ゲイ・カルチャー」カテゴリーアーカイブ

何だかいろいろありました

 さきほど、絵を一点描き上げました。個展をした(あ、会期は今月末までだから、まだやってるのか)パリのギャラリーの依頼による、注文制作の絵です。
 オーダー内容は、「ドラゴンと闘う聖ゲオルギウスのイメージで、HIV/AIDSドラゴンと闘うキャプテン・ベアーの姿を、浮世絵調で」っつー、けっこうワケワカメなものだったんですが、ルーベンスの絵をベースイメージにして、そこに北斎や芳年をミクスチャーしてみたら、けっこうスラスラと楽しく描けました。
 描き上がった絵は、限定生産のエスタンプになって、来月10日頃から始まるギャラリーの企画展で、展示販売される予定です。流石に今回は渡仏はしませんが、サイン入れとナンバリングはしなきゃならない。DHLか何かを使って、刷り上がったものを日本に送ってもらい、サインとナンバーを入れて、アーティスト・プルーフを手元に置いて、残りをフランスに送り返す……ってな、ちょいと面倒なやりとりです。
 今回は完全な企画モノで、ゲイものだけどエロ抜き、コンセプト重視なのにコマーシャル・マーケット向けではないという、過去にやったことのないタイプの仕事。ちょいと戸惑いもありましたが、未体験だったぶん、新鮮な気持ちで絵を描けたような気もします。
 個展用に描いた「七つの大罪」連作同様に、日本での発表予定がないのは残念ですが、ま、そのうちどこかでお見せする機会もあるでしょう。
 どーでもいいことですが、パリ滞在中にオリヴィエのマシンガン・トークには、だいぶ慣れたはずだったんだけど、やはりブランクを挟んで、しかも国際電話越しの会話だと、そんな慣れなんてすっかりすっ飛んで、またアタフタ状態に逆戻りです(笑)。

 さて、これと関連したイベントで、六月の頭にパリで開かれるParisBearsなるベア・イベントにも、ちょっくら関与してます。まあ、関与っつーか、イベントのキー・ヴィジュアルに絵を提供した……ってな程度ですけど。
 こっちは旧作の流用。パリの個展にも出品したもので、だいぶ昔に『薔薇族』で描いた絡み絵の一部分。デザイン処理の関係なんでしょうね、画像の天地が90度回転していて、しかも左右反転されている。ひぃ、デッサンが……(笑)。どんな感じかは、ParisBears のサイトで見られます。
 このイベント、フランスのみならずヨーロッパ近郊諸国も集客対象らしく、去年だか一昨年だかに開催されたBarcelonaBearsのときは、かなり大規模に盛り上がったそうな。この時期に渡欧予定のある方、または欧州在住の方、よろしかったら遊びに行ってみては?
 私も行きたいけど、経済的にも時間的にも、さすがにそうそう渡航ばっかしてられないからなぁ。

 フランス絡みだと、ちょうど先週、ジャーナリストのアニエス・ジアールが、新しい本の取材のために来日したので、新宿で会ってゴハン食べました。
 でも、会話がフランス語になると、完全にオイテケボリ状態なので、うむむ、こうフランス絡みのあれこれが多いと、少しはフランス語も勉強しなきゃいけないかしらん。因みに私、先日のフランス行きで最初に覚えたフランス語は「ラディシォン・シルブプレ!(お勘定お願いしま〜す!)」というヤツでした(笑)。
 アニエスの来日に伴って、ちょいと彼女から頼まれごともされまして、そのために動いたり人を紹介したりもしました。これがきっかけで、また何か面白いことに繋がるといいな〜と思います。逆に、私のほうもアニエスから面白い方を紹介して貰ったので、これまた何か新しいことに繋がるかも……と、ちょっとワクワクしてます。

 更にこれらとは別件で、先週から今週にかけて、複数の話がドドドッと動き出しました。ほぼ決定したものから、まだまだ先が遠そうなものまで様々ですが、確定したものから順次発表できると思います。まぁ、全部ポシャっちゃって、発表することが何もなくなった……なんてことも、全くないとは言い切れませんが(笑)。
 そんなこんなで、現状は特に忙しいってほどでもないのに、気持ちだけが何だか忙しい気分になった二週間でした。

画集 “The Art of Gengoroh Tagame”、タコシェさんで取り扱い開始

Aogt 先月、フランスのH&Oから出版された私の画集、"The Art of Gengoroh Tagame" ですが、中野の書店タコシェさんで輸入販売していただけることになりました。
 本のサイズは、横21cm×縦26cm(A4の縦が少し短くなった大きさ)、フルカラー48ページ、ソフトカバー。英文と仏文による解説付き。タコシェさんでの販売価格は2,940円。
 収録作品は、2000年〜2005年に制作した作品の中から、フランス側のスタッフがセレクトしたもの。画風や描法で「マンガ・スタイル」「ウェスタン・スタイル」「オリエンタル・スタイル」の三章構成になっています。マンガ・スタイルは文字通りマンガ風、ウェスタンはPainterによるデジタル油彩画風、オリエンタルは浮世絵風の絵が、それぞれ収録されています。
 中野のタコシェさんの店頭でも、インターネットのオンラインショップでも、どちらでも販売しています。
 店舗の場所など、タコシェさんのホームページはこちら
 通販など、タコシェ・オンラインショップの「田亀源五郎ページ」はこちら
 思ったより早く、日本でも入手できるようになったので、実に嬉しい限りです。
 欲しいという方、どうぞご購入はお早めに!
 

