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“Uncensored” by Joe Oppedisano

uncensored
 Joe Oppedisano(ジョー・オッペディサーノ……でいーんだろーか、読み方は?)は、アメリカのカメラマン。
 ファッション写真からメールヌードまで、幅広く手掛けている人ですが、何と言っても私にとって魅力的なのは、BDSMやラフ・セックスの香りが濃厚な、一連の野郎系メールヌード写真です。特に、2006年にBruno Gmunderから出た第一作品集”Testosterone”は、ここ数年のメールヌード写真集の中でも、一番といっていいくらいのお気に入りでした。
 そんなOppedisanoが、第二作品集”Uncensored”を発表。「無修正」というタイトル通り、セクシャルな表現という意味では、手法の過激さが増し、いわゆるポルノ写真との境界線が、限りなく曖昧になっています。

 もちろん、前作”Testosterone”で見られたような、シンプルかつスタイリッシュなメールヌードとか、レザーやユニフォームやボンデージといったフェティッシュ味、暴力的なセックスを連想させる描写などは、今回も健在なんですが、前作はそれらが、あくまでもスタイリッシュなラインを崩さず、ポルノグラフィ的にはギリギリのところで寸止めされていたのに対して、今回はどうやら、そういったスタイルを意図的にはぎ取ったようで、より直截的で生々しく「性」を表現している。
 一例を挙げると、例えば”Testosterone”に収録されていた、廃工場内で縛られている警察官の写真は、後ろ手に掛けられた手錠、ダクトテープの猿轡、はだけたシャツと膝まで降ろされたズボンとパンツといった具合に、暴力と性の臭いを濃厚に漂わせながらも、直截的なセックスの描写は、股間に警棒をダクトテープで固定し、それを屹立させるといった具合に、あくまでも比喩的に表現されていた。
 ところが、今度の”Uncensored”では、例えば、レザーギャッグをされ、後ろ手に縛られた刺青マッチョの股間には、剥きだしの男根が隆々と勃起している。或いは、両腕を挙げてチェーンで縛られ、汚れた床に座り込んだ全裸の男が、半勃起したペニスの先から尿を迸らせ、その瞬間をカメラが捉えている。
 また、路地裏や公衆トイレでは、レザーマンや、レスリングやアメフトなどのユニフォームに身を包んだマッチョたちが、相手の性器に舌を伸ばしていたり、さらにはっきりと口中に入れていたり、はたまたリミングしていたり、と、明白なオーラル・セックスが描かれている。
 更に、グローリーホールから付きだしたペニスのアップでは、穴の周囲は白濁した液体で汚れ、公衆トイレの床に這って、尻を突き出している男の肛門からは、白い液体が噴水のように迸り、更には、少し口を開いたアヌスのアップから、白濁液が滴り落ちている、など、疑似ではあるのだろうけれど、あからさまな精液のイメージも登場する。

 もちろん、そういった路線と並行して、前作同様の、スタイリッシュで非ポルノグラフィー的な作品も収録されていはいるんですが、前作で見られたような、コンポジションの厳密さや演劇的な人工性は、かなり薄くなっている。まるで、自らの作家性というものを追求していった結果、様式美のような表層的な要素や、パブリック・ベースのファッション性から離れ、よりパーソナルでコアなもの、つまり、作家本人の、個としての欲情を最重要視する、エロティック・アートに接近しているように見える。これは、個人的に大いに好感度が大。
 また、エロティック・アートという文脈で言うと、前作でも見られた、トム・オブ・フィンランドへのオマージュ作品が、今回もしっかり入っていました。こういった、自分に影響を与えた先達、それもエロティック作家に対して、公にリスペクトを捧げるという姿勢も好きです。
 というわけで、かなりオススメできる写真集です。

 中身のサンプルについては、ちょっとこのBlogで紹介するのは憚られるので、とりあえずサンプルが見られるページにリンクを貼っておきます。でも、リンク先で見られるのは、実はこれでも「ソフト」なページだったりします。
 この写真集、ありがたいことに日本のアマゾンで扱われているので、欲しい方はお早めにどうぞ。
“Uncensored” Joe Oppedisano (amazon.co.jp)

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 さて、ついでに前作”Testosterone”についても、今まで書いたことがなかったので、ちょっと紹介してみましょう。
 前段でも触れたように、”Testosterone”では、レザー、タトゥー、ユニフォーム、ボンデージ、スポーツ、バイオレンス……といった要素が、フェティッシュかつスタイリッシュに描かれています。
 エロティシズムの表現の違いに関しては、前段で述べたこと以外にも、”Uncensored”は、比較的「白日の下に赤裸々にさらけ出す」というようなニュアンスが強いのに対して、この”Testosterone”では、「暗がりの中にひっそり浮かび上がる」といった感じのものが多い。じっさい、写真の背景も黒バックだったり、何かが写り込んでいる場合も、”Uncensored”のそれよりも暗く沈んでいます。
 照明も、スポットライト的に明暗をくっきりと浮かびあがらせるものが多く、暗い背景とも相まって、何だかカラヴァッジオのような雰囲気があり、正直に言うと、映像的な質感だけに限って言えば、私はこの”Testosterone”の方が好みだったりもします。
 また、”Testosterone”では、取っ組み合い、殴り合い、リンチ、レイプといった暴力的なシーンを、血糊なども使って演劇的に描いた一連の作品があり、こういった傾向も好きだったんですが、残念ながら”Uncensored”では、そうした純粋暴力的な要素は後退しています。

 一方、作家性としては、”Testosterone”の段階では、まだ固まりきっていないというきらいがありました。没個性的な作品も、数は少ないものの、混じっていたし、先達からの影響も色濃かった。しかし、”Uncensored”になると、似たようなコンポジションのピンナップでも、性的な誘惑やエクスタシーを示唆する等、表現として、より挑戦的でパワフルなものになっていて、作家性も強くなった。
 つまり、改めて二冊並べて見ると、「けっこう好きなカメラマン」だったのが、「大いに興味を惹かれるアーティスト」に変わった、って感じです。
 というわけで、どちらの写真集も、単品でも充分に良い内容なんですが、二つ見比べるとより面白くなるので、機会があったら、こちらもぜひ入手をオススメします。
 こちらの内容見本は、カメラマン本人のサイトのギャラリー・ページで、収録作品がけっこう見られます。Edge Gallery、Erotic Gallery、Sport Gallery、Tom of Finlandといったコンテンツが、”Testosterone”の主な収録作。
 ただ、書籍の方は残念ながら、日本のアマゾンでは扱っていないので、こっちはアメリカのアマゾンにリンクを貼っておきます。
“Testosterone” Joe Oppedisano (amazon.com)

 さて、このJoe Oppedisano、今後はどういった方向に進むのか、そこも興味が尽きません。
 しかし、”Uncensored”のエピグラフには、フランク・シナトラの言葉が、まるで決意表明のように、力強い手書き文字で引用されています。
 内容を簡単にまとめると「自分は、自分が口に出来る量以上のものを口に入れてきたが、いつだって、口に合わないものは吐き捨てた。人間が自分自身でいられないのなら、それは無価値だ。真実を語れ、おべっかは無用だ。自分は、自分が思うままに生きてきた」といった感じ。
 これを読むと、もう大いに期待してしまいますね。

