“Die Horden des Khan” ((1962) Remigio Del Grosso
例によって、イタリア製ソード&サンダル映画のDVD(ドイツ盤)なんですが……う〜ん、久々に変なヤツを見てしまった(笑)。
伊語原題は”Ursus e la ragazza tartara”、英題は”Ursus and the Tartar Princess”で、いちおうウルスス(英語読みだとアーサス)ものなんですが、実はウルスス君は脇役で、主役は別だったりします(笑)。
ストーリーは、タタールの侵攻を受けているポーランドで、捕虜になったマッチョな樵のウルスス(この時点で既に変)とポーランドの王子(こっちが主役)が、奴隷にされているポーランド人たちと脱出し、大戦闘の末に勝利する……ってな内容。で、そこにポーランドの王子とタタールのお姫様と恋やら、樵のウルススと攫われた息子との再会やら……ってなエピソードが、挟まっていく。
まあ、これだけだったら、さほど変テコでもないんですが、サービス精神旺盛というか、それらに加えて、西洋史劇の「お約束」シーンが、節操なくドバドバ投入されるんです、この映画。
例えば、ポーランドの捕虜たちはキリスト教徒で、タタールはその棄教を迫るなんてエピソードがある。で、これが、捕虜たちが洞窟で秘密裏にミサを行っていたところ、タタールの姫が愛する男を慕って忍んで行き、やがて主催の神父が捕らえられ、両腕にタールを塗られて火責めにされているところを、賛美歌と共に、一天にわかにかき曇り、雷鳴が轟き豪雨が降って火を消し止め、それを見て姫は改宗を決意し……ってな、『クォ・ヴァディス』や『ベン・ハー』のつまみ食いみたいな塩梅。
かと思えば、タタールの姫を巡って、ポーランドの王子とハーンの部下の恋の鞘当てなんてのもあり、これがまた、中世騎士ものよろしく、馬に跨り槍を構えて、一対一の御前試合。他にも、ウルススと姫の侍女の悲恋だの、実は娘思いだったタタール将軍の悲劇だの、とってつけたような「泣かせる」シーンが、ロクな前振りもなくトートツに入ってくる(笑)。
もちろん、肉体派男優の売り的な見せ場も、抜かりなく、しかし珍妙に配されています。
そもそも鎧兜で完全武装して銃までぶっ放しているポーランド軍の中に、一人だけ、まさかり振りかざした肌も露わなマッチョ(つまり、樵のウルスス君)が混じってるという絵面からしてヘンテコなんですけど、周囲は剣で斬り合っているのに、ウルスス君だけは、相手をねじ伏せたり投げ飛ばしたりの肉弾戦。更に、タタールの生き残りが樹に登って隠れようとしたところを、怪力で幹を揺すぶって振り落とす……なんて展開は、もうギャグかと(笑)。
他にもウルスス君は、捕虜仲間と一緒に洞窟に脱出口を掘っていて、その怪力で巨岩を担いで引っこ抜くとか、無事脱出した後も、まさかりと怪力で橋桁を弛ませて、追っ手を阻止したりしますが、ストーリーのメインには殆ど絡んでこない役なので、英雄大活躍じゃなくて、単なるオマケ、刺身のツマ程度にしか見えない(笑)。
また、昔のエピック映画に欠かせない、音楽や踊りのサービスもきっちりあるんですが、これの入り具合が、またヘンテコ。
脱出口を掘っている捕虜たちは、バラライカを持った見張りを一人立てていて、その演奏でタタールの巡回が来たかどうか知らせるんですけど、その巡回がバラライカの演奏を気に入って、暢気なことに、自分たちの宴会に連れていくんですな。で、捕虜たちは、そこに踊りの名手や怪力ウルススを同行させて、見事なコサックダンス(かなりの上手さで見応えはありましたが)を披露し、敵の気を弛ませたところで、逆襲に転じて武器を強奪、脱出に成功する……って、展開がマヌケ過ぎるだろう(笑)。
他にも、広場でエキゾチックな歌と踊りが繰り広げられる、けっこう大規模なシーンもあるんですが、どうやら他の映画からの流用らしく、これまたトートツなことこの上ない(笑)。
スペクタクルな見せ場、つまり大戦闘シーンとかも、いちおうあることはあるんですが、これまたやっぱり、全て他の映画からの流用。
で、その結果、クライマックスの、タタール軍対ポーランド軍の大決戦シーンで、主人公一行が何をしているかというと、山小屋に隠れて、食事を作ったり昼寝したりしながら、窓から戦況をチェックしているだけなのだ(笑)。まあ、流石に最後の最後には、彼らも外に打って出ますが、戦闘に加わると言ったって、ただ、俳優と青空以外は何も写っていない、剣を振りかざしているクローズアップが、モブシーンの合間に入るだけです(笑)。
という具合に、安手なクセに変にテンコモリなので、もうシッチャカメッチャカ(笑)。
いやぁ、久々にヘンテコなヤツ、見ちゃったなぁ(笑)。ツッコミどころだらけで、実に楽しかった(笑)。
ウルスス役は、ジョー・ロビンソン。IMDbによると、有名なレスリング一家の息子で、本人もヨーロッパ・チャンピオンになったレスリング選手だそうな。ソード&サンダル映画だと、”Taur, il re della forza bruta (Tor: Mighty Warrior)”や”Le Gladiatrici (Thor and the Amazon Women)”などに出ているらしいですが、いずれも未見。
なかなか立派な身体で、ボディービルダー系と比べると筋量は少ないですけど、個人的には、このくらいの自然な筋肉の方が、セクシーさは感じますね。顔は、とりあえず今回はフルフェイスのおヒゲさんなので、ぎりぎりクリア(笑)。でも、ヒゲがなかったら、きっと見向きもしないタイプ(笑)。
主役のポーランドの王子は、エットレ・マンニ。フィルモグラフィーを見ると、けっこうソード&サンダル系では見ている映画も多いんですけど、すいません、ちっともお顔が記憶にゴザイマセン(笑)。
タタールの姫役に、海外で活躍した日本人女優のはしり、ヨーコ・タニこと谷洋子。ソード&サンダル系では、前にここで紹介した”Samson and the Seven Miracles of the World”、それ以外でも、日本盤DVDが出ているスタニスワフ・レム原作のSF映画『金星ロケット発進す』(これはなかなか面白かった!)などで拝見しております。今回、改めて見ると、ちょっとチャン・ツィイーに似ているような気も。
ま、映画が映画ですんで、役者的な見所は皆無です(笑)。ジョー・ロビンソンの半裸だけ(笑)。
責め場の方は、前述の神父の火責めの他にも、広場でセント・アンドリューズ・クロスに磔にされているポーランド人捕虜のシーンがあります。
神父同様、これも両腕に薪が巻かれて火を点けられているという、ちょっと変わった火責めになってるんですけど、これは、タタールのヨーロッパ侵攻の際、そういう処刑があったという逸話でもあるんでしょうかね? 日本だと、元寇の際、捕虜が掌に穴を開けられて、そこに縄を通して吊されたという、有名な伝承(因みに私は、この話を小さい頃に父から聞かされました)がありますけど、ちょっとそれを連想しました。
あと、これはおそらく他の映画からの流用シーンだと思いますけど、タタールに攻め込まれた村で、捕らえられた村の男たちが、上半身裸で杭に磔にされているってなシーンも出てきます。
そんなこんなで、肝心のウルスス君の責め場がないのは物足りませんが(笑)、公開処刑好きとしては、そこそこお得感はあったかな。
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クジェシミール・デブスキの『ファイアー・アンド・ソード』サントラ関係
