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ちょっと宣伝、映画『LAゾンビ』特別上映&トークショーのご案内

 本日7月11日〜23日まで、銀座のヴァニラ画廊にて、映像作家ブルース・ラ・ブルースの写真展が開催されております。
 このエクシビションの一環として、同氏の新作映画にして問題作、ゾンビとゲイポルノが融合した作品 “L.A. Zombie” の特別上映イベントが、同ギャラリーにて開催されます。
 映画の上映は15日(金)、16日(土)、18日(月・祝)の3回になりますが、そのうち16日(土)の上映イベントにて、私、トークショーに出演させていただきます。
 以下、エクシビションおよび上映イベントの詳細。
 お問い合わせ等は、直接ヴァニラ画廊さんへお願いします。

ブルース・ラ・ブルース写真展
[“Polaroid Rage: Survey 2000 – 2010 ]
~ Additional Photos from Otto; or, Up with Dead People and L.A. Zombie~
■7月11日(月)~7月23日(土)
■入場料500円
2007年ヴァニラ画廊にて衝撃的な写真展を開催したブルース・ラ・ブルースの新作展!
2000年から2010年のあいだの実験的パフォーマンスを綴った記録をポラロイド作品300枚以上におさめたシリーズ[“Polaroid Rage: Survey 2000 – 2010 ]。このシリーズは2011年、2月にポルトガルのThe Wrong Weather Galleryにて発表され 非 常に高い評価を得ています。
そして自身が監督した映画OTTO ; or, Up with Dead People (2008)とL.A.Zombie(2010)からの新作写真もあわせて展示致します。
Bruce LaBruce ブルース・ラ・ブルース / プロフィール
カナダのトロント在住。映画監督、写真家、ライターなど幅広く活躍する。
アート・シーンの異端児。’80年代に発表した8mmフィルムによる超低予算のポルノアート・フィルムは、ガス・ヴァン・サントにも大きな影響を与えた。 ’90年代からは、「ノー・スキン・オフ・マイ・アス」「SUPER8 2/1」「ハスラー・ホワイト」など過激なセクシャリティを武器にした長編を発表。クィーア・フィルムの代表として、世界的な人気を得る。2008年には 「Otto; Up with Dead People」2010年には「L.A. Zombie」を公開。
1998年から写真家としても活動を開始し、多くの雑誌でフォトグラファーとして活躍する外、欧米で個展を多数開催している。
■展覧会特別イベント
ブルースラブルース監督作品『LA ゾンビ』特別上映!
7月15日(金)上映のみ
 19時半開場 ¥1,300(1D付)
7月16日(土)上映&作品解説&スニークプレヴュー付
 18時開場 ¥1,800(1D付)
 トークゲスト:田亀源五郎&鈴木章浩
7月18日(月・祝)上映のみ
 18時開場 ¥1,300(1D付)
上映作品
『LA ZOMBIE』
Directed by Bruce La Bruce 2010年/70分
Produced by Owen Hawk Screenplay by Bruce La Bruce Story by Bruce La Bruce
Starring Francois Sagat Matthew Rush Erik Rhodes Francesco D’Macho Wolf
Hudson
Music by Kevin D Hoover Jack Curtis Dubowsky
2010年、権威あるロカルノ国際映画祭コンペティション部門に正式招待されながらも、オーストラリアのメルボルン国際映画祭では上映拒否。強行上映しようとした映画祭の事務局から警察によって上映用マスターが押収され焼却されるなど、世界各地で物議をかもし出している真の問題作。ゲイ・ポルノとして製作されながらも、性と死と血のオージー(乱交)によって、独特の哀しみと詩情に溢れる世界を作り出した本作は、「 ゾンビとポルノの本当に美しい融合…」とブルース・ラ・ブルース監督が語るように、残酷な美しさに満ちている。日本公開絶望と思われていた衝撃作が今回限りの特別上映!必見!!

 で、この「LAゾンビ」なんですけど、どんな映画かというと……とりあえず予告編を貼っておきましょうかね(笑)。

 私は一足お先に拝見させていただいたんですけど、まぁ何と言いましょうか……エログロ・アートフィルムって感じ? メルボルン国際映画祭のスタッフが「ただのポルノじゃねぇか!」って上映拒否した気持ちも……まぁ判らなくはない(笑)。
 興味のある方だったら、一見の価値はアリなので、展示共々、よろしかったらぜひお出かけくださいませ。
<追記:7月16日>
 メルボルンでの上映ができなかった件ですが、鈴木章浩さんに伺ったところによると、必ずしも映画祭のスタッフが上映を拒否したわけではなく、フィルムが税関で引っかかってしまったのが最大原因なんだそうです。それを強行突破しようとしたか何かで、上記の様な大事になってしまったらしい。どういった理由で税関で止められたのかは、鈴木さんも良くご存じではないとのこと。
<追記:7月18日>
 映画『LAゾンビ』と件のトークショーのレビュー。
『L.A. ZOMBIE』鑑賞|隊長日誌
 おそらく日本で一番詳しいのでは(笑)。

最近見た「責め場あり」系の映画3本

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『冷酷処刑人 ~父なる証明~』(2008)スティーヴン・カストリシオス
“The Horseman” (2008) Steven Kastrissios
(日本盤DVDで鑑賞→amazon.co.jp

 2008年製作のオーストラリア映画。娘を亡くした父親が、娘の死に関わった人物を捜し出し、一人ずつ処刑していくが…というスリラー。
 B級スプラッター・ホラーかと思いきや、意外とマジメな作りでした。抑えた静かなシーンと鮮烈なバイオレンスがサンドイッチになった構成で、演出も佳良。ドラマの緩急やコントラストが魅力的で、けっこう作品世界に引き込まれます。
 ストーリーとしては、けっこう手垢のついた内容で新味はないものの、サイドエピソードを絡めたり、程々にツイストを入れたり、省くところはバッサリ省いたり、適度に回想を配したり…と、全体のバランス感覚が良く、構成的にも冗長さを上手く回避しているので、これまたなかなか面白い。
 バイオレンス描写は、けっこう即物的というか肉体的というか……特殊メイクでゲロゲロなものを見せるわけではなく、見せ物感覚で過剰なわけでもないのに、生々しい迫力や痛みを感じさせる演出で、けっこう見ていて肩に力が入ります。
 役者さんもいずれも佳良で、全体的なクオリティも上々なので、興味のある方なら見て損はないでしょう。

 責め場関係。まず基本的に、手がかりを探す父親→関係者発見→拷問して他の連中の居所を吐かせる→そいつを発見→拷問して別のヤツの居所を吐かせる……という繰り返しなので、わりと映画の全編に渡って、責め場はあちこち登場します。返り討ちにあって、逆に自分が拷問されるというお約束展開もあり。
 で、このおとっつぁんなんですが、素人さんにしてはヤケに拷問方法がヘンタイちっくというか(笑)……映画見ながら「あれ、私こんなシーン、マンガで描いたことあるなぁ」なんて思うこと、数回。具体的には(ネタバレ気味なので白文字で)サオだかキンタマだかにポンプで空気を注入するとか、ペニスに釣り針を引っかけてクンクンするとか、乳首をペンチで引き千切るとかいった拷問が出てきます。

 というわけで、そこそこエグくても大丈夫とか、逆に、残酷男責め大好きという人には、かなりオススメできる一本でした。

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『スティーヴ・オースティン ザ・ストレンジャー』(2010)ロバート・リーバーマン
“The Stranger” (2010) Robert Lieberman
(米盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com、日本盤DVDあり→amazon.co.jp

 2010年製作のオリジナル・ビデオ映画。愛しのストーンコールド・スティーヴ・オースティン様主演の、記憶喪失の男がFBIに追われながら自分の過去を探っていき……みたいな内容のアクション映画なんですが、実際の出来の方はこういう具合だというので、もう多くは期待せず完全に責め場だけ目当てで見ました(笑)。
 というわけで、メキシコ警察に捕まったスティーヴ・オースティンが、上半身裸で椅子に縛られて、ナイフでスパスパやられるシーンは、実に良うゴザイマシタ(笑)。クレーンに両手縛りで吊るされて、角材でタコ殴りされるシーンは、責めのアイデア自体はオッケーなんですけど、着衣なのが残念(笑)。

 ま、しょ〜もない感想ですが、見所はそれだけってことで(笑)。
 因みにFacebookで「見所はスティーヴ・オースティンの身体だけだった〜!」と愚痴ったら、「ヤツの映画はいっつもそうだよ!」と外国の方からもご賛同いただけました(笑)。

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“A Serbian Film” (2010) Srđan Spasojević
(イギリス盤Blu-rayで鑑賞→amazon.co.uk、日本のアマゾンでも購入可能→amazon.co.jp

 2010年製作のセルビア映画。原題”Српски филм / Srpski film”。
 引退して幸せな家庭を築いていた元ポルノスター男優が、アートなポルノ制作という誘い文句と高額の報酬に釣られて復帰したところ、とんでもないゴアゴアな罠に嵌められて…という内容。
 内容のアモラルさとエログロさに、かなり物議をかもした映画らしいですが、まあ確かに過激で鬱々な内容です。私が見たのは英盤Blu-rayで、これは一部カットされたバージョンらしいんですが、それでも内容は「とにかく酷い話に!」ってな感じで、いわゆる鬼畜描写がテンコモリ。
 どんだけエグいシーンがあるかは、ちょいとググればレビューが出てくるので割愛しますけど、正直なところポルノグラフィの持つ即物的な力は、一般映画(とはいえイギリス盤でも18禁指定なんですが)には超えられない壁なので、そういう意味ではこの映画も、そこはクリアできていない印象。そんなわけで、内容のエクストリームさと同時に、映画の限界のようなものも同時に感じてはしまいましたが、それでもかなりギリギリまで迫ろうとする意欲とか、徹底してブレない姿勢とかは好印象。
 ただ、事前に覚悟していたほどは、見終わったときにイヤ〜ンな気分にはならなかったなぁ。確かに容赦ない鬱展開だし、スゴいっちゃあスゴいんだけど、ぶっちゃけ私は、これ見て引くほど良識的な人間じゃないし、このくらいの展開だったら自分でも考えつくしな〜……ってな感もあり(笑)。
 でも、一緒に見た相棒は、見終わった瞬間「ひっどい話だね!」と憤慨していました(笑)。

 男責めとしては、具体的なアレコレよりも、シチュエーション的にグッとくるものがあり。
 主人公のポルノ男優は、一服盛られて意識を失ってしまい、正気にかえってから撮影されたビデオを見て、自分が何をしていたかを知るんですが、それが、麻薬と媚薬漬けにされて(以下ネタバレ含むので白文字で)女を犯しながら殺したり、男にカマを掘られていたり、何とか逃げ出したものの発情を抑えられなくて路上でズリセンぶっこいたり、自分のチンコを切り落とそうとしたり、まだ幼い実の息子のカマを掘っていたり……ってな具合で、ここいらの展開は良かったな〜。罠にはめられた男が酷い目にってのも、媚薬で発情アニマル化ってのも、どっちも大好物のネタなので(笑)。
 因みに、イギリスではR18指定になっただけあって(ちょっとアレな情報なので、また白文字)、作り物の付けチンポコですけど、ブラ〜ン状態もフル勃起状態もガン見えでした(笑)。

 そんなこんなで、とにかくアモラルで鬱々な、極めて露悪趣味的な映画なので、例えホラー好きの方でも、流石にこれはキツいというのはあるかも知れません。
 でも、氏賀Y太先生や早見純先生のマンガが好きな方だったら、一見の価値はありかと。

《追記》『セルビアン・フィルム』の邦題で日本公開&ソフト化されました。

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価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2012-07-27
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価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2012-07-27

“Grimm Love (Rohtenburg)”

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“Grimm Love” (2006) Martin Weisz
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2006年製作のドイツ映画。原題は”Rohtenburg”。
 ドイツで実際にあったという、双方合意のもとで男が男を食べた人肉食事件を題材にしたホラー映画。……という括りになっているけれど、実際はホラー映画を期待すると肩すかしをくらう系の、わりとマジメな映画でした。

 主人公は一応、犯罪心理学を専攻する女子学生。その女子学生が、かつて起きた、男を食べたいという欲望を持つ男性と、男に食べられたいというゲイの男が、ネットで出会って本当に事に及んだという事件に興味を持ち、それを追跡調査していくという形で、二人の生育史から始まり、その出会い、そしていざ事に及ぶまでを、再現ドラマ的に描いていきます。
 静かに淡々と、しかし緊張感を含んで描かれる再現ドラマ部は、役者さんの演技力もあって実に魅力的。カニバリズム等の描き方も、けっこう踏み込んで描きつつも露悪的ではない。

 ゲイ映画的な要素の方も、なかなかしっかり描かれています。
 被捕食オブセッションにとりつかれている「被害者」は、同性の恋人もいて幸せなのに、その恋人に自分のマゾヒスティックなオブセッションを打ち明けることは出来ず、日常的な幸福とオブセッションの間で引き裂かれて煩悶し、捕食側の「加害者」もまた、真剣に「食べられたい」と思っている男を募集したつもりが、ようやく見つかった相手は、単にSMプレイのつもりだったり。
 そんな「被害者」と「加害者」が、やがて出会い、おずおずと互いの距離を埋めて近付いていき、やがて事に及ぶ様は、一種異様なロマンティシズムというか、奇怪で猟奇的なんだけれども、しかし純愛物語のような雰囲気すら帯びてきたりして、そこいらへんは大いに魅力的で惹きこまれます。
 捕食者を演じるのは、けっこう色々な映画で見かけるトーマス・クレッチマン。私はけっこう好きな男優さん(『ゴッド・ディーバ』の主人公ニコポル、『キング・コング』の船長、『ウォンテッド』の組織を裏切った殺し屋なんかが、個人的には印象深いかな)なんですが、今回も、いわゆる類型的なサイコ野郎ではなく、ナイーブで、ある意味では優しいとも言える、しかしオブセッションに憑かれてカニバリズム殺人鬼となってしまう男を、実に繊細に演じています。
 被捕食者役のThomas Huber(トーマス・ヒューバー?)という役者さんも、捕食者に負けず劣らず内気でナイーブな男性を好演しており、この二人の「魂の共鳴」とでもいう要素がしっかり描かれているので、映画自体のクオリティや、ゲイ映画的な魅力も、グッとアップしている感じ。

 そういうわけで、事件自体を描いたパートは大いに見応えがあって良いんですが、惜しむらくは、そこにオブザーバーとして件の女学生を加えてしまったこと。
 この女学生の視点を介した結果、描かれる「再現ドラマ」は、映画という純然たるフィクションの中で描かれる「事実」ではなく、キャラクターの一人でしかない彼女の、脳内妄想でしかない可能性を含んでしまい、描かれた内容が受け手に迫ってくる力を弱めてしまっている。また、二人の男を描くパートのせっかくの緊張感も、彼女の取材を描いたパートで分断されてしまうのもマイナス。
 更に彼女の存在が、結果として「異常性に対する正常性からのエクスキューズ」としてしか機能していないのも、大いに不満。映画の終盤で彼女は、事件の実際が自分の想像を超えたおぞましいものであることに恐怖し、それを拒絶するんですが、それは正常性からのエクスキューズであると同時に、だったら何故こういうテーマで映画を撮ったのかという、動機自体への疑問点を生んでしまっている。
 その結果この映画は、事件自体を描いたパートは優れているにも関わらず、映画総体としては、単に「猟奇的な世界を好奇心で覗き見した結果、やっぱフツーの人にはついていけないよね、こんな世界」というだけの、何とも浅はかなシロモノへと堕してしまった感があり。
 ここいらへんは見る人によって評価が分かれそうですが、私的には、彼女という観察者の存在が、映画全体に対しては、ほぼ全てにおいてマイナス方向に作用している、よって不要、観察者を配したこと自体が失敗、という印象です。

 ただし、前述したように男性二人のパートに関しては、猟奇的な側面にせよゲイ的な側面にせよ、あるいはある種の猟奇的なロマンティシズムという面にしても、大いに魅力的なので、題材自体に興味がある方なら見て損はないです。ただし、扇情的なホラー味は期待しないように。米盤DVDは字幕なしでしたが、台詞は少なく難易度も低め。
 完全お邪魔虫の女子学生は……見なかったことにしよう(笑)。

 追記。
 さほど直截的な描写はなくとも、題材が題材ですから、それなりにエグいシーンもあります。個人的には(ちょいネタバレなので白文字で)、まだ意識がある状態で、全裸の被害者のペニスから食べようということになり、最初は直接歯で食いちぎろうとするんですが、上手くいかずにナイフで切り落とし……ってなあたりは、色んな意味でけっこうキました(笑)。
 猟奇/責め場系の見所に関しては、ここにちょっとスチルあり。

2010年下半期に見たインド映画、ヴィクラム出演作以外

 2010年下半期に見たインド映画を、先日アップしたヴィクラム出演作以外、ヒンディ、タミル、テルグ、マラヤラム取り混ぜて、一挙19本連続レビュー!
 ……って、そんなニーズ、どこにもないとは思うんだけど、ま、備忘録も兼用ということで(笑)。
 例によって並び順は「見た順番」、☆の数は「独断と偏見」でゴザイマス(笑)。

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“Khamoshi: The Musical” (1996) Sanjay Leela Bhansali
(☆☆☆)
 ヒンディ映画。
 ヒューマン感動もの。
 大好きなサンジャイ・リーラ・バンサーリ監督の処女作、ようやく見られた。斬新な視点、的確な演出、個性的なイメージ…と、処女監督作にして既に才気が横溢。
 聾唖の両親と歌が好きな祖母に育てられた少女が歌手を夢見るインド映画。米盤DVDだけど嬉しいことに日本語字幕付き。
 ボリウッド映画のテンプレから脱しきれていない部分はあるけれど、個々の描写が丁寧でありがちな大味感がないし、お涙頂戴ではなくきちんと感動させてくれるあたりは流石。
 テーマ的には同監督が後に撮った、ヘレン・ケラーの物語を大胆に翻案したノン・ミュージカル作品「BLACK」と同じなので、比較して考えてみると色々と面白い。新作“Guzaarish”もチョ〜楽しみ…なんだが、いったいいつ見られることやらw
 映画の本質とはちょっとズレますが、ミュージカル・シーンに、フェリーニの影響を感じさせる部分があったのが、ちょっと面白かった。
 ”Khamoshi: The Musical”には、こういったヨーロッパ趣味的な要素がちらほら見られるんですが、以降のバンサーリ監督の諸作からは、そういった要素は全くといっていいほど姿を消しているのが興味深い。
 そんなあたりからも、いかにも処女監督作らしい初々しさが感じられます。

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“Yamadonga” (2007) S. S. Rajamouli
(☆☆)
 テルグ映画。
 コソ泥と閻魔大王の駆け引きを描いた、奇想天外ファンタジー。
 良家の少女でありながら親戚に家を乗っ取られて下女扱いされている可哀想な娘と、その娘が少女時代に恋に落ちた相手であるチンケなコソ泥が再会するが、閻魔様の悪口を言ったコソ泥は地獄へ召還されてしまい、そこで閻魔様の神具を盗んで自分が閻魔様になり…う〜ん、説明が超ムズいストーリーw
 まあ要するに、コソ泥と閻魔様の駆け引きという民間伝承と、「小公女」みたいな話を足して、そこに歌と踊りとド派手なアクションを混ぜ込み、泥臭いベタベタのコメディ演技と、ペッカペカでチープな特撮でコーティングしたみたいな映画です。そのゴッタ煮感が、何ともまあインド的w
 ビックリするのは、この「Yamadonga」、先日見て大感銘を受けた「Magadheera」と同じ監督(S・S・ラジャムーリ)で、しかも前者が2007年、後者が2009年の作品であるにも関わらず、まるで80年代と2000年代の作品のように、内容的に開きがあるということ。
 ぶっちゃけ「Yamadonga」は、クリシェを強引に繋いでいくだけの、パワフルだがディテールがない作劇、やたらめったら挿入される泥臭いコメディ演技、トゥー・マッチなバイオレンス、インド映画以外ではあり得ないような展開…といった具合で、インド映画好き以外には全く薦められない感じ。
 というわけで、面白いことは面白いんだけど、それは一般的な映画の観点から言うと、一種のキワモノ的な面白さであって、インド映画の特殊性を越境するような要素は皆無なので、「Magadheera」のような「映画好きなら見て損はなし!」といった作品とは、質的に全く異なります。
 というわけで、伝統芸的なインド映画が好きな方とか、インド映画をあくまでもネタとしてのみ見る方には、大いにオススメ。
 ただ個人的には、最近のインド映画の面白さ、様式や特殊性で閉塞するのではなく、そこから越境しようとする意欲の面白さに欠けるので、そこが私としては物足りない。
 でもまあ、物足りないとは言いつつも、他国の映画では「ありえね〜!」面白さはタップリだし、あまりのカオスっぷりにいささか疲れながらも、ラストに伏線が回収されて民話的な多幸感が訪れるあたりは、けっこう感動もしちゃったんですけどね ^^;
“Yamadonga”、TVスポット(?)。使われている劇中歌ともども民話的色彩が濃く、ここいらげんの要素はけっこうお気に入りです。
http://www.youtube.com/watch?v=b-0zIH8Jlio

