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都条例「非実在青少年」規制問題に関する私見

 なぜ私が、この事態を憂慮しているかということについても、ちょっと意見を述べておきたいと思います。

 まず、そもそも今回の「非実在青少年」のように、「実在しない」のに「人権がある」ような考え方自体が理解できない。
 百歩譲って、フィクション上の「非実在青少年」なるものについて、積極的に考えようとしても、文章がOKで絵がNGだというのも判らない。文章よりも絵の方が、より即物的で犯罪的な存在だとでもいうのだろうか。

 次に、作家としての自分の「表現の自由」を守りたい、ということは、言うまでもない。
 そもそも私は「フィクションにタブーなし」という考え方であるし、本家サイト開設以来、トップページにずっとバナーを揚げてきたように、「フィクションと現実は明確に区別せよ」という信念を持っている。
 性表現・性文化のゾーニングに関しては、「賛成」するのにやぶさかではないけれど、ただし、よく引き合いに出されるように、「欧米では……」といったグローバル・スタンダード的なレトリックを用いるのなら、ゾーニングを徹底すると同時に、ポルノグラフィーを解禁せよ、と言いたい。
 この問題以前から、私の「表現の自由」は、「性器の修正」という形で、既に侵害されている。

 性と表現の関わりについては、まず、美術史上から先例を幾つか引いてみたい。性と表現に関してもの申すなら、もうちょっと歴史から学べることがあるだろう、と思うからだ。

 まず、有名な話から、16世紀イタリアの話。
 画家ダニエレ・ダ・ヴォルテッラは、ミケランジェロの「最後の審判」に描かれた、裸体画の股間を隠すために、布や葉などを加筆した。このことから、気の毒に彼は、後世まで「ふんどし画家」と嘲られてしまった。
 次に19世紀、明治期の日本。
 画家黒田清輝の「朝妝」が「裸体画論争」を引き起こし、ときに裸体画は下半身を布で覆われた状態で展示されたりした。
 そして、同じく19世紀、ヴィクトリア朝のイギリス。
 ロイヤル・アカデミーの会計会長ジョン・キャルコット・ホーズリーは、「ふしだらなヌード画」に対する徹底的な攻撃によって「着衣のホーズリー」とあだ名され、雑誌『パンチ』上で茶化され、画家ジェームズ・マクニール・ホイッスラーは自作のヌード画に、「邪(よこしま)なるものこそホーズリーなれ」というメモを貼って出品した。
 この「ヌード論議」で、ヌード反対派を後押ししたのは、当時活発化した「社会浄化運動」だった。
 そして、当時の価値基準では、同じヌード画でも、アルバート・ムーアの「ヴィーナス」は猥褻で、フレデリック・レイトンの「衣を脱ぐヴィーナス」は芸術だった。これは、当時の「モラル」に準拠した判断なのだが、どうしてか、その理由がお判りだろうか?
 その答えは、ここでは書かないことにする。何故なら、ここでは「どうして?」と思うこと自体に意味があるからだ。

 このように、いずれも現代の感覚からすると、理解できなかったり、滑稽に感じられる「美術史上の事件」だが、実のところ、現在の日本の状況を鑑みると、あながちこれらを滑稽だと笑うことはできないのだ。
 なぜなら、こういった滑稽な事態を生み出したのは、今回と全く同じ、「健全か、不健全か」という価値基準であり、「健全はよし、不健全はダメ」という考え方なのだから。
 21世紀の日本社会は、裸体表現に対する禁忌という意味で、「ふんどし画家」や、明治時代の「裸体画論争」と似たようなものだし、モラル的な断罪といった点では、ヴィクトリア朝イギリスの「ヌード論争」と同じであり、しかも今回の「非実在青少年」によって、それが更に退行しようとしている。
 特に、後者の「健全・不健全」といったような、モラル的な断罪方法については、かつて同性愛差別が、同じモラルの名のもとに正当化され行われてきた歴史を踏まえても、私は断じてそれに同意することはできない。

