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DVDのスリム化とか

 前にCDをソフトケースに入れ替えてスリム化する話を書きましたが、今回はそのDVD版。
 DVD用のソフトケースも何種類か市販されていますが、幾つか試した結果、私が現在使用しているのは、これ。

コクヨS&T CD/DVD用ソフトケース MEDIA PASS トールサイズ 1枚収容 20枚 黒 EDC-DME1-20D コクヨS&T CD/DVD用ソフトケース MEDIA PASS トールサイズ 1枚収容 20枚 黒 EDC-DME1-20D
価格:¥ 1,628(税込)
発売日:2008-09-01

 これに入れ替えると、どんな感じになるのかというと、例えばDVDが5枚あると、ケースの厚みがこれだけ減ります。
dvdsoft_height
 入れ替え方法は、ごく簡単。
 DVDからジャケットとディスクを取り出して、ペッタンコのソフトケースに入れ替えるだけ。以前は、ジャケットがちょっと入れにくかったんですけど、それも改良されて、現在販売されているバージョンでは、慣れればものの数十秒で移し替えられます。ケースの分解の手間がない分、CDより楽。
dvdsoft_single
 ディスクは、ケースに一体化した不織布のポケットに。
 左側は、チャプターシートなどを入れるポケット。
 ブックレットでも、極端に厚いものでもなければ、問題なく収納可能。写真のDVDは違いますけど、紀伊國屋書店のクリティカル・エディションの解説書が入るくらいだから、殆どのDVDだったらOKでしょう(笑)。
 二枚組用もあります。

コクヨS&T CD/DVD用ソフトケース MEDIA PASS トールサイズ 2枚収容 10枚 黒 EDC-DME2-10D コクヨS&T CD/DVD用ソフトケース MEDIA PASS トールサイズ 2枚収容 10枚 黒 EDC-DME2-10D
価格:¥ 1,344(税込)
発売日:2008-09-01

 構造は、こんな感じで、ディスク用ポケットがもう一つ増えます。
dvdsoft_double
 私の場合、現在はDVDのソフトケースは、このコクヨ MEDIA PASSシリーズに一本化しているので、買うときはお得な50枚パックにしています。

コクヨS&T CD/DVD用ソフトケース MEDIA PASS トールサイズ 1枚収容 50枚 黒 EDC-DME1-50D コクヨS&T CD/DVD用ソフトケース MEDIA PASS トールサイズ 1枚収容 50枚 黒 EDC-DME1-50D
価格:¥ 3,675(税込)
発売日:2008-09-01

 一枚当たりの単価が割安になるのはもちろん、CDのときと同様に空の外箱が、こんな感じに、収納ケースとしても使えるんですな。
dvdsoft_box
 これ、便利だから別売して欲しい(笑)。
 ケースがペラペラになると、嵩は減るんですが横積みにしておくわけにもいかないので、私はテキトーな空き箱とかに、まとめて立てて収納するようにしています。
 現在、よく使っているのが、この、100円ショップで売っている、カラーボックス用のDVD収納ケース。
dvdsoft_100case
 蓋が、申し訳程度のペラペラなものなのは残念だけど、高さがピッタリなのが好都合。

 さて、このMEDIA PASSには、ファイリング型もあります。

コクヨS&T CD/DVD用ファイル MEDIA PASS トールサイズ 黒 EDF-DME10D コクヨS&T CD/DVD用ファイル MEDIA PASS トールサイズ 黒 EDF-DME10D
価格:¥ 1,155(税込)
発売日:2008-09-01

 同様のソフトケースに耳がついたものを、リングバインダー式でファイリングしていく構造。
 商品写真だと判りませんが、書籍の外箱みたいな透明なケースも付いているので、ホコリよけは万全。ただ、リング部分があるせいで、ケースの奥行きは、DVDのトールケースよりもかなり増えてしまいます。
 いちおう10枚まで収納可能ということで、ファイルには始めから5枚のケースが付属しており、あとは別売のリフィルで買い足していくという形になるんですが、私が重宝しているのは、このファイル式にはCD用もあって、DVD用とCD用では、リングの穴の位置が一緒だということ。

コクヨS&T CD/DVD用ファイル MEDIA PASS リフィル 1枚収容 EDF-CMP1-5 コクヨS&T CD/DVD用ファイル MEDIA PASS リフィル 1枚収容 EDF-CMP1-5
価格:¥ 473(税込)
発売日:2008-09-01

 これがどう重宝かというと、昔買ったジュエルケースのDVDと、現在のトールケースのDVDを、同じファイルで収納できるんですな。
 こんな感じ。
dvdsoft_filedvdsoft_file2
 というわけで、こういった、ある程度まとまったシリーズもので、購入のタイミングによってケースの大きさがバラバラになっちゃっていたヤツを、まとめて一つのファイルで管理できるので、これはかなり有り難い。
 ファイル式だと、こんなのもあります。

ELECOM DVDファイル CCD-DVDF12BK ELECOM DVDファイル CCD-DVDF12BK
価格:¥ 780(税込)
発売日:2005-10-12

 私も使ったことがあり、これもなかなか佳良なんですが、ページ(ソフトケース)がファイル形式ではなく固定式なので、後から順番を入れ替えたりとか、他のファイルに移動したいとかいったときには、ちょいと融通がきかないのが難点でした。

つれづれ

 昨日『ケレル』のことをブログに書いたら、何だか無性に見たくなったので、久々に鑑賞。
 う〜ん、何回見ても、やっぱりヨーワカラン映画だ(笑)。
 ワカラナイのに、でもムチャクチャ好きだってのは、この映画以外にもいろいろあるけれど、これっていったい何なんだろう?
 因みに『ケレル』って、表層的なストーリー自体は、別に難解でも何でもない。何がどーしてどーなった的な類のことは、見ていて全く混乱しないし。でも、何故そうなったかということになると、ここでちょいとヤヤコシクなってきて、更にナレーションやテロップで劇中に挿入されるテキストが、混乱に拍車をかける。
 で、そのうち、常に画面を満たしている夕刻の光までもが、私の理解を阻む黄金色の靄のように感じられて、結局、その映像美とまどろむようなテンポに身を委ねながら、描き出される男性の肉体と暴力と殺人の魅力に、ぼーっと浸っていれば、それでいいのかなぁ……なんて気分になってしまう。
 そう考えると、自分はこの映画を、まるで「詩」を味わうように好きなのかも。
 で、見終わってから数時間以上経った今でも、頭の中で、映画に使われている「♪あ〜ああああ〜」っつー男声コーラスが回っております。
 好きな曲だけど、ここまで回るといいかげん鬱陶しいから、そろそろ消えて欲しいんだけどな(笑)。

