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最近見た「責め場あり」系の映画3本

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『冷酷処刑人 ~父なる証明~』(2008)スティーヴン・カストリシオス
“The Horseman” (2008) Steven Kastrissios
(日本盤DVDで鑑賞→amazon.co.jp

 2008年製作のオーストラリア映画。娘を亡くした父親が、娘の死に関わった人物を捜し出し、一人ずつ処刑していくが…というスリラー。
 B級スプラッター・ホラーかと思いきや、意外とマジメな作りでした。抑えた静かなシーンと鮮烈なバイオレンスがサンドイッチになった構成で、演出も佳良。ドラマの緩急やコントラストが魅力的で、けっこう作品世界に引き込まれます。
 ストーリーとしては、けっこう手垢のついた内容で新味はないものの、サイドエピソードを絡めたり、程々にツイストを入れたり、省くところはバッサリ省いたり、適度に回想を配したり…と、全体のバランス感覚が良く、構成的にも冗長さを上手く回避しているので、これまたなかなか面白い。
 バイオレンス描写は、けっこう即物的というか肉体的というか……特殊メイクでゲロゲロなものを見せるわけではなく、見せ物感覚で過剰なわけでもないのに、生々しい迫力や痛みを感じさせる演出で、けっこう見ていて肩に力が入ります。
 役者さんもいずれも佳良で、全体的なクオリティも上々なので、興味のある方なら見て損はないでしょう。

 責め場関係。まず基本的に、手がかりを探す父親→関係者発見→拷問して他の連中の居所を吐かせる→そいつを発見→拷問して別のヤツの居所を吐かせる……という繰り返しなので、わりと映画の全編に渡って、責め場はあちこち登場します。返り討ちにあって、逆に自分が拷問されるというお約束展開もあり。
 で、このおとっつぁんなんですが、素人さんにしてはヤケに拷問方法がヘンタイちっくというか(笑)……映画見ながら「あれ、私こんなシーン、マンガで描いたことあるなぁ」なんて思うこと、数回。具体的には(ネタバレ気味なので白文字で)サオだかキンタマだかにポンプで空気を注入するとか、ペニスに釣り針を引っかけてクンクンするとか、乳首をペンチで引き千切るとかいった拷問が出てきます。

 というわけで、そこそこエグくても大丈夫とか、逆に、残酷男責め大好きという人には、かなりオススメできる一本でした。

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『スティーヴ・オースティン ザ・ストレンジャー』(2010)ロバート・リーバーマン
“The Stranger” (2010) Robert Lieberman
(米盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com、日本盤DVDあり→amazon.co.jp

 2010年製作のオリジナル・ビデオ映画。愛しのストーンコールド・スティーヴ・オースティン様主演の、記憶喪失の男がFBIに追われながら自分の過去を探っていき……みたいな内容のアクション映画なんですが、実際の出来の方はこういう具合だというので、もう多くは期待せず完全に責め場だけ目当てで見ました(笑)。
 というわけで、メキシコ警察に捕まったスティーヴ・オースティンが、上半身裸で椅子に縛られて、ナイフでスパスパやられるシーンは、実に良うゴザイマシタ(笑)。クレーンに両手縛りで吊るされて、角材でタコ殴りされるシーンは、責めのアイデア自体はオッケーなんですけど、着衣なのが残念(笑)。

 ま、しょ〜もない感想ですが、見所はそれだけってことで(笑)。
 因みにFacebookで「見所はスティーヴ・オースティンの身体だけだった〜!」と愚痴ったら、「ヤツの映画はいっつもそうだよ!」と外国の方からもご賛同いただけました(笑)。

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“A Serbian Film” (2010) Srđan Spasojević
(イギリス盤Blu-rayで鑑賞→amazon.co.uk、日本のアマゾンでも購入可能→amazon.co.jp

 2010年製作のセルビア映画。原題”Српски филм / Srpski film”。
 引退して幸せな家庭を築いていた元ポルノスター男優が、アートなポルノ制作という誘い文句と高額の報酬に釣られて復帰したところ、とんでもないゴアゴアな罠に嵌められて…という内容。
 内容のアモラルさとエログロさに、かなり物議をかもした映画らしいですが、まあ確かに過激で鬱々な内容です。私が見たのは英盤Blu-rayで、これは一部カットされたバージョンらしいんですが、それでも内容は「とにかく酷い話に!」ってな感じで、いわゆる鬼畜描写がテンコモリ。
 どんだけエグいシーンがあるかは、ちょいとググればレビューが出てくるので割愛しますけど、正直なところポルノグラフィの持つ即物的な力は、一般映画(とはいえイギリス盤でも18禁指定なんですが)には超えられない壁なので、そういう意味ではこの映画も、そこはクリアできていない印象。そんなわけで、内容のエクストリームさと同時に、映画の限界のようなものも同時に感じてはしまいましたが、それでもかなりギリギリまで迫ろうとする意欲とか、徹底してブレない姿勢とかは好印象。
 ただ、事前に覚悟していたほどは、見終わったときにイヤ〜ンな気分にはならなかったなぁ。確かに容赦ない鬱展開だし、スゴいっちゃあスゴいんだけど、ぶっちゃけ私は、これ見て引くほど良識的な人間じゃないし、このくらいの展開だったら自分でも考えつくしな〜……ってな感もあり(笑)。
 でも、一緒に見た相棒は、見終わった瞬間「ひっどい話だね!」と憤慨していました(笑)。

 男責めとしては、具体的なアレコレよりも、シチュエーション的にグッとくるものがあり。
 主人公のポルノ男優は、一服盛られて意識を失ってしまい、正気にかえってから撮影されたビデオを見て、自分が何をしていたかを知るんですが、それが、麻薬と媚薬漬けにされて(以下ネタバレ含むので白文字で)女を犯しながら殺したり、男にカマを掘られていたり、何とか逃げ出したものの発情を抑えられなくて路上でズリセンぶっこいたり、自分のチンコを切り落とそうとしたり、まだ幼い実の息子のカマを掘っていたり……ってな具合で、ここいらの展開は良かったな〜。罠にはめられた男が酷い目にってのも、媚薬で発情アニマル化ってのも、どっちも大好物のネタなので(笑)。
 因みに、イギリスではR18指定になっただけあって(ちょっとアレな情報なので、また白文字)、作り物の付けチンポコですけど、ブラ〜ン状態もフル勃起状態もガン見えでした(笑)。

 そんなこんなで、とにかくアモラルで鬱々な、極めて露悪趣味的な映画なので、例えホラー好きの方でも、流石にこれはキツいというのはあるかも知れません。
 でも、氏賀Y太先生や早見純先生のマンガが好きな方だったら、一見の価値はありかと。

《追記》『セルビアン・フィルム』の邦題で日本公開&ソフト化されました。

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“Grimm Love (Rohtenburg)”

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“Grimm Love” (2006) Martin Weisz
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2006年製作のドイツ映画。原題は”Rohtenburg”。
 ドイツで実際にあったという、双方合意のもとで男が男を食べた人肉食事件を題材にしたホラー映画。……という括りになっているけれど、実際はホラー映画を期待すると肩すかしをくらう系の、わりとマジメな映画でした。

 主人公は一応、犯罪心理学を専攻する女子学生。その女子学生が、かつて起きた、男を食べたいという欲望を持つ男性と、男に食べられたいというゲイの男が、ネットで出会って本当に事に及んだという事件に興味を持ち、それを追跡調査していくという形で、二人の生育史から始まり、その出会い、そしていざ事に及ぶまでを、再現ドラマ的に描いていきます。
 静かに淡々と、しかし緊張感を含んで描かれる再現ドラマ部は、役者さんの演技力もあって実に魅力的。カニバリズム等の描き方も、けっこう踏み込んで描きつつも露悪的ではない。

 ゲイ映画的な要素の方も、なかなかしっかり描かれています。
 被捕食オブセッションにとりつかれている「被害者」は、同性の恋人もいて幸せなのに、その恋人に自分のマゾヒスティックなオブセッションを打ち明けることは出来ず、日常的な幸福とオブセッションの間で引き裂かれて煩悶し、捕食側の「加害者」もまた、真剣に「食べられたい」と思っている男を募集したつもりが、ようやく見つかった相手は、単にSMプレイのつもりだったり。
 そんな「被害者」と「加害者」が、やがて出会い、おずおずと互いの距離を埋めて近付いていき、やがて事に及ぶ様は、一種異様なロマンティシズムというか、奇怪で猟奇的なんだけれども、しかし純愛物語のような雰囲気すら帯びてきたりして、そこいらへんは大いに魅力的で惹きこまれます。
 捕食者を演じるのは、けっこう色々な映画で見かけるトーマス・クレッチマン。私はけっこう好きな男優さん(『ゴッド・ディーバ』の主人公ニコポル、『キング・コング』の船長、『ウォンテッド』の組織を裏切った殺し屋なんかが、個人的には印象深いかな)なんですが、今回も、いわゆる類型的なサイコ野郎ではなく、ナイーブで、ある意味では優しいとも言える、しかしオブセッションに憑かれてカニバリズム殺人鬼となってしまう男を、実に繊細に演じています。
 被捕食者役のThomas Huber(トーマス・ヒューバー?)という役者さんも、捕食者に負けず劣らず内気でナイーブな男性を好演しており、この二人の「魂の共鳴」とでもいう要素がしっかり描かれているので、映画自体のクオリティや、ゲイ映画的な魅力も、グッとアップしている感じ。

 そういうわけで、事件自体を描いたパートは大いに見応えがあって良いんですが、惜しむらくは、そこにオブザーバーとして件の女学生を加えてしまったこと。
 この女学生の視点を介した結果、描かれる「再現ドラマ」は、映画という純然たるフィクションの中で描かれる「事実」ではなく、キャラクターの一人でしかない彼女の、脳内妄想でしかない可能性を含んでしまい、描かれた内容が受け手に迫ってくる力を弱めてしまっている。また、二人の男を描くパートのせっかくの緊張感も、彼女の取材を描いたパートで分断されてしまうのもマイナス。
 更に彼女の存在が、結果として「異常性に対する正常性からのエクスキューズ」としてしか機能していないのも、大いに不満。映画の終盤で彼女は、事件の実際が自分の想像を超えたおぞましいものであることに恐怖し、それを拒絶するんですが、それは正常性からのエクスキューズであると同時に、だったら何故こういうテーマで映画を撮ったのかという、動機自体への疑問点を生んでしまっている。
 その結果この映画は、事件自体を描いたパートは優れているにも関わらず、映画総体としては、単に「猟奇的な世界を好奇心で覗き見した結果、やっぱフツーの人にはついていけないよね、こんな世界」というだけの、何とも浅はかなシロモノへと堕してしまった感があり。
 ここいらへんは見る人によって評価が分かれそうですが、私的には、彼女という観察者の存在が、映画全体に対しては、ほぼ全てにおいてマイナス方向に作用している、よって不要、観察者を配したこと自体が失敗、という印象です。

 ただし、前述したように男性二人のパートに関しては、猟奇的な側面にせよゲイ的な側面にせよ、あるいはある種の猟奇的なロマンティシズムという面にしても、大いに魅力的なので、題材自体に興味がある方なら見て損はないです。ただし、扇情的なホラー味は期待しないように。米盤DVDは字幕なしでしたが、台詞は少なく難易度も低め。
 完全お邪魔虫の女子学生は……見なかったことにしよう(笑)。

 追記。
 さほど直截的な描写はなくとも、題材が題材ですから、それなりにエグいシーンもあります。個人的には(ちょいネタバレなので白文字で)、まだ意識がある状態で、全裸の被害者のペニスから食べようということになり、最初は直接歯で食いちぎろうとするんですが、上手くいかずにナイフで切り落とし……ってなあたりは、色んな意味でけっこうキました(笑)。
 猟奇/責め場系の見所に関しては、ここにちょっとスチルあり。

“Flexing with Monty”

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“Flexing with Monty” (2010) John Albo
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com

 トレヴァー・ゴダード主演、ジョン・アルボ監督による、2010年度作品…なんだけど製作開始は1994年だそうです。しかし、映画が完成する前に、主演男優が亡くなり、そしてプロデューサーも亡くなり……といったトラブルを経て、14年後の2008年にようやく完成、2010年にビデオリリース…ということらしいです。
 主演のトレヴァー・ゴダードは、『モータル・コンバット』(1995)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)などの脇に出ていたらしい、B級(多分)肉体派男優。

 主人公のモンティ(トレヴァー・ゴダード)は、身体を鍛えることに取り憑かれている30過ぎの男で、まだ10代の弟と二人暮らし。両親は子供の頃に亡くなり、兄が筋肉に取り憑かれているのと同様、弟は母親とセックスと宗教のオブセッションに憑かれている。そこに謎の尼僧が現れて、二人の関係に変化が……というのが、話の大筋なんですが……。
 実際の内容は、いかにヘンな物を見せ、キテレツな話にするか……という、トラッシュな味わいを最初から狙った感じのもので、よく言えばジョン・ウォーターズ風の味わいで、そこにジェームズ・ビッドグッド的なゲイ・テイストのキャムプ感が加味された、という感じでしょうか。
 というわけで主人公のモンティ君は、「モンティ〜!」と叫びながら、ひたすらトレーニングしていて、その合間に、自分のポージング写真を壁に投影しながら、ケツ丸出しでダッチワイフと交尾するとか、レザールックのハスラーになってホモ狩りするとか、カウボーイルックで熊の剥製と交尾するとか、もうトラッシュ一直線(笑)。
 一方の弟の方も、「珍獣」と称して鳥カゴに入った変な男を飼っていたり、セックスと宗教がゴチャマゼになった淫夢だか悪夢だかを見たりで、まあ似たり寄ったりの変態キャラ(笑)。
 そこに聖書おちょくりネタとか、オカルトや黒魔術やホラー風味なんてのが絡んでくるんですけど、これまた死んだ後にアストラル・ボディがペニスに留まって、勃起したそこがパンツ越しに動き回り、それを「成仏しろ!」と銃で撃ったり、キッチュなボディ・ペイントで黒ミサまがいのことをしながら、バスタブで死体をバラバラに切り刻んだり……と、こちらもひたすらトラッシュ一直線(笑)。

 というわけで、IMDbの評価は驚異の3.2点、amazonのユーザーレビューも星一つという具合なんですが(笑)、とりあえず、モンティことトレヴァー・ゴダードが見事なビーフケーキで、弟役もそこそこ美青年&キレイな身体だったりするので、トラッシュやヘンなもの好きのゲイだったら、けっこう楽しめるのではないかと思います。
 DVDが字幕なしで、ヒアリングオンリーの鑑賞だったもんで、ぶっちゃけ30%くらいしか内容を理解できなかったんですけど(笑)、それでもさして退屈もせず、早送りもしないで最後まで見られました(笑)。

“Boystown (Chuecatown)”

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“Boystown” (2007) Juan Flahn
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com英盤DVDあり)

 2007年製作のスペイン産クマ系ゲイ映画。原題”Chuecatown”。
 マドリッドのゲイエリアを舞台に、連続殺人に巻き込まれたクマ系カップルを描いたコメディ・スリラー。2008年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも上映されたらしいです。

 イケてるオシャレ系ゲイの不動産屋は、実は独り暮らしの老婦人を殺害しては、空いた部屋をオシャレなゲイカップルに斡旋していた。その目的はゲイエリアを丸ごとオシャレにすること。そして主人公たちは、同エリアに住む、オシャレじゃない肉体労働&クマ系ゲイカップル。
 楽しく暮らしていた二人だが、仲良くしていた隣の老婦人が殺されてしまい、しかも老婦人が遺言で住まいをベアカブ(小熊、ベア系カップルの若い方)のレイに遺していたために、容疑者となってしまう。レイはそこに自分の母親を住まわせようとするが、パートナーのレオと母親の折り合いが悪い。
 一方イケメン不動産屋(ヴィクター)は、レイのものとなった部屋をまだ狙っていて、今度は色仕掛けでレオに近付く。レオは普段からモテ系のレイにヤキモキしており、しかも今度はレイの母親にも邪魔されるようになり、二人の仲がギクシャクしてきたこともあって、ついヴィクターになびいてしまう。
 ヴィクターは別の部屋を狙って、レイとレオの友人女性も手に掛けてしまう。レイの母親も犯人はレオだと勘違い。殺人事件を担当するのは、シングルマザーの女警視と、その部下で警視の息子で、しかも実はゲイの刑事。果たして彼らは殺人鬼を捕まえられるのか? そしてレイ&レオ二人の仲はどうなる??

