”La Furia di Ercole”)という映画が、別々の作品としてクレジットされている。後者は『ヘラクレスの怒り』というタイトルで日本公開もされているっぽいんですが、果たしてこの二本は同じ映画なのか。配役表を見ると、同じ役者でも役名がそれぞれ違う。ハリスの役名は、前者はサムソンで後者はヘラクレス。共演のやはりマッチョ俳優であるアラン・スティール(珍作だけど責め場はなかなか良い”Hercules Against the Moon Men”の人です)の役名も、前者はマシーニョで後者はカルドス。さらにヤヤコシイことに、前者の仏語版”Samson contre Hercule”では、スティールの役名は更にエルキュール(つまりヘラクレスですな)に変わってたりするんで、あーもうヤヤコシイ(笑)。多分、それぞれ固有名詞を変えているだけで、話や画像自体は同じ作品だと思うんですけど。
話の内容は、とある国(祀っている神がヴォータンだったりするので、イメージとしては北方系? でもヴィジュアルはギリシャ・ローマってカンジだけど)で、悪の女王と腹心の宰相が、本物の女王を地下牢に監禁して、国を乗っ取って支配していると、そこにサムソン(念のため、こーゆー映画の常ですが、旧約聖書のアレとはまったく関係ありません。単に怪力の英雄の名前ってことで。このサムソン君は「ゼウスよ!」なんて言ったりするんで、おそらくギリシャ系なんでしょう)がやってきて、国を本来の女王の手に取り戻す……ってなもの。で、実は悪の女王はサムソンと昔恋仲だったり、侍女は本当は正統の女王の忠臣で、しかもサムソンが偶然出会ったもう一人の怪力男(これがアラン・スティール)の妹だったり……ってなドラマが絡みます。
まあ話自体は、ありきたりとは言えそんなにつまらなくはないんですが、いかんせん演出が悪いんで、どうも全体的にノンベンダラリとした印象。殴り合いのケンカやら、レスリングやら、拷問やら、闘技大会やら、それなりに盛り沢山ではあるんですが、どれもこれも演出にタメがないので緊迫感がない、ワザとらしいコメディー・リリーフのヤセとデブ二人組による、下手なユーモア描写もマイナス要因にしかなってないし、スケール感も乏しく、セット共々このテの映画ではありがちな安さが漂う……ってなわけで、どうにもこれといった見所に乏しい。
ただ、一つヘンな見所(?)はありまして、悪の女王の宰相を演じているのが、何と若かりし頃のセルジュ・ゲーンズブル(!)なのだ。真っ赤なヒラヒラのチュニック着て、鞭を片手にヘンタイっぽい演技。アンタ、こんな仕事やってたのかい(笑)。
ブラッド・ハリスは、ガタイはいいですね〜。筋肉モリモリだし、固そうだし、切れもいい。顔は、まあそんなに好きなタイプじゃないけど、今回はフルフェイスのヒゲが似合ってるのでOK。そういや、ナチ女囚拷問映画『獣人地獄!ナチ女収容所』(トンデモナイ映画なんだけど、実はけっこう好き)で、やはりフルフェイスのおヒゲで神父さん役をやってたときも、けっこうイケたっけ。でも、ヒゲを剃ったら絶対イケないタイプだろうなぁ(笑)。同じ女囚モノの『(秘)ナチス残酷物語/アフリカ拷問収容所』(ホンットーにショーもない映画だけど、実はブラッド・ハリス以外にも、『七人のあばれ者』のリチャード・ハリソンとか、これまた果てしなく安い珍作なんだけど責め場だけはけっこう良い”Giant of Metropolis”のゴードン・ミッチェルといった、往年のマッスル・スターが揃い踏みだったりする)とか、『超人ハルク』で有名なルー・フェリグノの『超人ヘラクレス』(これもアホな映画だけど、実はけっこう好き。DVD化を切に希望)なんかにも出てたみたいだけど、そっちはちっとも記憶にないや。
ハリスとタイマンはるアラン・スティールも、肉体の重量感はバッチリ。ただ、ハリスの筋肉がなんとなく岩っぽいゴツさなのに対して、スティールの筋肉はちょっとお饅頭っぽい丸さ。マーク・フォレストなんかも、このお饅頭系ですな。アタクシはゴツい方が好きなので、ハリスの身体の方が好みでございます。スティールの顔は、何だかジャガイモみたいで可愛いんですが、今回はヒゲがないからな〜……ヒゲフェチの私としては、ちと物足りない。
さて、お楽しみの「責め場」でございます。
まず、サムソンが石牢に閉じこめられ、ハンドルが廻されると、別室の部下二人が手首を鎖で吊り上げられ、同時にサムソンにも鉄のスパイクの生えた石壁が迫ってくる……というシーン。アイデアは悪くないんですが、前述した演出の悪さで緊迫感ゼロ。手首吊りはちっとも辛そうに見えないし、石壁も怪力であっさりクリア。む〜ん、こんなんじゃ物足りんわい。
次に、馬裂きにされそうになる侍女の救出シーン。サムソンが現場に駆けつけ、侍女の手首の縄を握って耐える……と思ったのもつかの間、これもあっさりクリア。物足りなさ×2。
クライマックスの闘技場のシーン、その1。燃える炎を挟んで、サムソンが多勢を相手に鎖で綱引き。じりじり引きずられて、肌が炎に炙られそうになる……なんてオイシイ描写もなく、またまたあっさりクリア。物足りなさ×3。
闘技場、その2。サムソンが目隠しをされて、丸木橋の上に乗せられ、剣で闘わされる。丸木橋の下は、一面の鉄のスパイク。しかも闘う相手は、アラン・スティール演じる朋友! 彼もまた目隠しをされていて、互いに相手が誰だか判らない。闇雲に振り回す二人の剣が触れ合い、丸木橋から落ちそうになり……なんてスリルもそこそこに、相手が「かかってこい!」ってな一声。サムソンは目隠しを外して「お前かぁ!」相手も目隠し外して「サムソン!」あとは二人で力を合わせて悪人退治。ここらへんで、物足りなさは既に臨界点に。
まったくもー、どれもこれも演出が悪すぎ!
ただまあ、「責め場」以外の「肉体の見せ場」は、こちらはそれなりに充実しております。
開始早々、偶然であった半裸のマッチョ二人は、狩りの獲物のイノシシ巡って殴り合い。ガツンと殴られると、相手の強さに感心して「はっはっはっ」と笑い、殴り返す。で、取っ組み合って、投げ合って、ケンカの最中にリンゴ囓って、また殴り合い。う〜ん、体育会系(笑)。重量級二人の筋肉のぶつかり合いを、タップリ堪能できます。
それからも、サムソンが宮殿でレスリングの御前試合したり、酒蔵で再会した怪力男二人が、またまた殴り合ったり、二人で力を合わせて、寺院の石柱を引き倒したり(ここは演出のマズさ=タメがないので、イマイチですが)、まあマッチョ一人より二人の方が二度オイシイってなわけで、肉体美そのものはタップリ拝ませていただけます。
DVDのリージョンはフリー、画像サイズはトリミングされたTVサイズ。字幕・特典共に無し。
画質はかなりボケていて、しかも退色も激しく、全般に赤茶けちゃってます。中の下。
“Samson” DVD (amazon.com)

