映画」カテゴリーアーカイブ

“Aravaan”

dvd_aravaan
“Aravaan” (2012) Vasanthabalan
(インド盤DVDで鑑賞)

 2012年制作のインド/タミル映画。
 18世紀の南インドを舞台に、盗賊村や人身御供といったモチーフを、神話的な雰囲気で運命劇的に描いた時代物。

 18世紀の南インド。とある小さな村は盗賊で生計を立てているが、その村の盗賊団には、盗む相手は金持ちだけ、子供のいる家からは盗まない、盗みの際に血を流さない、などのルールがある。
 ある日、とある王妃の首飾りが盗まれ、その村に嫌疑がかかる。しかし村の盗賊団はその件には関与しておらず、盗んだのは一匹狼の別の盗賊だった。その盗賊を見つけ出し首飾りを取り戻せば、褒賞として大量の穀物を与えるとの条件で、村で一番の腕利きの盗賊コンブーディは、犯人を捜しに旅立つ。
 やがてコンブーディは、首飾りを盗んだ一匹狼の盗賊ヴァリプリを捕まえるが、彼の腕前と人柄に惚れ込み、仲間にしようと村に連れ帰る。村人たちは自分たちの濡れ衣の元となったヴァリプリを最初は拒否するが、彼が仲間になるための試練を見事にクリアする。しかしヴァリプリは、自分は天涯孤独の身だと過去を多く語ろうとしないため、村人の中にはまだ彼に疑惑を抱く者もいた。
 ある日コンブーディは、自分が村一番の腕利きだと証明するために、先祖代々難攻不落の砦に盗みに入ることにし、それにヴァリプリや他の仲間も同行する。盗みは上手くいったものの、逃走時にコンブーディが捕まってしまう。仲間たちは、もう彼の命運は尽きたのだと諦めるが、ヴァリプリは救いに戻るべきだと主張し、見事コンブーディを奪還する。しかしその最中、敵将がヴァリプリを《チーナン》と別の名で呼ぶ。
 コンブーディを連れて村に戻り、瀕死の彼を手厚く看護するヴァリプリに、コンブーディの妹は恋をしてしまい、恥を忍んで自分からヴァリプリに結婚して欲しいと頼むが、拒否されてしまう。そして、妹を思いやったコンブーディがヴァリプリを問い詰めると、彼は辛そうな様子で「自分は既に結婚していて妻がいる」と告白する。
 コンブーディはヴァリプリに、では天涯孤独と言ったのは嘘か、それにチーナンというのは誰のことだと詰め寄るが、ヴァリプリはそれに答えようとはせず、それをきっかけに二人の間には溝が生じてしまう。
 そんな中、様々な村から人が集まる祭りがあり、他の村から挑戦を受けたコンブーディは、一人で暴れ牛に立ち向かう。ヴァリプリは助力を申し出るが、コンブーディは拒否、その結果、牛の角で突かれて殺されそうになってしまう。
 見るに見かねたヴァリプリは、コンブーディを助けるために競技場に飛び込み、見事牛を倒すが、その直後、例の砦で彼を《チーナン》と呼んだ男が現れ、仲間と共に彼を取り押さえてしまう。コンブーディがそれに抗議をすると、男は「こいつは人殺しだ!」と答える。
 こうして、今まで謎だったヴァリプリの真の過去が、次第に明かされていくのだが、それは二つのいがみ合う村の間で起きた謎の殺人事件と、その背後の陰謀、そして過酷な人身御供の風習と、悲しい恋の物語だった……という内容。

 前半部分は盗賊村とヴァリプリことチーナンの話、インターミッションを挟んだ後半が、殺人事件と人身御供を巡るチーナンの過去話で、最後にそれらが一体化して、ギリシャ悲劇を思わせるような運命劇的なクライマックスに……という構成。
 地肌が剥き出しの岩山が主体の荒々しい風景の中、腰布一枚の裸の男達が織りなす、血に彩られた因果のドラマが繰り広げられる……という映画の雰囲気自体は、原始的な生命力を感じさせてくれて大いに魅力的。部分部分では、かなり印象に残る場面も多々あります。
 そういう感じで、かなり異色……というか意欲的な内容で、モチーフやテーマも実に興味深いんですが、映画の出来としてはちょっと惜しい結果なのが残念。ストーリー、キャラクター、俳優、美術などは佳良なのに、肝心要の演出がイマイチ。
 ストーリー的にはエモーショナルなエピソードも多いんですが、演出に巧さや溜めが足りないので、イマイチ心に迫ってこない。また映像的にも、魚眼レンズを多用したり変に構図に凝ったりはしているんですが、それがこれといった効果には繋がらず、単に新奇さだけで終わってしまっている。編集もぎこちなさが感じられますし、牛の暴走などのスペクタキュラーな見せ場が、チープなCGやイマイチのデジタル合成で白けてしまうのもマイナス要素。
 ストーリーの後半、当時、神殿などの建築時に人柱を立てる習慣が珍しくなかったこの地方の村では、(ネタバレを含むので白文字で)殺人事件の仲裁として、殺された男の仇敵の村から同じ年頃の男を一人、人身御供にすることで痛み分けにするという方法がとられることになるんですが、主人公は籤でそれに選ばれてしまい、30日後に首を刎ねられる運命となります。
 主人公を愛していた村娘は、父親の反対を押しきって、30日後には寡婦になることを承知の上で彼と結婚する。しかし彼は、事件の真相が判らぬまま自分が生け贄にされるのに納得がいかず、残された30日間で真犯人を捜そうとするのだが……
といった緊迫した状況にも関わらず、その合間にコメディリリーフやミュージカル場面が入るのも、インド映画のお約束が完全に裏目に出てしまった感じ。
 これでもし監督に力量があれば、例えばタミル映画の監督で言えばマニ・ラトナムとかバラとか、そういった監督が撮っていれば、かなりの傑作に化けた可能性もあるだろうに……うーん、何とも惜しい。雰囲気的にはパゾリーニの古代モノみたいな感じもあって、かなりいい感じなんだがなぁ……。
 ヴァリプリ/チーナン役の男優さんは、多分初めて見る人だと思うんですが、整った顔立ち(ちょっと華には欠ける感がありますが)のフィットネス系マッチョさんで、身体の線なんか実に綺麗。コンブーディ役の男優さんは、何本か見たことがある人ですが、“Majaa”で演ったヴィクラムの弟分が印象的だった人。目力と豊かな表情が印象的で、ガチムチ系で美味しそう(笑)な身体共々、陽性の生命力を感じさせてハマり役。
 あと、過去編に出てくるマハラジャの役が、何とお懐かしや『アシャンティ』や『007/オクトパシー』のカビール・ベディだったんですが、いやもうすっかりオジイチャンになっちゃって、言われなきゃぜんぜん判らなかった……。

