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“Grimm Love (Rohtenburg)”

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“Grimm Love” (2006) Martin Weisz
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com

 2006年製作のドイツ映画。原題は”Rohtenburg”。
 ドイツで実際にあったという、双方合意のもとで男が男を食べた人肉食事件を題材にしたホラー映画。……という括りになっているけれど、実際はホラー映画を期待すると肩すかしをくらう系の、わりとマジメな映画でした。

 主人公は一応、犯罪心理学を専攻する女子学生。その女子学生が、かつて起きた、男を食べたいという欲望を持つ男性と、男に食べられたいというゲイの男が、ネットで出会って本当に事に及んだという事件に興味を持ち、それを追跡調査していくという形で、二人の生育史から始まり、その出会い、そしていざ事に及ぶまでを、再現ドラマ的に描いていきます。
 静かに淡々と、しかし緊張感を含んで描かれる再現ドラマ部は、役者さんの演技力もあって実に魅力的。カニバリズム等の描き方も、けっこう踏み込んで描きつつも露悪的ではない。

 ゲイ映画的な要素の方も、なかなかしっかり描かれています。
 被捕食オブセッションにとりつかれている「被害者」は、同性の恋人もいて幸せなのに、その恋人に自分のマゾヒスティックなオブセッションを打ち明けることは出来ず、日常的な幸福とオブセッションの間で引き裂かれて煩悶し、捕食側の「加害者」もまた、真剣に「食べられたい」と思っている男を募集したつもりが、ようやく見つかった相手は、単にSMプレイのつもりだったり。
 そんな「被害者」と「加害者」が、やがて出会い、おずおずと互いの距離を埋めて近付いていき、やがて事に及ぶ様は、一種異様なロマンティシズムというか、奇怪で猟奇的なんだけれども、しかし純愛物語のような雰囲気すら帯びてきたりして、そこいらへんは大いに魅力的で惹きこまれます。
 捕食者を演じるのは、けっこう色々な映画で見かけるトーマス・クレッチマン。私はけっこう好きな男優さん(『ゴッド・ディーバ』の主人公ニコポル、『キング・コング』の船長、『ウォンテッド』の組織を裏切った殺し屋なんかが、個人的には印象深いかな)なんですが、今回も、いわゆる類型的なサイコ野郎ではなく、ナイーブで、ある意味では優しいとも言える、しかしオブセッションに憑かれてカニバリズム殺人鬼となってしまう男を、実に繊細に演じています。
 被捕食者役のThomas Huber(トーマス・ヒューバー?)という役者さんも、捕食者に負けず劣らず内気でナイーブな男性を好演しており、この二人の「魂の共鳴」とでもいう要素がしっかり描かれているので、映画自体のクオリティや、ゲイ映画的な魅力も、グッとアップしている感じ。

 そういうわけで、事件自体を描いたパートは大いに見応えがあって良いんですが、惜しむらくは、そこにオブザーバーとして件の女学生を加えてしまったこと。
 この女学生の視点を介した結果、描かれる「再現ドラマ」は、映画という純然たるフィクションの中で描かれる「事実」ではなく、キャラクターの一人でしかない彼女の、脳内妄想でしかない可能性を含んでしまい、描かれた内容が受け手に迫ってくる力を弱めてしまっている。また、二人の男を描くパートのせっかくの緊張感も、彼女の取材を描いたパートで分断されてしまうのもマイナス。
 更に彼女の存在が、結果として「異常性に対する正常性からのエクスキューズ」としてしか機能していないのも、大いに不満。映画の終盤で彼女は、事件の実際が自分の想像を超えたおぞましいものであることに恐怖し、それを拒絶するんですが、それは正常性からのエクスキューズであると同時に、だったら何故こういうテーマで映画を撮ったのかという、動機自体への疑問点を生んでしまっている。
 その結果この映画は、事件自体を描いたパートは優れているにも関わらず、映画総体としては、単に「猟奇的な世界を好奇心で覗き見した結果、やっぱフツーの人にはついていけないよね、こんな世界」というだけの、何とも浅はかなシロモノへと堕してしまった感があり。
 ここいらへんは見る人によって評価が分かれそうですが、私的には、彼女という観察者の存在が、映画全体に対しては、ほぼ全てにおいてマイナス方向に作用している、よって不要、観察者を配したこと自体が失敗、という印象です。