 ……ってな、サスペンス・コメディ仕立ての映画で、なかなか楽しめました。テンポも悪くなく、コメディなんで早口なセリフが多く、英語字幕についていくのが大変だったりもしましたが(笑)、それでもダレたり飽きたりすることなく、スイスイ快調に見られます。
 笑いのタイプはさほど狂騒的でもないクスクス系。ゲイネタはもちろん、嫁姑劇のゲイ版とか、エロティック・サスペンスのヒロインをゴツい男に置き換えたホモ版みたいな面白さもあり。追われて逃げ込んだ先がゲイサウナとかいった、コテコテのゲイ向けサービス場面もしっかりあり(笑)。
 個人的には、オシャレ系ゲイとオシャレじゃない系ゲイの、感覚のすれ違いがけっこうツボでした(笑)。特に、オシャレ系ゲイ、ヴィクターのスノッブさは、実に「いるいる、こんなヤツ!」って感じ(笑)。で、対するオシャレじゃない系ゲイカップルのレオとレイは、実はアメコミおたくだったりして、ボールペン使ってウルヴァリンごっこしてたり、警察の取調室でもアメコミクイズに興じていたりで、これまた「判る判る!」って感じ(笑)。
 そんな組み合わせなもんだから、ヴィクターのステータスを匂わせた会話が、レオとレイに全く通じず、「あの有名な建築家のフォスター氏が」「……ジョディ・フォスター?」「違う、ノーマン」「……『サイコ』の?」なんてやり取りになっちゃうあたりは、かなり笑えました(笑)。
 役者も佳良。特にベアカブのレイは、実にかわいくて上玉。絵に描いたようなベア系のレオもマル、かなりビッチなレイの母親のキャラも楽しい。他にも、事件を担当する××恐怖症まみれの中年女刑事とか、その息子で実は隠れホモで、ストーリーの進行と共にどんどん服装とかゲイゲイしくなってっちゃう青年刑事とか、濃ゆ〜いキャラばっかりで笑わせてくれます。

 というわけで、ユーモア・ミステリーとしてのストーリーを軸にして、ゲイ向けのネタをふんだんに散りばめながら、同時にゲイ・カルチャーに対する風刺もチクチク仕込まれた、軽く楽しく見られる一本でした。全体的にゲイ映画的な閉塞感がなく、安っぽさを感じさせないのも良し。予告編で「お!」と思った方ならオススメです。
 ……ま、個人的にはとにかく、ベアカブのレイがか〜わいいんだわぁ(笑)。

“Do Começo ao Fim (From Beginning to End)”

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“Do Começo ao Fim” (2009) Aluisio Abranches
(ブラジル版Blu-rayで鑑賞/米盤DVD英盤DVDあり)

 2009年製作のブラジル映画。英題”From Beginning to End”。監督/脚本、Aluisio Abranches(アルイジオ・アブランシェス?)。
 子供の頃から仲の良かった兄と弟が、互いに抱く深い愛情はそのままに、やがて成人して同性愛関係になるという話を、叙情的に描いた作品。

 フランシスコとトマシュの兄弟は、幼い頃から大の仲良し。弟のトマシュは兄のフランシスコをヒーローのように慕い、兄は弟を親の様に庇護する関係。優しい母親や彼女の再婚相手である義父、そして実の父親といった周囲の大人たちは、二人の関係が余りにも密接すぎることに、時に微かな不安を感じたりもするが、それでも兄弟を暖かく見守る。
 やがて時は流れ、二人は立派な青年へと成長したが、母親が亡くなる。義父は、このまま愛する妻の想い出が詰まった家で暮らすのは辛いと、二人を残して家を出る。二人きりになった兄弟は、まるで来るべき時が来たかのように、ごく自然に互いの愛を確認し、肉体関係を結ぶ。
 愛し合う二人は幸せに暮らすが、そんなある日、水泳選手であるトマシュに、オリンピック出場に向けてロシアでの強化合宿の話が持ち上がる。躊躇う弟に、フランシスコは是非行くべきだと薦める。しかしそれは、今まで片時も離れたことのない二人が、3年間離ればなれになることを意味していた……という話。

 意外だったのは、兄弟という近親間での同性愛という題材を扱いながらも、そこにタブー的な要素がいっさいなく、どちらかというと、「運命的な愛」をひたすらリリカルに描いた、お伽噺のような作品だった……ということ。何と言うか、ここまで障害も波乱もないラブストーリーってのも、ちょっと珍しいような気がします。
 いちおう後半は、ブラジルとロシア、離ればなれになった兄弟の間に、会えないゆえのギクシャクが生じたりはするんですが、それでもまあ、いわば遠距離恋愛にはありがちな話というだけでしかない。加えて、周囲の人間も全員善人ばかりなので、ドロドロもしなければ痛い展開もなし。
 で、この映画、おそらくテーマは2つあって、まずは前述した様な、最初から定められ最後まで変わることのない、運命的な愛の絆。そしてもう一つは、自分の愛と自分の進む道は、自分の意志で貫き通す素晴らしさ。ここいらへんは、生後間もない弟が自分の意志で目を開けるなんていう伏線が、上手く機能しています。
 そんなこんなで、とても純粋というか、真っ直ぐで清々しく好感は持てるし、雰囲気も良いし役者さんも好演してるんですが、いかんせんドラマの弱さはカバーしきれない感じ。そのせいで、どうも全体がフワフワとした絵空事のように見えてしまい、それが逆に、テーマ自体を薄っぺらく見せてしまうのが惜しい。

 ただし、ロマンティック&ホモエロティックな、ピュアで美しい叙情詩だと割り切って見れば、見所はいたるところにあります。
 前半は可愛い子供たちが仲良くスクスクと育っていく様子を、後半は恋人同士になった二人のキャッキャウフフを、きれいな映像とロマンティックな音楽にのせて延々と見せてくれます。現実の苦みとは無縁の、ひたすらスウィートなゲイのファンタジー世界。
 特に後半は、美麗画像による清々しい青年二人のフルヌードがふんだんに出てきますし、キスやらセックスやらスカイプセックスやら、イメージの中で二人が全裸でタンゴを踊ったりとか、ゲイエロス的な目の御馳走がタップリ。ロマンティック方面も、ハーレクインかトレンディドラマかといった、こっ恥ずかしいくらいのベタ展開がタップリ。
 ただ、私のテイストから言うと、やはりもうちょい人間ドラマとしての深みが欲しい。ぶっちゃけ前半の子供時代は、映画としてもかなり引き込まれて、「お、これは!」と期待も高まる。二人の子役は実に良いし、母親役の女優さんは魅力的、他の大人たちも全員いい感じ。
 その反動もあって尚更、後半の大人になってからの展開が、ドラマ的には失速して映画的な見応えも薄れてしまい、見所はゲイの願望投影イメージビデオみたいな部分だけ……なんて印象になっちゃった感もあり。
 しかし高校時代の私……もう30年前だ(笑)……だったら、映画に男同士のキスが出てきたり、ましてやフルヌードやらゲイセックスなんてのが出てきた日にゃ、心臓が口から飛び出すくらいドキドキしたもんだけど、それが今じゃ「見所そこだけ!」なんて文句たれてるんだから、まったく良い時代になったというか、我ながら贅沢言ってんなぁ……という気も(笑)。

 そんなこんなで、題材が興味深く映像や音楽も良いだけに、ついつい「惜しい!」気分が勝ってしまいますが、期待するポイントを間違えなければ、ゲイが見てロマンティックでセクシーな気分になれる要素はテンコモリだし、同性愛に対するポジティブさという点では、この映画では既に、アイデンティティとしてのゲイという要素すら必要としていないのは、ある意味天晴れでもあります。米アマゾンのレビューも、絶賛の嵐。
 ……でもやっぱ私は、もうちょい「切なさ」みたいなスパイスが欲しい(笑)。

 余談。
 元々この映画、YouTubeで予告編を見て、「これは見たい!」とツイッターで呟いたところ、私をフォローしてくださっているブラジル人のファンの方が、「こっちでソフトが出たら、良かったら送りましょうか?」と言ってくださり、それで目出度くBlu-rayを入手できたといういきさつがあります。
 もちろん送っていただいた後は、折り返し御礼をお送りしましたが、なにせ地球の反対側、ツイッターを通じてこういうことが起きちゃうあたり、なんとも感慨深いものがありました。この場を借りて、同氏に再度御礼を……って、日本語で書いても判らないか。
Thanks again for your kindness, Mr. Metal Gear Red! 😉

“Eyes Wide Open (עיניים פקוחות / Einayim Petukhoth)”

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“Eyes Wide Open” (2009) Haim Tabakman
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com英盤DVDあり)

 2009年製作のイスラエル映画。原題” (עיניים פקוחות / Einayim Petukhoth)”。監督はHaim Tabakman(ハイム・タバクマン?)。
 エルサレムの超正統派ユダヤ教徒のコミュニティを舞台に、既婚男性と青年の同性愛関係を描いた作品。

 主人公のアーロンは、エルサレムの超正統派ユダヤ教徒のコミュニティ内で肉屋を営む、妻子持ちの男。父親を亡くしたショックで暫く店を閉めていたが、ある日意を決して店を開け、求人の貼り紙をしたところ、余所から来た若いイェシーバー(ユダヤ教の神学校)の学生が、電話を借りたいと立ち寄る。
 その若者エズリは、友人を訪ねてエルサレムに来たのだが、その友人とコンタクトをとれない。宿と職が必要なエズリを、アーロンは雇って店の二階に住まわせ、職を与えると共に、落ち着き先の新たなイェシーバーが見つかるまで、自分がメンター(導き手)として面倒を見ることにする。
 エズリはアーロンの家庭やシナゴーグにも招かれ、次第にコミュニティに溶け込んでいくが、その一方で二人は互いに惹かれていき、やがて一線を超えて肉体関係を持つ。そんな中、エズリに関する悪い噂がコミュニティ内に流れ、やがて壁に告発文が貼られ、二人の関係が明るみに出るのだが……といった内容。

 これは大いに見応えあり。
 超正統派ユダヤ教徒のコミュニティ内の、しかも神学生とその教父の同性愛関係という、ある意味スキャンダラスな内容を、センセーショナリズムに堕すことなく、抑制された淡々とした演出でしっかりと描き、その映像の美麗さも相まって、ゲイ映画云々を超えたレベルの、アーティスティックな風格も備わっています。
 同性愛の捉え方に関しては、これはシチュエーション的に当然のごとくタブー的な存在ではあるんですが、制作者の視点がそれをタブー視しているわけではなく、また、安直なメロドラマの道具として使っているわけでもないので、いわゆる「禁断の愛のドラマ」的なものを見せられたときのような、制作側の傲慢な視点ゆえの不快感はゼロ。
 奔放な年少者と、軋轢も多い年長者という具合に、キャラクター自体の抱いている同性愛観に幅があるのも、ストーリーに膨らみを持たせているし、コミュニティによって阻害される若い男女の自由恋愛というサイドエピソードや、アーロンの家族関係といったドラマも、ストーリー全体の幅を拡げるのに貢献している。
 もう一つ、愛や人生と、信仰という二つの間の揺れや、それらに関する問いかけなども、ストーリー的なテーマの一つだと思うんですが、こちらは残念ながら私の英語力不足と、ユダヤ教に関する基本的な知識不足もあって、かなりアレコレ拾い損ねた要素が多々ある感じ。
 全体のムードは極めて静かで、特に映像的に斬新さを感じるタイプの作品ではありませんが、その静かなトーンと寒色系の落ち着いた映像が実に印象的。

 役者さんは、まず年長のアーロンを演じているZohar Shtrauss(ゾハール・シュトラウス、日本公開作では『レバノン』に出演)が見事。魅力的な異邦人によって、今までとは異なる自分に目覚めていき、それが人生そのものにも影響していくという、いわば『テオレマ』タイプのストーリーなんですが、そういった感情の揺れ動きを、抑えた演技で実に説得力豊かに演じてていて、その抑制ゆえに瞬間迸る激情が尚更効果的に。
 立ち位置的には「誘惑者」となる、年少のエズリを演じるRan Danker(ラン・ダンカー?)も、いわゆる耽美系の誘惑者のような退廃味ではなく、ある意味無邪気とも言える真っ直ぐな好青年を好演。超正統派ユダヤ教徒なので、髪形や服装などが一般的な視点から見れば奇異なものであるにも関わらず、男性として完成された立派な肉体と、どこか少年の気配を残したナイーブさのあるハンサムぶりが、実に魅力的。

 ゲイ映画としても、そういったジャンルフィクション的な限定抜きの一般的な映画としても、どちらも大いに見応えがあり、クオリティも高く、静謐な力強さが感じられる作品。
 結末が観客に解釈を委ねるタイプなので、ストーリー的なオチを求める人には向かないかもしれませんが、モチーフに興味のある方はもちろん、単館系の映画好きならオススメできる一本だと思います。

 この予告編は、映画自体の印象よりもかなり扇情的な感じなので、御参考までに本編からのクリップも貼っておきます。
 こんな感じで、全体の雰囲気は実に静か。

『デッドロック2』+”Undisputed III: Redemption”

デッドロックII [DVD] 『デッドロック2』(2006)アイザック・フロレンティーン
“Undisputed II: Last Man Standing” (2006) Isaac Florentine

 プリズン・ファイトもの。
 ウォルター・ヒル監督の2002年作『デッドロック』の続編だそうですが、そちらは未見。500円DVDで出ているようなので買っちゃってもいいような気はするんですが、どうもウェズリー・スナイプス主演ってのが食指が動かなくて(笑)。

 ストーリーは、マフィアが支配するロシアの刑務所で、囚人同士の格闘技賭博が行われていたが、連戦連勝の囚人チャンプのため儲けが下降線。そこでCM撮影に来ていたアメリカ人の元ボクシングヘビー級チャンプを罠にかけて服役させ、囚人チャンプと対戦させようとするのだが……といったもので、このアメリカ人ボクサーが前作に出てきたキャラ(但し俳優は違う)そうです。
 まあ、特に新味はないですが、ジャンルものの娯楽作品としては手堅い造りで、なかなか楽しめる佳品。
 女っ気は潔いほどゼロ。ひたすら野郎ども、それも強面だったりガラが悪かったりむさ苦しかったりという面々が、いがみ合ったり友情を育んだりプライドを競い合ったり……という、男臭〜い世界。
 ストーリーと共にヒーローがちゃんと成長したり、敵役のロシア人チャンプが魅力的だったりするのもマル。主人公の同房の囚人や、謎めいた老人、マフィアのボスとかいった脇キャラも、しっかり立っていて、人間味や意外性といったお約束を上手く使いこなしている印象。
 結果、ドラマにも感情移入しやすいし、細かなエピソードのさばき方も佳良なので、例えお約束のストーリーであっても、最後まで飽きずに見られます。で、そのラストなんか、ちょっとハートウォーミングだったりして、後味が良いのも全体の印象をアップさせていたり。
 格闘技のシーンも、なかなかの迫力。肉体美も堪能できるので、格闘技映画好きやマッチョの裸好き(笑)なら、手堅く楽しめるのではないかと。
 ただ、監獄ものなので、懲罰シーンとか責め場も幾つかあるんだけれど、着衣だったりヘンタイ性がなかったりと、SM目線で楽しめる要素はないのが残念(笑)。