 全体としては、モチーフ的に好みの内容だけに尚更「惜しいな〜」という感が強いんですが、こういう題材ならではの映像的お楽しみどころは色々あるので、興味を惹かれた方なら一見の価値はありかも。
 多くを期待し過ぎずにご覧あれ。
 予告編。

 主人公が人身御供に決まった後の土俗的/神話的なミュージカル場面。途中からいきなり娼館での歌舞場面に繋がっちゃうのがビックリなんですが、そこいら辺の感覚がやっぱイマイチ雑なんだよなぁ……。

 盗賊村のお祝い騒ぎのミュージカル場面。前半部はこういった陽性の大らかさが魅力で、それと後半のシリアス運命劇とのコントラストは見所の一つ。

“Force”

dvd_force
“Force” (2011) Nishikant Kamat
(インド盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2011年制作のインド/ヒンディ映画。警察と麻薬カルテルの闘いにロマンスを絡めて描いた、ジョン・エイブラハム主演のアクション映画。
 もともといい身体をしていたジョンだが、更にバルクアップしていてえっらいマッチョになっててビックリの一本。

 主人公ヤシュは警察の麻薬対策班。3人の仲間と共に潜入捜査をして、麻薬組織に大打撃を与える。
 捜査の最中にヤシュは偶然、同じ若い娘と何度かでくわす。マヤというその娘は、最初は見るからにギャング然としたヤシュを敬遠するのだが、彼が実は警察官だと知って心が動き始める。ヤシュは最初からマヤに惹かれているのだが、これまで友人以外には特に愛する人間もいなかった彼は、その気持ちを押し隠す。しかし次第に快活で積極的なマヤに押されていき、ついに彼女の方から愛の告白をされるに至り、自分の気持ちに正直になり彼女との結婚を決める。
 そんな中、壊滅的な打撃を受けた麻薬組織のボスの、若い弟で今まで海外にいたヴィシュヌが帰国し、組織は海外の麻薬カルテルとも組んで、これまで以上に活発に動き始める。
 次々と発生する新たな麻薬事件に、ヤシュたちのチームも情報屋を使って反撃を始める。そしてついに、組織のボス自ら赴いた取引現場を押さえることに成功するのだが、その際にボスを逮捕するのではなく、正当防衛で射殺したことで人権査問委員会にかけられ、ヤシュたちのチームは全員停職処分にされてしまう。
 そんな折り、ヴィシュヌは殺された兄の復讐を誓い、まず裏切り者の情報屋を一家諸共惨殺し、同様にチーム全員とその家族の殺害と、ヤシュに予告する。そして予告通り仲間の一人が、停職中で無防備だったところを、一緒にいた恋人と共に殺されてしまい……といった内容。

 まあこれは何というか、主演のジョン・エイブラハム(の筋肉)を愛でるだけの映画です(笑)。
 話としては良くありがちなB級クライム・アクションといった感じで、それ自体は別に悪くはないんですけど、正直エピソードの組み方など、お世辞にも上手いとは言えない作劇。正義とは何だとか、法の限界とか、愛とか、男たちの絆とか、あれこれ盛りだくさんではあるんですけど、あまり上手く捌き切れていないので、話としてはどうにも取っ散らかった印象に。
 だったらいっそ、クリシェ通りの痛快アクションにしてくれればいいんですが、後半のハードな展開とかウェットな要素とかが邪魔になって、全体の爽快感はイマイチ。ラストも「う〜ん、こんな形で伏線を回収されても……」と後味が悪い。
 個々のアクションとかの見せ場はそこそこ面白いし、シャープでスタイリッシュな映像のテイスト自体も悪くないんですが、演出として見せるまでには至らず。
 ただ「うぉ〜、ジョン・エイブラハムかっけぇ!」というポイントだけに絞って見る分にはオッケー。前述したように以前と比べてえっらいバルクアップしていて、“Dostana”の頃と比べるとビックリするくらいに筋肉モリモリになっています。 ^^
 そんなジョンが、ギャング風のいでたちで殴り合ったり、重そうなバイクを持ち上げて相手に投げつけたり(笑)、はたまたオシャレな装いでヒロインとロマンチックに絡んだり、銃弾打ち込まれて崖から突き落とされたり、悪漢と取っ組み合ったり……と、ジョンを愛でるという点では見所はいっぱい。
 でもって、悪役のヴィジュット・ジャムワル(?)という人も、これまたなかなかのハンサム&マッチョガイ。
 そしてクライマックスではこの二人が、戦っている間にまずジョンの服がキレイに破けて(笑)上半身裸になり、続けて悪役の服も同様に破けて最後は裸に……ってな楽しい展開に(笑)。笑っちゃったけど、でも正しい演出(笑)。

