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つれづれ

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 いよいよ今週末発売になる、新しいマンガ単行本『髭と肉体』ですが、ぼちぼちネットショップとかで、予約可能になっているようです。
 当然のことながら、だいぶ前に無事全て校了済みなので、あとは本が届くのを待つばかり。
 詳しい内容紹介(を兼ねた宣伝)とかは、それから改めてアップしますが、せっかくなので今回は予告を兼ねて、校正紙の画像なんぞを初公開。こんな感じの校正紙の山に、編集さんと協力してそれぞれ赤を入れて、マズい部分を直していくわけであります。
 以前、アクリル絵の具とかで描いたカラーイラストを、原画やポジでアナログ入稿していた頃は、色校正の段階で色調が極端に転んだ(赤味とか黄味とかが、色調がヘンに強く出たり偏ったりすること)りして、「アカ版洗う(マゼンタ版を文字通り「洗って」網点を小さくする=赤味を抑えるということ)」とか、「シアン盛る(印刷時にシアンインクを多めに盛る=青味を強めるということ)」なんていう、今から思うとビックリするくらいアナログな指示入れて戻したりして、それでも直らなくて出来上がりに泣いたりしましたが、デジタル入稿にしてからは、そうそうビックリするような色調の転びとかはなくなったので、それはホントにありがたい。
 というわけで、今回の単行本のカラーも、とってもキレイに出していただきました。

 さて、単行本作業も終わり、雑誌用の原稿もアップしたところで、新規のクライアント(一般系)さんと、近所の茶店で初顔合わせ&打ち合わせしてきました。
 一般系の編集さんとお会いするときは、自分が日頃あまり馴染みのない業界事情とか、大物マンガ家先生の逸話なんかをお聞きできるのが楽しみなんですが、今回もまた、昔から好きだった大物先生の話を聞けて、喜びつつも逸話の破天荒さに目が点。
 どんなお仕事かは、時期が来たときに、また改めてお知らせします。

 その帰り道、本屋に寄って何冊か購入。
 帰宅後、さてどれから読もうかと楽しみに袋を開いたら、買ったのはほとんど資料用のものばかりで、趣味的な本は雑誌『芸術新潮』1冊だけだったことに改めて気付き、ちょいガックリ。
 その『芸術新潮』で、現在パリで「ターザン展」をやっていると知り、うが〜、見に行きたいと地団駄。
 アテネで新装オープンしたという、新アクロポリス博物館にも行きたいなぁ。しかし、パルテノンの破風彫刻、い〜かげんギリシャに返せよな、大英博物館。
 因みに、同じくアテネの国立考古学博物館にある、アルテミシオンのポセイドン像は、私のフェイバリット彫塑作品の一つなので、アテネに行ったとき(これまで3回行ってます)には、かならず「会って」きます(笑)。
 来週から始まるという、「和田三造展」の広告も載っていて、これも行きたいんだけど、う〜ん、姫路市立美術館かぁ……遠いなぁ。因みに和田三造ってのは、ホモならみんな教科書で目が釘付けになったはず(笑)の、あの『南風』の作者です。まあ、『南風』だけ見るんだったら、いつもは上野の国立近代美術館にあるから、東京在住の私には気軽に行けるわけで、そう考えると、姫路が遠いとかヌカしてるのは、ただのゼイタクってもんですね。
 そういえば、昔、晩三吉先生と御一緒して上野に美術展を見に行ったとき、同美術館のミュージアム・ショップで、晩先生がこの『南風』のポストカードを何枚も購入なさっていましたっけ。「そっち系の知り合いに手紙を出すときに使うから、いつも一定枚数ストックしている」んだそうで、それを伺って、「ああ、そーゆーのも粋でいいなぁ」、なんて思ったことを覚えています。

 アート&海外絡みでは、いつものパリのギャラリーから、今度やる企画展用に出品して欲しいとの打診あり。ちょうど条件に合う作品も見つかりそうなので、前向きに検討すると返事。

 もう一件、イギリスから、こっちは出版物用に作品提供の依頼あり。協力すること自体はやぶさかではないんだけど、条件的に合うものがあるかどうか、ちょい微妙なところなので、摺り合わせが必要な感じ。

 海外ネタで、もう一つ。
 前に一度お会いしたことがある、シンガポールのカメラマン、ワイ・テイク氏から、「今年のミスター・シンガポール・ボディビル大会で、85kg級のチャンピオンになったよ」と、YouTubeのアドレス付きでメールがきたので、せっかくだからご紹介。

 こういうバキバキの彼も、もちろんカッコイイんだけど、何てったってご本人がチョーいい男(←もちろん右側の人ですよ)なので、私としては、ご本人が「ちょっとたるんだ」と嫌がるオフのときの方が、やっぱりステキに見えるなぁ(笑)。
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 まあ、そもそも私は、コンテスト時のパンパンに膨らんだボディビルダーの身体は、ちょっと趣味から外れる部分もありまして。彼と会ったときも、彼が「何でもっと血管を描かないんだ」と聞くから、「ボディビルダーの血管って、何だかキャベツみたいで、あんまりセクシーじゃないから」と答えたら、はたかれそうになりました(笑)。

