“Tha Last Match (La partida)” (2013) Antonio Hens
(イギリス盤DVDで観賞→amazon.co.uk、日本のアマゾンでも取り扱いあり)
2013年のキューバ/スペイン製ゲイ映画。
ハバナの貧困地域を舞台に、サッカー友達である二人の親友が、貧困によって運命を狂わされていく様子と、ラブストーリーを絡めて描いたシリアスもの。
キューバ、ハバナ。貧困地域に暮らす二人の若者、レイニール(レイ)とヨスバニは、いつか手にする未来を夢見て、空き地で日々一緒にサッカーに興じている。
しかしレイには既に妻子がおり、更に妻の母親と一緒に暮らしている。レイの生活は日々の食事にも事欠く有様で、金銭を得るために夜の街に立ち、外国人ツーリスト相手に身体を売っている。そんな中レイは、フアンという中年のスペイン人ツーリストと出会う。
一方のヨスバニは、物品の販売などでこの地域一帯を取り仕切るボスに、娘の将来の婿として見込まれており、ボスの家で暮らしながら、物質的には何不自由ない暮らしを送っている。
レイの義母は、彼がフアンという上客を掴んだことを知ると、そのままスペインについて行って向こうで結婚し、それから私たちを呼び寄せろなどとけしかける。しかしヨスバニは、レイとフアンが親しくしているのを見て嫉妬してしまう。そしてある晩、夜遊びの最中にドラッグでハイになったヨスバニは、レイにキスをすると、その身体を求めて迫る。レイは「何の真似だ、俺を本当のホモだと思っているのか」と抗うが、しかし彼もまたドラッグでハイになり、結局はヨスバニを受け入れる。
やがて二人は、廃屋の屋上でひっそりと逢瀬を重ねるようになる。その一方で、ヨスバニとボスの娘の結婚の準備は着々と進み、フアンとの関係も続けているレイにも、ナショナルチームのテストを受けられるというチャンスが巡ってくる。しかしレイは、ボスに前借した金の返済に窮してしまい、ボスはその取り立てをヨスバニに命じる。しかしヨスバニは、ボスの命令通りにレイを殴ることができず、その結果、二人の関係をボスに気付かれてしまい……といった内容。
なかなか見応えあり。BGMを廃した現実音だけの構成、手持ちカメラによる揺れる映像、日差しのきつさや湿度の高さなど空気感が伝わってくる雰囲気、極めて自然でリアルなキャラクターの演技……と、映画的な見所は多々あり。
ストーリー的には重く、後味もかなりビターなので、ここは好き嫌いが分かれる感はありますが、個人的には、そういったドラマを捉える視点自体が、ウェット過ぎずドライ過ぎずいい塩梅だという印象。
レイの義母や妻が、彼の男相手の売春を知りつつも、それを何の問題視もしていないあたりや、ヨスバニの婚約者が、父親に「あいつはホモだ!」と言われても「だから何?あたしにはそれは何の問題もなかったわ!」などとやり返すあたりは、ちょっと他のゲイ映画には見られない興味深いポイント。その一方で、生活のための売春であれば同性相手でも問題視はされないが、金銭の絡まない同性愛関係(つまりレイとヨスバニの関係)だとスティグマ、つまり非難や軽蔑の対象になるという、そんな社会状況が興味深く、ここはもうちょっと突っ込んで見てみたかった感じです。
こういった諸々の状況には、貧困や社会的な閉塞といった背景があるわけですが、ラブストーリー好きの人が見ると、メインの二人がそれぞれ性別を問わず複数の相手と関係しつつ、しかし話は純愛的な方向に転がっていくので、ちょっと違和感があるかも知れません。しかし個人的には、その純愛的な展開が、愛だの恋だのといったエモーショナルな衝動なのか、それとも逃避なのかといった視点が感じられて、そこもまた興味深かったポイント。因みに私の解釈では、片方は愛、片方は逃避による行動と見ました。
モチーフが興味深いがゆえに、もうちょっと描き込んで欲しい感はあちこち残るものの、ゲイというモチーフをクローズドなラブストーリーとしてではなく、社会全体との関わりの中で描くあたりが、作品的な深みを増しています。
社会派的な視点あり、センシュアルなエロスあり、モチーフの独自性と映画的な見応えありで、結末に関して好き嫌いは分かれそうですが、見て損はない一本。
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