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『外道の家』フランス語版がサド賞を受賞


 マンガ『外道の家』のフランス語版(House of Brutes)が、フランスで2022年度Prix Sade(サド賞)のBD/Manga(コミック)部門を受賞しました。
 英語Wikipediaによると、同賞は現代のリベルタンを表彰する目的で2001年に創設。過去の受賞者にはジャン=ポール・ゴルチエ、荒木経惟、アラン・ロブ=グリエ、沼正三、デニス・クーパーといった著名な人々の他にも、アニエス・ジアール、マヴァド・シャロンといった私の友人たちの名前もありました。
 仏語版元Dynamiteの担当編集氏から、その報告と一緒に受賞会場の写真が送られてきたので、許諾を得てここにアップいたします。

 初の一般向け長編の『弟の夫』では、幸運にも国の内外で様々な賞をいただきましたが、今回はアダルト向け作品での初の受賞ということで、喜びもまたひとしおです。しかもマルキ・ド・サドの名を冠した賞だというのが、これまた嬉しいし光栄。

『外道の家』は、1999年から2007年にかけてゲイ雑誌「バディ」で隔月連載された、大河ゲイSMマンガ。同誌の自由な気風(掲載作に対する内容的な制約が緩かった)を活かして、ゲイ・ポルノグラフィーというジャンルの枠を、どこまで拡大できるかを試みたもので、そういう意味では、それ以前のゲイ雑誌掲載作品と、『弟の夫』以降の一般紙掲載最作品の間の、橋渡し的な意味合いも持つ作品です。
 日本語版単行本は、「バディ」版元のテラ出版から、2007年から2008年にかけて全3巻で発売。ただ一般的な単行本ではなく、「月刊バディ別冊」という形で、しかもごく少部数の出版だったため、現在では絶版、かなりのレア本となっています。

【2022年10月14日追記ここから】
『外道の家』の単行本、ポット出版からの復刻が決定しました! 時期等はまだ未定なので、続報をお待ちください!
【ここまで】

 2010年から2011年にかけて、スペイン語版(La Casa de los Herejes)がCúpula社から発売。こちらは最近増刷もかかった現役の単行本です。今回受賞したフランス語版は、2021年に1巻が、2022年に2巻が発売済みで、もうじき完結巻である3巻が発売予定。フランス語版担当編集氏によると、今回の受賞を受け発売にあたって「サド賞受賞!」のステッカーを用意するとのこと。これでセールスにもブーストがかかると良いのですが。

マンガ『親友の親父に雌にされて』電子版(PDF)配信開始


 2018〜19年に「バディ」誌で連載(全4回)したマンガを、続編発表に併せて、電子版(PDF)の配信を開始しました。
 お求めは下記配信サイトからどうぞ。

Booth >> https://tagame.booth.pm/items/2849773
Digiket >> https://www.digiket.com/work/show/_data/ID=ITM0214919/
DLsite >> https://www.dlsite.com/bl/work/=/product_id/RJ322774.html

白黒マンガ、65ページ、PDF。

大学生、嶋(しま)明雄(あきお)は、親友の父親、道古(どうこ)龍平(りゅうへい)の巨大な股間に目を奪われてしまったことをきっかけに、龍平の雌(ビッチ)になることを誓わされる。龍平は明雄を《アケミ》という女名前で呼び、口舌奉仕や精飲などを仕込んでいく……。

【本文サンプル】

 よろしくお願いいたします!

マンガ『コックサッカー 親友の親父に雌にされて3』FANBOXにて連載開始


 新作ゲイエロマンガ『コックサッカー 親友の親父に雌にされて3』を、pixivFANBOXで連載します。フルカラーコミック。
 この4月はまずパート1を、更に4回に分けて、毎週土曜日(4/3、10、17、24)にアップしますので、お楽しみに!
 パート2の発表時期はまだ未定。

 また、第一章にあたる無印『親友の親父に雌にされて』(バディ掲載作、64ページ)が、まだ単行本未収録のため正規な形で読める方法がない状況を鑑み、電子版をPDFでリリースすることにしました。こちら
 第二章『ベビードール 親友の親父に雌にされて それから』は、既にpixivFANBOXで発表済み。こちら