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 映画は、DVDで『ガンマン大連合』を鑑賞。
 ひゃ〜、チョー面白かった! 燃えるわ、泣けるわ、考えさせられるわ。
 マカロニ・ウェスタンには疎い私は、セルジオ・コルブッチの映画って、ソード&サンダルの『逆襲!大平原』と『闘将スパルタカス』くらいしか見たことなくて、この映画も、フランコ・ネロとトーマス・ミリアンが見られりゃ、それでいいか、ってな軽い気持ちだったんですが……しまったなぁ、こんな面白いヤツ見ちゃうと、ハマってしまいそうだ(笑)。とりあえず、『続・荒野の用心棒』と『殺しが静かにやってくる』にトライかなぁ。
 で、前にブログでも「脱ぎっぷりも責められっぷりもいい」と書いたトーマス・ミリアンですが、やっぱこの映画でも「脱いで責められる」のね(笑)。
 あと、主題歌がチョーかっこよかったので、観賞後は即座にサントラ盤を注文。その主題歌が聴けるイタリア版予告編が、YouTubeにあったので、それも下に貼っときましょう。

 この「♪ヴァモサマタ〜、ヴァモサマタ〜、コンパニェ〜ロ〜!」ってフレーズ(「殺っちまおうぜ、同志!」って意味だそうな)、サイコーです。
 いいかげん長くなったので、最近聴いている他のCDに関しては、また後日まとめて。

Rainbow Arts 2009

 ご案内をいただいたので、ご紹介します。
 毎年恒例のLGBTのアーティストたちによるグループ展、Rainbow Artsが、本日25日より新宿で始まります。今年で早くも10回目の開催になるそうです。
 お近くにおいでの際は、ぜひお立ち寄りください。
Rainbow Arts 10th Exhibition 2009
日時:2009年7月25日(土)〜8月1日(土)
   7月25日(土) 16:00〜20:00(オープニングパーティー)
   26日(日)〜31日(金) 10:00〜20:00
   8月1日(日) 10:00〜17:00(クロージングパーティー)
会場:全労済ホール スペース・ゼロ(新宿区)
   〒151-0053
   東京都渋谷区代々木2-12-10全労済会館B1
  (TEL 03-3375-8741)
入場料:無料
http://www.rainbowarts.info/

ちょっと宣伝、イギリスで出版された世界のエロティック・コミックスの本

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“Erotic Comics: vol. 2: From the 1970s to the Present Day” Tim Pilcher
 去年、イギリスのジャーナリストだというティム・ピルチャーから取材を受けたんですが、それが無事に出版されたということで、謹呈本が届きました。
 う〜ん、これも1月には出ていたものが、送られてきたのは半年遅れ……まあ、ちゃんと送ってきただけマシか(笑)。
「エロティック・コミックス グラフィック・ヒストリー vol.2 70年代から現在まで」という本で、版元はILEXというイギリスの出版社。デジタル・ペイントのHOW TO本やDTPなどの素材集、ポップ・カルチャーのアート・ブックなんかを出している会社のようで、カタログにはタトゥーのクリップアート集(CD-ROM付き)なんてのもあって、これはちょっと欲しいかも(笑)。ってか、表紙の男が好み(笑)。

 で、この「エロティック・コミックス vol.2」は、ポップ・カルチャーのガイド的なアート・ブックです。
 内容は、「USAのポルノ」「ゲイ&レスビアン・コミックス」「ヨーロピアン・エロティック」「乳首と触手:日本の実験」「オンライン・コミックス」という五つの章に分かれており、私の作品は「日本の実験」の章に数点掲載されています。
 英語のコミックスを中心に、それにヨーロッパの作家などを加えた、全ページフルカラー、大きな図版をふんだんに使って、様々なエロティック・コミックを紹介する内容。
 収録作家は、私も知ってるメジャーどころだと、まず序文からしてアラン・ムーアだったりします。因みに、著者のピルチャー氏とやりとりしていたとき、ちょうどその話が決まって、大コーフンしてるメールを貰ったのを、良く覚えてます(笑)。
 ロバート・クラムも載ってますし、アラン・ムーア&メリンダ・ゲビーの『Lost Girls』、サイモン・ビズレーの描いたエロ絵なんてのもある。
 エロティック・コミックの大御所では、私が勝手に「お尻の神様」と呼んでいる、イタリアのパオロ・セルピエリ。とにかく、女性のお尻を描かせれば天下一品なアーティストなんですが、実は男の肉体やチ○コも激ウマで、嬉しいことにアナル・ファックされている男の絵なんてのも描いてくれるので、私も二冊ほど画集やコミック本を所有しています。
 ゲイ系では、トム・オブ・フィンランド、パトリック・フィリオン、ラルフ・コーニッヒ、ハワード・クルーズ、雑誌『Gay Comix』や『Meatmen』の作家たち、などなど。レスビアン・コミックスが幾つか見られたのも収穫。
 他にも、個人的に気に入ったものを幾つか列挙しますと、『ロケッティア』のデイブ・スティーブンスが描くベティ・ペイジや、マーヴェルものとかを手掛けているフランク・チョーのエロティック・コミックスは、流石の洗練された描線が魅力。
『Cherry』や『Omaha, the Cat Dancer』といった、カートゥーン系のエロティック・コミックスも、日本では見られないタイプなので、なかなか新鮮。特に、デフォルメはカートゥーン系なんだけど、塗りがコテコテなので何とも言えない「濃さ」がある、『SQP』という70年代の本なんて、実にヨロシイ。
 日本の肉弾エロ劇画みたいな画風の『Faust』や、表紙デザインもカッコよければ中の絵もカッコいい『Black Kiss』は、入手可能なんだったら、ぜひ本を買いたいところ。他にも、アメリカのオルタナティブ・コミックとかイギリスのアンダーグラウンド・コミックとか、面白い絵が多々あります。
 ただ、日本に関しての章は、正直、ちょっとアレだな〜、と思う部分アリ。それに関しては、まとめて後述します。

 版形は、LPジャケット・サイズのハードカバー。ページ数は190ページ強。前述したように、全ページフルカラーで、紙質や印刷も上等。
 幸い、日本のアマゾンで購入可能です。ポップ・カルチャー、エロティック・カルチャー、サブカルチャーなんかに興味のある方だったら、問答無用に楽しめるはずなので、そういう方にはオススメです。私の絵も、無修正でドカ〜ンと載ってますんで(笑)。
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“Erotic Comics: vol. 2: From the 1970s to the Present Day”(amazon.co.jp)
表紙違いのアメリカ版もあるみたい。
 先日紹介した、『エロスの原風景』と御一緒に、いかがでしょう?