 ただし、前述したように男性二人のパートに関しては、猟奇的な側面にせよゲイ的な側面にせよ、あるいはある種の猟奇的なロマンティシズムという面にしても、大いに魅力的なので、題材自体に興味がある方なら見て損はないです。ただし、扇情的なホラー味は期待しないように。米盤DVDは字幕なしでしたが、台詞は少なく難易度も低め。
 完全お邪魔虫の女子学生は……見なかったことにしよう(笑)。

 追記。
 さほど直截的な描写はなくとも、題材が題材ですから、それなりにエグいシーンもあります。個人的には(ちょいネタバレなので白文字で)、まだ意識がある状態で、全裸の被害者のペニスから食べようということになり、最初は直接歯で食いちぎろうとするんですが、上手くいかずにナイフで切り落とし……ってなあたりは、色んな意味でけっこうキました(笑)。
 猟奇/責め場系の見所に関しては、ここにちょっとスチルあり。

“Flexing with Monty”

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“Flexing with Monty” (2010) John Albo
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com

 トレヴァー・ゴダード主演、ジョン・アルボ監督による、2010年度作品…なんだけど製作開始は1994年だそうです。しかし、映画が完成する前に、主演男優が亡くなり、そしてプロデューサーも亡くなり……といったトラブルを経て、14年後の2008年にようやく完成、2010年にビデオリリース…ということらしいです。
 主演のトレヴァー・ゴダードは、『モータル・コンバット』(1995)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)などの脇に出ていたらしい、B級(多分)肉体派男優。

 主人公のモンティ(トレヴァー・ゴダード)は、身体を鍛えることに取り憑かれている30過ぎの男で、まだ10代の弟と二人暮らし。両親は子供の頃に亡くなり、兄が筋肉に取り憑かれているのと同様、弟は母親とセックスと宗教のオブセッションに憑かれている。そこに謎の尼僧が現れて、二人の関係に変化が……というのが、話の大筋なんですが……。
 実際の内容は、いかにヘンな物を見せ、キテレツな話にするか……という、トラッシュな味わいを最初から狙った感じのもので、よく言えばジョン・ウォーターズ風の味わいで、そこにジェームズ・ビッドグッド的なゲイ・テイストのキャムプ感が加味された、という感じでしょうか。
 というわけで主人公のモンティ君は、「モンティ〜!」と叫びながら、ひたすらトレーニングしていて、その合間に、自分のポージング写真を壁に投影しながら、ケツ丸出しでダッチワイフと交尾するとか、レザールックのハスラーになってホモ狩りするとか、カウボーイルックで熊の剥製と交尾するとか、もうトラッシュ一直線(笑)。
 一方の弟の方も、「珍獣」と称して鳥カゴに入った変な男を飼っていたり、セックスと宗教がゴチャマゼになった淫夢だか悪夢だかを見たりで、まあ似たり寄ったりの変態キャラ(笑)。
 そこに聖書おちょくりネタとか、オカルトや黒魔術やホラー風味なんてのが絡んでくるんですけど、これまた死んだ後にアストラル・ボディがペニスに留まって、勃起したそこがパンツ越しに動き回り、それを「成仏しろ!」と銃で撃ったり、キッチュなボディ・ペイントで黒ミサまがいのことをしながら、バスタブで死体をバラバラに切り刻んだり……と、こちらもひたすらトラッシュ一直線(笑)。

 というわけで、IMDbの評価は驚異の3.2点、amazonのユーザーレビューも星一つという具合なんですが(笑)、とりあえず、モンティことトレヴァー・ゴダードが見事なビーフケーキで、弟役もそこそこ美青年&キレイな身体だったりするので、トラッシュやヘンなもの好きのゲイだったら、けっこう楽しめるのではないかと思います。
 DVDが字幕なしで、ヒアリングオンリーの鑑賞だったもんで、ぶっちゃけ30%くらいしか内容を理解できなかったんですけど(笑)、それでもさして退屈もせず、早送りもしないで最後まで見られました(笑)。

“Boystown (Chuecatown)”

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“Boystown” (2007) Juan Flahn
(米盤DVDで鑑賞→amazon.com英盤DVDあり)