 さて、暴力と殺人つながりで、最近それ系で、ちょっと面白いゲイ・エロティック・アーティストと、ファン・メールを貰ったのをきっかけに知り合いになったので、ご紹介します。
 Mavado Charonという、フランス人のアーティスト。
Mavado_Charon
 サイトはこちら
 日本で言ったら「ガロ」系みたいな、かなりアングラ臭のするドローイングを描くアーティストで、図版は彼から貰ったニュー・イヤー・カード。彼には申し訳ないんだけど、このブログにアップするには支障のある部分には修正を入れてあります。
 ただ、これでもこのカードの図版は、彼の作品の中ではぜんぜん大人しいほうで、メインの作風は、何というか、さながら『マッドマックス』の世界に服装倒錯を加味して、それがセクシュアルな悪夢になったような地獄絵図……なんだけど、それが同時にユートピアでもある世界を描く、といった感じでしょうか。
 というわけで、見る人を甚だしく選ぶ作風ではありますが、その作品は極めてパワフルなので、マッチする人にはタマラナイ魅力だと思います。かつてGrease Tankのサイトで見られたような、暴力と死と汚穢とセックスが結びついたタイプの作品に抵抗がない方でしたら、激オススメなのでお試しあれ。
 因みに、サイトにも載っている、Charon自身の創作に対するオピニオン、”Drawing is like wrestling : nobody gets really hurt…”ってのも、私自身のフィロソフィーとも合致していて、気に入っています。

ビッケとかケレルとか

 最近、『小さなバイキングビッケ』がドイツで実写映画化されて大入りだったという話を聞き、「へ〜、どんな感じだろ?」と思ってYouTubeで探してみたら、難なく予告編が見つかったんですけど、それ見てビックリ。
 ひゃ〜、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品の常連で、彼のボーイフレンドでもあった、ギュンター・カウフマンが出てるじゃないスか!
 いやぁ、『ケレル』の時のノノ役は、実にセクシーで良かったなぁ。ケレル役のブラッド・デイヴィスを、後ろからアナ○○ァックするシーンなんて、ヨダレのシズル感とか生々しくて、下手なゲイAVよりよっぽどエロかったっけ。
 というわけで、手元に、Schirmer Art Books刊の『ケレル』のフィルムブックがあるので、ちょいと該当シーンを3ページほどご紹介。
gunther_kaufmann01gunther_kaufmann02
 もひとつ、Edition Braus刊の『ケレル』の画集から、ノノを描いたドローイングを1ページ。画家は、ユルゲン・ドレーガー。
gunther_kaufmann03

 因みに『ケレル』ってのは、ジャン・ジュネの小説『ブレストの乱暴者』を、ドイツの映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが1982年に映画化したもので、ジュネはゲイ、ファスビンダーもゲイ、小説の内容もゲイということで、しかもファスビンダーはこれが遺作となったため、当時の日本のゲイ雑誌や映画雑誌で紹介はされていたものの、なかなか日本公開されなかったんですな。
 で、私や私の友人のゲイの間では「見たい、見たい、見たい!」という熱が高まり、かといって今みたいにネット経由で何でも手に入る時代じゃないし、でも、少しでもその香りを求めて、関連商品をいろいろと探し回っては買い求めたもんです。
 画像をアップした画集も、そんなときに買ったものの一つ。因みに、ハードカバー限定400部の画家の直筆サイン入りのバージョンで、私の持っているのはエディション・ナンバー374。この画集は、確か非限定のソフトカバーも出ていて、銀座の洋書店イエナで見た記憶があります。
 フィルムブックの方は、当時友だちが買ったものを見せてもらい、自分も欲しいな〜、とずっと思っていたところ、それからずっと後になって、映画も無事に見られてから、確か京都の洋書屋さんで見つけてゲットしたんだったと思います。
 他にも、アナログのサントラLPとか、ポストカードとか、色々買いましたっけ。

 肝心の映画の方はというと、なかなか日本公開されない間に、確かドイツ文化センターだったか大使館だったかで、ビデオ上映があるってんで、前述の友だちと一緒に大喜びで見に行ったのが最初でした。場所は、青山一丁目あたりだったような気がするんだけど、当時の私は、まだ東京の地理に疎かったもんで、ちょっと記憶に自信なし。
 で、この初鑑賞に関しては、念願かなって見られたのはいいけれど、そもそも難解な映画な上に字幕なしだったもんで、正直もうナニガナンダカてんで判らず(笑)。色彩美とホモエロスとアンニュイな雰囲気だけ味わった……ってなところでしょうか。
 それから後、無事に日本公開もされて、これは確か、新宿のシネマスクェア東急だったと思うけど、『ファスビンダーのケレル』という邦題で、ようやく日本語字幕付きで見ることができました。
 この、映画の存在を知ってから、実際に見られるまでの間が、何だかずいぶん開いていたような気がするんですけど、allcinemaで調べたら、たかだか3年しか開いていないんですな。ちょっとビックリ。この歳になって振り返ると、若い頃の二、三年って、今の五、六年くらいの感覚に感じられるのは、何故だろう?

 ソフトの方は、輸入VHSを買って、ネット時代になってからアメリカ盤DVDを取り寄せて、前にジャン・ジュネの『愛の唄』について書いたときには、まだ未発売だった日本盤DVDも、それから後に無事に発売されたので、もちろん購入しています。
 でも、いま確認したら、もう廃盤になってるのね……。

Dvd_querelle 『ケレル』(1982)ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
“Querelle” (1982) Rainer Werner Fassbinder

 原作本の方は、私が買ったときはハードカバーの単行本だけだったけど、今は文庫で出ているんですな。

ブレストの乱暴者 (河出文庫) ブレストの乱暴者 (河出文庫)
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2002-12

 そんなこんなで、この『ケレル』は個人的な大偏愛映画の一本だったんですが、う〜ん、まさか『小さなバイキングビッケ』で、この映画を思い出すとは、夢にも思わんかった(笑)。
 というわけで、その実写版『ビッケ』の予告編が、こちら。