 では、前述した、ちょっとアレな日本に関する章について。
 まず気になったのは、私の絵は「SHONEN-AI」と「YAOI」の章で使われていていて、それ自体、ちょっとどうよと思うんですが、更に困ったことに、この二つの章に掲載されている図版が、私の絵以外は「小説June」の表紙画像だけ。
 ただ、これに関しては、筆者のピルチャー氏が、やおいとゲイを混同している、というわけではなかったりします。
 じっさいテキストを読むと、例えば「SHONEN-AI」の章では、SHONEN-AIというジャンルは少女マンガのフォーマット内のもので、竹宮惠子の『風と木の詩』に端を発し、青池保子の『エロイカより愛をこめて』や吉田秋生の『BANANA FISH』が生まれたが、今日ではその言葉は既に廃れており、Boy’s Loveという言葉にとってかわられた、と説明したうえで、そのBoy’s Loveには、かつてのSHONEN-AIの要素が含まれるが、ロマンスだけではなくセックスの要素も含まれており、それがYAOIである、などと続けられる。
 そして、次の「YAOI」の章では、こちらもまたBoy’s LoveあるいはBLの源流を、雑誌「June」のmale/male “tanbi” romanceとして、それが「ヤマなし、オチなし、イミなし」の同人誌文化との相互作用を経て、「性的にも直截的なホモセクシュアル・ストーリー」という、現在の形になったとしているので、こうした説明は、決して間違っていないと思う。
 また、私の図版についているキャプションを見ると、私がカバー絵を描いたアンソロジー『爆男』を、ちゃんと「ゲイ・コミック」と明示しているし、拙作『雄心〜ウィルトゥース』を、「ゲイ・コミックとやおいコミックの中間に位置するもの」と解説しているので、これまた正確(ま、これは私本人に取材しているんだから、当たり前なんだけど)。
 一方、やおい寄りの視点からも、本文中には、「ボーイズラブのマーケットは女性や少女をターゲットにしているが、一部のゲイやバイセクシュアルの男性にも読まれている」とした上で、「こだか和麻のような日本のBLマンガ家たちは、西洋の読者に自分たちの作品を説明する際、ゲイではなくやおいなのだと、慎重に区別している」と書いてある。
 というわけで、テキストをちゃんと読めば、筆者はちゃんと、ゲイマンガとやおいマンガを、混同していないということが判るんですけど、でも、だからといって、この二章の図版が、ほぼ私の絵だけだってのは……誤解も生みそうだし、私自身、居心地が悪い(笑)。
 私のところにきた取材も、ゲイマンガ家としてでしたし、質問内容もそういうものだったんですけどねぇ……。
 やおいマンガに関しては正確な論考があるのに、ゲイマンガに関する章はなく、なのに私の絵だけが載ってるってのは、ちょっとモヤモヤ。
 ひょっとすると、権利関係の問題なのかもしれませんね。図版の使用許可をとれるところが、見つけられなかったのかも。
 ピルチャー氏は日本語ができないっぽいし(少なくとも、私とのやりとりは、全て英語でした)、彼に限らず、海外の出版社なりジャーナリストなりが、作家とコンタクトをとりたくて、あるいは、何らかの権利関係をクリアにしたくて、日本の作家やマイナー系出版社に英語でメールを出したんだけど、返事が来ない、みたいな話は、私も何度か耳にしたことがあります。
 ただ「YAOI」の章には、YAOIは既に西洋でも広く知られており、2001年にはサンフランシスコでYAOI-Conも開かれ、出版する会社もここ数年で増えた……なんて書いてあるんだから、海外ルートからでも何とでもなりそうなのに。
 それ以外でも、日本のエロティック・コミックに関しては、前述したようなテキストと図版の齟齬が目立ち、例えば、「LOLICON」の章なんかも、テキスト部分には吾妻ひでおの『海からきた機械』や同人誌「シベール」、内山亜紀、藤原カムイ、雑誌「レモン・ピープル」なんて名前が見られるのに、図版は水野純子の作品や、アメリカで出版された、昆童虫の『ボンデージフェアリーズ』や、唯登詩樹の単行本の書影だけ。
 まあ、ここいらへんは出版コード的に、内山亜紀とかを載せるのが、難しいせいかも知れませんが。
 他に図版で見られるのは、天竺浪人、ふくしま政美、士郎正宗、大暮維人、うたたねひろゆき、玉置勉強、などなど。
 テキストでは、前述したようなモチーフ的な特異性以外にも、日本の出版におけるセンサーシップについて等も書かれており、「松文館裁判」の件が詳細に紹介されていたりします。

“Archetype: The Art of Timothy Bradstreet”