『エンド・オブ・ワールド』

Pompei
『エンド・オブ・ワールド』(2007)パオロ・ポエッティ
“Pompei, ieri, oggi, domani” (2007) Paolo Poeti
 イタリア製テレビ映画。
 ジャケットと裏の煽り文句からは、どー見ても現代が舞台のディザスター・パニック映画としか思えないんですけど、蓋を開けて見ると、実は中身は西洋史劇とゆー、サギ邦題系(笑)ソフト。
 いちおう映画のアタマは、現代のナポリで不穏な地震が起き、これはひょっとして、かつてポンペイを滅ぼしたあのヴェスヴィオ火山が、再び噴火する兆候ではないか……といった、いかにもディザスター・パニック映画の導入っぽい感じで始まります。
 で、値崩れしたロック・ハドソンみたいな火山学者と、ジャーロ映画の殺される娼婦役とかが似合いそうな美人大学助手というコンビが、反発しながらも次第に惹かれ合い……ってな、コテコテのラブロマンスの気配を漂わせながら、ポンペイの遺跡に行く。そして美人助手が、抱き合いながら死んだ犠牲者の石膏型を指して、「互いに庇い合っているように見えない? きっとこの二人は、深く愛し合っていたのよ……」なんてカンジで、当時のポンペイの様子を語り始める。
 はい、以上イントロ、映画開始からここまで、約8分間。
 ここからあと1時間40分、ひたすら古代のポンペイを舞台に、その時代を生きた人々と、それが噴火で滅びるまでのドラマが描かれます。まあ、ビックリ(笑)。
 というわけで、現代モノのパニック映画を期待して借りた人だったら、「うが〜、だまされた〜!」ってなること必至なんですけど、史劇好きなら無問題、ってか、却ってお得感あり……かな? 少なくとも、私は嬉しかったけど(笑)。
 史劇パートの主人公は、奴隷剣闘士。それが、同じ奴隷の召使い女と恋に落ちたり、そこにポンペイの執政官の妹がちょっかいを出したり、執政官は執政官で、正体不明の謎の奴隷女に入れ込んだり、かと思いきや、妹は兄の側近の軍人にも色目を使ったり……と、「昼ドラですか?」ってな恋愛劇が繰り広げられます。
 それと並行して、闘技場での闘いやら、キリスト教徒の受難やらといったドラマが加わってくるんですが、まあ何というか、昔から良くある古代ローマもの映画のお約束シーンを、あれこれツギハギしたみたいなお話(笑)。因みに、エドワード=ブルワー・リットンの『ポンペイ最後の日』とは、全く違う内容。
 そんなこんなで、内容的には既視感のオンパレード、キャラクターも類型的なものばかりなので、きっと音声なし字幕なしで見ても、あらかたの筋は把握できるだろうってくらい、コテコテの展開でした(笑)。セットとかのスケール感はそこそこあるし、衣装や小道具も佳良の範疇と言えるんだけど、ストーリー展開の安易さと、キャラクター造形の浅さのせいで、どうも全体的に「安っぽい話」になっちゃってますな。
 せっかく、冒頭で現実に存在する亡骸の石膏型なんてのを出したんだから、せめて「この亡骸は主人公たちなのか、それとも他のカップルなのか?」ってことを、もっと上手くミスリードとか混ぜて引っ張るだけで、だいぶ面白くなると思うんだけど、もったいないっス。
 ただ、IMDbで調べてみると、これ、元々は三時間あるミニシリーズなんですな。で、このDVDは、それを二時間足らずに縮めたダイジェスト版らしい(またかい)。
 となると、展開の安易さは、伏線がカットされたせいかもしれないし、キャラクターの浅さは、エピソードが削られたせいなのかも。三分の一も削られちゃったら、どんな映画だって、無惨な結果になるだろうし。
 でも、俳優陣がいずれも、お世辞にも「上手い」とは思えないから、例え完全版になったとしても、やっぱそれほど期待はできないかなぁ(笑)。
 まあ、細かい部分に限って言えば、主人公がトラキア人だという設定は、古代ローマの剣闘士の種類に「トラキア剣闘士(トラークス)」ってのがあったことを踏襲しているんだろうし、ポンペイ滅亡の約10年前、ユダヤ戦争におけるエルサレム陥落を絡めたキャラクターがいたり、『クオ・ヴァディス』を意識したのか、キリスト教徒の指導者が「マタイ」(字幕ではマシュー)と「トマス」という意味深な名前だったり……と、ちょっと面白い要素や着眼点も、そこそこあります。
 あとはまあ、剣闘士が主人公ですから、裸のマッチョはいっぱい出てくるし(笑)、前述したように、イマドキ珍しいくらいにアナクロな、ソード&サンダル映画的な「ツボの押さえ方」をしてくるので、往年のマカロニ史劇ファンとしては、ついつい頬がゆるんでしまう(笑)。宴会シーンでダンスシーンなんつー「お約束」を、21世紀の映画で見られるなんて、もうビックリ! ただし、踊りのド下手さにもビックリしたけど(笑)。
 そういう作りなので、そのテのマニア向けサービス(なのか?)は、なかなか行き届いています(笑)。
 主人公はなかなかのマッチョで、着ているチュニックも、破れたのか生地が伸びたのか、ルーズタンクトップみたいなシルエットになっていて、着衣でも肌見せはバッチリ(笑)。養成所での訓練や闘技場での殺し合いの他にも、剣闘士どもの集団入浴シーンまで、マニアが見たがるシーン(ホントか?)は、ちゃんと押さえてくるのが嬉しい(笑)。
 もちろん主人公の責め場も、伝統に則って(笑)ちゃんとあります。これは、最後にまとめて後述。
 役者さんですが、主人公の奴隷剣闘士は、なかなか良い身体をしてますし、胸毛もあるし、無精ヒゲだし、薄汚い系の長髪だし、割といい感じ。顔も、まあ『L’UOMO VOGUE』の表紙とかに載ってそうな、そこそこのハンサム。身体も含めると、『EXERCISE FOR MEN ONLY』とか『MEN’S EXERCISE』に載ってる、フィットネス・モデルみたいな感じかな。
 他の役者はね〜、う〜ん……(笑)。
 いちおう有名どころでは、現代パートで年長の火山学者を演じているのが、マチュー・カリエールだったりしますけど、はっきり言ってドーデモイイ役だし、そもそも、この現代パート自体が、「別に。なくてもいいじゃん!」ってなどーでも良さだからなぁ(笑)。だいいち、この構成だったら絶対に、(以下ネタバレなので反転)最後に現代のヴェスヴィオ山も噴火すると思ったのに、けっきょく何もなく、学者と助手の三文恋愛ドラマでお話しが締めくくられたのには、もー、チョーびっくり(笑)。
 やけにアゴが長いヒロインを筆頭に、お色気要因の女性陣も、イマイチ美人には見えないか、美人っちゃあ美人なんだろうけど、安っぽかったり(笑)。主人公の剣闘士仲間には、そこそこオイシソウなのもいるんだけど、役柄的に刺身のツマにすらなってないからなぁ(笑)。
 というわけで、あまり他人にオススメするようなもんでもないんですが、懐かしのB級史劇好きの方と、コスプレ・マッチョ好きの人だったら、かなり楽しめると思いますし、史劇だったらとりあえず見てみたいという方でも、さほどハチャメチャなナンチャッテ史劇ってわけでもないので、見ても損はないと思いますよ。
エンド・オブ・ワールド [DVD](amazon.co.jp)
 さて、では責め場関連。
 まずは、奴隷である主人公が暴れ回っているところに、通りかかった興行主が目を付け、投網で取り押さえられたところを、奴隷剣闘士にするために買うんですが(……って、ホントお約束パターンだな)、檻状の馬車の上、横木に両腕を縛られたボンデージ姿で、ポンペイまで連行。
 もう一つ、ヒロインの奴隷娘が、剣闘士養成所で酒をこぼして鞭打たれそうになる。そこに主人公が助けに入り(……って、またベッタベタのお約束)、反抗の罰として、テーブルに腹這いに押さえつけられて、裸の背中をフロッギング
 まあ、展開も古風なら、見せ方も古風で、イマドキのCGIや特殊メイクで、エグいものを見せてくれるわけではないです。鞭打ちシーンはミミズ腫れすらないし、後半の闘技場での殺し合いシーンでも、切った刺したの瞬間は、アングルで隠したり返り血で表現したりという奥ゆかしさ(?)なので、そーゆー意味では物足りない(ヘンタイ)ですけど、ま、個人的にはけっこうお得感アリでした(笑)。

