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つれづれ

 タコシェの中山さんからフランス土産で、毎年発売されているフランスのラグビー選手のヌード・カレンダー、“Dieux Du Stade”の2010年版を戴きました。このブログでも以前に、SMっぽかった2008年版をここで紹介していますが、今回でもう10周年だそうな。
 2010年版のカメラマンは、トニー・デュラン(Tony Duran)という人。コマーシャル・アート全般にイマイチ興味を失ってから久しい私には、ちょっと聞き覚えのない名前だけど、ファッション・フォトグラファーとしては有名なのかも。今度、現役のアート・ディレクターやってる友人に聞いてみよう(笑)。
 写真の方は、極めて口当たりの良いピンナップ系。あまり、これといった特徴は感じられないけど、逆にクセやアクもないので、カレンダーとして壁に掛けておくには、丁度いい内容かも。ひたすら、美しい筋肉を身に纏ったスポーツ選手の、セクシーでキレイなメールヌード写真のオンパレード、といったカンジです。
 ソロやらデュオやらトリオやら、凝ったポーズやら変わったシチュエーションやらもありますが、個人的に最も目を惹かれたのは、ここいらへんの「シンプルなメールヌード+ラグビーボールだけ」というシリーズ。男の裸ってのは、何もせずただそこに在るだけで、それだけで充分美しいもんであります。
 ああ、それと今回は、四つ折りのポスターもオマケで付いてました。ただでさえデカいカレンダーなので、ポスターを拡げるとかなりの迫力。
 日本での入手先は、残念ながらちょっと判らず。
 現在発売中の雑誌『映画秘宝』12月号の、大西祥平さんの連載コーナーで、拙著『髭と肉体』を紹介していただきました。ありがとうございま〜す。
 同誌に載っている大西さんのもう一つの連載「評伝・小池一夫伝説 Returns」も、毎回毎回読むのが楽しみなんですけど、え〜、私まさに、『実験人形ダミー・オスカー』って、絵やシーンは良く覚えているけど、んじゃいったいどーゆー話だったのかが判らない……ってなパターンです(笑)。とゆーわけで、来月の後編が楽しみ!

映画秘宝 2009年 12月号 [雑誌] 映画秘宝 2009年 12月号 [雑誌]
価格:¥ 1,050(税込)
発売日:2009-10-21

 そう言えば、この『ダミー・オスカー』が連載されていた頃の『GORO』に、確か西村寿行の『去りなんいざ狂人の国を』が連載されていたんじゃなかったっけか。オンナノコのヌード写真やフツーのエッチ記事はそっちのけで、この小説でコーフンしまくった記憶があって、しかもそれが西村寿行との初邂逅だったような気が。
 寿行センセなくしては今の田亀源五郎はいない、ってなくらい、私にとっては、セクシュアルな意味でトラウマ級の作家さんなので、この『去りなん…』も、ものごっつうオカズにさせていただきました。
 特に後半の乱痴気パーティーのシーンでの、「マフィアのボスを全裸にして、肛門にローソクを立てて人間燭台にして辱める」とか、「捕らえた刑事二人(だっけか?)に、相互ホモセックスを強要する」シーンなんか、未だに思い出すだけでムラムラくる(笑)。

去りなんいざ狂人の国を (角川文庫)
価格:¥ 652(税込)
発売日:1981-01

 デアゴスティーニの『三代怪獣 地球最大の決戦』購入。
 例によって、隣の相棒の「この人は、往年の大スターだよ」とか「この人は、東映時代劇の悪役ばっか演ってたんだよ」とか「この人は、国策映画で銃後の母を良く演っていたんだよ」とかいったオーディオ・コメンタリー付きで鑑賞(笑)。
 ガキの頃は、とにかく特撮と怪獣プロレスに夢中だったけど、改めて見ると、テレビのチャンネルを変えるために、夏木陽介の身体を跨ぐ(ってか覆い被さる)星由里子……とかゆー、些細な日常リアル演出が良いな〜、なんて感じたりして。
 二号続けて買っちゃったけど、次回の『海底軍艦』は、既にDVDを購入済みなのでスルー。
 いつものようにタバコをカートンで買ったら、こんな箱で渡されてビックリ(笑)。