アジアン・クイア・フィルム&ビデオ・フェスティバル・イン・ジャパン2007のご案内

 今度の土曜日、4/14(金)から4/20(金)までの一週間、下北沢で、第一回アジアン・クイア映画祭が開催されます。日本、韓国、台湾、香港、中国、タイ、イスラエル、インドネシア、フィリピンなど、12か国から集められたクイア映画が29作品上映。
 これらの上映作品、特に短編作品は、ソフト化される機会も少ないと思うので、それらをまとめて鑑賞できるのは、またとないチャンスです。また、映画祭としても第一回ということなので、応援の意味でも、ぜひ一人でも多く見に行って欲しいです。
 事前に見た作品がないので(前にもご案内はいただいていたんですが、ちょうどフランス行き&その反動の締め切りラッシュで、何もできない時期だったので)、オススメ作品とかは言えないんですけど、そこいらへんは映画祭のサイトで内容をチェックして、自分なりに狙いをつけてみてください。個人的には、イスラエルの作品やアニメーションなどが上映される「アジアン・ボーイズ短編集2」が気になる。
 人気作には、そろそろチケット完売のものもある様子です。予約はお早めに。
 映画祭の公式サイトはこちら

再び個展とか画集とかサイン会とか

 ポートフォリオ『七つの大罪』の、カバー・デザイン用に頼まれていた、筆文字や日本語のパーツを、メールに添付してフランスに発送。これで、渡仏前の個展用準備は全て完了。
 某誌用のマンガのネームも、ファックスしてOK貰う。
 あとは、バディの連載「外道の家」の原稿を、数日中に仕上げて渡せば、出発前の用件は全て終了です。
 個展もサイン会も開催が目前になってきて、それぞれのサイトに情報がアップされたようです。興味のある方は、下のリンクからどうぞ。書店のサイトでは、画集 “The Art of Gengoroh Tagame” の表紙画像も見られます。
・個展をするギャラリーはこちら
ArtMenParis
・サイン会をする書店はこちら
BlueBookParis
 フランス在住の方、あるいは、開催期間中にフランスもしくは近隣諸国に行かれる方は、ぜひぜひ足をお運びくださいませ。

サイン会とか画集とか禁書とか

 前回の記事で「いつの間にか、パリの本屋でサイン会をすることになっていた」と書きましたが、メールをやりとりするうちに、もう一つ新事実が発覚。
 ギャラリー・オーナーのオリヴィエ・セリにメールして、サイン会の予定が入っていることを確認しましたが、そのメールを良く読んでみたら、「サイン会は、H&Oから出る君の新しい本の発売にあわせて開催する」と書いてある。
 ……新しい本?
 実はH&Oとは、次のフランス語版コミックに関する契約を、既に交わしています。翻訳やレイアウト作業も、昨年暮れから進行中ではありますが、今度は短編集ではなく長編なので、いくら何でも3月発売には間に合いそうもない。だいいち、私はまだ表紙イラストのラフすら上げていないし。
 そうなると、残る可能性は一つ。一昨年に契約書を交わし、去年の頭にはレイアウトもでき、PDF校正も済ませたものの、発売が延び延びになっていた、”The Art of Gengoroh Tagame” というタイトルの画集。
 で、今度はH&Oのアンリに、「オリヴィエ・セリが、H&Oから私の新しい本が出ると言ってるんだけど、そうなの? 本当なら、どの本を出すの?」とメールしました。すると「”The Art of Gengoroh Tagame” を、君の来仏に併せて出すことにしたよ」とゆー返事。
 いや、いいけどね、画集が出るのは嬉しいし。でも、発売決定したんなら知らせろよ! って感じではあります(笑)。
 そんなこんなで、ここしばらくフランス絡みで、「本人が知らないことを、第三者からの伝聞で知る」ことが、二件連続発生(笑)。
 さて、アンリからのメールには、それ以外にも「bad news がある」と書かれていました。カナダ向けに出荷した私の仏語版単行本が、輸入禁止品扱いになってしまったそうな。
 調べてみると、カナダはポルノグラフィに関する法規制が厳しく、日本のアダルト・コミックスが、チャイルド・ポルノに引っかかってしまった例が見つかりました。だとすると、”Gunji” には「TRAP」が、”Arena” には「非國民」が収録されているので、それが原因か。
 ……と思ったんですが、もうちょい調べてみたら、2004年度と2005年度のカナダの輸入禁止品目リストみたいなのを見つけて、それの COMIC BOOKS / Prohibited リストの中に、日本版の『嬲り者』『柔術教師』『銀の華(中・下)』『PRIDE(1・2・3)』を発見。
 まぁね、表題作と「俺の先生」で高校生が出てくる『柔術教師』、子供が男女郎を買いにくる『銀の華』、「TRAP」と「非國民」が収録されてる『PRIDE』は判る。しかし『嬲り者』は、チャイルド・ポルノにはかすりもしなさそうなんだが……。
 とにかく、どんな理由かは知りませんが、カナダでは私のマンガは禁制品のようです。う〜ん、昔「さぶ」に書いた小説で、伏せ字をくらったことはあるけれど、禁書扱いは初めてかも(笑)。でも、本家サイトのアクセス解析を見ると、カナダからの訪問客数は、日本、アメリカ、フランス、ドイツ、イタリアに次いで、今月もちゃっかり6位にランクインしていますが……。
 所変われば品変わる、とは言いますが、つい先日新聞の件があっただけに、フランスとフレンチ・カナディアン、ご先祖様は一緒だろうにここまで違うものか……と、何だか驚きも新たです。

個展とか渡仏準備とか

 3月2日から、フランスのパリで個展をします。
 海外での作品の展示は、1996年にニューヨークでの企画展に、2004年にフランスのリールとアヴィニョンでの企画展に、それぞれ依頼されて作品を提供したことはありますが、自分一人の個展というのは初めてです。
 とはいえ、これは急に決まったとことじゃなく、実は去年から動いていた予定。