前回のエントリーに関連して。
クジェシミール・デブスキによる『ファイアー・アンド・ソード』のサントラですが、ファンが多いのか、YouTubeにMADビデオがウジャウジャあったので、良心的(笑)なものを幾つかセレクトして、貼ってみませう。
いや、マジで好きなサントラなので、布教活動だと思って(笑)。
メイン・モチーフ。哀愁泣きメロ。
エピックな感じの変奏。荘厳です。
コサックの進軍。ガンガンいきます。
で、こっちがポーランド軍。こっちも負けてません。
愛のテーマ、みたいなもの。美麗。
ウクライナ賛歌、みたいなものなのかな? 原曲は民謡かも。
前回、国内での取り扱いは見つからずと書きましたが、改めて検索してみたら、Vol.1と2のセットが、楽天市場のここと、Yahoo!ショッピングのここにありました。
あと、Vol.1のみだったらHMVのカタログにもありました。
amazon.co.jpのカタログにもあるんですけど、こちらは残念ながら、「現在お取り扱いできません」状態。
ついでにオマケ。
前にここでちらっと触れた、ホセ・クーラとエヴァ・マラス=ゴドレフスカの共演盤『ソング・オブ・ラブ』から、クジェシミール・デブスキ作曲の表題曲をば。アンドレア・ボチェッリとかサラ・ブライトマンとか、そこいらへんのテイスト。
CDは既に廃盤みたいですが、amazon.co.jpのマーケット・プレイスには出ています。
『エンド・オブ・ワールド』
『エンド・オブ・ワールド』(2007)パオロ・ポエッティ
“Pompei, ieri, oggi, domani” (2007) Paolo Poeti
イタリア製テレビ映画。
ジャケットと裏の煽り文句からは、どー見ても現代が舞台のディザスター・パニック映画としか思えないんですけど、蓋を開けて見ると、実は中身は西洋史劇とゆー、サギ邦題系(笑)ソフト。
いちおう映画のアタマは、現代のナポリで不穏な地震が起き、これはひょっとして、かつてポンペイを滅ぼしたあのヴェスヴィオ火山が、再び噴火する兆候ではないか……といった、いかにもディザスター・パニック映画の導入っぽい感じで始まります。
で、値崩れしたロック・ハドソンみたいな火山学者と、ジャーロ映画の殺される娼婦役とかが似合いそうな美人大学助手というコンビが、反発しながらも次第に惹かれ合い……ってな、コテコテのラブロマンスの気配を漂わせながら、ポンペイの遺跡に行く。そして美人助手が、抱き合いながら死んだ犠牲者の石膏型を指して、「互いに庇い合っているように見えない? きっとこの二人は、深く愛し合っていたのよ……」なんてカンジで、当時のポンペイの様子を語り始める。
はい、以上イントロ、映画開始からここまで、約8分間。
ここからあと1時間40分、ひたすら古代のポンペイを舞台に、その時代を生きた人々と、それが噴火で滅びるまでのドラマが描かれます。まあ、ビックリ(笑)。
というわけで、現代モノのパニック映画を期待して借りた人だったら、「うが〜、だまされた〜!」ってなること必至なんですけど、史劇好きなら無問題、ってか、却ってお得感あり……かな? 少なくとも、私は嬉しかったけど(笑)。
史劇パートの主人公は、奴隷剣闘士。それが、同じ奴隷の召使い女と恋に落ちたり、そこにポンペイの執政官の妹がちょっかいを出したり、執政官は執政官で、正体不明の謎の奴隷女に入れ込んだり、かと思いきや、妹は兄の側近の軍人にも色目を使ったり……と、「昼ドラですか?」ってな恋愛劇が繰り広げられます。
それと並行して、闘技場での闘いやら、キリスト教徒の受難やらといったドラマが加わってくるんですが、まあ何というか、昔から良くある古代ローマもの映画のお約束シーンを、あれこれツギハギしたみたいなお話(笑)。因みに、エドワード=ブルワー・リットンの『ポンペイ最後の日』とは、全く違う内容。
そんなこんなで、内容的には既視感のオンパレード、キャラクターも類型的なものばかりなので、きっと音声なし字幕なしで見ても、あらかたの筋は把握できるだろうってくらい、コテコテの展開でした(笑)。セットとかのスケール感はそこそこあるし、衣装や小道具も佳良の範疇と言えるんだけど、ストーリー展開の安易さと、キャラクター造形の浅さのせいで、どうも全体的に「安っぽい話」になっちゃってますな。
せっかく、冒頭で現実に存在する亡骸の石膏型なんてのを出したんだから、せめて「この亡骸は主人公たちなのか、それとも他のカップルなのか?」ってことを、もっと上手くミスリードとか混ぜて引っ張るだけで、だいぶ面白くなると思うんだけど、もったいないっス。
ただ、IMDbで調べてみると、これ、元々は三時間あるミニシリーズなんですな。で、このDVDは、それを二時間足らずに縮めたダイジェスト版らしい(またかい)。
となると、展開の安易さは、伏線がカットされたせいかもしれないし、キャラクターの浅さは、エピソードが削られたせいなのかも。三分の一も削られちゃったら、どんな映画だって、無惨な結果になるだろうし。
でも、俳優陣がいずれも、お世辞にも「上手い」とは思えないから、例え完全版になったとしても、やっぱそれほど期待はできないかなぁ(笑)。
まあ、細かい部分に限って言えば、主人公がトラキア人だという設定は、古代ローマの剣闘士の種類に「トラキア剣闘士(トラークス)」ってのがあったことを踏襲しているんだろうし、ポンペイ滅亡の約10年前、ユダヤ戦争におけるエルサレム陥落を絡めたキャラクターがいたり、『クオ・ヴァディス』を意識したのか、キリスト教徒の指導者が「マタイ」(字幕ではマシュー)と「トマス」という意味深な名前だったり……と、ちょっと面白い要素や着眼点も、そこそこあります。
あとはまあ、剣闘士が主人公ですから、裸のマッチョはいっぱい出てくるし(笑)、前述したように、イマドキ珍しいくらいにアナクロな、ソード&サンダル映画的な「ツボの押さえ方」をしてくるので、往年のマカロニ史劇ファンとしては、ついつい頬がゆるんでしまう(笑)。宴会シーンでダンスシーンなんつー「お約束」を、21世紀の映画で見られるなんて、もうビックリ! ただし、踊りのド下手さにもビックリしたけど(笑)。
そういう作りなので、そのテのマニア向けサービス(なのか?)は、なかなか行き届いています(笑)。
主人公はなかなかのマッチョで、着ているチュニックも、破れたのか生地が伸びたのか、ルーズタンクトップみたいなシルエットになっていて、着衣でも肌見せはバッチリ(笑)。養成所での訓練や闘技場での殺し合いの他にも、剣闘士どもの集団入浴シーンまで、マニアが見たがるシーン(ホントか?)は、ちゃんと押さえてくるのが嬉しい(笑)。
もちろん主人公の責め場も、伝統に則って(笑)ちゃんとあります。これは、最後にまとめて後述。
役者さんですが、主人公の奴隷剣闘士は、なかなか良い身体をしてますし、胸毛もあるし、無精ヒゲだし、薄汚い系の長髪だし、割といい感じ。顔も、まあ『L’UOMO VOGUE』の表紙とかに載ってそうな、そこそこのハンサム。身体も含めると、『EXERCISE FOR MEN ONLY』とか『MEN’S EXERCISE』に載ってる、フィットネス・モデルみたいな感じかな。
他の役者はね〜、う〜ん……(笑)。
いちおう有名どころでは、現代パートで年長の火山学者を演じているのが、マチュー・カリエールだったりしますけど、はっきり言ってドーデモイイ役だし、そもそも、この現代パート自体が、「別に。なくてもいいじゃん!」ってなどーでも良さだからなぁ(笑)。だいいち、この構成だったら絶対に、(以下ネタバレなので反転)最後に現代のヴェスヴィオ山も噴火すると思ったのに、けっきょく何もなく、学者と助手の三文恋愛ドラマでお話しが締めくくられたのには、もー、チョーびっくり(笑)。