お正月に見たDVDとか

Dvd_newyear2009『明治一代女』伊藤大輔
 伊藤大輔監督は良く知らなくて、映画を見るのも、たぶんこれで三本目くらいだと思うけれど、そのたびに「上手いな〜」と感心させられます。
 今回は殺人劇のシーンで、橋を挟んだ向こう側とこちら側という状況を使い、ドラマとしてのモノガタリを見せると同時に、明治という時代状況そのものも表現してみせるあたりに、ひたすら感嘆。
 メインのドラマや役者さんの演技という本筋以外にも、生活風俗の描写などディテールの見所も多く、大満足の一本。あ〜、『銀の華』を描く前に、これを見ておきたかったなぁ(笑)。
明治一代女 (amazon.co.jp)
『ミツバチのささやき』ビクトル・エリセ
 前に出たBOXを持っていたので、再購入するかどうか散々迷ったんですけど、画質向上や初収録作品や特典の魅力に負けて、けっきょく買っちゃいました。
 とりあえず、一枚だけ見ましたが、画質に関しては、前のがちょっとアレだったせいもあって、この新盤は佳良だったので一安心。特典等は、まだ未見。
 実は、ビクトル・エリセ作品で一番好きなのは『エル・スール』なんですけど、それを見るのは、次の仕事明けのお楽しみに……と、とってあります(笑)。
ビクトル・エリセ DVD-BOX(amazon.co.jp)
『トゥルーへの手紙』ブルース・ウェーバー
 私、犬好きなもので(笑)。それに、カメラマンとしてのブルース・ウェーバーは、大学生の頃に憧れのマエストロの一人でした。
 一緒に見ていた熊が「スクラップ・ブックみたいな映画だ」と言いましたが、様々な素材をコラージュすることによって、テーマやメッセージが浮かびあがっていくという手法が、ドキュメンタリー映画に詩情を加味するという点や、映像表現の方法論として、興味深くて好きなポイント。
 でも、いちばんビックリしたのは、今回は再見だったにもかかわらず、ウチの相棒が、前に一緒に見たのをすっかり忘れていたこと(笑)。
 あ、これだけゲイ関係(監督がゲイ)だな。
トゥルーへの手紙(amazon.co.jp)
『ロードキラー』ジョン・ダール
 主演のポール・ウォーカーは、最近の若手(っても、もう三十代なのね)の中では、けっこうお気に入りの一人。
 まぁ、流石に八年前の映画ともなると、まだちょっと若くて甘チャン過ぎて、さほどツボは押されなかったけれど、それでも謎の犯人に強要されて、馬鹿兄貴(スティーブ・ザーン)と二人一緒に、全裸でドライブインに入って食べ物をオーダーさせられる……なんて展開は、はっきり言って私にしてみりゃ、下手なポルノよりよっぽどエロかった(笑)。
 因みに、そーゆーこと抜きにしても、ホラー風味のサスペンスとして、立派に水準以上に楽しめる良作。
 でも、やっぱポール・ウォーカーだけに限って言えば、ひたすら脱ぎっぱなしの『イントゥ・ザ・ブルー』や、映画の出来はともかくとしても、アイドル映画的なコスプレが楽しかった『ボビーZ』の方がいいなぁ(笑)。
ロードキラー(amazon.co.jp)
『スパルタクス』ワージム・デルベニョフ&ユーリー・グリゴローヴィチ
 アラム・ハチャトゥリアンのバレエを、ボリショイ・バレエが踊ったものを、モスフィルムが映像化した77年度作品。
 舞台の記録という枠組みを逸脱せず、なおかつ映画的な醍醐味も存分に感じさせてくれる逸品でした。華美な装飾や少女趣味的なロマンティシズムを廃した、ストイックなまでの美術や衣装や、モノトーンを基調にして、ポイントカラーに赤だけを使うといった色彩設計も素晴らしい。
 バレエのことは良く知りませんけれど、スパルタクス役のウラジミール・ワシリーエフの踊りは、ダイナミズムと繊細な表現力を共に兼ね備えた感じで、実にお見事。他の踊り手も、メインの数人から一糸乱れぬ群舞も含めて、隅から隅まで修練と高い技術力を感じさせて、ひたすら感心。男性的で力強いコレオグラフも、私好み。クライマックスのケレン味から荘厳な幕切れに至る流れも、実に感動的。
スパルタクス(amazon.co.jp)
“1612: Khroniki smutnogo vremeni” Vladimir Khotinenko
 前にここで予告編を紹介したロシア映画ですけど、我慢しきれなくて、ロシア語オンリー字幕なしにも関わらず、ロシア盤DVDを買ってしまった(笑)。
 てなわけで、内容の方はナニガナンダカサッパリワカラナイんですけど(笑)、クライマックスのモスクワ攻城戦はマジでスゴい! ここは、セリフはわかんなくても、迫力や展開の面白さに、マジで目が釘付けになる。スペクタクル以外も、衣装や美術などステキ映像テンコモリ。
 え〜、因みに、責め場(フロッギング)もこんな感じでかなり痛々しく、やっぱり目が釘付けに(笑)。
 ご贔屓のミハウ・ジェブロフスキーは、悪役だし、剃髪するとちょっとお鉢がデコボコなのが目立ったりはしましたが(笑)、でも出番はいっぱいあった(笑)。これで再び惚れ直したので、その勢いで『ファイヤー・アンド・ソード』『コンクエスタドール』『THE レジェンド 伝説の勇者』『パン・タデウシュ物語』を再鑑賞(『パン・タデウシュ』だけ日本盤DVDが出ていないので、英語字幕付きのポーランド盤で)。それでもまだ治まらないので、『コンクエスタドール(Wiedzmin)』の長尺版VCD(字幕なし)を、思い切ってポーランドに注文しようかどうしようか、悩み中(笑)。
『キング・ナレスワン 序章~アユタヤの若き英雄誕生~』『キング・ナレスワン ~アユタヤの勝利と栄光~』チャートリーチャルーム・ユコーン
 バンコク在住の友人に、「『スリヨータイ』の監督の新作だよ」と教えてもらい、ネットで予告編を見てビックリ。「これは見ねば!」と思っていたら、何と、去年の夏に東京や大阪でイベント上映されていたと、後から知ってもうガックシ。
 で、我慢できなくて、これまたタイ語オンリー字幕なしにも関わらず、タイ盤DVDを購入(笑)。
 もう、スケールがトンデモナイ。戦闘シーンの物量がスゴくて、それだけでも一見の価値アリではあるんですが、それ以上に、日常シーンのスゴさにビックリ。映画のために町一個まるまる作っちゃったそうだけど、そうしただけあって、近景のドラマだけではなく、遠景でも絶えず人が何かしら動いているのだ。まるで、タイムトラベルしてロケしてきたみたいな映像。もちろん、衣装から小道具からセットから、その充実っぷりはハンパじゃなく、徹頭徹尾とてつもなく贅沢な映像。
 まあ、論より証拠、公式サイトへどうぞ。
 ネットで予習してから見たので、粗筋程度は把握できましたが、やっぱディテールが全く判らないのは残念。特に『序章』は、王の幼年時代を描いた、ジュヴナイル的なキャラクター・ドラマだし、大河ドラマ的伏線らしき描写も、そこかしこで見られるので、いつかはセリフをきちんと理解しながら見たいもの。
 第二部の方は、とにかく成長したナレスワン王が、カッコよすぎてウットリです(笑)。この方、現役の軍人さんなんだそうですが、ハンサムな上に所作はキレ良くきびきびと、背筋はすっと伸びて風格あり、更に、脱いだら脱いだで、いかにも自然な筋肉美。ついでに、脇の連中もなかなか魅力的で、更に、セリフも役名もなさそうなその他大勢でも、ついつい、こんなのとかこんなのとかこんなのに、目が奪われてしまったり(笑)。
 全部で三部作らしいですが、完結編である第三部の完成が遅れているらしいのが、ちょっと心配です。
 いちおうここを見ると、この二作の日本盤DVDが、2009年12月31日に発売ってなってますけど、ホントかしらん。だったら嬉しいけど、でもやっぱ劇場でも見たいなぁ。

シャワールームで石鹸を落としてはいけないということ

 ……どーでもいいことだけど、このタイトルって、何だか『今昔物語』や『宇治拾遺物語』の章題みたいね(笑)。
 さて、英語の慣用句なのか、定番ジョークなのか知りませんが、”Don’t drop the soap(石鹸を落とすな)”ってのがあるようです。
 どういうことかというと、これは刑務所ネタなんですな。
 刑務所に入れられて、もしシャワー室で石鹸を落としてしまい、それを拾うために屈んだら、つまり、素っ裸で膝を曲げて尻を突き出す格好になると、それを見た周囲の囚人どもが欲情して、そのままレイプされちゃうぞ、ってことなんだそうな。
 で、この警句(?)は、メジャーなものらしく、ひょんなことからYouTubeでそれ関係のクリップを見つけたら、まあ芋づる式に出るわ出るわ(笑)。
 だいたいはジョークなんですけど、いかんせん、どれもこれも、デカい強面ども(しかもたいていマッチョ)の集団がシャワーをあびていると、そこにレイプの予兆が……ってな展開なもんだから、私なんかは、笑うより先に欲情しちゃいます(笑)。
 というわけで、そんな「野郎系凌辱モノ好き」にはタマランワイな、”Don’t drop the soap”映像を、まとめてご紹介。
 どうやら、液体石鹸のCMらしいです。

 お次は、何かのコメディ映画からのワンシーンっぽいんですが、詳細は不明。誰か知ってたら、教えてください(笑)。これは刑務所じゃないですね。体育会系?