 というわけで、残念ながら映画の出来そのものはイマイチですが、こんなジョンと、
force_john
こんな悪役が、
force_villan
こんな風に対決する映画なので、
force_battle
個人的にはそこだけでも充分オッケーでした(笑)。
 ジョンのファンやインディアン・マッチョが見たい方なら、お楽しみどころありです。
 ”Force”予告編。

 インド映画ですが制作にはFOXが入ってます。
 制作サイドが推す見所もやはりジョンの肉体美らしく、プロモ映像もこんな感じ。

“Agneepath”

Blu-ray_Agneepath
“Agneepath” (2012) Karan Malhotra
(インド盤DVDで鑑賞、後にBlu-rayで再購入→amazon.com

 無実の罪で父親を殺された男の復讐を描いた、2012年公開のインド/ヒンディ映画。タイトルの意味は「炎の道」。
 主演はリティック・ローシャン。本国では今年の1月に公開され、オープニング記録を塗り替える大ヒットを飛ばしたそうな。
 1990年の同名映画(アミタブ・バッチャン主演)のリメイクだそうです。
 
 主人公・ヴィジャイ少年の父親はマンドワ島で教師をしており、未だ封建的なその地の人々の意識を近代的に変えようと試みていた。しかし古くからの藩主は、彼の人望を快く思っていない。そんな折り、藩主の息子で幼い頃から怪異な容貌でいじめられていたカンチャが島に帰ってくる。
 カンチャは製塩を営んでいる村人たちの土地を巻き上げてコカインの生産を始めようとするが、ヴィジャイの父親がそれを阻止する。結果、彼はカンチャによって少女強姦の濡れ衣を着せられ、村人たちにリンチされた挙げ句、カンチャの手でバンヤン樹に吊され、息子の目の前で殺される。
 ヴィジャイ少年は身重の母親と共に、島を逃れてムンバイへと行くが、臨月の母親がスラムの路上で倒れてしまう。しかし彼女はスラムの娼婦たちの手助けによって無事路上で出産、ヴィジャイには妹ができ、一家はそのまま、自分たちを助けてくれた娼婦のところに身を寄せる。
 そんな折り、ヴィジャイはムンバイ市中で父の敵カンチャの姿を目撃する。後をつけた彼は、コカインの売り込みにきたカンチャが、ムンバイの裏世界を支配し少女の人身売買を営むギャング、ラーラによって、手もなく追い返されてしまうのを目撃する。
 しばらく後、スラムの路上でラーラが裏切り者を処刑するという事件が起こる。ヴィジャイは目撃者として警察に呼ばれるが、集められた容疑者の中にラーラがいるにも関わらず「犯人はこの中にはいない」と嘘をつく。そしてその嘘に激昂した警察官と争いになり、その警官を射殺してしまう。
 こうしてヴィジャイ少年は、復讐のためにはまず力を手に入れることが必要だと、ラーラの元に身を寄せるが、母親はそんな息子を許さず、母子は絶縁関係となる。
 それから15年、青年になったヴィジャイは、今やラーラの右腕として、ムンバイの裏社会に大きな力を持つようになっていた。
 そんなヴィジャイに、彼の幼なじみで、妹が生まれる際に最初に助けてくれた少女でもあるカーリは想いを寄せている。しかし復讐に生きるヴィジャイは、彼女の気持ちを受け入れることができず、彼女もまた、仕方なくそんな状態を受け入れている。
 ヴィジャイと母親の関係は、未だ絶縁状態のままであり、15歳になった妹は兄の存在すら知らない。しかしヴィジャイは妹の誕生日が来るたびに、密かにプレゼントを贈っており、カーリ始めスラムの仲間たちも、そんなヴィジャイの想いを良く理解してくれている。
 一方で父の敵カンチャは、ムンバイの警察と裏で手を結び、密かにコカインの販売網を作りつつあり、ラーラの実の息子もコカイン中毒になっていた。それを知ったラーラは、息子に与える予定だったシマをヴィジャイに与える。息子はそれに反発するが、ラーラはヴィジャイは所詮捨て駒だと息子を諭す。
 そんな中ヴィジャイは、その状況を逆手にとり、カンチャに近づくルートを作るために、狂言の暗殺劇を仕組んでラーラと息子を罠にはめ、自分を完全に信用するように仕向ける。そして二人が罠にはまったところで、まず息子の方を、同じく罠にはめたカンチャの手下共々排除する。
 息子の悲報を聞いたラーラも倒れ、ムンバイの裏社会を手中に収めたヴィジャイは、マンドワ島に乗り込みカンチャと対峙する。しかしその最中、回復したラーラがヴィジャイの裏切りを知り、彼の妹を捕まえて売り飛ばそうとする。
 ヴィジャイは妹を救うために、急ぎムンバイに戻るのだが……といった内容。