つれづれ

 ここ数日のあれこれ。

 上野の西洋美術館で『古代ローマ帝国の遺産』展鑑賞。
 キュレーションに特に目新しいものはなく、展示点数も決して多いとは言えないけれど、展示品はおしなべて高クオリティでかなり満足。
 壁画に良いものが多く、特に、「庭園の風景」の大きさと色彩の美麗さには目を奪われる。「カノポスのイオ」や、小品ながら「聖なる風景画」の幽玄な雰囲気も素晴らしい。
 ブロンズの工芸品も、デザインの洗練され具合がいいなぁ。細工も高度で、みていてついつい「欲しい!」とか思っちゃう作品がイロイロと。中でも「シレノスのカンデラブルム」は、メールヌード作品としても良く、腰のあたりの肉付き具合なんか、何ともタマリマセヌ。
 サイズが大きな彫像だと、やはり「皇帝座像」と「アレッツォのミネルウァ」が印象に残る。前者は、腕や足の甲の血管の表現に目を奪われたけど、図録によれば、それらは18世紀になされた修復部分だったようだ。
 ミュージアム・ショップでガラスのペーパーウェイトを、その美麗さに惚れて衝動買い。「アウグストゥスのアウレウス金貨」のヤツと「カノポスのイオ」のヤツ。後者は、近々遠方に引っ越してしまう友人(女性)に、お餞別としてプレゼント。
 帰りにアメ横で、靴を一足購入。
 安かったので、店員さんに「これ下さい」と言うと、「はいっ、1万3千円をお値引きで2千8百円になります!」という返事。いや、値札で確認していたから買ったんですが、いざそう言われると、改めて安さを実感してビックリ(笑)。
 サンマが7尾で5百円ってのにも惹かれたけど、いくらサンマ好きでも、いっぺんに7尾は多すぎるから、残念ながら断念。

 デアゴスティーニの『モスラ対ゴジラ』購入。
「マハラ・モスラ」は、ガキの頃から好きな歌だったけど、改めて聴いても、やっぱり良いなぁ。歌バージョンもさることながら、劇伴でも、このモチーフが出てくると背中がゾクッとくる。
 古関裕而の「モスラの歌」は、「イヨマンテの夜」や「黒百合の歌」の作曲者らしい、ポップ味のあるエキゾ歌謡の名曲だけど、伊福部昭の「マハラ・モスラ」は、より土俗性を感じさせる、いかにも古代の異教儀式といった趣で、これまた甲乙つけがたい名曲。
 東宝特撮のDVDは、高価さもあって買い逃がしているものがあるので、そこいらへんはこのシリーズで買おうかな。

 長年の友人(女性)のヘルプで、初めての土地へ。
 とはいえ、たかが電車で30分、そこからバスで30分の距離だし、行った先もただの住宅街なのだが、過去にあまり見た記憶のない雰囲気の場所で、しかもなかなか気持ちの良いところだったので、ちょっとした小旅行気分に。
 用件は撮影の手伝い。彼女がビデオ、私が写真を担当。
 終了後、バスに乗って大都会に戻り、遅めのランチをとっていたら、ほんの一時間前の出来事だというのに、さっきの場所が、まるで異次元にでも行ってきたかのように感じられて、何だか不思議な気分。
 そんな気分は後々まで続き、彼女と一緒に拙宅に戻り、二人で撮影した素材の整理などして、それから仕事から帰宅した相棒も交えて、三人で夕飯なんぞを作っている頃には、昼間の出来事が、とてもその日のこととは思えないような感覚に。

 イタリア人から、「バディ」のバックナンバー購入についての問い合わせが。
 単行本効果かな? だったら嬉しい。

『W(ワンダースリー)3』手塚治虫文庫全集版

 本屋に行ったら、手塚治虫文庫全集の第一回配本が並んでいたので、『W(ワンダースリー)3』(以下『W3』)全二巻を購入。

W3(1) (手塚治虫文庫全集 BT 15) W3(2) (手塚治虫文庫全集 BT 16)

 最大のお目当ては、2巻に収録されている「少年マガジン版」の復刻。
 馴染みのない方に簡単に説明しますと、『W3』は最初は「週刊少年マガジン」に連載されていたものの、とあるトラブルによって連載が中断、仕切直しを経て「週刊少年サンデー」で再連載されたという経緯があり(詳しくはWikipediaの「W3事件」でも見てください)、これまで単行本等で読むことができたのは、「少年サンデー版」の方。
 で、今回の文庫では、1巻と2巻の中途まで従来の「少年サンデー版」ベースの全編を収録し、2巻の後半に「少年マガジン版」の雑誌掲載分を復刻、という形になったもんですから、ウホウホ喜んで買ってきたわけで。

 まあ、未収録分を読むというためだけなら、2巻だけを買っても良かったんですけど、私の持っている『W3』の単行本(秋田書店サンデーコミック版)は、何てったって自分が小学生の頃(笑)に買ったものですし、実家に置いてあって手元にはないから、1巻も一緒に買いました。あともう一つ、あんまり大きな声では言えない個人的事情もあるんですが……それは後述(笑)。
 というわけで、「少年マガジン版」を全部読むのはこれが初めて(第一話の冒頭だけ何かで見た記憶あり)なんですが……
 ナルホドねぇ、これまで自分が読んでいた最終版の『W3』では、主人公・真一(および小川村を巡るアレコレ)と、主人公の兄・光一(および秘密組織フェニックスを巡るアレコレ)の間に、どこか微妙に埋まりきらないような齟齬を感じていたんですが(とはいえ、そういった齟齬……具体的に言うと、前近代的な日本の農村風景と、モダンな国際スパイ映画的な世界と、銀河スケールのSFテイストが、ひとかたまりになったストーリー……も、私にとっての『W3』の魅力の一つなんですけど)、当初の「少年マガジン版」では、こういった絡みかたをしていたんですか。これならきちんと繋がるなぁ。納得。