 追記。さっそく情報をいただきました(「まこと」さん、ありがとうございます)。これは、”Now I Pronounce You Chuck and Larry”という映画だそうです。何でも、二人の消防士が家族のためにゲイとして偽装結婚するコメディだそうな。う〜ん、消防士かぁ、エロいぞ(笑)。
 も一つ追記、邦題は『チャックとラリー おかしな偽装結婚!?』だそうです(「武士」さん、ありがとうございます)。DVD出てたんですね、面白そうだから今度見てみよう(笑)。
 しかし、ノンケどもが相手がゲイだと知ると、勝手に「襲われる!」と怯えるのは、洋の東西を問わず一緒なんだなぁ。私も、かれこれウン十年前、新入社員のとき上司と二人で飲み屋に行き、ガールフレンドの話題を振られたときに、自分はゲイだと言ったら、ビビッて椅子一つ飛び退かれました(笑)。ったく、誰もテメエのケツなんか狙ってねーっつーの(笑)。で、翌朝出社したら、私がゲイだと、もうフロア中に知れ渡ってた(笑)。
 次は、ビールのCM。スペイン語かな? これも刑務所じゃないけど、ラグビー・チームってとこが、またエロい(笑)。

 最後は、アニメーション版。ぱっと見、日本のアニメかと思いましたが、アメリカの風刺漫画『ブーンドックス』のアニメ版でした。

 いかがでござんしょ、欲情しました?(笑)探せば、他にもまだありますよ。
 因みに私はこれを見て、プリズン・レイプのマンガを描きたくてたまらなくなった(笑)。

フィギュアとか

 日頃、フィギュアを買う趣味はないんだけど(部屋せまいし置き場所ないし、掃除片づけ大嫌いなので、どうせすぐに埃まみれになったうえに、落っことして手足がもげちゃうのがオチだし……)、たまにDMとかでこーゆーのとかこーゆーのとかこーゆーのを見ると、ちょっと欲しくなっちゃいます(笑)。

マンガとか

 宝島社・刊『このマンガがすごい! 2009』で、拙著『外道の家』が、オトコ編36位にランクインしておりました。
 確かこのシリーズでは、以前にもピックアップコーナーみたいなとこで、拙著『男女郎苦界草紙 銀の華』を取り上げていただいたことがありますが、ランキングに入ったのはおそらく初めてです。嬉しい、嬉しい(笑)。
 因みに、選者による個別ベストの方には、児雷也画伯の『仰ゲバ尊シ』と大久保ニューさんの『坊やよい子だキスさせて』という、ゲイ雑誌発のマンガが二冊入っていまして、これまたなんか嬉しいですね。
 さて、これだけではなんなので、ついでに自分が今年買って、印象深かったマンガについても、ちょっと列記してみましょうか。
 あ、でもベストとかそーゆーんじゃなくて、個人的に「これ、好き!」ってヤツを。
暁星記』菅原雅雪
 これが無事完結したってのが、私にとって、今年最大のニュースかも。いやホント、雑誌で第一話を読んで夢中になってから、掲載誌変更や単行本描きおろし形態への移行も含めて、ず〜っと、ず〜っと、続きを心待ちにしながら追いかけていたもんで……。無事完結なんて、ホント、夢じゃなかろか。
 あ、因みに半裸のガチムチキャラも、いっぱい出てきます(笑)。
天顕祭』白井弓子
 帯の「古事記ロマンファンタジー」という言葉に惹かれ、書店に備え付けられていた立ち読み用のサンプル小冊子を開いたら、主人公がカッコイイ無精ヒゲの鳶職だし、絵柄もステキだったので、そのままレジへ。実は、やはり帯に元来は同人誌発のマンガとあったので、ひょっとしてやおい風味もあるのかとヨコシマな期待感もあったんですが(笑)、そうではありませんでした。でも、そんなこととは関係なしに、内容に大満足。
 え〜、前述のヨコシマな期待感に関して、ちょっとイイワケさせていただくと、何も「女性作家の同人誌=やおい」という思いこみがあったわけではないんです。ただ、マンガの鳶さんの絵を見たら、ふと、むか〜し同人誌や「June」に、ガテン系のオッサンたちのやおい(これ、やおいやBLが「美少年マンガ」とか「耽美マンガ」とか呼ばれてた当時は、すごく珍しかったんです)を描かれていた、まのとのま(……だったと思う)って作家さんのことを連想しちゃったのだ(笑)。
らいでん』塚脇永久
 雑誌で見た新連載予告カットで一目惚れ。日頃買ったことのない月刊少年誌を買いに、思わず本屋に走りました。以来、単行本を心待ちにしており、めでたく第一巻発売時にも即購入。というわけで、「この絵、好き!」ってのがきっかけで、読んでみたら話もキャラも好きだった、というパターン。
 あ、筋肉絵好きの方にもオススメです。
夜長姫と耳男』近藤ようこ
 単行本『月夜見』で知って以来大好きで、特に『妖霊星』は、確実に、我が生涯通じてのマンガベストテンのうちの一本なんですけど、坂口安吾原作の本作もまた、やっぱりクライマックスで鳥肌が。
錆びた拳銃』谷弘兒
 かつて「ガロ」や「幻想文学」あたりで拝読して以来、好きな作家さん。寡作な方(たぶん)なので、近所の本屋さんで、この新作単行本を見つけてビックリ、即購入。『薔薇と拳銃』の印象が強いせいか、レトロと猟奇とエログロナンセンスとラヴクラフトが、渾然一体となった作風の作家さんという印象でしたが、本作では、猟奇とエログロはなし。
 表題作は、均整の取れた肉体美の二人のマドロス青年というキャラクターのせいか、どことなくコクトーやジュネの描くホモエロティシズムに通じるものを感じます。
童貞少年』やながわ理央
 ノンケさん向けエロマンガですが、この作家さんの描く少年キャラは、カワイイながらもちゃんとオトコノコオトコノコしていて、かなり好き。そんな少年たちが、ボイン(死語)なお姉さんたちに、あの手この手で筆おろしされる短編集。
 あ〜、この少年キャラで、以前ロリキャラで描いていたみたいな、「公園のホームレスに輪姦されたあげく、全員から小便を引っかけられる」話を描いてくれたら、もうサイコーなのに……って、いくら何でもそれは無い物ねだりですな(笑)。
愛玩少年』水上シン
 以前、献本でいただいた雑誌で拝読して以来、続きが気になっていた作品で、偶然アマゾンで単行本が出ているのを見つけて購入。いわゆるBLですけど、まだ「美少年マンガ」とか「耽美マンガ」とか呼ばれてた頃みたいな、ナルシスティックでお耽美な雰囲気があるところが好き。
 あと、レトロだし、軍服だし、加虐と被虐もあるし、少年は坊主頭だし……と、好きツボもイッパイ。
 う〜ん、しかし改めて最後の二つを見ると、果たして自分が本当にマッチョ系ゲイマンガ描きなのかどうか、我ながら自信がなくなってきた(笑)。

“Pathfinder”

pathfinder_dvd
“Pathfinder” (2007) Marcus Nispel
 アメリカ大陸に取り残されたバイキングの少年が、ネイティブ・アメリカンによって育てられ、やがて成長して侵略者であるバイキングと戦う……といった内容の、アクション・アドベンチャー映画。
 監督は『テキサス・チェーンソー』のマーカス・ニスペル、主演は『ロード・オブ・ザ・リング』でエオメルを演じていたカール・アーバン。
 元ネタは1987年のノルウェー映画『ホワイトウイザード』で、これはそのリメイク(とはいえ、舞台を変えているので翻案なのかな?)なんだそうですが、寡聞にしてオリジナルについては何も知らず。
 ただ、その年のアカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされているし、IMDbや米アマゾンのレビューでも、概して評判はいいですね。

 コロンブスより600年前、バイキングは既にアメリカ大陸に到達していた。彼らは自分たちが入植するために、原住民であるネイティブ・アメリカンの皆殺しを企てたが、一人のバイキングの少年が、その残虐行為に絶えられず、罰を与えられた後、独り置き去りにされてしまう。
 少年は、ネイティブ・アメリカンの女性に保護され、彼女の息子として育てられ、やがて逞しい青年に成長した。しかし彼は、その皆とは異なる外見や出自によってゴーストと呼ばれ、部族と完全に同化することもできずにいた。
 そんなある日、再びバイキングの船がやってきた。ゴーストのの部族は皆殺しにされてしまう。辛うじて生き延びたゴーストは、交易相手だった隣村に辿り着くが、侵略者の魔の手はそこにも伸びようとしていた。
 そして、襲い来るバイキングの軍団対ゴーストの戦いが始まる……ってな内容です。

 発想としては、なかなか面白い。
 ただし、作品の作りとしては、あくまでもモノガタリの舞台背景に、歴史的なニュアンスを持ってきたというだけで、全体のノリは完全にヒロイック・ファンタジー。全体設定から歴史モノを期待してしまうと、まったく期待はずれに終わるので要注意。
 ヒロイック・ファンタジーとしては、ヴィジュアルがかなりいい線をいっているので、それだけでも充分楽しめます。DVDのジャケットからもお判りのように、完全に「実写版フランク・フラゼッタ」の趣。公式サイトを見ると、もっと良く判るかも。
 特に前半部、ゴーストとバイキングが森の中や水辺で戦うシーンなんて、絵面が見事なまでにフラゼッタフラゼッタしてます。フラゼッタ風という点では、シュワルツェネッガーの『コナン』はもとより、監督から「フラゼッタを意識した」との発言があった『300』よりも、更には本家の『ファイヤー・アンド・アイス』よりも、フラゼッタっぽい(笑)。