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 最近買った画集、その3。
 やはりアメコミのカバー画や、映画のポスター等のイラストレーションを描いている、ティモシー・ブラッドストリートの画集。どうやら第二画集らしいです。
 この人は、先日のジョー・ジャスコや先々日のボブ・ラーキンとは異なり、もっと若い世代で、絵の雰囲気もぐっと今様です。因みに、ラーキンが1949年生まれ、ジャスコが59年生まれなのに対して、このブラッドストリートは67年生まれ。……うわ、私より年下じゃん(笑)。
 収録作品は、アメコミ「ヘルブレイザー」(これの映画化が『コンスタンティン』)や「パニッシャー」のカバー画(私がこの人の絵を意識したのも、ここいらへんから)、良く判らないけどゲームか何かのヴィジュアル、映画『ブレイド2』(ギレルモ・デル・トロ監督)や『パニッシャー』(トーマス・ジェーン版)のビジュアル、エディトリアル用らしき『ノスフェラトゥ』(ヴェルナー・ヘルツォーク版)、『13日の金曜日』のジェイソン、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス、等々が掲載されています。
 それ以外にも、デジタル彩色作品に関しては、彩色済みのものとオリジナルのモノクロ線画が両方載っていたり、作画資料用の写真、サムネイルやラフスケッチ、コミックスからの数ページなんかも載ってます。
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 とにかく、画面をカッコヨク見せることに長けている人で、明暗構成の妙技と構図の緊張感はバツグン。ポーズの切り取り方とかは、さほどエッジなことはやっていない(というか、逆にシンプルなものが多い)んですが、それを画面構成だけで、問答無用のカッコヨサに仕上げるセンスは、本当にスゴイ。
 基本的に、コントラストの効いた白黒のペン画に、淡彩で彩色していくパターンで、彩色者は別の人(主にグラント・ゴレアシュという人のよう)の場合もあるんですが、油絵(これがまた、めちゃくちゃフォトリアル)やペンシル・ドローイングなんかも、ちょっとあり。
 ただ、私の趣味から言うと、モノクロのペン画や、それに水彩やカラーインクで淡彩を施したものは、文句なしに好きなんですが、デジタル彩色で、しかもかなりコッテリと色を乗せているものに関しては、質感が余りに写真に近すぎて、「これだったら写真を加工したものでいいんじゃないかなぁ……」という感じを受けてしまい、絵としての面白みには、ちょっと欠けるような気はします。
 とはいえ、全体に通じるダークなテイストとは、やっぱ「カッコイイなあ」と思いますけど。

 画集としては、先日の“The Art of Joe Jusko”と同じ版元なので、造本や大きさ、ページ数なども、ほぼ一緒。大判のハードカバーで、頑丈な造りの好画集です。
 テキストは、マット・スターンの前書き、ジム・ステランコの序文、充実したバイオグラフィー(ここにフランク・フラゼッタやバーニー・ライトソンのペン画が載っていて、ハイコントラストなペン画のルーツが判る感じでした)、の他、ページのあちこちに、ギレルモ・デル・トロ、トーマス・ジェーン、ゲイル・アン・ハード、バーニー・ライトソン、ゲイリー・ジャンニ、等々、映画界やイラスト業界の著名人のコメントなんかが載ってます。
“Archetype: The Art of Timothy Bradstreet”(amazon.co.jp)
 これは何故か、日本のアマゾンにもちゃんと在庫があって、しかも割引中。ジョー・ジャスコの画集と同じ版元なのに、どういうわけだろう、この違いは。
 因みに、これと同じ本で値段が倍近くするやつがありますが(これ)、これは「Sgd Ltd版」という表記があるので、おそらくサイン入りの限定版ではないかと。

“The Art of Joe Jusko”

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 最近買った画集、その2。
紹昨日介したボブ・ラーキン同様、アメコミのカバー画などを描いてきた、ジョー・ジャスコの画集。
 経歴を見ると、ちょっと変わった人で、マーヴェルやエピック・マガジンなどでイラストレーションを描いていたかと思うと、その後ポリス・アカデミーに入学して、NYPDの警察官になったりしています。数年後、アートへの情熱が戻ったとかで、警察官からアーティストに復帰はしたようですけど。
 またまた、表紙はご覧のようなセクシーねーちゃん(&シム・シメールみたいなホワイト・タイガー)ですが、中身は、半分くらいは裸のマッチョ絵、それも、ボブ・ラーキン以上に暑苦し〜い野郎絵……ってなパターンです(笑)。

 収録作品は、やはりボブ・ラーキン同様にアメコミ版コナン”The Savage Sword of Conan”のカバー・イラストレーションや、様々なアメコミ・ヒーローの他、エドガー・ライス・バローズのターザン・シリーズのドイツ語版表紙絵(私が初めてこの人の絵を意識したのは、これでした)、同じくバローズの火星シリーズのイラストレーション、セクシーねーちゃん系だとヴァンピレラにシーナにララ・クロフト、はたまたWWFのプロレス関係のイラストレーションなんてのもあります。
 また、下絵やラフスケッチもあれば、古いものではアマチュア時代の未発表作まで掲載されているので、このアーティストの全画業を俯瞰できるような内容になっています。
 巻末には、簡単なHOW TO DRAWページまで付いていて、これは絵描きにとっては興味深く見られるはず。

 画風は、これまたボブ・ラーキン同様、コテコテのアメリカン・リアリズム。
 リアリズム的な上手さという点ではラーキンには及びませんが、細密画的な細部の描き込みとか、後述する筋肉描写への独特なこだわりなどによって、パルプ系のリアル・イラストレーションには余り見られない「アク」があるので、それが独特な個性になっているという特徴があります。原色を多用した、時として毒々しいまでの色彩感覚も、その「アク」を強めている感じ。
 さて、その筋肉描写ですが、サンプルをご覧いただければ一目瞭然のように、あからさまにボディビルダーのそれを指向しています。筋肉の張りや血管の浮きから、作品によってはポーズから肌ツヤにいたるまで、コンテストに出ているのボディービルダーか、ボディービル雑誌に掲載されているようなトレーニング風景の写真みたい(左下の作品なんかその典型)。
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 まあ、マッチョを描く人なら、多かれ少なかれボディービルは参考にするでしょうけど、ここまでボディービルボディービルしている人は、ファンタジー・アート系ではちょっと珍しいかも。かなりフェティッシュというか、マニアックな香りすらします。
 個人的な感覚で言えば、例えばターザンがここまでボディービルダーなのは、ちょっとどうかという気もするんですが、それでも、この徹底したこだわりと描き込み具合には、問答無用の強さと迫力は感じます。ボディービル系のマッスル・マニアの人だったら、なおさらタマラナイ魅力を感じられるかも。