samsoncontrehercule
で、実はこの映画、PAL版のDVDも出てまして、それがこちらの”Samson contre Hercule”。
フランス盤です。そのせいか、ジャケットにハリスやスティールの名前はなくても、ゲーンズブールの名前だけはしっかり入ってる(笑)。
こちらの画質は、アメリカ盤に比べるとかなり良好。多少はボケてますが、それでもディテールの再現性はアメリカ盤を遙かに凌ぐし、加えて色もビックリするほどキレイで鮮やか。
リージョン・コードは2。画像サイズはノートリミングで、スクィーズなしのレターボックス収録。トリミング版だと避けられない、ワイド画面の構図の狂いがないのは、やっぱ良い。音声は仏語吹き替えのみ。字幕無し。特典は、予告編(ただしオリジナルではなく、同じ会社が発売しているソード&サンダル関係のソフトの画像を、独自に編集したもの)、ハリス、ゲーンズブール、監督のフィルモグラフィー(仏語ですけど)、フォトギャラリー(のふりして、実はスチルではなく、単にビデオのキャプチャー画像を並べただけというインチキもの)。
まあ、とにかく画質で言うなら、こっちの方が断然「勝ち」なので、PALの再生環境をお持ちの方なら、フランス盤の方がオススメです。
あ、でもジャケはちょっといただけないけど(笑)。