 ストーリーとしては、色々と伏線も使って、手堅くまとまってはいるんですが、ただ、設定の旨味は生かし切れていない。
 二つの文化的背景を持つ主人公が、自分のアイデンティティを確立していくというネタの方は、けっこうちゃんと描かれているんですが、異文化同士の衝突という点では、残念ながら完全に掘り下げ不足。ネイティブ・アメリカンは、無辜で無力で善良な民でしかないし、敵役のバイキングも、単純で記号的な純粋悪でしかない。別に、歴史的背景を使わなくても描けるじゃん、ってな内容ではあります。
 戦いとかも、盛りだくさんではあるんですが、設定から期待されるような「バイキング vs ネイティブ・アメリカン」といった集団戦は出てこない。ネイティブ・アメリカン側のほとんどは、もっぱら虐殺されて逃げ出すだけ。バイキングと戦うのは、主人公プラス数人だけなので、エピック的なスケール感はなく、あくまでも、アクション主体の内容。
 アクションものとしては、手を変え品を変え様々なアイデアが繰り出されるし、テンポも悪くないし、監督が監督なので残酷描写も手加減なしだし……と、けっこう楽しめる内容です。

 まあ、主人公が悩み多きキャラクターで、しかもさほど強者というわけでもないせいもあって、シンプルな爽快感には欠けるとか、その分、頭脳戦っぽい要素が入るんですが、これも、引っかかる方がマヌケっぽい感じだとか、悪役として魅力的なキャラクターがいないとか、ストーリー的なツッコミどころも色々あるとか、贅沢を言い出せばきりはないけど、世の中にはもっとヒドい映画が幾らでもあるし(笑)。
 映像的には、極端に彩度を落とした色調とか、黒みが多く深い陰影とか、多用されるスローモーションとか、ヴィジュアルにはこだわりを持って作られています。鎧兜のデザインなんかも、なかなかカッコいい。
 ただ、ムードはあるけれどケレン味はなく、様式美的な要素もさほどないので、個人的な趣味から言うと、もうちょいプラスアルファが欲しい感じ。
 また、監督のマーカス・ニスペルは、前に『デュカリオン』を見たときにも感じたんですけど、画面のムードはいいんだけど、演出がそれに流れすぎの感があり。『テキサス・チェーンソー』のときは、もうちょっとタイトだったような気がするんだけどな。

 主演のカール・アーバンは、フラゼッタの絵と比べると筋量は少ないですけど(笑)、それでもなかなか立派な裸身を、ふんだんに見せてくれます。基本的には、さほど好きな顔じゃないけれど、ヒゲ+長髪+ヨゴレ+腰布……といったトッピングの良さもあり、個人的には充分佳良。
 ヒロイン役のムーン・ブラッドグッドは、角度によっては、ちょっと青木さやかに見えたりもしましたが(笑)、スッキリとした凛々しさがあり、役柄にも合っていて佳良。
 他には、キャラクター的なものもあって、先導者(pathfinder)役のオジサン、主人公と行動を共にする笛吹きの男、主人公のライバル的な男なんかが印象に残ります。
 バイキングの方は、兜で顔の判別がほとんどつかないことや、キャラクターが立っていないこともあり、役者さんの印象は、ほぼゼロ。エンド・クレジットを見て、初めてTV版コナン役者のボディービルダー男優、ラルフ・モーラーが出ていたと知ったんですが、未だにどのバイキングだったのか判らない(笑)。

 DVDはアメリカ盤、リージョン1、スクィーズのワイド、音声は英語とスペイン語とフランス語、字幕は英語とスペイン語。
 オマケは、監督のオーディオ・コメンタリー、削除シーン、メイキング・クリップ数種、予告編数種。
 前回に引き続き、これも何だかそのうちDVDスルーで、日本盤が出そうですな。
 最後に、責め場情報。
 主人公のライバルのネイティブ・アメリカン戦士が、バイキングに捕らえられ、上半身裸の後ろ手縛りで、焚き火の上に逆さまに吊られて火あぶりにされるシーンあり。ここはけっこうヨロシイので、火あぶりフェチ(そんなヤツはいねぇよ、と思われるかもしれないけれど、いるんですよ、そういう人も!)なら、見て損はなし。
 もう一つ、長老が二本の立木の間に大の字に吊されて、馬裂きにかけられるシーンもありますが、着衣だし、決定的瞬間はフレームアウトしちゃうので、それほど面白みはなし。
 あと、映画のそこかしこで虐殺シーンがある内容なので、半裸の男が殺されたり、死体が吊されたりといったシーンは、ふんだんにあります。残酷ものオッケーだったら、そこいらへんは見応えがあるかも。

 おっと忘れてた、追記追記。
 少年が背中を鞭打たれるシーンもありました。裸の背中にCGIで鞭痕が刻まれていきますが、ミミズ腫れなんて生易しいもんじゃなく、まるで切り傷のような痕で、けっこう迫力あり。
“Pathfinder (Unrated Edition)” DVD (amazon.com)
【追記】『レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者』の邦題で日本盤DVD出ました。

レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者 [DVD] レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者 [DVD]
価格:¥ 1,490(税込)
発売日:2010-06-25
レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者 [Blu-ray] レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者 [Blu-ray]
価格:¥ 2,500(税込)
発売日:2010-07-02

“Jodhaa Akbar”

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“Jodhaa Akbar” (2008) Ashutosh Gowariker

 またまたインド映画です。
 16世紀のムガール帝国の第三代皇帝、ジャラールッディーン・ムハンマド・アクバルの、若き日の愛と戦いを描いた一大スペクタクル史劇。監督は、『ラガーン』のアシュトーシュ・ゴーワリケール。

 若くして即位したジャラールッディーンは、重臣の傀儡的な存在として周囲の王国を征服していくが、やがて長じて実権を取り戻し、政略結婚としてラージプートの王族の姫、ジョダーを娶ることになる。
 しかし、ムスリム(イスラム教徒)のジャラールッディーンに対して、ヒンドゥー教徒ジョダーは、婚姻にあたって、「改宗を要求しないこと」と「王宮内にヒンドゥー教の祭壇を作ること」という、二つの条件を出す。ジョダーの父王を含めて、周囲はその条件に動揺するが、ジャラールッディーンはそれを受け入れる。
 こうしてジョダーは、王妃としてアーグラー・フォートの王宮に入るが、夫となったジャラールッディーンには、まだ心を開いていなかった。また王宮には、ヒンドゥー教の王妃を快く思わない勢力や、税金を横領する悪徳一味などもいた。
 やがて、ジャラールッディーンとジョダーは、次第に互いに心を開いていくが、ジャラールッディーンの乳母は、王を息子のように愛するあまり、その間に入り込んだ王妃を快く思わず、何とか二人の仲を裂いて王妃を追放しようと画策する。いっぽう砦の外では、ジャラールッディーンの義弟が兄の地位を狙い、ジョダーの幼なじみの従兄も巻き込んで謀略を巡らす。
 果たして、ジャラールッディーンとジョダーの運命やいかに?

 ってのが、おおまかな内容です。
 いちおう歴史劇の形をとっていますが、監督のインタビューなどを聞いていると、実のところはフィクションの要素も多いようです。特に、王妃ジョダーに関しては、映画に描かれている姿は、かなり民間伝承的なものらしい。
 また、叙事のスタイルも、歴史を俯瞰するタイプではなく、メインのフォーカスはジャラールッディーンとジョダーのロマンスに置かれている。そういう意味では、ハリウッド史劇で例えると、ジョセフ・L・マンキウィッツの『クレオパトラ』とか、キング・ヴィダーの『ソロモンとシバの女王』なんかに感触が近い。
 ただ、それら二つがいずれも、ロマンスの部分と歴史的叙事の部分に乖離を見せていたのに対して、この”Jodhaa Akbar”では、ヒーローとヒロインの関係性の変化が、そのまま政治的なパワーゲームに反映されていくという構造なので、作劇としてはより自然で楽しめるものになっています。
 まあ、モノガタリとしては、すこぶるつきで面白い。ジョダーと従兄の仄かな恋とか、ジャラールッディーンの人知れぬ悩みとか、乳母の盲愛とか、権力欲と金銭欲に駆られた悪役どもとか、様々な要素と様々なキャラクターが絡み合い、一度見始めたら先が気になって止まらない系の大河ドラマになっています。
 エピソードや見せ場も、一大戦闘シーンもあれば決闘もあり、華麗な歌舞もあればドロドロした女の戦いもあり、スペクタクル史劇とミュージカル映画とロマンス映画と昼メロがゴチャマゼになったような、インド映画ならではのテンコモリの娯楽要素が、めいっぱい楽しめます。
 加えて、テーマとなっている宗教の違いを超えた人々の和合というものは、インド国内の問題はもちろんのこと、今日の世界全体が抱えている命題の一つでもあるので、そういった同時代性のある制作姿勢にも好感度は大。