Blu-ray_undisputed3 “Undisputed III: Redemption” (2010) Isaac Florentine

 で、こちらはその続編。
 主人公は、『2』で魅力的だったライバルのロシア人囚人チャンプで、キャラクターも役者も続投。監督とロシアン・マフィアのボスも『2』と同じ。

 今回の舞台は、グルジアの刑務所。主人公はマフィアのボスに連れられ、クロアチア、北朝鮮、コロンビア等々、世界の刑務所から集められたスゴ腕の囚人ファイターたちが、勝者の座=自由の身を駆けて戦う、プリズン・ファイトの世界大会(笑)に出場することになる。
 そこで主人公は、『2』でライバルだったアメリカ人黒人ボクサーを思い出させる男と出会い、何かと衝突しつつ、昼は採掘場で強制労働をさせられ、1日に1時間だけ許されるトレーニング時間を使いながら、トーナメント戦に臨むことになるのだが、実はこの大会には恐ろしく無情な裏があり……といった内容。

 前作同様、この『3』もウェルメイドな仕上がりで、ストーリーの旨味自体は『2』よりは薄めになっているものの、それでも押さえる所はきっちり押さえた、気持ち良く予定調和を楽しませてくれる、軽い娯楽作として手堅い出来映え。
 もちろん今度も、女っ気の欠片もない男ばかりのムッサい世界で、迫力のある格闘シーン&男泣き系のストーリーが繰り広げられます。
 まあ、私にとってこのテの映画は、半分はノンケさんにとってのグラビアアイドルのイメージビデオみたいなもんですから、カワイコチャン(一般的には「人相の悪いマッチョ」と言いますがw)のヌード(とはいえ格闘技の試合ですけどw)だけでも充分に楽しいんですが、実際その試合のアクション描写もけっこう上手。
 何がどうなっているのか、肉体の動きがしっかり判る撮り方で、その上で撮影スピードの変化やカメラアングル等で迫力を出し、ヘンにトゥー・マッチだったりすることもなく、目がチカチカする効果で誤魔化すこともなし。しかも、この『3』は米盤Blu-rayで鑑賞したので、肌ツヤなど肉体美の魅力も倍増といった感じ(笑)。
 キャラ描写やエピソードのさばき方などの手堅さも、前作と同じ。まあ、テンプレと言えばそうなんですけど、上手い具合にノセてくれるので、1時間半というコンパクトな尺できっちり楽しませてくれて、後味もスッキリ。

 まあ、SM目線的に楽しめる責め場がないという残念ポイント(笑)も前作と同じなんですが、今回は、鎖に繋がれての強制労働とか、屈強な野郎どもが反抗の手段を封じられ、しかも騙されて非情な運命を辿る(前作にはなかった「殺される」という要素がある)という、個人的な萌えツボや、プロット自体のSM味が濃くなっているので、そういう点は『2』よりこの『3』のほうが、偏愛ポイントは高かったりします(笑)。

“King” (2002) 〜インド/タミル映画・ヴィクラム主演

 先日ここで書いたヴィクラム祭り(笑)に、追加1本。
 これで16本目(笑)。我ながらほんとビョーキかも(笑)。

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“King” (2002) Prabu Solomon
(☆☆☆☆)
 難病を軸に家族の絆や幸福を描いたヒューマンもの。

 主人公は香港で生まれ育ったインド人マジシャンの青年。
 母は産褥で亡くなてっいて、これまで父親に男手1つで育てられてきた。ある日、2人は一緒に自動車事故を起こしてしまい、幸い怪我そのものは軽かったものの、輸血時に父親が難病(多発性硬化症)にかかっていることが判明する。
 医師はそのことを本人には伏せ、息子に「お父さんの余命は2ヶ月なので、その間、出来るだけ彼を幸せに過ごさせてやってくれ、それが出来るのは1人息子の君だけだ」と告げる。
 主人公はその言に従い、父を25年ぶり故郷のインドへ連れて行き、音信を立っていた祖父たちと再会させることにする。すると実は、父は名家の長男でありながら、身よりのない娘と恋に落ちてしまい、祖父に結婚を反対されたのに逆らって、家を飛び出し、以来25年間連絡を絶っていたのだということを知る。
 父の兄弟姉妹は温かく出迎えるが、祖父は父のことを許そうとはしない。主人公は、祖父と父を仲直りさせようと奔走ししながら、同時に今まで自分が全く知らなかった大家族の暖かも味わい、更にこの家の使用人の娘にも恋心を抱く。
 やがて主人公の努力の甲斐あって、祖父と父は無事に和解し、過去以上に篤い絆で結ばれるようになる。そんな父を更に幸福にするため、主人公は自分と例の使用人の娘が結婚する姿を、父親に見せられればと願うのだが、肝心の彼女の気持ちは分からない。
 果たして主人公は、タイムリミットまでに彼女の心を射止めて、父親に自分の結婚式を見せることができるのか?
 ……と思わせておいて、ここで驚きの展開が!
 何と、主人公の知らないところで、例の医者は父親にも「君の息子はあと二ヶ月の命だ、彼のためにも、残る人生で彼が今まで知ることができなかった、祖父や叔父叔母、従兄たちとの温かい絆を、彼に与えてあげなさい」と告げていたのだ!
 …というところでインターミッション、後半に続く!

 いや〜、これはすっかり1本とられました。
 話がキレイにひっくり返ってからの後半は、もう、果たして父と息子と、どっちが本当の難病にかかっているのか? それとも両方とも嘘で、真の目的は何か別に? で、そこいらへんが明かされた後は、今度は、恋の行方は? 結末はどうなっちゃうの? …ってな具合で、話の先行きが気になる気になるw
 構成も脚本も、実に巧みです。
 前半部はコテコテのお涙頂戴モノのように見せかけておいて、実はそういったクリシェの中に、巧妙にミスリードが混入しているので、しっかり騙されてしまう。
 例えば前半部で何度か見られるシーンに、ふとした拍子に父親がフラッとなって、グラスが砕ける映像のインサートカットが入るんですが、最初の医師の説明で「細胞が次第に破壊され云々」なんてのがあることもあって、まあフツーに父親の病状が悪化していく表現だと思って見るわけですよ。かなりベタだけど、そういうコテコテさはインド映画にはありがちだし(笑)。
 ところが前半部最後になって、これは実はそういったメタファーやモンタージュではなく、息子が難病で残り少ない命だと、初めて医者から聞かされた時に、父親がショックでグラスを取り落として割ってしまったという、そのフラッシュバックだったと判るわけです。
 いや〜、ホント「1本とられた!」って感じ(笑)。

 息子が父を、父が息子を案じ、祖父と息子が和解し、初めて対面した祖父と孫の間に絆が育まれ…といった、泣かせどころと、無邪気だったりマセていたるする子供たちや、陽気なマジシャンという主人公のキャラを使った、笑わせどころやほのぼの場面の、対比や配分もお見事。
 泣きと笑いが、上手い具合に互いに引き立てあっていて、しかも笑いのシーンがちょっとした仕掛けで、瞬時に泣き場面に転化したりするので、これはかなり感情を揺さぶられる。
 また、古風なインド映画にはつきものの、コントめいたお笑い場面も、当然のように入ってくるんですが、そのお笑い担当のキャラを、同時に、唯一この難病にまつわる秘密を知る人物にしているのも上手い。結果、コミック・リリーフでありながら、同時に泣かせどころも締めてくれる。
 更にこのキャラは、皆から馬鹿にされている「口だけ映画監督志望の従兄弟」という設定なんですな。そんな彼が、主人公と秘密を共有して、彼が今書いている映画のシナリオに托しながら、主人公と共に様々なことを語りあうわけですが、それがそのまま、この映画自体の内容を語ることにもなるという、メタフィクション的な仕掛けまである。

 役者も、相変わらず芸達者なヴィクラムを筆頭に、父親や祖父といったメインのキャラはもちろん、ほのぼの担当の子供たちや、さほど出番が多くない叔父叔母などに至るまで、皆さん、ストーリー上の立ち位置を的確に抑えた配役で、もう文句なし。
 どんでん返しの驚きはあっても、奇をてらった感や無理やり感はなく、伏線もキレイに回収される。ジャンルはヒューマン感動物だけれど、人死にを使って泣かせようとする類ではないのも良し。
 結末も上手く、予定調和的に悲劇へ持っていって泣かせるでもなく、また強引にハッピーエンドにするわけでもない。ストーリー的には余白を残して、最終的な結末は観客個々の思いに委ね、それでしっかり感動させてくれる。ベタな感動じゃなくて、どちらかというと考えさせられる、感慨深いといった感じの感動ですけどね。

 そんなこんなで、難病を使った安直なお涙頂戴ものとは、ハッキリと一線を画す出来映え。
 インド映画につきもののミュージカル・シーンには、さほど特筆すべきものはない(てるてる坊主みたいな変わった衣装が「???」とか、音楽にモロパクがあってビックリとかはありましたがw)けれど、インド映画のウェルメイドな1本としては、もう文句なし!
 いやぁ面白かった!
【オマケ1】(笑)
【オマケ2】(笑)
【オマケ3】(笑)

2010年下半期に見たインド映画、ヴィクラム出演作以外

 2010年下半期に見たインド映画を、先日アップしたヴィクラム出演作以外、ヒンディ、タミル、テルグ、マラヤラム取り混ぜて、一挙19本連続レビュー!
 ……って、そんなニーズ、どこにもないとは思うんだけど、ま、備忘録も兼用ということで(笑)。
 例によって並び順は「見た順番」、☆の数は「独断と偏見」でゴザイマス(笑)。

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“Khamoshi: The Musical” (1996) Sanjay Leela Bhansali
(☆☆☆)
 ヒンディ映画。
 ヒューマン感動もの。
 大好きなサンジャイ・リーラ・バンサーリ監督の処女作、ようやく見られた。斬新な視点、的確な演出、個性的なイメージ…と、処女監督作にして既に才気が横溢。
 聾唖の両親と歌が好きな祖母に育てられた少女が歌手を夢見るインド映画。米盤DVDだけど嬉しいことに日本語字幕付き。
 ボリウッド映画のテンプレから脱しきれていない部分はあるけれど、個々の描写が丁寧でありがちな大味感がないし、お涙頂戴ではなくきちんと感動させてくれるあたりは流石。
 テーマ的には同監督が後に撮った、ヘレン・ケラーの物語を大胆に翻案したノン・ミュージカル作品「BLACK」と同じなので、比較して考えてみると色々と面白い。新作“Guzaarish”もチョ〜楽しみ…なんだが、いったいいつ見られることやらw
 映画の本質とはちょっとズレますが、ミュージカル・シーンに、フェリーニの影響を感じさせる部分があったのが、ちょっと面白かった。
 ”Khamoshi: The Musical”には、こういったヨーロッパ趣味的な要素がちらほら見られるんですが、以降のバンサーリ監督の諸作からは、そういった要素は全くといっていいほど姿を消しているのが興味深い。
 そんなあたりからも、いかにも処女監督作らしい初々しさが感じられます。

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“Yamadonga” (2007) S. S. Rajamouli
(☆☆)
 テルグ映画。
 コソ泥と閻魔大王の駆け引きを描いた、奇想天外ファンタジー。
 良家の少女でありながら親戚に家を乗っ取られて下女扱いされている可哀想な娘と、その娘が少女時代に恋に落ちた相手であるチンケなコソ泥が再会するが、閻魔様の悪口を言ったコソ泥は地獄へ召還されてしまい、そこで閻魔様の神具を盗んで自分が閻魔様になり…う〜ん、説明が超ムズいストーリーw
 まあ要するに、コソ泥と閻魔様の駆け引きという民間伝承と、「小公女」みたいな話を足して、そこに歌と踊りとド派手なアクションを混ぜ込み、泥臭いベタベタのコメディ演技と、ペッカペカでチープな特撮でコーティングしたみたいな映画です。そのゴッタ煮感が、何ともまあインド的w
 ビックリするのは、この「Yamadonga」、先日見て大感銘を受けた「Magadheera」と同じ監督(S・S・ラジャムーリ)で、しかも前者が2007年、後者が2009年の作品であるにも関わらず、まるで80年代と2000年代の作品のように、内容的に開きがあるということ。
 ぶっちゃけ「Yamadonga」は、クリシェを強引に繋いでいくだけの、パワフルだがディテールがない作劇、やたらめったら挿入される泥臭いコメディ演技、トゥー・マッチなバイオレンス、インド映画以外ではあり得ないような展開…といった具合で、インド映画好き以外には全く薦められない感じ。
 というわけで、面白いことは面白いんだけど、それは一般的な映画の観点から言うと、一種のキワモノ的な面白さであって、インド映画の特殊性を越境するような要素は皆無なので、「Magadheera」のような「映画好きなら見て損はなし!」といった作品とは、質的に全く異なります。
 というわけで、伝統芸的なインド映画が好きな方とか、インド映画をあくまでもネタとしてのみ見る方には、大いにオススメ。
 ただ個人的には、最近のインド映画の面白さ、様式や特殊性で閉塞するのではなく、そこから越境しようとする意欲の面白さに欠けるので、そこが私としては物足りない。
 でもまあ、物足りないとは言いつつも、他国の映画では「ありえね〜!」面白さはタップリだし、あまりのカオスっぷりにいささか疲れながらも、ラストに伏線が回収されて民話的な多幸感が訪れるあたりは、けっこう感動もしちゃったんですけどね ^^;
“Yamadonga”、TVスポット(?)。使われている劇中歌ともども民話的色彩が濃く、ここいらげんの要素はけっこうお気に入りです。
http://www.youtube.com/watch?v=b-0zIH8Jlio

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『ケーララの獅子』(2009)ハリハラン
“Kerala Varma Pazhassiraja (Pazhassi Raja)” (2009) T. Hariharan
(☆☆☆☆)
 マラヤラム映画。
 イギリス支配に対して立ち上がった南インドの英雄と、その仲間たちの戦いを描いた、本格エピック史劇。
 日本でも2010年に、福岡国際映画祭で上映があったそうです。
 17世紀、イギリス支配下の南インド・ケーララ州で、自由を求めて立ち上がった反乱軍の話。増税に反対する王子パザッシラジャは、イギリス軍(東インド会社)によって居城を奪われるが、ジャングルに隠れてゲリラ軍を組織し、そこに他の豪族たちが集結していき…といった内容。
 かなりの力作かつ大作で、大いに見応えあり。主人公の王子を中心に、その側近など複数の人物を配置し、人間ドラマと戦闘スペクタクルを織り交ぜながら見せていくという正攻法の史劇で、実に堂々たる味わい。
 音楽シーンも自然に処理され、ストーリーの腰を折ったりしない。
 ただ、映画としては一つ大きなクセがあって、それは、マラヤラム映画では「恰幅のいいオジサンがカッコイイ」ということになっているのか、台詞のあるメインのインド人男優が皆、恰幅のいい…というか、ぶっちゃけ太ったオジサンたちなのだ。しかも皆ヒゲ面で、おまけに常に半裸。
 主演のマムーティという男優さんは、マラヤラム映画の大スターらしいけど、「視線が粘っこくなった田崎潤」みたいなオジサンで、他も皆、似たり寄ったり。私的には無問題なんだけど、一般的には…ちょっとどうかなぁw 何とゆーか、「300」のサムソン版(ゲイ雑誌ね)みたいな感じなのよw
 そんな、ヒゲ面の太った裸のオジサンたちが、男の生き様を熱く語り、時にワイヤーワークで宙を舞いながら華麗(…でもないと思うけどw)な剣戟を見せてくれます。ホント、みんな似たタイプなので、ロングショットになると、ハイビジョンでも誰が誰だか判らなくなったりw
 とゆーわけで「太目のオトウサン大好き、ヒゲも体毛も大好き」な方には、激スイセンw
 とはいえ前述したように、映画そのものが本格史劇として、実に堂々たる出来映えでなので、男優さんのルックスが気にならなければ、フツーに史劇好きなら見て損はない面白さです。
“Kerala Varma Pazhassiraja”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=XIjdGkTqElY