 作劇法の差異も興味深くて、モノガタリ全体の輪郭を最初から露わにしている最終版に対して、「少年マガジン版」は、謎の提示を冒頭に置き、関係の読み取れない複数の事象を並行して進行させ、やがてモノガタリ全体の大きな輪郭が見えてくる……という作りになっていて、これはかなり惹き込まれる。以前どなたかが(確か、みなもと太郎氏だったと思うけど)、「仕切直し後(つまり最終版)の『W3』を読んで、「少年マガジン版」との違いにガッカリした」といったようなことを、書かれているのを読んだ記憶がありますが、なるほど、その気持ちも判ります。
 ただ、作劇が魅力的とはいえ、同時に、光一青年とフェニックスの関わりとかは、今となっては荒唐無稽に過ぎる感もあるので、そこいらへんのディテールを割愛してモノガタリの枠外に置いてしまった最終版の方が、やはり「正解」なのかな、って気はします。それに、真一少年のキャラクターも、「少年マガジン版」のあか抜けたカッコイイ少年よりも、やっぱ最終版の、『無法松の一生』か『けんかえれじい』かってな、不器用で無骨(少年の形容には相応しくない言葉ではありますが)な少年の方が、私にとっては魅力的。

 しかし、改めて読んでみると、小川村のアレコレとか、エンディングのムードとか、ガキの頃に読んだときよりも、大人になった今の方が、ノスタルジーとかいろいろ入り交じって、なんか、しみますね。
 さて……と、前述した「私が1巻も買った大声では言えない理由」ですが……ま、判る方にはお判りですよね(笑)。毎度毎度こんなネタで申し訳ないんですけど、幼心にもアレ的にムズムズしたという意味でも、この『W3』には思い入れがありまして。
 この文庫全集版で言うと、210〜211ページ、285〜288ページあたりがソレなんで、お手持ちの方はご確認あそばせ。二つあわせて見ると、思っくそご納得いただけると思います(笑)。
 しかしまあ、久しぶり(20年ぶりくらい?)に再読したんですけど、我ながらホント、三つ子の魂百までとゆーか、雀百まで踊り忘れずとゆーか、自分の「変わってなさ」に呆れてしまう(笑)。

『羯諦 山中学 写真』

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『羯諦 山中学 写真』山中学(ポット出版)
 写真集のご紹介。まずは、出版社による紹介文からどうぞ。

内容紹介
貧困、老い、病、死……。
人が忌避するものの中にある「仏性」を写す。
海外で高い評価を受ける山中学初の商業写真集。
25年にわたって取り続けた6シリーズ108点を収録します。
※全文、日英対訳付き
著者について
1959年生まれ。広告写真家の助手を4年余務める。その後独立、23歳で上京。
コマーシャル写真家の道を歩み始めるが、広告写真と自分の追求したい写真の温度差を感じ、自らの世界を極めたいと思い、作品の制作を始める。
──私の生まれ育った大阪近郊の尼崎の町は町工場労働者たちの多く住む場所で、
昔から仏教が深く根付き、仏教にまつわるお祭りが多く、住民たちの信仰も厚く浸透していた。
私が小さい頃、交通事故に遭い病院に運ばれ、10日間も意識不明で生死をさまよった事があり、幸いにも私はこの世に戻ることができ、その身代わりに可愛がっていた犬が死んでしまった出来事があった。
この奇妙な霊験や奇跡的な生還から、生と死、仏教に関心を持つようになった。
作品を通して仏教の真意を視覚的に伝えたいと思っている──
1989年、東京で初めての個展“阿羅漢”を開く。現在は、東京に住みながら、ニューヨークのギャラリーを通して作品を発信し続けている。

 引用ここまで。

 力強くて清浄だな、というのが、私の印象。
 被写体そのものは、乞食であったり、動物の死骸であったり、全裸の老婆であったり、奇形であったり、胎児であったり……と、ある意味でグロテスクであったり、エクストリームであったりするものなんですが、被写体以外の余分はいっさい切り捨てられ、シンプルに研ぎ澄まされた作品になっています。
 ほぼ全くの白バックの中に、対象物のみを正面から捉えた作品群を見ていると、さながら写真家が被写体と向き合うように、自分もまた、それらと直に対峙しているように思えてきて、膝をただして身が引き締まる思いがしてくる。
 その、ミニマリズム的な引き算ゆえに、情緒やモノガタリ性が介在する余地は全くありません。ただ何を撮りたかったか、それのみが、虚空に凛と屹立しているみたい。一般的なタブー感に対しての、露悪趣味的な逃げ道が許されていないので、その本質が剥きだしになった作品が、見ている自分の本質も剥きだしにする。
 素晴らしい。
 見栄も、華飾も、言い訳もなく、本質のみが存在するアート。
 う〜ん、これは私にとって、一つの理想のあり方だ。
 しかし、私ごときが、いくら文章で説明しても、それは詮ないこと。言語という論理は、絵画や写真といった視覚芸術を、ある程度まで解析したり、或いは、その存在価値を補強することはできても、本質的な核の部分までは決して解体できない……というのが、私のフィロソフィーなので。
 というわけで、興味を惹かれた方は、とにかく山中学氏のサイトへ行って、実際の作品画像を見て下さい。
 ともあれ、私はものすごく感銘を受けました。