 で、中盤ちょっと過ぎに出てくる、上半身裸で巨体のヒゲ男(重みで船が傾いちゃったりしてるヤツ)が、現在のギュンター・カウフマン。
 ……太っちゃって、まあ(笑)。

バローズとかハワードとか

 だいぶ前に聞いて以来、楽しみにしている、エドガー・ライス・バローズの「火星シリーズ」の映画化。
 監督がロバート・ロドリゲス、ケリー・コンラン、ジョン・ファヴローと二転三転したり、ようやくアンドリュー・スタントンに決まったけど、実写かアニメーションかが明かではないとか、でもメインのキャスティングが発表されてきたとかで、まだけっこう期待していいものやら、身構えておいた方がいいものやら、ちょっとヨーワカランのですが、そんなときに、YouTubeでショッキングな映像を発見。

 げ、あれだけ待たせておいて、このチープさかよ!? と、一瞬アタマがマッシロになりましたが、よく読んだら、B級バッタもんビデオ映画専門のアサイラム制作の別作品(原作は同じだけど)の予告編だった。
 まあ、そーゆーことだったら、これはこれで楽しみです(笑)。ホモ狙いみたいな短髪のジョン・カーターは、けっこう見られる身体してるし、デジャー・ソリスがトレイシー・ローズだってのも、役柄云々は置いといて、彼女自体は個人的に応援したい出自の女優さんだし。
 というわけで、バローズ云々は忘れて、いまどき珍しい新作ソード&サンダル meets Sci-fiもののB級作品として、今から見る気マンマンに(笑)。とりあえず、腰布マッチョもの好きとしては、日本盤DVDが出たら買っちゃいそう(笑)。
 しかし、これでもし本命の劇場版もショボかったら、泣くぞ。
 いっぽう、ロバート・E・ハワードの「ソロモン・ケイン」シリーズの映画版予告編も。

 このシリーズに関しては、邦訳がないのでよく知らないんですけど、予告編の出来は、さっきのアサイラム版火星よりずっとマトモなので、フツーに期待しちゃいますね。
 ただ、監督のマイケル・J・バセットって、『デス・フロント』はそこそこ面白くて好きだったけど、その次の『処刑島』はウンコみたいな出来だったから……そこいらへんが、ちと不安要素。
 ハワードというと、IMDbによると「コナン」の新作も、マーカス・ニスペル監督で進んでいるそうで、画面のムードとかいう点では、これはいいかも。
 正直私は、ジョン・ミリアス版のカラッとした空気感が、あんまりピンとこなかったんで。軽い娯楽に徹しているという点で、まだリチャード・フライシャー版の方が好き。
 ただ、ニスペルはニスペルで、ムードに流れすぎで演出がタルくなる傾向はあるんですが。
 ラルフ・モーラー主演のTV版は……論外(笑)。サブキャラの、口のきけないスキンでヒゲのマッチョなコはカワイかったけど(笑)。

【追記】どっちも日本盤DVD出ました。
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年末年始に見たDVDあれこれ

3時10分、決断のとき [DVD] 『3時10分、決断のとき』(2007)ジェームズ・マンゴールド]
“3:10 to Yuma” (2007) James Mangold

 ひゃ〜、男泣きの映画だね〜。加えて父子モノでもあるし、ネタ自体でもうストライクでした。
 生真面目な作りで、娯楽モノとしても卒のない完成度。ストーリー自体が面白いので、今度オリジナル版(この映画はリメイクで、オリジナルは57年制作の『決断の3時10分』という映画らしい)も見てみたい。
 ラッセル・クロウ、クリスチャン・ベイル、共に良し。ピーター・フォンダは老けたねぇ(笑)。

決断の3時10分 [DVD] 『決断の3時10分』(1957)デルマー・デイヴィス

群盗、第七章 [DVD] 『群盗、第七章』(1996)オタール・イオセリアーニ
“Brigands, chapitre VII” (1996) Otar Iosseliani

 グルジアの中世〜現代史を、同一俳優が演じる複数の時代のエピソードをカットバックしながら、ユーモアとペーソスたっぷりに描いた作品。
 内容的には、時代のパラダイム・シフトに振り回される市井の人々というものなので、かなりヘビーなネタではあるんですが、ユーモアと人間のバイタリティに満ちた描写のおかげで、驚くほど楽しく見られました。特に、ソヴィエト時代の秘密警察による拷問なんつー暗黒エピソードを、ブラック・ユーモアたっぷりに描くあたりがスゴかった。
 イオセリアーニは、これまで『月曜日に乾杯!』しか見たことなかったけど、もっと見てみよう。

月曜日に乾杯! [DVD] 『月曜日に乾杯!』(2002)オタール・イオセリアーニ

Dvd_flightpanicpersia 『フライト・パニック ペルシア湾上空強行脱出』(2002)エブラヒム・ハタミキア
“Ertefae Past” (2002) Ebrahim Hatamikia

 宣伝には「イラン製の航空パニック映画!」と銘打たれているものの、これは絶対それ系に見せかけているだけで、中身はぜんぜん別モンだろうと睨んだところ、やっぱり大当たり(笑)。
 ストーリーは、かつてイラン・イラク戦争の激戦区だった田舎に住む男が、都会で働きぐちがあるからと、妻や一族郎党を引き連れて飛行機に乗るのだが、実はそのままハイジャックしてドバイに亡命しようとしていた……といったシチュエーションで、飛行機の機内という密室劇を通じて、家族の問題や社会批判といったものを、ユーモアたっぷりに描き出すというもの。
 まあ、とにかく先の展開が読めない面白さがあるし、舞台がほぼ機内だけという状況にも関わらず、いっさいの弛緩が見られない脚本や演出もお見事。
 社会批判やユーモアに関しては、ちょいとイランという国に関する知識がないと、辛いところはあるかも。最初にドバイ行きを聞いたときは、ギャアギャアわめいていた親族たちが、いざ腹をくくって亡命が決定すると、とたんに浮かれ出して(イスラムの戒律が厳しいイラン社会に対して、ドバイは極めて緩やか)、若い娘がチャドル(頭巾)をとってウィッグをつけたりする(イランではチャドルの着用は義務)あたりは、大笑いでした(笑)。
 かなり体制批判的な内容なだけに、ラストがちょいと哲学的かつ寓意的なのは、検閲に対する予防措置的な意味合いもあるのかもしれません。
 というわけで、同種の「航空パニック映画に見せかけてるけど、実はぜんぜん別モノです」なロシア映画『エア・パニック 地震空港大脱出』とかを気に入った人だったら、本作もオススメ。意外な掘り出し物感が味わえます。

エア・パニック -地震空港大脱出- [DVD] 『エア・パニック 地震空港大脱出』(1980)アレクサンドル・ミッタ

薔薇の貴婦人 デジタル・リマスター版 [DVD] 『薔薇の貴婦人』(1984)マウロ・ボロニーニ
“La venexiana” (1986) Mauro Bolognini