 きっかけは、去年の春。
 五年間かけたマンガ『君よ知るや南の獄』の連載を終え、雑誌「ジーメン」の企画編集スタッフからも退陣しました。で、次に何をしようかと考え、久々に個展でもやりたいな〜、なんて思い、じゃあ場所のあたりをつけなきゃ……なんてときに、一通のEメールがきました。
 差出人は、パリのギャラリーのオーナーだというオリヴィエ・セリ氏。内容は「ウチで個展をやらないか?」というオファーでした。何とまあグッドタイミング、渡りに舟って感じ。で、何度かやりとりをして、決定したのが初夏の頃。

 ただ、この「やりとり」ってのが問題でして。私はフランス語はサッパリだし、英会話だってトラベル・イングリッシュ・レベル。当然のことながら、電話できちんとコミュニケーションをとれる自信なんかありません。でも、テキストなら辞書っつー強〜い味方がいるから、「打ち合わせや問い合わせはメールでしてね」と言っているのに、このオリビエ氏、せっかちなのか何なのか、すぐに電話をかけてくる(笑)。
 まぁ、私も電話を受けちゃった以上、何とか英会話を心掛けるんですが、じきにギブアップ。で、私が「そういう細かいことは、メールでコンタクトしてくれ!」とキレると、オリヴィエ、その時は「ソーリー、ソーリー」とか言うくせに、しばらくするとまた性懲りもなく電話してくる(笑)。去年の大晦日、家に友人を招いて年越しパーティーの真っ最中にまで、電話がかかってきた(笑)。欧米人って、年末年始はさほど特別な日じゃないのかしらん。
 で、またこのオリヴィエの英語が、実にフランス語風の発音。加えて、喋るスピードはけっこう速いもんだから、あたしゃいっつも「パードン?」の繰り返し(笑)。あと、英語がフランス語風に化けるだけではなく、たまに、思いっきりフランス語そのものが混じったりもする。まあ、同じスペルの単語がフランス語の発音に化けるってのは、その気持も判らなくもないですが、英語で喋ってるのに、いきなり「エスタンプ・ド・ジャポネ」とか言ってくるんじゃね〜よッ(笑)! 一瞬ポカ〜ンとしてしまったが、浮世絵のことを言っているんだと、理解できた自分を褒めてあげたい(笑)。
 
 で、個展にあわせて、私も今月末からちょいとフランスへ行く予定。
 フランスは、まだ学生時代に一度行ったきりの、およそ20年振りの訪問なので、ちょいと緊張しています。
 個展の開催期間は、丸々2ヶ月間とけっこう長めなんですが、流石にそんな長く滞在するわけではなく、オープニングの数日前に現地入りして、準備やら何やらをしつつ、パリでの滞在は一週間程度を予定しています。
 先日、どこから情報が伝わったのか、ここで書いたアニエス・ジアールから、「パリに来るんだって? 嬉しい、サイン会には絶対行くわ!」ってなメールが来ました。これを読んで、私はビックリ。サイン会って、何のこと? 不思議に思ってオリヴィエに問い合わたら、いつの間にか、パリの書店でサイン会をすることになっていた(笑)。
 まぁ、現状で判っている予定はそんなもんですが、せっかくの機会だし、差し迫った仕事の予定があるわけでもないので、用事が終わったら、ついでにどっかでブラブラ遊んでこよう、なんて画策中です。こーゆーのが、フリーランス商売のメリット(笑)。

 そして現在、パリ行きの準備中。
 といっても、パスポートの有効期間はまだあるし、エア・チケットも手配済みなので、旅行自体の準備は何もありません。
 今やっているのは、個展用のオリジナル新作絵の制作。最初は、せっかくの個展なので、久々にアナログでデカめの絵を描きたいとか考えていたんですが、いろいろあって、最終的にはギャラリーからの依頼で、毛筆画+デジタル彩色のテーマのある連作ということになりました。
 で、そのギャラリーが注文してきたテーマっつーのが、キリスト教の「七つの大罪」。
 最初はちょっと戸惑いました。だいいち私の作品は、ぜ〜んぶ大罪の一つである「淫欲」まみれなわけだし(笑)。あと、こーゆーテーマ連作というのは、ある程度の共通フォーマットも持たせないと様にならない以上、二つか三つはネタを出すのが苦しいものもあり、今回もその例外ではなさそうだし。
 でもまあ、いざ描き始めると、あれこれ悩むのもまた楽し、ってな具合で、わりとスイスイ筆が進んでくれました。二つほど、なかなか上手くまとまらないネタがあり、ちょいと苦戦しましたが、それも先ほど無事終了。
 ってなわけで、これがその「七つの大罪」用の、資料用に引っ張り出してきた本と、サムネール・スケッチと、下絵の一部分。
Seven_bookSeven_roughSeven_draft
 これで下絵が全部完成したので、明日から本描きに入れます。……が、さっき見たら、毛筆画用の筆がもうボロボロだったので、明日、街に出て買ってこなきゃ。