 しかも今回は、それが政治という「社会の中核を成す部分」で起きている変化であるが故に、その行く先に対する懸念が、私の中では通常以上に大きくなっている。
 前述したように、こういった性を思想的に扱いつつ、それを「健全・不健全」と二項対立で判断するような考え方が、性を「マトモ」と「ヘンタイ」に分け、「同性愛」は「ヘンタイ」とされてた。そして、この性を「良し悪し」で判断するための基準とされてきたのが、学術やモラルであったのだが、いずれも社会や時代の違いに応じて、いかようにも変化してきた。
 つまり、これらは実に曖昧に揺らぎうるもので、決して普遍的な絶対律ではない。
 これは、今回の都条例の持つ「曖昧さ」、つまり、判断基準が恣意的に、いかようにも変化しうるという問題点と、相通じるもののように思われる。どちらも、「今日はOKだったものが、明日はNGになりうる」のだ。
 政治という社会の中核部で、仮にも条例という「法」が、そういった「曖昧さ」を孕んだまま、しかも「わざと議論の余裕を持たさずにスピード採決に持ち込もうとするかのような動き」(竹熊健太郎)、つまり、誰も知らないところで決定してしまい、それを既成事実にしようとするという考え方には、私は心の底から恐怖する。
 更に、山田五郎氏のラジオで聞かれるように、テレビという最も大きな影響力を持つメディアは、このことを議論はおろか、きちんと触れようとする気配すら見せない、という事実も恐ろしい。

 こういった動きを社会全体が受容する、つまり、例え「おかしい」という声が上がっても、それについて議論されることもなく、そのまままかり通ってしまう世界であるのなら、私はそこに、以前ここでヴァルター・シュピースについて書いたときに触れた、1930年代のオランダ領インドネシアで、それまで何十年も「暗黙の了解」という「曖昧さ」によって守られてきた同地の同性愛者が、社会が保守化していくパラダイム・シフトの中で、否応なく「狩り」の対象へと変化していった、という事例を、重ねずにはいられない。
 このことが、現代の日本とどのように通じるものがあるかは、上記のエントリーで既に書いているので、ここでは繰り返しさないが、それに関してテレビが「沈黙」していることが、これまた以前ここでマンガ「MW」の映画化に際して意見を書いたときと同様の、性に対する旧弊で無知な現状を思い出させる。
 だから、「非実在青少年」という言葉は、いかにも滑稽なものではあるけれど、それを生み出した「思想」と、それを育ててしまう「状況」には、私は底知れぬ恐怖を感じてしまう。
 いささか大げさに感じられるかも知れないが、それが私の正直な感想だ。

(ヴィクトリア朝絵画におけるヌードに関しては、雑誌『芸術新潮』2003年6月号「ヴィクトリア朝の闘うヌード/筒口直弘」を参照)

シドニーの企画展レポート

 まずは、オーストラリアとゆーことで、お約束をイッパツ。
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 コアラって、よくまああんな木の股なんかで寝られるなぁと、ヘンなところに感心してしまった(笑)。

 さて、日本を発ったのは、2月23日の午後。バンコクで飛行機を乗り継ぎ、シドニーに着いたのは、翌24日午後。
 ホテルにチェックインしてから、会場設営中の担当者のタカギさんに電話。数時間後、ギャラリーで会うことにしました。
 私の泊まっていたホテルは、地下鉄キングス・クロス駅の近く。ここから、マルディグラ・パレードが行われるオックスフォード・ストリートまでは、ノンビリ歩いて30分ほど。ギャラリーもそのすぐ一本横の通りなので、散歩がてらブラブラ歩いて行くことにしました。
 ギャラリーについたら、ちょうど設営の真っ最中。タカギさんとマユミさんにご挨拶して、展示の確認および明日の簡単な打ち合わせ。
 私の出品作は、一部が通りに面したショーウィンドウ内に、残りが2Fのメイン会場に展示されていました。
 ギャラリーは広く、天井も高くて、明るい雰囲気。ただ、壁面積に比べて展示の点数が超過気味の感はあり。基本的に、上下二段の展示となっていたし、作品間のスペースも、ちょっと窮屈な感じはしました。
 反面、壁面が隈なくLGBTアートで埋め尽くされているという状態なので、見応えや満足感は、おそらく高いのではないかという感があり。

