現在発売中の雑誌「美術手帖」(メンズ・ヌード特集号)で、インタビュー形式で日本のゲイ・エロティック・アート史の解説しております。
編集氏のお話によると、今までなかった特集だけに果たしてどうかという声もあったそうですが、売れ行き好調とのこと。古典から現代美術、はたまたマンガなどのポップカルチャーまで、幅広く扱ってきた伝統ある美術雑誌にして、男性ヌードの特集が初めてだというのは、正直言って遅れているという気がしなくもないんですが、でも良い先例を残せたのは良かった。
また、美術雑誌がこういう特集を組むにあたって、日本国内のゲイアートも取り上げようという発想が出てきたこと自体は、大いに喜ばしい変化だと思います。13年前に私が『日本のゲイ・エロティック・アート vol.1』を出したときは、どの美術系雑誌からも黙殺されましたからねぇ……。
というわけで、よろしかったら一冊お買い求めを!
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「ゲイ・カルチャー」カテゴリーアーカイブ
“Mixed Kebab” (2012) Guy Lee Thys
“Mixed Kebab” (2012) Guy Lee Thys
(英盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk、日本のアマゾンでもマーケットプレイスで取り扱いあり)
2012年のベルギー/トルコ製ゲイ映画。
アントワープに住むトルコ系クローゼット・ゲイ男性と、フラマン語系ベルギー青年との恋愛を描きながら、それを通じて、同時に社会が抱える様々な問題も描きだすという内容。
主人公イブラヒムはベルギーで生まれ育ったトルコ系の青年。自分がゲイだと自覚はしているが、それを表に出すことはなく、名前もベルギー風にブラムと名乗っている。パートタイムのウェイターをしながら、裏ではコカインの売人もし、行きつけのダイナーの一人息子、ケヴィンに惹かれている。
ケヴィンは、ダイナーの主である母親マリアナと二人暮らし。息子がゲイなのを承知しているマリアナは、ブラムがゲイでケヴィンを好きだというのを見抜き、気を利かせて二人を一緒に夜遊びに行かせる。
ケヴィンはブラムに「男と女とどっちが好き?」と尋ねるが、ブラムは「自分はトルコに親が決めた婚約者がいて、じきに結婚する予定だ」と答える。一方、ブラムの弟で学校から落ちこぼれてストリートギャングになっているフルカンが、マリアナの店に強盗に入る。
やがてブラムは、婚約者であり従妹でもあるエリフと、結婚の書類を交わすためにトルコへ行くことになる。ブラムは「一緒に行こう」とケヴィンを誘い、一度は「仕事があるから」と断ったケヴィンも、マリアナに後押しされてブラムと一緒にトルコへ行く。
トルコでは、エリフに恋する地元の若者ユスフが彼女を口説いているが、彼女は男尊女卑のトルコ社会にうんざりしており、ブラムと結婚してベルギーに行くのを望んでいる。トルコに到着したブラムとケヴィンは、一緒にホテルの同じ部屋に宿をとるが、そのホテルはユスフの職場でもあった。
一方ベルギーでは、チンピラを仕切るルーマニア人ギャングの裏切りによって、フルカンがダイナーの強盗事件について警察の取り調べを受ける。父親に殴られたのと、警察署内でのアクシデントで、顔に傷を作って警察署から出てきたフルカンは、近くのモスクを拠点とするムスリムの男に声を掛けられる。フルカンは誘われるまま男と一緒にモスクに行き、そこでイスラムの教えを受けるうちに、次第にイスラム原理主義へと傾倒していく。
一方、トルコのブラムとケヴィンは、次第に関係が接近していき、ついにホテルのハマムで結ばれるのだが、それをユスフに見られてしまい……といった内容。
「ケバブ盛り合わせ」というタイトル通り、まぁとにかく盛り沢山な内容。
ストーリーはこれでもまだ中盤くらいで、ブラムのゲイばれだの、ケヴィンとの関係だの、家族問題だの、マイノリティ問題だの、名誉問題など……と、色々なエピソードが山のように続く。
それと同時に、ベルギーにおける移民問題とか、その移民というマイノリティの中で、さらにマイノリティ差別があるとか、ムスリム・コミュニティ内での原理派と世俗派の問題とか、ベルギーのトルコ系コミュニティ内での、身内にLGBTがいる家族への差別とか、とにかく盛り沢山な内容。