 画面の物量とスケール感は、とにかく圧倒されるの一言。
 出てくる宮殿や砦の数々、モブシーンの人の多さ、衣装やインテリアで見られる極彩色の色彩美、何から何まで、ひたすらゴージャスで贅沢。まあ、どのくらいスゴいかというのは、例によって公式サイトをご覧あれ(笑)。
 中でも特筆したいのは、ジャラールッディーンがそれまでの征服者としてだけではなく、統治者としても民衆から受け入れられ、「アクバル(偉大なる)」の尊称を送られ、人々から讃えられる、”Azeem-O-Shaan Shahenshah”という超弩級の一大群舞。ここは本当にスゴい! イマドキのハリウッド映画では全く見られなくなった、ハレの祝祭空間としての一大スペクタクルが、8分以上に渡って、これでもかこれでもかと繰り広げられます。
 いや〜、前に『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』のときにも書きましたが、今回のこれは、マンキウィッツ版『クレオパトラ』のローマ入場シーン以来の満足感。見ていて、感激で涙が出ちゃいました(笑)。自宅のテレビで見てこれなんだから、もし劇場で見ていたら失禁していたかも(笑)。
 ロマンティックなシーンも、総じて良い出来。ウットリさせるという点では、文句なしの美しさ。例によって、キスシーンすらないんですが、二人が初めて真の夫婦となった場面での、詩的な歌詞のミュージカル・シーンなんか、下手なベッドシーンなんかよりよっぽどステキです。
 一方、戦闘シーンなんかは、正直あまり良い出来ではないです。
 物量は充分だし、CGIもそこそここなれているんですが、演出が近年のハリウッド製スペクタクル的な類型でしかなく、しかも決して上手くはない。一対一の剣戟も、殺陣が悪いのかカット割りが悪いのか、迫力にも緊張感にも欠けて、どうにもさまにならない。
 風景のスケール感とか、たっぷり引きのある構図を埋め尽くすモブとか、戦象の大群とか、鎧兜の美しいデザインとか、魅力的な要素はテンコモリなのに、この演出の締まらなさは、何とも惜しい限り。ただ、戦闘シーンで「大砲に装填された砲弾の一人称カメラ」ってのが出てきまして、ここだけは往年のダリオ・アルジェントの発想みたいで、ちょっと愉快でした(笑)。

 役者は、ジャラールッディーン王役にリティック・ローシャン。我が家では、先日『アルターフ 復讐の名のもとに』を見て以来、「鼻」というニックネームで親しまれていますが(笑)、今回は口ヒゲ付きということもあって、私としては充分にカッコよく感じられました(笑)。
 演技の方も、大帝国の皇帝らしい力強い威厳と、恋する青年的なナイーブな側面を、共に良く好演していて二重丸。エピックのヒーローとしては、文句なしのキャラクターを見せてくれます。身体一つで象と闘うシーンでは、ノリが完全にソード&サンダル映画と同じだったのも、個人的には嬉しかった(笑)。
 あと、この方、かなりのマッチョなんですが、今回は心を開かない妻の気を惹くために、わざわざ妻の部屋の前で上半身裸になって剣技(……なんですけど、やってることはボディービルのポージングみたいなもん)をするという、男心が可愛らしいシーンがあります(笑)。ここは、男の肉体美の見せ場として、マッチョ好きなら見て損はなし。もう一人、ジャラールッディーンの義弟役の男優さんも、かなりのマッチョ。入浴シーンで、目が釘付けになりました(笑)。
 ヒロインのジョダーは、アイシュワリヤ・ラーイ。”Devdas”で、その美貌の虜になって以来、私も相棒も大ファンの女優さん。相変わらずお美しいけれど、ちょっとお腹のあたりに、お肉がついたかな?
 演技的には、美しさ以外の見所は、あまりなかったような。剣戟もあるんだけれど、前述したように、この映画のアクション・シーンは、全般的にあまり良くないので……。ただ、キャラクターとしては良く立っていて、王様との恋路を応援して、幸せになって欲しいと願う気持ちには、充分させてくれます。
 クレジットでアイシュワリヤ・ラーイ・バッチャンとなっていたので、「おや、結婚したの?」とビックリしたんですが、調べてみたらアミターブ・バッチャンの息子と結婚したんですね。
 アイシュワリヤ・ラーイといえば、去年フランスに行ったとき、飛行機の中で彼女が主演している”The Mistress of Spices”という、ラッセ・ハルストレムの『ショコラ』のスパイス版みたいな映画を見まして、これは英米合作映画だし、ひょっとしたら単館上映とかがあるかも……と、期待してたんですけど、けっきょく公開もソフト化もされずじまいみたい。残念!
 音楽は、A・R・ラフマーン。前述の”Azeem-O-Shaan Shahenshah”を筆頭に、歌曲では相変わらず良い仕事をしています。変わったところでは、カッワーリのヒンディー・ポップ版といった趣の曲(映像では旋回舞踏も出てきます)なんかもあり。
 劇伴の方は、壮大なストリングスや混声コーラスに、ブラスや打楽器のアクセントといった、ハリウッド史劇のパターンと同じタイプで、民族性は意外なほど薄い。まあ、可もなく不可もなしといったところですが、ハリウッド製の方がよほどエキゾチックだというのは、ちょっと面白いですな。

 DVDはNTSC、リージョン・コードはフリー。本編ディスク2枚と特典ディスク1枚の3枚組。
 特典の内容は、監督やスタッフ、キャストなどのインタビュー、削除シーン、予告編、PR映像各種、テキストによる時代背景の解説など。削除シーンで見られる、野に住む賢者のエピソードが、いかにも民間伝承っぽくて面白かった。これ、インド人にはお馴染みの話なのかな?
 ただ、ソフトとしては大きな難点が、一つあります。パッケージはとっても豪華でキレイなんだけど、肝心の中身が……。新作映画のソフトで、シネスコ画面をいまどき非スクィーズで収録って……。画質そのものは決して悪くはないんだけど、解像度が足りないのは何ともしがたい。
 ま、インド映画のDVDでは、こーゆー難点は今に始まったことじゃないけど(笑)。

【追記】後に出たBlu-rayは、前述のDVDに対する不満も全くなく、文句なしの高画質でした。

“Saawariya”

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“Saawariya” (2007) Sanjay Leela Bhansali

 前回に引き続き、今回もインド映画です。
 2002年の”Devdas”で度肝を抜かれ、後追いで99年の『ミモラ 心のままに』を見て、「うむ、これもなかなか……」と感心させられた後、以来、個人的に「注目すべき映画監督の一人」として、頭に名前がインプットされた、サンジャイ・リーラ・バンサーリーの待望の新作。
 モノガタリのベースになっているのは、ドフトエフスキーの『白夜』。
 未読だし、57年のルキノ・ヴィスコンティ版や71年のロベール・ブレッソン版も未見なんですが、いい機会なので、小説は今回読んでみました。そこいらへんに絡めた感想は、最後にまとめて後述します。

【追記】後にヴィスコンティ版を鑑賞したところ、そこからの引用があることが判明。

 舞台は、いつともいずことも知れぬ、時代も場所も定かではない、幻想的な夜の街。
 この架空の街には、ヴェネツィアのようなゴンドラが浮かぶ運河が流れ、モスク、巨大な仏頭、ロンドンのビッグ・ベンのような時計塔、パリにあるような凱旋門、電飾を施されたナイトクラブなどが立ち並び、遠くには煙を噴き上げて蒸気機関車が走る。看板や壁のラクガキに書かれているのは、ヒンディー(デーヴァナガリー文字)だったり、ウルドゥー(アラビア文字)だったり、英語(アルファベット)だったり。
 主人公の青年ラジは、ナイトクラブの歌手として働くために、この街へやってきた異邦人で、未来を信じる無邪気さと、天使のような善良さを持った好青年。その性格は、街頭に立つ娼婦たちの心を捕らえ、孤独な人間嫌いの老婆の心も解きほぐす。
 そんなラジは、雨でもないのに雨傘をさして橋の上に佇む、サキーナという美しい娘と出会う。ラジはサキーナに恋をし、サキーナもラジを友人として受け入れるのだが、実は彼女にはイマーンという恋人がいた。イマーンは、今はこの街を離れているが、サキーナは橋の上でその帰りを待ち続けていたのだ。
 サキーナを諦めきれないラジは、彼女に、イマーンのことはもう忘れて、彼を待つのをやめて自分と一緒になろう、と迫るのだが……。