 中世のヴェネツィア、外国人旅行者のハンサムな青年が、欲求不満の未亡人と人妻相手に、セックスのアバンチュールを繰り広げる……とゆー、ホントーに「それだけ」の映画(笑)。
 まあ、他愛ないっちゃ他愛ないんですが、ヴェネツィアの風物はたっぷり楽しめるし、美術や衣装も上等だし、映像はキレイで雰囲気も上々なので、たとえ女の裸にあんまり興味がなくっても、けっこう楽しめる内容です。
 主人公の青年役は、ショーン・コネリーの息子ジェイソン・コネリー。その昔、『ネモの不思議な旅/異次元惑星のプリンセスを救え!!』っつービデオスルー映画(実はけっこう好きな映画なんですけど)で見たくらいかな〜、なんて思ってたんですが、チェックしたら、前にここで触れたことのある『ドリームチャイルド』にも出てたんですな、覚えてなかった(笑)。
 まあ、果たしてこの若者が、年増美人を夢中にさせるほどのハンサムかどうかは疑問があるし、若いわりには身体の線がいまいちシャープさに欠ける気もしますけど、尻丸出しの全裸シーンはふんだんにあるし、親父さん譲りの胸毛はステキなんで、まあ良しとしましょう(笑)。
 もちろん、女性のヌード好きだったら、ラウラ・アントネッリやモニカ・グェリトーレの美麗ヌードで、お楽しみどころはイッパイでしょう(笑)。てか、IMDbにはアニー・ベルも出てるって書いてあるけど、どの娘がそうだったんだろ?

ドリームチャイルド [DVD] 『ドリームチャイルド』(1985)ギャヴィン・ミラー

Dvd_taifukennoonnna 『颱風圏の女』(1948)大庭秀雄

 嵐の海に船で逃走したギャング団が、辛うじて孤島に辿り着くと、そこは気象庁の台風観測所で、折しも巨大台風が接近しようとしていた……ってな、アクション・サスペンス・メロドラマ。
 正直なところ、密室サスペンス的にもメロドラマ的にも、さほど面白い出来ではないんですが、原節子の珍しく蓮っ葉な演技が見られるというところが、一番の目玉ではないかと。個人的には、この人は笑顔よりも怒り顔や無表情のときの方が美麗だと思うので、このギャングの情婦役もなかなか美しいです。
 音楽が伊福部昭で、特に冒頭の嵐のシーンが、画面との相乗効果でエラいカッコイイ。
 メロドラマ部分が、かなり唐突に展開する印象があるんですが、ただこれは、映画が制作されたのが48年ということを考えあわせる必要があるのかも。ヒロインの言う「三年前に会いたかった」というセリフが、当時の観客にとっては、現在の我々が見て感じるものとは、おそらく全く違う効果があったんだろうな、ということは想像するに難くありませんから。
 映画の尺が68分という、短くてシンプルな娯楽作でありながら、敗戦というパラダイム・シフトの影響が、作中に自然と刻印されているのを見ると、平穏な時代に生まれ育った自分としては、何だか感慨深いものがありました。

Dvd_yuwaku 『誘惑』(1948) 吉村公三郎

 父親を亡くした女子大生(原節子)が、父親の教え子である妻子ある政治家(佐分利信)の家に引き取られるのだが、二人の間には次第と男女の愛情が芽生えてしまい……といった内容。
 流石に『安城家の舞踏會』と比べてしまうと、かなり落ちる感じはするし、杉村春子が結核を患っている令夫人だというのも、何だか違和感はあります。演出が、ところどころ大時代的な感じがしてしまうのも、仕方ないこととは言え否めない。
 それでもダンスホールのシーンとかで顕著なように、セリフを介さず人物の心情の動きを表現するのは、昨今の「何でもかんでもセリフで説明」な風潮にウンザリ気味の身としては、やはり「表現」というテクニックの巧みさが感じられて、唸らされました。
 けっこうアモラルな設定なのに、ストーリーとしては意外なほどドロドロせずに、逆に清々しいくらい。これは、登場人物が皆「真面目」なせいかしらん。そこいらへんが、ちょっと面白い。
 あと、ラストシーンがトレンディ・ドラマみたいで、うん、なんか微笑ましくてヨロシかったです(笑)。今これをやられちゃったら、安っぽくなって引きまくりだと思うけど、ここいらへんはやっぱ、スターのオーラってぇヤツかも。

安城家の舞踏會 [DVD] 『安城家の舞踏會』(1947)吉村公三郎

今年のあれこれ

 2009年も残り一日なので、今年のあれこれをちょいと反芻してみたり。

 マンガは、ゲイ雑誌を主軸に一般向けも二つほど(うち一つは、まだ世に出ていませんが)混じって、わりと充実していたかな。『父子地獄』を完結できたのも嬉しい。
 あと、月産ノルマ78ページという月があって、これは自己記録を更新してしまった(笑)。私はアシスタントを使わず一人でやっているので、流石にこれはちょっとキツく、某少年週刊マンガ誌の編集さんにも驚かれました(笑)。
 とはいえ、年間を通しては、そうメチャクチャ忙しかったというわけではなく、10年ほど前の、「バディ」で『銀の華』、「ジーメン」で『PRIDE』を、毎月並行連載しつつ、「ジーメン」では表紙イラストとレギュラー記事も幾つか担当し、合間に挿絵なんかもやりつつ、更には別名義での小説連載までしてた頃にくらべりゃ、ぜんぜん余裕かも。正直、あの当時のことをもう一度やれと言われても、今じゃ体力的にも無理だと思う(笑)。
 マンガ単行本も、日本で一冊、フランスで三冊(まだ最後の一冊は手元に届いていないけど)、イタリアで一冊出せたので、全部併せると例年以上のペースに。
 それと、マンガ関係で今年一番驚いたのが、文化庁メディア芸術祭から、『外道の家』がノミネートされたのでエントリー承諾書にサインしてくれ、という書類が来たこと。まあ、結果はもちろんかすりもしませんでしたが、ゲイ雑誌発のあーゆー作品が、こーゆーのにノミネートされたことだけで、もうビックリでした(笑)。

 一枚絵関係だと、これはやっぱりこのブログで詳細をレポした、フランスでの個展が大きかったですな。セレブにも会えたし(笑)。
 あと、オーストラリアの企画展にも参加したし、銀座の画廊の企画展にも監修で関わったけ。銀座ではトークショーもしましたが、ここんところ毎年、何かしらの形でこのトークショーってぇヤツをやっているような気がする(笑)。
 イギリスとフランスで一冊ずつ、アートブックへの掲載があったのも嬉しい出来事。