 翌日の夕方6時、オープニング・レセプションがスタート。
 私は5分前に会場入りしたんですが、その時点で既に、かなりの人数が集まっていました。
 ギャラリーに到着したとき、入り口に和服を着たいい男が立っていたので「おや」と目を奪われたんですが、良く見たら市川和秀センセでした(笑)。後で確認したところ、今回、私と市川センセを含めて、出展作家は計4名が訪豪していたとのこと。
 会場に入って、来客の皆さんとしばし交流。
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 上の写真は、2Fの私の展示スペースの前で、ニュー・サウス・ウェールズ大学のウィリアム・S・アーマー博士と。私の作品についての論文とかを書かれている先生で、日本のゲイ・カルチャーにも明るく、昨年度の展覧会ではオープニング・スピーチもしてくださった方です。日本語ペッラペラ(笑)。
 因みに、左のアジア系の方がじ〜っと見入っているのは、児雷也画伯の出品された肉筆金屏風絵。いや〜、この絵は実に素晴らしかった! これを生で見られただけでも、シドニーまで行った甲斐があるというもの。へへへ、羨ましいでしょ(笑)。
 会場のお客さんは、地元シドニーの方はもとより、シンガポールや香港から来たという方や、在豪の日本人の方なども。中には、日本から来られた方もいました。その中に旧い知人もいて、異郷の地で十年ぶりくらいの再会となってビックリ!
 
 開場からしばらくして、まずタカギさんのオープニング・スピーチ。
 そして、タカギさんの紹介を受けて、いよいよ今回の訪豪で最大の懸案点だった、私のスピーチの番に。もちろん英語で(笑)。
 とゆーわけで、出立前夜に2時間かけて書いた原稿を片手にスピーチ。もう、アンチョコどころではなく、ほとんど原稿を読み上げているだけ(笑)。
 今回の展示内容は、古くは大川辰次さんや遠山実さんから、今活躍中の作家さんまでと幅広かったので、スピーチの内容も、日本のゲイ・カルチャーに馴染みのないオーストラリアの方に向けて、日本のゲイ・アート史の概略を説明しながら、それに併せて展示されている作家さんたちのお名前にも触れていく、という形にしました。
 スピーチの補足も兼ねて、拙著『日本のゲイ・エロティック・アート vol.1』を会場に持参したんですが、この本は海外ではいつもそうなんですが、やはり反響多し。「どこで買えるのか」といった質問もけっこうあった様子で、しまった、ポットさんにお願いして、会場販売用に何冊か調達しておけば良かった、と、今さらながら後悔したり。
 今回、この本を持参しようと思いついたのは、前述した出立前夜に英文原稿を書いているときだったので、残念ながら準備する余裕はありませんでしたが。

 スピーチも無事終えて、再び歓談。
 前述したように、日本人の方もけっこういらしたので、さほど英語疲れはしませんでした(笑)。
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 上の写真は、アーティストのピーター・スキロウと。今回が初対面ですが、鉛筆や水彩で「ベアっ!」って感じの絵をリアリズムで描かれる人です。ちょうど今、近くにある別のギャラリーで個展の最中だというので、翌日見に行きました。
 作品からしていかにも熊系なので、「オーストラリアのベア・コミュニティは大きいの?」と聞いたら、「大きいよ〜、マルディグラ中には、ホテルで下着&水着パーティもあるよ〜」と教えてくれました。市川センセが、そのパーティの興味津々のご様子でしたが、行かれたのかしらん?(笑)
 市川センセとは、開場で抱き合って写真とかも撮ったんだけど、顔出しNGとのことで、ここにはアップできないのが残念。いい男なのに、モッタイナイ(笑)。
 他には、オーストラリア人のファンに、私のマンガ単行本にサインを頼まれたり。通販で入手してくれたそうで、いやありがたい限り。ただ、そのサインを頼まれた本が『禁断作品集』と『ウィルトゥース』という両極端の二冊だったので、ちょいビックリ(笑)。
 あとは、小柄だけど、マドンナみたいなゴージャスな美人のビアン(たぶん)の方が、私の責め絵を「美しい」と言ってくださったり、ヒュー・ジャックマンをうんと老けさせたみたいな年配の方と、SM談義を愉しんだり。
 いつもの如く「一緒に写真を撮っていいですか?」というお声も多し。

 そんなこんなで、オープニング・レセプションは、存分に楽しませていただきました。
 ホントはもっと会場写真を撮りたかったんですが、残念ながらその余裕がなく、スイマセン。

Tom de Pekinの個展のご案内

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 フランスのゲイ・アーティスト、Tom de Pekin(トム・ド・ペキン)から、個展のご案内をいただいたので、ご紹介。
 以前このブログでも何度か作品やご本人を紹介したことがあるアーティストさんです。

