11月7日(土)
昨夜の疲れもあって朝寝坊。
朝食は簡単にパンとチーズで。
昼はオリヴィエも一緒にケヴィンとランチの約束なので、徒歩でマレ地区へ。
待ち合わせの店が、以前にも行ったことのある中華料理屋だったので、ちょっとげんなり……というのもこの店、値段が安いのはいいんだけど、味が決して良いとは言えないので(笑)。
そうこうする間に、ケヴィンも到着。昨日のオープニングでも会った、彼の奴隷とそのパピーも一緒。
この三人の関係がちょっと面白く、この奴隷氏とパピーはそもそも《マスター/飼い犬》という関係のカップルだったところを、ケヴィンがその《マスター》を《奴隷》に目覚めさせてしまった……ということらしい。マンガのネタになりそうである。
ランチの後、店を変えてコーヒーを飲んでいたら、オリヴィエの携帯にサイン会をする書店から連絡があり、一つ問題が発覚。
というのも、サイン会の時間は午後三時〜四時半の予定で、フライヤーにもFacebookのイベントページにも、ちゃんとそう表記されている。にも関わらず、書店が何を勘違いしたのか、開始時間を午後二時からと記載した貼り紙を、ショーウィンドウに貼ってしまっていたのだ。
結果、本来の開始時間までまだ一時間あるというのに、その貼り紙を信じたファンが既に店の前に行列を作っていると。仕方ないのでコーヒーもそこそこに切り上げて、書店へと移動。
書店Les Mots a la Boucheに到着。店の前に行列しているファンに「遅くなってゴメンね〜」と声を掛け、店内に入ってサイン会がスタートしたのは、およそ二時半。
問題の貼り紙。やっぱ「二時から」になっている。むむむ。
この書店でサイン会をするのはもう四回目。手順は判っているので、入り口脇にセッティングされたテーブルについて、さくっとサイン会開始。
スペリング確認用に、各々紙に名前を書いて貰い、本にサインを入れていく。
昨日の記事にも書いたように、Bruno Gmünderからの英語版新刊”The Contracts of the Fall”の初売り先行発売(正式発売日は12月1日)なので、やはりそれを購入していく人が一番多い。それ以外は、仏語版だと『軍次』『君よ知るや南の獄』『ウィルトゥース』、英語版だと”Passion”、日本語版だと『弟の夫(1)』持参の人が目立つ感じ。
シメオンが撮ってくれた、店の外の動画。彼が到着したのは三時以降なので、その頃の光景かな?
Posted by 田亀 源五郎 on 2015年11月12日
オープニングのときも感じたのだが、過去にフランスでやったイベント時と比べると、非白人や女性ファンの数が増えてきた印象。白人男性が圧倒的多数なのは変わらないのだが、黒人男性やアジア人男性の姿が、過去のイベントよりは明らかに増えており、女性も同様。
ひょっとしたらこれは、フライヤーがイベント告知のメインであった従来から、最近はFacebookなどSNSメインに変わってきた影響なのかも。つまり情報伝播において、フライヤーだと「置かれている場所(ゲイバー、クラブ、書店など)」というコミュニティへの依存度が高いのに対して、ネットだと、そういったコミュニティの客層がメインという枠がなくなるという可能性。
もう一つ、若い世代も着実に増加。最初の仏語版が出たのがもう十年前だし、「(悪いとは知りつつ)14歳のときに初めて読んだんです」なんてファンもいたりして、なるほど納得という感じ。作家としては、若いファンが着実に増えているというのは、ありがたい限り。ただ、2010年を最後に、仏語版出版は途絶えてしまっているので、今後どうなるかを考えると、ちょっと見通しが暗い感もあり。
そうこうする間に、確か60部だか用意してあった”The Contracts of the Fall”は、じきに売り切れ。となると当然、お客さんは店にある別の拙著の在庫を買って、サインを求めるということになるので、ここはかなり申し訳ない気分。
開始時間が30分早まったにも関わらず、終了の四時半まで、お客さんは全く途切れず。二年前に行ったサイン会より、来てくれたお客さんは明らかに多かった。
昨日のオープニングに来てくれた人もいれば、昨日は来られなかった知り合いもあり、ネットで交流はあったけれども会うのは初めてという知り合いもあり。というわけで、例によって記念写真を幾つか。
グラフィック・デザイナーのティエリー・モロー。会うのは今回が初めてだけれど、彼がアール・ゾイやユニヴェル・ゼロの最近のCDジャケなどを手掛けていたこともあり、以前からネットであれこれやりとりしていた仲。
ティエリーのお連れさん。
アーティスト/モデルのアルチュール・ジレ。
名前を失念してしまったのだが、今度Bruno Gmünderから作品集も出るというカメラマン氏。確認しました。カメラマンのJean-Baptiste Huong(ジャン=バティスト・フォン……でいいのかな?)。サイトはこちら。
そんなこんなで、サイン会は無事終了。
パリ在住の日本人の友人、ユージ君とその彼氏と待ち合わせて、一緒にお茶をしにいく。同じマレ地区にあるレストラン……なのかな、ステキなパティオで、お茶やお酒が楽しめるお店。
入り口の雰囲気からすると、「え、ここ入って大丈夫なの?」「上着必須とかじゃない?」という感じの、なんかえらい高級そうで敷居の高い雰囲気なんだけど、別に追い返されるでもなく、値段がめちゃくちゃ高いでもなく、雰囲気も実に良くて、また行きたい。
フォアグラの白味噌添えという、ちょっと不思議なものも頂きました。白味噌に何かを加えた(私は蜂蜜かと思ったけど、ユージ君の彼氏によるとリンゴとのこと)甘い練り味噌という感じのものなんですが、意外なくらい美味しかった。フォアグラと一緒でも良し、パンに塗っても良しという感じ。
夜はニコラと待ち合わせて、アートショーをやっているというフェティッシュ・バーへ。
今回は会えなかった知り合いのアーティスト、フル・マノなんかが参加しているショーで、そこで前にネットで見て気に入っていた、ペルーズ?という人の作品を発見。小品の販売もしていたので、早速購入。
するとニコラから、このアーティストは昨日のオープニングにも来ていたと。うわぁ、会えなくて残念!