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“Veer” (2010) Anil Sharma
(☆☆)
 ヒンディ映画。
 18世紀末(19世紀初頭?)、英国と手を組んで地方を支配していた藩主たちと、自由を求めて立ち上がったピンダーリ(映画の中では騎馬系の自由民)の戦いと、ピンダーリの勇者と藩主の姫のロマンスを描いた、エピック・ムービー。
 歴史劇というよりは、あくまでもそういった背景を借用したアクション・アドベンチャー+ロマンス映画といった味わいで、画面のスケール感や重厚感は充分なれど、内容は良くも悪くも気軽に楽しめるといった系統のもの。
 イメージ・ソースの一つに「隊長ブーリバ」を使っているのが興味深い。
 映像技術的には洗練されているんだけれど、ピンダーリの風俗描写が、まんまコサックっぽいとか、騎士道映画さながらの、美姫を賭けての馬上槍試合が出てきてビックリとか、クライマックスの一対一の対決シーンが、モロに「トロイ」を意識しているとか、内容面のゴッタ煮具合が実にインド的。
 先日見た「Magadheera」と比較するとパワーに欠けるし、近年のインド製史劇映画の傑作「Jodhaa Akbar」ほどの風格や完成度もないので、どうしても「そこそこ」どまりの印象に。主演のサルマン・カーンとヒロイン役の女優(初見)に、個人的に魅力を感じられないのも痛かった。
“Veer”、予告編。私はイマイチの印象でしたが、こんな感じで、スペクタクル映像的な見せ場はタップリあります。
http://www.youtube.com/watch?v=DkWrDR48GO8

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“Kadhalil Vizhundhen” (2008) P. V. Prasad
(☆☆☆)
 タミル映画。
 スラム出身の青年が、バイク走行中に風に飛ばされたスカーフが顔に被さり、事故を起こして瀕死の重傷を負う。スカーフの持ち主である裕福な家の少女は、責任を感じて献身的に青年の看病をし、治療費なども全て立て替える。やがて青年は回復し、二人の間には愛が目覚めるのだが…というラブストーリー。
 タイトルの意味は「恋におちて」。
 映画は、青年と車椅子に乗った少女が駆け落ちし、列車で出会った中年男に青年がいきさつを語るという帰納法で始まり、前半部分では、自分の恋情をなかなか打ち明けられない青年の煩悶や、それに少女がいかに応えるかといった、心情面のドラマが細やかに描かれる。
 駆け落ちした二人は、謎の男たちに追われている。二人の仲を裂こうとするこの男たちの正体は何なのか、またなぜ元気だった少女が車椅子に乗るようになってしまったのか…といった謎で引っ張りながら、前半が終わってインターミッション。
 そして後半がスタートするのだが…いやもうビックリ!
 後半スタート早々、謎は次々と明かされて「うわ〜、そういうこと!?」ってな驚愕の展開に。後はもう怒濤の展開。映画のムードもガラリと変わり、さりげない伏線が次々と回収されていき、見ているこっちは「え〜?」「あ〜!」とか驚きつつどんどん引き込まれ、しかも結末が全く読めない面白さに。
 いや〜、すっかり騙されました。いかにもありがちな、間に障害のある若い男女の恋物語かと思っていたら、そういったクリシェを巧みに逆手にとって、見事なまでにストーリーがひっくり返る。前半で「え〜、これはちょっと…まあ、インド映画じゃありがちだけど…」なんて思った要素まで伏線だったとは!
 少し顔立ちに子供っぽいところが残る主人公の青年(そのぶん前半の説得力と、後半の熱演とのギャップによる効果がスゴい)、可愛いヒロイン(めちゃめちゃ美人でもないあたりが、逆に良いのだ)、後半から出てくる警察官(かなり美味しいトコどりでカッコイイ!)、などなど、役者の布陣も完璧。
 そんなこんなで大満足の1本でした! ^^
 もう1つ特筆したいのは、ミュージカル・シーン「Nakka Mukka」の見事さ。
 速いリズムに乗せたアクロバティックなコレオグラフィーで、街中で群衆が踊りまくるのを、縦横無尽のカメラワークで捉えたミュージカル・シーンは、そのエネルギッシュさにひたすら圧倒。
 ただし、惜しむらくはこのシーン、映画のストーリーにはあまり上手く組み込まれておらず、ちょいと全体から浮き気味。
 そういった「雑さ」が所々見られるのと、監督の個性が余り見えてこないあたりが、私的には少しマイナスといった感じ。
“Kadhalil Vizhundhen”から、”Nakka Mukka”
http://www.dailymotion.com/video/x9xk6x_nakka-mukka_music

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“Naan Kadavul” (2009) Bala
(☆☆☆☆)
 タミル映画。
 タイトルの意味は「我は神なり」。
 先日見た「Pithamagan」でブチのめされたバラ監督の新作で、先に見た予告編からしてタダモノじゃない感がプンプンだったんですが、やっぱトンデモナイ映画だった…。
 占星術師の予言に従い、幼い息子をカーシ(ヴァラーナスィ、ベナレス)に捨てた父親が、それから14年後、息子を捜しに再び同地を訪れるが、成長した息子は、自分たちを神と信じ、人々を輪廻転生の苦痛から解放する能力があると信じる、宗教的セクトの苦行者となっていた。
 父親は、息子を母親に会わせるため故郷へ同伴することを望み、宗教セクトの導師も青年に家族との絆を完全に断ち切らせるために同意する。生まれ故郷の村には、山上に四肢が欠損した男を生き神として祀る寺院があり、警察と結託して不具者を集めてはそこで物乞いをさせる組織があった。
 主人公は人間性を完全に喪失しており、自らを神と称し、再会した母親も拒絶して寺院に籠もる。一方、旅の芸人集団が村を訪れ、その一員で盲目の少女歌手が、その美声に目を付けられ、強引に件の物乞い組織の一因にされてしまう。少女は嘆き悲しむが、仲間の乞食達に優しく支えられて立ち直っていく。
 ところが、隣の州の乞食の元締めから、自分たちのエリアで物乞いをさせるために乞食を「輸入」したいという申し出がくる。村の元締めはそれを承諾し、仲間のうちから幼い者だけが連れ去られてしまう。更に、火傷で醜くなった金持ちから、自分の要望を気にしない女が欲しいとの要望がくる。
 盲目の少女はその金持ちに売られることになり、泣きながら村の生き神に助けを乞うが、生き神は「自分は神ではない、例の男こそ唯一お前を救うことができる『人の形をした神』だ」と告げる。
 それを聞いて、少女は自分を連れに来た一味から逃げ、泣きながら主人公にすがるのだが…といった内容。
 内容的には、ベースのフォーマットとしては、不意に現れた超常者が弱者を救うという、ヒーローものと言えなくもないんですが、そこに「神は人を救えるか」「神とは何だ」といった問いが絡み、しかも「この世の醜さ・残酷さ」が、これでもか、これでもかと描かれるので、かなりキツい…。
 そして「フリークス」か「エル・トポ」ばりのキャラクターたちが繰り広げる、パワフルで濃厚な映像に圧倒されつつ、エンディングが…う〜ん、判るんだけど、でもあまりにもカタルシスがムニャムニャ…で、鑑賞後は「ほぇ〜…」という溜め息が。
 いや、良くも悪くもスゴかった…。
 正直、ストーリー的には、かなり破綻しています。
 主人公に人間性が皆無なので、家族との再会といった設定が、有効に機能していない。一方の乞食集団パートは、人間ドラマとして魅力的なんですが、主人公はそこにキャラクターとしての超越性のみで絡むしかないので、話としてはギクシャクしている。
 神と人間というテーマに関しても、かなり観念的というか、概念が先にあって、それに併せて話が組み立てられてるので、そういった思索の面白さがある反面、ドラマ的な面白さやエモーショナルな部分が犠牲になっている。
 私が大感銘を受けた同監督の前作「Pithamagan」と比較すると、正直なところ完成度では劣る感じ。
 ただ、そういった作劇の歪み等は、ひとえに原案・脚本を兼ねる監督の「作家的暴走」の所産なので、そういう意味ではものすごく見応えがあります。見ていてちょっとヘルツォークとか連想しちゃったり。
 聖なる汚穢とでも言いましょうか、そういうのが好きな人なら満足すること間違いなし。
 そんなこんなで、見る人を選ぶ映画だとは思いますけど、個人的な好みとしては、自分のコアな部分を押しまくられた感ありなので、もう大満足。
 予告編見て「何だか面白そう!」と思った人なら、激オススメ。
 更にビックリしたのは、これが本国でヒットしたらしいということ!
 内容的にはどう考えても、好きモノ向けのカルト映画な気がするんだが…インド/タミルの観客、恐るべし ^^;
“Naan Kadavul”、私が「コレは見ねば!」と思った、タダモノじゃない感プンプンの予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=LRZBPvsC0L4

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“Paiyaa” (2010) N. Linguswamy
(☆☆☆☆☆)
 タミル映画。
 青春アクション・ロードムービーといった味わい。
 監督は「Bheema」で感銘を受けたN・リングサミー。
 主人公は大学を出たのに就職できない気のいい青年。そんな彼を案じて、仲間たちが就職活動を手伝ってくれるのだが、彼は道で見かけた女の子に一目惚れしてしまい、そのせいで大事な就職面接もすっぽかしてしまう。
 そんな彼が、ある日友だちを迎えに車で駅まで行くと、白タクの運ちゃんと勘違いされてしまう。車に乗り込んできたのは、例の街で見かけた女の子。意に染まぬ結婚を押しつけられて、車で数日かかるボンベイ(ムンバイ)まで送って欲しいと頼む。
 この運命の悪戯に主人公はウキウキだが、やがて追っ手がかかる。果たして彼は、無事彼女をボンベイまで送り届けられるのか?…ってな話。
「Bheema」でもそうだったように、この「Paiyaa」でも監督のスタイルはリアリズム重視。やたらめったら色々な要素を盛り込んだりせず、ストーリー展開にも強引さがない。伝統的なインド娯楽映画の「過剰さ」とは一線を画した自然な作風で、その作劇や演出の巧みさに目を引かれます。
 ドラマはほぼ全て、バンガロールからボンベイへと向かうドライブ中に描かれ、二人の男女の心理的な距離の変化を繊細に描くパートと、追っ手に見つかりそうになったりやり過ごしたりするハラハラ系、胸の空くかっこいいアクション系などが織り交ぜられて、全く飽きることなし。
 途中で、実は彼女だけではなく、主人公も別の一団に追われている事実が明かされ、ドラマに緩急をつける手腕もお見事。程よくスタイリッシュで、でも煩くはならない演出スタイルも良し。
 特に良いのが主人公のキャラクター。
 原題の意味は「男の子」ということらしいのだが、男気のある好漢ながらシャイで、一目惚れした彼女と一緒にいられて有頂天なんだけど、面と向かって好きだとは言えない。でも、ケンカになると滅法強いし、決める所は決める。男っぽさと青年っぽさのブレンドが絶妙。彼女の方も、次第に彼に頼り惹かれてはいくものの、それでも最後の最後まで、告白して恋人同士になったりはしない。
 そんなこんなで、アクション映画ではあるんだけど、主演二人の関係がじれったいような、でもそこが良いような…といった、青春映画としての味わいあって、何とも爽やかな魅力がある。
 キャストもパーフェクト。童顔でわりと小柄なんだけど、身体は鍛えられているガッチビ君の主人公、美人で気品もあって、一目惚れもむべなるかなというヒロイン、どちらもストーリーにもキャラクターにも実に良くマッチしていて、おかげでなおさら映画に引き込まれるという相乗効果に。
 また、この監督のミュージカル・シーンの扱い方、お約束を踏まえながら、それをいかにストーリーに自然に溶け込ませるか、そしてそこで何をどう見せるかなど、その工夫やデリケートさも、個人的にかなりポイント高し。
 ラストが駆け足気味になってしまったきらいはあるけれど、ウェルメイドな娯楽作品としては文句なしの仕上がりでしょう。
 というわけで「痛快アクション爽やか青春ロマンス」といった味わいの、文句なしに楽しめる逸品でした。
 しかも完成度は、前作「Bheema」を上回っている。このリングサミー監督、これからも要チェックだわ〜 ^^
“Paiyaa”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=8IKbDAzVTpA

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“Madrasapattinam” (2010) A. L. Vijay
(☆☆☆☆)
 タミル映画。
 インド独立時のインド人青年と英国人女性のロマンスを描いた、ヒストリカル・エピック・ロマンス。
 DVD題は”Madrasa Pattinam”と間にスペースあり。
 現代のイギリス、病床の英国人老婦人が、長らく忘れていたインドの首飾り(結婚指輪のような意味を持つ)を見つけ、「自分にはやり残したことがある」とインドのマドラス(現チェンナイ)へと向かい、一枚の古い写真に写った、逞しいインド人青年を捜し出そうとする。
 実は彼女は60年前に、英国統治下にあったマドラスに、提督の娘として赴いたことがあり、その写真も当時彼女が撮影したものだった。写真に写っているのは、貧しい洗濯人のインド人青年。おりしも二次大戦が終わりインド独立の機運が盛り上がる激動の時代の中、二人は恋に落ちていた。
 初めは互いに言葉も通じなかった二人だったが、やがて少しずつ心を通わせるようになり、洗濯物でメッセージを伝えて密会するようになる。しかし彼女には、親が決めた婚約者である英国人将校がいて、その将校はインド人を虫けら程度にしか思っていない。
 将校はゴルフ場建設のために洗濯人のコロニーを潰し、捉えたバガット・シン(インド独立を目指した武闘派のリーダー)の信奉者のテロリストを捕らえゲームのように嬲り殺しにし、更にはヒロインと主人公の恋にも気付いて、二人を引き裂こうとその暴虐度を増していく。
 主人公は、この将校に一度はレスリングの試合で打ち勝ち、そしてヒロインに母の形見の首飾り(これを女性に渡すことは、すなわちプロポーズになる)を渡すが、折しもインド独立の日取りが決定、恋人達はそれぞれインドとイギリスに引き裂かれそうになる。
 ヒロインは何とか親の手から逃れ、主人公と運命を共にしようとするのだが、そこに例の将校の追っ手がかかり…といった1945年のマドラスのドラマと、その合間に老いたヒロインが主人公を捜し求める現代のチェンナイのエピソードが描かれる…といった構成。
 実にオーソドックスというかオーセンティックなヒストリカル・ラブ・ロマンスで、ストーリーやエピソードやキャラクター造形は、定番というか紋切り型の印象はあるものの、全体の雰囲気は上々、作品の佇まいも堂々たるもので、娯楽作品としては上々の出来映え。
 まあ全体の構成やディテールには「タイタニック」の影響が色濃いし、印英の戦いにレスリングを絡めるあたりは「ラガーン」なんかも連想しますが、それでも「どういう次第で二人は別れるのか」「老婦人の目的は何なのか」といった要素で、上手い具合にラストまで興味を持続させてくれます。
 歴史物としては、まあラブロマンスの色添えの域を出てはいないんですが、1945年のマドラスの風景を、CGIも交えて存分に見せてくれるし、ロマンチックな撮影や演出手腕も上々(反面、アクションやスペクタクル演出は、ちょっと冴えない感もありますが)なので、絵巻物的にたっぷり楽しめます。
 主人公、どっかで見たような…と思っていたら「Naan Kadavul」の主演男優(アーリヤ)でした。
 角度によってハンサムにも見えれば怪異な容貌にも見え、土俗的な荒々しさとロマンス向けの二枚目っぽさがブレンドされており、ヒロインが惹かれる相手として実に説得力あり。
 レスリングのシーンを筆頭に、逞しい裸身も惜しみなく披露。特に背中の筋肉がヨロシイわぁw ちょっとしたボンデージや責め場もあり ^^
 ヒロインも清楚な可愛らしさと美しさがあり、ラブロマンスのカップルとして、この二人の組み合わせが上々なのが、成功の一因といった感じです。
“Madrasapattinam”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=fYBAHugEnfE