Tom de Pekin et La Fille Derrière La Salle de Bains s’exposent
tom de Pekin et La Fille Derrière La Salle de Bains
http://web.me.com/dagoit/derrierelasalledebains/catalogue_accueil.html
s’exposent chez Mona Lisait
EXPOSITION DU 1ER MARS AU 30 AVRIL 2010
Mona Lisait – 10h/19h
211 rue du fbg st Antoine 75011 Paris – metro Faidherbe-Chaligny
une production de “la Books Factory”
dessins – livres – sérigraphie
vernissage Vendredi 12 Mars 2010 – 18h30/21h
Avec présentation des ouvrages de Tom de Pekin
publiés Derrière la salle de bains.

 フランス語オンリーなので、イマイチよーワカランのですが(笑)、たぶん3月1日〜4月30日まで、パリのギャラリーで開催される模様。
 内容は、デッサンと本(?)とシルクスクリーン版画らしいです。
 トムの作品は、エロくてキュートでちょっと毒があって、サブカル系が好きな方には特に受けると思います。
 開催期間内にパリに行かれる方がいらっしゃいましたら、ぜひどうぞ!

明日からシドニー行きです

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 毎年シドニーで開催される、世界最大のゲイ・フェスティバル、マルディグラの期間中に、日本のゲイ・エロティック・アートの企画展が、2月25日〜3月7日まで、シドニー市内のギャラリーで開かれます。
 その、オープニング・レセプションの出席と、マルディグラ見物を兼ねて、明日からしばらくオーストラリアへ行ってきます。
 まあ、今回は自分の個展ではなくグループ展なので、去年のパリ個展のようなマメなレポートはしないと思います。気が向いたらメール更新するかな、くらいなので、そこいらへんは、あまり期待せずにお待ちください(笑)。
 展覧会の詳細に関しては、上のバナーにリンクを貼ってあるので、興味のある方はどうぞ。クリックで別サイトに飛べます。
 さて今回は、航空券をタイ航空でとった(つまりバンコク経由便)ので、帰りがけ、ちょっとバンコクに寄り道する予定。とはいっても、スケジュール的にあまり長期の休みがとれないので、二日だけですけど。
 バンコクに行くのは、もう20年ぶりくらいなので、さぞかし様変わりしているんだろうなぁ。スワンナプーム新空港も地下鉄も高架鉄道も、み〜んな初体験だし。いちおう、昔よく利用していた安宿街のあるエリアのホテルをとったけど、どのくらい変化しているのか、楽しみなような不安なような(笑)。

ゲイエロ3とか

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 ポット出版さんから出させていただいている『日本のゲイ・エロティック・アート』シリーズ、「vol.3」の図版セレクト&ページネーション作業が、ようやく終了。
 上の図版は「vol.3」収録作家の中から、私のマエストロのお一人、武内条二先生の作品。この作品は、ページ数等の関係で、泣く泣く収録を断念したもののうちの一つです。

 武内先生の作品に関しては、私の呼びかけに応えてくださった皆様のご協力のおかげで、本当に充実した収録作品候補を集められました。繰り返し、厚く御礼を申し上げます。
 結果、この作品のように、どうしても収録しきれない作品も多々出てきてしまいましたが、それを受けて、少しでも多くの作品を収録したいと、急遽全体の構成も見直しました。
 まだ先のことではありますが、無事に出版までこぎ着けた暁には、どうぞお楽しみに。

 それにしても、これだけのクオリティの作品で、それも大量に存在していたにも関わらず、結局「アドン」「ムルム」当時の原画は、一枚も発見できなかったというのが、何とも口惜しい。
 これまで、様々なアーティストの作品を調べてきましたが、散逸どころか存在の確認もできないとは、最悪のパターンです。
 ただ、今までの私の経験から、出版社や当時の関係者に問い合わせて、「ウチにはない」という返事だったものの、実のところ、それは「存在しない」のではなかった、ということもあります。
 どういうことかと言うと、面倒くさいからか、あるいは厄介だからなのか、理由はともかく、「調べない」か、「調べる気がない」ために、「ウチには『ない』よ」という返事になり、それが後になって、別ルートから「実は『あった』」ということが、判明したというケースもあります。
 こういった経緯は、私としてはあまり愉快な気持ちはしませんが、それでも本当に「消失している」よりは、まだマシです。