 写真集の方は、作品のテーマごとに章立てされ、それが年代順に並べられています。さながら、アーティストの回顧展を見ているよう。
 装丁もお見事。上の書影をご覧いただければお判りのように、真っ白でマットな外函に、スミ一色のテキストが最小限の大きさで配されています。
 函から本体を出すと、やはり真っ白な和紙のような風合いの紙に、「羯諦」の二文字だけがポツンと書かれた表紙が。見返しは、やはり白ながら、今度は絹目の風合いのある紙。
 作品同様に、余分なものが全くない、清浄な美しさのある本になっています。その清浄さゆえに、汚損を恐れて、思わず扱う手つきも慎重になってしまいますが、この粛然とした感覚も、いかにも中身の作品に相応しい感じ。
 オブジェ的にも、美しい本だと思います。
 版元による本の紹介ページはこちら。直接購入可能。サイン本も若干数あるそうです。
 アマゾンでも購入できます。こちら

“Pornogami”、他2冊

 私がたまに利用する、画集とかを取り扱っている海外書店で、Bud’s Art Booksってとこがあります。欲しい本が、amazon.comでは取り扱いや在庫がなかったりするとき、ここで見つかったりするので重宝しております。
 で、この本屋さん、今どき珍しく、一度購入するとその後定期的に、120ページもあるフルカラーのカタログを送ってきてくれます。毎回それが届くと、何か面白い画集や写真集はないかな〜、と、ペラペラ捲って探すのが楽しみなんですけど、数日前に届いたそれを見ていたら、思わず大笑いしてしまった本がありまして、それがこの本。

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“Pornogami: A Guide To The Ancient Art Of Paper-folding For Adults” by Master Sugoi
『ポルノガミ:大人のための古典折り紙技法ガイド』マスター・スゴイ著
 よーするに、折り紙でエッチなヤツをイロイロ作っちゃおうという、思わず「エロ紙」とかベタベタなことを言いたくなるシロモノなんですが、いやいや、日本の伝統的な折り紙が海外でブームになっているとか、聞いたことはありましたが、まさかこんな邪進化を遂げていたとは(笑)。著者名からしてチョーあやしい(笑)。
 興味本位で、pornogamiでググってみたら、画像動画も出てくるもんだから、「しょーもね〜っ!(笑)」と思いつつ、でも何か楽しげで、ほのぼのしちゃったり。

 カタログの同じページには、同様にくだらない(褒め言葉です)エロネタの本が幾つかあって、例えば“Naughty Dots”(エロい点々)っつー、白紙に打たれた点を順番通りに結んでいくと、エッチな絵が浮かびあがる(とはいえ、所詮は折れ線グラフで描いたみたいな絵だけど)本とか、“Where’s Dildo?”(ディルドをさがせ!)っつー、ページのどこかに隠れているハリガタを探すゲームとか、エッチな言葉のクロスワードとか、男女別々に描かれているシルエットで体位が合致するのを選ぶパズルとか、そんなゲームが100も載ってる本とかがありまして(笑)。
 まったく、どれもこれもくだらなくて(しつこいようですが、褒め言葉です)、実にヨロシイ(笑)。
 まあ、かといって本を買いたいかというと、流石にそれはちょっと微妙ですけど(笑)。
 でも、三冊とも日本のアマゾンにもあったので、興味のある方はどうぞ(笑)。
『ポルノガミ』
『エロい点々』
『ディルドをさがせ!』

“Archetype: The Art of Timothy Bradstreet”