 2007年製作のスペイン産クマ系ゲイ映画。原題”Chuecatown”。
 マドリッドのゲイエリアを舞台に、連続殺人に巻き込まれたクマ系カップルを描いたコメディ・スリラー。2008年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも上映されたらしいです。

 イケてるオシャレ系ゲイの不動産屋は、実は独り暮らしの老婦人を殺害しては、空いた部屋をオシャレなゲイカップルに斡旋していた。その目的はゲイエリアを丸ごとオシャレにすること。そして主人公たちは、同エリアに住む、オシャレじゃない肉体労働&クマ系ゲイカップル。
 楽しく暮らしていた二人だが、仲良くしていた隣の老婦人が殺されてしまい、しかも老婦人が遺言で住まいをベアカブ(小熊、ベア系カップルの若い方)のレイに遺していたために、容疑者となってしまう。レイはそこに自分の母親を住まわせようとするが、パートナーのレオと母親の折り合いが悪い。
 一方イケメン不動産屋(ヴィクター)は、レイのものとなった部屋をまだ狙っていて、今度は色仕掛けでレオに近付く。レオは普段からモテ系のレイにヤキモキしており、しかも今度はレイの母親にも邪魔されるようになり、二人の仲がギクシャクしてきたこともあって、ついヴィクターになびいてしまう。
 ヴィクターは別の部屋を狙って、レイとレオの友人女性も手に掛けてしまう。レイの母親も犯人はレオだと勘違い。殺人事件を担当するのは、シングルマザーの女警視と、その部下で警視の息子で、しかも実はゲイの刑事。果たして彼らは殺人鬼を捕まえられるのか? そしてレイ&レオ二人の仲はどうなる??

 ……ってな、サスペンス・コメディ仕立ての映画で、なかなか楽しめました。テンポも悪くなく、コメディなんで早口なセリフが多く、英語字幕についていくのが大変だったりもしましたが(笑)、それでもダレたり飽きたりすることなく、スイスイ快調に見られます。
 笑いのタイプはさほど狂騒的でもないクスクス系。ゲイネタはもちろん、嫁姑劇のゲイ版とか、エロティック・サスペンスのヒロインをゴツい男に置き換えたホモ版みたいな面白さもあり。追われて逃げ込んだ先がゲイサウナとかいった、コテコテのゲイ向けサービス場面もしっかりあり(笑)。
 個人的には、オシャレ系ゲイとオシャレじゃない系ゲイの、感覚のすれ違いがけっこうツボでした(笑)。特に、オシャレ系ゲイ、ヴィクターのスノッブさは、実に「いるいる、こんなヤツ!」って感じ(笑)。で、対するオシャレじゃない系ゲイカップルのレオとレイは、実はアメコミおたくだったりして、ボールペン使ってウルヴァリンごっこしてたり、警察の取調室でもアメコミクイズに興じていたりで、これまた「判る判る!」って感じ(笑)。
 そんな組み合わせなもんだから、ヴィクターのステータスを匂わせた会話が、レオとレイに全く通じず、「あの有名な建築家のフォスター氏が」「……ジョディ・フォスター?」「違う、ノーマン」「……『サイコ』の?」なんてやり取りになっちゃうあたりは、かなり笑えました(笑)。
 役者も佳良。特にベアカブのレイは、実にかわいくて上玉。絵に描いたようなベア系のレオもマル、かなりビッチなレイの母親のキャラも楽しい。他にも、事件を担当する××恐怖症まみれの中年女刑事とか、その息子で実は隠れホモで、ストーリーの進行と共にどんどん服装とかゲイゲイしくなってっちゃう青年刑事とか、濃ゆ〜いキャラばっかりで笑わせてくれます。

 というわけで、ユーモア・ミステリーとしてのストーリーを軸にして、ゲイ向けのネタをふんだんに散りばめながら、同時にゲイ・カルチャーに対する風刺もチクチク仕込まれた、軽く楽しく見られる一本でした。全体的にゲイ映画的な閉塞感がなく、安っぽさを感じさせないのも良し。予告編で「お!」と思った方ならオススメです。
 ……ま、個人的にはとにかく、ベアカブのレイがか〜わいいんだわぁ(笑)。

“Do Começo ao Fim (From Beginning to End)”

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“Do Começo ao Fim” (2009) Aluisio Abranches
(ブラジル版Blu-rayで鑑賞/米盤DVD英盤DVDあり)