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『ケーララの獅子』(2009)ハリハラン
“Kerala Varma Pazhassiraja (Pazhassi Raja)” (2009) T. Hariharan
(☆☆☆☆)
 マラヤラム映画。
 イギリス支配に対して立ち上がった南インドの英雄と、その仲間たちの戦いを描いた、本格エピック史劇。
 日本でも2010年に、福岡国際映画祭で上映があったそうです。
 17世紀、イギリス支配下の南インド・ケーララ州で、自由を求めて立ち上がった反乱軍の話。増税に反対する王子パザッシラジャは、イギリス軍(東インド会社)によって居城を奪われるが、ジャングルに隠れてゲリラ軍を組織し、そこに他の豪族たちが集結していき…といった内容。
 かなりの力作かつ大作で、大いに見応えあり。主人公の王子を中心に、その側近など複数の人物を配置し、人間ドラマと戦闘スペクタクルを織り交ぜながら見せていくという正攻法の史劇で、実に堂々たる味わい。
 音楽シーンも自然に処理され、ストーリーの腰を折ったりしない。
 ただ、映画としては一つ大きなクセがあって、それは、マラヤラム映画では「恰幅のいいオジサンがカッコイイ」ということになっているのか、台詞のあるメインのインド人男優が皆、恰幅のいい…というか、ぶっちゃけ太ったオジサンたちなのだ。しかも皆ヒゲ面で、おまけに常に半裸。
 主演のマムーティという男優さんは、マラヤラム映画の大スターらしいけど、「視線が粘っこくなった田崎潤」みたいなオジサンで、他も皆、似たり寄ったり。私的には無問題なんだけど、一般的には…ちょっとどうかなぁw 何とゆーか、「300」のサムソン版(ゲイ雑誌ね)みたいな感じなのよw
 そんな、ヒゲ面の太った裸のオジサンたちが、男の生き様を熱く語り、時にワイヤーワークで宙を舞いながら華麗(…でもないと思うけどw)な剣戟を見せてくれます。ホント、みんな似たタイプなので、ロングショットになると、ハイビジョンでも誰が誰だか判らなくなったりw
 とゆーわけで「太目のオトウサン大好き、ヒゲも体毛も大好き」な方には、激スイセンw
 とはいえ前述したように、映画そのものが本格史劇として、実に堂々たる出来映えでなので、男優さんのルックスが気にならなければ、フツーに史劇好きなら見て損はない面白さです。
“Kerala Varma Pazhassiraja”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=XIjdGkTqElY

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“Veer” (2010) Anil Sharma
(☆☆)
 ヒンディ映画。
 18世紀末(19世紀初頭?)、英国と手を組んで地方を支配していた藩主たちと、自由を求めて立ち上がったピンダーリ(映画の中では騎馬系の自由民)の戦いと、ピンダーリの勇者と藩主の姫のロマンスを描いた、エピック・ムービー。
 歴史劇というよりは、あくまでもそういった背景を借用したアクション・アドベンチャー+ロマンス映画といった味わいで、画面のスケール感や重厚感は充分なれど、内容は良くも悪くも気軽に楽しめるといった系統のもの。
 イメージ・ソースの一つに「隊長ブーリバ」を使っているのが興味深い。
 映像技術的には洗練されているんだけれど、ピンダーリの風俗描写が、まんまコサックっぽいとか、騎士道映画さながらの、美姫を賭けての馬上槍試合が出てきてビックリとか、クライマックスの一対一の対決シーンが、モロに「トロイ」を意識しているとか、内容面のゴッタ煮具合が実にインド的。
 先日見た「Magadheera」と比較するとパワーに欠けるし、近年のインド製史劇映画の傑作「Jodhaa Akbar」ほどの風格や完成度もないので、どうしても「そこそこ」どまりの印象に。主演のサルマン・カーンとヒロイン役の女優(初見)に、個人的に魅力を感じられないのも痛かった。
“Veer”、予告編。私はイマイチの印象でしたが、こんな感じで、スペクタクル映像的な見せ場はタップリあります。
http://www.youtube.com/watch?v=DkWrDR48GO8

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“Kadhalil Vizhundhen” (2008) P. V. Prasad
(☆☆☆)
 タミル映画。
 スラム出身の青年が、バイク走行中に風に飛ばされたスカーフが顔に被さり、事故を起こして瀕死の重傷を負う。スカーフの持ち主である裕福な家の少女は、責任を感じて献身的に青年の看病をし、治療費なども全て立て替える。やがて青年は回復し、二人の間には愛が目覚めるのだが…というラブストーリー。
 タイトルの意味は「恋におちて」。
 映画は、青年と車椅子に乗った少女が駆け落ちし、列車で出会った中年男に青年がいきさつを語るという帰納法で始まり、前半部分では、自分の恋情をなかなか打ち明けられない青年の煩悶や、それに少女がいかに応えるかといった、心情面のドラマが細やかに描かれる。
 駆け落ちした二人は、謎の男たちに追われている。二人の仲を裂こうとするこの男たちの正体は何なのか、またなぜ元気だった少女が車椅子に乗るようになってしまったのか…といった謎で引っ張りながら、前半が終わってインターミッション。
 そして後半がスタートするのだが…いやもうビックリ!
 後半スタート早々、謎は次々と明かされて「うわ〜、そういうこと!?」ってな驚愕の展開に。後はもう怒濤の展開。映画のムードもガラリと変わり、さりげない伏線が次々と回収されていき、見ているこっちは「え〜?」「あ〜!」とか驚きつつどんどん引き込まれ、しかも結末が全く読めない面白さに。
 いや〜、すっかり騙されました。いかにもありがちな、間に障害のある若い男女の恋物語かと思っていたら、そういったクリシェを巧みに逆手にとって、見事なまでにストーリーがひっくり返る。前半で「え〜、これはちょっと…まあ、インド映画じゃありがちだけど…」なんて思った要素まで伏線だったとは!
 少し顔立ちに子供っぽいところが残る主人公の青年(そのぶん前半の説得力と、後半の熱演とのギャップによる効果がスゴい)、可愛いヒロイン(めちゃめちゃ美人でもないあたりが、逆に良いのだ)、後半から出てくる警察官(かなり美味しいトコどりでカッコイイ!)、などなど、役者の布陣も完璧。
 そんなこんなで大満足の1本でした! ^^
 もう1つ特筆したいのは、ミュージカル・シーン「Nakka Mukka」の見事さ。
 速いリズムに乗せたアクロバティックなコレオグラフィーで、街中で群衆が踊りまくるのを、縦横無尽のカメラワークで捉えたミュージカル・シーンは、そのエネルギッシュさにひたすら圧倒。
 ただし、惜しむらくはこのシーン、映画のストーリーにはあまり上手く組み込まれておらず、ちょいと全体から浮き気味。
 そういった「雑さ」が所々見られるのと、監督の個性が余り見えてこないあたりが、私的には少しマイナスといった感じ。
“Kadhalil Vizhundhen”から、”Nakka Mukka”
http://www.dailymotion.com/video/x9xk6x_nakka-mukka_music

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“Naan Kadavul” (2009) Bala
(☆☆☆☆)
 タミル映画。
 タイトルの意味は「我は神なり」。
 先日見た「Pithamagan」でブチのめされたバラ監督の新作で、先に見た予告編からしてタダモノじゃない感がプンプンだったんですが、やっぱトンデモナイ映画だった…。
 占星術師の予言に従い、幼い息子をカーシ(ヴァラーナスィ、ベナレス)に捨てた父親が、それから14年後、息子を捜しに再び同地を訪れるが、成長した息子は、自分たちを神と信じ、人々を輪廻転生の苦痛から解放する能力があると信じる、宗教的セクトの苦行者となっていた。
 父親は、息子を母親に会わせるため故郷へ同伴することを望み、宗教セクトの導師も青年に家族との絆を完全に断ち切らせるために同意する。生まれ故郷の村には、山上に四肢が欠損した男を生き神として祀る寺院があり、警察と結託して不具者を集めてはそこで物乞いをさせる組織があった。
 主人公は人間性を完全に喪失しており、自らを神と称し、再会した母親も拒絶して寺院に籠もる。一方、旅の芸人集団が村を訪れ、その一員で盲目の少女歌手が、その美声に目を付けられ、強引に件の物乞い組織の一因にされてしまう。少女は嘆き悲しむが、仲間の乞食達に優しく支えられて立ち直っていく。
 ところが、隣の州の乞食の元締めから、自分たちのエリアで物乞いをさせるために乞食を「輸入」したいという申し出がくる。村の元締めはそれを承諾し、仲間のうちから幼い者だけが連れ去られてしまう。更に、火傷で醜くなった金持ちから、自分の要望を気にしない女が欲しいとの要望がくる。
 盲目の少女はその金持ちに売られることになり、泣きながら村の生き神に助けを乞うが、生き神は「自分は神ではない、例の男こそ唯一お前を救うことができる『人の形をした神』だ」と告げる。
 それを聞いて、少女は自分を連れに来た一味から逃げ、泣きながら主人公にすがるのだが…といった内容。
 内容的には、ベースのフォーマットとしては、不意に現れた超常者が弱者を救うという、ヒーローものと言えなくもないんですが、そこに「神は人を救えるか」「神とは何だ」といった問いが絡み、しかも「この世の醜さ・残酷さ」が、これでもか、これでもかと描かれるので、かなりキツい…。
 そして「フリークス」か「エル・トポ」ばりのキャラクターたちが繰り広げる、パワフルで濃厚な映像に圧倒されつつ、エンディングが…う〜ん、判るんだけど、でもあまりにもカタルシスがムニャムニャ…で、鑑賞後は「ほぇ〜…」という溜め息が。
 いや、良くも悪くもスゴかった…。
 正直、ストーリー的には、かなり破綻しています。
 主人公に人間性が皆無なので、家族との再会といった設定が、有効に機能していない。一方の乞食集団パートは、人間ドラマとして魅力的なんですが、主人公はそこにキャラクターとしての超越性のみで絡むしかないので、話としてはギクシャクしている。
 神と人間というテーマに関しても、かなり観念的というか、概念が先にあって、それに併せて話が組み立てられてるので、そういった思索の面白さがある反面、ドラマ的な面白さやエモーショナルな部分が犠牲になっている。
 私が大感銘を受けた同監督の前作「Pithamagan」と比較すると、正直なところ完成度では劣る感じ。
 ただ、そういった作劇の歪み等は、ひとえに原案・脚本を兼ねる監督の「作家的暴走」の所産なので、そういう意味ではものすごく見応えがあります。見ていてちょっとヘルツォークとか連想しちゃったり。
 聖なる汚穢とでも言いましょうか、そういうのが好きな人なら満足すること間違いなし。
 そんなこんなで、見る人を選ぶ映画だとは思いますけど、個人的な好みとしては、自分のコアな部分を押しまくられた感ありなので、もう大満足。
 予告編見て「何だか面白そう!」と思った人なら、激オススメ。
 更にビックリしたのは、これが本国でヒットしたらしいということ!
 内容的にはどう考えても、好きモノ向けのカルト映画な気がするんだが…インド/タミルの観客、恐るべし ^^;
“Naan Kadavul”、私が「コレは見ねば!」と思った、タダモノじゃない感プンプンの予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=LRZBPvsC0L4

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“Paiyaa” (2010) N. Linguswamy
(☆☆☆☆☆)
 タミル映画。
 青春アクション・ロードムービーといった味わい。
 監督は「Bheema」で感銘を受けたN・リングサミー。
 主人公は大学を出たのに就職できない気のいい青年。そんな彼を案じて、仲間たちが就職活動を手伝ってくれるのだが、彼は道で見かけた女の子に一目惚れしてしまい、そのせいで大事な就職面接もすっぽかしてしまう。
 そんな彼が、ある日友だちを迎えに車で駅まで行くと、白タクの運ちゃんと勘違いされてしまう。車に乗り込んできたのは、例の街で見かけた女の子。意に染まぬ結婚を押しつけられて、車で数日かかるボンベイ(ムンバイ)まで送って欲しいと頼む。
 この運命の悪戯に主人公はウキウキだが、やがて追っ手がかかる。果たして彼は、無事彼女をボンベイまで送り届けられるのか?…ってな話。
「Bheema」でもそうだったように、この「Paiyaa」でも監督のスタイルはリアリズム重視。やたらめったら色々な要素を盛り込んだりせず、ストーリー展開にも強引さがない。伝統的なインド娯楽映画の「過剰さ」とは一線を画した自然な作風で、その作劇や演出の巧みさに目を引かれます。
 ドラマはほぼ全て、バンガロールからボンベイへと向かうドライブ中に描かれ、二人の男女の心理的な距離の変化を繊細に描くパートと、追っ手に見つかりそうになったりやり過ごしたりするハラハラ系、胸の空くかっこいいアクション系などが織り交ぜられて、全く飽きることなし。
 途中で、実は彼女だけではなく、主人公も別の一団に追われている事実が明かされ、ドラマに緩急をつける手腕もお見事。程よくスタイリッシュで、でも煩くはならない演出スタイルも良し。
 特に良いのが主人公のキャラクター。
 原題の意味は「男の子」ということらしいのだが、男気のある好漢ながらシャイで、一目惚れした彼女と一緒にいられて有頂天なんだけど、面と向かって好きだとは言えない。でも、ケンカになると滅法強いし、決める所は決める。男っぽさと青年っぽさのブレンドが絶妙。彼女の方も、次第に彼に頼り惹かれてはいくものの、それでも最後の最後まで、告白して恋人同士になったりはしない。
 そんなこんなで、アクション映画ではあるんだけど、主演二人の関係がじれったいような、でもそこが良いような…といった、青春映画としての味わいあって、何とも爽やかな魅力がある。
 キャストもパーフェクト。童顔でわりと小柄なんだけど、身体は鍛えられているガッチビ君の主人公、美人で気品もあって、一目惚れもむべなるかなというヒロイン、どちらもストーリーにもキャラクターにも実に良くマッチしていて、おかげでなおさら映画に引き込まれるという相乗効果に。
 また、この監督のミュージカル・シーンの扱い方、お約束を踏まえながら、それをいかにストーリーに自然に溶け込ませるか、そしてそこで何をどう見せるかなど、その工夫やデリケートさも、個人的にかなりポイント高し。
 ラストが駆け足気味になってしまったきらいはあるけれど、ウェルメイドな娯楽作品としては文句なしの仕上がりでしょう。
 というわけで「痛快アクション爽やか青春ロマンス」といった味わいの、文句なしに楽しめる逸品でした。
 しかも完成度は、前作「Bheema」を上回っている。このリングサミー監督、これからも要チェックだわ〜 ^^
“Paiyaa”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=8IKbDAzVTpA

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“Madrasapattinam” (2010) A. L. Vijay
(☆☆☆☆)
 タミル映画。
 インド独立時のインド人青年と英国人女性のロマンスを描いた、ヒストリカル・エピック・ロマンス。
 DVD題は”Madrasa Pattinam”と間にスペースあり。
 現代のイギリス、病床の英国人老婦人が、長らく忘れていたインドの首飾り(結婚指輪のような意味を持つ)を見つけ、「自分にはやり残したことがある」とインドのマドラス(現チェンナイ)へと向かい、一枚の古い写真に写った、逞しいインド人青年を捜し出そうとする。
 実は彼女は60年前に、英国統治下にあったマドラスに、提督の娘として赴いたことがあり、その写真も当時彼女が撮影したものだった。写真に写っているのは、貧しい洗濯人のインド人青年。おりしも二次大戦が終わりインド独立の機運が盛り上がる激動の時代の中、二人は恋に落ちていた。
 初めは互いに言葉も通じなかった二人だったが、やがて少しずつ心を通わせるようになり、洗濯物でメッセージを伝えて密会するようになる。しかし彼女には、親が決めた婚約者である英国人将校がいて、その将校はインド人を虫けら程度にしか思っていない。
 将校はゴルフ場建設のために洗濯人のコロニーを潰し、捉えたバガット・シン(インド独立を目指した武闘派のリーダー)の信奉者のテロリストを捕らえゲームのように嬲り殺しにし、更にはヒロインと主人公の恋にも気付いて、二人を引き裂こうとその暴虐度を増していく。
 主人公は、この将校に一度はレスリングの試合で打ち勝ち、そしてヒロインに母の形見の首飾り(これを女性に渡すことは、すなわちプロポーズになる)を渡すが、折しもインド独立の日取りが決定、恋人達はそれぞれインドとイギリスに引き裂かれそうになる。
 ヒロインは何とか親の手から逃れ、主人公と運命を共にしようとするのだが、そこに例の将校の追っ手がかかり…といった1945年のマドラスのドラマと、その合間に老いたヒロインが主人公を捜し求める現代のチェンナイのエピソードが描かれる…といった構成。
 実にオーソドックスというかオーセンティックなヒストリカル・ラブ・ロマンスで、ストーリーやエピソードやキャラクター造形は、定番というか紋切り型の印象はあるものの、全体の雰囲気は上々、作品の佇まいも堂々たるもので、娯楽作品としては上々の出来映え。
 まあ全体の構成やディテールには「タイタニック」の影響が色濃いし、印英の戦いにレスリングを絡めるあたりは「ラガーン」なんかも連想しますが、それでも「どういう次第で二人は別れるのか」「老婦人の目的は何なのか」といった要素で、上手い具合にラストまで興味を持続させてくれます。
 歴史物としては、まあラブロマンスの色添えの域を出てはいないんですが、1945年のマドラスの風景を、CGIも交えて存分に見せてくれるし、ロマンチックな撮影や演出手腕も上々(反面、アクションやスペクタクル演出は、ちょっと冴えない感もありますが)なので、絵巻物的にたっぷり楽しめます。
 主人公、どっかで見たような…と思っていたら「Naan Kadavul」の主演男優(アーリヤ)でした。
 角度によってハンサムにも見えれば怪異な容貌にも見え、土俗的な荒々しさとロマンス向けの二枚目っぽさがブレンドされており、ヒロインが惹かれる相手として実に説得力あり。
 レスリングのシーンを筆頭に、逞しい裸身も惜しみなく披露。特に背中の筋肉がヨロシイわぁw ちょっとしたボンデージや責め場もあり ^^
 ヒロインも清楚な可愛らしさと美しさがあり、ラブロマンスのカップルとして、この二人の組み合わせが上々なのが、成功の一因といった感じです。
“Madrasapattinam”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=fYBAHugEnfE

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“Aayirathil Oruvan” (2010) Selvaraghavan
(☆☆☆)
 タミル映画。
 秘境アドベンチャー映画。
 タイトルの意味は「千人に一人の男」。主演は「Paiyaa」のカルティ。
 13世紀に滅亡した南インド・チョーラ朝の王子が、生き残った民と神像と共に何処かの島に落ち延びたという伝説があり、長い間その場所を突き止めるのがインドの考古学者たちの夢だった。そしてある考古学者が遂にその場所を突き止めるのだが、そのまま行方知れずになってしまう。
 考古学者の娘の元に一人の女が訪れ、父親と遺跡の捜索のため大規模な探検隊を差し向けると語り、娘もそれに同行することにする。探検隊は港で人足たちを雇い(人足頭の陽気な青年が主人公)、ヴェトナム近海に浮かぶ、周辺の住民から悪魔の島と恐れられている謎の島へと向かう。
 人食いクラゲ(?)や人食い土人や蛇の大群に襲われながら、一行は島の奥へと進むのだが、主人公と考古学者の娘と探検隊の指揮をとる女の三人は、他の仲間とはぐれてしまう。やがて3人は目的の遺跡に辿り着くが、実はそこは単なる廃墟ではなく、チョーラ朝の末裔が地下王国を築いていた。
 3人は地下王国に捉えられるが、そこの人々はこの数百年間、いつか自分たちを故国へと連れ帰ってくれる伝説の使者を待っていた。行方不明の考古学者は無事なのか、主人公一行がその伝説の使者なのか、そして明らかになった探検隊の真の目的とは? …ってな内容です。
 いや、驚いた ^^;
 前半は「ハムナプトラ」的な軽〜いノリのファンタジー・アドベンチャーといった感じなんですが、後半はH・R・ハガードばりの本格的な秘境探検+伝奇モノになり、スタート時からは想像もつかない、エピックでトラジックな展開に!
 いや〜ビックリしたw
 見所もタップリ。
 オーソドックスなところでは、人を呑み込む砂地獄とか、日没時に遺跡の影がシヴァ神の形になるとか、まあこりゃ無理があるだろうってな部分も含めてアイデア豊富。
 地下王国に入ってからの、話やセットのスケールの拡がり方は更にスゴくて、生け贄の儀式もあれば闘技場での戦いもあれば大戦闘シーンもあれば、腕は千切れるわ首は飛ぶわのエグいシーンもたっぷり。
 もちろん歌と踊りもあれば、泣きや感動や滅びの美学もあり、しかも3時間かけても話が完結するわけではなく、俺たちの戦いはこれからだ系のエンディングでした ^^;
 とにかく、面白いものは何でもかんでも取り入れる貪欲なところがスゴい。
 例えば、三人が目的の遺跡に辿り着くと、いきなりPOV演出になり、そこでラクダを発見してブチ殺して焼いて食べて、ゴキゲンになったところでミュージカル・シーンになったかと思うと、今度は謎の呪いで一同発狂…ってな具合。
 というわけで、実に堪能。
 多少話が乱暴なところはあれども、根っこのとことは、前述したように秘境探検モノとしてはかなり本格的な味わいがあるし、物量もパワフルに押しまくるし、これだけ楽しめるのはインド映画の醍醐味を満喫した感じ ^^
“Aayirathil Oruvan”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=rFG1Ak49agk