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 最近買った画集、その3。
 やはりアメコミのカバー画や、映画のポスター等のイラストレーションを描いている、ティモシー・ブラッドストリートの画集。どうやら第二画集らしいです。
 この人は、先日のジョー・ジャスコや先々日のボブ・ラーキンとは異なり、もっと若い世代で、絵の雰囲気もぐっと今様です。因みに、ラーキンが1949年生まれ、ジャスコが59年生まれなのに対して、このブラッドストリートは67年生まれ。……うわ、私より年下じゃん(笑)。
 収録作品は、アメコミ「ヘルブレイザー」(これの映画化が『コンスタンティン』)や「パニッシャー」のカバー画(私がこの人の絵を意識したのも、ここいらへんから)、良く判らないけどゲームか何かのヴィジュアル、映画『ブレイド2』(ギレルモ・デル・トロ監督)や『パニッシャー』(トーマス・ジェーン版)のビジュアル、エディトリアル用らしき『ノスフェラトゥ』(ヴェルナー・ヘルツォーク版)、『13日の金曜日』のジェイソン、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス、等々が掲載されています。
 それ以外にも、デジタル彩色作品に関しては、彩色済みのものとオリジナルのモノクロ線画が両方載っていたり、作画資料用の写真、サムネイルやラフスケッチ、コミックスからの数ページなんかも載ってます。
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 とにかく、画面をカッコヨク見せることに長けている人で、明暗構成の妙技と構図の緊張感はバツグン。ポーズの切り取り方とかは、さほどエッジなことはやっていない(というか、逆にシンプルなものが多い)んですが、それを画面構成だけで、問答無用のカッコヨサに仕上げるセンスは、本当にスゴイ。
 基本的に、コントラストの効いた白黒のペン画に、淡彩で彩色していくパターンで、彩色者は別の人(主にグラント・ゴレアシュという人のよう)の場合もあるんですが、油絵(これがまた、めちゃくちゃフォトリアル)やペンシル・ドローイングなんかも、ちょっとあり。
 ただ、私の趣味から言うと、モノクロのペン画や、それに水彩やカラーインクで淡彩を施したものは、文句なしに好きなんですが、デジタル彩色で、しかもかなりコッテリと色を乗せているものに関しては、質感が余りに写真に近すぎて、「これだったら写真を加工したものでいいんじゃないかなぁ……」という感じを受けてしまい、絵としての面白みには、ちょっと欠けるような気はします。
 とはいえ、全体に通じるダークなテイストとは、やっぱ「カッコイイなあ」と思いますけど。

 画集としては、先日の“The Art of Joe Jusko”と同じ版元なので、造本や大きさ、ページ数なども、ほぼ一緒。大判のハードカバーで、頑丈な造りの好画集です。
 テキストは、マット・スターンの前書き、ジム・ステランコの序文、充実したバイオグラフィー(ここにフランク・フラゼッタやバーニー・ライトソンのペン画が載っていて、ハイコントラストなペン画のルーツが判る感じでした)、の他、ページのあちこちに、ギレルモ・デル・トロ、トーマス・ジェーン、ゲイル・アン・ハード、バーニー・ライトソン、ゲイリー・ジャンニ、等々、映画界やイラスト業界の著名人のコメントなんかが載ってます。
“Archetype: The Art of Timothy Bradstreet”(amazon.co.jp)
 これは何故か、日本のアマゾンにもちゃんと在庫があって、しかも割引中。ジョー・ジャスコの画集と同じ版元なのに、どういうわけだろう、この違いは。
 因みに、これと同じ本で値段が倍近くするやつがありますが(これ)、これは「Sgd Ltd版」という表記があるので、おそらくサイン入りの限定版ではないかと。

“The Art of Joe Jusko”

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 最近買った画集、その2。
紹昨日介したボブ・ラーキン同様、アメコミのカバー画などを描いてきた、ジョー・ジャスコの画集。
 経歴を見ると、ちょっと変わった人で、マーヴェルやエピック・マガジンなどでイラストレーションを描いていたかと思うと、その後ポリス・アカデミーに入学して、NYPDの警察官になったりしています。数年後、アートへの情熱が戻ったとかで、警察官からアーティストに復帰はしたようですけど。
 またまた、表紙はご覧のようなセクシーねーちゃん(&シム・シメールみたいなホワイト・タイガー)ですが、中身は、半分くらいは裸のマッチョ絵、それも、ボブ・ラーキン以上に暑苦し〜い野郎絵……ってなパターンです(笑)。

 収録作品は、やはりボブ・ラーキン同様にアメコミ版コナン”The Savage Sword of Conan”のカバー・イラストレーションや、様々なアメコミ・ヒーローの他、エドガー・ライス・バローズのターザン・シリーズのドイツ語版表紙絵(私が初めてこの人の絵を意識したのは、これでした)、同じくバローズの火星シリーズのイラストレーション、セクシーねーちゃん系だとヴァンピレラにシーナにララ・クロフト、はたまたWWFのプロレス関係のイラストレーションなんてのもあります。
 また、下絵やラフスケッチもあれば、古いものではアマチュア時代の未発表作まで掲載されているので、このアーティストの全画業を俯瞰できるような内容になっています。
 巻末には、簡単なHOW TO DRAWページまで付いていて、これは絵描きにとっては興味深く見られるはず。