 2009年製作のブラジル映画。英題”From Beginning to End”。監督/脚本、Aluisio Abranches(アルイジオ・アブランシェス?)。
 子供の頃から仲の良かった兄と弟が、互いに抱く深い愛情はそのままに、やがて成人して同性愛関係になるという話を、叙情的に描いた作品。

 フランシスコとトマシュの兄弟は、幼い頃から大の仲良し。弟のトマシュは兄のフランシスコをヒーローのように慕い、兄は弟を親の様に庇護する関係。優しい母親や彼女の再婚相手である義父、そして実の父親といった周囲の大人たちは、二人の関係が余りにも密接すぎることに、時に微かな不安を感じたりもするが、それでも兄弟を暖かく見守る。
 やがて時は流れ、二人は立派な青年へと成長したが、母親が亡くなる。義父は、このまま愛する妻の想い出が詰まった家で暮らすのは辛いと、二人を残して家を出る。二人きりになった兄弟は、まるで来るべき時が来たかのように、ごく自然に互いの愛を確認し、肉体関係を結ぶ。
 愛し合う二人は幸せに暮らすが、そんなある日、水泳選手であるトマシュに、オリンピック出場に向けてロシアでの強化合宿の話が持ち上がる。躊躇う弟に、フランシスコは是非行くべきだと薦める。しかしそれは、今まで片時も離れたことのない二人が、3年間離ればなれになることを意味していた……という話。

 意外だったのは、兄弟という近親間での同性愛という題材を扱いながらも、そこにタブー的な要素がいっさいなく、どちらかというと、「運命的な愛」をひたすらリリカルに描いた、お伽噺のような作品だった……ということ。何と言うか、ここまで障害も波乱もないラブストーリーってのも、ちょっと珍しいような気がします。
 いちおう後半は、ブラジルとロシア、離ればなれになった兄弟の間に、会えないゆえのギクシャクが生じたりはするんですが、それでもまあ、いわば遠距離恋愛にはありがちな話というだけでしかない。加えて、周囲の人間も全員善人ばかりなので、ドロドロもしなければ痛い展開もなし。
 で、この映画、おそらくテーマは2つあって、まずは前述した様な、最初から定められ最後まで変わることのない、運命的な愛の絆。そしてもう一つは、自分の愛と自分の進む道は、自分の意志で貫き通す素晴らしさ。ここいらへんは、生後間もない弟が自分の意志で目を開けるなんていう伏線が、上手く機能しています。
 そんなこんなで、とても純粋というか、真っ直ぐで清々しく好感は持てるし、雰囲気も良いし役者さんも好演してるんですが、いかんせんドラマの弱さはカバーしきれない感じ。そのせいで、どうも全体がフワフワとした絵空事のように見えてしまい、それが逆に、テーマ自体を薄っぺらく見せてしまうのが惜しい。

 ただし、ロマンティック&ホモエロティックな、ピュアで美しい叙情詩だと割り切って見れば、見所はいたるところにあります。
 前半は可愛い子供たちが仲良くスクスクと育っていく様子を、後半は恋人同士になった二人のキャッキャウフフを、きれいな映像とロマンティックな音楽にのせて延々と見せてくれます。現実の苦みとは無縁の、ひたすらスウィートなゲイのファンタジー世界。
 特に後半は、美麗画像による清々しい青年二人のフルヌードがふんだんに出てきますし、キスやらセックスやらスカイプセックスやら、イメージの中で二人が全裸でタンゴを踊ったりとか、ゲイエロス的な目の御馳走がタップリ。ロマンティック方面も、ハーレクインかトレンディドラマかといった、こっ恥ずかしいくらいのベタ展開がタップリ。
 ただ、私のテイストから言うと、やはりもうちょい人間ドラマとしての深みが欲しい。ぶっちゃけ前半の子供時代は、映画としてもかなり引き込まれて、「お、これは!」と期待も高まる。二人の子役は実に良いし、母親役の女優さんは魅力的、他の大人たちも全員いい感じ。
 その反動もあって尚更、後半の大人になってからの展開が、ドラマ的には失速して映画的な見応えも薄れてしまい、見所はゲイの願望投影イメージビデオみたいな部分だけ……なんて印象になっちゃった感もあり。
 しかし高校時代の私……もう30年前だ(笑)……だったら、映画に男同士のキスが出てきたり、ましてやフルヌードやらゲイセックスなんてのが出てきた日にゃ、心臓が口から飛び出すくらいドキドキしたもんだけど、それが今じゃ「見所そこだけ!」なんて文句たれてるんだから、まったく良い時代になったというか、我ながら贅沢言ってんなぁ……という気も(笑)。