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“Peraanmai” (2009) S. P. Jananathan
(☆☆)
 タミル映画。
 ヒーロー・アクション映画。
 タイトルの意味は「男のプライド」。
 インド南部で画期的な農業用衛星が打ち上げられようとしていた。その近所には士官学校の林間学校があり、そこに35人の女子学生がやってきて、山間少数部族出の教官(主人公)のトレーニングを受けるが、優秀な女子学生5人組グループは彼に反発する。
 女子学生による嫌がらせや周囲の誤解などもありつつ、訓練準備期間は何とか終了、例の5人組が選抜されて、主人公と共に山中でのサバイバル・キャンプへと赴く。しかし女学生の悪ふざけによってジープが転落、主人公と5人の女学生は山奥深くで遭難してしまう。
 一行が山中から脱出しようとしているところに、衛星の打ち上げを阻止しようとする外国の破壊工作員と遭遇。主人公は女子学生たちを人里に返し、自分1人で外国のスパイ行動を阻止しようとするが、5人の女学生は愛国心に燃えてそれを拒否、全員で力を合わせて陰謀を阻もうと決意する…ってな話。
 文武両道のヒーローがマッチョなガイジンに立ち向かい、カッコいい近代火器をドカンドカンぶっ放し、ピチピチのオンナノコたちが全裸(とはいえインド映画なのでカーテン越しとか全身モザイクとかw)や濡れTシャツではしゃいだり、でも武器を構えて活躍もして…ってな、実にオトコノコな内容w
 まあ、ストーリー的には完全にB級アクションだし、衛星の打ち上げとかペッカペカのCGだったりもするんですが、一番好感度の高そうなオンナノコをあっさり殺すとか、仲間を殺されたオンナノコたちが女神カーリーの如く変貌して、集団でガイジン男を嬲り殺したりとかいった部分は、ちょいユニーク。
 あと、主人公が少数部族出ゆえに偏見の目に晒されていて、本当は遭難しているのに、5人のオンナノコをレイプして殺害したと誤解されてしまったりとか、監督さんが左翼系なのか、主人公が労働者の重要性を抗議したり、マルクスの本を読んでいたりとか、ちょいと変わった要素も幾つか。
 歌と踊りとお笑いといったインド映画的なお約束要素も、前半のまったり展開の部分に集中して収め、後半の山間アクション映画になってからは、そういった要素を殆ど入れてこないので、B級アクション映画として割り切って見れば、わりと普通の感覚で楽しめる感じ。
 ただ、かといって良い出来かというと、う〜ん…ってな感じではあるんですけどねw 見て損をしたという感じではないけれど、別に人に勧めるほどでもないというか。
 ただ、愛国心を全面に出しつつ、同時に前述したような共産主義的な部分が見えるのは、ちょっと興味深いかも。
“Peraanmai”から、冒頭の音楽シーン。人食い虎を退治した主人公を讃える素朴な山間民族…の中に、さりげなく監督の共産主義への傾倒を伺わせるカットが。2分13秒あたりを注意してご覧あれ。
http://www.youtube.com/watch?v=eXSExLvm-PQ
【追記】後日、1973年製作のソ連映画『朝やけは静かなれど…』を鑑賞し、この”Peraanmai”は同作にプロット的な部分でかなり多くを負っていることが判明。まんま同じエピソードも登場し、翻案とまではいかないものの、一種のオマージュ的な内容であることは確かのように思われます。

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“Subramaniapuram” (2008) G. Sasikumar
(☆☆☆☆)
 タミル映画。
 若者群像劇。近年、タミル映画のニュー・ウェーブなどと呼ばれているらしい、人工性を廃したリアル志向の作品群の1つで、低予算ながら大ヒットしたものだそうな。
 タイトルは南インドのマドゥライにある地区の名前。
 映画製作と同じ2008年、刑務所から出所した男が何者かに刺され瀕死の重傷をおう。そして時は遡り1980年、マドゥライのスブラマニアプラム地区では、仕事にあぶれた4人の若者が、日々ケンカと酒に明け暮れていた。腕っ節の強い兄貴分と弟分、三の線の使いっ走り、足が不自由な男という組み合わせ。
 4人組は何をするにも一緒で、さらに兄貴分と弟分は地元の政治家の用心棒めいたこともしており、おかげでケンカや泥酔で逮捕されても、すぐにその政治家の秘書が手を回して釈放してくれる。しかも弟分は、秘書の姪っ子と恋愛中。家族からはまともな職につけと責められるが、けっこう楽しくやっていた。
 ところが寺院の祭りの主催を巡って、その政治家に有力な対抗勢力が現れる。いろいろと争った結果、主催はそのライバルの手に渡り、政治家と秘書はそれまでの地位を失ってしまう。4人組が失意に沈む秘書を心配して訪問すると、自分たちが元の地位に戻るには、そのライバルを消すしかないと言う。
 これまで自分たちの面倒を良く見てくれた秘書のために、彼らは男気に駆られて、足の不自由な男を除く3人で暗殺を実行し、兄貴分と弟分の2人が自首する。彼らは、今回も自分たちを釈放するために、秘書たちが動いてくれると思っていたが、彼らは元の地位に返り咲きながらも、何もしてくれなかった。
 自分たちがいいように使い捨てにされたことを知った彼らは、一緒に収監されていたヤクザの親玉の手助けで出所した後、秘書に復讐を誓う。秘書の姪は、弟分に足を洗って更正してくれと頼むが、彼はそれを聞こうとはしない。
 そんな中、ム所で良くしてくれた例の親玉が出所する。世話になったお礼に行くと、親分は浮かない顔をしている。理由を聞くと、彼の妹が義弟に殺されながらも、その義弟はのうのうと生き延びているのが許せないのだという。
 若者達はまたもや義侠心に駆られて、その男の始末を請け負う。それは成功するが、今度は殺した男の仲間から命を狙われるようになる。こうして若者達は、次第に暴力の連鎖に巻き込まれ、やがて隠れて暮らすようになる。
 そして例の秘書も襲撃するが、それは失敗し、秘書の弟、つまり弟分の恋人の父親を刺してしまう。秘書は、若者達をこのまま放置しておくと、いつか自分も殺されると思い、ある計略を練り…といった内容。
 いや〜、これはかなりハードコア。
 言うなれば、純朴な田舎の若者たちが、その純朴さ故に道を踏み外し、やがて破滅していくというストーリーを、ロケ主体、手持ちカメラや長回しなどの映像、カッコよさや露悪趣味を廃したリアリズム主体の流血描写で、じっくりヘビーに見せていく作品。
 時代性や地域性のせいか、こういったクライムものには付きものの銃器がいっさい登場せず、襲撃や殺害が全て山刀やナイフによるものだというのも、けっこう生理的にクる。前半が比較的長閑なムードである分、後半の暴力が連鎖していくあたりとのコントラストも強い。
 映像には、アメリカン・ニューシネマ的なザラついたリアル感があり、時代の空気感や演出の緊張感も上々。音楽シーンもあるのだが、全てBGM的か現実音で処理しており、ミュージカル的な演出は皆無なので、全体のリアリティを損なうことは全くない。
 ストーリー的にも、導入の28年後の襲撃シーンを、襲われる人間の一人称カメラで描き、襲撃者の顔もシャドウで不鮮明なために、いったい誰が誰に刺されたのかが、映画のラストまで判らないという、上手い興味の引っ張り方をしているし、それに至る展開も「こいつを殺すか!」といった驚きもあって上々。
 ただ、人物関係が入り組んでいてちょっと判りづらいのと、ローカル性に密着した内容のため、ところどころ理解や共感が難しいのと、あと、4人組のうち3人が、ほとんど同じ髪型とヒゲなもんで、誰が誰やら慣れるまで見分けるのが大変でした^^;
 しかし、見応えはタップリ、出来映えも上々なので、これはどちらかというと、インド映画に興味のない層の方にアピールするのでは。
 おかげでちょっと、このタミル映画のニューウェーブ、他のも見てみたいな〜という気に…ああ、また泥沼に足を踏み込んでいる予感 ^^;
“Subramaniapuram”、予告編。音楽と編集のせいで、この予告編はスタイリッシュに見えますが、実際の映画はもっと泥臭い感じです。
http://www.youtube.com/watch?v=KnZy9eqOkI0
“Subramaniapuram”から、前半の長閑部、懐メロをBGM的に使った音楽シーン。4人組の日常と、アイコンタクトで恋を語り合う弟分と秘書の姪というシーンで、この空気感がアジア旅行好きには何ともタマラナイ ^^
http://www.youtube.com/watch?v=KUUYTB0EbOU
“Subramaniapuram”から、音楽と現実音を組み合わせている祭りのシーン。こんな感じで、例え音楽シーンでも人工性を廃したリアリズム主体、しかも地域性豊かなのが、作品の大きな魅力の1つ。
http://www.youtube.com/watch?v=kFHA0XIIdvI

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“Baarbarr” (2009) Ashu Trikha
(☆☆)
 ヒンディ映画。
 インド北部の暗黒街、ムスリムの一族に生まれ育った主人公は、齢12で初めて人を殺し、長じて周囲から怖れられるギャングの顔役となる。地元警察と癒着しつつ、対立組織との抗争が激化していく中、幼い頃の主人公を知る警視が、ギャング組織の一掃する命を受けて赴任し…といった、クライム・ドラマ。
 タイトルは主人公の名前。
 環境が犯罪を生み、犯罪が犯罪へと連鎖していき、人心の荒廃も絡み、その連鎖は永久運動のように止むことがない…といったメッセージが込められた、なかなか社会派的な内容。演出はリアリズム重視で、いわゆるインド映画っぽさは、ほぼゼロ。なかなか意欲的な作品という印象。
 ただ惜しむらくは、キャラクターを突き放して、人の世の醜さや社会の孕む問題を暴き出すという内容のわりには、そこそこの見応えに留まってしまい、ズシンとくるヘビー級のパンチにまでは至っていないところ。暴力度の高さとか救いのない展開とか、頑張ってはいるんですが、もう一つパンチ不足。
 主人公を演じる男優(新人さんらしい)は、個人的になかなかの収穫。いい面構えだし、ヒゲにモジャ髪、ヨレヨレシャツというトッピングwも効果的で、ぶっちゃけキャラ的にはかなりタイプ ^^ ヒンディー映画の主演男優にしては、顔が比較的サッパリめなのも嬉しいw
 ただまあサッパリといっても、あくまでもヒンディ映画としては…てな程度で、充分に濃い顔だとは思いますがw でもライバル役のギャングが、これまたハビエル・バルデムとローワン・アトキンソンを足して二で割ったみたいな特濃タイプなので、なおさらサッパリ具合が印象に残ったりw
 DVDのジャケやポスターがカッコ良かったので、興味を惹かれて見てみたんですが、主演がタイプだったというのも加算して、そこそこ楽しめた1本でした ^^
“Baabarr”、予告編。

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“Kisna: The Warrior Poet” (2005) Subhash Ghai
(☆☆☆)
 ヒンディ映画。
 インド独立時期のインド青年と英国娘の恋を描いた、ヒストリカル・ロマンスもの。
 ストーリーの導入部は現代から。英国貴族の老婦人がチャリティでインドを訪れる。地元の記者たちは、彼女はインドのことを何も判っていないと反発するが、彼女はそれに流暢なヒンディ語で答え、実は自分はインドで生まれ育ち、誰よりも良くこの国のことを知っている…と、想い出語りを始める。
 そして時は遡って1940年代へ。ヒロインのキャサリンはインドで生まれ育った英国領事の娘。その家の使用人の息子が主人公キスナ。二人は幼い頃から仲の良い友だち同士だったが、インド人を蔑視しているキャサリンの父親は子供たちの交際に反対し、幼いキャサリンを英国に送り返してしまう。
 やがて美しい娘に育ったキャサリンはインドへ帰還、凛々しい青年に育ったキスナと再会する。キャサリンは彼に惹かれるが、彼の家族はその結婚相手に、やはり幼い頃からの遊び友だちだったラクシュミを選ぶ。キャサリンは自分の恋心を押し隠したまま、キスナとは親友の関係でいようと決心する。
 そんな折り、インドの独立が決定。盛り上がる愛国気分の中、バガット・シン(インド独立を目指した武闘派のリーダー)を信奉する過激派が、かねてよりその横暴ぶりで反感をかっていた、キャサリンの父親宅を襲撃し殺害する。その過激派の中には、キスナの兄も混ざっていた。
 父を殺され母ともはぐれたキャサリンは、キスナに庇護される。彼女を守ることは、兄や許嫁への裏切りでもあるので、キスナは煩悶するが、幼い頃から彼にうヴェーダの教えを説いていた母親に「時として、たとえ近親に背いたとしても、正しい行為をする必要がある」と諭される。
 こうしてキスナは、キャサリンを無事デリーに送り届けるために、二人一緒に旅立ち、キスナの兄を含む過激派一行と、嫉妬に駆られた許嫁のラクシュミ、そしてキャサリンとの結婚を目論む英印混血の王子が、二人の後を追う。
 逃避行の途上で、どんどん互いに惹かれていくキスナとキャサリン。しかし追っ手は次第に迫り、しかも目的地のデリーでも、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の間で争いが勃発し、暴徒と化して互いに殺し合いをしていた。果たして二人の運命は? …ってなストーリー。
 美しいヒロインと、それを守るカッコいいヒーロー、雄大で美しい大自然の風景、美しくロマンティックで見応えもある歌舞シーン…と、ロマンスものとしては上々の仕上がり。キャラも、メインも脇も良く立っているので、ロマンスものに乗れさえすれば、ストーリーにもグイグイ引き込まれる。
 ただ基本的に、舞台が長閑な田舎の山間部から始まって、田園風景を背に展開していくので、激動の時代を背景にした歴史的な雰囲気は、それほどなし。先日見た同様のモチーフの「Madraspattnam」と比較しても、作品としてあそこまでの風格はない感じ。
 とはいえ、長閑で美しい分、逆にどこか寓話のような浮世離れ感があるのは、それはそれで魅力的。ヒーローのキスナをヒンドゥー神話のクリシュナと重ね合わせたり、台詞でマハーバーラタへの見立て等が入るあたりも、そんなムードを良く後押ししていて効果的。
 ミュージカル・シーンもなかなか凝っていて、しかも豪華で美しく、かなり見応えあり。A・R・ラフマーンの音楽も良いです。
 ヒストリカル・ロマンスものとして割り切って見れば、美しいし情緒もあるし感動もあるし余韻も残るし…と、タップリ愉しめること請け合い。
 美男美女による、オーセンティックで奥ゆかしく、でもスケール感もある歴史ロマンス劇なので、往年の少女マンガ好きに、特にオススメしたい感じでした ^^
“Kisna: The Warrior Poet”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=H_UfAqkudYE
“Kisna”から、クリシュナ神の祭礼を背景に、惹かれていく恋人達を描く音楽シーン。
http://www.youtube.com/watch?v=mttdFi5TL2s
“Kisna”から、西洋風のミュージカル・シーン(英国人ヒロインの心象風景なので)。冒頭のヘンなデジタル合成は勘弁だけど、それを過ぎてからのコンテンポラリー系の衣装&振り付けのバックダンサーと色彩効果が見応えあり。音楽も、中盤のエンヤ風コラールにタブラが絡み、そこにストリングスも加わり、グイグイと高揚感を増していき、更にDJ的なツナギで「愛のテーマ」に移行する鮮やかさは、流石A・R・ラフマーンの面目躍如といった感じです ^^
http://www.youtube.com/watch?v=WffaYmdS-yI

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“Paheli” (2005) Amol Palekar
(☆☆☆)
 ヒンディ映画。
 シャールク・カーン、ラニー・ムケルジー主演の、民話風幽霊ファンタジー。
 金持ちの家に嫁いだ若い娘。しかし新郎はビジネスに夢中で、初夜に新婦を抱くこともせずに、そのまま遠地へと旅だってしまう。傷つき嘆く娘の前に、ゴーストが新郎そっくりの姿形をして現れる。ゴーストは娘を愛し、娘もそれを受け入れる。
 ゴーストは家族にも溶け込んで、やがて娘は妊娠する。遠隔地でそれを知った本当の夫は、驚いて家に戻る。二人の夫のどちらが本物なのか、周囲の人々は知恵ある牧者に判断を仰ぐ…といった話が、男女の操り人形の語りによって綴られていくファンタスティックな内容。
 おっとりとした民話的な内容、色鮮やかな色彩、樹からぶらさがった沢山の操り人形といった魅力的なイメージ、程よく抑制のきいたファンタスティックな魔法の見せ方…などなど、色彩の美しさとフンワリした雰囲気が印象深い映画。
 特に、色とりどりの衣装の数々や、壁に描かれている絵など、美術全般が美麗さとフォークアート的な素朴さを併せ持っていて、それを見ているだけでも楽しいです。ただ、個人的にどうにもシャールク・カーンの顔が苦手なので、イマイチ素直にロマンチック気分にはなれないのが残念 ^^;
“Paheli”から、夢見るような色彩美の衣装が堪能できる、オープニングの音楽シーン。
http://www.youtube.com/watch?v=CD_VSirx8PE

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“Dasavatharam” (2008) K. S. Ravikumar
(☆☆)
 タミル映画。
 YouTubeで、責め場とミュージカルがマリアージュしたクリップ(鉄鉤で吊された僧侶が、いきなり歌い出すのだw)を見て、ビックリギョーテンした映画 ^^;
 開始早々に「ユニバーサル・スター、カマル・ハッサンが映画史上初の一人十役を演じる!」と出て、どんなブットビ映画かとワクワクw
 ストーリーとしては、アメリカのラボから人類を滅ぼす生物兵器が流出し、インド人学者がそれを守ろうと奮闘するといった話と、カオス理論(バタフライ効果)と神の御業を絡めて、2004年にインドを襲った大津波は、実は…ってなテーマが描かれるという、期待通りのブッ飛び系。
 ただまあ、冒頭の古代シーン、イントロのアメリカのシーン、クライマックスの大津波なんかは、なかなかトゥーマッチな派手さと賑々しさで楽しいんですが、間の大部分を占める、インド南部でのドタバタ風味の追いかけ劇が、ローカルネタのお笑いがふんだんに登場することもあって、死ぬほど退屈 ^^;
 宇宙的スター(ってことだよね ^^;)カマル・ハッサンは、特殊メイクを駆使して、主人公のインド人学者から、古代の僧侶、ボケ気味の老婆、人気バングラ歌手、更には日本人空手師範、シュワちゃん風殺し屋、はたまたブッシュ大統領にまで化けて見せるんですが…いったい何の意味があるのやらw
 カマル・ハッサンのファン向きのスター映画としてなら、これはこれでOKなんだろうけど、正直私には敷居が高すぎるというか、どうしても「…だから何なのっっ???」って言いたくなっちゃうな〜 ^^; なんか映画というよりは、金の掛かった隠し芸大会みたいでw
 そんなこんなで、全3時間のうち2時間は退屈で死にそうになりますが、残りの1時間は色んな意味でブッ飛んでいて「はあぁぁっっ??」ってな要素がテンコモリなので、ヘンなもの好きな方だったらどうぞ〜 ^^;
“Dasavatharam”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=Zt06wO8zxXg
“Dasavatharam”から、ビックリギョーテンの、責め場とミュージカルのマリアージュw インド映画の底なし沼加減、恐るべしwww
http://www.youtube.com/watch?v=8m3FjcDQa7A
“Dasavatharam”から、クライマックスの津波シーン。アップになる四人(主人公、日本人空手師範、白人殺し屋、ヘリの警察官)は全員カマル・ハッサンw キワモノ好きには、これはタマラナイはず。ちゃんと日本語で「津波だ〜!」と叫ぶカマル・ハッサンや、双眼鏡でウィルスの増殖が見えるカットも要チェックよ!w
http://www.youtube.com/watch?v=kQbGVshjc7c