やけにアゴが長いヒロインを筆頭に、お色気要因の女性陣も、イマイチ美人には見えないか、美人っちゃあ美人なんだろうけど、安っぽかったり(笑)。主人公の剣闘士仲間には、そこそこオイシソウなのもいるんだけど、役柄的に刺身のツマにすらなってないからなぁ(笑)。
というわけで、あまり他人にオススメするようなもんでもないんですが、懐かしのB級史劇好きの方と、コスプレ・マッチョ好きの人だったら、かなり楽しめると思いますし、史劇だったらとりあえず見てみたいという方でも、さほどハチャメチャなナンチャッテ史劇ってわけでもないので、見ても損はないと思いますよ。
エンド・オブ・ワールド [DVD](amazon.co.jp)
さて、では責め場関連。
まずは、奴隷である主人公が暴れ回っているところに、通りかかった興行主が目を付け、投網で取り押さえられたところを、奴隷剣闘士にするために買うんですが(……って、ホントお約束パターンだな)、檻状の馬車の上、横木に両腕を縛られたボンデージ姿で、ポンペイまで連行。
もう一つ、ヒロインの奴隷娘が、剣闘士養成所で酒をこぼして鞭打たれそうになる。そこに主人公が助けに入り(……って、またベッタベタのお約束)、反抗の罰として、テーブルに腹這いに押さえつけられて、裸の背中をフロッギング。
まあ、展開も古風なら、見せ方も古風で、イマドキのCGIや特殊メイクで、エグいものを見せてくれるわけではないです。鞭打ちシーンはミミズ腫れすらないし、後半の闘技場での殺し合いシーンでも、切った刺したの瞬間は、アングルで隠したり返り血で表現したりという奥ゆかしさ(?)なので、そーゆー意味では物足りない(ヘンタイ)ですけど、ま、個人的にはけっこうお得感アリでした(笑)。
お正月に見たDVDとか
『明治一代女』伊藤大輔
伊藤大輔監督は良く知らなくて、映画を見るのも、たぶんこれで三本目くらいだと思うけれど、そのたびに「上手いな〜」と感心させられます。
今回は殺人劇のシーンで、橋を挟んだ向こう側とこちら側という状況を使い、ドラマとしてのモノガタリを見せると同時に、明治という時代状況そのものも表現してみせるあたりに、ひたすら感嘆。
メインのドラマや役者さんの演技という本筋以外にも、生活風俗の描写などディテールの見所も多く、大満足の一本。あ〜、『銀の華』を描く前に、これを見ておきたかったなぁ(笑)。
明治一代女 (amazon.co.jp)
『ミツバチのささやき』ビクトル・エリセ
前に出たBOXを持っていたので、再購入するかどうか散々迷ったんですけど、画質向上や初収録作品や特典の魅力に負けて、けっきょく買っちゃいました。
とりあえず、一枚だけ見ましたが、画質に関しては、前のがちょっとアレだったせいもあって、この新盤は佳良だったので一安心。特典等は、まだ未見。
実は、ビクトル・エリセ作品で一番好きなのは『エル・スール』なんですけど、それを見るのは、次の仕事明けのお楽しみに……と、とってあります(笑)。
ビクトル・エリセ DVD-BOX(amazon.co.jp)
『トゥルーへの手紙』ブルース・ウェーバー
私、犬好きなもので(笑)。それに、カメラマンとしてのブルース・ウェーバーは、大学生の頃に憧れのマエストロの一人でした。
一緒に見ていた熊が「スクラップ・ブックみたいな映画だ」と言いましたが、様々な素材をコラージュすることによって、テーマやメッセージが浮かびあがっていくという手法が、ドキュメンタリー映画に詩情を加味するという点や、映像表現の方法論として、興味深くて好きなポイント。
でも、いちばんビックリしたのは、今回は再見だったにもかかわらず、ウチの相棒が、前に一緒に見たのをすっかり忘れていたこと(笑)。
あ、これだけゲイ関係(監督がゲイ)だな。
トゥルーへの手紙(amazon.co.jp)
『ロードキラー』ジョン・ダール
主演のポール・ウォーカーは、最近の若手(っても、もう三十代なのね)の中では、けっこうお気に入りの一人。
まぁ、流石に八年前の映画ともなると、まだちょっと若くて甘チャン過ぎて、さほどツボは押されなかったけれど、それでも謎の犯人に強要されて、馬鹿兄貴(スティーブ・ザーン)と二人一緒に、全裸でドライブインに入って食べ物をオーダーさせられる……なんて展開は、はっきり言って私にしてみりゃ、下手なポルノよりよっぽどエロかった(笑)。
因みに、そーゆーこと抜きにしても、ホラー風味のサスペンスとして、立派に水準以上に楽しめる良作。
でも、やっぱポール・ウォーカーだけに限って言えば、ひたすら脱ぎっぱなしの『イントゥ・ザ・ブルー』や、映画の出来はともかくとしても、アイドル映画的なコスプレが楽しかった『ボビーZ』の方がいいなぁ(笑)。
ロードキラー(amazon.co.jp)
『スパルタクス』ワージム・デルベニョフ&ユーリー・グリゴローヴィチ
アラム・ハチャトゥリアンのバレエを、ボリショイ・バレエが踊ったものを、モスフィルムが映像化した77年度作品。
舞台の記録という枠組みを逸脱せず、なおかつ映画的な醍醐味も存分に感じさせてくれる逸品でした。華美な装飾や少女趣味的なロマンティシズムを廃した、ストイックなまでの美術や衣装や、モノトーンを基調にして、ポイントカラーに赤だけを使うといった色彩設計も素晴らしい。
バレエのことは良く知りませんけれど、スパルタクス役のウラジミール・ワシリーエフの踊りは、ダイナミズムと繊細な表現力を共に兼ね備えた感じで、実にお見事。他の踊り手も、メインの数人から一糸乱れぬ群舞も含めて、隅から隅まで修練と高い技術力を感じさせて、ひたすら感心。男性的で力強いコレオグラフも、私好み。クライマックスのケレン味から荘厳な幕切れに至る流れも、実に感動的。
スパルタクス(amazon.co.jp)
“1612: Khroniki smutnogo vremeni” Vladimir Khotinenko
前にここで予告編を紹介したロシア映画ですけど、我慢しきれなくて、ロシア語オンリー字幕なしにも関わらず、ロシア盤DVDを買ってしまった(笑)。
てなわけで、内容の方はナニガナンダカサッパリワカラナイんですけど(笑)、クライマックスのモスクワ攻城戦はマジでスゴい! ここは、セリフはわかんなくても、迫力や展開の面白さに、マジで目が釘付けになる。スペクタクル以外も、衣装や美術などステキ映像テンコモリ。
え〜、因みに、責め場(フロッギング)もこんな感じでかなり痛々しく、やっぱり目が釘付けに(笑)。
ご贔屓のミハウ・ジェブロフスキーは、悪役だし、剃髪するとちょっとお鉢がデコボコなのが目立ったりはしましたが(笑)、でも出番はいっぱいあった(笑)。これで再び惚れ直したので、その勢いで『ファイヤー・アンド・ソード』『コンクエスタドール』『THE レジェンド 伝説の勇者』『パン・タデウシュ物語』を再鑑賞(『パン・タデウシュ』だけ日本盤DVDが出ていないので、英語字幕付きのポーランド盤で)。それでもまだ治まらないので、『コンクエスタドール(Wiedzmin)』の長尺版VCD(字幕なし)を、思い切ってポーランドに注文しようかどうしようか、悩み中(笑)。
『キング・ナレスワン 序章~アユタヤの若き英雄誕生~』『キング・ナレスワン ~アユタヤの勝利と栄光~』チャートリーチャルーム・ユコーン