“Samson and the Seven Miracles of the World”

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“Samson and the Seven Miracles of the World” (1961) Riccardo Freda
新着輸入DVDのご紹介。ゴードン・スコット主演のソード&サンダル映画です。
タイトルを直訳すると『サムソンと世界の七不思議』だけど、映画のストーリーとはな〜んも関係なし(笑)。舞台はモンゴル民族に征服されていた頃の中国で、圧政に苦しむ人民と、反乱軍と、それを後押ししている僧院、そして中国の正統のプリンセス(ヨーコ・タニ)を、いずこからか遣わされた半裸のマッスル・ヒーローが救う……って、どこが世界の七不思議だ(笑)。
監督は、ジャケではリッカルド・パロティーニとなっていますが、IMDBで調べると、リッカルド・フレーダとクレジットされてます。マッスル系やソード&サンダル系だと、スティーブ・リーブスの『怪傑白魔』や、カーク・モリスの”The Witch’s Curse”、スパルタカスものの”Sins of Rome”、アルゴナウティカものの”The Giants of Thessaly”なんてのを撮った監督さんですな。
で、今回の”Samson and the Seven Miracles of the World”ですが、まあお約束通りの展開とはいえ、途中で飽きさせたり萎えさせたりすることもないし、ロケやセットのスケール感もあるし、全体的にはなかなか堅実な仕上がり。特筆すべきは、ヒーローがチャリオット相手に大立ち回りを演じるアクション・シーン。ここはかなりの迫力で見せます。クライマックスの王宮の崩壊シーンも悪くない。
音楽は、エキゾ系・ラウンジ系で有名なレス・バクスター。いかにもスペクタクル映画然とした音楽に加え、今回は中国が舞台ということもあり、お得意のエキゾものっぽい要素も聞かせてくれて、これはなかなか良いです。

ゴードン・スコットは、こういった神話的なヒーローものを演じるには、正直顔も身体もイマイチ押しが弱いんだけど(美形というよりは人好きのする好青年どまりだし、バルクもさほどない)、ただ、そこいらへんのフツーっぽさに、個人的には何となく色気を感じるので、けっこう好きな役者さんです。言うなれば、ナチュラル・マッチョってカンジでしょうか。
このスコット君、映画の中ではジャケ写のような、徹頭徹尾腰布一丁のお姿なんですが、他の登場人物は、中華ものというせいもあって、皆さんフツーに長袖長ズボンの衣類を着ておられる。で、この着衣の集団の中で、一人だけ半裸ってのが、何だか羞恥プレイみたいで変に面白い。奇妙に歪んだエロスを感じてしまいました(笑)。
ヒロインのヨーコ・タニは、あたしゃこの映画で初めて知りましたが、古い映画ファンなら名前を記憶している、海外で活躍した日本人俳優の草分け的存在らしいです。他にも、悪の一味なんだけどヒーローに心動かされるヴァンプ系美女とか、幼いけど勇気はある王子様など、脇キャラにもけっこう魅力的な顔ぶれ多し。
さて、このテの映画のお約束ア〜ンド個人的なお楽しみの一つ、「ヒーローの責め場」に関してですが、今回スコット君が受ける責めは、壁に開いた細長い穴(棺桶くらいのサイズ)の中に横たえられ、手足を鎖で繋がれて、そのまま蓋をされて生き埋めにされる……ってな、比較的地味なもの。
心理的な圧迫感を考えると、それなりに良いカンジの責めではあるんですが、こーゆーのって、小説ならともかく(バローズのペルシダー・シリーズのどっかで、主人公が真っ暗な穴に監禁されて、精神に異常をきたしていく……ってなシーンがあり、けっこうコーフンした記憶があります。しかもそこに大蛇が入ってきて、裸の肌にウロコが触れ合い……ってな展開もエロかった)、ヴィジュアル的には動きもインパクトもないので、映像としてそれほど面白くはないのは残念。
ただ、その他大勢への責め場も含めると、中華風の板の首枷をはめられて連行されたり、首から上だけ残して身体を土の中に埋められて、チャリオットに付いた刃で首を刈り取られる……なんつーシーンがあります。あと、美女が鞭で打たれるシーンなんてのもございますが、残念ながらアタクシは、そんなもの見ても面白くもなんともございません(笑)。まあ、鞭打った傷を、塩水に浸した羽でなぞって更に苦しめるなんてのは、ネタとしてはよろしゅうございましたが。
DVDのリージョンはフリー。画像サイズはノートリミングで、スクイーズなしのレターボックス。字幕無し。映像特典として予告編を収録。
画質の方は、かなりボケ気味だし、暗部もつぶれちゃってますが、とりあえず色が残っているだけマシ。こういった海外のB級もののソフトとしては、中の上ってトコでしょうか。ヒドいのはホントにヒドい画質ですから。まあ、そもそも定価7ドルもしない廉価盤ですからね。けっこう良い方だと思います。
あ、でも間違っても、日本でフツーに売られているDVDとかと比較しちゃいけません。「なんじゃこの劣悪画質は!」ってコトになります(笑)。
“Samson and the Seven Miracles of the World” DVD (amazon.com)