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“Umrao Jaan” (2006) J.P. Dutta
(☆☆)
 ヒンディ映画。
 高級娼妓の数奇な運命を描いたウルドゥ語による古典小説の映画化。
 主演はアイシュワリヤ・ラーイ、タイトルはヒロインの名前。
 とある老人が隣家から聞こえてきた美しいガザル(歌)に惹かれ、歌の主を訪ねると、それはかつては美貌と芸で名を知られた往年の高級娼妓だった。老人に詩と歌の美しさについて尋ねられ、彼女は「悲しみがそれを美しくする」と答え、身の上語りを始める。
 幼い頃に誘拐され高級娼館に売られた娘は、娼館の女将や養い親となった老夫婦の手によって、歌と踊りと詩作を学び、やがて美しく成長して高級娼妓となり、そのデビューとなる宴会で絶賛される。その席で彼女は若いスルタンに見初められ、実は彼女もそのスルタンに恋をしていた。
 彼女はスルタン公認の愛人となり、互いに永遠の愛を誓い合うが、スルタンの父親はそれに反対し、息子を勘当してしまう。文無しになったスルタンは、再会を約束して彼女の元を離れる。彼女には新たなスルタンが客として付くが、彼女は肌を許さない。
 やがて彼女は、その新しい客の力を利用して、娼館から出て恋人のスルタンに再会するが、恋人は新しい客のついた嘘、「彼女は自分に肌を許したし、そもそも金目当ての娼妓に過ぎない」を真に受けてしまい、彼女を娼館に追い返してしまう。
 失意の彼女を、娼館の仲間達は温かく迎えるが、そこに英国軍によるインド人反乱分子の討伐が始まる。討伐が勢いを増し、民間人まで虐殺される事態となり、娼館の女将は自分一人が館を守るために留まり、娼妓たちを全て街の外に逃がす。
 逃避行の途中、ヒロインは生まれ故郷の街の近くを通り、他の娼妓の薦めもあって、躊躇いながらも家族の元に戻ることにする。そして、存命だった母親と弟に再会するのだが、娼妓となった娘は家名を汚すとして受け入れて貰えず、すぐにこの街を出て行けと追い払われる。
 一方、街のお大尽が高名な彼女に、結婚式の宴会で歌と踊りの仕事を依頼する。満座の中、主人公は自分の悲しみを歌い踊り、それを聴いた客は皆、深く心を打たれ頭を垂れる…といった内容の、娼妓ゆえの悲しみを描いた、一種の女性映画。
 映画としては、豪華に、美しく、格調高く…という作り手の狙いは判るのだが、いかんせん演出が全般的に凡庸なために、さほど心動かされる出来ではない、というのが正直なところ。見所はほぼ、アイシュワリヤの美貌と、衣装やセットの美しさのみと言ってもいい感じ。
 ただ娼館の女将が、キャラクター性と女優の演技が、共に大いに魅力的なので、女将が絡むシーンは引き締まっていて見応えあり。育て親の老夫婦も良く、そこいらへんの泣かせどころはなかなか盛り上げてくれます。
 というわけで、まあ映画としては凡作の類だとは思いますが、前述したようにヒロインの美貌と衣装などの豪華さは溜め息ものなので、歌舞シーンはタップリ楽しめます。
 ただし、そういう歌舞シーンでも、カメラワークやカット割りが凡庸なのは、やはり否めませんけど… ^^;
“Umrao Jaan”から、サルタン(アビシェク・バッチャン)に見初められる主人公(アイシュワリヤ・ラーイ)のデビュー歌舞シーン。
http://www.youtube.com/watch?v=q0rK7b-yJ1o

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“Arundhati” (2009) Kodi Ramakrishna
(☆☆☆)
 インド/テルグ映画。
 現代に蘇った悪霊と若い娘の対決を描いた、伝奇ホラーアクションで、タイトルはヒロインの名前。
 ドライブ中に事故にあった若い夫婦が、助けを求めて古城を訪れると、そこには封印された墓があり、更に妻が行方知れずになってしまう。
 一方、マハラジャの血筋を引く娘(主人公)に縁談が決まり、一族は喜びに沸く。この一族は男系で、娘は曾祖母の代から数えて初めての女児だった。娘とその一族は、導かれるようにして件の古城のある街にやってくるが、その周囲には異様なことが起きるようになる。
 実は、古城にある墓には一族に縁のある者が封印されていて、しかも主人公は、その悪霊を封印した女王の生まれ変わりらしい。そんな中で、古城で妻を失った夫は、悪霊に操られて墓の封印を解いてしまう。
 解放された悪霊は、復讐と性欲で娘に襲いかかる。娘はそれから逃げようと、また一族を巻き添えにすることを避けようと、力のある祈祷師や過去の経緯に詳しい乳母を味方に奮闘するが、次第に追い詰められていく。
 祈祷師に「女王の生まれ変わりの貴女なら、悪霊を封じる方法も判るはず」と言われ、娘は前世の記憶を辿り、女王が身を犠牲にして悪霊退治の武器を作り、それを生まれ変わりである自分に托したということを思い出す。
 しかし武器の所在は判らず、その間にも悪霊の力はますます増していく。乳母は殺され、一族や婚約者の身に危険が迫り、祈祷師が何とか武器を見つけ出すものの、娘の手元に届ける前に刻限が迫り、悪霊はついに生身の身体を得て蘇り、娘を強姦・殺害しようと迫り…ってな内容。
 まあ、細部にはいささか乱暴なところはあれども、これでもかこれでもかパワーで押しまくり。CGIはかなりチープながらも見所は盛り沢山だし、役者さんは目ェひん剥いて大熱演だし、尺が2時間ちょいとインド映画にしては短めのこともあり、楽しく一気に見られました ^^
 悪霊退治の武器が人骨製(しかも生け贄の血に浸していないと効果なし)だったり、その武器を作るためには苦痛に満ちた死に方をしなければいけないんですが、それが死ぬまで頭をココナッツでかち割られ続けるという方法だったりするあたりが、ちょっと目が点になりつつも、新鮮で面白かった ^^
 まあ、怖いかっつ〜とちっとも怖くなくて、逆に押しまくるトゥー・マッチさが楽しかったりもしますし、チャン・イーモウ「LOVERS」の露骨なパクリシーンがあって苦笑したりもしましたが、お好きな方ならタップリ楽しめるのではないかと ^^
“Arundhati”、予告編。こんな感じで、見せ物感覚でアレコレ楽しい伝奇ホラーです ^^
http://www.youtube.com/watch?v=GJrPZjIafVI
“Arundhati”から、殺戮を止めようとする王女〜「LOVERS」パクリのシーンw 伝奇ホラー映画でも、しっかり歌って踊ります ^^;
http://www.youtube.com/watch?v=2KiZkd3DouY
<注意> ”Arundhati”のBlu-rayディスクは、英語字幕と音声にズレがあり、最初のうちはセリフのラインが1つズレている程度なんですが、後半はもう完全にズレまくって、セリフとのズレも10分以上拡がっちゃいます。

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“Ishqiya” (2010) Abhishek Chaubey
(☆☆☆☆☆)
 ヒンディ映画。
 スター不在、豪華なミュージカルシーンなし、いわゆるボリウッド映画とは一線を画す内容ながら、批評家筋からの高い評価と、観客の口コミによってヒットしたという、北インドの田舎村を舞台にした、クライム・ロマン。
 年配の叔父と若い甥というケチな悪党二人組は、叔父の義弟でもあるギャングのボスから金を盗み、知人の伝手を頼ってネパールに逃げようとするが、手引きしてくれるはずの男は既に死んでいて、二人を出迎えたのはまだ若い未亡人で、しかもすこぶるつきの美人だった。
 未亡人の美貌とイノセントな佇まいに、年配の叔父は一目惚れ、若い甥はムラムラきて、しばらくそこに留まることにするのだが、実はこのあたりは、その長閑な風景とは裏腹に、まだほんの子供でのやけに銃器に詳しかったりして、かなりキナ臭いエリアだというのが判ってくる。
 そんな中、ついに追っ手に見つかってしまい、二人は盗んだ金を返して命乞いをしようとするのだが、隠していた金はいつの間にか何者かに盗まれていた。あわや殺されそうになった二人だが、義兄弟の縁で何とか頼み込み、返済までに一ヶ月の猶予を貰うことができた。
 盗んだのはどうやら、例の銃器に詳しい子供らしいのだが、彼は既に森林ゲリラに入ってしまい、コンタクトを取ることができない。金の奪還が絶望的になった二人に、未亡人はワルだった亡夫が遺した資料を参考に、金持ちを誘拐して身代金をとる計画を持ちかける。
 誘拐計画を薦めながら、叔父はますます未亡人に惚れてしまう。しかし叔父が頭の中で、彼女との古風なロマンス妄想を繰り広げている間に、若さで押しまくる甥は遂に彼女をモノにしてしまう。それが叔父にもばれて、二人の間がギクシャクしてしまったところで、ついに誘拐本番の日が。
 あれこれすったもんだしつつも、誘拐計画は何とか成功するものの、そこで驚くべき真実が明かになり、二転三転ストーリーは先の予測がつかない展開へ…といった内容。
 いや、これはお見事!
 巷(っても私が触れることができるのはネット上ですがw)の高評価も納得。
 ストーリーの転がし方、それがひっくり返ることで伏線がカチカチとはまっていく快感、どいつもこいつも、どこか憎みきれない愛すべきキャラクター、心を打つ様々な「愛」の様相、もう問答無用で面白い!
 役者は皆いいし、緩急を効かせた演出もいいし、ユーモア感覚にインド映画的なコテコテ感がなく、どこかとぼけたような洒落っ気すら感じられるのも上々。
 監督のアビシェク・チャーベイ(?)という人は、77年生まれとまだ若く、これが初監督作品らしいけれど、この手腕は素晴らしい!
 そんなこんなで、味わいのある上質な娯楽作品として、文句なしの出来映えの上に、後味もすこぶる良く、インド映画云々を抜きにしてオススメできる良作!
 どっか買いつけて、公開は無理としてもDVDで出さないかしらん (´・ω・`)
“Ishqiya”、予告編。ストーリー自体の面白さに加えて、映像の洒落っ気、男どもの味わい深い顔つきや、ヒロインのキュートさなんかもナイス。
http://www.youtube.com/watch?v=qLE2zJv68pA

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“Naan Mahaan Alla” (2010) Suseenthiran
(☆☆)
 タミル映画。
 気のいい青年が復讐の鬼と化す、前半ロマコメ〜後半血みどろアクション。タイトルの意味は「俺は聖人じゃない」ということらしい。
 主演はタヌキみたいでかわいいw、「Paiyaa」や「Aayirathil Oruvan」のカルティ。
 主人公は無職だけど気のいい青年。友だちの結婚式で出会ったカワイコちゃんに一目惚れして、いろいろ策を巡らせて見事お付き合い開始となり、結婚も考えるようになるのだが、彼女の父親からは反対されて、気持ちが一年間変わらないことと、定職につくことを条件に出される。
 主人公は銀行の集金人の職に就くが、生来の善良さが祟って上手くいかない。一方、この街では不良学生どもがつるんで、オンナノコを輪姦したあと殺害し、死体をバラバラにして捨てていた。そしてある日、タクシードライバーをしていた主人公の父親が、その連中に交通事故に見せかけて殺されかける。
 実は父親は、ワル連中がオンナノコを拐かす際、彼らを客として乗せて顔を覚えていたために、警察にたれ込む前に口封じのために狙われたのだった。父親は幸いにして大事なく自宅療養となる。家賃や生活費の上に薬代も嵩むようになり、主人公は心機一転、真剣に働くようになり、妹の結婚話もまとまる。
 ところがそんな矢先、再びワル連中の魔の手が父親を狙い、今度は無残にも殺されてしまう。嘆き悲しむ主人公に、警察は犯人捜しの協力を申し入れるが、主人公はそれを拒否。父親を殺した連中を、法の手に任せるのではなく、自らの手で裁こうというのだ…といった内容。
 う〜ん…これは…はっきり言って、前半のロマコメと後半の復讐劇が、完全に分離、これいじょうないほどクッキリハッキリ分かれてしまっていて、ぶっちゃけ後半だけ見ても無問題っつ〜くらいに、前半の要素は後半になるとキレイサッパリ消え去っちゃって…何ともはやw
 父親が事故にあうのが前半部のほぼラストなんですが、以後、ヒロインの登場シーンなんて数えるほどしかないし、ロマンスの行方も空中分解して消え去っちゃう。残るは主人公の復讐劇なんですが、映像的な見所はともかく、作劇としては伏線もミスリードも何もない一本調子のズンドコ節 ^^;
 そんなこんなで、主人公が復讐を遂げると、いきなりブツっとジ・エンド。「ちょ、じゃあ前半のアレコレは、いったい???」ってなポカ〜ン気分に。ごく普通の善良な青年が、巻き込まれ型の肉親の死をきっかけに、復讐の鬼と化す凄みを描きたいのかもしれないけれど、それにしてもザックリしすぎ…
 とはいえ、ストーリーと脚本はちょっとウムムなんですが、演出自体はなかなか力があって、特に後半の復讐劇は、サスペンス演出もアクション描写も見事。ストーリーのズンドコさにも関わらず、見ていて思わず手に汗握るほど引き込まれます。この演出力は捨てがたい感じ。
 そんなこんなで、ストーリー☆、脚本☆☆、構成☆、演出☆☆☆☆☆…みたいな、何ともアンバランスな映画。ま、カルティのスター映画としては、これでもいいのかなぁ… ^^;
 しかしこれがIMDbで7.8点ってのは、やはり解せないw それだけカルティが、いま上り調子のスターだってことなのかしらん? (´・ω・`)
“Naan Mahan Alla”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=cDB7EChIFks

2010年下半期に見て印象的だった未公開映画あれこれ

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“Janosik: prawaziwa historia” (2009) Kasia Adamik, Agnieszka Holland
 ポーランド映画。ポーランド盤DVD(英語字幕付き)で鑑賞。
(ドイツamazon)

 タイトルの意味は「ヤノーシク 真実の物語」ということらしい。仮に「ヤノーシク」と書いたけど、耳で聞いた感じだと「ヤヌーシェク」の方が近いかな?
 18世紀初頭の、ポーランド/スロバキア/ハンガリーの国境あたりで活躍した、ロビン・フッドや石川五右衛門のような義賊伝説を、リアルな史劇として再構成した、といった感じの映画(らしい)。
 主人公は元々「反乱軍」に属していたのが「皇帝軍」に編入されてしまい、やがてそこからも抜けて、アウトローたちの集う「山賊」の仲間に入り、やがてその首魁になり、富裕層から奪った金品を貧しい人々に与えることで英雄視しされ、やがて伝説化していくのだが…といったのがメインのストーリー。
 そんな中には民族的な対立とか、政治的なアレコレなんかも含まれているようなんですが、固有名詞が多い上に歴史的な知識も乏しいので、私の英語力ではかなりフォローしきれなかった部分が多々あり。「ロビン・フッド」というよりは「ブレイブハート」みたいな感じも。

 とにかくカメラワークが素晴らしい。臨場感主体のグラグラ動く系なのだが、それがめいっぱい動いてクラクラっとしてきた瞬間、ふっと抜けたりケレン味たっぷりの構図になったりと、これはかなり魅せられます。
 また、古い時代の生命力というかバイタリティというか、そういったディテールをふんだんに盛り込んだ展開も魅力。結婚や夏至祭や葬儀といったシーンは、フォークロリックな物珍しさと力強さで溢れていて、生も死も性も真正面から力強く描写されます。そういう意味では、かなりアダルトな味わい。
 特に性の描写が、互いの手に絡め合った蜂蜜を舐めるクローズアップとか、唾で作った泡を舌先で弄び、それを相手の口中に飛ばすとか、かなり触感的でフェティッシュな面白さあり。死の方も、見ていてかなり「ひえ〜!」な直接描写。
 キャラクター・ドラマも、家族愛、男女の愛、親子愛などで、エモーショナルにいろいろと盛り上げてくれます。群像劇的に、複数のキャラクターにそれぞれ見せ場があるのも良い。
 特にやっぱり個人的には、ご贔屓のミハウ・ジェブロフスキーが、ヒゲモジャ木訥キャラだってのは大きい感じ ^^;
 というわけで、全体的な印象は実にヨロシイので、何とかちゃんと理解できる日本語字幕付きで見たいところです (´・ω・`)

 責め場としては、冒頭「捕まった捕虜が全裸で整列させられ、中の一人がナイフで腹を割かれて、呑み込んでいた貴金属を腸から取り出される」シーンや、クライマックスに「脇腹に鉄鉤を突き刺して吊す処刑」なんてシーンがあり。
Janosik_scene

【追記】2012年5月2日に『バンディット 前編:義賊ヤノシークの誕生』『後編 : 英雄の最期』の邦題で日本盤DVD発売。

バンディット 前編:義賊ヤノシークの誕生 [DVD] バンディット 前編:義賊ヤノシークの誕生 [DVD]
価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2012-05-02
バンディット 後編:英雄の最期 [DVD] バンディット 後編:英雄の最期 [DVD]
価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2012-05-02

Blu-ray_bronson
“Bronson” (2008) Nicolas Winding Refn
 イギリス映画。アメリカ盤Blu-rayで鑑賞。
(アメリカamazon)

 自らを「チャールズ・ブロンソン」と名乗る、イギリスで最も凶暴な囚人という実在の人物を、スタイリッシュな映像と80’sポップス+オペラ音楽に乗せて描いた作品。
 主人公のブロンソンことマイケル・ピーターソンを演じるトム・ハーディが、実にチャーミング ^^
 しょっぱなっからいきなり、主人公が独房の中でチ×コ丸出しの全裸でトレーニングに勤しんでいると、看守たちが乱入してきてタコ殴りとゆー、萌えるイントロにワクワクw
 映像は、ミニマリズム的なシンメトリーとか、劇中劇的なパフォーマンスとか、アニメーションとかも用いていて、かなり凝っています。

 ただ実際の内容は、どんだけブルータルなのかと身構えていたら、それほどでもなくいささか拍子抜け。ストーリーもけっこう淡々としていて、良くも悪くもスノビッシュ。
 そんなこんなで肝心のブロンソン君が、暴れん坊だけどけっこう小物に見えてしまうのだが、これは計算されてのことなのか、それともミステイクなのか、ちょっと判断に苦しむところ。
 まあ、私は基本的にブロンソン君が「か〜わいい」とゆー感じなので楽しかったんですが、一般的にはどうなのか…w
 まあ、いささか虻蜂取らずで食い足りない感は否めないけれど、主人公のチャーミングさと、凝った画面構成の面白さと、オフビートなユーモア感の楽しさで、個人的にはけっこう楽しめました ^^
 ブロンソン君、すぐ全裸になってチ×コぶらぶらさせてるしwww

【追記】2012年12月5日に目出度く日本盤DVD発売。

ブロンソン [DVD] ブロンソン [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2012-12-05

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“Царь (Tsar)” (2009) Pavel Lungin
 ロシア映画。ロシア盤DVD(英語字幕付き)で鑑賞。
(アメリカamazon)

 監督は「ラフマニノフ ある愛の調べ」のパーヴェル・ルンギン。タイトルの意味は「ツァーリ」、つまりロシア皇帝で、具体的にはイヴァン雷帝の物語。
 ストーリーの軸は、国の平安と敵の排除、そして狂信的なまでの宗教心に突き動かされるイヴァン雷帝が、その恐怖政治をどんどんエスカレートさせていく様子と、何とかそれを止めようとする大司教フィリップとの対立という形になっています。
 ただし、映画の主眼は「何がどうしてこうなった」系の叙事ではなく、「ツァーリの祈り」「ツァーリの戦争」「ツァーリの喜び」といった章立て形式で、事件のあらましを語るのではなく、それを通じてイヴァン雷帝の内面を描き出していくという形式。加えて、宗教的要素が極めて濃厚。
 ロシア史の知識に加えて、頻繁に引用される聖書のモチーフに対する理解も要求されるので、これはかなり手強い内容 ^^;
 歴史物やエピックものというよりは、それに題を採った文芸作品といった味わいで、見応えはあったけれど、どこまで理解できたかは、ちと自信なし (´・ω・`)

 全体のムードは、ひたすら暗くて重くて、なんか久々にロシア映画らしいロシア映画を見た気分。
 ただし映像は、寒々とした暗さがメインですが、実に美麗。
 また、セットや衣装の素晴らしさ、緊張感のある構図、役者さんたちの鬼気迫る演技…等々、いずれも重厚感タップリで、映像的な見所は多し。宗教的な「奇跡」がそのまま描かれるあたりは、イマドキの映画としては逆に視点が新鮮な感じも。
 そんなこんなで、手強い内容ではありますけれど、モチーフに興味のある方だったら、まず見て損はないです。娯楽性はホント皆無ですけど ^^;
 映像が素晴らしいんで、できればDVDじゃなくBlu-rayで見たかったな〜 (´・ω・`) ま、英語字幕盤ゲットできただけ幸せか。