仏リベラシオン紙に書評とイラスト掲載

Liberation 先日、サイト宛に「自分はフランスの新聞 "Liberation" の記者で、今度あなたのフランス語版『闘技場〜アリーナ』のレビューを書きたいんだが、誌面にあなたのサイトにある "Parasite" って絵を使いたい。印刷用の高解像度データを送ってくれないか?」という英文メールを貰いました。
 で、はて「リベラシオン」って、どっかで聞いたような……とか考えて、思い出してビックリ。リベラシオン紙って、有名なフランスの左派系新聞じゃないっスか! しかも、確か創刊時にはサルトルが関わっていたんじゃなかったっけ?
 ひぃ、なぜそんな新聞に私のマンガの紹介が……ひょっとして、フランスには同姓同名……じゃなくって、同じ名前のゲイ向けのフリーペーパーかなんかがあるんじゃない? そーいや手塚治虫の『W3』に、田舎のオバチャンたちが、舟木一夫ならぬ舟本一夫ショーってのに騙されて、ドサまわりの無名歌手にキャーキャー言うシーンがあったような……とか、いらんことまで思い出しちまったりして(笑)。
 でもまあ、一般の新聞だろうがゲイ雑誌だろうが、マンガを紹介してくれるのはありがたいんで、「いいけどちゃんとコピーを一部送ってね」と返信したわけです。サイトにアップしている "Parasite" はラフ画だったから、着色して完成したバージョンと二点送って、「好きな方を使っていいよ」とも書き添えました。

 で、数日前、フランスから大きな紙封筒が届きました。開けてみたら、新聞が入ってた。見覚えのあるロゴ。やっぱり、あのリベラシオン紙。2007年1月25日号。うむむむ、半信半疑だったから、けっこうビックリ(笑)。
 で、例の記事はどこじゃらほいと探して、見つけて更にビックリ。
 うん、確かにフランスのH&Oから出ている "Arena" のレビューらしき記事と、私が送った完成版の "Parasite" が載っているんですが……あたしゃてっきり、絵の一部だけを使うとかだと思ってたんですが、ノートリミングの無修正で、しかもけっこうデカデカと載っている。(左上の画像参照。クリックするとデカくなります)
 あの……この絵、チンチンもキンタマもモロ出しで、包皮のシワから血管までクッキリ描いているんですけど……オマケにアヌスもこじ開けられていて、直腸の内側の肉ヒダまで描いているんですけど……。
 日本の新聞だと、私の本の書評が載ることすら考えられないのに、書評はおろか、この絵がフルカラーでデカデカと掲載されるとは……。う〜ん、ここ数年フランスとのご縁が多くて、何かとリベラルな国だなぁとは思っていたけど、ここまでリベラルだったとは。想像を上回る自由さに、正直ビックリです。
 いいなぁフランス。もう二十年も日本の法律や出版社の自主規制のおかげで、絵画における性器の露出やら表現のタブーやら、創作上の制約のアレコレに悩まされてきた身なので、なんだかフランスに移住したくなってきた(笑)。

 まあ、例によってテキストの方はフランス語なんでチンプンカンプンなんですが、大見出しはどうやら「とってもスゴいSM」とゆーことらしい(笑)。え〜、小見出しは「全ての男が凌辱されるX指定マンガ」ってこと(笑)?
 本文は、どうやらあらすじを紹介しているらしい部分以外は全く判らないんですが、「マルキ・ド・サドのジュスチーヌのように」ってのだけは判って、何か嬉しい(笑)。前に、やはりフランスのアート誌に、これまたH&Oから出た "Gunji" のレビューが載った際、文中にマルセル・プルーストやロマン・ロランの名前を見つけて、「いったい何がどーゆー文脈で、こんな名前が出てくるの?」と、目が点になってしまったことがありますが、マルキ・ド・サドなら納得です(笑)。
 ま、サドの小説そのものは、あたしゃジュスチーヌが主役の『美徳の不幸』より、姉のジュリエットが主役の『悪徳の栄え』の方が好きなんですけど(笑)。同作に出てくる食人鬼ミンスキーと、『ソドムの百二十日』に出てくるブランジ公爵と強蔵エルキュールのカップルが、私が十三歳の頃のアイドル兼オナペットでした(笑)。

 因みにこの号のリベラシオン紙は、書評がBD(バンド・デシネ=マンガのこと)スペシャルらしく、十ページに渡ってマンガ単行本が二十冊ほど紹介されています。日本のマンガを集中してレビューしてあるページもあって、丸尾末広さん、近藤聡乃さん、福山庸治さん、阿部慎一さん、水木しげるさんの、仏語版単行本が紹介されています。
 私のマンガは、それとは別の、ゲイ・マンガ(もしくはゲイ・テイストなマンガ)コーナーでの紹介。ここに掲載されている作家で私が知っていたのは、Ralf Konig だけでしたが、Lepage という作家さんの "Muchacho" というマンガは、ちょっと絵がステキなので気になります。amazonかどっかで、探してみようかな。
 で、このゲイ・マンガ・コーナーが、マンガ・スペシャルのトップ記事なもんですから、う〜ん、つくづくリベラルな新聞。……あ、そもそも紙名からして「リベラシオン」だっけ(笑)。
 さて、こーなると次に目指すは「ル・モンド」と「フィガロ」ね! ……って、ないない(笑)。

イベントのご案内/伏見憲明さんがゲイバーのママに!?