 そんなこんなで、題材が興味深く映像や音楽も良いだけに、ついつい「惜しい!」気分が勝ってしまいますが、期待するポイントを間違えなければ、ゲイが見てロマンティックでセクシーな気分になれる要素はテンコモリだし、同性愛に対するポジティブさという点では、この映画では既に、アイデンティティとしてのゲイという要素すら必要としていないのは、ある意味天晴れでもあります。米アマゾンのレビューも、絶賛の嵐。
 ……でもやっぱ私は、もうちょい「切なさ」みたいなスパイスが欲しい(笑)。

 余談。
 元々この映画、YouTubeで予告編を見て、「これは見たい!」とツイッターで呟いたところ、私をフォローしてくださっているブラジル人のファンの方が、「こっちでソフトが出たら、良かったら送りましょうか?」と言ってくださり、それで目出度くBlu-rayを入手できたといういきさつがあります。
 もちろん送っていただいた後は、折り返し御礼をお送りしましたが、なにせ地球の反対側、ツイッターを通じてこういうことが起きちゃうあたり、なんとも感慨深いものがありました。この場を借りて、同氏に再度御礼を……って、日本語で書いても判らないか。
Thanks again for your kindness, Mr. Metal Gear Red! 😉

“Eyes Wide Open (עיניים פקוחות / Einayim Petukhoth)”

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“Eyes Wide Open” (2009) Haim Tabakman
(アメリカ盤DVDで鑑賞→amazon.com英盤DVDあり)

 2009年製作のイスラエル映画。原題” (עיניים פקוחות / Einayim Petukhoth)”。監督はHaim Tabakman(ハイム・タバクマン?)。
 エルサレムの超正統派ユダヤ教徒のコミュニティを舞台に、既婚男性と青年の同性愛関係を描いた作品。

 主人公のアーロンは、エルサレムの超正統派ユダヤ教徒のコミュニティ内で肉屋を営む、妻子持ちの男。父親を亡くしたショックで暫く店を閉めていたが、ある日意を決して店を開け、求人の貼り紙をしたところ、余所から来た若いイェシーバー(ユダヤ教の神学校)の学生が、電話を借りたいと立ち寄る。
 その若者エズリは、友人を訪ねてエルサレムに来たのだが、その友人とコンタクトをとれない。宿と職が必要なエズリを、アーロンは雇って店の二階に住まわせ、職を与えると共に、落ち着き先の新たなイェシーバーが見つかるまで、自分がメンター(導き手)として面倒を見ることにする。
 エズリはアーロンの家庭やシナゴーグにも招かれ、次第にコミュニティに溶け込んでいくが、その一方で二人は互いに惹かれていき、やがて一線を超えて肉体関係を持つ。そんな中、エズリに関する悪い噂がコミュニティ内に流れ、やがて壁に告発文が貼られ、二人の関係が明るみに出るのだが……といった内容。

 これは大いに見応えあり。
 超正統派ユダヤ教徒のコミュニティ内の、しかも神学生とその教父の同性愛関係という、ある意味スキャンダラスな内容を、センセーショナリズムに堕すことなく、抑制された淡々とした演出でしっかりと描き、その映像の美麗さも相まって、ゲイ映画云々を超えたレベルの、アーティスティックな風格も備わっています。
 同性愛の捉え方に関しては、これはシチュエーション的に当然のごとくタブー的な存在ではあるんですが、制作者の視点がそれをタブー視しているわけではなく、また、安直なメロドラマの道具として使っているわけでもないので、いわゆる「禁断の愛のドラマ」的なものを見せられたときのような、制作側の傲慢な視点ゆえの不快感はゼロ。
 奔放な年少者と、軋轢も多い年長者という具合に、キャラクター自体の抱いている同性愛観に幅があるのも、ストーリーに膨らみを持たせているし、コミュニティによって阻害される若い男女の自由恋愛というサイドエピソードや、アーロンの家族関係といったドラマも、ストーリー全体の幅を拡げるのに貢献している。
 もう一つ、愛や人生と、信仰という二つの間の揺れや、それらに関する問いかけなども、ストーリー的なテーマの一つだと思うんですが、こちらは残念ながら私の英語力不足と、ユダヤ教に関する基本的な知識不足もあって、かなりアレコレ拾い損ねた要素が多々ある感じ。
 全体のムードは極めて静かで、特に映像的に斬新さを感じるタイプの作品ではありませんが、その静かなトーンと寒色系の落ち着いた映像が実に印象的。