バンコク在住の友人に、「『スリヨータイ』の監督の新作だよ」と教えてもらい、ネットで予告編を見てビックリ。「これは見ねば!」と思っていたら、何と、去年の夏に東京や大阪でイベント上映されていたと、後から知ってもうガックシ。
で、我慢できなくて、これまたタイ語オンリー字幕なしにも関わらず、タイ盤DVDを購入(笑)。
もう、スケールがトンデモナイ。戦闘シーンの物量がスゴくて、それだけでも一見の価値アリではあるんですが、それ以上に、日常シーンのスゴさにビックリ。映画のために町一個まるまる作っちゃったそうだけど、そうしただけあって、近景のドラマだけではなく、遠景でも絶えず人が何かしら動いているのだ。まるで、タイムトラベルしてロケしてきたみたいな映像。もちろん、衣装から小道具からセットから、その充実っぷりはハンパじゃなく、徹頭徹尾とてつもなく贅沢な映像。
まあ、論より証拠、公式サイトへどうぞ。
ネットで予習してから見たので、粗筋程度は把握できましたが、やっぱディテールが全く判らないのは残念。特に『序章』は、王の幼年時代を描いた、ジュヴナイル的なキャラクター・ドラマだし、大河ドラマ的伏線らしき描写も、そこかしこで見られるので、いつかはセリフをきちんと理解しながら見たいもの。
第二部の方は、とにかく成長したナレスワン王が、カッコよすぎてウットリです(笑)。この方、現役の軍人さんなんだそうですが、ハンサムな上に所作はキレ良くきびきびと、背筋はすっと伸びて風格あり、更に、脱いだら脱いだで、いかにも自然な筋肉美。ついでに、脇の連中もなかなか魅力的で、更に、セリフも役名もなさそうなその他大勢でも、ついつい、こんなのとかこんなのとかこんなのに、目が奪われてしまったり(笑)。
全部で三部作らしいですが、完結編である第三部の完成が遅れているらしいのが、ちょっと心配です。
いちおうここを見ると、この二作の日本盤DVDが、2009年12月31日に発売ってなってますけど、ホントかしらん。だったら嬉しいけど、でもやっぱ劇場でも見たいなぁ。
『アラトリステ』
『アラトリステ』(2006)アグスティン・ディアス・ヤネス
“Alatriste” (2006) Agustín Díaz Yanes
17世紀スペイン支配下のヨーロッパを舞台に繰り広げられる、孤高の剣士の生涯を描いた歴史ロマン……という設定からは、つい、アクション・アドベンチャー系のヒーローものを期待してしまいますが、そんな単純なものではありませんでした。
以前、英語字幕付きの輸入盤DVDを見たとき、私の語学力ではハードルが高すぎて、どーもヨーワカラン部分が多々あったんですが、今回、日本語字幕で鑑賞して納得。これだけ複雑でブンガク的な内容だと、こりゃあ私の英語力じゃ太刀打ちできないわけだ(笑)。
まず、時代背景と、それに絡まるパワーバランスからして、複雑なんですな。
当時のスペイン王国とその周辺諸国の衝突だけではなく、カソリックとプロテスタント(やユダヤ教)の対立や異端審問、スペイン内部の傀儡政権を巡るパワーゲーム、当時のスペインにおける貴族と平民の関係、エトセトラ、エトセトラが、当然既知のものとして、解説らしい解説もなく次々と繰り広げられるので、キャラクターの所属を把握するだけでも一苦労。
加えて、複数巻に渡る大河小説を、二時間半近くあるとはいえ、一本の映画に納めているせいもあり、どうしてもエピソードがブツ切りなダイジェスト感は否めないし、前述した状況設定の複雑さゆえに、誰が何のために何をしているのかといった、モチベーション的なものも掴みにくい。
とりあえず、劇場で販売されているパンフレットに、原作小説の訳者さんによる、平明でコンパクトな解説や年表が載っているので、映画が始まる前に、ざっと目を通して予習しておくことをオススメします。私は、映画を見終わってから読んだんですけど、「しまった、先に読んでおけばよかった!」と、思っくそ後悔しました(笑)。
とはいえ、じゃあナニガナンダカワカンナイ映画だったり、つまらない映画なのかと言うと、それが全くそうではないのが面白い。
というのも、この映画は歴史上の様々な出来事を描きながらも、そのプロセスを説明するのではなく、そういった時代背景の中で、主人公を始めとする様々な人々が、いったいどのように生きたか、ということに、焦点を絞って描いているからです。
一例を挙げると、例えば都市の攻略戦一つを描くにしても、どんな作戦がどう功を奏して、主人公がどんな活躍をするのか……といった、叙事的な要素は全くと言っていいほど描かれません。対して、そんな時代状況の中、歴史上は名もない歩兵たちが、どのように戦いどのように死に、何を考え何を感じていたか、それが身の丈の視点から、徹底したリアリズムで描かれます。
その結果、昔も今も変わらぬ、我々の生きる現実世界の矛盾が浮かびあがり、交わされるセリフも、モノガタリの説明や推進のためとしてのそれよりは、世界のあり方や人の生き方を問いかけるような色合いが濃い(ここいらへんが、ブンガク的と感じた由縁)。そういった、人間や世界を描くという点では、ものすごく惹き込まれる要素が多々あり、それが実に魅力的。
私は個人的に、世界とは決して美しくもなければ優しくもないと思っているので、そんな世界に生を受けつつ(主人公の言を借りると「人生はクソ」なのだ)、欲や損得に流されることなく、かといって盲目的な大義に身を委ねるわけでもなく、地を這いずりながらも、あくまでも自分の信念を曲げないことに徹するという、主人公の生き方のカッコヨサや気高さには、もう、ものごっつう感動してしまいました。
ラストシーン、最後のカットの鮮やかさと同時に、完璧なタイミングでティンパニが鳴り響き、続いて勇壮なブラスに導かれてエンド・クレジットが始った瞬間、「もう一度最初から見たい!」と思ったくらい。
とはいえ、正直なところ、私個人のポリシーとして、娯楽と芸術、大衆性と文学性といったものは、決して二項対立するものではなく、モノガタリというものは、そういった要素を多層的に包含しうるシステムだと考えています。
そういった意味では、もうちょっとやりようがあったのではないか、ちょっと惜しいな、とも思います。
映像美や映像表現の力強さも、大きな見所。
映像美では、ベラスケスの名画の活人画的再現を筆頭に、バロック期のスペイン絵画やフランドル絵画やネーデルランド絵画の名品もかくやという、美麗極まりない光と陰影表現や、堅牢な構図の数々が、ふんだんに目を楽しませてくれます。
ディエゴ・ベラスケス、バルトロメ・エステバン・ムリーリョ、ホセ・リベーラ等の、特に風俗画や肖像画が好きな人だったら必見。小道具の壷や衣服の破れ目一つ見ても、嬉しくなっちゃうこと請け合いですぞ(笑)。
表現の力強さという点では、前述した戦闘シーンや、暗殺のシーンなどで見られる、もう「純粋な殺し合い」としか言いようのない、身の丈サイズのリアリズムがスゴイ。
斬る、刺すなんて当たり前。それどころか、ブスブス刺す、刺してグリグリえぐる、衝突した槍ぶすまをかいくぐり、這いずり、取っ組み合いながら殺し合う、凍える、噎せる、窒息する……と、残酷美すら介在しない容赦ないリアリズムで、ああ、実際こうだったんだろうなぁ、という、説得力や生々しさが素晴らしい。
かと思えば、剣士が登場するシーンとかになると、今度は、鍔広の帽子や長いマントといった衣装の効果も相まって、これがまた実にケレン味があってカッコいい。何だかまるで、フラメンコ舞踏の決めポーズみたいに見えてくる。
衣装や小道具、美術方面の質の高さも素晴らしい。実に渋くて、重厚な味わいです。