「pixivFANBOXって何?」という方は、こちらをどうぞ。
pixivFANBOX:よくある質問

『嬲り者《復元完全版》』10月12日発売



 新刊ゲイアダルトマンガの単行本『嬲り者《復元完全版》』が、10月12日にポット出版プラスから発売されます。
 同作は1991〜93年に雑誌「さぶ」に連載された、私の処女長編マンガ。94年にBプロダクトから、直販限定の単行本として発売されました。
 今回の復刊では、旧版のコンテンツは全て収録しつつ、更に白抜き部分を加筆した《復元完全版》でのリリース。ボーナス・コンテンツとして未使用原稿も収録。
アマゾン:嬲り者
版元ドットコム

 版元であるポット出版のサイトでは、先行予約購入者様対象の直筆サイン本サービスがあります。
 2017年9月19日(火)午後1時に予約受け付けスタート。先着50名様となります。
 お申し込みは下記リンク先ページからどうぞ。
ポット出版|嬲り者《復元完全版》

 終了しました!

【復元完全版とは?】
 この作品発表当時の「さぶ」では、局部の修正は全消しがデフォルトでした。『嬲り者』もその基準に合わせて、雑誌掲載時も旧版単行本も白の全消しになっています。
 今回の復刊にあたって、その全消し部分に新規加筆した《完全版》を製作し、その上から新たに、現在の基準に合わせた修正(ポット出版の場合は白棒消し)を入れています。
 実際にどの程度の違いがあるかは、下の比較画像をご覧ください。

(注:これは紙本バージョンの修正サンプルです。電子書籍版は大きめのモザイク修正になります。具体的にどのようなものかは、こちらのページ下方にあるサンプルでご確認ください)
 ではなぜ《復元》なのか? これは、単行本に収録されている新規のあとがきでご確認を。製作当時の裏話などを交えて、いろいろ解説しております。

 電子書籍版も同時配信開始です。
Kindle:嬲り者
 お値段は紙本よりお手ごろになっていますが、局部の修正方法は粗めのモザイクによる全消しになります。
 具体的にどんな感じかは、こちらのページ下方にあるサンプルでご確認ください。

『田舎医者/ポチ』電子版配信開始


 2012年4月に発売されたマンガ単行本『田舎医者/ポチ』が、電子書籍化されて各電子書店での配信がスタートしました。
 内容は中短編集(16〜54ページ)で、収録作は「田舎医者」「スタンディング・オベーション」「傀儡廻(くぐつまわし)」「ポチ」「ジゴロ」「LOVER BOY」「見知らぬ土地で奴隷にされて…」「43階の情事」の計8作。

 電子版には紙本と同じ内容の合冊版と、収録作品それぞれをお手軽な値段で購入できる分冊版(マンガ本編のみ収録。初出一覧とあとがき、プロフィールは入っていません)があります。
 局部修正は紙本と異なり、大きめのモザイクになります。具体的にどのように違うかは、こちらのページ下方にあるサンプルでご確認ください。

 以下、各作品の内容紹介と、代表的な電子書店としてアマゾンKindleへのリンクを貼りますが、楽天Kobo、Google、DMM、他でも配信されているので、普段ご利用の電子書店がありましたら、作品名か著者名で検索して探してください。(アダルト書籍なので要ログインの場合あり)


【紙の本はこちら】
https://amzn.to/3Q3p9K9

【Kindle合冊版】
『田舎医者/ポチ』
 紙本と同じ内容のフルバージョン。
https://amzn.to/3vFMWZK

【Kindle分冊版】

https://amzn.to/3xL4eVC

「田舎医者」
 明るいヤリまくり系ゲイエロ。非SM作品で、自分でもお気に入りの一本。楽しくエロを読みたい方にオススメ。


https://amzn.to/4cZ4xMM

「スタンディング・オベーション」
 拷問系SM。そこそこハードな内容。ガチムチ男子が苦痛に悶絶するのがお好きな方向け。


https://amzn.to/43Vfj2F

「傀儡廻(くぐつまわし)」
 奇想系エロ。内容は、魔太郎がくる+南くんの恋人(笑)。身体縮小フェチの方ならマスト。


https://amzn.to/3W0DMBA

「ポチ」
 羞恥&心理系SM。苦痛要素はなし。SM好きだけど痛いのはパスな方、リーマンもの好きの方、年下に調教されるシチュが好きな方にオススメ。


https://amzn.to/4aA3fGo

「ジゴロ」
 メス堕ち系の凌辱もの。私のマンガでは珍しく細眉茶髪の若者が受け。フェチ要素はガットパンチングなど。


https://amzn.to/3Ui1Wqb

「LOVER BOY」
 非SMのノンケ喰い合意エロエロ。イケメン好き、メガネキャラ好き、ノリ良く楽しく抜きたい方にオススメ。これも自分でもお気に入りの一本。


https://amzn.to/49DeBZ8

「見知らぬ土地で奴隷にされて…」
 ショタ系ハードSM。かなり容赦ない展開なのでご覚悟を。元来は単行本用の描きおろし作品で、他の収録作も読んでいること前提で描いているので、これ単独で読むとオチが判りにくいかも?