 マッチョな孤高のヒーロー(リティック・ローシャン)のハードな復讐劇に、わだかまりによる肉親との分断という泣き要素、美しいヒロイン(プリヤンカ・チョープラー)との切ない恋模様、派手なアクション、そして歌と踊り……という、「これぞインド映画!」って感じの濃厚な一品。
 エピソードのディテールが不足気味など、作劇は昔ながらのインド映画らしい荒っぽいところがありますが、演出は今風の洗練された味わいで見所が盛り沢山。エモーション描写は、もうコテコテの濃ゆ〜いタイプですが、オーバー過ぎて笑っちゃうということもなく、そういった匙加減は上々。
 という感じで、インド映画的の伝統的な要素に背を向けるでなく、それらをしっかり押さえつつも、そこに今の感覚もプラスしたといった感じの、かなり見応えのある一本でした。
 そういった意味では、前に感想を書いた快作”Dabangg“と同じタイプですが、シリアス劇ということもあって、この”Agneepath”の方が伝統寄りで、そんなクドさもまた魅力的です。
 リティック・ローシャンは、マッチョさが更に増したという感じですが、アクション的な見せ場は意外と少なく、どちらかというと内面の煩悶描写に見せ場が多し。演技力の高さも手伝って、いわゆる超人的な強いヒーローではない生身の感じが良く出ていて、血と汗と涙にまみれた芝居も文句なしに熱い。またまたファンが増えそうな感じのカッコ良さです。
 敵役のサンジャイ・ダットが、また実に良く、子供の頃から「キモ〜い!」と虐められてきたというキャラなんですが、これが本当にキモくて憎々しい。ヒーローと悪役、この双方がしっかり立っている(しかもどっちも濃い!)のは、全体の成功の大きな一因では。
 この二人が対決するクライマックスは、ちょいと溜めすぎというか引っ張りすぎの感もあったんですが、そうやって引っ張っている間にリティックのシャツがビリビリ破れていき、逞しい上半身が剥き出しになる……なんて効果になっていたりもして、ちょい納得したり(笑)。
 ヒロインのプリヤンカ・チョープラーも、幸薄い系の役所なんですが、なにしろ美人だし、加えてそこかしこで、陽性でコケティッシュな魅力も振りまいているので、尚更その薄幸ぶりも引き立つといった塩梅で、これまた好配役。
 ラーラ役のリシ・カプールも、存在感といい演技といい文句なしの良さ。また、主人公の仲間でヒジュラ集団が出てくるんですが、これが安直なお笑い担当とかではなく、しっかり熱い見せ場に絡んできたりするのも、個人的に好印象。
 歌と踊りは、ロマンティック系はあまり印象に残らないんですが、後半にでてくるガネーシャ祭りと暗殺劇が交錯するそれは、これぞインド映画の醍醐味というか、インド映画でしか味わえないスペクタキュラーな見所となっており、ここだけでも一見の価値は充分以上にあり。

 そんなこんなで、とってもとっても「インド映画!」という感じで、インド映画的な良さはテンコ盛りで、かつ今風の作品らしく、極端な破綻や作りの乱暴さはない……といった出来なので、インド映画好きだったら文句なしに楽しめる一本だと思います。
「今」のインド映画を見たい方で、同時にこってり濃厚味が好きな方には、特にオススメしたい一本。
 予告編。

 とにかく圧倒される、ガネーシャ祭りのシークエンス。

“The Lost Future (ロスト・フューチャー)”

dvd_TheLostFuture
“The Lost Future” (2010) Mikael Salomon
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk

 2010年製作の南ア/独/米テレビ映画。人類の文明が崩壊し穴居人に退行している未来世界で、若者たちの冒険を描くSci-fiアクション・アドベンチャー。
 重要なサブキャラでショーン・ビーン出演。

 毛皮を着て骨の武器を手に狩りをする人々の村に、感染するとモンスター化してしまう疫病が襲いかかる。村人たちは対処法を相談するが、既に人類は絶滅の危機に瀕していて他に逃げ場もなかった。
 やがて村は、モンスターの集団に襲われる。村長の息子で勇敢だが思慮の欠ける青年と、その恋人の美しい娘、そして行方不明の父親を持つ親の代から変人扱いされている青年の三人が、辛うじて襲撃から逃れ、残りの村人たちは洞窟内に立てこもる。
 逃れた三人は森の中で、双眼鏡を持った不思議な中年男に出会う。その中年男は疫病に侵されない体質で、それは《黄色い粉》の効き目だという。
 3人は彼の導きで《黄色い粉》を手に入れるために旅立つのだが、そうしている間にも洞窟に立てこもった村人たちと、そして彼ら自身の身体も、徐々に疫病に蝕まれていき……といった内容。

 なんかすっごく懐かしい感じのSFでした。
 ホント「……バローズ?」(もちろんウィリアムじゃなくてエドガー・ライスの方ね)って感じで、個人的にこ〜ゆ〜のは大好物。あと私は原始人萌え属性があるので、そこいらへんのツボにもヒット。
 映像的にも、そこそこ佳良。
 最初の森の中のシーンとかは、少し安っちいかなと思ったんですが、それ以降は絵面の安さで白けるということもなく、廃墟となった森の中の教会とか、後に出てくる廃墟となって林立する高層ビル街とか、なかなか頑張っていて、雰囲気もあっていい感じ。
 演出も手練れた感じで、ちょうどいい塩梅にあれこれイベントを挟みながらテンポ良く進んでいき、ダレたり白けたりさせずにコンパクトに纏めている職人芸系。ちょっとしたディテールを使って、成長ドラマとか嫉妬めいた反発などを描き、程よく膨らませているキャラ描写も佳良。
 ストーリー自体は、まあ実にクラシックな感じで特に新味はないんですが、手堅い演出やクリシェを活かしたキャラの立て方なんかのおかげで、そんなお約束展開のアレコレもまた楽し。
 あと、ショーン・ビーンの歯がすっげぇ汚いんですが(笑)、そういった具合に、ディテールへの気配りもちゃんとあるあたりも、きちんと作品を作ろうという姿勢を感じました。