 版形はA4強の大判。ハードカバーの立派な造本で、ページ数も330ページ近くとヴォリュームたっぷり。もちろん、全ページフルカラー。
 テキストも、詳細なバイオグラフィとか作品解説とか、ふんだんに入っています。造本は頑丈だし、印刷も高品質なので、画集としてはわりと理想的な作りかと。その分、お値段もそれなりですが。
“The Art of Joe Jusko”(amazon.co.jp)
 これまた、何故か日本のアマゾンだとマーケット・プレイスしか出ていませんが、アメリカのアマゾンには在庫があるので、送料さえ気にしなければ、ボブ・ラーキンの画集と一緒に注文するってのもアリかも。

“The Savage Art of Bob Larkin (Volume One)”

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 最近買った画集、その1。
 アメコミのカバー画などを描いてきたアーティスト、ボブ・ラーキンの画集。米ウィキペディアによると、どうやら主にマーヴェルで仕事をしていた方のようですね。
 表紙はご覧のようなセクシーねーちゃんですが、中身は下にあるサンプルでお判りのように、半裸のマッチョや暑苦しい野郎どもばっかです。
 前にここここで書いた、コナンのアメコミ”The Savage Sword of Conan”のカバー・イラストレーションや、ドク・サヴェイジ、パニッシャー、ハルク、スター・トレック、スター・ウォーズから、聖書ネタ、西部劇ネタ、ヴェトナム戦争ネタまで幅広く収録。
 この出版社、女性のセクシー・ピンナップ画集ばっか出してるトコなので、表紙だけで中身を確かめずに買ったアメリカのスケベ野郎どもが、ページを開いて激怒しないか、他人事ながら心配になってしまう、そのくらい男絵ばっかだった(笑)。

 画風としては、コテコテのアメリカン・リアリズム、パルプ風味。
 特に目立った個性はないタイプの絵ですが、とにかくリアリズム的に達者なので、それ系が好きな人だったら、文句なく楽しめるはず。作品ごとに出来不出来もなく、職人芸的なイラストレーションを堪能できます。
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 強いて言うなら、いかんせん画風がクラシカルなリアリズムなので、原色使いの奇抜なコスチュームのアメコミ・ヒーロー系は、ちょっと収まりが悪い感じがする程度。あと、パルプ系の色彩感覚(乱暴に説明すると、ちょっとケバくてドギつい感じ)が、私はそーゆーのも大好きなんだけど、苦手な方もおられるかも。

 画集としては簡素な造りで、サイズはA4強の大判ですが、ソフトカバーで、ページ数も64ページと少なめ。
 テキストも、序文(ジョー・ジャスコ)と後書き(アレックス・ロス)のみで、バイオグラフィーすらないのには、ちとビックリ。
 反面、絵は誌面をフルに使って、ページ1〜4点の割合でふんだんに入っているので、薄さのわりには、満足感はけっこうあります
 高級感はないけれど、画集としては、決して悪くないという感じ。
“The Savage Art of Bob Larkin, Volume One”(amazon.co.jp)
 いちおう日本のアマゾンでも扱っていますが、現状マーケット・プレイスのみ。約20ドルの本なのに、5000円以上ふっかけている業者もあるので、要注意。
 アメリカのアマゾンだと、在庫アリなんだけどなぁ……。

 この画集の序文を書いている、同傾向のイラストレーター、ジョー・ジャスコの画集も、最近購入したので、近日中に紹介記事をアップ予定。
 お楽しみに(笑)。

海のエジプト展

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 横浜でやってる「海のエジプト展」に行ってきました(画像は図録の表紙)。
 海底に沈んだ三つの古代都市から引き上げられた宝の数々……ってだけで、古代好き、遺跡好きにはワクワクもんなんですが、展示点数も申し分なく、存分に楽しませていただきました。
 個人的には、プトレマイオス朝の、つまり、ヘレニズムからグレコ・ローマン期のエジプト美術が集中して見られるというのも、興味深かったポイント。
 何となく、例えグレコ・ローマン期と言えども、美術関係はもっとエジプトエジプトしているイメージがあったんですが(クレオパトラの映画とかのせいだな、きっと)、こうして見ると、かなりギリシャっぽいのに驚きました。エジプトで、有名なクレオパトラ(7世ね)のレリーフを見に、デンデラのハトホル神殿へ行ったときは、そんな感じは受けなかったけどなぁ……。
 あと、ギリシャ絡みでもエジプト絡みでも、聞いたことのない名前の神像とかがあって、しかも、けっこう重要な神様らしいので、「何じゃらほい」と思ったら、オシリスとゼウスが融合して出来た神とかだったので、へぇ〜とか思ったり。
 もう一つ面白かったのが、「豊穣神ハピの巨像」ってヤツ。これが、「垂れ下がった豊かな胸と、膨らんだ腹をもつ、体格の良い男性の像」なのだ。まあ、ぱっと見は男だか女だか判らないんですけどね。ナイル川の氾濫を表すそうなので、豊穣を表す地母神的なものと、ギリシャ神話的な伝統(確か、河の神は男だったような……少なくとも、ルーベンスの「四大陸」では、ナイル河は白ヒゲでムチムチボディのオッサンです)が、ミックスされちゃったのかしらん……なんて思ったり。
 因みにこの巨像、高さ5メートル以上ある(しかも、他の2つとセットで、計三体)ので、ド迫力です。
 出口のところでは、会場限定のガチャポンフィギュア(海洋堂制作!)があったので、二回ほどトライ。件の「ハピ神」を出したかったんだけど、残念ながら、「香炉」と「オシリス・カノポス壷」でした。
 ガチャポンも楽しいんだけど、こーゆーのは出来れば、ミュージアム・ショップで指名買い出来るようにして欲しいよなぁ……。ブツクサ。
『海のエジプト展』公式サイト