 願わくば、武内先生の作品も、こういった形でもいいので、いつかどこかから出てきてくれますように。

つれづれ

 昨日『ケレル』のことをブログに書いたら、何だか無性に見たくなったので、久々に鑑賞。
 う〜ん、何回見ても、やっぱりヨーワカラン映画だ(笑)。
 ワカラナイのに、でもムチャクチャ好きだってのは、この映画以外にもいろいろあるけれど、これっていったい何なんだろう?
 因みに『ケレル』って、表層的なストーリー自体は、別に難解でも何でもない。何がどーしてどーなった的な類のことは、見ていて全く混乱しないし。でも、何故そうなったかということになると、ここでちょいとヤヤコシクなってきて、更にナレーションやテロップで劇中に挿入されるテキストが、混乱に拍車をかける。
 で、そのうち、常に画面を満たしている夕刻の光までもが、私の理解を阻む黄金色の靄のように感じられて、結局、その映像美とまどろむようなテンポに身を委ねながら、描き出される男性の肉体と暴力と殺人の魅力に、ぼーっと浸っていれば、それでいいのかなぁ……なんて気分になってしまう。
 そう考えると、自分はこの映画を、まるで「詩」を味わうように好きなのかも。
 で、見終わってから数時間以上経った今でも、頭の中で、映画に使われている「♪あ〜ああああ〜」っつー男声コーラスが回っております。
 好きな曲だけど、ここまで回るといいかげん鬱陶しいから、そろそろ消えて欲しいんだけどな(笑)。

 さて、暴力と殺人つながりで、最近それ系で、ちょっと面白いゲイ・エロティック・アーティストと、ファン・メールを貰ったのをきっかけに知り合いになったので、ご紹介します。
 Mavado Charonという、フランス人のアーティスト。
Mavado_Charon
 サイトはこちら
 日本で言ったら「ガロ」系みたいな、かなりアングラ臭のするドローイングを描くアーティストで、図版は彼から貰ったニュー・イヤー・カード。彼には申し訳ないんだけど、このブログにアップするには支障のある部分には修正を入れてあります。
 ただ、これでもこのカードの図版は、彼の作品の中ではぜんぜん大人しいほうで、メインの作風は、何というか、さながら『マッドマックス』の世界に服装倒錯を加味して、それがセクシュアルな悪夢になったような地獄絵図……なんだけど、それが同時にユートピアでもある世界を描く、といった感じでしょうか。
 というわけで、見る人を甚だしく選ぶ作風ではありますが、その作品は極めてパワフルなので、マッチする人にはタマラナイ魅力だと思います。かつてGrease Tankのサイトで見られたような、暴力と死と汚穢とセックスが結びついたタイプの作品に抵抗がない方でしたら、激オススメなのでお試しあれ。
 因みに、サイトにも載っている、Charon自身の創作に対するオピニオン、”Drawing is like wrestling : nobody gets really hurt…”ってのも、私自身のフィロソフィーとも合致していて、気に入っています。

ビッケとかケレルとか

 最近、『小さなバイキングビッケ』がドイツで実写映画化されて大入りだったという話を聞き、「へ〜、どんな感じだろ?」と思ってYouTubeで探してみたら、難なく予告編が見つかったんですけど、それ見てビックリ。
 ひゃ〜、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品の常連で、彼のボーイフレンドでもあった、ギュンター・カウフマンが出てるじゃないスか!
 いやぁ、『ケレル』の時のノノ役は、実にセクシーで良かったなぁ。ケレル役のブラッド・デイヴィスを、後ろからアナ○○ァックするシーンなんて、ヨダレのシズル感とか生々しくて、下手なゲイAVよりよっぽどエロかったっけ。
 というわけで、手元に、Schirmer Art Books刊の『ケレル』のフィルムブックがあるので、ちょいと該当シーンを3ページほどご紹介。
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 もひとつ、Edition Braus刊の『ケレル』の画集から、ノノを描いたドローイングを1ページ。画家は、ユルゲン・ドレーガー。
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 因みに『ケレル』ってのは、ジャン・ジュネの小説『ブレストの乱暴者』を、ドイツの映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが1982年に映画化したもので、ジュネはゲイ、ファスビンダーもゲイ、小説の内容もゲイということで、しかもファスビンダーはこれが遺作となったため、当時の日本のゲイ雑誌や映画雑誌で紹介はされていたものの、なかなか日本公開されなかったんですな。
 で、私や私の友人のゲイの間では「見たい、見たい、見たい!」という熱が高まり、かといって今みたいにネット経由で何でも手に入る時代じゃないし、でも、少しでもその香りを求めて、関連商品をいろいろと探し回っては買い求めたもんです。
 画像をアップした画集も、そんなときに買ったものの一つ。因みに、ハードカバー限定400部の画家の直筆サイン入りのバージョンで、私の持っているのはエディション・ナンバー374。この画集は、確か非限定のソフトカバーも出ていて、銀座の洋書店イエナで見た記憶があります。
 フィルムブックの方は、当時友だちが買ったものを見せてもらい、自分も欲しいな〜、とずっと思っていたところ、それからずっと後になって、映画も無事に見られてから、確か京都の洋書屋さんで見つけてゲットしたんだったと思います。
 他にも、アナログのサントラLPとか、ポストカードとか、色々買いましたっけ。