 責め場情報。
 恐怖政治なので牢獄で鞭打ちとか焼き鏝とかはあるわ、公衆の面前で熊に喰い殺されるわ、公開で吊り責め拷問にかけられるわ、僧侶は建物ごと焼き殺されるわ…と、ダークムードでいっぱい。
 ただ、表現自体は最近の映画の中では、それほどエグくもない方。
 …でも「エグくない」ってのは比較の問題かも。熊がハラワタをズルズルっとか、手のひらを釘でガンガンなんてシーンもありますので、残酷描写が苦手な人だったら、やっぱ要注意かも。
 因みに、個人的に一番「ぎゃ〜!」ってなったのは、人じゃなくてニワトリが、何羽も首を切られてバタ狂うシーンでした… (´・ω・`)

Blu-ray_The-Human-Centipede
“The Human Centipede” (2009) Tom Six
 オランダ映画。アメリカ盤Blu-rayで鑑賞。
(アメリカamazon)

 マッド・サイエンティストに捕まった若者三人が、口と肛門を数珠つなぎに手術で連結されてしまい、ムカデ状のフリークスに改造されてしまうというホラー映画。
 夕張ファンタスティック映画祭で、『ムカデ人間』のタイトルで上映されているそうです。
 いや〜、予告編を見た段階から、ヘンタイ映画の予感がビンビンだったんですが、実際見てどうだったかというと……
 ヘ ン タ イ !www
 懺悔します、ちょっとボッキしました ^^; いや〜、好きだわこれ。
 ホラーっつうか綺想モノというか、そういうのってシュールとギャグのスレスレ紙一重みたいなところがありますが、この映画はモロにそんな感じ。
「人間が手術でムカデ状に連結改造されてしまう」という、そんな綺想がズッド〜ンとぶっとく1本あるだけで、他は何もない話。もう清々しいくらい、なんっっっにもなくて、その潔さには拍手喝采!
 もう、こうなるとアート映画って感じ。

 じっさいクリアで寒々しい絵面は美麗だし、クールな悪夢を見ているよう。
 さほど直截的な描写もなく、ショッカー演出もなく、ひたすら静かな展開ながら、緊張感を保つ演出力はなかなかのもの。まあ、ホラーっつうか、綺想SM映画って感じもしますが ^^;
 で、マッドサイエンティストの博士がサイコー!
 立ってるだけで怖いし、顔のアップだけで怖い。素晴らしい存在感。
 内容が内容なので、はて、恐ろしがっていいものやら、笑っていいものやら…なストーリーを、前述した画面や演出の良さと、あとこの博士の存在感がアンカーになって、恐怖方向に引き留めている感じ。
 ムカデの先頭にされちゃうのが、日本人ヤクザのアンチャンってのも、なかなかヨロシイ。欲を言えば、三人全員男だともっと嬉しい(実際は後の二人は女)んだけど、ま、贅沢は言うまい(笑)。
 でもって、人間ムカデに改造したあと、博士が何をするのかというと、「よ〜しよし、こっちまで歩いてきてごらん、ホラいちに、いちに!」とか、「言うこときかんのかい!」と鞭でビシバシ……って、ただのSMやんwww

 そんなこんなで、タップリ楽しませていただきました ^^
 見る前は「伊藤潤二さんのマンガみたいなのかな〜」と思ったけど、見終わってみると、どっちかっつーと三条友美さんのホラー漫画っぽいかも ^^ 「少女菜美」とかじゃなくて「犬になりたい」とかの方ね ^^;
 ………しかし、これに続編って(連結される人間の数が増えるらしいw)………やめたほうがいいと思うんだが……… ^^;
 因みに、一緒に見ていた相棒は、エンドクレジットが始まった瞬間、しばし絶句した後ゲラゲラ笑い出して、私に「これ好きでしょう!」と言いましたw
 はい、大当たり、大好きです ^^;

【追記】『ムカデ人間』の邦題で劇場公開&DVD発売されました。

ムカデ人間 [DVD] ムカデ人間 [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2012-02-03

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“Край (Kray / The Edge)” (2010) Aleksei Uchitel
 ロシア映画。ロシア盤DVD(英語字幕付き)で鑑賞。
(russianDVD.com)

 2010年の米アカデミー外国語映画賞にノミネートされた作品らしいです。
 舞台はシベリア。第二次大戦終結直後、タイガ(針葉樹林)にある、政治犯やバルト三国人を収容した労働キャンプの周辺組織(どうも準ラーゲリのような場所らしい)に、前線で戦った英雄という男が、蒸気機関車の機関士として赴任してくる。
 彼は傷痍軍人らしくときおり脳震盪を起こす。この男を主人公に、機関士の座や女を巡っての争いが描かれ、やがてライバルの企みで機関士の座を喪うのだが、キャンプに出入りするよろず屋の男から、そこから少し離れた島に、橋が落ちたので動かせなくなった蒸気機関車が放置されているという情報を得る。
 その機関車を得るために島に渡った彼は、朽ちた機関車の中に隠れ住んでいた、若い娘と出会う。彼女は、独ソ不可侵条約時期に架橋工事のためソ連にやってきた、ドイツ人技師一家の生き残りで、その機関車を殺された恋人の名で呼びながら、大戦のことも知らずに今まで生きてきたのだ。
 主人公と娘は強力して、橋を修理して機関車でキャンプに戻る。しかし、それによってキャンプ内には不穏な空気が漂い始め、主人公と娘は次第に孤立していき、やがて娘の存在は上層部にも知れることとなり…といった内容。

 ストーリーとしては、閉鎖状況下でのアクション・サスペンスといった趣もあるんですが、それと同時に、外側からは判らない登場人物の秘められた事情が、ストーリーの進行と共に徐々に明かされていくことで、スターリン体制や戦争のもたらした人間性の歪みが浮かびあがっていく。
 更に、蒸気機関車や巨大な熊といったモチーフにも、一種の象徴的な意味合いが与えられているので、ストーリー自体は平明なんですが、その内容はかなり複雑で多層的。ディテールのあれこれを楽しみながら、それが何を意味しているのか行間を読み解いていく必要がある系の内容でした。
 最大の見所としては、やはり蒸気機関車の存在そのもの。白煙を吐きながらタイガを疾走する蒸気機関車なんてのは、それだけでもカッコいい絵になるのに、それが複数台競争したり、森の中で蔦まみれになっていたり、もうひたすらインパクトのあるヴィジュアルのオンパレードで、蒸気機関車好きなら必見!
 そういったスケール感のある部分の魅力に加え、人間ドラマといったディテールの方が、これまた良い。そんな感じで、人間も蒸気機関車も大自然も、全てが映画の登場人物という味わい。素晴らしく繊細かつパワフルな表現になっています。映画好きなら見て損はなし!

 ただ、前述したように多層的な内容ですし、時代背景に関する知識も要求される(いちいち丁寧に説明しれくれず、ちょっとした言葉やエピソードを使って、判る人には判るでしょといった感じの表現なので)系ではあります。私、思わず2度繰り返して見てしまったんですが、まだ100%理解には足りないw
 そんなこんなで、これはぜひ日本語字幕付きで見てみたいので、お願いだからどっか買い付けて出してくださいな (´・ω・`)
 予告編見て「良さそう!」と思ったロシア映画好きなら、もう間違いなく楽しめるかと ^^

【追記】『爆走機関車 シベリア・デッドヒート』の邦題で、日本盤DVD出ました。

爆走機関車 シベリア・デッドヒート[DVD] 爆走機関車 シベリア・デッドヒート[DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2013-12-15

Blu-ray_The-9th-Company
“9 Рота (9 Rota/The 9th Company)” (2005) Fyodor Bondarchuk
 ロシア映画。アメリカ盤Blu-rayで鑑賞。
(アメリカamazon)

 ソ連のアフガン侵攻末期、戦場に赴いた若者達の姿を描いた、2005年製作のロシア映画。監督はフョードル・ボンダルチュク(セルゲイ・ボンダルチュクの息子)。
 良いという風評は聞いていたけれど、実に見応えのある映画。
 戦争を俯瞰的に捉えたものではなく、あくまでも目線は身の丈レベル。新兵として鍛えられ戦地に赴いた兵士達の日常を、ディテール豊かに描いていくことで、個がシステムにスポイルされていく姿を描いたもの。
 日常描写の繊細さと同時に、戦争映画的なスペクタキュラーな見所もいっぱい。特にクライマックスの戦闘は、戦争という人間同士の殺し合いの姿をしっかり描いているという点で特筆もの。ド迫力の中にふっと挿入される詩的な瞬間や、エモーショナルにもグイグイ訴えかけてきて、もう圧倒の一言。

 ボンダルチュク息子の演出は、お父さんほど映像派ではないにせよ、今様のテンポの良い演出を基調に、前述したような静的な要素を挟む緩急も上手く、とても初監督作とは思えないほど。
 特に、内地から外地への兵士達の輸送を、飛行機のボルトに上空の寒気で霜が降り、それが溶けて水になるというクローズアップのワンショットで表現する感覚には、もう拍手喝采。暑く乾燥した空気感とか、肌を伝う汗のシズル感なども素晴らしい。アフガニスタンの雄大な風景もたっぷり堪能。

 俳優さんもいずれも佳良。メインの二人は「ナイト・ウォッチ」シリーズの隣人の吸血鬼青年と、「1612」の主人公の3の線の相棒役。他にも先日の「The Edge」のよろず屋オジサンとか、アレクセイ・クラフチェンコこと「炎628」の主役の少年(が成長した中年)など、見た顔がちらほら。
 ロシア製「コマンドー」こと「コマンドーR」で、一部のガチムチおやじ好きゲイを虜にしたミハイル・ポレチェンコフが、新兵教育の鬼軍曹(だけど実はけっこういい人)という役で出ていたのも得した気分 ^^ 相変わらずオイシソウなお肉でゴザイましたw
 そういやフョードル・ボンダルチュクは、この映画に出演もしているらしく、これに限らず、私はこの人が俳優として出ている映画を何本かは見ているはずなんだけど、いまだにどの人なのか判らない ^^; でも、さっきФёдор Бондарчу́кで画像検索したら、第9中隊の軍曹さん?

【追記】この”9 Рота (9 Rota/The 9th Company)”は『アフガン』という邦題で日本盤DVDが出ました。

アフガン [DVD] アフガン [DVD]
価格:¥ 5,040(税込)
発売日:2011-06-03

First-on-the-Moon
“Первые на луне (Pervye na Lune/First on the Moon)” (2005) Aleksei Fedorchenko
 ロシア映画。公式サイトのストリーミングで鑑賞。
(http://www.1moon.ru/)

 ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ・ドキュメンタリー賞受賞作だというので、最初はてっきり、ソ連の宇宙開発の歴史を描いた、純然たるドキュメンタリー映画だと思って見ていました(ロシア語音声のみなので、言葉の意味が全く判らなかったもんで)。
 しかし見ていくうちに、それにしてはいくら何でも、カッコいい絵面が多すぎだろう……と思ったら、「実は1930年代にソ連のロケットが月に到着していた!」っつ〜モキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)でした。
 というわけで、二台の蒸気機関車が雪原の中を月ロケットと発射台を牽引&設置! なんつ〜、身震いするほどカッコいい映像が続々と。
 言葉が判らないので詳細は良く判らないんですが、おそらくソ連時代、それも第二次世界大戦前に、ソ連には月ロケット開発計画があり、ペレストロイカ後になって、その極秘計画がどのようなものだったのか追跡調査、発見された記録フィルムや生存している関係者の証言を集めて、その全貌を明らかにしていく……という形式のモキュメンタリーのようです。
で、これが言葉が全く判らないにも関わらず、グイグイ引き込まれて、ついつい最後まで一気に鑑賞、しかもラストは感動してしまった……という次第。
 こりゃひょっとしてスゲ〜映画かも知れません。これなら英語字幕なしでもDVD欲しいと思って探したんですが、残念ながら唯一出ていたロシア盤も既に廃盤のようでガックシ。

【追記】後日、廃盤だったロシア版DVDを無事入手。
36293
しかし残念ながら英語字幕等はついていませんでした。

dvd_7days
“Les 7 jours du talion (7 days)” (2010) Daniel Grou
 カナダ/ケベック映画。米盤DVDで鑑賞。
(アメリカamazon)

 見る前は、てっきりホラー/サスペンス系かと思っていたんですが、いざ見てみたら、重〜〜〜い社会派シリアス系でした……。
 8歳の娘を強姦殺人された父親(外科医)が、犯人を誘拐監禁し、復讐として様々に拷問する。主人公(父親)は単独行動で、妻は夫の行動を是としない。警察は監禁場所を掴めずにいるが、果たして幼女強姦犯を救う意義があるのかという声も起きる。
 捜査の主任刑事は、自分も妻をコンビニ強盗に殺されたという経緯があり、更に拷問中に犯人が自白した余罪を、主人公はマスコミに公表し、その行為の是非を巡って世間にも波紋が起きる。主人公は七日後の娘の誕生日に、娘を強姦殺害した犯人を殺すつもりなのだが、果たして…という内容。

 娯楽作品的な粉飾は、ほぼ皆無。無彩色に近い寒々しい映像で、音楽もなく現実音のみ。見せ方も直截的で、殺された少女の遺体も、拷問される犯人の肉体も、象徴的な鹿の死体も、淡々と、しかし剥きだしに見せつけられる。
 いちおう、主人公の居所探しとか、他の犠牲者の母親が登場するとか、ドラマ的な起伏はありますが、主眼はそういったストーリーではなく、そんな中で、登場人物が抱く「気持ちは判るけど…でも…」という煩悶を描き、主人公も自問自答し、それらがそのまま鑑賞者にも突きつけられるというもの。
 拷問シーンはスゴいし、ホラーやスプラッタ絡みでオススメ商品とかにも出てきますが、そういう興味で手を出すと、大いに裏切られると思います。

 正直、かなりキツい内容。
 描写は生々しくはあるものの、スキャンダラスな見せ方ではないので、なんかもう逃げ場がない感じがするんですな。映画が突きつけてくる、何ともやりきれないものに、真面目に向き合うしかないという感じで。
 また、情緒が入り込む隙間がないところも、見ていてしんどい。これで絵的に美しくなければ、こっちも一種突き放して見られるんだけれど、下手に映像が美しい分、なのに情緒は拒否されるのが、自分的にはキツかったなぁ……。
 テーマ的には掘り下げ不足な気がするけれども、おそらく掘り下げる意図が最初からないんでしょう。事象だけを提示して、後は観客それぞれに考えさせようというタイプ。
 私の趣味から言えば。こういったテーマをシリアスに扱うのであれば、どこかもう1つ突き抜けたパワーが欲しい気はしますが、作品としてのクオリティは高いと思うので、興味がある人なら見て損はなし。

 ただし、真面目な部分を離れて、単に責め場だけ目当てで見るのであれば、これはけっこうキてます。
 なにしろ誘拐監禁拘束された後、被虐者は徹頭徹尾スッポンポン、一誌も纏わぬ丸裸で、アレもブラブラさせ放題。
 でもって、ハンマーで膝を砕かれ、片脚しか使えなくなったところで、ワイヤーで天井から首つり、不自由な片脚でヨロヨロしながら、喉元にワイヤーが食い込みグエッ、両手吊りで跪かせられて、太いチェーンで身体をメッタ打ち、麻酔かけられて強制手術……ってな具合の拷問の数々を、もうダイレクトに即物的に見せつけてきます。
 残酷男責め好きの方なら、それだけ目当てでも充分以上に見所はあるかと。

【追記】『7デイズ リベンジ』の邦題で日本盤DVD出ました。

7 DAYS リベンジ [DVD] 7 DAYS リベンジ [DVD]
価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2013-05-02

dvd_pregi
“Pręgi (The Welts)” (2004) Magdalena Piekorz
 ポーランド映画。ポーランド盤DVD(英語字幕付き)で鑑賞。
(イギリスamazon)

 ご贔屓、ミハウ・ジェブロフスキー主演の、父と子の確執を描いたヒューマンドラマ。
 主人公のヴォイチェクは、厳格な父親に男手1つで育てられたが、第二次性徴が訪れた13歳の頃、父親およびカソリックの抑圧に耐えかねて家を飛び出す。20年後、大人になった彼は、洞窟探検のインストラクターになっているが、抑圧の影響で偏屈な人間嫌いの潔癖症になっている。
 そんな彼に興味を示し、積極的にアプローチしてくる女性が現れ、彼も戸惑いつつも受け入れるようになるのだが、それでもやはり彼は父親の影から逃れることができず、女性との仲にも仕事相手との関係にも亀裂が入ってしまう。そんな中、20年間連絡を絶っていた父親が亡くなったとの報が入る。
 父の死を知り、そして遺言としてカセットテープに吹き込まれた父の告白を聞き、彼は初めて父親が自分を深く愛し、そして自分もまた父親を愛していたことを悟る。そして恋人から、妊娠したかもしれないと言われ…といった内容。

 映画前半は思春期の回想、後半が現在という構成で、情感豊かにストーリーが紡がれていく。彩度を抑えた色調の、しっとりとした柔らかな映像も効果的。説明的な要素はギリギリまで削ぎおとされ、尺も90分弱とコンパクトなので、テーマの割には実に見やすい仕上がり。
 父親と息子という関係に、当然のように神と人の関係が重ね合わされているあたりは、流石に敬虔なカソリックが多いポーランド映画といった感じ。主人公が洞窟内で腹ばいになって進む姿を、祈りの姿勢と重ね合わせるあたりも興味深し。反面、いささかサラッとし過ぎて、もうちょい突っ込んで欲しい気も。
 でも個人的には、お目当てのミハウ・ジェブロフスキーがやはり実に良かったのと、オチに相当するちょっとした仕掛けによるエンディングが、地味ながらも何ともしみじみ感動的だったので、大いに満足。滋味のある佳品 ^^
 あと私としては、こういった自分が周囲に溶け込めないという悩みとか、いい大人の男がぐだぐだのたうち回る姿とか、どちらも大いに惹かれるモチーフであり、しかも演じるのがご贔屓の男優ということもあって、ポイントが更に加算された感じです ^^;

2010年下半期のハマりもの、ヴィクラム(Vikram)

vikram
 今年の夏に、ふとしたきっかけでインド/タミル映画のスターだという、ヴィクラム(Vikram)という男優さんに、スッポリはまってしまいました(笑)。
 まあぶっちゃけ最初のきっかけは、スチル写真を見て「何てカッコいい殿方!」とシビれちゃっただけなんですけど(笑)、ちょいと調べてみたら、タミル映画のDVDって個人輸入でけっこう安価に入手できる。んじゃちょっくら見てみんべい……と手を出したのが運の尽き。
 ヴィクラムにもタミル映画にもズッポリとハマってしまい、今年の夏以降に見た映画の四分の一は、タミル映画のDVDだったんじゃないかっつ〜くらい、中毒症状になりまして(笑)。
 そんなこんなで、ヴィクラム出演作も15本見てしまった(笑)。
 で、その都度Twitterの方であ〜だこ〜だ呟いていたんですが、まぁ、今年下半期の私的事件の1つとして、ブログの方にも纏めて載せることにします(笑)。
 というわけで、おそらく誰も興味がないであろう(笑)、タミル映画スター、ヴィクラムの出演作15本連続レビュー、いきます!
 因みに、並び順は私が見た順番そのまま、☆の数も独断です(笑)。

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“Bheema” (2008) N. Linguswamy
(☆☆☆☆)
 基本的にインドの男優さんの顔はちょい苦手な私が、おそらく初めて心底「かかかカッコイイ!」と思ったw、ヴィクラム主演のクライム・アクション。
 二つのギャングが対立する街で、突如現れたムチャクチャ強い男を軸に、親分子分の絆、無邪気な娘との恋、連鎖する暴力の悲劇などを描いたシリアス作品。
 プロット的には東映ヤクザ映画にも似た、ある種の定番ストーリーなのだが、単にそのテのクリシェを繋ぐだけではなく、ヒーロー映画的なカッコいいアクションをたっぷり見せながらも、やがて暴力の無常さという悲劇へと至るストーリーがお見事。クライマックス、まさかこんなハードな展開になるとは…。
 演出は基本的にリアル志向。ユーモラスな描写もあるけれど、それもアメリカ映画とかと同じような程度で、インド映画にありがちな、コントめいたお笑いシーンではない。インド映画らしく歌と踊りもあるのだが、それも極力ストーリーから浮かないように工夫されているのが判る。
 情緒描写も過剰になりすぎないように抑制されているし、極端にトゥーマッチな演出もなく、インド映画的なエグ味はほとんど感じられず。ミュージカル・シーンを除けば、インド映画に馴染みのない人でも、面白いクライム・アクションとして、違和感なく普通に楽しめるのでは。
 まあ、とにかく主役のヴィクラムが、ムチャクチャ強いけど不器用な男を好演していてカッコいい。アクション・シーンも、ワイヤーワークなどを使いつつ、馬鹿馬鹿しくなるギリギリ手前で踏みとどまり、煩くならない程度の画面効果も交えて、アクション的にも映像的にも見応えあり。
 というわけで、インド映画云々を抜きにして、普通に男のドラマ好きにオススメできる内容。ただし前述したように、かなりハードな結末が待ち構えているので、カッコいいアクション映画なんだけど、鑑賞後の爽快感はないのが諸刃の剣かも。私は好きだけど、見る人によっては後味が悪いかも…。
“Bheema”から、新生活を始めた主人公とヒロインを、BGM的に挿入歌を使って表現したシークエンス。
http://www.youtube.com/watch?v=h8FuT2LknZ0