 役者さんは、まず年長のアーロンを演じているZohar Shtrauss(ゾハール・シュトラウス、日本公開作では『レバノン』に出演)が見事。魅力的な異邦人によって、今までとは異なる自分に目覚めていき、それが人生そのものにも影響していくという、いわば『テオレマ』タイプのストーリーなんですが、そういった感情の揺れ動きを、抑えた演技で実に説得力豊かに演じてていて、その抑制ゆえに瞬間迸る激情が尚更効果的に。
 立ち位置的には「誘惑者」となる、年少のエズリを演じるRan Danker(ラン・ダンカー?)も、いわゆる耽美系の誘惑者のような退廃味ではなく、ある意味無邪気とも言える真っ直ぐな好青年を好演。超正統派ユダヤ教徒なので、髪形や服装などが一般的な視点から見れば奇異なものであるにも関わらず、男性として完成された立派な肉体と、どこか少年の気配を残したナイーブさのあるハンサムぶりが、実に魅力的。

 ゲイ映画としても、そういったジャンルフィクション的な限定抜きの一般的な映画としても、どちらも大いに見応えがあり、クオリティも高く、静謐な力強さが感じられる作品。
 結末が観客に解釈を委ねるタイプなので、ストーリー的なオチを求める人には向かないかもしれませんが、モチーフに興味のある方はもちろん、単館系の映画好きならオススメできる一本だと思います。

 この予告編は、映画自体の印象よりもかなり扇情的な感じなので、御参考までに本編からのクリップも貼っておきます。
 こんな感じで、全体の雰囲気は実に静か。

ジャック・スナイマン、ラグビー選手でカウンターテナー

 南アフリカのラグビー選手で、マッチョ系モデルで、しかもカウンターテナーでもあるジャック・スナイマン(Jacques Snyman)という人が、イジメなどで自殺してしまうLGBTの青少年に向けて「それは一時期のことだよ、そのうち状況は良くなるから頑張って!」と応援する “It Gets Better” プロジェクト(このプロジェクトの詳細はこちら)の一環として、この夏コンサート・ツアーをするそうな。

 もう何と言うか……何から何まで「ステキだ!」としか言いようがないお方であります。
 ブラボー!!!
 

タトゥー

 先日、偶然二件連続で、私の絵をタトゥーで入れているファンから、彼らの写真をいただいたので、ご紹介。どちらもアメリカ人です。

 まず『外道の家』の寅蔵を入れているジム。
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 彼は事前に「タトゥーを入れたいんですけど、いいですか?」と問い合わせをくれて、「もちろんオッケーだよ!」と返事したら、数日後に「できました!」と写真を送ってきてくれたという早業でした(笑)。
 彫りたてらしく、まだ周囲の皮膚が赤くなっているし、撮影場所も背景から想像するにタトゥー・スタジオっぽいですね。

 もう一つは、元々は「さぶ」誌に描いた小説の扉絵で、フランスでエスタンプが発売されたり、イタリア版単行本の表紙とかにも使われた、海外ではやけに人気がある『忠褌』というイラストを入れたデヴィン。
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 彼は、「ゴメンナサイ、実は黙って勝手に入れちゃってたんですけど……」と言ってきたので、ひょっとしたら上のジムとのやりとりを、どっかで聞きつけたのかしらん、なんて想像したり(笑)。
「この絵に一目惚れして、もう矢も楯もたまらず入れちゃって……」とのことだったので、「ぜんぜんオッケーだから、良かったら写真見せて!」と返事したら、喜んで送ってきてくれました。