『エロスの原風景』

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『エロスの原風景 江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史』/松沢呉一(ポット出版)

エロ本は遠からず消えると言っていい。そんな時代だからこそ、こんな本を出す意義もあるだろう──(「はじめに」より)
エロ本173冊! フルカラー図版354点収録!!
稀代のエロ本蒐集家・松沢呉一による日本出版史の裏街道を辿る男子必携のエロ本ガイド!!

 ポット出版さんからいただきました。
 江戸時代から綿々と続きながら、文化史的には黙殺されてきた「エロ本」の歴史を、豊富かつ貴重な図版とテキストで紹介する本です。

 いやぁ、面白かった〜!
 まず、とにかく「エロ本」をキーワードに、江戸時代の遊郭ガイドから戦後のカストリ雑誌、おフランスの美麗なヴィテージ・ヌード絵葉書から、自販機で売られていた即物的なエロ本まで、紹介されている書籍の、時代やジャンルの幅広さがスゴい。
 加えて、それを解説するテキストが面白い。風俗産業の変遷や印刷技術の発展と絡めた、硬派な論考がされるかと思えば、ユーモアたっぷりの語り口もあり(読んでいて何度か噴き出しました)、面白いわ勉強になるわ、もう夢中で読んじゃいました。
 でも、何がスゴいって、これらが全て「一次資料」によるものだってことだよな〜。
 こういうことを、孫引きでアレコレ書く人は多い(私も他人のことは言えません)だろうけれど、全て自分で蒐集されているということは、ホント、もっと衆目を集めてしかるべき偉業だと思います。
 私も見習わなくちゃ。
 現在、『日本のゲイ・エロティック・アート vol.3』の作業中(牛歩ですけど……)なので、ピシッと襟を正す気持ちにさせられました。

 さて、ゲイ関係もちゃんと、「ホモアルバム」という一章が入ってます。ゲイ雑誌誕生前夜、およびその黎明期に、通信販売などで販売されていたエロ写真の紹介。
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 こういう写真を撮っていた人では、「大阪のおっちゃん」という人が有名なんですが(ゲイアートの家さんが、まとまった数を所蔵・保管なさっています)、このジャンルのものは、ゲイ雑誌上ですら殆ど紹介されたことがないので、これは貴重。
 因みに、こうして販売されていたプリントには、男のヌードや絡みの写真だけではなく、男絵の複写プリントも存在していたんですが、それもしっかり、大川辰次と三島剛の二点が、この本には掲載されています。
 余談ですけど、掲載されている三島剛のプリントは、実は私も同じものを持っているので、ちょっと嬉しくなったり(笑)。
 そして実は、著者の松沢呉一さんは、私にとっての恩人でもあります。
 松沢さんなくしては、私は『日本のゲイ・エロティック・アート』シリーズを、出版することはできなかったでしょう。そこいらへんの経緯は、前述の「ホモアルバム」の章に書かれているので、ぜひご一読あれ。
 ご本人は、さらりと謙遜して書かれていますけど、ホント大恩人ですよ。私個人のみならず、日本のゲイ文化史に興味を持つ人、全てにとって。
 ゲイ・エロティック・アート絡みでは、『日本のゲイ・エロティック・アート vol.1』で取り上げた、小田利美の描いたノンケ向けカラー・イラストが、一点だけですけど掲載されているのも嬉しいところ。ただ、「山田利美」と誤植されてるのが……ポットさん、しっかりして〜!

 個人的な趣味では、その小田利美も参加していた、「創文社グループ ”ニセモノ”だから持ち得た特異な魅力」の、キッチュさがたまりませんでした。
 陽気でカラフルな表紙といい、正気を疑うような珍奇なヌード写真といい、もう、ステキすぎ! 古書市で『奇抜雑誌』(ってゆータイトルの雑誌を出していたんです)を見かけたら、思わず買っちゃいそう(笑)。
 イラスト関係だと、「カストリ雑誌 敗戦直後の日本に咲いた徒花」が良かったな〜。
 淫靡でイカガワシイ雰囲気なんだけど、でもオシャレでもある、表紙画像の数々がステキ。竹中英太郎や水島爾保布なんかを思わせる絵があるかと思えば、マティスもどきやタマラ・ド・レンピッカもどきまであったり。
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 テキスト方面では、「吉原細見 江戸時代に生まれた風俗誌の原型」や「オッパイ小僧 日本初の巨乳アイドル・川口初子」なんかが、特に興味深かった。因みに、学究的に「ふむふむ」と読みながら、その語り口に、つい噴き出してしまったのも、この二章だったりします(笑)。

 そんなこんなで、実に面白く、しかも「他に類がない」ことは間違いなしの本なので、皆様、ぜひお買い求めあれ。
 とゆーのも、この本に対する唯一の不満が、「もっと読みたい!」ってことでありまして、まだまだ未収録原稿(および未紹介コレクション)はあるようなので、これが売れれば続刊もされて、私の「もっと読みたい!」欲も満たされるわけで(笑)。
『エロスの原風景』(amazon.co.jp)
 出版社による紹介ページ(購入も可能)はこちら
 著者の松沢呉一さんのブログ(『エロスの原風景』関係のコンテンツ豊富、および最近のエントリーでは、出版における部数と印税や、書籍の価格などに関する記事が、実に興味深いのでオススメです)はこちら