 まぁ、《黄色い粉》のリアリティとかは、ちょっとアレな気もするんですが(笑)、細かいことを気にしなければ、クラシックな異世界冒険SFが好きな人なら、まずは手堅く楽しめる出来かと。別に飛び抜けて良いとか、特筆すべきものがあるわけではないんですけど、個人的には大好きです、こーゆーの。
 そのうち日本でも、DVDスルーで出そうな予感。

【追記】日本盤DVDめでたく発売。

ロスト・フューチャー [DVD] ロスト・フューチャー [DVD]
価格:¥ 5,040(税込)
発売日:2013-01-09

『プリンセス・オブ・ペルシャ エステル記』

dvd_OneNightWithTheKing
『プリンセス・オブ・ペルシャ エステル記』(2006)マイケル・O・サイベル
“One Night with the King” (2006) Michael O. Sajbel
(日本盤DVDで鑑賞→amazon.co.jp

 2006年製作のアメリカ映画。タイトル通り旧約聖書のエステル記を題材に、そこにアレンジを加えて《ヒストリカル・ロマンス+宮中陰謀劇》に仕上げた、なかなか楽しめる娯楽エピック史劇。
 主人公のエステル役にティファニー・デュポン、お相手のクセルクセス1世役はルーク・ゴス。共演にジョン・リス=デイヴィス、ジョン・ノーブル、他にもオマー・シャリフや、ほとんどカメオみたいな感じですけどピーター・オトゥールまで出てきます。

 紀元前5世紀頃、ペルシャ王アハシュエロス(クセルクセス1世)は臣下の企みにより王妃を追放してしまう。そして領内から美しい娘を集め、その中から新しい妃を選ぶことになるが、その中にバビロン捕囚の後も同国内に留まっていたユダヤ人の娘ハダサがいた。
 叔父のアドバイスにより、名前をバビロニア風のエステルと改めたハダサは、アハシュエロス王と出会い互いに恋に落ちる。やがてエステルは晴れて王妃に選ばれるが、宮廷内では密かに王の地位を狙う重臣や、ユダヤ人に恨みを持ち根絶しようと企む者たちによる陰謀が渦巻いていた。
 また最初は愛し合い信頼し合っていた王とエステルも、ふとした行き違いからその仲が冷えてしまう。そんな中、ついにユダヤ人のジェノサイド計画が動き始め、エステルは自分の生死を賭けた重大な選択を迫られるのだが……といった内容。

 こういったDVDスルーの聖書モノ映画って、原典や教えに忠実であらんとするが故に、単なる絵解きでしかなかったり、テンポがチンタラしていて信者以外は門前払いみたいなものが少なくないんですが、これは色々アレンジを加えてドラマチックに仕上げてあり、けっこうハラハラドキドキ楽しめました。
 映像的には主にインド(ジョードプル)でロケをしていて、まあ「古代ペルシャ帝国なのに、なんか……ムガール調?」みたいな感じはあるんですが(笑)、実在する宮殿等を使った存在感やスケール感が、全体的にはプラスに働いている印象。反面、それ以外の拡がりを出すCGとかは、ちょっとショボいですが。
 ひょっとして衣装や美術に、ボリウッド映画のスタッフが入っているのか、そういったあたりにインド映画みたいなゴージャスさがあるのも佳良。物語のベースの一つにロマンス劇があるんですが、これまたインド映画的なオーセンティック&ロマンティックな雰囲気があって佳良。
 スペクタクル性としては、特に合戦シーンとかがあるわけではないですが、前述したようなゴージャス感やロマンティック感によって、《ハレ》系のスペクタクル味があるのも、個人的には嬉しいところ。こういった感覚って、わりと昨今のハリウッド系では見られないものなので。
 ストーリーとしては、陰謀渦巻くハラハラ系とヒロインの心情の寄り添うロマンティック系の並行進行。
 勢力分布が複雑だったり説明不足もあったりして、ちょっと判りにくい部分もあるんですが、各々のエピソードを上手くエモーショナルに見せてくれるので、見ていてけっこう盛り上がります。キャラが良く立っているのも佳良。

 まぁ、あんまり期待しすぎるとアレだとは思いますが、聖書史劇系の退屈さとは無縁ですし、あちこち楽しい見所もあるので、史劇好きやヒストリカル・ロマンス好きなら、充分楽しめるのではないかと。
 特に、ヒストリカル・ロマンス好きにはオススメしたい一本。
 予告編。

 挿入歌を使ったクリップ(MAD動画?)。映画の雰囲気は、こっちの方が掴みやすいかも(ただしロマンス劇としてはネタバレありなので注意)。

 ……ね? そこはかとなくインド映画っぽくない?(笑)

“Hamam (Steam: The Turkish Bath)”

dvd_hamam
“Hamam” (1997) Ferzan Ozpetek
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 1997年製作のイタリア/トルコ/スペイン映画。イタリアで活動するオープンリー・ゲイのトルコ人監督フェルザン・オズペテク(『向かいの窓』『あしたのパスタはアルデンテ』)の処女長編。英題”Steam: The Turkish Bath”。