で、そういった諸々は実に興味深いんですが、いかんせんそれだけ盛り沢山で、しかし尺は1時間半強なので、どうも1つ1つが点景でしかなく、それを掘り下げていく方向にはいかないのが、少し残念。
また人間ドラマの方も、《トルコ系ベルギー人でクローゼット・ゲイで女性との結婚も間近だけどベルギー青年に恋をしてアイデンティティの置き場に彷徨いマイノリティ差別にも会っている男》という主人公だけとっても、キャラとしては充分以上に複雑で盛り沢山。
そこに更に、《常に兄と比較され学校ではレイシストからいじめられストリートギャングになりやがてイスラム原理主義に傾倒する弟》とか、《初子は生後すぐに死んでしまい次の子を長子として大事にしてきたがゲイだと判って受け入れられない父親》とか、とにかく全員、それ一つで映画一本作れそうなくらいキャラ設定が複雑。
基本的に、描写やディテールで見せるのではなく、ストーリーを追わせるタイプの作りなので、内容自体は面白いし、因果関係などを良く考えてストーリーが作られているのも判るんだけど、前述したような盛り沢山さ故に、どうしても、どれもこれも描き込み不足という気がしてしまう。
ただ、まったく予定調和的ではないストーリーの結末なども踏まえると、目指しているのはストーリーやドラマを描くことではなく、それらを並べて見せることで、主人公とその周囲の世界の諸相を見せることにありそうな感じ。
そうなると、もう少しキャラクターを突き放した、高い視点から描いた方が良いと思うんだけど、いかんせん、大きな軸であるゲイ・ロマンス部分が、ここは普通にムーディ&センチメンタル(&エロス)に描かれるので、そこいらへんがぎくしゃくしてくる。
というわけで、ストーリーは(いささか作りすぎな感はあるものの)面白いし、ちょっとしたエピソードにも背景となる社会問題が盛り込まれ、そんなテンコモリ具合から感じられる意欲は良しですが、それ故からくる、あちこち物足りない部分もあり……という感じの一本。
とは言え、ゲイ・ロマンスに社会問題をこれだけ盛り込んだゲイ映画というのは、なかなか珍しいと思いますし、ゲイ的な部分でも社会問題的な部分でも、見ていて色々と思わされる部分は多々あるので、テーマやシチュエーションに興味のある方なら、色々と楽しめると思います。
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雑誌「現代思想」のLGBT特集号にエッセイ書きました
本日発売の雑誌「現代思想」(青土社)2015年10月号《特集=LGBT 日本と世界のリアル》に、「同性婚」と『弟の夫』についてのエッセイ「隣の《同性婚》を考える」(1200字)を寄稿させていただきました。ページ数は少ないですが、LGBT特集のトップに掲載していただいたので、見つけやすいと思います。
同特集では、「エッセイ」「討議」「『同性婚』とは何か」「政治/経済」「地方から問い直す」「生活の中で」「<家族>を思考する」「情動/身体」「世界のクィアから」「実践を問う」「歴史を問う」といった、多角的な章立てがなされており、それぞれについて各2〜4名の方々が寄稿。学術よりの論者が多く専門用語も頻出するので、読みやすくはないですが読み応えはありそう。
というわけで、宜しかったら是非お読みください。
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Kindle版もあります。
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“Floating Skyscrapers (Plynace wiezowce/真夜中のふたり)” (2013) Tomasz Wasilewski
“Floating Skyscrapers (Plynace wiezowce/真夜中のふたり)” (2013) Tomasz Wasilewski
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk)
2013年のポーランド製ゲイ映画。原題”Plynace wiezowce”、ポーランド映画祭2014で『真夜中のふたり』の邦題で日本上映あり。
ガールフレンドもいる若い水泳選手が同性に惹かれていき……という内容。