 画風は、これまたボブ・ラーキン同様、コテコテのアメリカン・リアリズム。
 リアリズム的な上手さという点ではラーキンには及びませんが、細密画的な細部の描き込みとか、後述する筋肉描写への独特なこだわりなどによって、パルプ系のリアル・イラストレーションには余り見られない「アク」があるので、それが独特な個性になっているという特徴があります。原色を多用した、時として毒々しいまでの色彩感覚も、その「アク」を強めている感じ。
 さて、その筋肉描写ですが、サンプルをご覧いただければ一目瞭然のように、あからさまにボディビルダーのそれを指向しています。筋肉の張りや血管の浮きから、作品によってはポーズから肌ツヤにいたるまで、コンテストに出ているのボディービルダーか、ボディービル雑誌に掲載されているようなトレーニング風景の写真みたい(左下の作品なんかその典型)。
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 まあ、マッチョを描く人なら、多かれ少なかれボディービルは参考にするでしょうけど、ここまでボディービルボディービルしている人は、ファンタジー・アート系ではちょっと珍しいかも。かなりフェティッシュというか、マニアックな香りすらします。
 個人的な感覚で言えば、例えばターザンがここまでボディービルダーなのは、ちょっとどうかという気もするんですが、それでも、この徹底したこだわりと描き込み具合には、問答無用の強さと迫力は感じます。ボディービル系のマッスル・マニアの人だったら、なおさらタマラナイ魅力を感じられるかも。

 版形はA4強の大判。ハードカバーの立派な造本で、ページ数も330ページ近くとヴォリュームたっぷり。もちろん、全ページフルカラー。
 テキストも、詳細なバイオグラフィとか作品解説とか、ふんだんに入っています。造本は頑丈だし、印刷も高品質なので、画集としてはわりと理想的な作りかと。その分、お値段もそれなりですが。
“The Art of Joe Jusko”(amazon.co.jp)
 これまた、何故か日本のアマゾンだとマーケット・プレイスしか出ていませんが、アメリカのアマゾンには在庫があるので、送料さえ気にしなければ、ボブ・ラーキンの画集と一緒に注文するってのもアリかも。

“The Savage Art of Bob Larkin (Volume One)”

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 最近買った画集、その1。
 アメコミのカバー画などを描いてきたアーティスト、ボブ・ラーキンの画集。米ウィキペディアによると、どうやら主にマーヴェルで仕事をしていた方のようですね。
 表紙はご覧のようなセクシーねーちゃんですが、中身は下にあるサンプルでお判りのように、半裸のマッチョや暑苦しい野郎どもばっかです。
 前にここここで書いた、コナンのアメコミ”The Savage Sword of Conan”のカバー・イラストレーションや、ドク・サヴェイジ、パニッシャー、ハルク、スター・トレック、スター・ウォーズから、聖書ネタ、西部劇ネタ、ヴェトナム戦争ネタまで幅広く収録。
 この出版社、女性のセクシー・ピンナップ画集ばっか出してるトコなので、表紙だけで中身を確かめずに買ったアメリカのスケベ野郎どもが、ページを開いて激怒しないか、他人事ながら心配になってしまう、そのくらい男絵ばっかだった(笑)。

 画風としては、コテコテのアメリカン・リアリズム、パルプ風味。
 特に目立った個性はないタイプの絵ですが、とにかくリアリズム的に達者なので、それ系が好きな人だったら、文句なく楽しめるはず。作品ごとに出来不出来もなく、職人芸的なイラストレーションを堪能できます。
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 強いて言うなら、いかんせん画風がクラシカルなリアリズムなので、原色使いの奇抜なコスチュームのアメコミ・ヒーロー系は、ちょっと収まりが悪い感じがする程度。あと、パルプ系の色彩感覚(乱暴に説明すると、ちょっとケバくてドギつい感じ)が、私はそーゆーのも大好きなんだけど、苦手な方もおられるかも。

 画集としては簡素な造りで、サイズはA4強の大判ですが、ソフトカバーで、ページ数も64ページと少なめ。
 テキストも、序文(ジョー・ジャスコ)と後書き(アレックス・ロス)のみで、バイオグラフィーすらないのには、ちとビックリ。
 反面、絵は誌面をフルに使って、ページ1〜4点の割合でふんだんに入っているので、薄さのわりには、満足感はけっこうあります
 高級感はないけれど、画集としては、決して悪くないという感じ。
“The Savage Art of Bob Larkin, Volume One”(amazon.co.jp)
 いちおう日本のアマゾンでも扱っていますが、現状マーケット・プレイスのみ。約20ドルの本なのに、5000円以上ふっかけている業者もあるので、要注意。
 アメリカのアマゾンだと、在庫アリなんだけどなぁ……。

 この画集の序文を書いている、同傾向のイラストレーター、ジョー・ジャスコの画集も、最近購入したので、近日中に紹介記事をアップ予定。
 お楽しみに(笑)。

『エロスの原風景』

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『エロスの原風景 江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史』/松沢呉一(ポット出版)

エロ本は遠からず消えると言っていい。そんな時代だからこそ、こんな本を出す意義もあるだろう──(「はじめに」より)
エロ本173冊! フルカラー図版354点収録!!
稀代のエロ本蒐集家・松沢呉一による日本出版史の裏街道を辿る男子必携のエロ本ガイド!!