“Secret Identity: The Fetish Art of Superman’s Co-creator Joe Shuster”

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“Secret Identity: The Fetish Art of Superman’s Co-creator Joe Shuster”

 ヘテロ系ヴィンテージ・フェティッシュ・アート画集(洋書)のご紹介。
 書名からもお判りのように、この本は、誰でも知っているアメコミ由来のスーパーヒーロー『スーパーマン』の生みの親の一人、作画担当のジョー・シャスターが、”Nights of Horror”というアンダーグラウンドなフェティッシュ雑誌に発表した、イラストやマンガを集めた画集です。
 まず、何よりかにより、アメリカ的な健全明朗さを絵に描いたようなスーパーマンの、オリジナル・クリエーターが、こんなボンデージ画やサドマゾ画を描いていた……という事実にビックリ。
 もちろん私は、そのオリジナル版アメコミの『スーパーマン』は読んだことがないので、実感としては良く判りませんが、それに慣れ親しんできたアメリカのファンにとっては、この画集に収録されているフェティッシュ・アートの数々は、どう見ても「クラーク・ケントやロイス・レーンやジミー・オルセンやレックス・ルーサーが、裸でSMに興じている」としか見えないらしく(……と、解説にそんなことが書いてあります)、そりゃ、衝撃度やお宝感もさぞや大きいんだろうなぁ……なんて思ったり。
 とはいえ、件のアングラ雑誌は、発行されていたのが1950年代ということもあり、絵の内容自体は、現在の我々の目には、ごくごく大人しく映ります。
 拘束された裸の男女が、鞭で打たれていたり焼きゴテを押されたりしてはいても、陰部は決して露出しない。絵柄が淡泊で表情もシンプルなせいもあり、性的や暴力的な情景が描かれていても、何となくノンビリほんわかしたムードがあって、時としてキュートで愛らしくさえ見えます。
 というわけで、この画集の場合、絵の内容そのものよりも、スキャンダラスな話題性の方が大きい、という感は、正直否めません。
 じっさい、同じくヴィンテージ・フェティッシュ・アートでも、ジョン・ウィリーやエネグやエリック・スタントンなんかの作品と比べると、エロティック・アートとしては、かなり薄味ですしね。

 ただ、個人的に、この人の描く「マゾ男」には、大きく興味を惹かれます。
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 本書の収録作のうち、表紙や上のサンプル画像のような「男マゾもの」の絵は、全体のおよそ3〜4割と、決して多くはないんですが、そこで描かれている被虐者には、世間一般で見られる「男マゾもの」とは、ちょっと異なる特徴があるんですな。
 概してノンケ作家さんの描く「男マゾもの」は、美しく強い女性から、侮蔑され虐げられながら、そこにマゾ男は被虐の悦びを感じ、女性を女王や女神として崇める……といった構図が多い。絵画だと、古くはエリック・スタントンから現在では我が国の春川ナミオに至るまで、被虐者の男の「情けなさ」や「みじめさ」が強調されている。
 ところが、このジョー・シャスターの描く「男マゾもの」には、それがほとんど見られない。シャスターのマゾ男には、スタントンのマゾ男の「哀れさ」や、春川ナミオのマゾ男の「矮小さ」といった要素は、微塵も見られない。また、フェミナイズによる恥辱といった要素も皆無です。
 そもそも体型からして、被虐者の男は皆、筋肉隆々のヒーロー体型ですし、責めを受けているときの表情も、「惨めに泣き叫ぶ」ではなく、「男らしく耐える」風に描かれている。いかにも『鋼鉄の男』と賞される世界的なヒーローの、生みの親らしい作風。
 つまり、シャスターの男マゾ絵は、世間的に(おそらく)多勢を占めるであろう、「自らを貶めることに酔うマゾ」とは、明らかに異なっている。画家自身のマゾヒズム傾向の有無や、その指向性については、私は何とも言えませんが、しかし少なくとも彼の描いた絵からは、以前ここで『野郎系パルプ雑誌の表紙絵』について書いたときと同様に、「苦難に耐える自分の男らしさに酔うナルシシズム系のマゾ」の香りが、濃厚に漂ってきます。
 それが、私の変態アンテナにビンビン反応するので、こうしてご紹介する次第。

 まあ、前述したように、エロティシズムそのものは薄味ですが、例え直截的なエロスは期待できなくても、絵そのものには、サブカル好きの方にウケそうな、ちょっとユルくてキュートな魅力があるし、その絵の雰囲気を活かした、ポップで明るくて品の良いデザインやレイアウトも、実にいい感じ。
 約22センチ四方の正方形という、版型のコンパクトさも、本の内容に良く合っています。造本もしっかりしていて、印刷も美麗。ちょっと、ギフト・ブック的なかわいさもあったりして。
 あと、作家の生い立ちや、時代背景などを絡めた解説も読み応えありそう(けっこう長いんで、まだほとんど読んでないんですけど)だし、序文がスタン・リー、裏表紙の推薦文はアレックス・ロスという豪華さなので、アメコミに興味のある方なら、資料的な価値も高いかも?
“Secret Identity: The Fetish Art of Superman’s Co-creator Joe Shuster”(amazon.co.jp)