青年クバは将来を嘱望されている水泳選手。母と二人で暮らす家に、ガールフレンドのシルウィアも同居させて、寝室も共にしている。ある日クバはシルウィアと一緒にギャラリーのパーティに行くが、どうも場違いな感は免れず、外に出てジョイントを吸っていると、青年ミハウと出会う。
クバはミハウに惹かれていくが、自分の同性愛傾向を完全に肯定することはできず、シャワールームで別の男にフェラチオさせたりとか試みはするのだが、達する前にやめてしまい、逆にシルウィアの身体を激しく求めたりする。
一方のミハウは自分がゲイだと自覚しており、母親もそれを知っているが、父親へのカムアウトは、まるで何事もなかったかのように流されてしまう。
気持ちの揺れるクバは水泳の練習にも身が入らず、遂には大事な選考試合の途中で棄権してしまう。一方でシルウィアは、クバとミハウ双方の抱いている感情に気付き、何かと当てつけめいた態度をとるようになるのだが……といった内容。
この映画で描かれる、自分がノンケだと思っていた男が、何かのきっかけにゲイであることに気付き、それまでの諸々のしがらみやセクシュアリティの揺らぎ、周囲から強要されて自分も飲み込まれてしまう社会的な抑圧の中で悩む……といったテーマは、昔から繰り返し語られてきた内容。
表現は淡々としてリアリズム重視。エピソードがドラマチックにうねりを見せるわけではなく、1つ1つの、それ自体はほんの些細なエピソードを丁寧に描き、その積み重ねで様々な事象が浮かびあがっていくというタイプで、若干の弛緩はあるものの、なかなか魅力的。
時に硬質、時に感覚的な映像表現も、ところどころ「おっ」と思わされる美しい映像などもあって、これも魅力的。
また、クバ役の男優はハンサムで、身体も美麗。直截的なゲイセックス場面はあまりないけれど、センシュアルなヌード場面は多々出てくるのも魅力の一つ。
ただ、そういったリアリズム表現であるが故に、これはやはりポーランドの社会状況もリアルに反映しているのか、ストーリーの決着はかなりビター。はっきり言って「久々に後味の悪いゲイ映画見ちゃったなぁ……」という感じで、これは好みが分かれそう。
ちょっと興味深いのは、一昨日感想をアップした“Land of Storms”も、昨日の“Snails in the Rain”も、やはり同様に、なかなか自己受容できないゲイという、インターナライズド・ホモフォビアを扱い、結末もリアル視点で社会状況を反映したビターなものであるにも関わらず、鑑賞後のそれぞれの後味は異なるあたり。
いずれも自分的にはあまり好きなタイプのエンディングではないのだが、”Land…”は好き嫌いは別として納得はいく、”Snails…”も何かイガイガした感じは残るものの余韻自体は悪くない。しかしこの”Floating…”の後味はハッキリと悪く、余韻というよりも見終わって気分が暗くなる感じ。そういえば若い頃に、ウィリアム・ワイラー監督の『噂の二人』(1936)や、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の『自由の代償』(1975)を見終わったときも、こういう嫌〜なというか暗〜い気持ちになったっけ……などと、ふと思い出したり。
何というか、こういったゲイにとっては厳しい社会状況を描く際に、作品としてそれに抗議している意志が見えるか見えないかで、私の印象は大きく左右されるのかも知れない。逆に言うと、そういった「嫌さ」を引き起こす”Floating…”の視線のフラットさは、ひょっとしたらスゴいのかも知れないけれど、やはり個人的には、ゲイテーマの扱い方が昔風のそれから脱していないように思えてしまう。
とはいえ、前述したように見所はあちこちありますし、映画的なクオリティも高い一本。主演男優も魅力的だし、とにかく後味の悪さを覚悟して見れば、見応えはある一本です。
“Snails in the Rain (שבלולים בגשם Shablulim BaGeshem)” (2013) Yariv Mozer
“Snails in the Rain (שבלולים בגשם Shablulim BaGeshem)” (2013) Yariv Mozer
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk、米盤DVDが日本のアマゾンでも購入可能)