 トルコのイスタンブールを訪れたイタリア人男性が、次第にその地に魅せられていき、そこに同性愛の要素も絡めて描いた内容。
 ローマ在住のフランチェスコは、今まで会ったこともない伯母が亡くなり、その遺産整理のために一人、伯母が長年暮らしていたイスタンブールへと赴く。
 そこで彼は、伯母がハマム(蒸し風呂、トルコの伝統的な公衆浴場)を買い取っていたことを知り、叔母と一緒に働いていたトルコ人一家に暖かく迎えられる。ハマムは既に長年使われておらず廃墟のようになっており、フランチェスコも始めはそれをさっさと処分してローマへ帰ろうと思っていたのだが、自分を家族のように歓待してくれる件の一家や、イスタンブールの空気、伯母が残した手紙などから、次第にその地に惹かれていく。
 やがてフランチェスコは、ハマムを買いたがっている人間が、その旧市街一帯を取り壊して、近代的な都市開発をしようとしていることを知り、売るのをやめて改修することにする。こうしてイスタンブール滞在が長引くにつれ、彼は件の一家の中でも、特にハンサムな息子メフメットと親交を深めていく。
 そんな中、フランチェスコの妻マルタが、ローマからイスタンブールにやってくる。彼女もまた、件のトルコ人一家に歓迎されるが、実はフランチェスコとの夫婦仲は既に冷え切っており、彼女は彼に離婚を切り出すつもりだった。
 しかしマルタは、この地での夫の変わり様に戸惑う。ローマにいた頃とは見違えるように生き生きとして、トルコの地にも溶け込んでいるような夫を見て、彼女は一人取り残されたような気持ちを味わう。
 そんなある晩、マルタがふと目覚めると、自分の隣で寝ていたはずの夫の姿がない。そして彼女は、改装を終えた夜のハマムで、裸になった夫とメフメットが、互いに愛撫しあっている姿を見てしまい……という話。

 ヨーロッパ文化におけるオリエンタリズム的な興味をキャッチとして使いつつ、イスタンブールという街とハマムという場所を寓意的に重ね合わせて、個々の人間の人生というドラマに落とし込んでいく構成は、なかなかお見事。
 前半をフランチェスコの、後半をマルタの視線で描くという切り替えも上手い。
 映像表現や人間描写の繊細さという点では、同監督が後年に撮った『向かいの窓』(2003)や『あしたのパスタはアルデンテ』(2010)などと比較すると、まだちょっと荒い感は否めません。特に心理面での掘り下げは、もうちょっと欲しかったところ。
 ストーリーもちょっと作りすぎの感があり、特にクライマックスが、何というかキャラクターにとって都合が良すぎるという気も正直。まぁ、表現自体が丁寧で繊細なので、鼻白むまではいかないんですが、でもちょっとギリギリかなぁ……というのが、個人的な印象。
 ただ、これがデビュー長編ということを踏まえれば、やはり充分に佳良です。
 映像もおそらく美しいっぽいんですが、DVDのマスターがあまり良い状態ではなく、あまり酔えなかったのが残念。
 伝統音楽にエレクトロニクスを絡めた、ちょっとエスノ・トランス〜アンビエント系の音楽(Trancendental)もなかなか魅力的で、サントラ盤を買いました。
 作家性という面では、主人公より前の世代の逸話や、異邦人、同性愛といった要素が、ストーリーに有機的に絡んでくるのが、前述した2作とも共通していて興味深いところ。監督の背景を考えると、パーソナルな要素が色濃く出ている感があります。

 そんな感じで、モチーフ的に興味のある方ならば、充分以上に見る価値のある佳品かと。

Steam (Hamam: The Turkish Bath) - Original Motion Picture Soundtrack Steam (Hamam: The Turkish Bath) – Original Motion Picture Soundtrack
価格:¥ 1,408(税込)
発売日:1999-01-19
向かいの窓 [DVD] 向かいの窓 [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2007-10-13
あしたのパスタはアルデンテ [DVD] あしたのパスタはアルデンテ [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2012-03-02

“The Secret of Kells (ブレンダンとケルズの秘密)”

bluray_thesecretofkells
“The Secret of Kells” (2009) Tomm Moore, Nora Twomey
(米盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com)

 2009年製作のフランス/ベルギー/アイルランド合作長編アニメーション。
 ヴァイキングの略奪に晒されるアイルランドを舞台に、装飾写本『ケルズの書』の成立を絡めて、少年の冒険を描いたもの。
 大阪ヨーロッパ映画祭、他で『ブレンダンとケルズの秘密』の邦題で上映あり。

 主人公ブレンダンは、ヴァイキングの侵攻に備えて防壁を建設しているケルズに住む少年。
 そこに侵攻を受けて滅ぼされたアイオナ島から、一人の彩飾者が未完成の装飾写本を携えて逃げてくる。ブレンダンは装飾写本に魅せられるが、少年の保護者でケルズの長は写本の価値を認めず、防壁こそ重要だと説く。
 しかしブレンダンは保護者に背き、件の彩飾者のために顔料になる木の実を探そうと、初めて城壁から出て森に入り、そこで少女の姿をした妖精アイスリングに出会う。少年は彼女の助けで無事に木の実を手に入れることができるが、同時に森の奥に潜む邪悪な者の存在も知る。
 ブレンダンはアイオナの彩飾者と共に装飾写本の作成に取りかかるが、長はそれを許そうとはしない。また写本作成に必要なクリスタルも喪われたままで、それを手に入れるには危険を冒す必要があった。
 更にヴァイキングの軍勢も、刻々とケルズに迫りつつあり……といった内容。