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“Kanthaswamy” (2009) Susi Ganesan
(☆☆)
 インド製のマスクド・ヒーローもの。
 カンダサーミーという鶏の化身のような神様に扮した男が、悪人から闇金を巻き上げて貧乏人に施しており、警察はその正体を追い、悪党の親玉も、自分の悪事を知らない美人の娘を使って、カンダサーミーだと思われる男を罠にかけようとする…といった内容。
 ストーリー的には、バットマンみたいな感じで始まるんですが、ヒロインとの騙し合いや恋の駆け引きにフォーカスが移ったり、インド社会の経済格差を問題にする社会派っぽい要素があったり…と、いかにもインド映画らしい盛り沢山さなので、マスクド・ヒーローものにしてはスピード感に欠けるのが痛い。
 全体のテイストは、極めてアメリカ映画風。コマ落としやらチカチカする画面効果などを多用した画面は、良く言えばスタイリッシュだけど、多用しすぎでウンザリする感も。ミュージカル場面もMTV風、音楽もヒップホップをベースにしたミクスチャー感のあるもので、設定以外にインド風情はあまりなし。
 映像自体は今っぽいんですが、本筋と全く関係ない漫才みたいなお笑いシーンがしつこく入るとか、クライマックスで緊迫感が欲しいシーンなのに、変なお色気サービスみたいなミュージカル・シーンを入れるといった感覚は、完全に古いタイプのインド映画と同じなので、ちょっとイライラさせられます。
 主演は、最近のご贔屓ヴィクラム君。スタイリッシュなビジネスマン風情がメインですが、怪人姿になったり老人に化けたり、はたまた女装までしてくれたりで、コスプレ七変化をタップリ楽しませてくれました。でもやっぱ、もっさい髭面のときが一番ステキw
“Kanthaswamy”主題歌。このタミル語ラップの主題歌は、かなりカッコイイ ^^
http://www.youtube.com/watch?v=g70WjKYtJG8

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“Pithamagan” (2003) Bala
(☆☆☆☆☆)
 ヤバい…これはかなり凄い。主演のヴィクラム目当てで注文したDVDが届いたので、ちょっと再生チェックのつもりでプレイヤーに入れたのだが、その映画力に引き込まれてついつい最後まで通して見てしまった…ど〜すんのよ、仕事w
 墓地で産み落とされ火葬係の行者に拾われた、火葬以外のことは何も知らず野生児のように育った青年が主人公。行者の死後、彼は初めて墓地から出て村へ行くのだが、村人たちから忌み嫌われる。そんな中、1人だけ彼をまともに扱ってくれた大麻を売りの娘に懐き、彼女の世話で大麻畑で働くようになる。
 しかし大麻の輸送中に警察に襲われ、独り取り残されて囚われ、牢屋に入れられてしまう。言葉もロクに喋らず、何かあると野獣のように暴れ回る彼は、警官たちからは虐待され、囚人仲間にも敬遠されるのだが、やがて自分に良くしてくれた同房のチンケな詐欺師に懐くようになる。
 やがて釈放された主人公は、詐欺師・麻薬売りの娘・旧習に反発する女学生といった、社会からはみだした者たちと一緒に、穏やかで楽しい共同生活をするようになり、次第に人間らしさも芽生えてくる。しかし、大麻畑を潜入捜査していた警察官が殺されたことを契機に、一同は悲劇へと巻き込まれていく…
 とにかくしょっぱな、主人公が墓地で産み落とされるシークエンスから、もう圧倒されてしまった。それまでモノクロだった画面が、巧みな移動撮影で人物がフレームアウトし、レンズフレアが入ると同時に産声が上がり、その瞬間、画面がカラーに切り替わる、そのワンショット撮影の見事さ!
 作劇もお見事。一見、いかにもインド映画のお約束的なお笑いシーンっぽいものもあるのだが、それが中盤以降に見事な効果となるし、やはりインド映画に付きものの歌と踊りも、メタフィクション的に扱うことで、インドの大衆にとって映画とは何であるかという部分までもが浮かびあがってくる。
 ストーリー的なクライマックスは、構造そのものは良くあるクライムもののパターンなのだが、特異な設定の主人公とヒンドゥー教的な要素を絡ませることによって、まるでギリシャ悲劇でも見ているかのような、神話的な力強さへと転換する。娯楽映画として成立させつつ、思索性や芸術性もある見事な内容。
 主役のヴィクラムは、台詞も表情もほとんどない(笑うことも泣くこともないという設定)にも関わらず、無垢な穏やかさと野獣的な獰猛さの緩急が素晴らしく、堂々たる存在感。(おまけにカワイイw)終盤の狂気をも感じさせる演技は、バイオレンス描写とも相まって圧巻。
 そんなこんなで、とにかく見事な出来映えなので、インド映画に興味がない方でも、これは大いに一見の価値あり ^^ いや〜、ちょっと感激。
“Pithamagan”から、主人公の誕生から成長を、歌に乗せて、生と死のイメージのモンタージュで描くシークエンス。
http://www.youtube.com/watch?v=UCZuS1Ziv04

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“Anniyan” (2005) S. Shankar
(☆☆☆)
 監督は「ジーンズ」や”Nayak”、そして最近は「インド初のSF超大作か?」とあちこちで話題の”Enthiran (Robot)”を撮ったS・シャンカール。
 バラモンの出で弁護士の主人公は、生真面目で善良ななのだが、ちょっとした不正も許せず、しかも気が弱い。ところが交通事故にあった老人の死に立ち会ったことで、彼の中にアニヤン(異邦人)という別人格が生まれ、不正を働いた者を処刑する仕置き人となり…というサイコスリラー。
 更に主人公は、幼馴染みのヒロインに自分の堅物さが原因で振られたことにより、イケメンのファッションモデルという人格も生み出してしまう。そのイケメンにヒロインは次第に惹かれていき、一方警察は現場に残された謎のサンスクリット語の意味を手がかりに犯人を追い…といった展開。
 全体としては、細かいことは気にしちゃダメ、これでもかこれでもかのサービス精神で突っ走って、アクションもスリラーも愛も人情もギャグも歌も踊りも、全てコッテリ半端なくテンコモリ…とゆー、典型的なインド映画の楽しさを満喫できる仕上がり ^^
 マジメな見所として興味深いのは、普通仕置き人といったら、巨悪とか極悪人が対象ですが、この映画の場合は、誰でも身に覚えがあるような「まあ、このくらいはいいか、皆やってることだし」といった程度の、ちょっとしたルール違反や、市民の責務を怠った人間が、仕置きの対象になっているところ。
 そういう「こんなことで?」という要素を、主人公の過去とリンクさせることで観客にシンパシーを与えつつ、更にそれを社会的な問題提起へと繋げて見せるあたりは、なかなかお見事な手綱捌き。痛快娯楽作でありながら、物事を紋切り型の善悪二元論で片付けていないのは、かなりの高ポイント。
 主演のヴィクラム君は、三重人格の役ということで、その芸達者ぶりを存分に発揮。いかにもインド映画らしいオーバーアクト気味ながらも、ワンカットで人格がコロコロ切り替わるシーンなんかは、迫力もあってやっぱり上手い。3人ともあんまり私のタイプじゃないのが残念だけど、半裸拷問シーンもありw
 とにかく何でもかんでもテンコモリなので、見所は色々あるんですが、後半に出てくる変な空手(カンフー?)道場でのアクションが、その「ありえね〜!」感タップリのド派手さで、特に楽しかったw 2005年の映画なのに「マトリックス」やっちゃうダサさも含めて愛おしいです ^^;
“Anniyan”予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=fTD3O4m8WuI

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“Saamy” (2003) Hari
(☆☆☆)
 街に現れた酔いどれ男。実は新任の警察署長で、街の様子を調べるための芝居だった。新人署長は着任後さっそく手腕を発揮して、街の諸悪を掃除していくのだが、街のビジネスを裏で一手に握り、政治家とも癒着のある巨悪と対立していき…ってな内容。
 まあストーリー的には、「熱血警察署長もの」と聞いて想像される、そのまんまの内容。正義漢で熱血漢、身体を張って悪と戦い、ときには違法スレスレの手段(てか「違法だろう、それ!」ってのもありw)も駆使して、弱気を助け強きを挫く、クリシェ通りのヒーローもの痛快アクション。
 盛り沢山でドラマチックだけどディテールのない展開、美人ヒロインとの恋模様、人死にを使ったエモーショナルな展開、定期的に挿入されるどうでもいいお笑いパート…と、表現面もストーリーテリングも、もうコッテコテのインド映画。とはいえさほどぶっ飛んだ展開ではないので、安心して楽しめます。
 全ての要素がひたすら「主人公カッコイイ〜!」ってことに奉仕しているので、主演のヴィクラムのファンとしてはウハウハw この人は下積みが長くて、マイナー映画で注目された後、今回の「Saamy」のヒットなどを通じてスター街道を駆け上ったらしいけれど、それも納得のカッコよさ ^^
 というわけで、古き良き(って2003年製作なんだけどw)インド大衆娯楽映画のお手本みたいな映画でした ^^
“Saamy”から、冒頭の飲んだくれに扮している主人公を囲む、見応えのある群舞シーン。
http://www.youtube.com/watch?v=wLDt22Xw6lI

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“Dhill” (2001) Dharani
(☆☆)
 主人公は警察官を目指す正義漢。無事に一次試験に通ったところで、街で出会った娘に一目惚れ。いろいろあって無事お付き合いすることになるのだが、デートの最中に酔漢に絡まれ、ついそいつをブチのめしてしまった。ところがそいつは何と非番の警察官で、しかも悪徳政治家と手を組む悪い奴!
 騒ぎで顔に大きな傷を負った悪徳警官は、主人公への怨嗟に燃える。果たして主人公は無事警察官になれるのか、そして悪人どもに打ち勝てるのか? ってな、正義漢の主人公およびその周囲の人間が、悪人たちにあの手この手で酷い目にあい、最後に逆襲! とゆーセオリー通りのパターンのアクションもの。
 まあ、これまた例によってコッテコテのインド映画。ヒーローはカッコ良くヒロインは美しく、アクションはド派手で、身近な人の死を使ってエモーショナルに盛り上げ、お笑いシーンがしつこく挟まり、もちろん何かあると歌って踊り出す。一から百までお約束通りの内容w
 ただ、今回は私的には特筆すべきものがあって、それは主人公を演じるヴィクラムの…ヴィクラムの… 責 め 場 キタ━(゚∀゚)━!!!!! ってことだったりwww
 とゆーわけでヴィクラム君、恋人を救うために悪徳警官に囚われ、警察署の拷問部屋で、上半身裸で逆さ吊りのタコ殴り、棒縛りで足の裏をメッタ打ち、フラフラするところをこづき回されガットパンチング…ってな、嬉しい嬉しい展開にw あ〜生きてて良かった ^^
dhill_scene_edit
 まあ責め場以外にも、悪人どもが主人公を陥れるためだけに爆弾テロ事件をあちこちで起こしちゃうとか、前半に主人公がバーベルを持ち上げるシーンがあるんだけど、それがビックリギョーテンの伏線だったとか、いろいろトゥー・マッチな楽しさもありました ^^
 とゆーわけで、典型的なインド映画のアクション物とゆー枠を出る要素は何もないけれど、主演男優のファンだったら文句なしに楽しめる上々の出来映え。わりと肉体派を強調した作りなので、脱ぎ場もそこそこあるし ^^
 因みにタイトルの意味は「根性!」だそうな ^^

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“Majaa” (2005) Shafi
(☆☆☆☆)
 タイトルの意味は「Fun」らしいので、映画の内容に併せて考えると「楽しくいこうぜ!」って感じかしらん。
 父1人息子2人の泥棒一家(兄貴が主演のヴィクラム)が、泥棒から足を洗い、家を売り払ってトラックを購入し、かたぎの新生活目指して出発! ところがトラックがエンコしてしまい、しかも弟が近在の家から貰ってきた食べ物(実は貰ったのではなく盗んでいた)には、何と毒が盛られていた!
 それを契機にこの一家は、立ち退きを迫られている農民一家と、あたり一帯の地主との争いに巻き込まれていく。しかし実はこの二つの家族には、土地代云々以前からの因縁があり、しかも真の悪人は別にいて…ってな内容の、コメディータッチの痛快アクション。
 学もなく貧しく、でも心は純な田舎の暴れん坊一家が、恋にケンカに大暴れ! ってな感じの世界ですが、いや、これはスピード感満点で痛快至極。コメディタッチのためセリフが早口で、字幕についていけないところや、何が可笑しいんだか判らない笑いどころも多々あるんですが、でも思い切り楽しめる。
 コミカルな日常描写とカッコいいアクションシーンの対比もバッチリ、しかも途中から、泥棒一家が実は血の繋がった家族ではないことも明かされ、家族の絆を問う泣きのシーンもあるし、キャラクターも紋切り型と思わせておいて、実はそうではないというドンデンがあったりとか、上々のストーリー。
 ヴィクラムはシリアスからコミカルまで相変わらずの芸達者だし、弟役の男優もルックス演技共に上々。農民一家も地主一家も配役にぬかりはなく、コミックリリーフも話から浮きすぎず、勧善懲悪のスカッと気分と切れのあるアクションと家族愛も堪能できて、後味のハッピーさも抜群。
 度を超した破綻もなく、でもインド南部の田舎の風物詩はたっぷり堪能できるし、インド映画好きにも初心者にもオススメできるクリーンヒット。しかも男臭さというかチョンガー臭もムンムンで、男のカッコよさも可愛さも馬鹿さもタップリ堪能、私的にはかなりの高得点でした ^^
“Majaa”から、農作業しながらみんなでダンスの音楽シーン。こーゆー感じの土臭い威勢の良さがタップリ楽しめる映画 ^^
http://www.youtube.com/watch?v=bgH77XWoqqE

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“Arul” (2004) Hari
(☆)
 正義漢で腕っ節の強い主人公が、選挙に向けて支持者を集めるためには殺人も辞さないという大物政治家に立ち向かう…という話に、主人公と父親の相剋とか、お向かいのおきゃんな娘との恋なんかが散りばめられ、歌と踊りとトゥー・マッチにバイオレントなアクションシーンで彩られる内容。
 う〜ん、これはちょっと… ^^; テンコモリはインド映画の特徴だけど、どうもそれぞれがバラけてしまっていて、おかげで最後のハッピーエンドの強引さが際だってしまう感じ。後半になって、話を盛り上げるために人死にをバンバン使う感覚も、行き過ぎ感アリアリでイヤ〜ンな感じ。
 主人公は汚い言葉(音声字幕共に規制で消されているので、どんな言葉なのかは判らず)を許せないという設定なんだけど、それを言った相手をボコボコに殴るのは、何だかキレやすい人みたいで好感度が低下。アクションも「いくら悪人相手でも、何もそこまで…」と、ちょっと引いてしまう感じ。
 というわけで、古風なインド映画の特徴が、悉く裏目裏目に出てしまった感じで、見終わった後は「あちゃ〜…」な印象でした (´・ω・`)

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“Gemini” (2002) Saran
(☆☆)
 主人公はストリート・ギャングのボスで、ライバル組織と抗争中。そんな中、夜学に通う美少女に一目惚れして、彼女の気を惹くために正体を隠して自分も入学。見事イイ感じの関係に持ち込むが、そんな最中、新任の警察署長が就任して、ライバルのボス共々パクられてしまう。
 人格者の署長に感銘を受け、主人公は更正を決意して無事釈放。これからはかたぎでいこうとするが、子分はそれを受け入れられず、ライバルのボスも相変わらずのワル、しかも彼女も離れていってしまった。果たして主人公は、無事に真っ当な道を歩めるのか? ってな内容。
 まあ例によって、恋にケンカに人情に笑いに歌に踊りに…と、ひたすらテンコモリの内容。ストーリーテリングは乱暴だけど、度を超した破綻はなく、ビックリ伏線もそこそこあったり、プチ社会派な要素もあったりで、飛び抜けたものはないけど、標準的に楽しめました。
“Gemini”から、更正しようとする主人公の恋路を、ビッチ系ライバルキャラ(踊ってる太目の女子)が邪魔しようとする音楽シーン。何となく80年代テイストだけど、いちおう2002年の映画です ^^;
http://www.youtube.com/watch?v=eplwi9crf-k

dvd_sethu
“Sethu” (1999) Bala
(☆☆☆☆)
 監督は”Pithamagan”、”Naan Kadavul”で個人的に大注目中のバラ。
 主人公セトゥは大学の生徒会会長で、正義漢はあるがカッとなりやすく、男尊女卑的な部分もあるマッチョ・ガイ。生徒会のライバルを腕力でブチのめし、弱い者いじめをする者には天誅を下し、新入生に先輩風を吹かしているが、新入生のおどおどとしたバラモン出の女子と出会い、次第に惹かれていく。
 しかし今まで本気で人を愛したことのない彼は、自分の恋情を持てあまし、そのせいで何かと極端な行動に走ってしまう彼の気持ちを、彼女も受け止められずにいる。あれこれあった挙げ句、ようやく彼女の気持ちがこっちを向き始め、彼が有頂天になったところに、過去の因縁で闇討ちにあってしまう。
 その襲撃で、脳に損傷を受けた主人公は、正気を失ってしまう。そして現代医学からは見放され、精神病患者にインド古来の治療を施す寺院に収容されてしまう。周囲が嘆き心配する中、やがて彼は正気を取り戻すのだが、その寺院からでることは出来ず…といったストーリー。
 う〜ん、実にハードな内容。暴力や恋愛を「激情」の産物として捉え、そこにインド古来の伝統や宗教的モチーフを絡めつつ、それらの坩堝と化した「人の世の哀しさ」を描くという内容は、「Pithamagan」「Naan Kadavul」と同じ。バラ監督、実に作家性がはっきりとしています。
 これがこの監督の処女作ということもあり、流石にいささかまだぎこちなかったり垢抜けない部分は散見されますが、しかし力強さは桁外れ。悲劇へと雪崩れ込む後半の怒濤の展開は、伏線の生かし方やパワフルな演出などなど、もうとにかく圧倒されました。
 主演のヴィクラムも、この映画撮影時には、まだ無名の端役時代。新人監督が撮った無名俳優主演のこの映画、悲劇的な内容ということもあって、数多の会社から悉く配給拒否され、ようやく配給が決まっても宣伝も何もなく、ひっそりと上映が始まったんだそうですが、口コミで大ヒットしたんだそうな。
 というわけで、この映画によってバラ監督もヴィクラムも、共々スター街道を駆け上るきっかけとなったんだそうですが、それも納得の内容。才気迸るバラ監督の作品世界にも、陽気なマッチョから悩める青年へ、そして廃人と、見事な演技力を見せるヴィクラムにも、共に拍手。いや、満足満足 ^^