2013年のイスラエル製ゲイ映画。原題”שבלולים בגשם (Shablulim BaGeshem)”。
80年代末、まだ社会的に同性愛がタブーだった時代を背景に、セクシュアリティの揺らぎや自己受容の難しさを描いた作品。
1989年のテルアビブ。大学生のボアズはガールフレンドと同棲しながら、奨学金の審査が通るのを待っている。そこに彼の私書箱宛てに差出人不明の手紙が届く。
手紙には差出人(男性)の孤独と、ボアズに対する恋情が切々と綴られており、ボアズはそのことをガールフレンドから隠す。
ボアズは折に触れ、男だけだった兵役時代のことを思い出し、また大学でも街でも自分の目が男を追いかけていることに気付き、それらしき人々とのアイコンタクトを経験したりするが、自分では許容できない。
果たして手紙の差し出し主は誰なのか? そしてボアズの選択は? ……といった内容。
派手にドラマを作るのではなく、平凡な日常描写を丁寧に積み重ねることで、キャラクターや物事のあらましが徐々に浮かびあがっていくという構成で、その表現力はなかなかのもの。モチーフ的にはさほど目新しさはないものの、映画としての魅力や完成度でしっかり見せてくれます。
セクシュアリティの揺らぎというモチーフなので、いわゆるラブストーリーではないし、男同士のラブシーンやセックスシーンも些少ですが、にも関わらず、主人公のルックスや肉体の魅力や、ガールフレンドとの濡れ場、日常描写などで、全体的にきちんとセンシュアルでセクシーにしているのも見事。
ただ、テーマ的にインターナライズド・ホモフォビア(同性愛者自身の同性愛嫌い)があるんですが、物語の時代設定が25年前ということもあって、そういった事象がそのまま提示されるだけで、そんな時代的な限界を越える何か、つまり解決策や何かの決着があるわけではないので、そこが個人的にちょっと物足りない感じ。
まぁ、下手に理想的な展開にしてしまうと嘘っぽくなりそうだし、映画全体のタッチから考えても、この展開やビターな結末は相応だとは思うんですが、ちょっとなんかイガイガしたものが、見終わった後で残る感じ。
反面、そこが一つの魅力でもあって、一緒に見ていた相棒なんかは、かなり気に入った様子。じっさいインターナライズド・ホモフォビアというのは、現代においても未だ大きな問題として残ってはいるわけで、そういう意味でもイシューとして無意味なわけではないし。
一つ面白いのは、この映画は、社会的な不寛容をそのまま自分でも抱え込まざるを得なかった、そんな時代のゲイの自己受容の難しさや、抑圧された同性愛者の姿を描くという、テーマとしては昔から良くあるタイプの作品であるにも関わらず、そんな昔ながらのテーマを、アンドリュー・ヘイ監督の”Weekend”(2011)以降に良く見られるようになった、ドラマを過剰に紡ぐのではなく、ごく日常的で些細な風景を積み重ねることで描くという、最近のゲイ映画のスタイルで改めて描いた作品とも受け止められるあたり。
そういった意味では、テーマへの共感を表現手法が更に後押しするという、プラスの効果は大きく、そしてそのテーマが、映画に描かれている社会的な状況が、現在の日本のそれに通じる部分も多々あるので、いろいろと考えさせられるし、見応えもあり。
扱っているテーマとビターな結末が、見る人によって好みは分かれるとは思いますが、それでも見応えはありますし映画的な完成度も高く、加えて、主人公がかなりセクシー君で、ちょっとドキドキするような表現も多々あるので、興味がある人なら見て損はない一本かと。
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“Land of Storms (Viharsarok)” (2014) Ádám Császi
“Land of Storms (Viharsarok)” (2014) Ádám Császi
(イギリス盤DVDで鑑賞→amazon.co.uk、米国盤DVDが日本のアマゾンでも購入可能)
2014年のハンガリー/ドイツ製ゲイ映画。原題”Viharsarok”。
ドイツでサッカー選手をしていたハンガリー人青年が、サッカーをやめ故郷の田舎に帰るのだが……という話を、様々なイシューを織り交ぜながら静かに描いた作品。