 こういった例は、厳密には「自分の絵」というものとは違うとは思いつつ、それでも自分の絵に惚れ込まれて、それをタトゥーで入れたいと思っていただけるのは、絵描きとしては何とも光栄というか、嬉しい気持ちになりますね。
 あ、因みにお二方とも、「写真をブログに載せるけど、いい?」と、ちゃんと確認はとってあります。

企画展「パゾリーニ・オマージュ【ピエル・パオロ・パゾリーニに捧ぐ】」のご案内

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 明日3月7日から、銀座のヴァニラ画廊でスタートする企画展、パゾリーニ・オマージュ【ピエル・パオロ・パゾリーニに捧ぐ】に、私も参加して、新作1点・旧作2点を出品いたします。
 展覧会の詳細等はまとめて後述しますが、出品作家は先月の『幽霊画廊』に引き続き豪華面子です。ゲイ・アート系からも、稲垣征次さんと奥津直道さんが参加。

 映画監督としてのパゾリーニは、マイ・フェイバリットの一人なので、お話をいただいた際は「ぜひ!」と一も二もなく飛びついたんですが、後々になってから、パゾリーニ作品に私が感じる「好きポイント」と、私自身の作風および方向性の接点を見つけることが、事前に想像していた以上に難しく、オマージュ作を描くのもなかなか難儀しました。
 とはいえ最終的には、上手いこと自分の着地点を見つけることができた感じです。
 左上の図版がその部分なんですが、自分としては「納得!」の作品になったつもりではあるものの、ご覧くださる方にはどんなものか……「これのどこがパゾリーニじゃ!」と思われてしまうかも知れません(笑)。
 旧作2点に関しましては、パゾリーニと直接関係のある作品ではありませんが、画廊様からのご依頼もあり、併せて出品させていただくことにしました。
 いちおう、去年の個展では出さなかった作品の中から、新作とのバランスを踏まえ、同時に「……え〜、何となくパゾリーニ?」な作品を選んだつもりでゴザイマス(笑)。
 というわけで、お忙しい折とは思いますが、もしお時間がございましたら、ぜひ足をお運びいただければと思います。

パゾリーニ・オマージュ【ピエル・パオロ・パゾリーニに捧ぐ】
会場:ヴァニラ画廊(銀座)
   〒104-0061 東京都中央区銀座 6-10-10第2蒲田ビル4階
   TEL 03-5568-1233
   http://www.vanilla-gallery.com/
会期:3月7日(月)〜3月19日(土)
営業時間:平日 12時〜 19時
     土曜・祝日 12時〜 17時
     日曜休廊
入場料:500円
参加作家:稲垣征次
     宇野亜喜良
     奥津直道
     加瀬世市
     かふお
     カネオヤサチコ
     キジメッカ
     熊谷蘭治
     田亀源五郎
     照沼ファリーザ
     林良文
     宮西計三
     森栄喜
     (五十音順・敬称略)

イタリアの映画監督・詩人・小説家のピエル・パオロ・パゾリーニ(1922-1975年)。彼の荒々しいヴァイオレンス的要素と、過激なエロティシズム表現に政治的ラジカリズムを注入した芸術創作活動と生き方は、圧倒的なカリスマ性から死後35年が経った現在でも、人々の心を捉え続けています。映画監督として、性と政治、神聖と汚穢の両極を往復する映像美とスキャンダルで1960年代のアートシーンに大きな衝撃を与えたことはよく知られておりますが、アルベルト・モラヴィアに「今世紀後半のイタリアにおける最大の詩人」と賛辞された優れた詩人でもありました。そのパゾリーニへのオマージュを個性豊かな13名の作家が表現致します。パゾリーニに捧ぐ、ロマンティックでスキャンダラスなオマージュ展をどうぞお楽しみ下さい。

ゲイ受け動画クリップ3連発

 カイリー・ミノーグの歌を、せくしぃなオトコノコたちがリップシンク。
 これはいいな〜、萌える。
 有名ゲイビ男優さんとかも混じっているらしいですが、個人的には、歌い出しでアップになる猿顔のコと、ヤケにクネクネ踊るラテン系のオネエサンが、特にカワイくてお気に入り(笑)。

 筋肉質な露出ボディにユニセックスなダンスがエロかったので、興味を持ってググってみたら、このKazaky、何とウクライナのグループだってんでチョ〜びっくり!
 ダンサー/コレオグラファーがリーダーのユニットらしんだけど、男のハイヒールという新しい属性(笑)に目覚めてしまいそうなカッコよさです。