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“Saamurai” (2002) Balaji Sakthivel
(☆☆☆)
 タイトルの意味は文字通り「サムライ」です ^^
 主人公は居を転々としながら、身体を鍛えたり子供たちに無償で学問を教えている謎の男。しかし彼の正体は、謎の新聞広告で仲間達と連絡を取り合っては、病気療養などの名目で法の目を逃れている、貧困層を苦しめた悪徳政治家でを、巧みな手口で次々と誘拐していくグループの首魁。
 そんな主人公が、ある日バスの中で出会った快活な女学生に目を奪われる。しかし女学生の父親は、彼を追う立場にある警察官だった。果たして誘拐団の目的は何か、そして彼はなぜ彼女に目を奪われたのか、それは全て彼の過去に端を発していた…ってな内容です。
 これはなかなか見所いっぱいで面白い出来映え。根っこはまあありがちな「弱きを助け強きを挫く」ヒーローものなんですが、ミソは処刑ではなく誘拐というあたり。それによって、動機はともかく目的に謎が残るので、作劇的にクライマックスまで上手く興味を引っ張っていくことに成功している。
 加えて、行動とヒロインとの関係、両方の動機になっている主人公の過去のエピソードを、上手い具合に映画中盤に挟み込み、しかもそれがかなりエモーショナルな内容なので、そこから先、ストーリーが一気に加速していくダイナミズムへと繋がり、エンディングまで目が離せなくなる。
 見所はいっぱい。まず、主人公が仲間達と行う謎のトレーニング。ビニール袋をかぶって水中で息を止めたり、ワイヤーで吊られて焚き火の上に落下したり…と梶原劇画か小池一夫ばりの特訓シーン。何じゃこりゃと思っていると、後にそれが実際の誘拐にどう使われるかを見せてくれるので納得 ^^
 ヒロイン部分も、快活な女学生の生活を最初にじっくり描いているので、前半の後半部で貞操の危機に遭うあたりからは、ど〜なっちゃうことやらとハラハラドキドキ。ただ、回想シーンに出てくる過去のヒロインが、美貌といいエピソードといい強力すぎるので、後半は影が薄くなっちゃうのが惜しい。
 それ以外にも、あの手この手で要人の居所に潜入して誘拐をする、昔のスパイ映画みたいな楽しさとか、とうぜんそこで繰り広げられる飛んだり蹴ったり殴ったりのアクションとか、職務と正義感で煩悶する警察官とか、例によって盛り沢山なんですけど、繋がりが自然で無理がないのが良い。
 ネタバレになりますが、クライマックス、主人公が捕らえられて誘拐の目的を明かし、それが報道されることによって民衆の支持を得て、司法や行政サイドとの対立を経て、暴動〜リンチへと雪崩れ込むんですが、そこいらへんのパワフルさも見所。まあ、倫理的にはちょっとどうかという気はしますけど…。
 主演のヴィクラムは、自分のためではなく社会正義を動機として、世の不正を正すために暗躍する、ストイックな、でも文武両道のヒーローで、その精神を「サムライ」になぞらえているんですが、まあ相変わらずカッコイイのと演技達者で魅せられます。チビっとですけど、責め場もアリ ^^
 そんなこんなで、いかにも現実でもありがちな権力者の不正に対して、カッコいいヒーローが立ち上がり、更には社会の抱える矛盾を突きつけながら、最終的には勧善懲悪ものとして終わるので、そんな真っ直ぐさと、インド映画的な盛り沢山さとパワー感が、上手い具合に噛み合った好作でした ^^

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“Kadhal Sadugudu” (2003) Durai
(☆)
 孤児の主人公は、友人に誘われて一族が集まる田舎の祭りへ出掛け、暖かく歓待され一族の娘の一人と恋に落ちる。しかし、主人公は実はその娘の父親と、それと知らずに何度か出会っていて、しかも度重なる不幸な偶然のせいで、父親は主人公を悪い人間だと思い込み悪感情を抱いていた。
 主人公と娘は互いに深く愛し合い、娘の一族もそれを応援するのだが、父親だけは頑として二人の仲を認めようとはしない。果たして二人は無事結ばれることができるのか? …といった内容。
 …う〜ん、これはちょっと… ^^; しょっぱなの、主人公と娘のロマコメめいた展開はけっこう好調なんだけれど、娘の親父さんのキャラがマズい。愛娘を溺愛する昔気質の頑固親父…なんだろうけれど、余りにも意固地に過ぎるのと、その言動が極端すぎるせいで、単なる馬鹿にしか見えないのだ。
 例えばこの親父さん、自分の娘が言いつけを破って、交際を反対している男と会ったのを知って、ガソリンかぶって焼身自殺しようとするなんて、いくら何でもトゥーマッチ過ぎてついていけないし、いくら不幸な偶然による誤解とはいえ、ここまで重なると単に見る目のない馬鹿としか思えないし… ^^;
 つまり、厳格な家父長や頑固親父ならではの魅力というものが、全く伝わってこないんですな。加えて他の登場人物たちが、この親父さん以外はほぼ全員、実に善良で思いやりのある人たちばかりなので、なおさらその意固地さや頭の固さがマイナスの印象になってしまう。
 演出や作劇も、悪い意味で実にインド映画的なもので、強引なストーリー展開、トゥーマッチにエモーショナルな盛り上げ方、しつこく挿入される本筋とは全く無関係のお笑いシーン、話の腰を折るみたいなタイミングで出てくるお色気サービスのダンスシーン…ってなパターン。
 とゆーわけで、特に印象に残るシーンもなく、ちょっとウムムな出来。唯一、インド映画では基本的に御法度だったキスシーンを、はっきり明確に描いているところに驚いたくらいかなぁ… ^^;

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“Raavanan” (2010) Mani Ratnam
(☆☆☆☆☆)
 監督は「ボンベイ」のマニ・ラトナム。ヴィクラム&アイシュワリヤ・ラーイ主演。東京国際映画祭で上映される「ラーヴァン(ヒンディー語版)」のタミル語版。

 南インドのとある地方、何人もの警察官が襲撃&惨殺され、警察署長デーヴの妻ラーギニーが誘拐される。彼女を攫ったのは無法者ヴィーラ(主人公)率いる山賊のような一団。彼らは、行政側からは悪党・テロリストとみなされているが、実は土地の人々には義賊的に慕われている面もある。
 当初ラーギニーは、何らかの報復か見せしめのために処刑されるはずだったが、ヴィーラは彼女の秘めた「強さ」に惹かれ、生きたまま自分のアジトへと連れて行く。一方、夫デーヴは妻を奪還するために、警察の一団を率いて山狩りを開始する。
 密林と山中の道行き中に、ヴィーラはどんどんラーギニーに惹かれていき、ラーギニーもヴィーラの中に、単なる悪党ではない人間性を認めていく。その反面、警察の山狩りを通じて、法の下での正義に隠れされていた、デーヴの妄執や非情な側面が浮かびあがっていく。
 そんな中、ヴィーラがなぜ警察官の殺害やラーギニーの誘拐を実行したのか、その理由が明かされる。自分の知らなかった過去の経緯と、夫の一面を知って、ラーギニーの心はますます揺れ動き、そしてついにヴィーラとデーヴは対峙するのだが…といったストーリー。

 いや〜見応えあった〜! テーマはおそらく二本柱。まず、どれが善でどれが悪と単純には言えない、人間や人間社会の多面性。そしてもう一つ、ズバリ「愛」。いやぁ、すごいラブストーリーだわぁ、思わず泣いちゃったなり 。・゚(゚⊃ω⊂゚)゚・。
 善悪の問題に関しては、これといった回答が提示されることはなく、これはおそらく監督の視線が「人間(社会)とはそういったものである」というスタンスにあるからではないかと。そんな中で、愛ゆえに生まれる、怒りや赦しといったものが描かれていく。
 あんまり詳しく書くとネタバレになっちゃうので控えますけど、とにかく、そういった「人間(社会)」における「愛」の意味が、様々に形を変えて問われるという意味で、これは「ラブストーリーである」と断じる次第であります。
 技術も見事。前半部、現在と過去二つの時制を交錯させて語ることによって、事件の全容が浮かびあがっていくのと、キャラクター造形が次第に深くなっていく前半、そして全てが明らかになり、血肉を与えられたキャラクターの心理ドラマとなる後半、作劇として実に見事な構成。

 撮影の美しさも素晴らしい。密林や山岳地帯といった自然の姿と、そこで蠢く人間達の心理を描く、スケール感タップリの風景描写、表情のクローズアップ、湿度などの空気感が伝わってくるシズル感、印象的なスローモーション…などなど、もう文句なしの出来映え。
 役者も、ヴィーラ役のヴィクラム、ラーギニー役のアイシュワリヤ、共に文句なしの素晴らしさ。このストーリーのキイとなるのは、ヴィーラというキャラクターの複雑さに、どこまで説得力と共感を与えることができるかに尽きると思うんですが、ヴィクラム、過剰になり過ぎない演技で見事にクリア!
 アイシュワリヤ・ラーイも、キレイなおべべを着ているシーンなんかホント数えるほどしかなく、ひたすらズブ濡れドロドロ状態なのに、まあ何とも輝くばかりの美しさと、その凛とした佇まいときたら…元々好きな女優さんですが、今まで見た彼女の中でも、これはベストかも。
 デーヴ役のプリトヴィラージ(…でいいのかしらん?)は、いささか弱い気はするんですが、これは役者のせいというよりも、他の二人に比べると、デーヴの描写が少し浅いせいだという印象。このデーヴのキャラクター造形不足とラストの性急さは、この映画自体の瑕瑾かも。ちょっと惜しいです。

 さぁて、こうなると今度見に行くヒンディ語版「ラーヴァン」がますます楽しみになってくる。果たしてヴィーラ役のアビシェク・バッチャンは、どんなキャラクター造形を見せてくれるのか、そして今度はデーヴ役になるヴィクラムは? ふふふ、楽しみ楽しみ ^^
“Raavanan”予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=1L6b5JJShrU

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“Dhool” (2003) Dharani
(☆☆☆)
 とある田舎の村で、工場の廃液が水を汚し、家畜が死んだり人が病気になったりしている。学はないが腕っ節と根性はある村の男(主人公)と、彼といつも反発し合っている勉強のできる幼馴染みの村娘、そしておばあちゃんの3人が、村の窮状を知事に陳情するために都会へと向かう。
 都会で無事知事に会い、前向きな返事を貰えたものの、主人公とヒロインは始終衝突してばかり。そこに、ガタイ専の色っぽいオネエチャンが主人公に惚れてしまい、更に厄介なことに。また、都会には人々が怖れているギャングがいて、そいつらとも揉め事を起こしてしまう。
 しかも、善人に見えた知事も実は悪徳政治家で、件のギャングと裏で繋がっていた。知事とギャングは邪魔な主人公を消そうとし、主人公はそれに立ち向かう。果たして彼は無事に敵を倒して、公害から村を救うことができるのか…? ってな内容。
 これは上出来 ^^ まあ、弱きを助け強気を挫き、現実にありがちな社会問題に立ち向かう強いヒーロー、ロマコメタッチの恋愛騒動、歌とダンスとド派手なアクション、コテコテのお笑いパート…と、典型的なインド大衆娯楽映画ではありますが、そんな映画ならではの味で、タップリ楽しませてくれます。
 出来の良さには幾つかポイントがあって、まずキャラクターの良さ。主人公はもとより、おばあちゃん、セクシーねえちゃん、見方してくれる警察官、ギャングの首魁のババア(ボスキャラが女なのは珍しいかも?)…などなど、メインから脇までキャラが良く立っているので、楽しさも倍増。
 話も良くできていて、前半のコメディ展開、後半の怒濤のアクション展開、どちらも面白い。伏線も上手く使っているし、悪徳知事を追い詰めていくアイデア等にも工夫があり、安易に人死にを使ってエモーションを盛り上げようとしたりしないのも良い。
 加えて音楽もゴキゲン。昔ながらのインド映画の枠をはみ出すようなものではないけれど、ジャンル映画として上々の出来映え。主演のヴィクラムも、コメディ演技もアクションもバッチリ決まって、相変わらずのカッコよさ。いや、満足満足 ^^

Raavan
『ラーヴァン』(2010)マニ・ラトナム
“Raavan” (2010) Mani Ratnam
(☆☆☆☆)
 東京国際映画祭でヒンディー語版「ラーヴァン」を見たので、先日見たタミル語版「ラーヴァナン」共々、両バージョンを無事鑑賞終了。
 で、結論。これは明らかにタミル語版の方が良い!
 前に呟いたように、この物語の鍵を握るのは、ビーラという複雑な人物の表現如何。ヒンディー語版のアビシェク・バッチャンは、熱演はしているものの、10の顔を持つと謳われるような、複雑な多面性にまでは至っておらず、サイコさん風味がキツ過ぎる印象。
 秩序と混沌、論理と野蛮の対比も、この物語の肝なのだが、混沌・野蛮の体現者であるビーラというキャラを演じるにあたって、アビシェクはいささか線が細い。肉体的な存在感も繊細な表現力も共々、これはタミル語版ヴィーラを演じたヴィクラムが圧勝。
 ヒンディ語版デーウを演じるヴィクラムは、この役柄にはいささか男っぽすぎ、ストーリーと共にキャラクターの印象が変化していく驚きに欠ける。いささか弱いと感じられたタミル語版のプリトヴィラージが、この点ではその人畜無害感が逆に効果的だったのだと判る結果に。
 事件の発端となる、ビーラの妹が一目惚れする腰抜け若造も、ヒンディ語版では、う〜ん、これはちょっと…というお顔。まあ、ここいらへんは色男の基準の違いもあるんでしょうが、少なくともこの違和感も、タミル語版では感じられなかったポイント。
 ビーラの兄弟二人も、これまた神話的世界のキャラクター造形的な強さという点で、やはりタミル語版に軍配を上げたい。こういった諸々が合わさり、タミル語版「ラーヴァナン」で感じられた力強さが、ヒンディ語版「ラーヴァン」ではかなり薄まってしまっている印象でした。

 とはいえ、これはあくまでも2つのバージョンを比較すると…という話であって、単体で見れば、ヒンディ語版「ラーヴァン」も、大いに見応えのある作品であることは確か。
 細かな差異では、歌詞の翻訳が異なっている部分があった(これは意訳によるものなのか、それとも音韻などの理由で歌詞そのものが異なるのかは判らず)のと、タミル語版で見られたビーラの妹が警察署で輪姦されるのを暗示するカットが、ヒンディ語版では全て台詞で説明されていたくらい?
 ただ、基本的には完全に同一と思ってよい感じで、ちょっとした印象的なカットまで、俳優だけが変わって、他は全く同じに撮られているのに驚いたほど。
 一例を挙げると「うわ、このトンボ、またここにいるよ。ってことは、作り物かCGか、それとも足を接着してるのかしらん ^^;」なんて思ったほどwww

Blu-ray_raavanan
 昨年末に発売された”Raavanan”のBlu-rayも無事ゲット。
 文句なしのHD画質(1080p High Definition 16×9 / 2.35:1 AVC-4)。
 映像の迫力と映像美が見所の1つなだけに、やはりこの高画質は嬉しい ^^
 音声はタミル語 5.1 DTS HD Master Audioと、タミル語 5.1 LPCM Uncompressed – Studio Masterの2種。字幕は英語のみ。リージョン・オール。
 特典等は何も付いていませんが良く確認したら、30分のメイキングが付いてました。ただし英語字幕なしで、表示されるクレジットもタミル文字。
 アイシュワリヤとプリトヴィラージは英語で喋っていますが、マニ・ラトナム監督やヴィクラムはタミル語。
 というわけで、語られている話の内容は良く判らないんですが、それでもアクション・シーンや歌舞シーン、大規模セットの造営など、撮影裏の映像は、動画スチル取り混ぜて、色々と見られます。
 あと、ジャケットが<リバーシブル仕様になっています。 Blu-ray_raavananR

【追記】その他のヴィクラム主演作のレビュー
“King” (2002)
“Deiva Thirumagal (God’s Own Child / 神様がくれた娘)” (2011)
“Rajapattai” (2011)
“David” (2013)

気になる未公開映画予告編あれこれ

“Valhalla Rising”

 マッツ・ミケルセンが隻眼で唖のヴァイキングを演じる、デンマーク/イギリス合作映画。
 イギリス盤DVDとBlu-rayが出ているのを確認済み。どうせならBlu-rayで見たいので、やはりBlu-rayプレイヤーもマルチリージョン機を導入すべきか、真剣に悩み中(笑)。
“Janosik”

 愛しのミハウ・ジェブロフスキー様が出演している、ポーランド/スロバキア/チェコ合作映画。東欧版ロビンフッドのような、義賊伝説を映画化したものらしい。
 ジェブロフスキー様は髭モジャだし、何としてでも見たい……と調べたところ、(おそらく)ポーランド盤のBlu-rayとDVDを発見。しかし、私が以前利用していた、英語表記のあるポーランドの通販サイトは、久々にページを開いてみたら消滅してしまった模様で、ぐっすん。
 YouTubeでは、ミハウ・ジェブロフスキーのインタビュー動画も発見。

 ……ま、ポーランド語なんて、ナニガナンダカサッパリワカンナイんだけどさ(笑)。
“Centurion”

 前にここでも予告編を貼りましたが、2世紀の初め、ブリテン島でピクト人に敗れたローマ軍団の生き残り7人が、囚われの将軍を救出するアクション・アドベンチャーっぽい映画の、予告編第二弾がアップ。
 前のと比べると「へへへ、血がいっぱい出ますぜ〜」みたいな仕様になっている感じなので、ますます楽しみに。少なくとも、セミヌードの野郎ボンデージがあることは確かだしね(笑)。

『アバター・オブ・マーズ』

アバター・オブ・マーズ [DVD]
『アバター・オブ・マーズ』(2009) マーク・アトキンス
“Princess of Mars” (2009) Mark Atkins

 前に予告編を紹介した、エドガー・ライス・バローズの古典SF「火星シリーズ」の第一作、『火星のプリンセス』のアメリカ製Vシネ版。
 ヒット作『アバター』のバッタモンっぽい邦題になっていますが、実際『アバター』のイメージソースにはバローズ作品があるそうで(肝心の『アバター』見てないんで、よーワカランのですが)、この邦題もそこそこ理由はあるんだとか(笑)。

 で、前にも書いたように制作が、B級バッタもんビデオ映画専門のアサイラムだっつーんで、かなりオッカナビックリだったんですが……意外とマトモでした。
 原作では、主人公のジョン・カーターは南北戦争の南軍の士官で、ちょっとスピリチュアルな感じの精神移動で火星へ行くんですが、それを現在の中東で闘っているアメリカ人兵士という設定に変え、精神移動も一応科学っぽいガジェットを噛ませつつ、行き先も我々のいる太陽系の火星ではなく、もっと遠くの別の太陽系の「火星(マーズ)」にアレンジしてあります。
 火星に移動した後のストーリー展開は、基本的には原作を踏襲。まあ、かなり大幅に省略されて刈り込まれていますし、一つ原作にない大ネタもあるんですが、それでもまあ、全体としては原作に沿っていると言って差し支えない範囲ではないかと。

 はい、褒められる要素ここまで!
 いくら「マトモ」だっても、それは単に比較論の問題で……ぶっちゃけ映画の出来の方はというと……いやそのなんだ、まあ予測通りの安さと言うか酷さというか……(笑)。
 とにかく、よっぽどバローズ愛や腰布男愛に溢れている方でもないと、マトモには見ていられないかと(笑)。

 演出はというと、背景やセットがいらないバストアップと、粗の見えにくい超ロングのCG切り返しだけで進む、94分が3時間にも感じられるタルッタルのシロモノだし、火星一の美姫デジャー・ソリスは、プロポーションはともかくとしても、アップになると薹が立ちすぎて肌の弛みが目立ちまくりだし、4本の腕を持つ巨体のはずの緑色人は、フツーに人間サイズで腕も二本、露手している顔だけが特殊メイクで、あとは腕の先から爪先まで衣装でしっかりカバーされてるし……。
 でも、そーゆーのをニッコリ笑って許せる方なら、もう大丈夫!
 火星の住人が全部合わせても20人もいなさそうだとか、ただの窪地を闘技場だと言い張る強気さとか、火星の大気製造工場の内部が、どっかの浄水場か廃工場にしか見えないとか、マヨネーズの容器ですかってな虫とか、「もう、何が出てもぜんぜん気にしないもんね、私の心は宇宙より広い!」ってな気分にさせてくれます(笑)。
 因みに、一緒に鑑賞していた、バローズ愛も腰布男愛も持ち合わせていない相棒は、もう退屈さに死にそうになってました。

 主演の腰布男は、アントニオ・サバト・Jr。名のある俳優さんのご子息らしい(相棒がそんなこと言ってました)んですが、私は浅学にしてお父君のことはよく知らず。
 まあ、マスクも身体も、そう悪くはないです。肌のタトゥーが変に悪目立ちしてますが、まあ今どきのアメリカ兵なら、それもリアルってもんだし。
 火星に着いたときには全裸で、それから腰布一枚で、首輪はめられて鎖で引きずり回されるあたりは、そこそこそそる感じなんですけど、残念ながらわりとすぐ服を着てしまうし、それ以上の責め場とかもなし。
 
 ま、そーゆーわけなんで、私同様に物好きな方のみ、どうぞ(笑)。

気になる未公開映画&TVの予告編あれこれ

 最初はトルコの連続TVシリーズ(らしい)”Adanalı”。刑事ドラマみたいです。

 コレを見つけたきっかけが、先に私がアップしたCDケースの分解動画の関連動画だったので、思わず笑ってしまった。「ヒゲ男の拷問」だから、確かに「私」には関係あるけど、CDケースとは無関係だろう、と(笑)。
 でまあ、責め場とゆーのもさることながら、このヒゲ男クンのルックスに、かなりツボの真ん中を突かれちゃいまして。で、調べた結果、Mehmet Akif Alakurt(メフメット・アキフ・アラクルト?)という、モデル出身の男優さんらしい。調査途中にFacebookも発見。いや〜、いい男だわ。
 因みにこの”Adanalı”34話は全編YouYubeにアップされちゃってるので、この責め場もノーカットで鑑賞可能。けっこうネチっこく責められていて滋味ありなので、興味のある人は探してください(笑)。
 スロバキア、チェコ、ハンガリー、イギリスの合作映画、”Bathory”。