ハンガリー出身のサッカー選手シネーシュは、ドイツのチームでプレイをしていたが、試合でのレッドカードや、その後のシャワー室での同僚ベルナルドとの喧嘩などで、サッカーをやめてハンガリーに帰ることにする。
故国に戻ったシネーシュは、一人で祖父が残した田舎の農家に住むが、ある晩バイク泥棒が入る。シネーシュは泥棒の一人アーロンを取り押さえるが、警察に突き出すことはしない。そんなシネーシュにアーロンは、農家が荒れ果てていので住むなら修理が必要だと指摘し、そのままシネーシュに雇われる形で一緒に瓦葺きなどをするようになる。
二人の関係は次第に親密度を増し、やがては親しい友人同士のようになるが、ある晩シネーシュは酔ったアーロンの身体を愛撫し、アーロンもまたその行為を受け入れる。しかし二人の間に起こった出来事は、アーロンが母親にそれを告白したことを切っ掛けに、他の村人の耳にも入り、やがてはドイツからベルナルドもシネーシュを訪ねてやってきて……といった内容。
なかなか見応えのある一本。
多くを語らず説明要素も廃しつつ、しかし経緯は推測で判るようになっている、抑制の効いた話法が見事。映像的にも、シンメトリーで構成したり大胆な余白を用いたりといった、構図の美しさや緊張感に感心させられます。
エロティックな要素も見応えあり。
中でも特筆したいのは、サッカーチーム内や村の若者同士の他愛ない戯れといった、ホモソーシャル的な情景の描き方。ドラマの登場人物たちの思惑や、実際に描かれている行為の内容とは別に、監督(そして観客)という第三者の目を通して見ることで、そういったそういったホモソーシャル的な光景に潜むホモエロティシズムをあぶり出し、それど同時に、その中にホモセクシャルが混じっていることから生まれる緊張感も描出して見せる、その巧みさ。
また、実際にホモエロティックな行為の描写も、行為の内容や表現自体は控えめながら、巧みな見せ方で見事にセンシュアル。さほどタイプでもないキャラ同士(魅力的ではありますが)の、バニラなことこの上ないゲイセックス描写という、私的にはさほどツボは押されない内容であるにも関わらず、その表現の巧みさ故に、見ていて思わず甘勃ちしてしまったほど。
ドラマを通じて盛り込まれる様々なイシューも、面白く興味深い要素。
相手を欲しているのは欲望なのか愛情なのか、人生にあたって何を選びどう決断するのか、宗教や社会が押しつけてくるホモフォビアと、それに悩みながらも自ら従ってしまう当事者という問題、そんな社会状況かで、同性間リレーションシップが表に出た結果と、それに対する態度……などなど、日本のゲイが置かれている状況にも通じる要素が色々。
ストーリー的には、後半でドイツからベルナルドが尋ねてきて、三角関係っぽい様相を呈するあたりから、正直ちょっと「……ん?」と思ってしまったんですが、全編を見終わると、なるほどこれは余計な要素ではなく、必要なエピソードだったんだな……と納得できました。
物語の結末も、おそらく好き嫌いが分かれるでしょう。実のところ私も、物語的にはこういった展開は好きではない。しかし、そこからもたらされた状況や思いを、映像だけでしっかり見せてくれるので、そこは素直に感心させられたし、社会状況を考え合わせると、好き嫌いは別として納得はできます。
そんな感じで、ストーリー自体というよりも、それを通じて様々なイシューが描き出されるという点で、大いに見応えあり。映画としてのクオリティも高く、見て損はない一本。
ハンガリーのゲイ映画ということだけでも稀少ですし、処女長編でこれは大したもの。
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「映画秘宝」10月号に映画『ボヤージュ』レビュー&海外ゲイ映画コラム書きました
本日発売の雑誌「映画秘宝」10月号に、8/29〜公開の、イケメンマッチョのヌード満載の香港映画『ボヤージュ』(公式サイト)のレビューと、コラム「まだある世界の未公開ゲイ・ムービー!」を書かせていただきました。
よろしかったら是非お買い上げを!
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レビューを書かせていただいた映画『ボヤージュ』(2013年、SCUD監督)も、「よくこの映画を日本公開に踏み切ったな!」という感じの、ゲイテイスト濃厚&男性ヌード満載&エクスペリメンタルな、なかなか興味深い一本なので、よろしかったら是非劇場にお出かけを!