 パロディCMらしいんだけど、それにしても目を疑った(笑)。
 太ったヒゲモジャの熊おじさんが全裸で××から××を噴出させてますので、苦手な人は要注意!
 ……でも萌える人はすごく萌えるはず(笑)。

本日より大阪distaにて企画展「HOW TO SEX」スタートです

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 来る10月10日、エイズの予防啓発と陽性者への支援・共生、そしてコミュニティの活性化をテーマとしたお祭り型複合イベント、「PLuS+ FINAL~for the next challenge~」が、大阪で開催されます。
 そして本日10月1日から、その関連イベントとして、大阪のコミュニティスペース「dista」にて、総勢26名の作家たちによるエロティック・アートを展示する一大企画展、「HOW TO SEX」がスタートします。
 とりあえずは展覧会の主旨から(以下プレスリリースからの引用となります)。

会期:2010年10月1日(金)~10月18日(月)
※当日を除く10月1日(金)~10月18日(月)は、17:00~23:00(火曜休み)。
土曜日のカフェイベント開催時は翌朝5時までオープン。
~PLuS+ FINALを飾る特別企画展覧会『HOW TO SEX』~
スペシャルゲストにMULM(ムルム)やADON(アドン)で活躍した倉本彪氏を迎え、総勢26名の作家たちによる大ポルノグラフィカ展がdista-Galleryにて開催。21世紀のエロティックアートをも予言する本展覧会に、どうぞご期待ください!!
出展作家:
倉本彪/田亀源五郎/奥津直道/大黒堂ミロ/
ヴィヴィアン佐藤/市川和秀/松崎司/野原くろ/児雷也/
ハスラーアキラ/moriuo/ロボ美/オナンスペルマーメイド/
龍谷尚樹/犬飼隷二/タカサキケイイチ/関根しりもち/
MASA/サクライケンジ/ノリスケ/TORU/JIRO/犬義/
四聖鰆/悠次郎/tyob
―エロティシズムの境界線は、
付加価値で創られたもの故に非常に曖昧である―
しかしながら、その曖昧さゆえに浮遊し続けるエロティシズムの魔力は、古今東西、ジェンダーやセクシュアリティをものともせず、人々を魅了してやまない。
どれだけ大層なお題目を並べようと、どれだけ高尚な大義名分で飾りたてようと、所詮その根核は卑猥と猥褻と不道徳で出来ている。そこから目をそむけては、エロティシズムの本質に辿り着くことなど到底出来ないのだ。
今ここに、ゲイコマーシャルアートを中心に身を置き、国内外で活躍する26名の作家の同意のもと、PLuS+ FINALに多大なる華を添えるであろう本展覧会が開催される運びとなった。気鋭の作家陣が“淫靡と官能”を最大限にクローズアップし、全霊をかけて描き下ろしたその作品群からは、エロスの海で溺れることの素晴らしさや、いかに卑猥/猥褻が見る者に豊饒の喜びをもたらすものであるかを、改めて私たちに知らしめ教えてくれるに違いない。
大いなる期待を込めて、そして静かに、エロティシズムが持つ夢幻の力を信じて待っていようと思う。
Curator:シモーヌ深雪

 で、この展覧会、私もこのために描きおろした新作で参加しております。
 左上の画像が、その一部分。下の方はイロイロとアレなことになっておりまして、どのくらいアレかというと、和紙に大判でプリントしようと業者さんに依頼したんですが、拒否られちゃったくらいで(笑)。結局自宅のプリンターで可能な範囲内での大判プリントにしましたが、画材用紙に顔料インクでプリントしたので、なかなか良い感じに仕上がったと思います。
 というわけで、錚々たる面子による錚々たる規模の展覧会、こんなチャンスはそうそうないので、皆様、お時間をお繰り合わせの上、ぜひご来場下さいませ。
 会場への行き方など、より詳しい情報は、distaのイベントページでご確認を。
 また「PLuS+ FINAL~for the next challenge~」の方でも、今回私、及ばずながらパンフレット等への応援メッセージを寄せさせていただきました。
 イベントの詳細については、PLus+ FINALのサイトでご確認を。私のメッセージは、上部メニューバーの「メッセージ」から読むことができます。