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“Aayirathil Oruvan” (2010) Selvaraghavan
(☆☆☆)
 タミル映画。
 秘境アドベンチャー映画。
 タイトルの意味は「千人に一人の男」。主演は「Paiyaa」のカルティ。
 13世紀に滅亡した南インド・チョーラ朝の王子が、生き残った民と神像と共に何処かの島に落ち延びたという伝説があり、長い間その場所を突き止めるのがインドの考古学者たちの夢だった。そしてある考古学者が遂にその場所を突き止めるのだが、そのまま行方知れずになってしまう。
 考古学者の娘の元に一人の女が訪れ、父親と遺跡の捜索のため大規模な探検隊を差し向けると語り、娘もそれに同行することにする。探検隊は港で人足たちを雇い(人足頭の陽気な青年が主人公)、ヴェトナム近海に浮かぶ、周辺の住民から悪魔の島と恐れられている謎の島へと向かう。
 人食いクラゲ(?)や人食い土人や蛇の大群に襲われながら、一行は島の奥へと進むのだが、主人公と考古学者の娘と探検隊の指揮をとる女の三人は、他の仲間とはぐれてしまう。やがて3人は目的の遺跡に辿り着くが、実はそこは単なる廃墟ではなく、チョーラ朝の末裔が地下王国を築いていた。
 3人は地下王国に捉えられるが、そこの人々はこの数百年間、いつか自分たちを故国へと連れ帰ってくれる伝説の使者を待っていた。行方不明の考古学者は無事なのか、主人公一行がその伝説の使者なのか、そして明らかになった探検隊の真の目的とは? …ってな内容です。
 いや、驚いた ^^;
 前半は「ハムナプトラ」的な軽〜いノリのファンタジー・アドベンチャーといった感じなんですが、後半はH・R・ハガードばりの本格的な秘境探検+伝奇モノになり、スタート時からは想像もつかない、エピックでトラジックな展開に!
 いや〜ビックリしたw
 見所もタップリ。
 オーソドックスなところでは、人を呑み込む砂地獄とか、日没時に遺跡の影がシヴァ神の形になるとか、まあこりゃ無理があるだろうってな部分も含めてアイデア豊富。
 地下王国に入ってからの、話やセットのスケールの拡がり方は更にスゴくて、生け贄の儀式もあれば闘技場での戦いもあれば大戦闘シーンもあれば、腕は千切れるわ首は飛ぶわのエグいシーンもたっぷり。
 もちろん歌と踊りもあれば、泣きや感動や滅びの美学もあり、しかも3時間かけても話が完結するわけではなく、俺たちの戦いはこれからだ系のエンディングでした ^^;
 とにかく、面白いものは何でもかんでも取り入れる貪欲なところがスゴい。
 例えば、三人が目的の遺跡に辿り着くと、いきなりPOV演出になり、そこでラクダを発見してブチ殺して焼いて食べて、ゴキゲンになったところでミュージカル・シーンになったかと思うと、今度は謎の呪いで一同発狂…ってな具合。
 というわけで、実に堪能。
 多少話が乱暴なところはあれども、根っこのとことは、前述したように秘境探検モノとしてはかなり本格的な味わいがあるし、物量もパワフルに押しまくるし、これだけ楽しめるのはインド映画の醍醐味を満喫した感じ ^^
“Aayirathil Oruvan”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=rFG1Ak49agk

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“Peraanmai” (2009) S. P. Jananathan
(☆☆)
 タミル映画。
 ヒーロー・アクション映画。
 タイトルの意味は「男のプライド」。
 インド南部で画期的な農業用衛星が打ち上げられようとしていた。その近所には士官学校の林間学校があり、そこに35人の女子学生がやってきて、山間少数部族出の教官(主人公)のトレーニングを受けるが、優秀な女子学生5人組グループは彼に反発する。
 女子学生による嫌がらせや周囲の誤解などもありつつ、訓練準備期間は何とか終了、例の5人組が選抜されて、主人公と共に山中でのサバイバル・キャンプへと赴く。しかし女学生の悪ふざけによってジープが転落、主人公と5人の女学生は山奥深くで遭難してしまう。
 一行が山中から脱出しようとしているところに、衛星の打ち上げを阻止しようとする外国の破壊工作員と遭遇。主人公は女子学生たちを人里に返し、自分1人で外国のスパイ行動を阻止しようとするが、5人の女学生は愛国心に燃えてそれを拒否、全員で力を合わせて陰謀を阻もうと決意する…ってな話。
 文武両道のヒーローがマッチョなガイジンに立ち向かい、カッコいい近代火器をドカンドカンぶっ放し、ピチピチのオンナノコたちが全裸(とはいえインド映画なのでカーテン越しとか全身モザイクとかw)や濡れTシャツではしゃいだり、でも武器を構えて活躍もして…ってな、実にオトコノコな内容w
 まあ、ストーリー的には完全にB級アクションだし、衛星の打ち上げとかペッカペカのCGだったりもするんですが、一番好感度の高そうなオンナノコをあっさり殺すとか、仲間を殺されたオンナノコたちが女神カーリーの如く変貌して、集団でガイジン男を嬲り殺したりとかいった部分は、ちょいユニーク。
 あと、主人公が少数部族出ゆえに偏見の目に晒されていて、本当は遭難しているのに、5人のオンナノコをレイプして殺害したと誤解されてしまったりとか、監督さんが左翼系なのか、主人公が労働者の重要性を抗議したり、マルクスの本を読んでいたりとか、ちょいと変わった要素も幾つか。
 歌と踊りとお笑いといったインド映画的なお約束要素も、前半のまったり展開の部分に集中して収め、後半の山間アクション映画になってからは、そういった要素を殆ど入れてこないので、B級アクション映画として割り切って見れば、わりと普通の感覚で楽しめる感じ。
 ただ、かといって良い出来かというと、う〜ん…ってな感じではあるんですけどねw 見て損をしたという感じではないけれど、別に人に勧めるほどでもないというか。
 ただ、愛国心を全面に出しつつ、同時に前述したような共産主義的な部分が見えるのは、ちょっと興味深いかも。
“Peraanmai”から、冒頭の音楽シーン。人食い虎を退治した主人公を讃える素朴な山間民族…の中に、さりげなく監督の共産主義への傾倒を伺わせるカットが。2分13秒あたりを注意してご覧あれ。
http://www.youtube.com/watch?v=eXSExLvm-PQ
【追記】後日、1973年製作のソ連映画『朝やけは静かなれど…』を鑑賞し、この”Peraanmai”は同作にプロット的な部分でかなり多くを負っていることが判明。まんま同じエピソードも登場し、翻案とまではいかないものの、一種のオマージュ的な内容であることは確かのように思われます。

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“Subramaniapuram” (2008) G. Sasikumar
(☆☆☆☆)
 タミル映画。
 若者群像劇。近年、タミル映画のニュー・ウェーブなどと呼ばれているらしい、人工性を廃したリアル志向の作品群の1つで、低予算ながら大ヒットしたものだそうな。
 タイトルは南インドのマドゥライにある地区の名前。
 映画製作と同じ2008年、刑務所から出所した男が何者かに刺され瀕死の重傷をおう。そして時は遡り1980年、マドゥライのスブラマニアプラム地区では、仕事にあぶれた4人の若者が、日々ケンカと酒に明け暮れていた。腕っ節の強い兄貴分と弟分、三の線の使いっ走り、足が不自由な男という組み合わせ。
 4人組は何をするにも一緒で、さらに兄貴分と弟分は地元の政治家の用心棒めいたこともしており、おかげでケンカや泥酔で逮捕されても、すぐにその政治家の秘書が手を回して釈放してくれる。しかも弟分は、秘書の姪っ子と恋愛中。家族からはまともな職につけと責められるが、けっこう楽しくやっていた。
 ところが寺院の祭りの主催を巡って、その政治家に有力な対抗勢力が現れる。いろいろと争った結果、主催はそのライバルの手に渡り、政治家と秘書はそれまでの地位を失ってしまう。4人組が失意に沈む秘書を心配して訪問すると、自分たちが元の地位に戻るには、そのライバルを消すしかないと言う。
 これまで自分たちの面倒を良く見てくれた秘書のために、彼らは男気に駆られて、足の不自由な男を除く3人で暗殺を実行し、兄貴分と弟分の2人が自首する。彼らは、今回も自分たちを釈放するために、秘書たちが動いてくれると思っていたが、彼らは元の地位に返り咲きながらも、何もしてくれなかった。
 自分たちがいいように使い捨てにされたことを知った彼らは、一緒に収監されていたヤクザの親玉の手助けで出所した後、秘書に復讐を誓う。秘書の姪は、弟分に足を洗って更正してくれと頼むが、彼はそれを聞こうとはしない。
 そんな中、ム所で良くしてくれた例の親玉が出所する。世話になったお礼に行くと、親分は浮かない顔をしている。理由を聞くと、彼の妹が義弟に殺されながらも、その義弟はのうのうと生き延びているのが許せないのだという。
 若者達はまたもや義侠心に駆られて、その男の始末を請け負う。それは成功するが、今度は殺した男の仲間から命を狙われるようになる。こうして若者達は、次第に暴力の連鎖に巻き込まれ、やがて隠れて暮らすようになる。
 そして例の秘書も襲撃するが、それは失敗し、秘書の弟、つまり弟分の恋人の父親を刺してしまう。秘書は、若者達をこのまま放置しておくと、いつか自分も殺されると思い、ある計略を練り…といった内容。
 いや〜、これはかなりハードコア。
 言うなれば、純朴な田舎の若者たちが、その純朴さ故に道を踏み外し、やがて破滅していくというストーリーを、ロケ主体、手持ちカメラや長回しなどの映像、カッコよさや露悪趣味を廃したリアリズム主体の流血描写で、じっくりヘビーに見せていく作品。
 時代性や地域性のせいか、こういったクライムものには付きものの銃器がいっさい登場せず、襲撃や殺害が全て山刀やナイフによるものだというのも、けっこう生理的にクる。前半が比較的長閑なムードである分、後半の暴力が連鎖していくあたりとのコントラストも強い。
 映像には、アメリカン・ニューシネマ的なザラついたリアル感があり、時代の空気感や演出の緊張感も上々。音楽シーンもあるのだが、全てBGM的か現実音で処理しており、ミュージカル的な演出は皆無なので、全体のリアリティを損なうことは全くない。
 ストーリー的にも、導入の28年後の襲撃シーンを、襲われる人間の一人称カメラで描き、襲撃者の顔もシャドウで不鮮明なために、いったい誰が誰に刺されたのかが、映画のラストまで判らないという、上手い興味の引っ張り方をしているし、それに至る展開も「こいつを殺すか!」といった驚きもあって上々。
 ただ、人物関係が入り組んでいてちょっと判りづらいのと、ローカル性に密着した内容のため、ところどころ理解や共感が難しいのと、あと、4人組のうち3人が、ほとんど同じ髪型とヒゲなもんで、誰が誰やら慣れるまで見分けるのが大変でした^^;
 しかし、見応えはタップリ、出来映えも上々なので、これはどちらかというと、インド映画に興味のない層の方にアピールするのでは。
 おかげでちょっと、このタミル映画のニューウェーブ、他のも見てみたいな〜という気に…ああ、また泥沼に足を踏み込んでいる予感 ^^;
“Subramaniapuram”、予告編。音楽と編集のせいで、この予告編はスタイリッシュに見えますが、実際の映画はもっと泥臭い感じです。
http://www.youtube.com/watch?v=KnZy9eqOkI0
“Subramaniapuram”から、前半の長閑部、懐メロをBGM的に使った音楽シーン。4人組の日常と、アイコンタクトで恋を語り合う弟分と秘書の姪というシーンで、この空気感がアジア旅行好きには何ともタマラナイ ^^
http://www.youtube.com/watch?v=KUUYTB0EbOU
“Subramaniapuram”から、音楽と現実音を組み合わせている祭りのシーン。こんな感じで、例え音楽シーンでも人工性を廃したリアリズム主体、しかも地域性豊かなのが、作品の大きな魅力の1つ。
http://www.youtube.com/watch?v=kFHA0XIIdvI

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“Baarbarr” (2009) Ashu Trikha
(☆☆)
 ヒンディ映画。
 インド北部の暗黒街、ムスリムの一族に生まれ育った主人公は、齢12で初めて人を殺し、長じて周囲から怖れられるギャングの顔役となる。地元警察と癒着しつつ、対立組織との抗争が激化していく中、幼い頃の主人公を知る警視が、ギャング組織の一掃する命を受けて赴任し…といった、クライム・ドラマ。
 タイトルは主人公の名前。
 環境が犯罪を生み、犯罪が犯罪へと連鎖していき、人心の荒廃も絡み、その連鎖は永久運動のように止むことがない…といったメッセージが込められた、なかなか社会派的な内容。演出はリアリズム重視で、いわゆるインド映画っぽさは、ほぼゼロ。なかなか意欲的な作品という印象。
 ただ惜しむらくは、キャラクターを突き放して、人の世の醜さや社会の孕む問題を暴き出すという内容のわりには、そこそこの見応えに留まってしまい、ズシンとくるヘビー級のパンチにまでは至っていないところ。暴力度の高さとか救いのない展開とか、頑張ってはいるんですが、もう一つパンチ不足。
 主人公を演じる男優(新人さんらしい)は、個人的になかなかの収穫。いい面構えだし、ヒゲにモジャ髪、ヨレヨレシャツというトッピングwも効果的で、ぶっちゃけキャラ的にはかなりタイプ ^^ ヒンディー映画の主演男優にしては、顔が比較的サッパリめなのも嬉しいw
 ただまあサッパリといっても、あくまでもヒンディ映画としては…てな程度で、充分に濃い顔だとは思いますがw でもライバル役のギャングが、これまたハビエル・バルデムとローワン・アトキンソンを足して二で割ったみたいな特濃タイプなので、なおさらサッパリ具合が印象に残ったりw
 DVDのジャケやポスターがカッコ良かったので、興味を惹かれて見てみたんですが、主演がタイプだったというのも加算して、そこそこ楽しめた1本でした ^^
“Baabarr”、予告編。