 プライベートでは、何よりかにより20年来の念願だった、モロッコ旅行ができたのが嬉しかった。
 アイト・ベ・ハッドゥの景観やメルズーガの大砂丘でのキャンプは忘れがたいし、マラケシュの喧噪も懐かしい。フェズのメディナで道に迷い、加えて暑さでヘロヘロになったのも、今となっては楽しい想い出。人里離れたところにある、ローマ遺跡のヴォルビリウスから、持参した携帯で鎌倉の実家に電話したら、ちゃんと繋がって父親が出たからビックリもしたっけ(笑)。
 タジン(モロッコ料理)も、色んな種類を食べられて美味しかった。個人的には、マトンとプルーンの入ったヤツと、肉団子と卵が入ったヤツが好きだったな。あと、パスティラという、鳩の肉をパイで包み焼きして、上にアーモンドと砂糖がまぶしてある、不思議な料理(笑)。しょっぱいんだか甘いんだか、何とも形容しがたい味なんだけど、でも不思議と美味しいのだ。
 あとはやっぱり、屋台のオレンジ・ジュースですな。生のオレンジを、その場でギュッギュッと幾つか搾って、ガラスのコップに入れてくれるの。疲れて喉が渇いたときには、これが一番でした。イランやパキスタンのザクロ・ジュース以来の、感激の美味しさ(笑)。

 映画は、ブログでもいろいろ書きましたが、輸入DVDで見た未公開映画に、感銘を受けたのが多かったような。
 何だかねー、最近「これは見たい!」って楽しみにしてたヤツが、劇場公開されずってパターンが多くて……。昨年暮れだったかも、ドイツ映画の実写版『クラバート』が、ドイツ映画祭か何かで上映されて、どーしてもスケジュール的に行けなかったんで、いつか一般公開されるんじゃないかと待ちつつも、けっきょくそれっきりでソフト化もされてないみたいだし……。
 そんな中で、『キング・ナレスアン』の日本盤DVDが無事出たのは、もうホント嬉しかったし、この間書いたように、『戦場でワルツを』を無事劇場で見られたのも嬉しかった。
 現在公開中のヤツだと、『監獄島』は、愛しのストーン・コールド・スティーブ・オースチン様主演だから気にはなるんだけど、内容的にどんなものなのか(笑)。ストーン・コールド様だけが目当てだったら、脱ぎっぱなしのプロレスのDVD見てた方がオイシイかも知れないし(笑)。因みに、このストーン・コールド様のプロレスの輸入盤DVD、私の気付かないところでウチの相棒が、ジャケを見てレザー系ゲイAVだと勘違いして、ホクホク喜んで再生し、中身を見てガッカリしたという逸話が、我が家にはあります(笑)。
 あと、映画じゃなくてテレビドラマですが、年末になってNHKの『坂の上の雲』を見たら、思いのほか出来が良くてハマってしまった。このドラマのことを何も知らなかったので、何を見るでもなく漫然とテレビを点けたら、第三話の再放送をしている最中で、軽い気持ちで「お〜、明治ものだ!」と見始めたら、そのまま最後まで目を離せなかった(笑)。
 私は普段、連続テレビドラマを見る習慣が全くないんですが、こればかりは、残り二話もしっかりチェック。放送時間になってテレビの前にやってきた私を見て、相棒が「ひゃ〜、珍しいね!」と驚いてた(笑)。というわけで、気に入ったにも関わらず、一話から三話前半までは未見なので、年明けとかにまた再放送してくれないかしらん。それとも、さっさとDVD出すとか……って、NHKだとDVDも高価そうだけど(笑)。
 それとまあ、こーゆーゲイはけっこう多いんじゃないかと思いますが、広瀬武夫役の藤本隆宏ってイイですね(笑)。相棒も「誰だい、これは?」と目を輝かせていました(笑)。越中褌でのヌードがあったので、今度は六尺姿を希望(笑)。
 昔の東宝の『日本海大海戦』では加山雄三だったけど、あたしゃこっちの藤本氏の方がダンゼン好きだ。しかし、気に入ってしまっただけに、今から「杉野はいずこ」のシーンを見るのが、怖いような楽しみのような……。

 マンガは、ブログで紹介しそびれていたヤツだと、何と言っても吾妻ひでおの『地を這う魚 ひでおの青春日記』が素晴らしかったなぁ。

地を這う魚 ひでおの青春日記 地を這う魚 ひでおの青春日記
価格:¥ 1,029(税込)
発売日:2009-03-09

 何がいいって、面白いとかしみじみするとか、そーゆーのもあるんですけど、何よりかにより作品全体の空気感がタマラナイ。その空気感に浸りたいがために、もう何度読み返したことか。
 自分が入っていきたくなる世界がそこにある、個人的な大傑作。
 最近買ったヤツでは、夢枕獏/伊藤勢『闇狩り師 キマイラ天龍変』1巻。

闇狩り師 キマイラ天龍変 1 (リュウコミックス) 闇狩り師 キマイラ天龍変 1 (リュウコミックス)
価格:¥ 590(税込)
発売日:2009-12-16

 雑誌『リュウ』を、オマケの手ぬぐいとクリアファイルに惹かれて買ったら(って小学生かい)、そこに連載されていたマンガで、絵に勢いがあってカッコイイので、単行本出たら買おうと待ち構えておりました(笑)。
 もともとが小説の外伝的な位置づけらしく、ストーリーの方はちょっとよーワカラン部分もあるんですけど(夢枕氏の小説も、浅学にも私は、20年以上前に『猫弾きのオルオラネ』を読んだっきりだし)、やっぱ勢いのある絵と迫力のある画面構成がカッコイイです。
 しかし、ドーデモイイことなんですけど、この伊藤勢といい、伊藤真美とか伊藤悠とか、伊藤姓のマンガ家さんって、絵に勢いがあって画面構成に迫力のある、カッコイイ作風の方が多くありません?(笑)
 何だか、だんだん「今年を振り返る」じゃなくて、ただの「近況つれづれ」になってきたので、ここいらへんでオシマイ。

『レッド・ウォリアー』

レッド・ウォリアー [DVD] 『レッド・ウォリアー 』(2005)セルゲイ・ボドロフ/アイヴァン・パッサー
“Nomad” (2005) Sergei Bodrov / Ivan Passer