 評論家&作家の伏見憲明さんが、リアルゲイバァを開店することになったそうです。
 とはいえこれは、伏見さんの新刊『欲望問題』の刊行記念イベントとして、2月の週末にゲイバー「アイランド」さんのパーティルームを借りての、述べ5日だけ営業だそうです。
 では、以下はいただいたメールからの引用。
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●伏見憲明が二丁目でゲイバーを開店!?
 新刊『欲望問題』(ポット出版)の刊行を記念して伏見憲明が2月、新宿で「昭和のゲイバァ」を臨時開店します。新宿3丁目のゲイバー、アイランドの4Fを借りた週末のみの営業ですが、伏見ママとお酒を呑みながらおしゃべりしたい人は、老若男女どなたでも大歓迎! 一見さんウェルカム!
 古式ゆかしいゲイバーにちなんで、営業ポリシーは「毒舌」「くっつけ」「エロ」の三本柱。昭和の気分を存分に味わってもらいます。
 今回は「昭和」をコンセプトに、店内にはまだゲイがアンダーグラウンドだった時代をなつかしむ品々が展示されます。
「薔薇族」以前に一部で流通していた「アドニス」「薔薇」「同行」などのミニコミ誌、初期の「薔薇族」や「青年画報」、伝説のゲイカルチャー誌「MLMW」などの雑誌類、初期のホモ単行本、新聞記事、三島剛などの絵画、地下でやり取りされていたエロ写真、スライドなど、レアなゲイカルチャーを取り揃えた、回顧展でもあります。
 伏見憲明が「ゲイの考古学」を執筆するにあたって収拾したものを初公開。温故知新、ぼくらがどこから来たのか、に興味がある人にはうってつけのイベントでもあります。
日時:オープニングパーティ 2/2(金曜日)
以後、2/3(土)、2/10(土)、2/17(土)、2/24(土)
20:00〜
場所:ゲイバー、アイランドのパーティルーム(4F)
03−3359−0540
http://www3.alpha-net.ne.jp/users/islands/
料金:3000円(焼酎割り・ソフトドリンク飲み放題)
*食べ物持ち込みOK
*先着順に古いゲイビデオのプレゼントもあります!
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 ……ってな感じらしいですが、ノリエ姐さんの色白で柔和な顔に似合わない毒舌シャワーを浴びたい方はもちろん、個人的にはやはり展示物の数々が気になるところ。「アドニス」や「薔薇」や「同行」の現物を見る機会なんて、そうそうあるもんじゃないですよ。
 また、伏見さんご所蔵のアンダーグラウンドな写真など、過去のゲイ・エロティック・アートは、私はそのごく一部を拝見させていただく機会がありましたが、これまた時の流れに埋もれてしまった貴重な資料です。過去の日本のゲイ文化史に興味のある方は、足をお運びになってはいかがでしょう?
 さて、このイベントのきっかけとなった、伏見さんの新刊『欲望問題』とは何か、というと、これまた頂いたメールから以下引用させていただきます。
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●『欲望問題』専用サイト、「欲望問題プロジェクト」が始動
伏見憲明著『欲望問題』の刊行に合わせて、ポット出版のサイト内で「欲望問題プロジェクト」が公開になります。
『欲望問題』の書評が一ヶ月、毎日アップされていくという、出版界はじまって以来の企画です! 書評執筆者も、中村うさぎ(作家)、遥洋子(タレン ト)、黒川創(作家)、永江朗(ライター)、加藤秀一(社会学者)、橋爪大三郎(社会学者)、藤本由香里(評論家)氏など40名以上の錚々たるメンバー が予定されていて、そこでいったいどんな議論が巻き起こるのかに注目が集まっています。
また「欲望問題プロジェクト」の一環で、すでに伏見憲明サイトなどでネット向けのCMもオンエアされています。
「欲望問題プロジェクト」 2月1日より公開
http://yokuboumondai.pot.co.jp/
伏見憲明サイト
http://www.pot.co.jp/fushimi/
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 というわけで、こちらもよろしく。
『欲望問題』伏見憲明(amazon.co.jp)

『敵中横断三百里』

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『日露戦争勝利の秘史 敵中横断三百里』(1957)森一生

 ここんところ何故か「古い邦画が見たい」モードに取り憑かれていて、レンタル屋に行っては「あ、これ見たことねーや」ってヤツを借りてきては見ているんですが、これもその中の一本。

 原作は、戦前の「少年倶楽部」誌で連載され絶大な人気を誇った、山中峯太郎の軍次冒険小説。
 山中峯太郎という名前には、私は過去二度ほど出会っていて、まずは中高生の頃にSFや秘境探検小説などに熱中していたときに、日本の冒険小説史の一環として、南洋一郎なんかと一緒に知ったのが最初。次に、大学から社会人にかけて、日本の過去の挿絵文化に熱中していたときに、樺島勝一や伊藤彦造なんかと一緒に知ったのが二度目。以来、この作家の作品には、何となく憧れがあります。
 しかし、似たようなパターンで興味を持った、久生十蘭や橘外男や香山滋や小栗虫太郎なんかは、割とすぐに文庫本やら選集やらを見つけて読むことができたんですが、この山中峯太郎は、少年小説ということが災いしてか、入手しやすい形での復刊等に出会えず、未だに読む機会を逸したままで、これは南洋一郎も同様です。加えて山中峯太郎の場合、代表作とされる『敵中横断三百里』や『亜細亜の曙』といった小説が、第二次世界大戦後のパラダイム・シフトによって、ニュートラルに評価されることが難しくなったせいもあるのかな、なんて、未読ながら勝手に想像してたり。『亜細亜の曙』なんて、森川久美の『蘇州夜曲』の元ネタがこれだなんて聞いた覚えがあるので、特に読んでみたいんですけどね。
 そんなこんなでこの『敵中横断三百里』は、自分にとって「名のみぞ知る名作」だったので、ホクホクと喜んで借りてきた次第。因みにこれ、脚本が黒澤明で、DVDのパッケージ表面には監督の名前も主演俳優の名前も入っていないのに、「黒澤明 脚本」って文字は大きく入っていて、レンタル屋の棚でも黒澤明のコーナーにありました(笑)。