 ポット出版さんからいただきました。
 江戸時代から綿々と続きながら、文化史的には黙殺されてきた「エロ本」の歴史を、豊富かつ貴重な図版とテキストで紹介する本です。

 いやぁ、面白かった〜!
 まず、とにかく「エロ本」をキーワードに、江戸時代の遊郭ガイドから戦後のカストリ雑誌、おフランスの美麗なヴィテージ・ヌード絵葉書から、自販機で売られていた即物的なエロ本まで、紹介されている書籍の、時代やジャンルの幅広さがスゴい。
 加えて、それを解説するテキストが面白い。風俗産業の変遷や印刷技術の発展と絡めた、硬派な論考がされるかと思えば、ユーモアたっぷりの語り口もあり(読んでいて何度か噴き出しました)、面白いわ勉強になるわ、もう夢中で読んじゃいました。
 でも、何がスゴいって、これらが全て「一次資料」によるものだってことだよな〜。
 こういうことを、孫引きでアレコレ書く人は多い(私も他人のことは言えません)だろうけれど、全て自分で蒐集されているということは、ホント、もっと衆目を集めてしかるべき偉業だと思います。
 私も見習わなくちゃ。
 現在、『日本のゲイ・エロティック・アート vol.3』の作業中(牛歩ですけど……)なので、ピシッと襟を正す気持ちにさせられました。

 さて、ゲイ関係もちゃんと、「ホモアルバム」という一章が入ってます。ゲイ雑誌誕生前夜、およびその黎明期に、通信販売などで販売されていたエロ写真の紹介。
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 こういう写真を撮っていた人では、「大阪のおっちゃん」という人が有名なんですが(ゲイアートの家さんが、まとまった数を所蔵・保管なさっています)、このジャンルのものは、ゲイ雑誌上ですら殆ど紹介されたことがないので、これは貴重。
 因みに、こうして販売されていたプリントには、男のヌードや絡みの写真だけではなく、男絵の複写プリントも存在していたんですが、それもしっかり、大川辰次と三島剛の二点が、この本には掲載されています。
 余談ですけど、掲載されている三島剛のプリントは、実は私も同じものを持っているので、ちょっと嬉しくなったり(笑)。
 そして実は、著者の松沢呉一さんは、私にとっての恩人でもあります。
 松沢さんなくしては、私は『日本のゲイ・エロティック・アート』シリーズを、出版することはできなかったでしょう。そこいらへんの経緯は、前述の「ホモアルバム」の章に書かれているので、ぜひご一読あれ。
 ご本人は、さらりと謙遜して書かれていますけど、ホント大恩人ですよ。私個人のみならず、日本のゲイ文化史に興味を持つ人、全てにとって。
 ゲイ・エロティック・アート絡みでは、『日本のゲイ・エロティック・アート vol.1』で取り上げた、小田利美の描いたノンケ向けカラー・イラストが、一点だけですけど掲載されているのも嬉しいところ。ただ、「山田利美」と誤植されてるのが……ポットさん、しっかりして〜!

 個人的な趣味では、その小田利美も参加していた、「創文社グループ ”ニセモノ”だから持ち得た特異な魅力」の、キッチュさがたまりませんでした。
 陽気でカラフルな表紙といい、正気を疑うような珍奇なヌード写真といい、もう、ステキすぎ! 古書市で『奇抜雑誌』(ってゆータイトルの雑誌を出していたんです)を見かけたら、思わず買っちゃいそう(笑)。
 イラスト関係だと、「カストリ雑誌 敗戦直後の日本に咲いた徒花」が良かったな〜。
 淫靡でイカガワシイ雰囲気なんだけど、でもオシャレでもある、表紙画像の数々がステキ。竹中英太郎や水島爾保布なんかを思わせる絵があるかと思えば、マティスもどきやタマラ・ド・レンピッカもどきまであったり。
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 テキスト方面では、「吉原細見 江戸時代に生まれた風俗誌の原型」や「オッパイ小僧 日本初の巨乳アイドル・川口初子」なんかが、特に興味深かった。因みに、学究的に「ふむふむ」と読みながら、その語り口に、つい噴き出してしまったのも、この二章だったりします(笑)。

 そんなこんなで、実に面白く、しかも「他に類がない」ことは間違いなしの本なので、皆様、ぜひお買い求めあれ。
 とゆーのも、この本に対する唯一の不満が、「もっと読みたい!」ってことでありまして、まだまだ未収録原稿(および未紹介コレクション)はあるようなので、これが売れれば続刊もされて、私の「もっと読みたい!」欲も満たされるわけで(笑)。
『エロスの原風景』(amazon.co.jp)
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 著者の松沢呉一さんのブログ(『エロスの原風景』関係のコンテンツ豊富、および最近のエントリーでは、出版における部数と印税や、書籍の価格などに関する記事が、実に興味深いのでオススメです)はこちら

“Secret Identity: The Fetish Art of Superman’s Co-creator Joe Shuster”

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“Secret Identity: The Fetish Art of Superman’s Co-creator Joe Shuster”