 例によって酷い邦題ですが、原題は「遊牧民」の意で、18世紀のカザフスタンを舞台にしたエピック・ドラマ。
 制作国はカザフスタンとフランスですが、制作途中で資金切れとなり、ハリウッド資本(ワインスタイン兄弟)に引き継がれたらしいです。というわけで、米国公開バージョンなのかセリフは全て英語、メインの俳優陣も、アメリカ/イギリス映画で見かける面々。

 ストーリーは、18世紀のカザフスタン、複数の氏族が割拠して統一国家としては成り立っていなかったカザフ人のもとに、モンゴル系のジュンガル人が来襲して危機に陥っていたところ、予言された英雄が現れ、民族を統一してカザフスタンの危機を救う……といった内容。
 ここいらへんの歴史は全く知らなかったので、それだけで興味深く見られましたが、映画の感触としては、歴史劇というよりエピック・アクション劇といった感じで、往年のソード&サンダル映画なんかに近い、肩の凝らない娯楽作でした。
 救世主出現の予言、親を殺された赤子、主人公を導くオブザーバー的な役割の師、幼なじみの戦友、ヒロインを巡る三角関係……といった具合に、エピソード自体はエピックもののクリシェのオンパレードといった感じで、ストーリー的な新味は、あまりありません。
 実は、セルゲイ・ボドロフの単独監督作品だと思っていたので、けっこう期待していたんですが、その期待は、正直外れてしまいました。
 というのも、再生してみたら、監督がボドロフとアイヴァン・パッサーの二名になっていて、「ん?」と思ったんですけど、後からIMDbで調べてみたら、そもそもはパッサーが監督していたところ、前述の資金難で新しいプロデューサーが入り、その時点で監督もボドロフに交代したらようです。
 そのせいもあってか、ボドロフ監督の2007年作品『モンゴル』には、いたく感銘を受けたんですけど、この『レッド・ウォリアー』には、『モンゴル』の美点は殆ど感じられず。あの、神話的なまでの力強さを期待してしまうと、完全に裏切られてしまうのでご注意あれ。

 逆に、『モンゴル』がイマイチだった人には、こっちは軽い娯楽作品として退屈せずに楽しく見られるので、オススメかも。私自身、前述の期待値をさっ引いて考えれば、けっこう楽しめました。いちおう歴史に題材を採ってはいますが、モノガタリの構造としては、中央アジアの遊牧民というエキゾチックな舞台で繰り広げられるヒロイック・ファンタジー(ただし魔法と筋肉は抜き)みたいな感じなので。
 中央アジアの草原がメインなので、風景なんかは実に雄大で良し。騎馬の群れや軍団なんかの、物量感も佳良。
 町並みや城塞なんかも、国は違いますが、サマルカンドやタシケントなんかを思わせるペルシャの影響が色濃い様式で、そんな城塞を舞台にした攻城戦とかは、あまり他では見られませんし、見ていて楽しいです。
 アクション面では、いかにも遊牧の騎馬民族といった感じの、アクロバティックな乗馬技術を生かしたシーンなんかに、目を惹かれます。左右に居並ぶ矢衾の間を、サーカス芸のように馬を乗りこなし、飛んでくる矢を交わしながら駆け抜けるシーンとか、かなり見応えがありました。
 風俗描写やお祭りの情景なんかが見られるといった、観光映画的な楽しさもあり。
 ああ、あとラストカットが美しかったなぁ。ここはすごく印象に残りました。

 ただ、役者さんにちょいと難ありで、別に演技とかは問題ないんですが、問題はルックス。
 いや、美形だのブスだのといったことでもなくて、主役のクノ・ベッカーという人(未見ですが、『GOAL! ゴール!』シリーズの主演男優さんだそうです)、この人はメキシコ人らしいんですけど、正直、お顔が白人白人しすぎていて、あんまり中央アジアの人には見えないんですよ。
 サブ・キャラクターのジェイ・ヘルナンデス(『ホステル』の主役の人)も、いかにもラティーノといった顔なので、同様の違和感があるし、悪役のマーク・ダカスコスも、この人はハワイ系らしいですが、やっぱりしっくり来ない。
 まあ、民族や文化が交錯している中央アジアだし、バタくさい顔でも不思議はないのかも知れませんが、それでも周囲の人々がモンゴロイド系の顔なだけに、やっぱちょっとヘンな感じがします。特に主役のベッカーは、どう見ても父親役の人と同じ人種には見えないし。
 というわけで、メインのキャラクターが、それらしく見えないというのが、どうも全体の説得力の足を引っ張っている感が否めません。今どきの映画で、これはちょっと辛いかなぁ。
 ただ、オブザーバー役のジェイソン・スコット・リーや、ヒロインのオンナノコ(ちょい、眉毛描いている珍獣ハンターの人に似ている気が)や、敵の王様なんかは、違和感もないしいい味を出しています。

 そんなこんなで、まあ全体的に「そこそこ」ではありますが、中央アジアの風物史が好きとか、馬が好きとか、エキゾなエピックが好きとか、絵面としての歴史劇を楽しみたいとか、そういった好きポイントが合致する人ならば、珍しいネタでもありますし、一見の価値は充分にあると思います。
 シルクロード好きなら、要チェックですね。

『提督の戦艦』

提督の戦艦 [DVD] 『提督の戦艦』(2008)アンドレイ・クラフチューク
“Адмиралъ” (2008) Andrei Kravchuk

 第一次世界大戦からロシア革命の激動の時代を舞台に、ロシア帝国海軍の提督から白軍の司令官となったアレクサンドル・コルチャークの後半生を描いた映画。
 DVDパッケージの煽り文句は、スペクタクル戦争アクションという感じなんですけど、実際に中身を見てみると、ストーリー的な軸は、コルチャーク提督と部下の妻の不倫劇で、その合間合間に、歴史的叙事や大規模な戦闘シーンが描かれるという内容。いわば、スペクタクル・メロドラマって感じ。

 で、スペクタクル系のヴィジュアル面は、実に充実しております。戦闘シーンは、物量もスケール感もあれば、迫力やエグ味もタップリ。広大なロシアの風景も雰囲気抜群。
 また、歴史劇としてのヴィジュアルも、美術や衣装は文句なしの出来映えだし、舞踏会とかは実に華麗でゴージャス。絵巻物的に存分に楽しめるので、そういう面の満足度はかなり高し。
 ただ、内容の方は……まあ悪いとは言わないけど、いささか単純に過ぎるかなぁ。
 メロドラマ部分は、視点が完全にヒーローとヒロインに寄り添っているパターンなので、主人公カップルに感情移入して見ないと、ちとキツい。主役二人以外のキャラクターに関して、ほとんど掘り下げがないので、人間ドラマ的な深みという点では、正直かなり物足りない。
 ただ、ヘンに判りやすい悪役然とした恋敵がいるとか、そういったキャラクター造形的な安っぽさがないのは好印象かな。二組の夫婦による四角関係のわりには、あんまりドロドロしないので、前述したような物足りなさがある反面、スッキリとした清々しさのようなものはあります。

