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アメリカの「野郎系パルプ雑誌」のカバー画集2種

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“It’s A Man’s World” A Feral House Book (ISBN 0-922915-81-4)
“Men’s Adventure Magazines” Taschen (ISBN 3-8228-2515-4)
 ここんところ立て続けに、個人的に大好きな昔のアメリカのパルプ雑誌の表紙絵の、それも「実録男性誌」系の表紙絵を集めた画集が、二冊続けて出版されたのでご紹介。

 このテのイラストの、基本は二つ。
 まず、バイオレンス経由のマッチョイズム賛美系。これは、逞しくもむさ苦しい、いわゆるゲイ業界用語(笑)で言うところの「野郎臭い」男が、敵と闘い苦境に陥っている、とゆーパターン。その敵もいろいろで、大西部でネイティブ・アメリカンや無法者と戦ったり、またある時は大自然の中で猛獣や毒虫と戦ったり、更には第二次世界大戦でナチと戦ったり。
 で、逞しい半裸の男たちが、猛獣や猛禽に肉を引き裂かれていたり、南洋の秘境で生贄にされそうになっていたり、捕虜収容所で鞭打たれていたりする光景が、コテコテのアメリカン・リアリズムで描かれる。いや〜、ここいらへんは私的に実にオイシイ(笑)。
 もう一つのパターンは、ズバリSEX&SMで、下着姿の美女が絶叫してるヤツ。これは圧倒的にナチものが多くて、縛り鞭打ちは当たり前。火責め水責め氷責め、生体実験に電気ショック、あげくは溶鉱炉で金の彫像にされたり、壁の中に塗り込められたり。ま、よーするに「ナチ女囚もの映画」のイラスト版。ダイアン・ソーンのファンなら必見(笑)。
 ナチ以外にも、カストロ風の軍服男たちに拷問される美女とか、ヘルスエンジェルスやチャールズ・マンソンみたいなバイカーやヒッピー系に捕まった美女とか、日本軍に襲われるゲイシャガールなんて絵もあり。

 で、そーゆーのを見ていると、「敵」にもインフレや時代の変遷があるようで。
 たとえば大自然アドベンチャー系だと、闘う相手がオオカミやらライオンやらサメやらなら納得もいくんですが、イタチやらセンザンコウやらイグアナやらヤシガニやらを相手に闘っているのを見ると……いや、本当はそーゆーのも危険なのかも知れませんが、絵面的には野郎どもが必死の形相だけに、どーにもマヌケ。まあ、そーゆー「ヘン」さも愛おしいけど(笑)。
 相手が人間になると、これはその時代の「仮想敵」なんでしょうなぁ。前述のナチスやカストロや日本軍の他にも、毛沢東や旧ソ連、クメール・ルージュとかが登場。現在だったら何になるか、これはもう火を見るより明らかで、こういった要素はPCにうるさい人なら、眉をひそめること間違いなし。これも一種のお国柄なのか、それとも人類の持つ普遍的な本質なのか。
 そういや、個人的な話ですが、以前アメリカでゲイSM関係の人と面談したときに、先方から「日本人の残酷性について」話題を振られたことがあり、そのときは「ああ、これも黄禍思想の根深さか」なんて思いましたが、案外こういったパルプ雑誌が、直接的なルーツなのかも。
 表紙に踊るコピーの数々も面白い。
 前述のような野郎野郎した絵や、「悪魔の大蛇との死闘!」とか「俺は地獄の収容所から生還した!」なんていう勇ましいコピーと一緒に、必ず「浮気妻のセックス・ライフ」やら「スクープ! 日本のヌード・マーケット」なんてコピーが(笑)。
 他にも「殺人豚に生きながら喰われる!」とか「俺はセイロンで吸血ヒルと闘った!」とか「人喰いカニが這い寄ってくる!」とか「人喰いネズミの島!」とか、いったいどーゆー記事なのか読んでみたくなるし(笑)。あ、でも前に『風俗奇譚』か何かで、これ系のイラストが載ったや記事を読んだっけ。あれはきっと、このテの雑誌から転載したんだろーな。なーんだ、しっかり読んでたんじゃん、自分(笑)。