 お話は日露戦争末期、兵力が限界にきていた日本軍の、起死回生の総攻撃を勝利に導くに至った、六人の斥候兵の物語。彼らは、ロシア軍の集結地がいずこかをさぐるため、全員の無事生還は難しいことを覚悟の上で、敵の陣中深く騎馬で潜入する。なるほど、戦前の少年が熱狂しただけあって、モノガタリはすこぶるつきで面白い。アクションありサスペンスありの冒険譚が、時に静かで情緒的な情景も挟みながら、よどみなく手堅い演出で進行していく。うん、こりゃあ、少年の夢であるヒロイズムは擽られるわな。
 ただ、手堅すぎるような面もあって、もうちょっとエモーショナルな部分があってもいいかな、とも思います。絶望的な包囲網から、隊を分散して突破するあたりはすごく良いんだけど、その後の敵陣突破から帰投に至るくだりは、もう少し高揚感が欲しかった。あと、締めに入る奉天の会戦のシーンも、見せ方がスペクタクル的に中途半端なので、映画としての幕切れが、いまいち締まりが悪い感じがして残念。反面、感傷や悲壮感が過度に強調されることがないのは、これはなかなか好ましいんですけどね。情緒過多の戦争映画は、個人的に好きではないので。

 画面づくりの方は、北海道ロケをしたという風景のスケール感とか、ワイド画面を存分に生かしていて、文句なしに素晴らしいです。広大な雪原を騎馬で失踪する斥候隊なんて、それだけでも絵になるカッコ良さ。セットや美術も良く、日本軍の司令部も馬賊のアジトも田舎の農村も、全景から細部に至るまで見応え充分。ロシア軍の鉄道拠点である鉄嶺の全景とかも、雰囲気もスケール感もたっぷりで目を見張らされたし、敵軍の騎馬隊などの物量感も、なかなかもの。
 ただ、尺が83分と決して長くないので、進行はスムーズでスピーディな反面、ちょいと溜めが乏しいし、深みにも欠けるという物足りなさもあり。画面に物量感やスケール感があるわりには、映画自体には意外と大作感がないんですな。小粒な娯楽作ってのもいいけど、題材の面白さと魅力的な絵作りゆえに、どうせなら2時間くらい使って、もっとじっくり見せて欲しかったという気はします。

 役者さんは、女性は一人も出てこないという潔さで、登場人物はいかつい(もしくはむさい)軍人ばっかなんですが、まあ皆さん背筋がビシッと伸びて姿勢も良く、所作もキビキビとカッコイイこと! それと、明治時代の軍人さんですから、おヒゲさんが多いのも私的には嬉しい(笑)。
 あと、セリフがいかにも軍人っぽい文語調や漢語調で、これまたカッコ良さにシビれちゃいます(笑)。「君を鞭撻せんがための一言と察してくれ!」なんてセリフ、一度でいいから、日常生活で使ってみたいもんです。……って、いつどこで誰に言うんだよ、って感じですが(笑)。
 斥候隊の六人の俳優さんは、正直なところ私にはあまり馴染みがない面々で、見覚えがあるのは高松英郎くらいでしたが、ここいらへんはこういった映画にリアルタイムで親しんできた相棒が、「この人は、若尾文子の相手役とかを良くやってたんだよ」とか「この人は元水泳選手で、和製ターザンもやったんだよ」とか、横でオーディオ・コメンタリーしてくれました(笑)。
 菅原謙二演ずる主人公の建川斥候隊長は、いかにも少年小説の主人公に相応しく、冷静沈着、文武両道、中国語にもロシア語にも堪能なスーパー・ヒーローなんですが、ちょいとスーパーぶりが災いして、キャラクターとしては影が薄い感もあり。
 五人の隊員たちは、隊長の右腕で自分の馬をこよなく愛する豊吉隊員(北原義郎)と、隊長を心から慕う新兵の沼田上等兵(石井竜一)は、けっこう印象に残るしキャラも良く立っているんですが、その他の三人の影が薄い。いちおうそれぞれ、連隊一の乗馬の名手とか連隊一の食いしん坊とか、キャラクター付けはされているんですが、いまいちそれが生きていない。もっと、各人満遍なく見せ所があれば良かったのに。他の登場人物も、前半に登場する馬賊の首領(に収まっている日本軍人)とかは良いんだけど、斥候隊の消息を案じる本部の人々とかは、キャラクターの役割としての魅力はあるものの、プラスアルファの人間的魅力までには至らない感じ。
 ここいらへんも、やはり前述した尺の短さの弊害のような気がするので、やっぱりここはもっと長くして欲しかったなぁ。

 とはいうものの、そういった無い物ねだりを除けば、前述のように内容的にも絵的にも魅力タップリだし、あちこち私の好みのツボは押されまくりだったので、個人的にはかなり気に入っちゃいました、この映画。
 『日露戦争勝利の秘史 敵中横断三百里』DVD(amazon.co.jp)

 さて、ちょっと余談。

 この映画で描かれているような、男だけの社会における男同士の友愛、すなわち、ホモソーシャル的なリレーションシップに対しては、私自身はそれほどファンタジーを抱いていないつもりでした。それどころか、そういったホモソーシャル関係の延長線上に、ホモセクシュアルを位置付けるタイプの発想、一例を挙げると、「この、女性が入り込む余地のない男同士の親密な友情には、どこかホモセクシュアルめいた危うい匂いが……云々」とかいった論調には、私は否定的です。
 で、そんな私なんですが、この映画で一カ所、ちょいと胸がときめいちゃったところがありまして(笑)。
 映画の前半、斥候隊一行が馬賊の元に身を寄せた際、馬賊の首領が建川斥候隊長に対して、部下の一人である野田隊員(演じるのは和製ターザン役者の浜口善博)のことを、彼がいないところで「良く気が付く」と褒めます。それに対して建川隊長は、ごく自然に「女だったら女房に貰いたいくらいですよ」と返すんですな。ここでときめいちゃった(笑)。ああ、自分の中にも、ホモソーシャル的なリレーションシップの中に、ホモセクシュアル的な幻想を見るファンタジーがあったのか、と、変なところで自己再発見してしまった気分になった(笑)。
 で、その後更に追い打ちをかけるようなやり取りまであるんですな。首領と隊長がそんな会話をしているところに、当の野田隊員が戻ってきて、早速その「良く気が付く」っぷりを見せる。すると首領が「なぁるほど、素敵なおかみさんじゃ」と呵々大笑する。こうなると、見ているこっちの気分は、もう「萌え」の領域に突入(笑)。自分の中に、ホモソーシャル幻想どころか、今度はやおい属性があることまで確認しちゃいました(笑)。
 この一連のシーン、ホンモノの腐女子の方々の感想を、ちょっと伺ってみたい気がします(笑)。