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“Kisna: The Warrior Poet” (2005) Subhash Ghai
(☆☆☆)
 ヒンディ映画。
 インド独立時期のインド青年と英国娘の恋を描いた、ヒストリカル・ロマンスもの。
 ストーリーの導入部は現代から。英国貴族の老婦人がチャリティでインドを訪れる。地元の記者たちは、彼女はインドのことを何も判っていないと反発するが、彼女はそれに流暢なヒンディ語で答え、実は自分はインドで生まれ育ち、誰よりも良くこの国のことを知っている…と、想い出語りを始める。
 そして時は遡って1940年代へ。ヒロインのキャサリンはインドで生まれ育った英国領事の娘。その家の使用人の息子が主人公キスナ。二人は幼い頃から仲の良い友だち同士だったが、インド人を蔑視しているキャサリンの父親は子供たちの交際に反対し、幼いキャサリンを英国に送り返してしまう。
 やがて美しい娘に育ったキャサリンはインドへ帰還、凛々しい青年に育ったキスナと再会する。キャサリンは彼に惹かれるが、彼の家族はその結婚相手に、やはり幼い頃からの遊び友だちだったラクシュミを選ぶ。キャサリンは自分の恋心を押し隠したまま、キスナとは親友の関係でいようと決心する。
 そんな折り、インドの独立が決定。盛り上がる愛国気分の中、バガット・シン(インド独立を目指した武闘派のリーダー)を信奉する過激派が、かねてよりその横暴ぶりで反感をかっていた、キャサリンの父親宅を襲撃し殺害する。その過激派の中には、キスナの兄も混ざっていた。
 父を殺され母ともはぐれたキャサリンは、キスナに庇護される。彼女を守ることは、兄や許嫁への裏切りでもあるので、キスナは煩悶するが、幼い頃から彼にうヴェーダの教えを説いていた母親に「時として、たとえ近親に背いたとしても、正しい行為をする必要がある」と諭される。
 こうしてキスナは、キャサリンを無事デリーに送り届けるために、二人一緒に旅立ち、キスナの兄を含む過激派一行と、嫉妬に駆られた許嫁のラクシュミ、そしてキャサリンとの結婚を目論む英印混血の王子が、二人の後を追う。
 逃避行の途上で、どんどん互いに惹かれていくキスナとキャサリン。しかし追っ手は次第に迫り、しかも目的地のデリーでも、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の間で争いが勃発し、暴徒と化して互いに殺し合いをしていた。果たして二人の運命は? …ってなストーリー。
 美しいヒロインと、それを守るカッコいいヒーロー、雄大で美しい大自然の風景、美しくロマンティックで見応えもある歌舞シーン…と、ロマンスものとしては上々の仕上がり。キャラも、メインも脇も良く立っているので、ロマンスものに乗れさえすれば、ストーリーにもグイグイ引き込まれる。
 ただ基本的に、舞台が長閑な田舎の山間部から始まって、田園風景を背に展開していくので、激動の時代を背景にした歴史的な雰囲気は、それほどなし。先日見た同様のモチーフの「Madraspattnam」と比較しても、作品としてあそこまでの風格はない感じ。
 とはいえ、長閑で美しい分、逆にどこか寓話のような浮世離れ感があるのは、それはそれで魅力的。ヒーローのキスナをヒンドゥー神話のクリシュナと重ね合わせたり、台詞でマハーバーラタへの見立て等が入るあたりも、そんなムードを良く後押ししていて効果的。
 ミュージカル・シーンもなかなか凝っていて、しかも豪華で美しく、かなり見応えあり。A・R・ラフマーンの音楽も良いです。
 ヒストリカル・ロマンスものとして割り切って見れば、美しいし情緒もあるし感動もあるし余韻も残るし…と、タップリ愉しめること請け合い。
 美男美女による、オーセンティックで奥ゆかしく、でもスケール感もある歴史ロマンス劇なので、往年の少女マンガ好きに、特にオススメしたい感じでした ^^
“Kisna: The Warrior Poet”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=H_UfAqkudYE
“Kisna”から、クリシュナ神の祭礼を背景に、惹かれていく恋人達を描く音楽シーン。
http://www.youtube.com/watch?v=mttdFi5TL2s
“Kisna”から、西洋風のミュージカル・シーン(英国人ヒロインの心象風景なので)。冒頭のヘンなデジタル合成は勘弁だけど、それを過ぎてからのコンテンポラリー系の衣装&振り付けのバックダンサーと色彩効果が見応えあり。音楽も、中盤のエンヤ風コラールにタブラが絡み、そこにストリングスも加わり、グイグイと高揚感を増していき、更にDJ的なツナギで「愛のテーマ」に移行する鮮やかさは、流石A・R・ラフマーンの面目躍如といった感じです ^^
http://www.youtube.com/watch?v=WffaYmdS-yI

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“Paheli” (2005) Amol Palekar
(☆☆☆)
 ヒンディ映画。
 シャールク・カーン、ラニー・ムケルジー主演の、民話風幽霊ファンタジー。
 金持ちの家に嫁いだ若い娘。しかし新郎はビジネスに夢中で、初夜に新婦を抱くこともせずに、そのまま遠地へと旅だってしまう。傷つき嘆く娘の前に、ゴーストが新郎そっくりの姿形をして現れる。ゴーストは娘を愛し、娘もそれを受け入れる。
 ゴーストは家族にも溶け込んで、やがて娘は妊娠する。遠隔地でそれを知った本当の夫は、驚いて家に戻る。二人の夫のどちらが本物なのか、周囲の人々は知恵ある牧者に判断を仰ぐ…といった話が、男女の操り人形の語りによって綴られていくファンタスティックな内容。
 おっとりとした民話的な内容、色鮮やかな色彩、樹からぶらさがった沢山の操り人形といった魅力的なイメージ、程よく抑制のきいたファンタスティックな魔法の見せ方…などなど、色彩の美しさとフンワリした雰囲気が印象深い映画。
 特に、色とりどりの衣装の数々や、壁に描かれている絵など、美術全般が美麗さとフォークアート的な素朴さを併せ持っていて、それを見ているだけでも楽しいです。ただ、個人的にどうにもシャールク・カーンの顔が苦手なので、イマイチ素直にロマンチック気分にはなれないのが残念 ^^;
“Paheli”から、夢見るような色彩美の衣装が堪能できる、オープニングの音楽シーン。
http://www.youtube.com/watch?v=CD_VSirx8PE

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“Dasavatharam” (2008) K. S. Ravikumar
(☆☆)
 タミル映画。
 YouTubeで、責め場とミュージカルがマリアージュしたクリップ(鉄鉤で吊された僧侶が、いきなり歌い出すのだw)を見て、ビックリギョーテンした映画 ^^;
 開始早々に「ユニバーサル・スター、カマル・ハッサンが映画史上初の一人十役を演じる!」と出て、どんなブットビ映画かとワクワクw
 ストーリーとしては、アメリカのラボから人類を滅ぼす生物兵器が流出し、インド人学者がそれを守ろうと奮闘するといった話と、カオス理論(バタフライ効果)と神の御業を絡めて、2004年にインドを襲った大津波は、実は…ってなテーマが描かれるという、期待通りのブッ飛び系。
 ただまあ、冒頭の古代シーン、イントロのアメリカのシーン、クライマックスの大津波なんかは、なかなかトゥーマッチな派手さと賑々しさで楽しいんですが、間の大部分を占める、インド南部でのドタバタ風味の追いかけ劇が、ローカルネタのお笑いがふんだんに登場することもあって、死ぬほど退屈 ^^;
 宇宙的スター(ってことだよね ^^;)カマル・ハッサンは、特殊メイクを駆使して、主人公のインド人学者から、古代の僧侶、ボケ気味の老婆、人気バングラ歌手、更には日本人空手師範、シュワちゃん風殺し屋、はたまたブッシュ大統領にまで化けて見せるんですが…いったい何の意味があるのやらw
 カマル・ハッサンのファン向きのスター映画としてなら、これはこれでOKなんだろうけど、正直私には敷居が高すぎるというか、どうしても「…だから何なのっっ???」って言いたくなっちゃうな〜 ^^; なんか映画というよりは、金の掛かった隠し芸大会みたいでw
 そんなこんなで、全3時間のうち2時間は退屈で死にそうになりますが、残りの1時間は色んな意味でブッ飛んでいて「はあぁぁっっ??」ってな要素がテンコモリなので、ヘンなもの好きな方だったらどうぞ〜 ^^;
“Dasavatharam”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=Zt06wO8zxXg
“Dasavatharam”から、ビックリギョーテンの、責め場とミュージカルのマリアージュw インド映画の底なし沼加減、恐るべしwww
http://www.youtube.com/watch?v=8m3FjcDQa7A
“Dasavatharam”から、クライマックスの津波シーン。アップになる四人(主人公、日本人空手師範、白人殺し屋、ヘリの警察官)は全員カマル・ハッサンw キワモノ好きには、これはタマラナイはず。ちゃんと日本語で「津波だ〜!」と叫ぶカマル・ハッサンや、双眼鏡でウィルスの増殖が見えるカットも要チェックよ!w
http://www.youtube.com/watch?v=kQbGVshjc7c

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“Umrao Jaan” (2006) J.P. Dutta
(☆☆)
 ヒンディ映画。
 高級娼妓の数奇な運命を描いたウルドゥ語による古典小説の映画化。
 主演はアイシュワリヤ・ラーイ、タイトルはヒロインの名前。
 とある老人が隣家から聞こえてきた美しいガザル(歌)に惹かれ、歌の主を訪ねると、それはかつては美貌と芸で名を知られた往年の高級娼妓だった。老人に詩と歌の美しさについて尋ねられ、彼女は「悲しみがそれを美しくする」と答え、身の上語りを始める。
 幼い頃に誘拐され高級娼館に売られた娘は、娼館の女将や養い親となった老夫婦の手によって、歌と踊りと詩作を学び、やがて美しく成長して高級娼妓となり、そのデビューとなる宴会で絶賛される。その席で彼女は若いスルタンに見初められ、実は彼女もそのスルタンに恋をしていた。
 彼女はスルタン公認の愛人となり、互いに永遠の愛を誓い合うが、スルタンの父親はそれに反対し、息子を勘当してしまう。文無しになったスルタンは、再会を約束して彼女の元を離れる。彼女には新たなスルタンが客として付くが、彼女は肌を許さない。
 やがて彼女は、その新しい客の力を利用して、娼館から出て恋人のスルタンに再会するが、恋人は新しい客のついた嘘、「彼女は自分に肌を許したし、そもそも金目当ての娼妓に過ぎない」を真に受けてしまい、彼女を娼館に追い返してしまう。
 失意の彼女を、娼館の仲間達は温かく迎えるが、そこに英国軍によるインド人反乱分子の討伐が始まる。討伐が勢いを増し、民間人まで虐殺される事態となり、娼館の女将は自分一人が館を守るために留まり、娼妓たちを全て街の外に逃がす。
 逃避行の途中、ヒロインは生まれ故郷の街の近くを通り、他の娼妓の薦めもあって、躊躇いながらも家族の元に戻ることにする。そして、存命だった母親と弟に再会するのだが、娼妓となった娘は家名を汚すとして受け入れて貰えず、すぐにこの街を出て行けと追い払われる。
 一方、街のお大尽が高名な彼女に、結婚式の宴会で歌と踊りの仕事を依頼する。満座の中、主人公は自分の悲しみを歌い踊り、それを聴いた客は皆、深く心を打たれ頭を垂れる…といった内容の、娼妓ゆえの悲しみを描いた、一種の女性映画。
 映画としては、豪華に、美しく、格調高く…という作り手の狙いは判るのだが、いかんせん演出が全般的に凡庸なために、さほど心動かされる出来ではない、というのが正直なところ。見所はほぼ、アイシュワリヤの美貌と、衣装やセットの美しさのみと言ってもいい感じ。
 ただ娼館の女将が、キャラクター性と女優の演技が、共に大いに魅力的なので、女将が絡むシーンは引き締まっていて見応えあり。育て親の老夫婦も良く、そこいらへんの泣かせどころはなかなか盛り上げてくれます。
 というわけで、まあ映画としては凡作の類だとは思いますが、前述したようにヒロインの美貌と衣装などの豪華さは溜め息ものなので、歌舞シーンはタップリ楽しめます。
 ただし、そういう歌舞シーンでも、カメラワークやカット割りが凡庸なのは、やはり否めませんけど… ^^;
“Umrao Jaan”から、サルタン(アビシェク・バッチャン)に見初められる主人公(アイシュワリヤ・ラーイ)のデビュー歌舞シーン。
http://www.youtube.com/watch?v=q0rK7b-yJ1o

dcd_arundhati
“Arundhati” (2009) Kodi Ramakrishna
(☆☆☆)
 インド/テルグ映画。
 現代に蘇った悪霊と若い娘の対決を描いた、伝奇ホラーアクションで、タイトルはヒロインの名前。
 ドライブ中に事故にあった若い夫婦が、助けを求めて古城を訪れると、そこには封印された墓があり、更に妻が行方知れずになってしまう。
 一方、マハラジャの血筋を引く娘(主人公)に縁談が決まり、一族は喜びに沸く。この一族は男系で、娘は曾祖母の代から数えて初めての女児だった。娘とその一族は、導かれるようにして件の古城のある街にやってくるが、その周囲には異様なことが起きるようになる。
 実は、古城にある墓には一族に縁のある者が封印されていて、しかも主人公は、その悪霊を封印した女王の生まれ変わりらしい。そんな中で、古城で妻を失った夫は、悪霊に操られて墓の封印を解いてしまう。
 解放された悪霊は、復讐と性欲で娘に襲いかかる。娘はそれから逃げようと、また一族を巻き添えにすることを避けようと、力のある祈祷師や過去の経緯に詳しい乳母を味方に奮闘するが、次第に追い詰められていく。
 祈祷師に「女王の生まれ変わりの貴女なら、悪霊を封じる方法も判るはず」と言われ、娘は前世の記憶を辿り、女王が身を犠牲にして悪霊退治の武器を作り、それを生まれ変わりである自分に托したということを思い出す。
 しかし武器の所在は判らず、その間にも悪霊の力はますます増していく。乳母は殺され、一族や婚約者の身に危険が迫り、祈祷師が何とか武器を見つけ出すものの、娘の手元に届ける前に刻限が迫り、悪霊はついに生身の身体を得て蘇り、娘を強姦・殺害しようと迫り…ってな内容。
 まあ、細部にはいささか乱暴なところはあれども、これでもかこれでもかパワーで押しまくり。CGIはかなりチープながらも見所は盛り沢山だし、役者さんは目ェひん剥いて大熱演だし、尺が2時間ちょいとインド映画にしては短めのこともあり、楽しく一気に見られました ^^
 悪霊退治の武器が人骨製(しかも生け贄の血に浸していないと効果なし)だったり、その武器を作るためには苦痛に満ちた死に方をしなければいけないんですが、それが死ぬまで頭をココナッツでかち割られ続けるという方法だったりするあたりが、ちょっと目が点になりつつも、新鮮で面白かった ^^
 まあ、怖いかっつ〜とちっとも怖くなくて、逆に押しまくるトゥー・マッチさが楽しかったりもしますし、チャン・イーモウ「LOVERS」の露骨なパクリシーンがあって苦笑したりもしましたが、お好きな方ならタップリ楽しめるのではないかと ^^
“Arundhati”、予告編。こんな感じで、見せ物感覚でアレコレ楽しい伝奇ホラーです ^^
http://www.youtube.com/watch?v=GJrPZjIafVI
“Arundhati”から、殺戮を止めようとする王女〜「LOVERS」パクリのシーンw 伝奇ホラー映画でも、しっかり歌って踊ります ^^;
http://www.youtube.com/watch?v=2KiZkd3DouY
<注意> ”Arundhati”のBlu-rayディスクは、英語字幕と音声にズレがあり、最初のうちはセリフのラインが1つズレている程度なんですが、後半はもう完全にズレまくって、セリフとのズレも10分以上拡がっちゃいます。