役者さんは、主演のヴィゴ・モーテンセンを筆頭に、男優さんは皆さん実にカッコイイ。ま、男はヒゲ面ばっかで、しかも薄汚いのも多いという、私の個人的な趣味もありますけど(笑)。
ただ、キャラクターとしては、前述したようなダイジェスト感があるせいで、もうちょっと脇の面々も突っ込んで描いて欲しいという、食い足りなさは残ります。登場人物が、離れては出会い、出会っては離れ……という、大河ドラマ形式なのに、個々のキャラクター描写が不足しているので、そういった運命の変転に際して、湧いてしかるべきエモーションが、もうひとつ足りないのは惜しかった。
あと、個人的な意見ですけど、少年から青年に成長する副主人公のイニゴが、少年時代はけっこうな美少年だったのに、青年に育ったら、何だか下ぶくれの、美青年でも何でもない顔になっちゃって、ちょっと「……え?」って感じ(笑)。
女優さんは……う〜ん、メインのお二人は、もうちょっと美人にして欲しかったかな(笑)。ただ、演技は良いし、キャラクターとしても胸に迫るものがありました。
さて、最後にオマケの責め場情報(笑)。
流血残酷はふんだんにあるものの、いわゆる責め場はなし。個人的には、悪名高いスペイン宗教裁判の拷問が見たかったんだけどな〜(笑)。
とはいえ、罪人がガレー船の漕ぎ手にされるシーンがあったのが、ちょっと嬉しかった。ま、17世紀のスペインのガレー船でも、やっていることは、ローマ時代のそれと同じなんですけどね。漕ぎ手のリズムを取るのが、太鼓からホイッスルに変わっているくらいで。
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アラトリステ スペシャル・エディション [DVD] 価格:¥ 3,990(税込) 発売日:2009-07-17 |
たまにはゲイ系YouTube映像とか
YouTubeにあるゲイ系映像のお気に入りを幾つか。
あ、あらかじめ言っときますけど、エロいのはないですよ(笑)。
MySpaceで知り合った、フランスの映像作家tom de pekinの、”jean, paulo, erik, riton”という、ジャン・ジュネをモチーフにしたアニメーション作品。
毒を含んだキュートなポップさ、パタパタ動くちょいガロ系な感じのドローイングと、BGMに使われているMikadoを彷彿とさせるエレポップのマッチング、ってなところが好き。
気に入ったら、同じ作者による、ピエール・モリニエをモチーフにした同傾向作品、“molinier is my revolution”も、ぜひどうぞ。
Tomboyのゲイ・アンセム・ソング、”Its O.K. 2 b gay”(「ゲイでいいんだよ」ってとこでしょうか)のPV。
ハッピーなダンス・チューンで、過剰さや人工性や祝祭性といった、いわゆるゲイ・テイストを前面に出した典型的な例。
クローゼットにかかったチェーンを切るシーンから始まり、最後は「このビデオの制作にあたって、ストレートを虐待していません」というエンド・クレジット(ハリウッド映画の最後に出てくる「動物は虐待していません」のパロディね)で締めるといった、洒落っ気もステキ(笑)。
アルゼンチン出身の映像作家Javier Pratoのショートフィルム、” Jesus Will Survive – Jesus Christ! The Musical”。
一発ネタみたいな内容ですが、初見時のショーゲキがスゴかった(笑)。作家ご本人がゲイかどうかは不明だけど、曲のセレクトからしてゲイゲイしいです。
ただし、マジメなクリスチャンの方は、見ない方が吉かも。
オランダの熊系アイドル・グループ(?)、Bearforce1(オフィシャル・サイトによれば、「世界初、”真のベア・バンド”だそうな)の”Shake That Thing”のPV。
テイストが、日本の野郎系ゲイ・ナイトとかで見られるパフォーマンスに近いので、何となく親近感が(笑)。必要以上のナルシシズムや露悪趣味がない、自然体な感じがするのが好き。
今年のアムステルダム・ゲイ・プライドのライブ映像もありますが、さすがアムステルダム、船で運河をパレードしてます(笑)。
最近お気に入りのCD
“Meek Warrior” Akron/Family
Larkin Grimmが気に入ったので、フリー・フォーク周辺を漁っているうちに見つけた一枚。
音的には、完全に60’s〜70’sのサイケデリック音楽のテイスト。基本は、アコースティック・ギターをメインにした美麗メロディーに、ゆる〜い男声ヴォーカルが乗るアシッド・フォーク風のものが多いが、中には、パーカッションやギターノイズなどによるインプロヴィゼーションが繰り広げられるといった、サイケデリック・ロック風もあり。メンバーのルックスも、ヒッピーとかナチュラリスト風です。
一番のお気に入りは、前述のアシッド・フォーク風で始まり、そこにウィンド・インストゥルメンツやドローン的なホーンが加わり、更にエスニックなテイストも感じさせながら、ダウナーでトランシーなインプロが延々と展開される4曲目”No Space In This Realm”。これは、かな〜りキモチイイ。バンドのMySpaceでフルコーラス聴けますので、よろしかったらお試しあれ。
“Meek Warrior” Akron/Family (amazon.co.jp)
“Sun Giant” Fleet Foxes
これも、フリー・フォーク周辺で見つけたグループ。これまた、60’s〜70’sっぽいテイストが濃厚で、メンバーのルックスも、やっぱ長髪+ヒゲという、その時代風。
様々な楽器を使った、良く練られて繊細なアンサンブルは、何となくPearls Before Swineとかを連想させるせいか、アシッド・フォーク風ではありますが、エバー・グリーン・ポップといった感じのメロディアスな曲を、優しいコーラス・ワークで聴かせてくれるあたりには、The Beach Boysみたいなメジャー感もあり。かと思えば、トラッド風の香りもちょっとあったりして、全体的に、基本的な雰囲気は陽性なんだけど、同時にその中に湿った翳りも感じさせるのが、かなりヨロシイ。トランス感はなし。
一番のお気に入りは、牧歌的な雰囲気に程よくタイトさが加わった3曲目”English House”。これまたMySpaceでフルコーラス聴けるのでオススメ。あと、このEPには収録されていない曲ですが、同じページで見られる、人形アニメーションによる”White Winter Hymnal”という曲のPVも良いですよ。
“Sun Giant” Fleet Foxes (amazon.co.jp)
“Venus Vina Musica” Corvus Corax
え〜、ジャンルはガラリと変わります。いちおう、フォーク・メタルとかメディーバル・メタルとかいうジャンルに、分類されてることが多いみたいなんですが、それに関しては後述。
興味を持ったきっかけは、グループのルックスでした。パンクかゴスかといったヘアスタイルやメイクをした半裸の男どもが、古楽器や民族楽器(バグパイプやらハーディ・ガーディとか)を持っている写真を見て、「うわ、何じゃこりゃ」と思って聴いてみたのがきっかけ。具体的には、これをご覧あれ(笑)。
ルックスは完全にイロモノっぽいんですけど、音の方は意外としっかりとした古楽です。ただ、古楽を貴族的や教会的にではなく、それを大衆的な土俗性という視点で解釈して演奏している。