 ってなストーリーが、幻想的な極上の映像美で綴られていきます。
 まあ、とにかく、その映像美が素晴らしい!
 ロケはいっさいなく、全てがセット撮影で、しかも全てが夜のシーンなんですが、青を基調としたその映像は、最初から最後までひたすら美しいの一言!
 バンサーリー監督は、既に”Devdas”で、トラディショナルなインド文化の美を、この上もなく豪奢で華麗にして、その美しさの極限のような映像美を見せてくれています。次の”Black”(2005)では、”Devdas”とはうって変わって、イギリスを舞台にした、クラシカルではあるもののシンプルでヨーロッパ的なものを、光と影やシンメトリカルな構図を使って、やはり極めて美しく描き出していました。
 そして、今回の”Saawariya”では、今度は自然主義に背を向けて、徹底的な人工美の世界を見せてくれるます。
 まあ、論より証拠、公式サイトで予告編を見てください。見りゃ判りますから(笑)。ホント目の御馳走、美のシャワーを浴びながらの、目眩く2時間22分。
 美術だけではなく、その演出にも目を奪われます。特に、カメラワークの素晴らしさ! ハッタリやインパクトのためではなく、しっかりとした目的を持って滑らかに、しかも美しく動き回るカメラからは、この監督の映像表現における手腕の確かさが、改めて感じられました。
 エモーションの描出などに関しては、これは”Black”のときもそうでしたが、いささか感傷的でベタな部分があります。個人的には、この監督のそれは、マイナス点ではなくオーセンティックな美点だと思っていますが、嫌いな人は嫌いでしょうね。

 ストーリーの方は、原案となっているドフトエフスキーの小説と、基本的な流れは一緒で、結末もテーマも同じです。
 モノガタリの表層だけを見れば、失恋を描いた一種のメロドラマのようなものなんですが、そこで扱われているテーマは、そういったジャンル・フィクションから予想されるような、予定調和的なものではない。恋愛をテーマにしながらも、その主眼となるのは、喜びや涙といった感情のドラマや、成就や破局といった結果のカタルシスではなく、それらの中から浮かびあがる「本質」について、受け手に向けて問いかけることにあります。
 バンサーリ監督は、『ミモラ』でも”Devdas”でも”Black”でも、同様に複雑な愛の諸相を描き、愛の本質に迫ろうとしていましたが、”Saawariya”も基本的には同様です。ただし、『ミモラ』で描かれた愛ゆえの葛藤劇や、”Devdas”の古典的な悲劇、”Black”のプラトニックな絆としての愛と比べると、”Saawariya”の瞬間的な法悦としての愛(詳しくはネタバレになるので、後ほど原作との比較を交えて詳述します)は、いささか共感や理解が難しい側面があります。
 舞台やモノガタリの背景から、現実感を完全に排除していることは、根本となる観念的なテーマを、より普遍的な寓意に昇華している効果がありますが、そのことによって、逆にリアリティを感じることができず、感情的な共感はしにくくなるというマイナス面もあります。個人的には、手法とテーマの見事な合致だと感銘を受けましたが、逆に苦手な方もいらっしゃりそうではあります。

 映画”Saawariya”は、決して難解というわけではないのですが、かといって、万人受けする娯楽作品でもありません。インド国内では興行的に失敗したらしいですが、インドの大衆娯楽映画の特徴である、予定調和的なカタルシスとは全く無縁の作品ですから、これは無理もないでしょう。
 バンサーリ監督は、前作”Black”で、歌と踊りというインド映画的なスタイルを完全に排除して、インド映画という枠組みそのものを越境しようとする姿を見せました。今回の”Saawariya”は、再び歌と踊りを交えて、様式としては再度インド映画に回帰しているように見えます。
 しかし、”Black”のストーリーやテーマは、『奇跡の人』で知られるヘレン・ケラーの物語をベースに、それを膨らませたエモーショナルな感動ドラマと言えるものだったのに対して、”Saawariya”の観念的テーマやモチーフは、実は”Black”以上に非インド映画的だとも言えます。
 こういったことから、”Saawariya”は、バンサーリ監督がインド映画にこだわりつつ、同時にそれを越境しようとた野心作と言って良いでしょう。同時に、過去の作品と共通するテーマ性や、確固たる映像スタイルなどからは、はっきりとした作家性も伺われる。インド映画ファンのみならず、広く映画好きには注目されてしかるべき才能を持った監督です。
 こうして、私にとってバンサーリ監督は、今後ますます目を離せない監督になりました。インド国内での”Saawariya”の興行的失敗が、その作家性をスポイルしてしまわないことを、切に願います。
 同時に、その作品が日本でも、公開やソフト化されますように! 普通に見られるのが『ミモラ』一本だけという、余りに残念な現状なので……。

 役者さんに関しては、まず主演のランビール・カプールですが、決して好きな顔立ちではないですけれど、天使的な側面を持ち合わせた無邪気でナイーブな青年を、好演しています。因みに顔は、相棒との間では、髪型などのせいもあり、「(ポール・マッカートニー+ジョン・レノン)÷2+ガラムマサラ」ということで一致しました(笑)。
 また、引き締まったダンサー体型を、惜しげもなく露わにして、全裸にバスタオル一枚で歌い踊る姿(メイキングを見ると、実はちゃんとパンツをはいているですけど、画面上では完全に素っ裸に見えます)は、メイル・エロティシズム的にも見逃せません。実に美しかった(笑)。
 ヒロインのソナム・カプールは、とにかく大きな目が印象的。演技的には、インド映画の女優の定型的なそれを、きちんとこなしているだけといった感じで、それ以上は何とも言えない感じではあるんですけれど、美しさと存在感は充分で、初々しい魅力もあります。
 娼婦役のラーニー・ムケルジー、イマーン役のサルマン・カーンは、いわば大物俳優のゲスト出演といったところで、少ない出番ながらも存在感は充分。個人的にラーニー・ムケルジーは、”Nayak”と”Black”で好印象だったので、この出演は嬉しい限り。サルマン・カーンは……「インド映画の二枚目の顔は苦手」という、私の法則通りなんで……(笑)。身体はけっこう好きだけど、今回は脱がないし(笑)。
 印象深いのは、老女リリアン役のゾーラー・セヘガル。95歳の現役女優というだけでビックリなんですが、ラジにリリポップと呼ばれてから後の愛らしさが、もう実にステキでした。オバアチャン好きなら必見。

 ミュージカル・シーンに関しては、これは意外なほど印象に薄い。
 もちろん、前編に渡って美麗な映画なので、ミュージカル・シーンも当然美麗なんですが、「これぞ!」というポイントには乏しい感じ。というか、何でもないフツーのシーンまでが実に美しいので、ミュージカル・シーンの印象が、その中に埋もれてしまうといった感じ。
 とりあえず、前述したメイル・ヌードのエロティシズムもあって、”Jab Se Tere Naina”はお気に入り。群舞好きの私としては、モスクで踊る”Yoon Shabnami”も好きではあるんですが、見ているだけで至高の多幸感に満たされた”Devdas”の”Dola Re Dola”(音楽と映像の融合という意味で、個人的に映画史に残ると思っているシーンです)には、正直遥かに及ばないのは残念でした。
 音楽のみに限って言えば、主題歌の”Saawariya”は、コブシまわし意外にはインドらしさはほとんどない、フォーク・ロック調の曲なんですが、ポップでキャッチーなメロディーの佳曲。歌以外の劇伴も、画面同様に極めて美しく、ロマンティックかつ幻想的で素晴らしい。
 ただ、これはDVDソフトとしてのマイナス・ポイントなんですが、歌詞の英語字幕が、最初の”Saawariya”以外は、いっさい出ないんですな。歌詞にもしっかりと意味があるインド映画で、これは欠陥としか言いようがない。

【追記】後にBlu-rayで再購入したところ、こちらはちゃんと歌詞の英語字幕が出たので一安心。

 購入したDVDはPAL、リージョンコードは5。スクィーズのワイド収録。
 インド映画のDVDって、正規盤でもジャケットだけが豪華で、肝心の本編は画質が悪いことも多いんですけど、これは流石にSony/Columbia映画だけあって、DVDもSONY Pictures Entertainment India盤なので、画質は極めて美麗。Blu-rayディスクも発売されただけのことはあります。
 オマケはメイキング、プレミア・ナイトの映像、未使用シーン、予告編。

 では、最後にまとめて、ドフトエフスキーの『白夜』との比較も交えた、ヤヤコシイ感想をあれこれ。
 ネタバレも含みますので、お嫌な方は読まれないように。

 映画”Saawariya”でも小説『白夜』でも、最終的に主人公の恋は破れます。主人公は、モノガタリの終盤になって、ようやくヒロインの心を自分に向けさせることに成功し、ヒロインも帰らぬ恋人を待つことはやめ、主人公と一緒になろうと決心するんですが。その刹那、恋人の帰還によって、一瞬だけ成就した恋は、脆くも崩れ去る。
 しかし、モノガタリの本質、その着地点は、壊れた恋による「涙」や、喪失の切なさといった、感傷的なロマンティシズムではない。小説『白夜』(小沼文彦・訳、角川文庫版)は、下記のエピグラフで始まり、下記の独白で締めくくられます。

「それとも彼は、たとえ一瞬なりともそなたの胸に寄り添うために、この世に送られた人なのであろうか?」 トゥルゲーネフ

ああ! 至上の法悦の完全なひととき! 人間の長い一生にくらべてすら、それは決して不足のない一瞬ではないか?