https://amzn.to/49CKbGc

「43階の情事」
 リーマン系ハードSM。これだけかなり古い作品なので、他と絵が違います。確か『銀の華』と『外道の家』の間に描いたもの。

5月6日〜14日:北米(ニューヨーク/フィラデルフィア/トロント)イベント参加のお知らせ


『弟の夫』英語版(Pantheon)第1巻が、5月2日に発売されました。つきましては販促を兼ねて、北米で開催されるイベント幾つかに参加いたします。お近くの方、いらっしゃいましたら、どうぞお立ち寄りください。

ニューヨーク

5/4: PEN World Voices Festival “Transcendent Obscenity”パネルに登壇(from 2-3:30pm at Dixon Place, NYC)

5/7: Anyone ComicsでDrink n’ Drawイベント(お酒を飲みながら男性ヌードモデルのデッサン大会をするイベント)開催(from 5-8pm in Crown Heights Brooklyn)

5/9: 紀伊國屋書店ニューヨーク店でサイン会(from 6-8pm, on 6th Ave. at 40th St.)

フィラデルフィア

5/10: Giovanni’s Room/Philly AIDS Thrift Storeでサイン会/読書会/Q&Aイベント(from 6-8pm)

トロント

5/13、14: Toronto Comics Arts Festivalに参加:

5/13
PM 2:00 サイン会(at Reference Library)
PM 4:00 パネル“LGBTQ Comics Abroad”Saturday(at the Marriott Bloor)
PM 7:00 TCAF Queer Mixer (with preview of “Queer Japan” by Graham Kolbeins)(at Glad Day Bookshop

5/14
AM 11:00 サイン会(at Reference Library)
PM 2:45 パネル“Canada 150!”(at the Marriott Bloor)

5/9〜30
田亀源五郎『弟の夫』展(at Reference Library)
(ネーム、下絵、ペン入れ原画、完成原稿プリントなどが展示されます)

サンフランシスコで開催されるクィア・コミック・カンファレンスに出ます


 今週末、サンフランシスコのCalifornia College of the Artsで開催される、Queers & Comics 2017 Conferenceに、キーノート・スピーカー/パネリストとして参加します。

イベント:Queers & Comics 2017 Conference
日程:4月14日(金)〜15日(土)
会場:California College of the Arts、米国サンフランシスコ

 登壇予定パネル:
Queer Manga – History and Cultural Context
14日(金) PM 2:30〜
Keynote
15日(土) PM 7:30〜

詳細は下記公式サイト参照
Queers & Comics 2017 Conference

現地においでの方、よろしかったらお立ち寄りください。

第19 回文化庁メディア芸術祭受賞作品展+トークイベントのお知らせ

mediaart
2月3日(水)~2月14日(日)、第19回文化庁メディア芸術祭受賞作品展が、国立新美術館、TOHOシネマズ 六本木ヒルズ、スーパー・デラックス、セルバンテス文化センター東京で開催されます。
 つきましては、マンガ部門で優秀賞をいただいた拙『弟の夫』関連も、国立新美術館にて展示されます。ワンブース使ってストーリーの概要や、ネーム>下絵>アナログペン入れ>デジタル仕上げといった作業工程などを、原画や複製原画、プリントや写真などで展示予定。
 入場無料ですし、お時間のある方は是非お立ち寄りください。
http://festival.j-mediaarts.jp/exhibit/outline

 また、2月6日(土)16:00-17:00には、同じく国立新美術館にて受賞者トークイベントに登壇いたします。マンガ家のすがやみつる先生、松田洋子先生とご一緒。
 こちらも、お時間ある方は是非お越しください。
 現在、事前申し込みを受け付け中。詳細は下記リンクにて。
http://festival.j-mediaarts.jp/event/661

『劇画 家畜人ヤプー」沼正三/石ノ森章太郎、復刊!