というわけで、はっきり言って音的には、メタルはおろかロックでもない。しかし、解釈や演奏姿勢がロック的。ロックというスタイルの中に古楽を取り入れるのではなく、また、古楽を電気楽器で演奏するのではなく、古楽を古楽器を使いながらロック的に演奏している。これは、かなり面白いしカッコイイ。最近一番のヘビー・ローテーションです。
というわけで、後期のDead Can Danceとかが好きな方には、もちろんオススメなんですけれど(あ、平沢進が好きな方とか、シアトリカルなプログレ好きにもいいかも)、デヴィッド・マンロウやグレゴリオ・パニアグアなんかがお好きな方にも、それらと比較しながら、再現としての古楽ではなく再生としての古楽とか、或いは古楽のトライバル的な側面といった感じで聴かれると、面白いかも知れません。
個人的には、幻想としてのゴシックっぽい音楽は好きなんだけど、耽美性や大仰さが前面に出すぎるものは苦手だし、かといってシンフォ系プログレやメタル系の様式美も苦手だし……ってなところに、上手い具合にハマってくれた理想的な「マッチョ・ゴシック」、ってな感じでした(笑)。
とりあえず、このアルバムの収録曲はないんですけどLast.fmで試聴していただければ、全体の雰囲気は掴めると思います。
“Venus Vina Musica” Corvus Corax(amazon.co.jp)
因みに、ステキなジャケット(笑)なベスト盤も出ていますが、選曲が、ちょっとロック的に聴きやすいものに偏っている節があるので、古楽的な興味で聴くのなら、ベストではなくアルバム単位のほうがいいと思います。
“Mongol (O.S.T.)” Tuomas Kantelinen
前にここで、「サントラ買う気満々で映画館を出たんですが……残念、出てないのね」と書いた、映画『モンゴル』のサントラ盤、無事に外国盤で出たのでゲット。
が、下調べをを怠ったため、曲数が少ないのに気付かず、アメリカ盤を買ってしまった……。リンク先のイギリス盤を買い直すかどうか、思案中(笑)。
“Mongol (O.S.T.)” Tuomas Kantelinen (amazon.co.jp)
写真撮影と『アイアンマン』とLarkin Grimmと『ラビナス』
先日、イタリアの出版社の人と会って、自宅近郊のカフェでインタビューを受けました。日本語ペラペラの方なので、インタビュー自体は苦もなく終わったんですけど、問題は、その後の写真撮影。
撮影の場所が、そのカフェの入っているビル内や、近くの路上だったんですが、人通りが多い場所の上に、カメラマンがガイジンさんだってのも悪目立ちするのか、道行く人にジロジロ見られる。
いや、もともと写真を撮られるのには慣れていないけど(いつもシャッター降りる直前に、自分の軀が緊張でブルブル震えるのが判るんですよ)、地元で写真を撮られるのが、こんなに恥ずかしいとは……(笑)。
この写真やインタビューは、来年イタリアで刊行される予定の、私のマンガ単行本と出版社のウェブサイトなんかに掲載される予定ですが、まぁ、過去の経験から言って、海外での出版は予定が遅れて当たり前なので、果たして日の目を浴びるのはいつになりますやら(笑)。
海外出版の刊行の遅れというと、一昨年だったかに契約書にサインした、次のフランス語版単行本なんか、諸般のトラブルで遅れに遅れまして、もう半分諦めかけてたくらいなんですが、先日ようやく、翻訳が完了したので出版準備に入りたいという連絡がありました。
で、急遽カバー画なんかを描くことになったんですが、この単行本の表紙廻りの打ち合わせをしたのは、もう去年の夏のこと。もともと整理整頓が苦手な私なので、ラフ画がファイルの奥底に埋もれてしまっていて、それを発掘するだけで一苦労(笑)。
しかも、いざ発掘したら、それはラフではなく下絵段階まで進めていたものだった。というわけで、一年以上前に描いた下描きにペン入れをするという、前代未聞の体験をすることに(笑)。
さて、件のイタリア人との打ち合わせの翌々日、今度は日本の一般誌の取材を受けました。
で、またまた写真撮影があって、これまた場所が路上(笑)。まあ、今度は幸い人通りがあまりなかったし、シューティングの時間も短かったので、地元でもないので、前回ほどは恥ずかしくもなかった(笑)。
こちらは、確か来月発売と伺ったので、また発売日前後になりましたら、改めてお知らせします。
さて、そんなこんなで外出ついでに、映画『アイアンマン』を見ました。
なかなか楽しい映画ではあったんですけど、それでも野暮を承知で、「そもそも『正義』とか『悪人』って、何よ?」とか、「自分が過去、無責任に製造販売していた兵器を叩き潰すといっても、そのためのアーマーを作る金が、そもそも軍需産業で儲けた金だってのがなぁ……」とか、どうしてもチラチラと頭をよぎってしまったなぁ。
でも、ストーリーの進行と共に話のスケールがどんどん小さくなってってるのに、テンションはそれに反比例してグイグイあがっていくのは、何とも愉快で痛快でした。
あと、思いのほかロバート・ダウニー・Jrがカッコよくて、「アンタ、ヒゲと筋肉がありゃ、何でもオッケーなのかい!」と、我ながら自分の節操のなさが可笑しくなったり(笑)。それと、ジェフ・ブリッジスとニック・ノルティとカート・ラッセルとパトリック・スウェイジが、皆さん歳をとったら見分けがつかなくなってきた……とか(笑)。
映画の後でレコ屋に寄ったところ、店内で流れていたCDが気に入ったので、購入しました。
Larkin Grimmという女性の“Parplar”というアルバムで、昔のアシッド・フォークみたいな、サイケ寄りのトラッド・フォークみたいな、ちょっと不思議なねじれ感のある、アコースティックな歌ものです。
家に帰ってから、ちょっと検索してみたら、最近は「フリー・フォーク」なんてゆージャンルがあるんですな。ぜんぜん知らんかった。ここんところPops & Rock関係には、すっかり疎くなっちゃってます。
個人的には、ちょっとアメリカ南部のルーツ音楽っぽかったり、東欧っぽかったりするチューンが、特にお気に入り。声色を使い分けながら、エキセントリックになる直前で寸止めしてるみたいな、ヴォーカルのバランス感覚の良さも好みです。あと、ジャケットやブックレットに使われている、Lauren Beckという人の絵も、かなり好き。
そんなこんなで、これを聞いていたら、そのルーツ音楽がコンテンポラリー的にねじれているような感覚に、ジャンルはぜんぜん違うんだけど、Michael NymanとDamon Albarnがやった、映画『ラビナス』のサントラ
を思い出しました。
いや〜、これ、大好きでしてね、一時期狂ったように聴きまくってました(笑)。
因みに映画本編も、実は個人的に偏愛対象でして、観るといつも泣きそうになる。それも、満身創痍のガイ・ピアースが、穴から這いだして雪の中を彷徨うシーンと、ラストシーンの二回。
ただし、これで泣くってのは、自分でもかなりヘンなツボを押されているせいだという自覚はありまして、間違っても「泣けるよ」とか「感動するよ」と、他人様にオススメはいたしません。ウチの相棒に言わせると「泣けるどころか、ぜんぜん面白くない映画」だそうだし。
因みに、映画のテーマはカニバリズム。なのに、描き方とかは、カニバリズムに珍奇設定が加わって、まるで吸血鬼映画みたいなノリ。
……ま、有り体に言って「ヘンな映画」ではあります(笑)。でも、大好き。
“Pathfinder”
“Pathfinder” (2007) Marcus Nispel