『ワイヤー・イン・ザ・ブラッド』

ワイヤー・イン・ザ・ブラッド DVD-BOX 『ワイヤー・イン・ザ・ブラッド』アンドリュー・グリーヴ
“Wire In The Blood” Andrew Grieve

 レンタルDVDで鑑賞。

 まず、素っ裸の男が磔刑に処せられているような、血みどろホラー系のジャケがイカしてます。
 加えて内容はサイコ・サスペンスもので、描かれる事件は「残酷な拷問を受けて殺された、全裸死体が次々と発見された。しかも犠牲者はいずれも30歳前後の壮健な男性」とくれば、こりゃあ私としては見るっきゃないってカンジでしょ? 実際、ソッチ系で趣味を同じくするジープロのろん君からも「見ました〜?」って聞かれたし(笑)。
 とはいえ、実はこれは劇場用映画ではなくイギリス製のTVシリーズなので、当然のごとく、それほど過激な描写はございません。イカしたジャケも「イメージ写真」の類らしく、本編にそういうシーンはない。ホラー味・スプラッタ味は皆無で、そういった描写そのものは、このテの映画の嚆矢である『羊たちの沈黙』なんかと比べてもずっと大人しいんで、心臓の弱い方でも安心してご覧いただけます。

 お話しの大筋は「心理学専門の男性教授が、女性警察官に協力して、連続猟奇殺人の犯人をプロファイリングしていく」という「どっかで聞いたような話」ではありますが、それなりに途中で飽きさせることもなく無難に引っ張っていきます。TVシリーズ的にキャラを立てるためか、何かとゴチャゴチャと枝葉が多いのは、まあ楽しくもあり、時に鬱陶しくもあり。

 では、お目当ての拷問マニア向けの鑑賞ポイントをば。
 前述したように比較的大人しめのTVモノなんで、拷問マニアが一番「見たい!」と思うようなそのものズバリのシーンは、ぶっちゃけたところありません。ただ、それでも要所要所で、それなりに「好き者のツボ」も押さえてくれます。
 一番グッときたのは、「犯人が警察にビデオを送りつけ、それには誘拐された警察官(いちおうジム通いもしていて体格も良く、笑顔もカワイイ人好きのする好青年)が、カメラに向かって泣きながら自己紹介した後に惨殺される光景が映っていた」というヤツ。この無惨味・残酷味は、なかなか良ろしい。
 犯人が、「座部のない椅子の下部に、金属の円錐に有刺鉄線を巻き付けたものを取り付け、それで肛門を串刺しにする」ような拷問器具を手作りしているディテールとか、「気を失った男の服をハサミで切り裂き、全裸にした後、手足に拷問用の枷などを順々に装着していく」といったプロセスの描写があったりするのも良い。これ、拷問マニア的にはけっこう重要。自分のマンガでもそうなんですけど、こういった「拷問の準備段階の描写」が、一コマでもいいからあるのとないのとでは印象が大違い。
 クライマックスの「全裸男性への古典的な吊り責め」シーンが長めなのも、ポイント高し。加えて受刑者の胸のおケケがフッサフサなので、個人的なポイントはさらに倍。
 ってなわけで、直截的な描写はほとんどないにも関わらず、それでも拷問マニアを自認していらっしゃる方でしたら、意外に楽しめると思いますよ。具体的に「見せる」シーンは少なくても、セリフでどういう拷問をされたか(謎の器具で無数の火傷を負わされていたとか、関節が外れていたとか、性器が切り取られていたとか)説明はしてくれるので、あとは脳内で補完しましょう。過度な期待は禁物ですが、レンタルで借りるぶんには、充分にオススメです。