 肝心の映画の方はというと、なかなか日本公開されない間に、確かドイツ文化センターだったか大使館だったかで、ビデオ上映があるってんで、前述の友だちと一緒に大喜びで見に行ったのが最初でした。場所は、青山一丁目あたりだったような気がするんだけど、当時の私は、まだ東京の地理に疎かったもんで、ちょっと記憶に自信なし。
 で、この初鑑賞に関しては、念願かなって見られたのはいいけれど、そもそも難解な映画な上に字幕なしだったもんで、正直もうナニガナンダカてんで判らず(笑)。色彩美とホモエロスとアンニュイな雰囲気だけ味わった……ってなところでしょうか。
 それから後、無事に日本公開もされて、これは確か、新宿のシネマスクェア東急だったと思うけど、『ファスビンダーのケレル』という邦題で、ようやく日本語字幕付きで見ることができました。
 この、映画の存在を知ってから、実際に見られるまでの間が、何だかずいぶん開いていたような気がするんですけど、allcinemaで調べたら、たかだか3年しか開いていないんですな。ちょっとビックリ。この歳になって振り返ると、若い頃の二、三年って、今の五、六年くらいの感覚に感じられるのは、何故だろう?

 ソフトの方は、輸入VHSを買って、ネット時代になってからアメリカ盤DVDを取り寄せて、前にジャン・ジュネの『愛の唄』について書いたときには、まだ未発売だった日本盤DVDも、それから後に無事に発売されたので、もちろん購入しています。
 でも、いま確認したら、もう廃盤になってるのね……。

Dvd_querelle 『ケレル』(1982)ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
“Querelle” (1982) Rainer Werner Fassbinder

 原作本の方は、私が買ったときはハードカバーの単行本だけだったけど、今は文庫で出ているんですな。

ブレストの乱暴者 (河出文庫) ブレストの乱暴者 (河出文庫)
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2002-12

 そんなこんなで、この『ケレル』は個人的な大偏愛映画の一本だったんですが、う〜ん、まさか『小さなバイキングビッケ』で、この映画を思い出すとは、夢にも思わんかった(笑)。
 というわけで、その実写版『ビッケ』の予告編が、こちら。

 で、中盤ちょっと過ぎに出てくる、上半身裸で巨体のヒゲ男(重みで船が傾いちゃったりしてるヤツ)が、現在のギュンター・カウフマン。
 ……太っちゃって、まあ(笑)。

つれづれ

 お仕事中。
 今描いているマンガの主人公は、こんな男。
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 年末年始にイタリアで開催されるベア・パーティーのご案内を3つほどいただいていたので、せっかくだからご紹介。
 まず、昨日のパーティ。
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 次はまだ間に合う、今月5日のパーティ。
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 最後は、大晦日にやったパーティ。
bearsinromenewyear2010
 も一つ来た。ジェノバで1月16日ですって。
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今年のあれこれ