アメリカ大陸に取り残されたバイキングの少年が、ネイティブ・アメリカンによって育てられ、やがて成長して侵略者であるバイキングと戦う……といった内容の、アクション・アドベンチャー映画。
監督は『テキサス・チェーンソー』のマーカス・ニスペル、主演は『ロード・オブ・ザ・リング』でエオメルを演じていたカール・アーバン。
元ネタは1987年のノルウェー映画『ホワイトウイザード』で、これはそのリメイク(とはいえ、舞台を変えているので翻案なのかな?)なんだそうですが、寡聞にしてオリジナルについては何も知らず。
ただ、その年のアカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされているし、IMDbや米アマゾンのレビューでも、概して評判はいいですね。
コロンブスより600年前、バイキングは既にアメリカ大陸に到達していた。彼らは自分たちが入植するために、原住民であるネイティブ・アメリカンの皆殺しを企てたが、一人のバイキングの少年が、その残虐行為に絶えられず、罰を与えられた後、独り置き去りにされてしまう。
少年は、ネイティブ・アメリカンの女性に保護され、彼女の息子として育てられ、やがて逞しい青年に成長した。しかし彼は、その皆とは異なる外見や出自によってゴーストと呼ばれ、部族と完全に同化することもできずにいた。
そんなある日、再びバイキングの船がやってきた。ゴーストのの部族は皆殺しにされてしまう。辛うじて生き延びたゴーストは、交易相手だった隣村に辿り着くが、侵略者の魔の手はそこにも伸びようとしていた。
そして、襲い来るバイキングの軍団対ゴーストの戦いが始まる……ってな内容です。
発想としては、なかなか面白い。
ただし、作品の作りとしては、あくまでもモノガタリの舞台背景に、歴史的なニュアンスを持ってきたというだけで、全体のノリは完全にヒロイック・ファンタジー。全体設定から歴史モノを期待してしまうと、まったく期待はずれに終わるので要注意。
ヒロイック・ファンタジーとしては、ヴィジュアルがかなりいい線をいっているので、それだけでも充分楽しめます。DVDのジャケットからもお判りのように、完全に「実写版フランク・フラゼッタ」の趣。公式サイトを見ると、もっと良く判るかも。
特に前半部、ゴーストとバイキングが森の中や水辺で戦うシーンなんて、絵面が見事なまでにフラゼッタフラゼッタしてます。フラゼッタ風という点では、シュワルツェネッガーの『コナン』はもとより、監督から「フラゼッタを意識した」との発言があった『300』よりも、更には本家の『ファイヤー・アンド・アイス』よりも、フラゼッタっぽい(笑)。
ストーリーとしては、色々と伏線も使って、手堅くまとまってはいるんですが、ただ、設定の旨味は生かし切れていない。
二つの文化的背景を持つ主人公が、自分のアイデンティティを確立していくというネタの方は、けっこうちゃんと描かれているんですが、異文化同士の衝突という点では、残念ながら完全に掘り下げ不足。ネイティブ・アメリカンは、無辜で無力で善良な民でしかないし、敵役のバイキングも、単純で記号的な純粋悪でしかない。別に、歴史的背景を使わなくても描けるじゃん、ってな内容ではあります。
戦いとかも、盛りだくさんではあるんですが、設定から期待されるような「バイキング vs ネイティブ・アメリカン」といった集団戦は出てこない。ネイティブ・アメリカン側のほとんどは、もっぱら虐殺されて逃げ出すだけ。バイキングと戦うのは、主人公プラス数人だけなので、エピック的なスケール感はなく、あくまでも、アクション主体の内容。
アクションものとしては、手を変え品を変え様々なアイデアが繰り出されるし、テンポも悪くないし、監督が監督なので残酷描写も手加減なしだし……と、けっこう楽しめる内容です。
まあ、主人公が悩み多きキャラクターで、しかもさほど強者というわけでもないせいもあって、シンプルな爽快感には欠けるとか、その分、頭脳戦っぽい要素が入るんですが、これも、引っかかる方がマヌケっぽい感じだとか、悪役として魅力的なキャラクターがいないとか、ストーリー的なツッコミどころも色々あるとか、贅沢を言い出せばきりはないけど、世の中にはもっとヒドい映画が幾らでもあるし(笑)。
映像的には、極端に彩度を落とした色調とか、黒みが多く深い陰影とか、多用されるスローモーションとか、ヴィジュアルにはこだわりを持って作られています。鎧兜のデザインなんかも、なかなかカッコいい。
ただ、ムードはあるけれどケレン味はなく、様式美的な要素もさほどないので、個人的な趣味から言うと、もうちょいプラスアルファが欲しい感じ。
また、監督のマーカス・ニスペルは、前に『デュカリオン』を見たときにも感じたんですけど、画面のムードはいいんだけど、演出がそれに流れすぎの感があり。『テキサス・チェーンソー』のときは、もうちょっとタイトだったような気がするんだけどな。
主演のカール・アーバンは、フラゼッタの絵と比べると筋量は少ないですけど(笑)、それでもなかなか立派な裸身を、ふんだんに見せてくれます。基本的には、さほど好きな顔じゃないけれど、ヒゲ+長髪+ヨゴレ+腰布……といったトッピングの良さもあり、個人的には充分佳良。
ヒロイン役のムーン・ブラッドグッドは、角度によっては、ちょっと青木さやかに見えたりもしましたが(笑)、スッキリとした凛々しさがあり、役柄にも合っていて佳良。
他には、キャラクター的なものもあって、先導者(pathfinder)役のオジサン、主人公と行動を共にする笛吹きの男、主人公のライバル的な男なんかが印象に残ります。
バイキングの方は、兜で顔の判別がほとんどつかないことや、キャラクターが立っていないこともあり、役者さんの印象は、ほぼゼロ。エンド・クレジットを見て、初めてTV版コナン役者のボディービルダー男優、ラルフ・モーラーが出ていたと知ったんですが、未だにどのバイキングだったのか判らない(笑)。
DVDはアメリカ盤、リージョン1、スクィーズのワイド、音声は英語とスペイン語とフランス語、字幕は英語とスペイン語。
オマケは、監督のオーディオ・コメンタリー、削除シーン、メイキング・クリップ数種、予告編数種。
前回に引き続き、これも何だかそのうちDVDスルーで、日本盤が出そうですな。
最後に、責め場情報。
主人公のライバルのネイティブ・アメリカン戦士が、バイキングに捕らえられ、上半身裸の後ろ手縛りで、焚き火の上に逆さまに吊られて火あぶりにされるシーンあり。ここはけっこうヨロシイので、火あぶりフェチ(そんなヤツはいねぇよ、と思われるかもしれないけれど、いるんですよ、そういう人も!)なら、見て損はなし。
もう一つ、長老が二本の立木の間に大の字に吊されて、馬裂きにかけられるシーンもありますが、着衣だし、決定的瞬間はフレームアウトしちゃうので、それほど面白みはなし。
あと、映画のそこかしこで虐殺シーンがある内容なので、半裸の男が殺されたり、死体が吊されたりといったシーンは、ふんだんにあります。残酷ものオッケーだったら、そこいらへんは見応えがあるかも。
おっと忘れてた、追記追記。
少年が背中を鞭打たれるシーンもありました。裸の背中にCGIで鞭痕が刻まれていきますが、ミミズ腫れなんて生易しいもんじゃなく、まるで切り傷のような痕で、けっこう迫力あり。
“Pathfinder (Unrated Edition)” DVD (amazon.com)
【追記】『レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者』の邦題で日本盤DVD出ました。