 紹介しよう、しようと思いつつ、件の「非実在」関係のせいで、すっかり遅くなってしまいました。
 ポット出版さんから、沼正三・作の天下のマゾヒズム奇書『家畜人ヤプー』を石ノ森章太郎がマンガ化した、『劇画 家畜人ヤプー』が復刻されました。

劇画家畜人ヤプー【復刻版】 『劇画 家畜人ヤプー【復刻版】』
作・石ノ森章太郎、原作・沼正三

 去年の秋だったか、この本を復刻する予定だと、ポットの沢辺さんに聞いたとき、私は、絶版になっていたとは知らずに、ちょっとビックリしました。このマンガが最初に世に出たのは1971年、私が実際に読むことができたのは、83年に復刊されたときでしたが、作品自体が有名だし「あの石ノ森章太郎が」というネームバリューもあるので、てっきりその後も地味に版を重ね続けているのだとばかり思っていたもので。
 というわけで、まずは復刻自体に乾杯。オマケに今回は、丸尾末広氏の解説付き。愛蔵版として所有するのに相応しく、ハードカバーのしっかりとした造本、黒とシルバーをベースに、隠し味に紅を効かせた(余談ですが、昨年フランス人に聞いたんですけど、黒と赤ってのは、彼らにとってはとても「日本的」な配色なんですって)シックな装丁。
 さて、装画も含んだ『家畜人ヤプー』のヴィジュアライゼーションというと、「白い女神崇拝」というテーマとヨーロッパ的な耽美趣味が良く合っていた村上芳正氏、サイケ感覚と奇形化した肉体描写の合体が、ローラン・トポルの『マゾヒストたち』のような味わいの宇野亜喜良氏、「完結編」初出時の奥村靫正氏、最近のマンガ化の江川達也氏、現行文庫版の金子國義氏……といった具合に、様々な絵師が手掛けているわけですが、その中でもこの石ノ森版は、小説家の個性とマンガ化の個性が、かなり良く合っているのではないか、と、個人的に思っております。
 まあ、解説でも指摘されているように、確かにちょっと絵が荒いきらいはありますし、デフォルメ、特に肉体描写に関しては、70年代のマンガではいたしかたないこととはいえ、やはりマンガ的な記号表現のみでそれを描く限界が感じられてしまい、肉体の持つリアルな説得力という意味では物足りない。
 それでも、石ノ森キャラの「お姉さん」的な風情は、女尊男卑で統べられた超未来社会のドミナ、サディスティン像には良く合っていると思うし、現在の目で見ると既にレトロ・フューチャーになってしまっているとはいえ、SF的な描写もお手の物。
 それに何と言っても、流石は早熟の天才にしてベテラン作家の手によるマンガ化、その、マンガとしての読みやすさが素晴らしい。膨大なテキスト量、それも俗に言う「説明セリフ」が、動きのない会話で延々と続くにも関わらず、コマ割りや構図の工夫で、その単調さを最小限に抑えて見せる手腕は、やはり「マンガ家・石ノ森」ならでは。
 ここで「What if」を語っても、余り意味のないことだとは思うが、もし、誰か他の作家が『ヤプー』をマンガ化するとしたら誰がいいだろう……などと考えてみると(因みに丸尾氏は解説中で池上遼一氏の名前を挙げておられる)、私なんかは、「『白い女神』的なドミナ美女」と「男女共に解剖学的なリアリズムのある肉体描写」という二点から、三山のぼる氏(残念ながら既に鬼籍にはいられてしまったが)の描く「ヤプー世界」を見てみたい、と、個人的には思うのだが、しかし、この石ノ森版のマンガ的な完成度、マンガとしての読みやすさは、やはりそういったものとは別種の「技術力」だと思う。
 もう一つ、私がこの石ノ森版を愛好する理由として、マゾ側の主人公、瀬部麟一郎の造形がある。
 小説版でも石ノ森版でも、この、現代から未来世界に「拉致」されて、「日本人・瀬部麟一郎」から「ヤプー(家畜人)・リン」にされてしまう主人公は、いちおう「西ドイツの大学に留学中、柔道五段」という、いわば「文武両道の男らしい日本男児」である。
 ところが小説版では、それは最初のキャラクター設定的に語られるのみで、ストーリー中では全くというほど機能していない。やはりこれは、マゾヒストの作者が己のマゾヒズムを投影しているせいか、未来世界に拉致されてから後の麟一郎のキャラクター描写に、およそ「文武両道の男らしい日本男児」らしさが見られないのだ。