 歴史劇としては、時事を綴った絵巻物的には面白いんですけど、それ以上でも以下でもなし。
 エピソードや見せ場は盛り沢山で、見ていて飽きることも全くないんですけど、反面、歴史観がシンプルすぎて、善悪がはっきりとした紋切り型であるという感は否めない。
 あと、やはりキャラクター描写が主人公カップルに偏り過ぎているので、それ以外に色々とドラマチックなことが起こっても、叙事的な群像劇としての魅力がイマイチで、もう一つエモーショナルな盛り上がりに繋がらないのは残念。
 そんなこんなで、ある意味単純極まりない内容を、豪華絢爛でスペクタキュラーな映像で彩るという、いわば『タイタニック』のロシア版みたいな感じです。じっさい構成とか見ると、かなり同作を意識しているっぽいし。
 個人的な好みだけで言うと、こっちのヒーロー(『ナイトウォッチ』の主演男優)の方がディカプリオよりもタイプだし、ヒロインもこっちの方が美人に感じたので、『タイタニック』よりは感情移入しやすかったかな(笑)。
 まあ、ボンダルチュクの『戦争と平和』や、リーンの『ドクトル・ジバゴ』なんかと比べてしまうと、率直に言って、それらには遥かに及ばない出来ではありますが、シンプルゆえの気楽な面白さはあるし、画面自体は前述したように見応えタップリなので、歴史モノが好きだったら見て損はないと思います。

 最後に一つ、興味深かったのは、イデオロギー的な立ち位置。
 この映画では、完全に、ロシア革命や赤軍を「悪」、主人公側の白軍を「善」とする立場で描いています。
 ナチスよろしく、暴虐的な集団として描かれるボリシェヴィキを見て、つい相棒と「ソビエト時代だったら、ぜったいに作れなかったよね〜、こんな映画」なんて言い合ってしまったくらいで。
 しかし、社会のパラダイム・シフトによる価値観の逆転が、かくも極端に出ているのをオンタイムで見ると、ちょいと空恐ろしい感じはします。二次大戦前後の日本も、こんな感じだったのかしらん。

『戦場でワルツを』

『戦場でワルツを』(2008)アリ・フォルマン
“Vals Im Bashir” (2008) Ari Folman

 1982年、イスラエルのレバノン侵攻に従軍しながら、その当時の記憶がない主人公(監督自身)が、その記憶を取り戻すために、当時を知る様々な人々にインタビューしていくというドキュメンタリーを、実写ではなくアニメーションという手法を使って描いた作品。
 公式サイトはこちら

 いやぁ、スゴかった……。
 あちこちで話題になっていた作品でもあるし、私自身、町山智浩さんが紹介していたのを聞いて以来、期待もしていたし、あれこそれ想像も巡らせていたんですが、それらを遥かに上回る内容でした。
 基本的にこの映画は、パーソナル・ヒストリーを描いたドキュメンタリーです。
 邦題に「戦場」とあるように、確かに戦争という状況下の出来事を描いたものではありますが、監督の視線は、戦争というシステム自体の様相を描くのではなく、あくまでもそれを、その中に組み込まれていた個としての目線で見ている。
 この軸は、一貫してぶれることはなく、よって、戦争および戦場のあらましを含めた全てのエピソードは、徹底的に主観として描かれています。
 一例を挙げると、取材対象であるインタビューイたちの映像は、アニメーション的な自由さとは全く無縁の、実写的で地味な映像(しかし同時に、対象との心理的な距離感に応じて、映像的な「色気」も変化するという細やかさ)で描かれます。
 対して、彼らの語りから呼び起こされた記憶や、その語りによって聞き手(主人公である監督)の脳内に再生された光景は、例えそれが現実に起こった出来事であるとは言え、表現としては、いかにも映像作家らしい奔放な、時として華麗なまでのイマジネーションを伴って描かれる。
 そして、こういった徹底した主観表現によって、描き出されたものは、逆に個を越えた普遍的なものへと到達し、しかも最後には、それらが主観から客観へと、鮮やかに転じる。
 これはつまり、個人の内面を掘り進めた結果が、より汎的かつ普遍的な価値観へとつながり、同時にそれが、社会的な意義にも繋がっているというわけで、いわば芸術作品として超一級の出来映えと言える内容。
 にも関わらず、晦渋さや自己満足的な閉塞感は全くない。それどころか、ミステリー的な構造や、前述したような映像表現、そして、巧みな音楽の使い方などによって、娯楽作品的な要素も兼ね備えている。加えて、絵とは何か、実写とアニメーションの違いとは何か、といったメディア特性をしっかりと把握しながら、同時にそれを完全に生かし切っている。
 いや、お見事、素晴らしい!

 作品制作のスタンスが、前述したようなパーソナル・レベルに基づくものなので、レバノン侵攻自体が何であったのかとか、その是非や功罪を検証したいといったような、政治的な興味が主で見てしまうと、ちょっと物足りなかったり、不満な部分もあるかもしれません。
 しかし、そういったことを期待するのなら、それこそ本の一冊でも読むか、あるいはテレビのドキュメンタリー番組を見たほうが良いでしょう。前述したように、この映画の本質は、地域や社会を限定した特定の戦争自体を描くことではないのだから。
 この映画で真に刮目すべき点は、特定の戦争を個の視点のみで描きつつも、いつの時代どこの場所の戦争でも変わらない普遍性を獲得し得ているということ、そしてそれを、優れた映像芸術として表現し得たこと、この二点に尽きます。
 ただ、鑑賞にあたっては、多少なりともレバノン内戦に関する知識がないと、判りづらい部分があるかも。
 最小限、そもそもレバノンはキリスト教徒とイスラム教徒が共存してバランスを保っていた国家だということと、そこにパレスチナ難民が流入したことでパワー・バランスが崩れ、内戦状態に突入したということ、主人公の属するイスラエル軍は、キリスト教徒側の支援のために内戦に介入したということ、くらいは知っておいた方がよろしいかと。
 でも、さほど難しく構えなくても大丈夫。
 タイトルにもなっているバシール(原題は『バシールとワルツを』)という人は、レバノン国内のキリスト教徒側勢力、ファランヘ党の若きカリスマ指導者で、イスラエルのバックアップによって、レバノン大統領に就任した人物らしいですが、私自身、このバシール・ジェマイエルという人に関する知識はなかったけど、そこいらへんのあらましは、映画を見ているだけでも見当がつきましたから。
 まあ、それでもこういう内容の映画は、背景の理解度が深ければ深いほど、映画の理解度は深まりそうではあります。
 因みに私個人は、一昨年にドキュメンタリー映画『愛しきベイルート/アラブの歌姫』を見て、「ひゃ〜、レバノン内戦って、こんなヤヤコシイことだったのか」なんて感じたことが、状況を理解するための助けになった部分があったので、興味のある方はご覧になってもよろしいかも。DVDも出てますんで。