 2009年も残り一日なので、今年のあれこれをちょいと反芻してみたり。

 マンガは、ゲイ雑誌を主軸に一般向けも二つほど(うち一つは、まだ世に出ていませんが)混じって、わりと充実していたかな。『父子地獄』を完結できたのも嬉しい。
 あと、月産ノルマ78ページという月があって、これは自己記録を更新してしまった(笑)。私はアシスタントを使わず一人でやっているので、流石にこれはちょっとキツく、某少年週刊マンガ誌の編集さんにも驚かれました(笑)。
 とはいえ、年間を通しては、そうメチャクチャ忙しかったというわけではなく、10年ほど前の、「バディ」で『銀の華』、「ジーメン」で『PRIDE』を、毎月並行連載しつつ、「ジーメン」では表紙イラストとレギュラー記事も幾つか担当し、合間に挿絵なんかもやりつつ、更には別名義での小説連載までしてた頃にくらべりゃ、ぜんぜん余裕かも。正直、あの当時のことをもう一度やれと言われても、今じゃ体力的にも無理だと思う(笑)。
 マンガ単行本も、日本で一冊、フランスで三冊(まだ最後の一冊は手元に届いていないけど)、イタリアで一冊出せたので、全部併せると例年以上のペースに。
 それと、マンガ関係で今年一番驚いたのが、文化庁メディア芸術祭から、『外道の家』がノミネートされたのでエントリー承諾書にサインしてくれ、という書類が来たこと。まあ、結果はもちろんかすりもしませんでしたが、ゲイ雑誌発のあーゆー作品が、こーゆーのにノミネートされたことだけで、もうビックリでした(笑)。

 一枚絵関係だと、これはやっぱりこのブログで詳細をレポした、フランスでの個展が大きかったですな。セレブにも会えたし(笑)。
 あと、オーストラリアの企画展にも参加したし、銀座の画廊の企画展にも監修で関わったけ。銀座ではトークショーもしましたが、ここんところ毎年、何かしらの形でこのトークショーってぇヤツをやっているような気がする(笑)。
 イギリスとフランスで一冊ずつ、アートブックへの掲載があったのも嬉しい出来事。

 プライベートでは、何よりかにより20年来の念願だった、モロッコ旅行ができたのが嬉しかった。
 アイト・ベ・ハッドゥの景観やメルズーガの大砂丘でのキャンプは忘れがたいし、マラケシュの喧噪も懐かしい。フェズのメディナで道に迷い、加えて暑さでヘロヘロになったのも、今となっては楽しい想い出。人里離れたところにある、ローマ遺跡のヴォルビリウスから、持参した携帯で鎌倉の実家に電話したら、ちゃんと繋がって父親が出たからビックリもしたっけ(笑)。
 タジン(モロッコ料理)も、色んな種類を食べられて美味しかった。個人的には、マトンとプルーンの入ったヤツと、肉団子と卵が入ったヤツが好きだったな。あと、パスティラという、鳩の肉をパイで包み焼きして、上にアーモンドと砂糖がまぶしてある、不思議な料理(笑)。しょっぱいんだか甘いんだか、何とも形容しがたい味なんだけど、でも不思議と美味しいのだ。
 あとはやっぱり、屋台のオレンジ・ジュースですな。生のオレンジを、その場でギュッギュッと幾つか搾って、ガラスのコップに入れてくれるの。疲れて喉が渇いたときには、これが一番でした。イランやパキスタンのザクロ・ジュース以来の、感激の美味しさ(笑)。

 映画は、ブログでもいろいろ書きましたが、輸入DVDで見た未公開映画に、感銘を受けたのが多かったような。
 何だかねー、最近「これは見たい!」って楽しみにしてたヤツが、劇場公開されずってパターンが多くて……。昨年暮れだったかも、ドイツ映画の実写版『クラバート』が、ドイツ映画祭か何かで上映されて、どーしてもスケジュール的に行けなかったんで、いつか一般公開されるんじゃないかと待ちつつも、けっきょくそれっきりでソフト化もされてないみたいだし……。
 そんな中で、『キング・ナレスアン』の日本盤DVDが無事出たのは、もうホント嬉しかったし、この間書いたように、『戦場でワルツを』を無事劇場で見られたのも嬉しかった。
 現在公開中のヤツだと、『監獄島』は、愛しのストーン・コールド・スティーブ・オースチン様主演だから気にはなるんだけど、内容的にどんなものなのか(笑)。ストーン・コールド様だけが目当てだったら、脱ぎっぱなしのプロレスのDVD見てた方がオイシイかも知れないし(笑)。因みに、このストーン・コールド様のプロレスの輸入盤DVD、私の気付かないところでウチの相棒が、ジャケを見てレザー系ゲイAVだと勘違いして、ホクホク喜んで再生し、中身を見てガッカリしたという逸話が、我が家にはあります(笑)。
 あと、映画じゃなくてテレビドラマですが、年末になってNHKの『坂の上の雲』を見たら、思いのほか出来が良くてハマってしまった。このドラマのことを何も知らなかったので、何を見るでもなく漫然とテレビを点けたら、第三話の再放送をしている最中で、軽い気持ちで「お〜、明治ものだ!」と見始めたら、そのまま最後まで目を離せなかった(笑)。
 私は普段、連続テレビドラマを見る習慣が全くないんですが、こればかりは、残り二話もしっかりチェック。放送時間になってテレビの前にやってきた私を見て、相棒が「ひゃ〜、珍しいね!」と驚いてた(笑)。というわけで、気に入ったにも関わらず、一話から三話前半までは未見なので、年明けとかにまた再放送してくれないかしらん。それとも、さっさとDVD出すとか……って、NHKだとDVDも高価そうだけど(笑)。
 それとまあ、こーゆーゲイはけっこう多いんじゃないかと思いますが、広瀬武夫役の藤本隆宏ってイイですね(笑)。相棒も「誰だい、これは?」と目を輝かせていました(笑)。越中褌でのヌードがあったので、今度は六尺姿を希望(笑)。
 昔の東宝の『日本海大海戦』では加山雄三だったけど、あたしゃこっちの藤本氏の方がダンゼン好きだ。しかし、気に入ってしまっただけに、今から「杉野はいずこ」のシーンを見るのが、怖いような楽しみのような……。