 タイトル通り、自分の若さと美貌を保つために、処女の生き血を絞って浴びたという、エリザベート・バートリーの映画らしいです。
 コスチューム・プレイだし、猟奇ネタだし、ご贔屓のフランコ・ネロも出てるし…と、見たいポイントは数多くあれど、ドイツのアマゾンでDVDに星一つレビューが付けられちゃってるのが、ちょっと気になるところ(笑)。
 ロシア映画、”Поп”。

 前にここで紹介した「1612」を撮った、ウラジミール・コチネンコ監督の新作。
 この監督は、つい先日DVDで見たロシア製潜水艦映画「72M」もとっても良かったので、この新作も何とかして見たいところ。内容は、ちょっと重そうですけど…。
 インド映画、”Raavan”。

「ボンベイ」のマニ・ラトナム監督の新作。
 主演は、このブログでも何度か出てきているアイシュワリヤ・ラーイと、先日ここで紹介した「ボリウッド好きゲイならマスト!」な”Dostana”のアビシェク・バッチャン夫妻。
 予告編に使われているA・R・ラフマーンの”Beera Beera”という曲が実に良くって、アビシェク・バッチャンの表情とかも迫力があるし、実にカッコイイ予告編。
 ロシアのTV映画(?)”Паршивые овцы”。

 予告編の最後にも出てきますが、DVDのジャケが余りにもヤバかっこよかったので探してみたヤツ。
 何でも、タイトルが「カサブタだらけの羊」とかゆー意味だそうで、これまたちょいとキツそうなんですが、重いシリアスなのか、バイオレントな娯楽作系なのか、ちょっと判断できず。
 オマケ。
 映画じゃないけど、BARB@ZULというグループの”I Don’t Care”という曲のミュージック・クリップ。

 熊系ペット・ショップ・ボーイズ? ってな感じの、スペインのゲイ・ポップ・デュオ。
 ドラマ仕立てになってるんですが、これがまあ、どこの少女マンガだよってな感じの、乙女とゆーか女々しいとゆーか、そーゆー恋の物語になっています(笑)。恋愛シーンでこーゆー態度は、あんま男らしくないよーな気はするんですが、そこいらへんもある意味リアルっちゃあリアルかも(笑)。
 でもセクシー・ショットとかもあるし、バルセロナ・プライドとかでも活動しているようなので、同じゲイとしては、応援したい気持ちになりますね。
 因みに、上のクリップの後半に、Metroというバルセロナの老舗ゲイ・ディスコが出てくるんですが、実は私も15年ほど前に一度だけ行ったことがあったり(笑)。

5月下半期に家で見た映画(from Twitter)

 先日上半期分をやったので、今回は下半期分。5月16日〜31日までの分。

Blu-ray_ElephantMan
『エレファント・マン』〜イギリス盤Blu-ray
 これまた公開時に劇場で見て以来だから、30年ぶりくらい。長らく再見してなかったのは訳があって、これみてコワイキモチワルイオッカナイと思ってしまった自分に自己嫌悪があったのと、自分の中の(当時は)認めたくない部分をえぐり出されてしまった感じがして、それがトラウマだったから。
 要するに、見せ物に群がる醜悪な人間像をイヤ〜ンと感じながら、でもこの映画を見に来た自分も彼らと相通じる部分がある…なんて思って、ハイティーンの頃の自分はけっこう落ち込んでしまったのですよ。でも今は、自分は聖人君子ではないと既に知っているから、再見しても大丈夫だった。
 今回鑑賞したStudio Canal Collectionのブルーレイ(英盤)は、日本語字幕も入っていてメニューも日本語化されてるし、リージョンもフリーだし、フィルムの粒状感を残しながら高精細な画質も文句なし!
 とゆーわけで、同時購入した「去年マリエンバードで」と「カタリーナ・ブルームの失われた名誉」も、見るのが楽しみなり。^^
 これに味をしめて、次はブニュエル「昼顔」とヴィスコンティ「夏の嵐」とロージィ「恋」を、ポンドが安いうちに注文だッ!…と思ったのに、この3つには日本語字幕が付いてないみたいで、ガッカリ。 (´・ω・`)

厳戒武装指令 [DVD]
『厳戒武装指令』〜国内盤DVD

 …こーゆーどれがどれだかワカンナクなる戦争映画の邦題って何とかして欲しいw
 で、印象は「変な映画!w」いちおう、チェチェン紛争に赴き友人と一緒に捕虜になってしまった若いロシア兵が主人公なんですが、次から次へと色んなエピソードが出てきて「お、これから面白くなるかな?」と思ったところ、どれもこれもショボ〜ンと収束して…の繰り返しとゆー内容。
 まあ、こんなにとっちらかった映画も珍しいw ある意味、現在のロシアの混乱が、そのまま作劇に出ているような…と言ったら褒めすぎかw おそらく様々な点景を配して「今わが国はこういう状況にあるのだ」とゆー感じにしたかったんだと思うけど、肝心の技量も感覚もB級以下なので、何ともはや…
 そんなこんなで、見ていて「…へっ?」てな感じの連続なので、ヘンな映画好きの方はどうぞ。もはや出来が良い悪いとゆーレベルを超越した、ストーリーのとっちらかり具合が見物です。透けチクビで馬に跨る美少女のイメージショットとか、クライマックスの三文青春ドラマとか、ホントビックリよw
 因みにDVDは、ドンキとかで500円で売ってます。^^
 この手の500円戦争映画では、セルゲイ・ボンダルチュクの「バトル・フォー・スターリングラード(祖国のために)」、ニコライ・レペデフの佳品「東部戦線1944」、ダニエル・クレイグやキリアン・マーフィが塹壕を舞台に繰り広げる密室劇「ザ・トレンチ」なんかが、掘り出し物なのでオススメ。
 チェチェン紛争関係のロシア映画でマジメにオススメなのは、セルゲイ・ボドロフの「コーカサスの虜」とアレクセイ・バラバーノフの「チェチェン・ウォー」、あと前につぶやいたアレクサンドル・ソクーロフの「チェチェンへ アレクサンドラの旅」かな。

カティンの森 [DVD]
『カティンの森』〜国内盤DVD

 この題材でアンジェイ・ワイダだから、それなりに身構えていていたつもりだけど…うわぁ、それでもまだ甘かった…。色々感じるものは多々あるんだけど、とにかくラスト10分ほど、胃がキリキリするようなクライマックスに茫然自失、それまでの全てが吹き飛んでしまった感じ…。
 それまでにも、動的と静的のカメラワークの対比の見事さとか、抑制された語りすぎない語り口とか、最小限にして効果的なペンデレツキの音楽とか、いわゆる映画的な素晴らしさはいっぱいあるんだけど、終幕、映画から現実に、唐突に放り出されてしまうので、それが一番こたえる。
 ビックリしたことが一つ。昨夜見たヘンテコ映画「厳戒武装指令」に出てたヒロインの父親役の人が、今夜の「カティンの森」でもチョイ役だけどヒロインを助けるソ連将校というけっこう印象的な役で出ていた。偶然なんだけど、映画の内容も出来も天と地ほど違うだけに、何ともミョーな感じ。
 アンジェイ・ワイダは「パン・タデウシュ物語」の日本盤DVDが出ないかと、ずっと期待してるんだけど、望み薄なのかなぁ…。劇場公開もされてるし、VHSは出てるのに…。
 「カティンの森」予告編、何か情緒的なヒューマン感動作みたいになムードだけど、トンデモナイっす…。 (´・ω・`) http://youtu.be/tzZG5KjlA8s

GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0 [Blu-ray]
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0』〜アメリカ盤Blu-ray

 既存の完成品に手を入れて今様にするというのは、なかなか難しいものがありますね…。キャラクターが3DCGになっているカットは、オリジナルの方が良かったと思うけど、ラストカットなんかは2.0の方が効果的…なんて感じで、正直あんまりニュートラルな気持ちでは楽しめなかった。
 まあ、どっちを先に見ているかで、それぞれ印象も変わってくるんだろうし、あんまりアレコレ考えないで、バージョン違いを楽しむつもりで気軽に見た方が良かったのかも。だから、得たモノもあれば喪われたモノもあり。
 原作マンガだと、ラストで素子が入ったのが実は男の義体だったというトコで、性別の無効化まで示唆されてたのが面白かったけど、映画だとそれがなくて残念だった代わりに、人形使いの見た目と声のギャップが、そこを補ってるように感じられて良かったんだけどな〜…(注・人形使いの声優が男性から女性に変わったことについてのつぶやき)

玉割り人ゆき [DVD]
『玉割り人ゆき』〜日本盤DVD

 まぁ判る人にはお判りでしょうが、ええ、ええ、川谷拓三のチ×切りシーン(あ、×ン切られシーンか)目当てですとも!w 折檻されて傷だらけの拓ボン、越中が良く似合っててステキ。後半の乞食ルックも良く似合っていてステキ。あ〜…ステキ。
 映画自体もしっとり叙情的で面白かった。でもピンクシーンになって女優さんがアンアン喘ぎだすと窓を閉め、終わると開けて、またアンアン始めるから締めて…と、鑑賞しながら立ったり座ったり、かなり忙しかったw
 政治がロマンやセンチメンタルの色を帯びているというのは、自分には全くない感覚なので、ちょっと不思議な感じがする。少し羨ましい気も…。

Blu-ray_Saawariya
『Saawariya』〜米盤Blu-ray
 期待通りの超高画質で、映像の美麗さにますますウットリ。DVDで欠けていた歌の歌詞の字幕も、ブルーレイではちゃんと入っていた。
 しかしこの字幕、英仏独西あたりはもちろん、ギリシャ語やアイスランド語やブルガリア語などヨーロッパ各言語に加え、中国語や朝鮮語やタイ語やトルコ語やアラビア語まで収録されているのに、しかもソニー・ピクチャー・エンタテイメント製なのに、何で日本語はないんだよッ! ヽ(`Д´)ノ

キッスで殺せ [DVD]
『キッスで殺せ!』〜日本盤DVD

 ビックリした〜!フィルム・ノワールだっつーから、てっきり技巧的でロマンティシズムのある世界なのかと思ってたら、ドライでパワフルな演出と破綻すれすれのギリギリ感で、有無をいわさず映画に引きずられていく感じ。荒削りなところも、また良きかな。

ロシアン・ブラザー [DVD]
『ロシアン・ブラザー』〜日本盤DVD

 社会主義崩壊後のロシア社会の混迷を背景に、兵役を終えた純朴な青年が、ペテルブルグ裏社会の抗争に巻き込まれて殺し屋に…ってな感じで、ストーリーだけ抜き出すとハードな感じがするけど、実際は細やかな人間模様とオフビートなユーモアが散りばめられた、実に「面白い」映画。
 殺し屋としての腕は抜群ながら無邪気で純真、なのに屈折もしていなく男根主義的でもなく、少年の爽やかさすら漂わせる、天然ボケすれすれの主人公キャラの魅力と、それを演じるセルゲイ・ボドロフ・Jrの魅力が絶品!つくづく早逝が惜しまれる。未ソフト化の続編があるらしい。見てみたいなぁ。

Blu-ray_Dostana
『Dostana』〜アメリカ盤Blu-ray
 前半見終わった。ボリウッド映画は長いので、半分ずつ。 ^^;
 同性愛が非合法のインドで2008年に作られた「ゲイ映画(?)」。ぶっちゃけ主人公達はゲイではなく、米国のマイアミで住居やビザのためにゲイカップルのふりをする男2人組とゆー「チャックとラリー おかしな偽装結婚!?」タイプの話ですが、ゲイの観客もきちんと意識した作り。
 まだ後半を見ていないので何とも言えませんが、同性愛差別が根深いインドで、ゲイを扱った映画をコマーシャルベースで作るという、背景事情などを鑑みると、前半を見る限りでは、その頑張りは称賛に値するのではないかと。明日見る予定の後半が楽しみ。
 後半見終わった。
 意外なことに、ゲイ関係のネタは昨日の前半部分で終了して、後半はそこから発展した「男と女の友情」というテーマに。ボリウッドらしい盛り沢山さと、いささかの強引さを含みつつ、全体的にはウェルメイドな味わいで、しっかり楽しめる内容になってます。
 さて、主に前半に見所が集中している「制約がある中でのゲイを扱った映画」としては、まず、ゲイであること自体(行動とか素振りとか)で笑いをとろうとはせず、あくまでも、ゲイ・カップルを偽装したために起きるアクシデントをコメディにしているのが気持ち良い。
 この点に関してはかなり良く考えられており、例えば「ノンケの主人公が咄嗟に自分たちの出会いとロマンスをでっちあげた回想シーン」では、いかにもなオーバーアクトのオカマ演技を見せつつ、ストーリー中で本当にゲイである登場人物の演技は、より自然な抑えたオネエ演技という具合。
 また、前述したゲイを偽装したことによるトラブルによって、例えば主人公の母親がそれに悩んで、しかし結局は受け入れるとか、逆に息子がゲイであることを母親に隠し続けていた苦悩を、第三者が想像して母親に語るとかいった具合に、現実の問題をサラリと、しかもユーモアたっぷりに含めている。
 こういったことは、インドのようなホモフォビアの強い社会において、ゲイに対して夢を、ヘテロに対しては啓蒙を、という制作者の姿勢が見られるようで気持ち良い。そしてクライマックスにもう一つ、大きな仕掛けが用意されている。
 詳細は省くが主人公たちは、最終的には皆の前で、男同士でキスをすることになる。おそらくインドではタブーでありショッキングなことなのだろうが、この映画ではそれがハッピーエンドへ向けた喝采と共に行われる。制約の中、同性間のキスを祝福ムードで描けたこと自体が、称賛に値するだろう。
 他にもゲイの観客に向けたサービスとしては、カップルの片方をモデル出身のハンク男優にして、しかもしょっちゅう脱がせてマッチョなセミヌードを披露させるとか、マイアミという地で繰り広げられるオシャレで楽しそうな同棲生活を見せるとかいった点も挙げられるだろう。
 というわけで「Dostana」は、ゲイ映画ではないけれど、インド映画でタブーとされていたゲイという要素を作中に盛り込み、ゲイの観客もしっかり視野に入れつつ、同時に一般向けの娯楽作としても着地できているという、なかなか見所の多い映画でした。ボリウッド好きのゲイ(いるのか?)は必見。
「Dostana」から、息子がゲイだというのでパニクる母親の姿を、ユーモアたっぷりに描いたミュージカル・シーン。歌詞は「ママの坊やがヘンになっちゃった/息子は花嫁の輿に乗るの/何てこと!?」てな感じ。 http://youtu.be/nTcwRjlWx9M
 因みにこの後、ママは息子の同性愛を受け入れるんですが、結果、古式ゆかしきインド風の花嫁を迎え入れる儀式で息子のボーイフレンドを招き入れ、しかもそれが、身分違いの恋で勘当された息子と親の和解を描いた国民的大ヒット映画「家族の四季」のパロディーという、ボリウッド好きには爆笑展開にw

まぼろしの市街戦 [DVD]
『まぼろしの市街戦』〜国内盤DVD

 戦争で住民が逃げ出してカラッポになった街で、残された精神病院の患者たちと、街にやってきた若い兵士が繰り広げる、カーニバルのようにカラフルな寓意劇。…なるほど、こりゃカルトだわ。エミール・クストリッツァの映画のご先祖様を見た気分。
 期待していた映画が、いざ見たら期待以上の内容だったときって、ホント嬉しいな〜。シュールな絵面にステキな衣装、ちょいと切なくて風刺の効いた内容、いやぁ素晴らしかった。愛しのアラン・ベイツ様も、まだお若いけど、最後の最後でしっかりかましてくれたしw

蜘蛛女 [DVD]
『蜘蛛女』〜国内盤DVD

 悪徳警官だけど小物のゲイリー・オールドマンが、ファム・ファタールに出会って自滅していく様子を、シャープだけどムードもたっぷりの演出で描いた、今様フィルム・ノワール。…いやぁ、ツボった。どーして私はこう、しょーもない男の話とか、男が尾羽打ち枯らしていく話が好きなんだろう。
 オープニングとエンディングが絶品。特にエンディング、切なさにマーク・アイシャムの音楽が追い打ちをかけて、ちょっと泣きそうになった… 。・゚(゚⊃ω⊂゚)゚・。 このテのムードがあるクライム映画は大好きなので、最近だと「ソルトン・シー」なんかがお気に入り。
 監督のピーター・メダックは、どにかく傑作「チェンジリング」(最近のじゃなくて昔のオカルト映画ね)を、何とかソフト化してくれ〜!…ってワシしょっちゅう言ってるな、コレw
 マーク・アイシャムの映画音楽では、何と言っても「モダーンズ」が大好き。特にこの「聞かせてよ愛の言葉を」のカバーは絶品。もう、泣ける泣ける。 http://youtu.be/A95f74Kvsq8

副王家の一族 [DVD]
『副王家の一族』〜国内盤DVD

 19世紀半ば、イタリア統一に向かう激動の時代を背景に、シチリアの名門貴族の父子の確執や利権を巡る争いを描いたドロドロ劇。なんか山崎豊子のイタリア版みたいな印象。衣装や美術が重厚で絢爛豪華…なのにDVDとしては画質がイマイチなのが残念。
 キャラクターが掘り下げ不足だとか、厭世的なテーマなので共感しづらいとかカタルシスに欠けるとか、いろいろと不満点はあるけれど、贅沢を言わなければ、ストーリー自体の起伏は充分だし、エモーショナルに盛り上がるシーンもあるので、史劇好きなら充分に楽しめるかと。

ポー川のひかり [DVD]
『ポー川のひかり』〜国内盤DVD

 イタリアの大学図書館で、貴重な古書の数々が太い釘で床や机に打ち付けられるという事件が発生。犯人の若い哲学教授は人里を離れ、河畔の廃墟に住み着く。彼はその風貌から、近隣のホームレスたちから「キリストさん」と呼ばれて慕われるようになるが、そこに開発による立ち退き要求が…といった内容。
 現代の文明や人間社会に対する疑問といったテーマが、重かったりシビアになりすぎたりせず、詩情豊かなスケッチのようにサラリと描かれるのがすごく魅力的。ただ、ヨーロッパにおける「文明と人間社会」なので、それがキリスト教と密接に結びついてくるあたりは、ちょっと観る人を選ぶかも。
 個人的には、寓意性と人情話が同居したような話法が、とても魅力的だった。監督は「木靴の樹」のエルマンノ・オルミ。劇中とエンドクレジットで使われる「忘れな草(私を忘れないで)」のメロディが、作品のテーマをスッと押していて、その優しいさりげなさが心に沁みる。
 実際の映画の印象より、予告編がアグレッシブに感じられるけど、それだけ「欧米的にはかなり涜神的なテーマ」だってことなんでしょうね。 http://youtu.be/_DrhuLuYxDo

Blu-ray_FolsomPrison
『Folsom Prison』〜アメリカ盤Blu-ray
 買っちまったよ、初ゲイポ×ノBlu-ray…が届いたなう。
 ひゃ〜っっっ!!!ディテールが!毛の一本一本が!液体や粘膜のシズル感がっっっ!!!! …うむむむ、意外なソフトでハイビジョンの実力を思い知ってしまった…ヤバいわ、これw

dvd_DobunezumiSakusen
『どぶ鼠作戦』〜国内盤DVD

 やっぱりこの一連の中では最初の「独立部連隊」が一番好きという感想に変わりはないけど、でもたっぷり楽しませていただきました。相変わらず良く立ったキャラに加え、今回はちょっとずらしたキャスティングが効果的。チョイ役で大御所お馴染み色々と顔を出してくれるのも楽しい。
 藤田進が良かったな〜。水野久美と田崎潤はチョイ役すぎてビックリw 中谷一郎、今回は髭がなかったのは残念。正直、ガキの頃から見ていた風車の弥七をイイと思ったことはないんだけど、この頃の髭付きの中谷一郎って、なんかスゴく好きなんだよねw
 あら、部連隊とミスタイプしてたw(注・正しくは『独立愚連隊』)「西へ」も「どぶ鼠」も面白かったけど、やっぱ最初の無印の方が好き。あんま見たことないんだけど谷口千吉も好きなので、「やま犬作戦」も見てみたい…
 あ、「やま猫作戦」だったw

 以上、2010年5月に家で見た映画でした〜。