 でも、背景説明ではなく、映画の内容自体に関しては、これは絶対に余分な知識はない方がいいと思います。
 ストーリーとかに関しては、下調べしたりせず、できるだけフラットな状態で見るのがオススメ。
 いやはや、それにしても、今年も暮れになってスゴいのを見ちゃったなぁ……って気分。
 まだちょっと、打ちのめされてる感じだなぁ。
 自分にとって、今年のベストワンはこれかも。

Waltz With Bashir Waltz With Bashir
価格:¥ 1,742(税込)
発売日:2008-11-11
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価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2007-06-29

つれづれ

 フランスの出版社H&Oから、「GOKU(『君よ知るや南の獄』の仏題)の3巻を、今月18日に出すよ」と連絡あり。
 この本は、翻訳段階で大きく躓いてしまい、発行が遅れに遅れてしまったんですが(最初の翻訳者が仕事を途中で放り投げて失踪してしまったのだ)、今年の1月は1巻が無事発売されてからは、こうして残りも順調なペースで進んでくれて、とりあえずはホッと一安心です。
 この3巻の発売と同時に、全3冊を収納できるボックスも出る予定。彼らは「コフレ」と言っていましたが、仏話辞典にある「化粧品や宝石を入れる小箱」って説明とは、だいぶイメージが違う(笑)。だって、カネボウの化粧品で「コフレドール」ってのがありますが、あの「コフレ」と同じ「コフレ」だし(笑)。
 本の詳細等は、手元に本が届くなり、H&Oのサイトに動きがあるなりした時点で、また改めてお知らせします。
 また、これと並行してH&Oとは、次の仏訳版マンガや新しい画集の話なんかも進行中なので、こちらも具体化したら改めて。まぁ、いつになるかは判りませんけど(笑)。

 これとは別件で、やはりフランス相手の打ち合わせが一つ。日本のマンガの研究書シリーズを出している小さな出版社で、そのエディターが来日したので、近所の茶店でミーティング。
 ここの出しているマンガ研究書シリーズは、第1弾のテーマが「BL」(このときちょっとお手伝いしました)、第2弾が「手塚治虫」(パリで本を貰ったんですけど「手塚治虫のカーマスートラ」なんつー思っくそ面白そうな章もあるのに、フランス語だから読めないのがチョー残念)でした。今回の話は、次はマイナー系だかアングラ系だかという括りで本を出すので、またそれに協力して欲しいという内容。
 まあ、発行予定はまだまだ先のことのようで、無事に出るのかどうかも判りませんが、自分に出来ることなら協力はしますよ、と、お返事。
 このエディターさんが、今年の5月にもパリで会った人なんですが、日本語ペラペラ読み書きもOK。メールも会話も全て日本語なので、コミュニケーションが楽チン(笑)。ついつい話も弾んで、フランスでの日本のマンガの出版事情とか、BLがどう受け止められているかとか、いろいろ面白い話も聞けました。

 今日見たDVDは、これ。

今日も僕は殺される デラックス版 [DVD] 『今日も僕は殺される』(2007)ダリオ・ピアーナ
“The Deaths of Ian Stone” (2007) Dario Piana

「今日、僕は殺された。そして、明日も殺される…。 目が覚めるたびに始まる何事もない一日。しかし、その結末には必ず無残な「死」が待っている。 覚えているのは、殺された時の絶望的な恐怖感だけ。僕は殺されるために生かされているのか? ループする「死日常」の果てに訪れる闇の真実とは…?」なんて惹句から、ホラーかミステリーかサスペンスか、はたまた不条理系かと思ったんですが、蓋を開けてみたら、どっちかというとダーク・ファンタジー系+モンスターものといった感じの内容でした。
 しかも、モンスターものしても、かなり古典的なスタンス。ドラキュラのバリエーションと言っても良いくらいで、結末(というか解決法)も今どき珍しいくらいの直球勝負。オチに驚くんじゃなくて、ヒネリのなさにビックリしちゃったくらい(笑)。
 正直、シチュエーションの面白さのわりに、ストーリーはそれを生かし切れていない感が強いんですけど、テンポは良いし、演出自体も佳良なので、ダレたり飽き足りすることもなく、楽しく一気に見られました。全体のムードも、奇妙な物語系の不穏な空気に、モダン・ホラー的なソリッドさを上手く混ぜた感じで、なかなかヨロシイです。

 でまあ、私の一番のお目当ては、主演がマイク・ヴォーゲルだってことなんですけど、相変わらず、いまいちアクに欠けるハンサム君のせいか、アイスホッケーのエースプレイヤーだったりビジネスマンだったり、すっきり清潔でキレイなシチュエーションだと、さほどいいとも思えないんですけど、寝不足のタクシー運転手やジャンキーの帰還兵とかいう、ちょいと薄汚れたシチュのときは、やっぱなかなかセクシーでカワイイ(笑)。もうちょい歳くって男臭さが身に付いたら、上手くいけば、今のポール・ウォーカーみたいな、個人的なご贔屓男優になってくれるかも。
 で、そんなマイク・ヴォーゲル君が、手を替え品を替えして、あれやこれやとブチ殺されてくれるので、そこは無条件で嬉しかった(ヘンタイ)。ただ、残酷描写としては、今どきの映画としては比較的大人しめ。
 殺しじゃない責め場としては、病院のベッドに頭と手足を枷で拘束されて、上半身裸でアレコレ拷問されるシーンがあるので、医療器具系SM好きにはちょっとオススメ。ジャケ写にもなっている頭を固定する器具とか、今度自分のマンガでもこーゆーの使ってみたい(笑)。