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レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者 [DVD] 価格:¥ 1,490(税込) 発売日:2010-06-25 |
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レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者 [Blu-ray] 価格:¥ 2,500(税込) 発売日:2010-07-02 |
“The Last Legion”
“The Last Legion” (2007) Doug Lefler
ここで書いたアイシュワリヤ・ラーイつながりで、こんな映画を。
西ローマ帝国最後の少年皇帝ロムルス・アウグストゥスと、その護衛アウレリウスを主人公に、かつてユリウス・カエサルがローマに持ち帰ったとされる伝説の剣を巡って、大胆な発想で繰り広げられるスペクタクル・アドベンチャー。
原作はヴァレリオ・マンフレディの『カエサルの魔剣』(未読)。
五世紀後半、既に弱体化していた西ローマ帝国は、ついにゴート族によって滅ぼされてしまった。即位したばかりの少年皇帝ロムルスは、両親を殺され、家庭教師のアンブロシヌスと共に、カプリ島の城塞に幽閉される。
ロムルスの護衛アウレリウスは、腹心の部下や、東ローマ帝国大使の護衛をしていた女剣士らと共に、少年皇帝の救出に向かう。一方、ロムルスとアンブロシヌスは、幽閉されている城塞の地下で、長らく行方不明だったカエサルの剣を見つける。
救出作戦は無事成功するが、その時には事態が一変していた。西ローマ帝国の元老院はゴート族の征服者オドアケルに従い、東ローマ帝国の皇帝もロムルスを庇護しようとはしなかった。
帰る国を喪ったロムルスとアウレリウス一行は、ブリタニア(イギリス)に残った最後のローマ軍団(last legion)を頼り、アルプスを越え海を渡る。そこは、家庭教師アンブロシヌスの故国でもあった。
しかしブリタニアは、既にサクソン人の王ヴォルティガンの支配下にあり、更にロムルスの両親を殺したゴート族の戦士ウルフィラも、一行を追ってブリタニアに上陸する。
果たして、少年皇帝ロムルスと、その仲間の運命は……? ってなお話しです。
これは、いわば歴史の”if”を扱った内容で、発想はなかなか面白いです。
ただ、DVDのパッケージに印刷されているキャッチコピーが、ヒントっつーか、もう、ほとんどネタバレに近い内容なので(笑)、かなり早い時点で結末の予想がついてしまい、驚きはなかったのが残念。作劇的にも、ちょいとミスリードに乏しくて、モノガタリが直線的すぎるきらいはあり。
画面的には、制作がイタリアのディノ・デ・ラウレンティス・カンパニー(いつまでたっても元気ですねぇ)のせいもあってか、イタリアのシーンは佳良。ローマ市内には、まだかつての大帝国の残照が見られるけれど、郊外に出ると、滅びかけた斜陽の帝国のうら寂しさがあるとか、そういった対比は、時代の雰囲気を良く醸し出しています。
ただ、舞台がブリタニアに移ってからは、セット等がいささか安っぽい。美術やCGI、物量や全体のスケール感も、昨今の劇場公開された大作史劇と比較すると、正直かなり見劣りがします。それでも、比較対象をTV映画やB級映画にすれば、まあ上出来だと思いますけど。
全体の演出は、テンポは良いんですが、溜めや味わいには乏しい。けっこう盛りだくさんな内容のわりには、尺が一時間半強とコンパクトなので、話がぱっぱかぱっぱか進みすぎるという気も。アイデアが面白い分、もう少しじっくり腰を据えて見せて欲しかった。
キャラクターは、けっこう良く立っているし、役者さんもいいところを揃えているんですが、ちょいと類型的過ぎるので、内面のドラマにまでは至らないのは残念。クライマックスの攻城戦も、展開は面白いはずなのに、心情的にもアクション的にも盛り上がりに乏しいのが残念。
というわけで、演出の凡庸さを、ストーリー自体の面白さ(おそらく原作の力なんでしょうけど)で、ギリギリ持ちこたえている、という印象。まあ、重厚なエピックとかではなく、気軽に軽く見られるアクション・アドベンチャーとしては、そこそこ楽しめるんだけど、このネタだったら、もっといくらでも面白くも、感動的にも作れるだろうに、何だか勿体ない感じはします。
そんなこんなで、全体の感触としては、かつてのイタリア製ソード&サンダル映画に近い味わいもありました。こうなると、裸のマッチョが出てこないのが残念だなぁ(笑)。
役者は、護衛兵アウレリウス役に、コリン・ファース。個人的に、いつも印象が薄いお方なんですが、今回もしかり。別に悪くはないんですけど、こういう役だったら、もっと愚直で硬派な男の色気が欲しい。
少年皇帝ロムルスに、トーマス・サングスター。どっかで見た顔だと思ったら、『ナニー・マクフィーの魔法のステッキ』の少年だった。『トリスタンとイゾルデ』にも出てたんですな。これまた、可もなく不可もなし。
紅一点の女剣士ミラに、天下の美女アイシュワリヤ・ラーイ。インド映画以外で彼女を見るのは、これで二作目。カット割りに助けられてか、アクション・シーンは”Jodhaa Akbar”のときよりも良かったけど、お尻が大きいせいもあって、動きがが重く見える。美貌以外の美点はほとんど出ておらず、正直、別に彼女じゃなくてもいい役だった(笑)。
物語の鍵を握る老家庭教師アンブロシヌスに、ベン・キングズレー。髪型や衣装に加えて、杖を振るってのアクション・シーンもあるので、『ロード・オブ・ザ・リング』のイアン・マッケランにそっくり(笑)。
他には、敵役のゴート族の戦士に、『ROME』や『キングダム・オブ・ヘブン』のケヴィン・マクキッド、同じくゴート族の戦士に、『トロイ』や『仮面の真実』でステキなオジイチャンぶりを見せてくれて、個人的にホの字になったジェームズ・コスモ、東ローマ帝国大使に、『キングダム・オブ・ヘブン』や『ガーディアン ハンニバル戦記』のアレクサンダー・シディグ、西ローマ帝国の元老院議員に、『ハムナプトラ』シリーズのジョン・ハナー……などなど、脇役は、最近のコスチュームものの映画で、けっこう印象深かった面子が揃っており、個人的にはお得感アリ。
残念だったのは、怪力の黒人とお調子者の青年という、アウレリウスの部下コンビで、それぞれノンソー・アノジーとルパート・フレンドという人が演じているんですが、キャラクター的な立ち位置はオイシイのに、描写が浅く、役者も造形的な意味で余り印象に残らないところ。ここいらへんで「んっ?」と気になるような肉体派男優を出してくれれば、偏愛度がもっとアップするのに(笑)。
DVDはアメリカ盤、リージョン1。スクィーズのワイド。音声は英語、字幕は英語とスペイン語。
オマケは、監督のオーディオ・コメンタリー、削除シーン、メイキング、スタントマンたちによる殺陣の振り付け風景、ストーリーボードと完成画面の比較、予告編。
ま、これはそのうちDVDスルーで、日本でも出そうな気はします。
いちおう、責め場関係の情報も(笑)。
処刑されたローマ人兵士が、城壁に吊されている場面と、ベン・キングズレーが両手縛りで断崖絶壁の上に吊されるシーンあり。どっちもわざわざ、それ目当てに見るほどのもんじゃないです(笑)。
“The Last Legion” DVD (amazon.com)