 ついでに、ゲイ的にマジメに気になった部分についても書いておきます。
 概してサイコ・サスペンスものって、とかくゲイやら性同一性障害やらが絡んでくるものが多い。で、自分たち(の仲間)が「ヘンタイの殺人鬼」みたいに描かれることに、いい加減に辟易しているゲイたちが、抗議したり批判することも珍しくない。そのこと自体に関しては、複雑だし長くなるのでここでは触れませんが、とりあえず、この作品もその例外ではない。やはりセクシュアリティの話が幾つか絡んでくる。
 ただ、ちょっと興味深かったのは、そういった問題に関して、制作者側もおそらく注意深く取り扱っているらしき節が伺えることです。

 例えばセリフに出てくる「同性愛者」を指す言葉が、ケース・バイ・ケースで「ゲイ」「ホモセクシュアル」「クィア」などと使い分けられている。で、「クィアの殺人事件」と言った若い刑事に対して、主人公の学者が「差別的だ」とたしなめたり、同じ主人公のセリフで「トランスジェンダーだ、トランスベスタイトじゃない。これは重要だ」なんてのがあったりする。
 しかし残念ながらそういったニュアンスは、日本語字幕では全くといっていいほど拾われていない。「ゲイ」も「ホモセクシュアル」も「クィア」も、字幕では全て「ゲイ」一つに統一されてしまい、「トランスジェンダー云々」というセリフも、字幕では「トランスベスタイトじゃない、これは重要だ」に該当する部分がスッポリ抜け落ちている。
 後者に関しては、まあ字幕の限界もあって仕方ないことだとも思いますが(けっこう早口のシーンでしたし)、前者に関しては、ちょっと考えるべき余地が残されているような気がします。

 まあ、下手に「オカマ」とかいう言葉を使うと、それはそれでまた、その言葉を使用すること自体が差別的であるといった批判が出てくる可能性があります。とりあえず全て「ゲイ」にしておけば、差別云々といった問題は起こりにくいので、無難な選択ではあるでしょう。これもまた一種の配慮が働いた結果であるともいえます。
 ただ、この場合の「蔑称としての『クィア』を使った人間に対して、『差別的だ』と批判が出る」シーンで、「クィア」の訳語を「ゲイ」にしてしまうと、それを受ける「差別的だ」という反応の意味が通らなくなってしまう。やはりここは訳語も「オカマ」か何かにして欲しかった。言葉が使われ方次第でネガティブにもポジティブにもなるという点でも、「クィア」と「オカマ」は良く似ていますしね。
 言葉の差別的な用法の一例をきっちり描けば、少なくともそれによって、観客が言葉と差別の関係性を学んだり、差別的だとされる言葉の使用法について考える手助けになる。しかし、いわゆる「放送禁止用語」のように、差別的だとされる用語の使用自体を完全に禁止してしまうと、そういった学習の機会は永遠に訪れない。それどころか、それはまるでこの世界にそういった差別が存在していないように見せかけているだけであり、ある意味では表面だけを取り繕った一種の欺瞞ともいえます。同じ「デリケートな素材を取り扱うに際しての配慮」として考えると、この二つのもたらす結果の違いはかなり残念です。
 もちろん「ゲイにとって侮蔑的な言葉」を「ゲイを指す一般名詞」としては「使わない」という配慮は、それは充分に歓迎するところではあります。しかし「ゲイにとって侮蔑的な言葉」を「絶対に使わない」もしくは「使ない」という配慮(もどき)によって、ゲイが侮蔑されているシーンを表現することすらもできなくなってしまっては、これはやはり本末転倒だと言わざるをえないでしょう。