“Centurians of Rome”

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“Centurians of Rome” (1980) John Christopher

 今まで、ソード&サンダル映画のソフトについて、何度か書いてきましたが、今回はちょいと変化球です。
 いや、変化球っつーか、これは反則か(笑)。だってこれ、ゲイポルノ史劇だから(笑)。でも、そう言うと何だかキワモノのようですが、あにはからんや、これは私が見た古今東西のゲイ・ポルノ映画の中でも、三本の指に入るマイ・フェイバリット。
 とゆーわけで、今回の記事は「エロ」ですから、お嫌な方はパスするように。

 ポルノ+史劇というと、有名なのはティント・ブラスの『カリギュラ』ですよね。公開当時は日本でも話題になりましたし、ゴージャスな画面や残酷趣味などの見せ物的な面白さはありましたが、まあ正直なところ、アーティスティックという面でもポルノグラフィックという面でも、どっちつかずの中途半端さで、さほど面白い作品ではない。
 理由はいろいろありますが、私にとって最大のそれは、単に豪奢なセットの中で乱交するだけで、エロティックな表現そのものに目を見張るようなものがなかったってことです。そういう意味では、富士見ロマン文庫から邦訳が出た、ノヴェライズの方が面白かった。ペントハウス誌のオーナーにして映画の制作総指揮も努めたボブ・グッチョーネが、映画の仕上がりに不満で手を入れたとは聞きますが、私はティント・ブラスの作品は、そーゆー横槍がないはずの『サロン・キティ』でも退屈だったから、そもそもこの監督とは相性が悪いのかも知れません。
 しかし、大金を投じて(『カリギュラ』は46億円らしい)ポルノ映画を撮るってこと自体は、結果はどうあれ、その心意気に拍手したい気持もあります。

 さて、そんな『カリギュラ』の向こうを張って……かどうかは判りませんが、その翌年に公開されたのが、この “Centurians of Rome” です。もちろん『カリギュラ』ほど大金がかかっているわけではなく、それでもIMDbのトリビアには「最も高い制作費を投じた(10万ドル近い)ゲイ・フィルム」とあります。
 まぁ、いくらゲイポルノとしては破格の予算を投じていても、『カリギュラ』とは桁が二つ違うし、実際の画面もゴージャスには程遠いです。50年代後半から60年代中頃のソード&サンダル映画の、安っちいクラスの作品と比べても、ず〜っとず〜っと貧乏くさい(笑)。
 でも、それなりに頑張ってはいて、例えば、何もない野っ原にローマ風の石柱をポツンと置いて、遺跡風の雰囲気を出していたり、建物の外観とかは、どこぞの図書館だか博物館だかにありがちな、ギリシャ・ローマ風のエントランスとかを使って撮っていたり、頑張って史劇らしいムードを出そうという努力や工夫は、充分以上に感じられます。
 そして特筆したいのが、この映画は『カリギュラ』と違って、ポルノグラフィーに徹しつつ、なおかつモノガタリとしても面白いんですな。

 映画は『スター・ウォーズ』のパロディで始まります。星空を背景に「昔々、ローマからそう遠くない所で……」ってな黄色いテロップが流れる(笑)。で、舞台はローマ郊外らしき野っ原に移り、そこで畑を耕すかなんかしてる仲良し二人組、黒髪にフルフェイスのヒゲのディミトリアス(ジョージ・ペイン)と、ブロンドに口ヒゲのオクタヴィアス(スコルピオ)がメイン・キャラクター。
 二人は親戚同士で、オクタヴィアスが税金が払えなくて困っている、みたいなことを会話で説明した後、一休みしようかと昼寝する。ここで見る淫夢が、最初の濡れ場。ロマンティックな音楽……因みにこれ、富田勲の『ダフニスとクロエー』を、おそらく無断で勝手に使ってるんですが(笑)……が流れ、色照明の中、二人のヒゲ男は全裸になって愛を交わす……ってな具合。
 そこに百人隊長(エリック・ライアン)が部下と共に馬に乗ってやってくる。「税金払え」と言われ、オクタヴィアスが「金がないから払えない」と答えると、その場で取り押さえられてしまう。百人隊長は、ディミトリアスに空の財布を投げ与えて、「明日までに金を持ってこい」と命令すると、下帯一つの裸にされたオクタヴィアスを縄で縛って、馬で引いて連れて行ってしまう。
 連行されたオクタヴィアスは、百人隊長のテントの中で、「美しい、天使のようだ!」とか何とか迫られて、部下と一緒に数人がかりで凌辱されてしまう……ってのが二番目の濡れ場。その夜、ディミトリアスがオクタヴィアスを助けにテントに忍び込む。で、「俺はこいつを始末してから行くから」と、オクタヴィアスを先に逃がして、石を拾って百人隊長を殺そうとするのだが、根が善人なのか実行できない。すると百人隊長が目を覚ましてしまう。
 こうして、オクタヴィアスは脱出できるが(因みにこのシーンでは、今度はエルマー・バーンスタインの『十戒』の音楽が……)、ディミトリアスが捕まってしまう。百人隊長はディミトリアスを縛ると、「お前を奴隷に売って、その金を税金にあててやろう」とか言いながら、裸にして身体に悪戯……ってのが、濡れ場じゃないけど三番目のエロ・シーン。
 この後、ディミトリアスは奴隷の競り市に出され、そこに来ていた、いかにも退廃メイクなフェミニン系の皇帝の目に留まり、お買い上げ、他の奴隷と一緒に地下牢に繋がれて、マッチョな調教師からセックス調教の開始。いっぽうオクタヴィアスは、ディミトリアスを助けるために、自分を「美しい」と言っていた百人隊長に色仕掛けで近付くが、それをきっかけに二人の間に情が通いはじめる。その頃、調教が終わったディミトリアスは、ついに皇帝の夜伽をするために寝室に連れて行かれ、寝台の柱に縛られ……ってな具合に、話が進みます。