 マンガは、ブログで紹介しそびれていたヤツだと、何と言っても吾妻ひでおの『地を這う魚 ひでおの青春日記』が素晴らしかったなぁ。

地を這う魚 ひでおの青春日記 地を這う魚 ひでおの青春日記
価格:¥ 1,029(税込)
発売日:2009-03-09

 何がいいって、面白いとかしみじみするとか、そーゆーのもあるんですけど、何よりかにより作品全体の空気感がタマラナイ。その空気感に浸りたいがために、もう何度読み返したことか。
 自分が入っていきたくなる世界がそこにある、個人的な大傑作。
 最近買ったヤツでは、夢枕獏/伊藤勢『闇狩り師 キマイラ天龍変』1巻。

闇狩り師 キマイラ天龍変 1 (リュウコミックス) 闇狩り師 キマイラ天龍変 1 (リュウコミックス)
価格:¥ 590(税込)
発売日:2009-12-16

 雑誌『リュウ』を、オマケの手ぬぐいとクリアファイルに惹かれて買ったら(って小学生かい)、そこに連載されていたマンガで、絵に勢いがあってカッコイイので、単行本出たら買おうと待ち構えておりました(笑)。
 もともとが小説の外伝的な位置づけらしく、ストーリーの方はちょっとよーワカラン部分もあるんですけど(夢枕氏の小説も、浅学にも私は、20年以上前に『猫弾きのオルオラネ』を読んだっきりだし)、やっぱ勢いのある絵と迫力のある画面構成がカッコイイです。
 しかし、ドーデモイイことなんですけど、この伊藤勢といい、伊藤真美とか伊藤悠とか、伊藤姓のマンガ家さんって、絵に勢いがあって画面構成に迫力のある、カッコイイ作風の方が多くありません?(笑)
 何だか、だんだん「今年を振り返る」じゃなくて、ただの「近況つれづれ」になってきたので、ここいらへんでオシマイ。

メリー・クリスマス

 クリスマス・イブだけど、仕事してます。
 現在描いているマンガの主人公は、こんな男。
draft_2009xmas
 これだけだと、あまりにクリスマス気分と関係がなさすぎるので(笑)、ゲイ・アーティスト仲間から貰ったクリスマス・カードも、一緒にご紹介。

 アメリカのアーティスト、Rob Clarkeから貰ったヤツ。
 相変わらずクィアなネタ(笑)。GIFアニメで動きます。
lottaballs_Gengoroh

 イタリアの二人組アーティスト、Franze & Andärleから貰ったヤツ。
 フランスのH&OやドイツのBruno Gmunderから、海賊が主人公のゲイマンガ”Black Wade (Jimbo)”が発売中。
xmascard2009

 それでは皆様、良いクリスマスを。

 一つ追加。
 ロシアの二人組アーティスト、Alexey & Alexeyからもグリーティングが届きました。
 ダイレクトなブツだったので、申し訳ないけれど、ちょいと修正いれてのアップです。
xmas_alexey