“3” (2010) トム・ティクヴァ
“3” (2010) Tom Tykwer
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com)
2010年のドイツ映画。ご贔屓トム・ティクヴァ監督。男女のカップルが一人の男に同時に惹かれてしまうというロマコメ的な状況を、一癖も二癖もあるフリーダムなタッチで描いた内容で、ゲイセックスシーンもあり。
日本では2014年の関西クィア映画祭、他で上映。
ハンナとシモンは、長く付き合い、結婚こそしていないものの一緒に暮らしているカップルだが、既にセックスレス状態になっている。
そのせいかTVキャスターのハンナは、仕事中でも何かと物思いに耽ったりカリカリしたり。そんなある日、シモンの母親が膵臓癌で亡くなり、シモンにも睾丸癌が見つかる。
片方の睾丸を摘出する手術の日、シモンはハンナに電話をかけるが、その電話は繋がらない。その時ハンナは、仕事で出会った男性アダムと偶然の再々会を果たしており、躊躇いながらも惹かれるままにアダムと寝ていた。一方でシモンは、手術が無事に終わった後、昔の情事の相手だった女性と偶然再会し、実は当時彼女は彼の子を妊娠し、中絶していたことを知る。
退院後にプールに行ったシモンは、そこで泳いでいたアダムと出会う。アダムに睾丸癌の手術の話をしたシモンは、「じゃあ機能を確かめてみよう」と、アダムの手コキでいかされてしまう。
ハンナとシモンは、そろそろ潮時だから結婚しようかという話になるが、実は二人とも互いに与り知らぬところで、それぞれアダムを追い求めて情交を重ねており……といった内容。
まぁとにかく「ティクヴァ作品だわ〜」という感じで、やっぱこの監督は好き だ。
運命論的な展開、社会常識やモラルを軽々と超えるハッピネス、計算された色彩設計や堅牢な構図の美麗画面、ちょっとスノッブな感じ……と、映画のそこここがとってもティクヴァ。
ストーリー展開は、普通の感覚から言ったら《偶然》が多すぎるのだが、そこを様々なディテールの積み重ねで《必然》に見せていくあたりは、やはり上手いし引き込まれる。そんなところは、同じくティクヴァ作品の『プリンセス・アンド・ウォリアー』を思い出させるし、運命論的なところは『ウィンタースリーパー』な感じも。
英語字幕での鑑賞だったので(日本公開されるかも……と様子見してたんだけど、待てど暮らせど気配がないので、諦めて米盤DVDを購入)、ペダンチックなセリフの数々を拾い損ねてしまったのは残念。きちんと理解できる日本語字幕で見れば、もっと滋味が増しそうな予感。
ロマコメ的シチュエーションではあるけれど、愛とセックスを完全に等価に扱っている(ひょっとしたらセックスの方が比重は上かも?)のも最高。登場人物がことごとく、セックスに対して実にフリーダム。
色々な要素がテンコモリで、内省的になったりアーティスティックになったりコメディになったりと、異なるテンポや雰囲気が混在しているため、途中はちょっと軸足をどこに置いて見れば良いのか判らない感もありましたが、ラストのハッピネスと洒落っ気で綺麗に着地、全体の後味は上々。
映像的にも、詩的で静謐だったり、かと思いきや目まぐるしいマルチ画面になったり、まぁ綺麗とウットリさせられかと思ったら、睾丸摘出手術をモロに見せられてオエップとなったり(笑)。
そして、ゲイセックスシーン。これはけっこうエロかった。
見せ方は別にさほど過激ではないんですが、何しろ上手い監督と一流のカメラで、手コキで射精に至る表情のクローズアップとか、腹に出された精液とか、今どういう状態なのかが判るような初アナル場面(カリが通過する瞬間はキツいとか、そーゆー感じの)等が描かれるので。
という感じで、時にシリアス、時にコメディ、時にお伽噺な、多彩な魅力を味わえる一本。そしてとってもティクヴァ。満足!
ティクヴァ作品の中では、必ずしも完成度が高い方ではない気はしますが(私がディテールを拾いきれなかっただけかも知れないけど)、とにかく見ていて飽きさせないし、モノガミー至上な方とか変なモラリストでなければ、鑑賞後はハッピーな気分になれると思います。
世界のクィア・コミック・アーティストによるセクシー・トランプ発売
私も作品を提供している、世界のクィア・コミック・アーティストによるセクシー・ピンナップ・イラストレーションをフィーチャーしたトランプのカードセットが、アメリカで発売されます。5月にニューヨークで行われるLGBTQマンガ家カンファレンス、Queers & Comicsのチャリティー商品で限定品。このカンファレンスには私も参加予定。
作品を提供している作家リストは、下記の販売ページで確認可能。とりあえず私が個人的に知己があるのは、ジャスティン・ホール、岩田巌、エド・ルース、モーリス・ヴェラクープ……といったところかな?