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“Ishqiya” (2010) Abhishek Chaubey
(☆☆☆☆☆)
 ヒンディ映画。
 スター不在、豪華なミュージカルシーンなし、いわゆるボリウッド映画とは一線を画す内容ながら、批評家筋からの高い評価と、観客の口コミによってヒットしたという、北インドの田舎村を舞台にした、クライム・ロマン。
 年配の叔父と若い甥というケチな悪党二人組は、叔父の義弟でもあるギャングのボスから金を盗み、知人の伝手を頼ってネパールに逃げようとするが、手引きしてくれるはずの男は既に死んでいて、二人を出迎えたのはまだ若い未亡人で、しかもすこぶるつきの美人だった。
 未亡人の美貌とイノセントな佇まいに、年配の叔父は一目惚れ、若い甥はムラムラきて、しばらくそこに留まることにするのだが、実はこのあたりは、その長閑な風景とは裏腹に、まだほんの子供でのやけに銃器に詳しかったりして、かなりキナ臭いエリアだというのが判ってくる。
 そんな中、ついに追っ手に見つかってしまい、二人は盗んだ金を返して命乞いをしようとするのだが、隠していた金はいつの間にか何者かに盗まれていた。あわや殺されそうになった二人だが、義兄弟の縁で何とか頼み込み、返済までに一ヶ月の猶予を貰うことができた。
 盗んだのはどうやら、例の銃器に詳しい子供らしいのだが、彼は既に森林ゲリラに入ってしまい、コンタクトを取ることができない。金の奪還が絶望的になった二人に、未亡人はワルだった亡夫が遺した資料を参考に、金持ちを誘拐して身代金をとる計画を持ちかける。
 誘拐計画を薦めながら、叔父はますます未亡人に惚れてしまう。しかし叔父が頭の中で、彼女との古風なロマンス妄想を繰り広げている間に、若さで押しまくる甥は遂に彼女をモノにしてしまう。それが叔父にもばれて、二人の間がギクシャクしてしまったところで、ついに誘拐本番の日が。
 あれこれすったもんだしつつも、誘拐計画は何とか成功するものの、そこで驚くべき真実が明かになり、二転三転ストーリーは先の予測がつかない展開へ…といった内容。
 いや、これはお見事!
 巷(っても私が触れることができるのはネット上ですがw)の高評価も納得。
 ストーリーの転がし方、それがひっくり返ることで伏線がカチカチとはまっていく快感、どいつもこいつも、どこか憎みきれない愛すべきキャラクター、心を打つ様々な「愛」の様相、もう問答無用で面白い!
 役者は皆いいし、緩急を効かせた演出もいいし、ユーモア感覚にインド映画的なコテコテ感がなく、どこかとぼけたような洒落っ気すら感じられるのも上々。
 監督のアビシェク・チャーベイ(?)という人は、77年生まれとまだ若く、これが初監督作品らしいけれど、この手腕は素晴らしい!
 そんなこんなで、味わいのある上質な娯楽作品として、文句なしの出来映えの上に、後味もすこぶる良く、インド映画云々を抜きにしてオススメできる良作!
 どっか買いつけて、公開は無理としてもDVDで出さないかしらん (´・ω・`)
“Ishqiya”、予告編。ストーリー自体の面白さに加えて、映像の洒落っ気、男どもの味わい深い顔つきや、ヒロインのキュートさなんかもナイス。
http://www.youtube.com/watch?v=qLE2zJv68pA

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“Naan Mahaan Alla” (2010) Suseenthiran
(☆☆)
 タミル映画。
 気のいい青年が復讐の鬼と化す、前半ロマコメ〜後半血みどろアクション。タイトルの意味は「俺は聖人じゃない」ということらしい。
 主演はタヌキみたいでかわいいw、「Paiyaa」や「Aayirathil Oruvan」のカルティ。
 主人公は無職だけど気のいい青年。友だちの結婚式で出会ったカワイコちゃんに一目惚れして、いろいろ策を巡らせて見事お付き合い開始となり、結婚も考えるようになるのだが、彼女の父親からは反対されて、気持ちが一年間変わらないことと、定職につくことを条件に出される。
 主人公は銀行の集金人の職に就くが、生来の善良さが祟って上手くいかない。一方、この街では不良学生どもがつるんで、オンナノコを輪姦したあと殺害し、死体をバラバラにして捨てていた。そしてある日、タクシードライバーをしていた主人公の父親が、その連中に交通事故に見せかけて殺されかける。
 実は父親は、ワル連中がオンナノコを拐かす際、彼らを客として乗せて顔を覚えていたために、警察にたれ込む前に口封じのために狙われたのだった。父親は幸いにして大事なく自宅療養となる。家賃や生活費の上に薬代も嵩むようになり、主人公は心機一転、真剣に働くようになり、妹の結婚話もまとまる。
 ところがそんな矢先、再びワル連中の魔の手が父親を狙い、今度は無残にも殺されてしまう。嘆き悲しむ主人公に、警察は犯人捜しの協力を申し入れるが、主人公はそれを拒否。父親を殺した連中を、法の手に任せるのではなく、自らの手で裁こうというのだ…といった内容。
 う〜ん…これは…はっきり言って、前半のロマコメと後半の復讐劇が、完全に分離、これいじょうないほどクッキリハッキリ分かれてしまっていて、ぶっちゃけ後半だけ見ても無問題っつ〜くらいに、前半の要素は後半になるとキレイサッパリ消え去っちゃって…何ともはやw
 父親が事故にあうのが前半部のほぼラストなんですが、以後、ヒロインの登場シーンなんて数えるほどしかないし、ロマンスの行方も空中分解して消え去っちゃう。残るは主人公の復讐劇なんですが、映像的な見所はともかく、作劇としては伏線もミスリードも何もない一本調子のズンドコ節 ^^;
 そんなこんなで、主人公が復讐を遂げると、いきなりブツっとジ・エンド。「ちょ、じゃあ前半のアレコレは、いったい???」ってなポカ〜ン気分に。ごく普通の善良な青年が、巻き込まれ型の肉親の死をきっかけに、復讐の鬼と化す凄みを描きたいのかもしれないけれど、それにしてもザックリしすぎ…
 とはいえ、ストーリーと脚本はちょっとウムムなんですが、演出自体はなかなか力があって、特に後半の復讐劇は、サスペンス演出もアクション描写も見事。ストーリーのズンドコさにも関わらず、見ていて思わず手に汗握るほど引き込まれます。この演出力は捨てがたい感じ。
 そんなこんなで、ストーリー☆、脚本☆☆、構成☆、演出☆☆☆☆☆…みたいな、何ともアンバランスな映画。ま、カルティのスター映画としては、これでもいいのかなぁ… ^^;
 しかしこれがIMDbで7.8点ってのは、やはり解せないw それだけカルティが、いま上り調子のスターだってことなのかしらん? (´・ω・`)
“Naan Mahan Alla”、予告編。
http://www.youtube.com/watch?v=cDB7EChIFks

2010年下半期に見て印象的だった未公開映画あれこれ

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“Janosik: prawaziwa historia” (2009) Kasia Adamik, Agnieszka Holland
 ポーランド映画。ポーランド盤DVD(英語字幕付き)で鑑賞。
(ドイツamazon)

 タイトルの意味は「ヤノーシク 真実の物語」ということらしい。仮に「ヤノーシク」と書いたけど、耳で聞いた感じだと「ヤヌーシェク」の方が近いかな?
 18世紀初頭の、ポーランド/スロバキア/ハンガリーの国境あたりで活躍した、ロビン・フッドや石川五右衛門のような義賊伝説を、リアルな史劇として再構成した、といった感じの映画(らしい)。
 主人公は元々「反乱軍」に属していたのが「皇帝軍」に編入されてしまい、やがてそこからも抜けて、アウトローたちの集う「山賊」の仲間に入り、やがてその首魁になり、富裕層から奪った金品を貧しい人々に与えることで英雄視しされ、やがて伝説化していくのだが…といったのがメインのストーリー。
 そんな中には民族的な対立とか、政治的なアレコレなんかも含まれているようなんですが、固有名詞が多い上に歴史的な知識も乏しいので、私の英語力ではかなりフォローしきれなかった部分が多々あり。「ロビン・フッド」というよりは「ブレイブハート」みたいな感じも。

 とにかくカメラワークが素晴らしい。臨場感主体のグラグラ動く系なのだが、それがめいっぱい動いてクラクラっとしてきた瞬間、ふっと抜けたりケレン味たっぷりの構図になったりと、これはかなり魅せられます。
 また、古い時代の生命力というかバイタリティというか、そういったディテールをふんだんに盛り込んだ展開も魅力。結婚や夏至祭や葬儀といったシーンは、フォークロリックな物珍しさと力強さで溢れていて、生も死も性も真正面から力強く描写されます。そういう意味では、かなりアダルトな味わい。
 特に性の描写が、互いの手に絡め合った蜂蜜を舐めるクローズアップとか、唾で作った泡を舌先で弄び、それを相手の口中に飛ばすとか、かなり触感的でフェティッシュな面白さあり。死の方も、見ていてかなり「ひえ〜!」な直接描写。
 キャラクター・ドラマも、家族愛、男女の愛、親子愛などで、エモーショナルにいろいろと盛り上げてくれます。群像劇的に、複数のキャラクターにそれぞれ見せ場があるのも良い。
 特にやっぱり個人的には、ご贔屓のミハウ・ジェブロフスキーが、ヒゲモジャ木訥キャラだってのは大きい感じ ^^;
 というわけで、全体的な印象は実にヨロシイので、何とかちゃんと理解できる日本語字幕付きで見たいところです (´・ω・`)

 責め場としては、冒頭「捕まった捕虜が全裸で整列させられ、中の一人がナイフで腹を割かれて、呑み込んでいた貴金属を腸から取り出される」シーンや、クライマックスに「脇腹に鉄鉤を突き刺して吊す処刑」なんてシーンがあり。
Janosik_scene

【追記】2012年5月2日に『バンディット 前編:義賊ヤノシークの誕生』『後編 : 英雄の最期』の邦題で日本盤DVD発売。

バンディット 前編:義賊ヤノシークの誕生 [DVD] バンディット 前編:義賊ヤノシークの誕生 [DVD]
価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2012-05-02
バンディット 後編:英雄の最期 [DVD] バンディット 後編:英雄の最期 [DVD]
価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2012-05-02

Blu-ray_bronson
“Bronson” (2008) Nicolas Winding Refn
 イギリス映画。アメリカ盤Blu-rayで鑑賞。
(アメリカamazon)

 自らを「チャールズ・ブロンソン」と名乗る、イギリスで最も凶暴な囚人という実在の人物を、スタイリッシュな映像と80’sポップス+オペラ音楽に乗せて描いた作品。
 主人公のブロンソンことマイケル・ピーターソンを演じるトム・ハーディが、実にチャーミング ^^
 しょっぱなっからいきなり、主人公が独房の中でチ×コ丸出しの全裸でトレーニングに勤しんでいると、看守たちが乱入してきてタコ殴りとゆー、萌えるイントロにワクワクw
 映像は、ミニマリズム的なシンメトリーとか、劇中劇的なパフォーマンスとか、アニメーションとかも用いていて、かなり凝っています。

 ただ実際の内容は、どんだけブルータルなのかと身構えていたら、それほどでもなくいささか拍子抜け。ストーリーもけっこう淡々としていて、良くも悪くもスノビッシュ。
 そんなこんなで肝心のブロンソン君が、暴れん坊だけどけっこう小物に見えてしまうのだが、これは計算されてのことなのか、それともミステイクなのか、ちょっと判断に苦しむところ。
 まあ、私は基本的にブロンソン君が「か〜わいい」とゆー感じなので楽しかったんですが、一般的にはどうなのか…w
 まあ、いささか虻蜂取らずで食い足りない感は否めないけれど、主人公のチャーミングさと、凝った画面構成の面白さと、オフビートなユーモア感の楽しさで、個人的にはけっこう楽しめました ^^
 ブロンソン君、すぐ全裸になってチ×コぶらぶらさせてるしwww

【追記】2012年12月5日に目出度く日本盤DVD発売。

ブロンソン [DVD] ブロンソン [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2012-12-05

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“Царь (Tsar)” (2009) Pavel Lungin
 ロシア映画。ロシア盤DVD(英語字幕付き)で鑑賞。
(アメリカamazon)

 監督は「ラフマニノフ ある愛の調べ」のパーヴェル・ルンギン。タイトルの意味は「ツァーリ」、つまりロシア皇帝で、具体的にはイヴァン雷帝の物語。
 ストーリーの軸は、国の平安と敵の排除、そして狂信的なまでの宗教心に突き動かされるイヴァン雷帝が、その恐怖政治をどんどんエスカレートさせていく様子と、何とかそれを止めようとする大司教フィリップとの対立という形になっています。
 ただし、映画の主眼は「何がどうしてこうなった」系の叙事ではなく、「ツァーリの祈り」「ツァーリの戦争」「ツァーリの喜び」といった章立て形式で、事件のあらましを語るのではなく、それを通じてイヴァン雷帝の内面を描き出していくという形式。加えて、宗教的要素が極めて濃厚。
 ロシア史の知識に加えて、頻繁に引用される聖書のモチーフに対する理解も要求されるので、これはかなり手強い内容 ^^;
 歴史物やエピックものというよりは、それに題を採った文芸作品といった味わいで、見応えはあったけれど、どこまで理解できたかは、ちと自信なし (´・ω・`)

 全体のムードは、ひたすら暗くて重くて、なんか久々にロシア映画らしいロシア映画を見た気分。
 ただし映像は、寒々とした暗さがメインですが、実に美麗。
 また、セットや衣装の素晴らしさ、緊張感のある構図、役者さんたちの鬼気迫る演技…等々、いずれも重厚感タップリで、映像的な見所は多し。宗教的な「奇跡」がそのまま描かれるあたりは、イマドキの映画としては逆に視点が新鮮な感じも。
 そんなこんなで、手強い内容ではありますけれど、モチーフに興味のある方だったら、まず見て損はないです。娯楽性はホント皆無ですけど ^^;
 映像が素晴らしいんで、できればDVDじゃなくBlu-rayで見たかったな〜 (´・ω・`) ま、英語字幕盤ゲットできただけ幸せか。

 責め場情報。
 恐怖政治なので牢獄で鞭打ちとか焼き鏝とかはあるわ、公衆の面前で熊に喰い殺されるわ、公開で吊り責め拷問にかけられるわ、僧侶は建物ごと焼き殺されるわ…と、ダークムードでいっぱい。
 ただ、表現自体は最近の映画の中では、それほどエグくもない方。
 …でも「エグくない」ってのは比較の問題かも。熊がハラワタをズルズルっとか、手のひらを釘でガンガンなんてシーンもありますので、残酷描写が苦手な人だったら、やっぱ要注意かも。
 因みに、個人的に一番「ぎゃ〜!」ってなったのは、人じゃなくてニワトリが、何羽も首を切られてバタ狂うシーンでした… (´・ω・`)

Blu-ray_The-Human-Centipede
“The Human Centipede” (2009) Tom Six
 オランダ映画。アメリカ盤Blu-rayで鑑賞。
(アメリカamazon)

 マッド・サイエンティストに捕まった若者三人が、口と肛門を数珠つなぎに手術で連結されてしまい、ムカデ状のフリークスに改造されてしまうというホラー映画。
 夕張ファンタスティック映画祭で、『ムカデ人間』のタイトルで上映されているそうです。
 いや〜、予告編を見た段階から、ヘンタイ映画の予感がビンビンだったんですが、実際見てどうだったかというと……
 ヘ ン タ イ !www
 懺悔します、ちょっとボッキしました ^^; いや〜、好きだわこれ。
 ホラーっつうか綺想モノというか、そういうのってシュールとギャグのスレスレ紙一重みたいなところがありますが、この映画はモロにそんな感じ。
「人間が手術でムカデ状に連結改造されてしまう」という、そんな綺想がズッド〜ンとぶっとく1本あるだけで、他は何もない話。もう清々しいくらい、なんっっっにもなくて、その潔さには拍手喝采!
 もう、こうなるとアート映画って感じ。