つれづれ

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 奥津直道さんから、グループ展のご案内をいただきました。

gender series vol.2『男が描く男・女が描く女』
2009.6.8(月)〜6.14(日)
12:00-19:00まで/最終日17:00まで
ジェンダーシリーズの第二回目として「人物」を取り上げてみた。同性が描く同性の像は、異性が捉えるものと微妙な温度差があるように思う。どこに魅力を感じ、どのような世界観を伝えたいのか八人の作品の中から見えてくるものを検証したい。/柴田悦子画廊
出品作家: 阿部清子/奥津直道/勝連義也/木村浩之/伴清一郎/平野俊一/佛淵静子/松谷千夏子
柴田悦子画廊
〒104-0061 東京都中央区銀座1-5-1第3太陽ビル2F
TEL & FAX:03-3563-1660
http://www.shibataetsuko.com/

 私が監修および出品している「伊藤文學コレクション/薔薇族周辺のゲイ・エロティックアート展」と、会期も重なっているし会場も近くなので、来週以降銀座にお出かけする方は、ぜひハシゴしてみてはいかがでしょう?

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 ポット出版さんからご本をいただきました。

『懺悔録〜我は如何にしてマゾヒストとなりし乎』沼正三
戦後最大の奇書『家畜人ヤプー』の著者・沼正三、ついに逝く─
●沼正三がその死の直前までSM専門誌「S&Mスナイパー」(ワイレア出版、現在は休刊)に書き続けた実体験エッセイ、「ある異常者の体当たり随想録」から選集。
●未完の短編小説「化粧台の秘密」、2006年に受けた生前のインタビューを特別収録!!
出版社による本の紹介ページ

 現在締め切り明けホヤホヤなので、まだ序文とインタビューしか読んでいないんですが、なにはともあれ、この装丁がカッコイイなぁ。
 上の書影では判らないと思いますが、風合いのあるマットな黒の中に、バーコ印刷(だと思う)で入れてあるグロスの黒のワンポイント。カバーを外した本体も、黒の中に黒でデザインされていて、光の当たり方で文字や図柄が浮かびあがってくる。
 ステキ、ステキ。所有しているのが嬉しくなっちゃうタイプのご本でした。
 アマゾンでのお買い求めは、こちらから。

CD_MOROCCO
 音楽は、ここんところモロッコで買ってきたCDばっかり聴いています。
 どこの国の音楽でも、私は懐メロ系というか、古めの録音のものが大好物なので、今回の旅行でも「なんか古いのちょ〜だい!」と言って買ってきました(笑)。
 ただ、帰国してから検索してみたんですが、左上のNass El Ghiwane(ナス・エル・ギワン)以外の情報は、ほぼゼロだったので、詳しいことは何も判りません。
 まず、そのNas El Ghiwaneから。ガイドブックにも書いてありましたが、70年代にこのNass El Ghiwaneが、グナワなどのモロッコの民族音楽を発展させた大衆音楽を発表したことによって、モロッコにバンド・ブームのようなものが起こったそうです。「モロッコのビートルズ」とか「モロッコのローリングストーンズ」なんて異名もとっているとか。
 確かに、伝統音楽をルーツにしつつも、グルーヴィなポップさがあるような。聴きやすい反面、トランス感はあまりなし。
 右上のIzanzarenは、もっとルーツ寄りなのかな。一曲一曲が長いし、聴いていて何となく語り物みたいな感触がある。ゆったりとした長い前奏は叙情的にしっとり聴かせ、それからテンポがアップ。パーカッションと撥弦楽器のアルペジオのリフレインに乗せて、ソロや掛け合いやコーラスで、どこかノスタルジックな感じのするメロディーを聴かせてくれます。
 いやぁ、これは個人的に大当たり。いぶし銀といった感じの柔らかなオヤジ・ヴォーカルの魅力もあって、何とも癒される。ダウナー系のトランス感もあり。
 ちょっと面白かったのは、聴いていて「え? これ、インドかネパールの音楽じゃないの?」とか、「まるで沖縄民謡!」みたいな曲がありました。全体的に、アッパーなグルーヴ感はなし。
 左下のH. Mehdi b. Mubarekは、Izanzarenより更に激シブ。
 ヴォーカル自体は、Izanzarenより張りがあって、唱法も歌い上げる感じなんですが、無伴奏の独唱に、擦弦楽器や撥弦楽器や笛やコーラスによる短くてシンプルなメロディーが、合いの手みたいに入ってくるだけ……と思いきや、一瞬だけ金属質のパーカッションが乱入してきて、ぐわっとテンションが上がった……かと思ったら、次の瞬間にはもう退場、ふたたび渋〜い歌が……ってな塩梅。ダウナーなトランス感が、Izanzarenより更にアップ。
 あと、これまたちょっと面白かったのが、笛が入ってくる曲が、音の質感やメロディーのせいか、何だかバルカン音楽っぽい感じに聞こえました。
 右下のArchach(これがホントにグループ名なのかどうか自信なし)は、Nass El GhiwaneとIzanzarenの中間な感じなので、ひょっとして件のバンドブームで出てきた人たちなのかも。
 ユニゾンのコーラスと撥弦楽器とパーカッションのリフレインに、後半部分的にアドリブっぽいフレーズが絡んでくるとか、ソロの語り物みたいなルーツ寄りっぽいものもあれば、そこにドラムセットが加わってグルーヴ感がアップしている曲もあり。Nass El Ghiwaneよりポップ感はないけれど、まったりとした和み度はアップ。
 という感じで、けっこうどれも気に入って愛聴しています。
 モロッコ音楽って、実は今までハッサン・ハクムーンとかグナワ・ディフュージョンくらいしか聴いたことがなく、さほど「好き!」って感じでもなかったので、今回の旅行ではCDはちょびっとしか買わなかったんですが……しまったな〜、こんなに気に入るんだったら、もっといっぱい買ってくれば良かった(笑)。