只今こちらのページで予約受け付け中。商品の発送は3月からだそうです。
よろしかったらお買い上げくださいませ。
“Pit Stop” (2013) Yen Tan
“Pit Stop” (2013) Yen Tan
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com、日本のアマゾンでも購入可能→amazon.co.jp)
2013年のアメリカ製ゲイ映画。
テキサスの田舎町を舞台に、それぞれ人生に行き詰まった感のある、ワーキングクラスのゲイ男性二人の諸々を、詩情を湛えて静かに描いたドラマ。
テキサスの田舎町。荷物の積み卸しなどを行う肉体労働者のアーネストは、病院で昏睡状態にある元彼を見舞う日々。大工のゲイブは妻子のある身ながら、やはり妻子持ちの男性との不倫が発覚、男との関係を清算し妻とも離婚したが、娘のために妻子と同居を続けている。
アーネストは自分の家に、既に関係の冷えた若いBFを居候させているが、その彼は独立して家を出て行くとは言うものの、なかなかその気配を見せない。意識の戻らない元彼に語りかけ、愛のない同居を続けるという、その停滞した日々に、アーネストは次第に焦燥感を募らせていく。
ゲイブの元妻は、彼女に好意を寄せている職場の同僚とデートをするが、歯車がいまいち噛み合わず、元夫との過去の平穏な生活を懐かしむ。そんな彼女をゲイブは優しく受け止めるが、自分を欲しいかという彼女の問いに、イエスと答えることはできず……といった内容。
良い作品でした。
ゲイ・コミュニティやゲイ・シーンなどとはほぼ無縁の、アメリカの田舎町に暮らすゲイたちと、その周辺の人々の姿を、作為的なドラマや説明的なセリフを排して、淡々としながらも情感豊かに、そして極めて自然な空気感で描いています。
何と言う事はない日々の描写と、散りばめられた日常会話が積み上げられることで、メイン二人のみならず、その周囲の人々も含めて、それぞれが置かれた状況や、その複雑な心境が浮かびあがってくる……という構成で、なかなか見応えがあります。
ドラマとしては、とりたてて何か事件が起きるわけではないんですけど、描かれるエピソードのディテールや、感情の細やかな襞を描く描写などを見ているだけでも充分面白く、それと共に各キャラクターへの愛着や感情移入も増していくという塩梅で、ここいらへんは実に上手い。
モチーフ的には、けっこう重かったり閉塞感もある状況なんですが、全体の柔らかな雰囲気や、上手い具合に挿入される箸休め的な描写によって、作品として重くなり過ぎていないのも佳良。
アメリカものとしては珍しく、日本のゲイ状況と似た部分が多いのも興味深いポイント。
メインキャラクター二人が、どちらも三十代半ばの中年男性だというのも効果的。人生を長く過ごしている分、様々なしがらみも生じており、若い人のように全てを精算してやり直すとか、この田舎町を出て行くといった選択肢が難しいことが、若い元BFとの対比もあって、より良く浮かびあがってきます。
また、メインの二人のみならず、元BF、元妻、元妻に好意を寄せている彼女の同僚、ゲイをオープンにしていないゲイブに対して、ひょんなきっかけから接近してくる、やはりクローゼットの中年ゲイ男性……といった、周囲の人々の姿や思いなども、ちょっとしたエピソードやセリフの端々で見えてくるのも魅力的。
つまり、メインのフォーカスはアーネストとゲイブの二人ではあるけれど、彼ら同様に他の人々も皆、それぞれが大小様々な悩みや思いを抱えており、それぞれにドラマがあるという感じ。そしてメインのゲイ由来のドラマも、そんな「世の中に普通にある光景」の1つという感じ。
ちょっと情緒に流れがちな傾向はあるものの、演出や撮影のクオリティは高く、役者の演技も文句なし。作為や予定調和は排しながらも、仄かなロマンティシズムを秘めた予感で幕を引く、その後味も上々。
というわけで、丁寧に作られた良作でした。単館系の映画が好きな人にオススメできる一本だと思います。
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