 じっさいクリアで寒々しい絵面は美麗だし、クールな悪夢を見ているよう。
 さほど直截的な描写もなく、ショッカー演出もなく、ひたすら静かな展開ながら、緊張感を保つ演出力はなかなかのもの。まあ、ホラーっつうか、綺想SM映画って感じもしますが ^^;
 で、マッドサイエンティストの博士がサイコー!
 立ってるだけで怖いし、顔のアップだけで怖い。素晴らしい存在感。
 内容が内容なので、はて、恐ろしがっていいものやら、笑っていいものやら…なストーリーを、前述した画面や演出の良さと、あとこの博士の存在感がアンカーになって、恐怖方向に引き留めている感じ。
 ムカデの先頭にされちゃうのが、日本人ヤクザのアンチャンってのも、なかなかヨロシイ。欲を言えば、三人全員男だともっと嬉しい(実際は後の二人は女)んだけど、ま、贅沢は言うまい(笑)。
 でもって、人間ムカデに改造したあと、博士が何をするのかというと、「よ〜しよし、こっちまで歩いてきてごらん、ホラいちに、いちに!」とか、「言うこときかんのかい!」と鞭でビシバシ……って、ただのSMやんwww

 そんなこんなで、タップリ楽しませていただきました ^^
 見る前は「伊藤潤二さんのマンガみたいなのかな〜」と思ったけど、見終わってみると、どっちかっつーと三条友美さんのホラー漫画っぽいかも ^^ 「少女菜美」とかじゃなくて「犬になりたい」とかの方ね ^^;
 ………しかし、これに続編って(連結される人間の数が増えるらしいw)………やめたほうがいいと思うんだが……… ^^;
 因みに、一緒に見ていた相棒は、エンドクレジットが始まった瞬間、しばし絶句した後ゲラゲラ笑い出して、私に「これ好きでしょう!」と言いましたw
 はい、大当たり、大好きです ^^;

【追記】『ムカデ人間』の邦題で劇場公開&DVD発売されました。

ムカデ人間 [DVD] ムカデ人間 [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2012-02-03

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“Край (Kray / The Edge)” (2010) Aleksei Uchitel
 ロシア映画。ロシア盤DVD(英語字幕付き)で鑑賞。
(russianDVD.com)

 2010年の米アカデミー外国語映画賞にノミネートされた作品らしいです。
 舞台はシベリア。第二次大戦終結直後、タイガ(針葉樹林)にある、政治犯やバルト三国人を収容した労働キャンプの周辺組織(どうも準ラーゲリのような場所らしい)に、前線で戦った英雄という男が、蒸気機関車の機関士として赴任してくる。
 彼は傷痍軍人らしくときおり脳震盪を起こす。この男を主人公に、機関士の座や女を巡っての争いが描かれ、やがてライバルの企みで機関士の座を喪うのだが、キャンプに出入りするよろず屋の男から、そこから少し離れた島に、橋が落ちたので動かせなくなった蒸気機関車が放置されているという情報を得る。
 その機関車を得るために島に渡った彼は、朽ちた機関車の中に隠れ住んでいた、若い娘と出会う。彼女は、独ソ不可侵条約時期に架橋工事のためソ連にやってきた、ドイツ人技師一家の生き残りで、その機関車を殺された恋人の名で呼びながら、大戦のことも知らずに今まで生きてきたのだ。
 主人公と娘は強力して、橋を修理して機関車でキャンプに戻る。しかし、それによってキャンプ内には不穏な空気が漂い始め、主人公と娘は次第に孤立していき、やがて娘の存在は上層部にも知れることとなり…といった内容。

 ストーリーとしては、閉鎖状況下でのアクション・サスペンスといった趣もあるんですが、それと同時に、外側からは判らない登場人物の秘められた事情が、ストーリーの進行と共に徐々に明かされていくことで、スターリン体制や戦争のもたらした人間性の歪みが浮かびあがっていく。
 更に、蒸気機関車や巨大な熊といったモチーフにも、一種の象徴的な意味合いが与えられているので、ストーリー自体は平明なんですが、その内容はかなり複雑で多層的。ディテールのあれこれを楽しみながら、それが何を意味しているのか行間を読み解いていく必要がある系の内容でした。
 最大の見所としては、やはり蒸気機関車の存在そのもの。白煙を吐きながらタイガを疾走する蒸気機関車なんてのは、それだけでもカッコいい絵になるのに、それが複数台競争したり、森の中で蔦まみれになっていたり、もうひたすらインパクトのあるヴィジュアルのオンパレードで、蒸気機関車好きなら必見!
 そういったスケール感のある部分の魅力に加え、人間ドラマといったディテールの方が、これまた良い。そんな感じで、人間も蒸気機関車も大自然も、全てが映画の登場人物という味わい。素晴らしく繊細かつパワフルな表現になっています。映画好きなら見て損はなし!

 ただ、前述したように多層的な内容ですし、時代背景に関する知識も要求される(いちいち丁寧に説明しれくれず、ちょっとした言葉やエピソードを使って、判る人には判るでしょといった感じの表現なので)系ではあります。私、思わず2度繰り返して見てしまったんですが、まだ100%理解には足りないw
 そんなこんなで、これはぜひ日本語字幕付きで見てみたいので、お願いだからどっか買い付けて出してくださいな (´・ω・`)
 予告編見て「良さそう!」と思ったロシア映画好きなら、もう間違いなく楽しめるかと ^^

【追記】『爆走機関車 シベリア・デッドヒート』の邦題で、日本盤DVD出ました。

爆走機関車 シベリア・デッドヒート[DVD] 爆走機関車 シベリア・デッドヒート[DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2013-12-15

Blu-ray_The-9th-Company
“9 Рота (9 Rota/The 9th Company)” (2005) Fyodor Bondarchuk
 ロシア映画。アメリカ盤Blu-rayで鑑賞。
(アメリカamazon)

 ソ連のアフガン侵攻末期、戦場に赴いた若者達の姿を描いた、2005年製作のロシア映画。監督はフョードル・ボンダルチュク(セルゲイ・ボンダルチュクの息子)。
 良いという風評は聞いていたけれど、実に見応えのある映画。
 戦争を俯瞰的に捉えたものではなく、あくまでも目線は身の丈レベル。新兵として鍛えられ戦地に赴いた兵士達の日常を、ディテール豊かに描いていくことで、個がシステムにスポイルされていく姿を描いたもの。
 日常描写の繊細さと同時に、戦争映画的なスペクタキュラーな見所もいっぱい。特にクライマックスの戦闘は、戦争という人間同士の殺し合いの姿をしっかり描いているという点で特筆もの。ド迫力の中にふっと挿入される詩的な瞬間や、エモーショナルにもグイグイ訴えかけてきて、もう圧倒の一言。

 ボンダルチュク息子の演出は、お父さんほど映像派ではないにせよ、今様のテンポの良い演出を基調に、前述したような静的な要素を挟む緩急も上手く、とても初監督作とは思えないほど。
 特に、内地から外地への兵士達の輸送を、飛行機のボルトに上空の寒気で霜が降り、それが溶けて水になるというクローズアップのワンショットで表現する感覚には、もう拍手喝采。暑く乾燥した空気感とか、肌を伝う汗のシズル感なども素晴らしい。アフガニスタンの雄大な風景もたっぷり堪能。

 俳優さんもいずれも佳良。メインの二人は「ナイト・ウォッチ」シリーズの隣人の吸血鬼青年と、「1612」の主人公の3の線の相棒役。他にも先日の「The Edge」のよろず屋オジサンとか、アレクセイ・クラフチェンコこと「炎628」の主役の少年(が成長した中年)など、見た顔がちらほら。
 ロシア製「コマンドー」こと「コマンドーR」で、一部のガチムチおやじ好きゲイを虜にしたミハイル・ポレチェンコフが、新兵教育の鬼軍曹(だけど実はけっこういい人)という役で出ていたのも得した気分 ^^ 相変わらずオイシソウなお肉でゴザイましたw
 そういやフョードル・ボンダルチュクは、この映画に出演もしているらしく、これに限らず、私はこの人が俳優として出ている映画を何本かは見ているはずなんだけど、いまだにどの人なのか判らない ^^; でも、さっきФёдор Бондарчу́кで画像検索したら、第9中隊の軍曹さん?

【追記】この”9 Рота (9 Rota/The 9th Company)”は『アフガン』という邦題で日本盤DVDが出ました。

アフガン [DVD] アフガン [DVD]
価格:¥ 5,040(税込)
発売日:2011-06-03

First-on-the-Moon
“Первые на луне (Pervye na Lune/First on the Moon)” (2005) Aleksei Fedorchenko
 ロシア映画。公式サイトのストリーミングで鑑賞。
(http://www.1moon.ru/)

 ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ・ドキュメンタリー賞受賞作だというので、最初はてっきり、ソ連の宇宙開発の歴史を描いた、純然たるドキュメンタリー映画だと思って見ていました(ロシア語音声のみなので、言葉の意味が全く判らなかったもんで)。
 しかし見ていくうちに、それにしてはいくら何でも、カッコいい絵面が多すぎだろう……と思ったら、「実は1930年代にソ連のロケットが月に到着していた!」っつ〜モキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)でした。
 というわけで、二台の蒸気機関車が雪原の中を月ロケットと発射台を牽引&設置! なんつ〜、身震いするほどカッコいい映像が続々と。
 言葉が判らないので詳細は良く判らないんですが、おそらくソ連時代、それも第二次世界大戦前に、ソ連には月ロケット開発計画があり、ペレストロイカ後になって、その極秘計画がどのようなものだったのか追跡調査、発見された記録フィルムや生存している関係者の証言を集めて、その全貌を明らかにしていく……という形式のモキュメンタリーのようです。
で、これが言葉が全く判らないにも関わらず、グイグイ引き込まれて、ついつい最後まで一気に鑑賞、しかもラストは感動してしまった……という次第。
 こりゃひょっとしてスゲ〜映画かも知れません。これなら英語字幕なしでもDVD欲しいと思って探したんですが、残念ながら唯一出ていたロシア盤も既に廃盤のようでガックシ。

【追記】後日、廃盤だったロシア版DVDを無事入手。
36293
しかし残念ながら英語字幕等はついていませんでした。

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“Les 7 jours du talion (7 days)” (2010) Daniel Grou
 カナダ/ケベック映画。米盤DVDで鑑賞。
(アメリカamazon)

 見る前は、てっきりホラー/サスペンス系かと思っていたんですが、いざ見てみたら、重〜〜〜い社会派シリアス系でした……。
 8歳の娘を強姦殺人された父親(外科医)が、犯人を誘拐監禁し、復讐として様々に拷問する。主人公(父親)は単独行動で、妻は夫の行動を是としない。警察は監禁場所を掴めずにいるが、果たして幼女強姦犯を救う意義があるのかという声も起きる。
 捜査の主任刑事は、自分も妻をコンビニ強盗に殺されたという経緯があり、更に拷問中に犯人が自白した余罪を、主人公はマスコミに公表し、その行為の是非を巡って世間にも波紋が起きる。主人公は七日後の娘の誕生日に、娘を強姦殺害した犯人を殺すつもりなのだが、果たして…という内容。

 娯楽作品的な粉飾は、ほぼ皆無。無彩色に近い寒々しい映像で、音楽もなく現実音のみ。見せ方も直截的で、殺された少女の遺体も、拷問される犯人の肉体も、象徴的な鹿の死体も、淡々と、しかし剥きだしに見せつけられる。
 いちおう、主人公の居所探しとか、他の犠牲者の母親が登場するとか、ドラマ的な起伏はありますが、主眼はそういったストーリーではなく、そんな中で、登場人物が抱く「気持ちは判るけど…でも…」という煩悶を描き、主人公も自問自答し、それらがそのまま鑑賞者にも突きつけられるというもの。
 拷問シーンはスゴいし、ホラーやスプラッタ絡みでオススメ商品とかにも出てきますが、そういう興味で手を出すと、大いに裏切られると思います。

 正直、かなりキツい内容。
 描写は生々しくはあるものの、スキャンダラスな見せ方ではないので、なんかもう逃げ場がない感じがするんですな。映画が突きつけてくる、何ともやりきれないものに、真面目に向き合うしかないという感じで。
 また、情緒が入り込む隙間がないところも、見ていてしんどい。これで絵的に美しくなければ、こっちも一種突き放して見られるんだけれど、下手に映像が美しい分、なのに情緒は拒否されるのが、自分的にはキツかったなぁ……。
 テーマ的には掘り下げ不足な気がするけれども、おそらく掘り下げる意図が最初からないんでしょう。事象だけを提示して、後は観客それぞれに考えさせようというタイプ。
 私の趣味から言えば。こういったテーマをシリアスに扱うのであれば、どこかもう1つ突き抜けたパワーが欲しい気はしますが、作品としてのクオリティは高いと思うので、興味がある人なら見て損はなし。

 ただし、真面目な部分を離れて、単に責め場だけ目当てで見るのであれば、これはけっこうキてます。
 なにしろ誘拐監禁拘束された後、被虐者は徹頭徹尾スッポンポン、一誌も纏わぬ丸裸で、アレもブラブラさせ放題。
 でもって、ハンマーで膝を砕かれ、片脚しか使えなくなったところで、ワイヤーで天井から首つり、不自由な片脚でヨロヨロしながら、喉元にワイヤーが食い込みグエッ、両手吊りで跪かせられて、太いチェーンで身体をメッタ打ち、麻酔かけられて強制手術……ってな具合の拷問の数々を、もうダイレクトに即物的に見せつけてきます。
 残酷男責め好きの方なら、それだけ目当てでも充分以上に見所はあるかと。

【追記】『7デイズ リベンジ』の邦題で日本盤DVD出ました。

7 DAYS リベンジ [DVD] 7 DAYS リベンジ [DVD]
価格:¥ 4,935(税込)
発売日:2013-05-02

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“Pręgi (The Welts)” (2004) Magdalena Piekorz
 ポーランド映画。ポーランド盤DVD(英語字幕付き)で鑑賞。
(イギリスamazon)

 ご贔屓、ミハウ・ジェブロフスキー主演の、父と子の確執を描いたヒューマンドラマ。
 主人公のヴォイチェクは、厳格な父親に男手1つで育てられたが、第二次性徴が訪れた13歳の頃、父親およびカソリックの抑圧に耐えかねて家を飛び出す。20年後、大人になった彼は、洞窟探検のインストラクターになっているが、抑圧の影響で偏屈な人間嫌いの潔癖症になっている。
 そんな彼に興味を示し、積極的にアプローチしてくる女性が現れ、彼も戸惑いつつも受け入れるようになるのだが、それでもやはり彼は父親の影から逃れることができず、女性との仲にも仕事相手との関係にも亀裂が入ってしまう。そんな中、20年間連絡を絶っていた父親が亡くなったとの報が入る。
 父の死を知り、そして遺言としてカセットテープに吹き込まれた父の告白を聞き、彼は初めて父親が自分を深く愛し、そして自分もまた父親を愛していたことを悟る。そして恋人から、妊娠したかもしれないと言われ…といった内容。

 映画前半は思春期の回想、後半が現在という構成で、情感豊かにストーリーが紡がれていく。彩度を抑えた色調の、しっとりとした柔らかな映像も効果的。説明的な要素はギリギリまで削ぎおとされ、尺も90分弱とコンパクトなので、テーマの割には実に見やすい仕上がり。
 父親と息子という関係に、当然のように神と人の関係が重ね合わされているあたりは、流石に敬虔なカソリックが多いポーランド映画といった感じ。主人公が洞窟内で腹ばいになって進む姿を、祈りの姿勢と重ね合わせるあたりも興味深し。反面、いささかサラッとし過ぎて、もうちょい突っ込んで欲しい気も。
 でも個人的には、お目当てのミハウ・ジェブロフスキーがやはり実に良かったのと、オチに相当するちょっとした仕掛けによるエンディングが、地味ながらも何ともしみじみ感動的だったので、大いに満足。滋味のある佳品 ^^
 あと私としては、こういった自分が周囲に溶け込めないという悩みとか、いい大人の男がぐだぐだのたうち回る姿とか、どちらも大いに惹かれるモチーフであり、しかも演じるのがご贔屓の男優ということもあって、ポイントが更に加算された感じです ^^;