 あらすじの紹介が長くなりましたが、こんな感じで、ジャンル・フィクションで期待されるクリシェを上手く使い、同時に要所要所をしっかり濡れ場で押さえつつ、キャラクターの性格や心情も絡めたストーリーをきちんと展開していく。内容も盛り沢山で、凌辱や縛りや鞭打ちもあれば、キスやラブラブや恋愛もあり、モノガタリ的なドンデン返しまである。
 ここまでちゃんとした「おはなし」があって、それがエロ・シーンと全く乖離していないのは、ポルノグラフィー的なモノガタリのレベルが極めて高いとゆーことで、もう「お見事!」って感じ。私が本作を、マイ・フェイバリットの一本にあげる、最大の理由がこれ。
 それと私の場合、幼少のみぎりから『十戒』やら『ベン・ハー』を見て、映画としての面白さと同時に、性的にもモヤモヤと惹かれていた……って事情もあります。
 で、映画を見た後、勝手に頭の中で「アレがあの後、あ〜なってこ〜なって……」ってなHな妄想を繰り広げて、エロい二次創作(笑)をオカズにマスターベーションしたりしてたわけですから、そーなるとこの映画は、もうある種の夢の具現化です。今からもう、20年も前になりますか、知り合いに初めてこの映画の裏ビデオを見せてもらったときは、「ひゃ〜、こんなのがホントにあったの!」と、マジでビックリかつ感激したもんです(笑)。

 あとまぁ、やっぱりポルノですからね、俳優陣がイケるかどうかってのも重要なんですが、これまた幸いなことに、私の好みに合致してる。
 昔の、まだフィルム撮りだった頃のゲイ・ポルノですから、皆さん今みたいにゴリゴリのマッチョやらビルダーやらってのではないですが、肉体労働系のナチュラルな逞しさで、これはこれでまた良きかな。顔も、メインの三人はいずれも私的にオッケーなタイプだし(特に黒ヒゲのジョージ・ペインの顔は好きだなぁ)、脇でも、ダンジョンの調教師なんかカッコいいし。
 不気味系の皇帝陛下も、他の役者とのコントラストが、逆にエロい気分をかき立ててくれるし、役者としてもけっこう見せてくれる。特にラストで見せる表情なんて、『サンセット大通り』のグロリア・スワンソンばり……までいくと褒めすぎだけど、でも、かなりの凄み。
 最近制作のゲイ・ポルノでも、こういった史劇風のものってのも、全くないわけじゃないんですが、残念ながらクオリティが、この作品の足下にも及ばないものばかりです。
 なんかね、ローマ風の衣装を付けて、それ風のセットでセックスしたりはするものの、キレイにタンニングした肌にビキニ跡がクッキリとついていたり、ラテックスのコンドームを使ってたりすると(まあ、これは仕方ないことではありますが)、興ざめも甚だしい。もちろん、モノガタリなんてあってなきが如しで、コスチューム・プレイではなく、悪い意味での「コスプレ」にしかなっていないんですな。

 あと、ハードコアのポルノビデオって、どうしても「結合部分をよく見せる」とかの工夫ゆえに、本来ならば陰になる部分にも照明を当てるから、結果として画面がフラットになりがちだったりします。まあ、上手いスタジオだとそこいらへんも上手くて、二灯三灯使いながらも陰影にはメリハリを付けて、全体も局部も共に見応えある画面作りはしていますが、そーゆー優良スタジオは限られている。
 でも、この “Centurians of Rome” は、そこいらへんがけっこう「映画的」なんですな。シーンによっては、オーラルセックスやアナルセックスをしていても、性器や結合部分が完全に影に隠れてしまっていたり、暗すぎて見えないことも多々ある。でも、それがかえってナチュラルな淫靡さを醸し出していたり、エロティックな雰囲気だったり。光と影で画面を作るという意識や、最近のAVでは見られなくなった職人的な技術が、しっかりあるという感じです。

 DVDの画質は、もちろん私が以前持っていた裏ビデオ版と比べると、問答無用の良画質ですが、こういうクラシック・ゲイ・ポルノのソフト全般と比べても、かなり佳良です。デジタル補正しているようで、映像はかなりシャープで鮮明。ただ、シャープネスをきつくかけたせいなのか、ちょっと全体的にフィルムの粒状感が目立ってしまったような、ザラザラした感じはあります。
 画質のサンプルは……う〜ん、内容が内容なだけに、キャプチャ画像をアップするのは差し控えます(笑)。どんな内容か知りたい人は、Centurians of Rome でGoogleのイメージ検索をすれば、スチル写真やキャプチャ画像が幾つかヒットするので、それを参考にしてください。
 ディスクは、プレスではなくDVD-Rですが、フルカラーのピクチャーディスク仕様。メニュー画面あり、チャプター付き。