 しかしこーやって「野郎ども危機一髪!」みたいな絵を続けざまに見せられると、「こいつらマゾなんじゃないか?」な〜んて思いも頭をよぎる。
 ただこれは、マゾはマゾでも自分を卑しめることに陶酔するマゾではなく、苦難に耐えるカッコイイ自分に酔うという、ナルシシズムとヒロイズムの混じったマゾですな。結局のところ彼らは、こうやって苦境に耐えることで、自らの男性性を再確認しているに過ぎない。これはあくまでも、彼らの思うところの「本物の男」になるためのイニシエーションであって、そこに屈辱や服従の甘美さといったマゾ的な感情はない。彼らが何かと半裸であるのも、肉体美の誇示による男性性の強調でしょう。ビーフケーキの類ですな。つまり、この野郎どもの受難の果ては、あくまでも「英雄として生還」するか「英雄として殉死」するのであって、決して「奴隷の悦びに目覚め」たりはしない。
 で、現実ではこーゆー男ってのは概してホモフォビックなもんですが、じっさい内容紹介で「君のホモ的傾向は?」とか「俺はホモだった!」なんてのがある。彼らが自分をホモセクシュアル、すなわち「彼らが考えるところの、本物の男ではない男」だと、周囲から思われることへの警戒心が強いことが、ここいらへんから伺われます。
 こういうタイプは、現実に身近にいると鬱陶しいし厄介な存在ですが、マイSM的には実にオイシイ被虐者。そーゆー男が、その盲信ゆえの苦難に陥り、抵抗空しく男の矜持を徐々に打ち砕かれていく……ってのが、私の大好きなパターン(笑)。つまり、これらの絵と私のマンガは、方法論的には極めて近しいんですな。ただ、辿り着くべきゴールが違うってだけで。
 また実際のところ、マッチョイズム云々を抜きにしても、図像表現的には立派にノンケの男マゾものとして通用するイラストも少なくない。船乗りが女護ヶ島で縛られて生贄にされそうになっていたり、捕虜が収容所で美人看守から鞭打たれていたり。ハーケンクロイツの烙印を押されていたり、タトゥーの入った生皮を剥がれてランプシェードにされそうになっているなんてゆー、まんまイルゼ・コッホみたいな図もある。
 個人的に特に秀逸だと思ったのは、これは”Men’s Adventure Magazines”の方に載っていたんですが、収容所で男の捕虜二人が、二人の女性兵士に人間馬として騎乗され、鞭打たれながらレースだか騎馬戦だかを競わされているヤツ。ノンケの馬系のマゾ男さんには、ぜひ見ていただきたい逸品。で、これ実は加虐者側が日本軍なんで、私的にはそこいらへんも逆ヤプーみたいで面白さ倍増。

 画集としては、どちらも様々なカバーアートを、フルカラーでたっぷりと見せてくれます。嬉しいことに、どちらも表紙からの複写だけではなく、現存している原画から新たに分解した図版も少なからずあり。リアリズム的に上手い画家が多いので、こうした画質の劣化のない図版の数々は、大いに見応えがあります。上半身裸の兵士が、雄叫びを上げながら銃剣構えて突進してる絵なんて、もう男絵的にすこぶるカッコ良くって、このまま額に入れて飾りたいくらい。
 二冊で重複する表紙絵も多いので、どちらか一冊と言われたら、ページ数や収録図版の数で勝っている”Men’s Adventure Magazines”の方がオススメかな? 版元のTaschenは、日本支社もあるから店頭で見かける機会も多いかも。Taschenのサイトで、ちょっとだけ内容見本も見れます。ただ、ここで見れるサンプルには、私的にオイシイ図版は全く入っていないんだけどね(笑)。
 原画からの図版に関しては(おそらく)ダブりはないので、マニアや好き者だったらぜひ二冊とも揃えたいところ。値段は、”It’s A Man’s World”が$29.95、”Men’s Adventure Magazines”が$39.99と、後者の方が分厚い分10ドルほど高価。造本や印刷クオリティは、どちらも負けず劣らずの高レベル。
 二冊とも、お好きな方には自信を持ってオススメできる画集ですぞ!
“It’s a Man’s World” (amazon.co.jp)
“Men’s Adventure Magazines” (amazon.co.jp)

“Retro Stud”

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“Retro Stud” David Chapman
ここんとこ、続けざまにソード&サンダル映画について書いていたら、タイミング良くこんな本を入手。
副題に Muscle Movie Posters from Around the World とあるように、50’s〜70’sのソード&サンダル(+マッスル)映画のポスターをコレクションした画集です。いや〜ン、欲しかったのよ、こんな本(笑)。
版型は約22×21センチでハードカバー。およそ130ページ弱、フルカラーで、スティーブ・リーブス、ゴードン・スコット、レジ・パーク、マーク・フォレスト、ブラッド・ハリス、アラン・スティール、カーク・モリス、ダン・ヴァディス、ゴードン・ミッチェル、etc、etcの主演映画ポスター画像が、これでもか、これでもかってなくらいに収録されております。
もう、どのページめくっても半裸のマッチョばっかりで、皆さん顔を顰めて歯ァ剥いて、鎖をブン廻したり、人や巨石を持ち上げたり、縛られて悶えたり、スパイクの生えた石壁に押し潰されそうで危機一髪だったり……ああ、暑苦しい(笑)。
Around the World と銘打つだけあって、アメリカ、イタリア、フランスあたりはモチロンのこと、ベルギー、スペイン、メキシコはおろか、トルコのポスターまで収録されているのにはビックリ。
見比べると、いろいろお国柄があって面白いです。イタリアは筋肉描写にリキが入っているのが多く、流石にルネッサンスのお膝元ってカンジだし、フランスは変に色が鮮やかだったり筋肉がアッサリだったりして、ロココか印象派ってカンジ(ホントかよ)。トルコのポスターは、なんかキッチュでかわいいなぁ(笑)。日本のポスターがないのは残念。
印刷・造本等のクォリティはおおむね良好ですが、アップの図版の中には、デジタル製版でモアレを回避する際の弊害なのか、微妙な色ムラや粒状感といったノイズが出ているのものがあるのは残念。
あと、図版の収録数が多い反面、どうしてもサイズが小さくなってしまうものもあり、これは仕方ないこととはいえ、でもやっぱり全部でっかいサイズで見たかった……ってのは、ワガママなファン心理か(笑)。
“Retro Stud” (amazon.co.jp)