 ヘテロ系ヴィンテージ・フェティッシュ・アート画集(洋書)のご紹介。
 書名からもお判りのように、この本は、誰でも知っているアメコミ由来のスーパーヒーロー『スーパーマン』の生みの親の一人、作画担当のジョー・シャスターが、”Nights of Horror”というアンダーグラウンドなフェティッシュ雑誌に発表した、イラストやマンガを集めた画集です。
 まず、何よりかにより、アメリカ的な健全明朗さを絵に描いたようなスーパーマンの、オリジナル・クリエーターが、こんなボンデージ画やサドマゾ画を描いていた……という事実にビックリ。
 もちろん私は、そのオリジナル版アメコミの『スーパーマン』は読んだことがないので、実感としては良く判りませんが、それに慣れ親しんできたアメリカのファンにとっては、この画集に収録されているフェティッシュ・アートの数々は、どう見ても「クラーク・ケントやロイス・レーンやジミー・オルセンやレックス・ルーサーが、裸でSMに興じている」としか見えないらしく(……と、解説にそんなことが書いてあります)、そりゃ、衝撃度やお宝感もさぞや大きいんだろうなぁ……なんて思ったり。
 とはいえ、件のアングラ雑誌は、発行されていたのが1950年代ということもあり、絵の内容自体は、現在の我々の目には、ごくごく大人しく映ります。
 拘束された裸の男女が、鞭で打たれていたり焼きゴテを押されたりしてはいても、陰部は決して露出しない。絵柄が淡泊で表情もシンプルなせいもあり、性的や暴力的な情景が描かれていても、何となくノンビリほんわかしたムードがあって、時としてキュートで愛らしくさえ見えます。
 というわけで、この画集の場合、絵の内容そのものよりも、スキャンダラスな話題性の方が大きい、という感は、正直否めません。
 じっさい、同じくヴィンテージ・フェティッシュ・アートでも、ジョン・ウィリーやエネグやエリック・スタントンなんかの作品と比べると、エロティック・アートとしては、かなり薄味ですしね。

 ただ、個人的に、この人の描く「マゾ男」には、大きく興味を惹かれます。
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 本書の収録作のうち、表紙や上のサンプル画像のような「男マゾもの」の絵は、全体のおよそ3〜4割と、決して多くはないんですが、そこで描かれている被虐者には、世間一般で見られる「男マゾもの」とは、ちょっと異なる特徴があるんですな。
 概してノンケ作家さんの描く「男マゾもの」は、美しく強い女性から、侮蔑され虐げられながら、そこにマゾ男は被虐の悦びを感じ、女性を女王や女神として崇める……といった構図が多い。絵画だと、古くはエリック・スタントンから現在では我が国の春川ナミオに至るまで、被虐者の男の「情けなさ」や「みじめさ」が強調されている。
 ところが、このジョー・シャスターの描く「男マゾもの」には、それがほとんど見られない。シャスターのマゾ男には、スタントンのマゾ男の「哀れさ」や、春川ナミオのマゾ男の「矮小さ」といった要素は、微塵も見られない。また、フェミナイズによる恥辱といった要素も皆無です。
 そもそも体型からして、被虐者の男は皆、筋肉隆々のヒーロー体型ですし、責めを受けているときの表情も、「惨めに泣き叫ぶ」ではなく、「男らしく耐える」風に描かれている。いかにも『鋼鉄の男』と賞される世界的なヒーローの、生みの親らしい作風。
 つまり、シャスターの男マゾ絵は、世間的に(おそらく)多勢を占めるであろう、「自らを貶めることに酔うマゾ」とは、明らかに異なっている。画家自身のマゾヒズム傾向の有無や、その指向性については、私は何とも言えませんが、しかし少なくとも彼の描いた絵からは、以前ここで『野郎系パルプ雑誌の表紙絵』について書いたときと同様に、「苦難に耐える自分の男らしさに酔うナルシシズム系のマゾ」の香りが、濃厚に漂ってきます。
 それが、私の変態アンテナにビンビン反応するので、こうしてご紹介する次第。

 まあ、前述したように、エロティシズムそのものは薄味ですが、例え直截的なエロスは期待できなくても、絵そのものには、サブカル好きの方にウケそうな、ちょっとユルくてキュートな魅力があるし、その絵の雰囲気を活かした、ポップで明るくて品の良いデザインやレイアウトも、実にいい感じ。
 約22センチ四方の正方形という、版型のコンパクトさも、本の内容に良く合っています。造本もしっかりしていて、印刷も美麗。ちょっと、ギフト・ブック的なかわいさもあったりして。
 あと、作家の生い立ちや、時代背景などを絡めた解説も読み応えありそう(けっこう長いんで、まだほとんど読んでないんですけど)だし、序文がスタン・リー、裏表紙の推薦文はアレックス・ロスという豪華さなので、アメコミに興味のある方なら、資料的な価値も高いかも?
“Secret Identity: The Fetish Art of Superman’s Co-creator Joe Shuster”(amazon.co.jp)