 全裸のまま家畜同様に扱われ、体内に寄生虫を入れられ、糞尿や経血を餌として与えられ、皮膚や口唇の加工といった様々な肉体改造をされ、あまつさえ去勢もされ、決して後戻り出来ない道へ堕ちていき……といった展開にも関わらず、それに対する心理的な抵抗や絶望感が余りにも乏しいので、端で見ていると「いとも易々と」家畜人としての自分の運命を享受していくように見えるほどだ。で、ついつい「これだったら『原ヤプー』も『土着ヤプー』も、大して変わらなさそうだな」なんて、余計なことを考えてしまう。
 こういったことが、私が小説版を読んでいて、最も物足りなさを感じてしまう部分なのだが、この石ノ森版は、その「物足りなさ」を「絵」による「表現」によって、ある程度カバーしてくれる。
 具体的に言うと、石ノ森版の麟一郎は、その外見そのものが、さほど個性的ではないが、それでも「青年マンガのヒーロー」的な造形になっている。つまり前述したような、設定で語られながらストーリー中では抜け落ちてしまっている「男性的」な要素が、キャラクターの絵そのものによって補われているのだ。
 もう一つ、麟一郎の「表情」がある。基本的なエピソードの展開は、小説もマンガも同じだとはいえ、その場面場面で描かれる「キャラクターの表情」は、心理を表現するという点で、ある意味で文章を越える説得力をもたらす。つまり、テキストでは描かれなかった麟一郎の戸惑い、怒り、苦痛、屈辱、諦念などの感情が、その表情によって何よりも雄弁に語られる。
 これらが、私にとって石ノ森版の最大の魅力である。
 さて、石ノ森版について語ろうとする余り、ついオリジナルの小説を批判するような文言が続いてしまったが、過去にもあちこちで語ってきたように、私にとっての沼正三の『家畜人ヤプー』および『ある夢想家の手帖から』は、マルキ・ド・サドや西村寿行などと並んで、作家としての私に大いに影響を与えた作品であり、大いにリスペクトしている作品でもある。
 前述したような「不満点」は、あくまでも私の個人的な「ポルノグラフィー脳」から出る反応であり、正直、ポルノグラフィー的な観点での愉しみ方だけ言えば、私にとっての『ヤプー』は「麟一郎の去勢」あたりでストップしてしまうのだが、『ヤプー』の魅力はそれだけではない。他に類のない綺想小説として、イマジネーション迸る幻想小説として、十代の私が夢中になり、そして未だにその呪縛から逃れ切れていない感のある小説だ。
 リビドーに基づくイマジネーションの暴走と、それによって拡がっていく、有無を言わせぬほどパワフルな世界観というものは、ポルノグラフィーなど、エロティックなフィクションならではの醍醐味である。その中でもこの『ヤプー』は、最大にして最強(最凶かも知れないが)の存在だ。
 特に「『ヤプー』って良く聞くけど、実際にはまだ読んだことない」という方には、この石ノ森版はオススメである。
 原作小説のペダントリーや言葉遊びの嵐に挫折してしまった人にも、このマンガ版は、そのエッセンス、美味しくて食べやすい部分だけを味見できるだろう。実際の小説は、後年になって書かれた続編(完結編)も含めると、この石ノ森版は冒頭部分のみ、まだ全体の四分の一くらい(?)ではある。ただ『ヤプー』の「良いところ」は、全てこの冒頭部分に集約されている(ぶっちゃけ個人的には、後年に書かれた「続き」は、全く面白いとは思えなかった)ので、この部分だけでも全体のイメージを掴むには充分だ。
 もちろん、小説既読で石ノ森版は未読の方にも、前述したような「新たな魅力」も発見できるのでオススメしたい。
 余談。
 私が『ヤプー』を読むたびに「羨ましい」と思うことが一つある。それは、男女という性差の存在だ。
 私自身でも、こういった「世界レベルでの支配・被支配」を、サドマゾヒズム的なスタンスで描いてみたい、という希望はあるのだが、いかんせん「ゲイもの」だと、「人種」はともかくとして「男女」のような絶対差が存在しない。世界を真っ二つに分けることができないのだ。
 というわけで、この『ヤプー』とか、洋物のフェムダムのような、そういった「男女」という「違い」が「問答無用で活かされている」SMものに触れると、いつも「ゲイSMフィクションの限界(笑)」を感じてしまうのである。