再びケヴィン&彼の奴隷とパピーに会ったので、彼らの関係について色々と話を聞く。オリヴィエはSM素養がないので(笑)頓珍漢なことを言うけれど、私は興味津々、あれこれ話して盛り上がる。
フェティッシュ・バーの後は、ベア・バーに移動。週末の夜ということもあって、路上にも人がいっぱい。
しかしいい加減くたびれたし、そろそろ深夜も回りそうな時間だったので、オリヴィエに「先に帰るね」と声を掛けようと思った矢先、ティエリー・モローと再会。さっきはあまりゆっくり話す時間がなかったので、改めていろいろ話し込む。
そうこうしていたら、ニコラもやってきて、バーのオーナーであるサンタクロースみたいなおじさんにも紹介してもらう。そんな皆で記念写真。
こちらがオーナー氏。なんでもパリのベア界の親玉的な人ですって。
いろいろ耳に快い言葉を囁かれ、私はすっかり良い気分になってしまったんですが、囁きながらずっと私の乳首をいじるのはやめて欲しい……ってか変な気分になる(笑)。まぁ私も負けずといじり返しましたが(笑)。
11月8日(日)
午後三時にギャラリーでお客と会うまではフリーなので、オープニングで知り合いに薦められた、オルセー美術館で開催中の『壮麗と貧窮 1850年代から1910年代までのフランスにおける売春のイメージ展』を見に行く。
これは実に面白い展覧会だった。
洗濯女、街灯の下、劇場など、テーマ別に同シチュエーションの絵を展示し、その背景をテキストで解説。それに時代的な変遷が加わって、展示を見進めていくと、まるで文化人類学の本でも読んでいるみたいな面白さ。マネの「オランピア」やドガの「アブサン」といったお馴染みの名画も、売春というコンテクストが加わると、今までとは全く違って見えてくる。娼館の女たちを描いたドガ他のデッサンの数々とか、娼妓のレズビアニズムに注目したロートレックの諸作とかも、かなり新鮮。バイロスの絵をたくさん見られたのも収穫。
18禁コーナーではビンテージの立体エロ写真や、サイレント期のポルノ映画の上映もあり。エロ写真にはゲイものも数点展示されていた。このエロ写真も、写真撮影がまだ専門的なことだった時代(セットや状況を作り込んで演出が施されたもの)から、よりカジュアルなものになった時代(好事家が馴染みの娼妓のヌードを撮ったり、乱交パーティ的なものを記録したもの)への変化などを、テキストと現物で解説してくれるので、これまた実に面白い。
娼館や娼妓の名刺とか、高級娼婦の寝室や身の回り品など、珍しい文物の展示もあり、小さくて瀟洒な鞭もあった。オランピア以降、モチーフとして主張を始めた娼婦の展開には、クィアに通じる要素も感じられたりして、とにかく興味が尽きない展示だったので、会期中にパリに行かれる方にはお薦めです。来年1月17日まで。
図録には英語版もあったので、迷わず購入。
いったんギャラリーに戻って、お客さんの相手をしたり、新規に頼まれた本にサイン。
それから、カメラマンのパトリック・サルファーティと一緒にお茶。一昨日のオープニングで撮りそびれた記念写真を一緒に。
その後、インディーズ・ゲイ・コミック誌”Dokkun”を出しているファブリスと、そのパートナーのヤンと一緒にディナー。
メニューはラクレット。チーズを溶かして、ジャガイモや生ハムにかけて食べる料理。初めて食べたけど、すごく美味しい。フォンデュよりこっちの方がずっと好きだなぁ。
美味しい食事と、あれこれお喋りを楽しんだ後、二人とバイバイ。
深夜近くになってから再びオリヴィエと会い、今回のあれこれや今後のあれこれについてミーティング。
なかなか良い結果を出せたと、私は満足、彼も上機嫌。
11月9日(月)
昼頃の飛行機でパリ出立、アムステルダム経由で日本へ。
今回の渡航は短かったな…と思ったけど、それでも丸々一週間。いつも二週間以上なので、ちょっと感覚がズレているのかも(笑)。