 ここで見られる、たとえ最終的には破れた恋(或いは愛)ではあっても、ほんのひとときでもそれが成就した瞬間があったのなら、それは至福ではないかと問いかけが、映画”Saawariya”のテーマでもあります。
 だからこそ主人公ラジは、サキーナが去った後、映画の前半でラジがサキーナに、「『アンハッピー』と戦って打ち負かせ」と言って、ボクシングの真似をして見せたのと同じ場所で、ひとりボクシングのポーズをとって、微笑みを浮かべて去っていく。そしてラジ自身も、前述した『白夜』の巻頭言のように、天使的な存在として世界(=この架空の街)に出現し、映画オリジナルの登場人物である、老婆リリポップや娼婦たちに、ひとときの至福の瞬間を与えていく。
 この様に同じテーマを扱いつつも、それと同時に、小説から映画へのトリートメントとして、必要とされるであろう様々な変更も、そこかしこできちんと見られます。
 例えば、メイン・キャラクターの性格は、『白夜』(「私」とナースチェンカ)ではかなり特異なもので、小説世界ならいいんですが、現実に身近にいたら、イタい人認定されて周囲から引かれまくること間違いなしなんですが(笑)、”Saawariya”のラジとサキーナは、そこまでエキセントリックではない。二人の関係が近付いていく様子も、『白夜』よりは自然なプロセスを踏んで描かれます。
 また、ヒロインが、最終的に主人公ではなく、戻ってきた恋人を選ぶ場面でも、『白夜』では言葉もなく去ってしまい、その後、ナースチェンカから届いた手紙を読む「私」の場面で締めくくられますが、”Saawariya”では、別れの場面に延々と葛藤のシーンを挿入することで、エモーショナルなクライマックスを描出し、手紙云々のくだりは省かれる。
 映像言語的にも、『白夜』のナースチェンカには、彼女を溺愛する盲目の祖母がいて、その祖母は、孫娘が勝手にどこかにいってしまわないよう、自分の衣と孫娘の衣をピンで止めているという、印象深いエピソードがありますが、”Saawariya”では、同じエピソードを用いつつ、更にそれを、サキーナとイマーンの間の恋愛感情の芽生えと発展を示す、図像的な表現へと展開して見せる。
 あるいは、もっと些末なことで、『白夜』ではオペラだった要素を、”Saawariya”ではクラシック・インド映画に、それぞれ「歌(と音楽)」という共通要素を介して置き換えている。つまり、原作における文化的背景を、監督自身の属する文化のそれに、きちんとアダプテーションして描いているわけです。
 映画と小説という二つのメディアの、マーケットや特性の違いという点でも、また、この監督が『白夜』を元にした映画を作るにあたって、原典の精神を生かすと同時に、いかに自分自身の作家性を盛り込んだかという点でも、文芸小説の映画化として、実に見事な成果と言って良いと思います。

『怪傑白魔』フランス盤DVD

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『怪傑白魔』(1959)リッカルド・フレーダ
“Agi Murad il diavolo bianco” (1959) Riccardo Freda
 前にここで書いた、スティーヴ・リーヴス主演の『怪傑白魔』(米題”White Warrior”、仏題”La Charge des Cosaques”)のフランス盤DVDが届いたので、レポートしてみませう。
 とりあえず、映画の内容から。
 帝政ロシア時代のコーカサス地方を舞台に、白装束に身を包んだヒーローが活躍する、アクション・スペクタクル。原作はトルストイの『ハジ・ムラート』(未読)なんだそうですが、内容はかなり大幅に変更されているみたい。
 スティーブ・リーブスは、もちろん主役の怪傑白魔ことハジ・ムラート役。白馬に跨り、白いマントをなびかせて、ロシア軍の砦を陥落させたり、長老の娘と恋仲になったりと大活躍。ところがある日、屋外デートの最中にロシア軍に襲われ、負傷して捕虜になってしまう。
 捕らえられたハジ・ムラートは、ロシア軍から「降伏して、こっちの味方になれ」と拷問を受けるが、果敢にそれに耐え抜く。そんな姿を見ていて、ロシア軍側のお姫様は、捕虜に仄かな恋心を。
 いっぽう抵抗軍側では、かねてからハジ・ムラートを妬んでいた男が、長老を暗殺して、その娘でハジ・ムラートの婚約者でもある美女を我がものにし、自分が首魁に収まろうと奸計を巡らす。
 さて、囚われのハジ・ムラートの運命は、そして恋の行方は……? ってな感じの、肩の凝らない痛快アクション娯楽作。
 ストーリー的には、後半、ヒーローがずっと囚われの身になってしまうので、アクション・スペクタクル的な動きがなくなってしまうし、ドラマのクライマックスが、ロシア軍との戦いではなく、味方の中の裏切り者との戦いなので、ちょいと盛り上がりに欠ける上に、モノガタリ全体のスケールも小さく縮んでしまうといった物足りなさはあります。
 それでも前半の砦の攻防戦とかは、けっこう見応えがありますし、撮影がマリオ・バーヴァだということもあり、ロマンチックで静かな見せ場でも、ちゃんとこっちをウットリさせてくれます。登場人物も、皆さんクリシェのカタマリのような人物造形ではありますが、このテの娯楽作的には、キャラクターも良く立っていて魅力的。ヒーローものと割り切って見れば、充分以上に楽しめる佳品といったところでしょうか。
 主演のリーブスは、ヒゲもエキゾなコスチュームも良く似合っていて、いつもながらの美丈夫ぶり。基本的には着衣主体の映画ですけれど、前半の宴会でのレスリング・シーンと、後述するボンデージ&責め場シーンで、しっかり自慢の肉体美も披露してくれます。
 ヒロインの方も、素朴で心の強い村娘といった風情ジョルジア・モル、ゴージャスな貴族風のシーラ・ガベル、共になかなか美しく、役割分担の持ち味を良く出していて好演。
 悪役のレナート・バルディーニとジェラード・ハーターは、まあ、可もなく不可もなく、といったところ。
Whitewarrior01 で、まあ、私がこの映画を、その本来の出来映え以上に愛している理由として、スティーヴ・リーヴスの責め場、ってのがあるんですが(笑)、そのご紹介をば。
 まず、これは責め場ではなく、単なるボンデージなんですけど、傷ついて捕らえられたリーヴスは、上半身裸に包帯を巻かれて、ベッドで医師の手当てを受けた後、隙をついて脱走を試みる。しかし失敗して、再度ベッドに寝かされると、今度は脱走防止に、両手をベッドに縛られる……ってな塩梅。これ、両手を挙げたバンザイ・スタイルってのが、実にヨロシイ(笑)。
 そして、傷が癒えた後は、まず、鞭打ち。
 上半身裸でY字刑架に縛られて、ヒゲ熊獄吏に背中を鞭打たれます。背中にはちゃんと鞭痕が走っているし、打たれた直後、身体をのけ反らして苦悶する横顔もちゃんと見せるあたり、実に神経が行き届いた演出(そうなのか?)。
 因みにこのシーン、前にここで紹介した洋書”Lash!”でも、「映画で見るステキ鞭打ちシーン100」の中の一つにリストアップされてます(笑)。
Whitewarrior02 それから、今度は身体の前後を逆にして縛られて、焼きゴテ責め。
 このシーン、尺は短いし、焼きゴテが当てられる部位はフレームアウトして見られないんですけど、華やかなパーティーシーンを挟んで見せられるので、残酷度や無惨度は高い。
 因みに、これより前段では、別の捕虜(細身だけど、いちおうヒゲモジャで上半身裸)が同様の責めにかけられるシーンがあります。で、この捕虜は拷問された後、リーヴスを屈服させるための道具として、その眼前で処刑されてしまう。
 という具合に、拷問されるスティーヴ・リーヴスを愛でるという点(笑)では、『鉄腕ゴライアス 蛮族の恐怖』と『逆襲!大平原』と、この『怪傑白魔』が、私にとっての三冠王(笑)。
Whitewarrior_gashitsu 仏盤DVDの品質は、シネスコのスクィーズ収録、画質良好、退色も傷もほぼ見あたらずの高品質。
 DVDは過去にアメリカ盤やスペイン盤が発売されていますが、それらと比較しても、画質はずっと良いです。もちろん、色はおろか人物まで画面外に切れちゃってるアメリカのトリミング盤と比べると、雲泥の差。
 アメリカのノートリミング盤(スペイン盤も、おそらく同一マスター)と比較しても、ここでアップしたキャプチャ画像は、縮小しているので判りにくいと思いますが、まず、ディテールの再現度がぜんぜん違う。それと責め場とか、画面が暗めだったり、コントラストがキツめになっても、シャドウ部の潰れがないのが良い。
 ただし音声はフランス語とイタリア語のみ、字幕はフランス語のみなのが残念。
 カップリングされている”Catherine de Russie”は、まだ未見。