 まあ、とにかく目の御馳走。
 華麗な色彩、装飾的な造型、大胆にフラットな画面構成は、アニメーションという「動く絵」の醍醐味をタップリ味わえます。もう、それ見ているだけでも満足できちゃうくらい、画面そのものが美しい。
 大胆なデフォルメによるキャラクター造型も魅力的。
 ストーリーは、魅力的で面白い要素も多々ありますが、いささか史実とファンタジーの板挟みになって、大胆に飛躍しきれていないきらいがあり。また、けっこうタイムスパンが長いストーリーの割りには、尺が75分しかないので、どうしてもディテール不足の感は否めず。
 特にストーリーのフォーカスが、写本の完成、ヴァイキングの侵攻、クリスタルの探求……と、あちこち散ってしまっているのが残念。ここはもうちょっと、ポイントを絞り込んで見せた方が良かったのでは。
 ただ、主人公の少年と妖精の少女が交流するあたりのキャラクタードラマは、何とも生き生きしていて実に魅力的。

 そういう感じで、あちこち惜しい感もなきにしもあらずではありますが、映像の美しさだけでも、それを補って充分に余りあるほど。《動く絵の美しさ》を、これだけタップリ味わわせてくれるなら、それ意外にアレコレないものねだりをするのは贅沢かも。
 そのくらい映像はパーフェクトに美しく、また、トラッドベースの音楽も素晴らしい。
 眼福でした。

[amazonjs asin=”B0036TGSWG” locale=”JP” title=”SECRET OF KELLS”]

“A Year Without Love (Un año sin amor)”

dvd_AYearWithoutLove
“A Year Without Love” (2005) Anahi Berneri
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2005年製作のアルゼンチン製ゲイ映画。原題”Un año sin amor”。
 実在するHIV+の若い作家/詩人、パブロ・ペレスによる日記形態の小節を基にした内容だそうで、同年のベルリン国際映画祭テディ賞受賞作。
 HIV+である主人公のライターが、死への恐怖に怯えながら、愛を探しセックスを求め、ブエノスアイレスのゲイシーンを彷徨し、レザーSMの世界に踏み込んでいくのだが、やがてそのことを通じて、自分自身のHIVという病とも向き合っていく……という内容を、彼の日記を通じて私小説的に描いたもの。

 まず、原作小説の作者本人が脚本に関わっているだけあって、レザーやサドマゾヒズムに対する視線が、露悪的であったり扇情的であったりしないのが、私的にはマル。
 ただし、それらをメタファー的に使っているために、BDSMがまるでイニシエーションのような、一過性の趣味的なものに見えてしまったのは、個人的にはペケ。とはいえそれは、単に私のフィロソフィーとは合致しないというだけのことで、そういう捉え方があっても別に良いと思いますが。
 人間の肉体、医療行為や薬品、セックスやSMの描写などで、一貫して極端なクローズアップを多用し、フェティシズム的な視線を感じさせる演出は面白かった。16ミリのようなザラついた映像も、90年代の未だアングラめいたブエノスアイレスのゲイシーンという状況に、リアリティを与えていて効果的。
 欲を言えば主演男優が、演技自体は素晴らしいんだけど、ルックスがエイドリアン・ブロディ似であまり私のタイプではなく、逆にメイキングで見られる作家本人(レザーパーティーの一員として出演もしていた模様)の方が、私的にはこの役者さんよりよっぽどイケていたのが残念(笑)。
 個人的な好みから言うと、こういったドラマ的な造りや映像的なハッタリを排除した作風は、正直さほどピンとこないんですが、描かれるパーソナル・ヒストリー自体の興味深さと、淡々としつつもリアリティのある作風で、わりと面白く見られた感じです。

 90年代のアルゼンチンのゲイ・シーン、レザーSM、HIV、実話ベース……と、モチーフ自体に興味深い要素が多いので、それらに惹かれる方なら見てもいいかも。
 ”A Year Without Love (Un año sin amor)”、予告編。

 予告編だけだと、どんな雰囲気の映画かさっぱり判らないと思うので、いちおう映画のワンシーンのクリップも貼っておきます。

“Kahaani”(『女神は二度微笑む』)

bluray_kahaani
“Kahaani” (2012) Sujoy Ghosh
(インド盤Blu-rayで鑑賞→amazon.com
 2012年制作のインド/ヒンディ映画。
 インドで消息を断った夫を捜しに、独りロンドンからやってきた身重の若妻が、謎の事件に巻き込まれていくという、歌舞シーンなしのミステリー・スリラー。
 本国ではスロースタートながら高評価に押され、最終的にはスーパーヒット作になったそうな。

 身重の若妻バグチー夫人は、夫が仕事でコルカタ(カルカッタ)に赴任した後、消息を断ち行方も判らなくなってしまったのを探しに、独りロンドンからコルカタにやってくる。
 彼女は真っ直ぐに警察署に向かうが、夫の情報はなにもない。しかし若い警官ラーナは、彼女を案じ捜査を手伝うようになる。
 奇妙なことに、夫が滞在していた宿はホテルではなく安宿で、しかも記録は何も残っていない。更に赴任先であるはずの会社でも同様だった。しかしその会社で、彼女から相談を受けた老婦人アグネスは、行方不明のバグチー氏の写真を見て、かつてその会社にいたミラン・ダムジーという男に似ていると言う。
 バグチー夫人は警官ラーナと共に、夫が卒業したはずの学校や、夫の親戚を探し当てるが、学校には彼が在籍していたという記録はなく、親戚も身内に該当する者はいないと言う。果たして彼女の結婚していたバグチー氏とは何物なのか、生きているのか死んでいるのか、ミラン・ダムジーという男と同一人物なのか、そしてミラン・ダムジーとは何物なのか……と、謎はどんどん深まっていく。
 更に、バグチー夫人がミラン・ダムジーを探しているという報を受け、内務省のエージェントが動き始める。実はその裏には、二年前にコルカタの地下鉄で起きた、死者百余名を出した毒ガステロ事件が関係していた。
 こうしてバグチー氏失踪事件は、やがて思いもよらぬ展開に及んでいき……といった内容。

 いやこれは面白かった!
 ヒッチコック風の巻き込まれ型スリラーなんですが、丁寧な描写を積み上げていく展開、キャラクターの魅力、二転三転する展開、要所要所で挟まれるサスペンス、そして最後のどんでん返しと、明らかになる伏線の数々……等々、ストーリー自体が文句なしの面白さ。
 身重の妊婦が、下町から高級オフィスまで様々な場所を動き回り、そしてクライマックスのドゥルガー祭に至るまで、コルカタの町というロケーションを存分に活かした映像も魅力的。特にクライマックスからエンディングにかけて、そういった光景とテーマを重ね合わせて見せるという、その手腕も見事。
 役者陣も押し並べて素晴らしく、ヒロインを演じるヴィディヤー・バーランは、まだ娘っぽい可愛らしさから、母の萌芽的な強靱さ、そして女神的な崇高さにまで至る、素晴らしい演技を披露。その他のアンサンブルも、キー・キャラクターからちょっとした箸休め的な子役に至るまで、悉く魅力的な面々。
 全体の尺も、約2時間とインド映画としてはコンパクトで、作りも極めてリアリズム志向。ミュージカル的な場面はなく、アヴァンタイトルとエンドクレジットに主題歌的なものが流れるのと、本編中で祭りの歌がちらっと聞こえる程度。
 こういった、インド映画の伝統芸能的な側面を排した作品としては、2010年の傑作“Ishqiya”(そういやヒロインが同じ女優さんだ)に肉薄する面白さ。”Ishqiya”共々、こういったラジニカーントでもサタジット・レイでもないインド映画が、もっと日本でも見られるようになれば良いんですが……。

 インド映画云々ではなく、普通に良く出来たミステリー映画が好きな人に、ぜひオススメしたい一本。
 IMDbで8.2点という高評価なのも、納得の出来映えでした。

【追記】『女神は二度微笑む』の邦題で2015年2月公開予定。

“Sculpture”

dvd_Sculpture
“Sculpture” (2009) Pete Jacelone
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2009年製作のアメリカ映画。ボディビル・ジムのインストラクターが次々に殺されていくC級スプラッター映画。
 因みにIMDbの点数は堂々の2.9/10.0点……だけど、米アマゾンのユーザーレビューは星4つ半だったり(笑)。

 主人公は新進女性アーティスト。
 プロのボディビルダーだった父の死を切っ掛けに、長らく距離を置いていた実家に戻り、残された兄と二人で父の残したボディビル・ジムの経営を手伝うことになるのだが、子供時代の恐ろしい体験のトラウマに悩まされる。
 そんな中、アートディーラーから個展の誘いがあり、彼女はジムのインストラクターの一人にモデルを頼むのだが、それを彼女を溺愛する兄に見咎められ、それがきっかけでトラウマが暴走。やがて血まみれの惨劇が……といった内容。

 え〜、謎解きなし、サスペンスなし。ストーリーも予告編を見て「こんな話だろうな〜」って想像したそのまんまで意外性はゼロ。……だってあーた、新進アーティストがオカしくなって、ボディビルダーを次々殺していくC級スプラッターで、タイトルが『彫刻』っていったら、もうオチまで判ったでしょ?(笑)
 ところが逆に言うと、要素が殺されるマッチョを見せるという一点、およびその前戯となるセクシー場面だけに絞られていて、そういう意味ではなかなか潔い作品でした。低予算なのでスプラッター場面も大したことはありませんが、見せ物的な感覚自体は悪くないので、悪ノリも含めてグランギニョール的にはけっこう楽しめます。
 そんなこんなで、まぁこっちのスケベ心も手伝ってのことなんですが、鼻クソほじりながらも、けっこう楽しく見られちゃいました(笑)。だってなにしろ、殺されるのがボディビル・ジムのインストラクターだけで、しかも色仕掛け付きということもあって、何のかんので脱ぎっぷりもいいし(笑)。
 売り手側も、どういう層がDVDを買うかは判っているようで、映像特典にはお決まりのメイキングや予告編以外に、出演ビルダーたちが下着姿でポージングするクリップなんてのが入ってます(笑)。
 しかしヒロインの顔と体型は、もうちょい何とかならんかったのか……。

 というわけで、スプラッター好きで、半裸のマッチョが殺されるのを見るのも好きという、私と同じ趣味をお持ちの方だったら、充分お楽しみいただけるかと。
 但し、出てくるボディビルダーの体型は、フィットネス・モデルからナチュラル・ボディビルくらいまで。ステロイド・モンスター系は出てきませんので、筋量命の方だと、けっこう食い足りないかも。
 まあ、演出とか脚本とか役者の演技とかは完全にアレなんですけど(笑)、予告編見て「おっ!」と思った方なら、迷わずオススメいたします。