書籍」カテゴリーアーカイブ

つれづれ

dm_group_naomichi
 奥津直道さんから、グループ展のご案内をいただきました。

gender series vol.2『男が描く男・女が描く女』
2009.6.8(月)〜6.14(日)
12:00-19:00まで/最終日17:00まで
ジェンダーシリーズの第二回目として「人物」を取り上げてみた。同性が描く同性の像は、異性が捉えるものと微妙な温度差があるように思う。どこに魅力を感じ、どのような世界観を伝えたいのか八人の作品の中から見えてくるものを検証したい。/柴田悦子画廊
出品作家: 阿部清子/奥津直道/勝連義也/木村浩之/伴清一郎/平野俊一/佛淵静子/松谷千夏子
柴田悦子画廊
〒104-0061 東京都中央区銀座1-5-1第3太陽ビル2F
TEL & FAX:03-3563-1660
http://www.shibataetsuko.com/

 私が監修および出品している「伊藤文學コレクション/薔薇族周辺のゲイ・エロティックアート展」と、会期も重なっているし会場も近くなので、来週以降銀座にお出かけする方は、ぜひハシゴしてみてはいかがでしょう?

book_zangeroku
 ポット出版さんからご本をいただきました。

『懺悔録〜我は如何にしてマゾヒストとなりし乎』沼正三
戦後最大の奇書『家畜人ヤプー』の著者・沼正三、ついに逝く─
●沼正三がその死の直前までSM専門誌「S&Mスナイパー」(ワイレア出版、現在は休刊)に書き続けた実体験エッセイ、「ある異常者の体当たり随想録」から選集。
●未完の短編小説「化粧台の秘密」、2006年に受けた生前のインタビューを特別収録!!
出版社による本の紹介ページ

 現在締め切り明けホヤホヤなので、まだ序文とインタビューしか読んでいないんですが、なにはともあれ、この装丁がカッコイイなぁ。
 上の書影では判らないと思いますが、風合いのあるマットな黒の中に、バーコ印刷(だと思う)で入れてあるグロスの黒のワンポイント。カバーを外した本体も、黒の中に黒でデザインされていて、光の当たり方で文字や図柄が浮かびあがってくる。
 ステキ、ステキ。所有しているのが嬉しくなっちゃうタイプのご本でした。
 アマゾンでのお買い求めは、こちらから。

CD_MOROCCO
 音楽は、ここんところモロッコで買ってきたCDばっかり聴いています。
 どこの国の音楽でも、私は懐メロ系というか、古めの録音のものが大好物なので、今回の旅行でも「なんか古いのちょ〜だい!」と言って買ってきました(笑)。
 ただ、帰国してから検索してみたんですが、左上のNass El Ghiwane(ナス・エル・ギワン)以外の情報は、ほぼゼロだったので、詳しいことは何も判りません。
 まず、そのNas El Ghiwaneから。ガイドブックにも書いてありましたが、70年代にこのNass El Ghiwaneが、グナワなどのモロッコの民族音楽を発展させた大衆音楽を発表したことによって、モロッコにバンド・ブームのようなものが起こったそうです。「モロッコのビートルズ」とか「モロッコのローリングストーンズ」なんて異名もとっているとか。
 確かに、伝統音楽をルーツにしつつも、グルーヴィなポップさがあるような。聴きやすい反面、トランス感はあまりなし。
 右上のIzanzarenは、もっとルーツ寄りなのかな。一曲一曲が長いし、聴いていて何となく語り物みたいな感触がある。ゆったりとした長い前奏は叙情的にしっとり聴かせ、それからテンポがアップ。パーカッションと撥弦楽器のアルペジオのリフレインに乗せて、ソロや掛け合いやコーラスで、どこかノスタルジックな感じのするメロディーを聴かせてくれます。
 いやぁ、これは個人的に大当たり。いぶし銀といった感じの柔らかなオヤジ・ヴォーカルの魅力もあって、何とも癒される。ダウナー系のトランス感もあり。
 ちょっと面白かったのは、聴いていて「え? これ、インドかネパールの音楽じゃないの?」とか、「まるで沖縄民謡!」みたいな曲がありました。全体的に、アッパーなグルーヴ感はなし。
 左下のH. Mehdi b. Mubarekは、Izanzarenより更に激シブ。
 ヴォーカル自体は、Izanzarenより張りがあって、唱法も歌い上げる感じなんですが、無伴奏の独唱に、擦弦楽器や撥弦楽器や笛やコーラスによる短くてシンプルなメロディーが、合いの手みたいに入ってくるだけ……と思いきや、一瞬だけ金属質のパーカッションが乱入してきて、ぐわっとテンションが上がった……かと思ったら、次の瞬間にはもう退場、ふたたび渋〜い歌が……ってな塩梅。ダウナーなトランス感が、Izanzarenより更にアップ。
 あと、これまたちょっと面白かったのが、笛が入ってくる曲が、音の質感やメロディーのせいか、何だかバルカン音楽っぽい感じに聞こえました。
 右下のArchach(これがホントにグループ名なのかどうか自信なし)は、Nass El GhiwaneとIzanzarenの中間な感じなので、ひょっとして件のバンドブームで出てきた人たちなのかも。
 ユニゾンのコーラスと撥弦楽器とパーカッションのリフレインに、後半部分的にアドリブっぽいフレーズが絡んでくるとか、ソロの語り物みたいなルーツ寄りっぽいものもあれば、そこにドラムセットが加わってグルーヴ感がアップしている曲もあり。Nass El Ghiwaneよりポップ感はないけれど、まったりとした和み度はアップ。
 という感じで、けっこうどれも気に入って愛聴しています。
 モロッコ音楽って、実は今までハッサン・ハクムーンとかグナワ・ディフュージョンくらいしか聴いたことがなく、さほど「好き!」って感じでもなかったので、今回の旅行ではCDはちょびっとしか買わなかったんですが……しまったな〜、こんなに気に入るんだったら、もっといっぱい買ってくれば良かった(笑)。

“Outside/Inside” by Bruce Of Los Angeles

Bruceoflosangeles_outsidein ヴィンテージ・メールヌード写真集のご紹介。
 ブルース・オブ・ロサンジェルスことブルース・ベラスは、1940年代から70年代にかけて活躍した、アメリカの写真家。当初は、当時アメリカで流行していたボディービル・ブームの中で、ビルダーの写真などを撮っていましたが、56年に自らフィジーク雑誌「メール・フィギュア」を創刊することによって、その作品はゲイ・エロティック・アートに接近していきました。
 このフィジーク雑誌というのは、いわばボディービル雑誌のふりをしたゲイ雑誌のようなもので、トム・オブ・フィンランドやジョージ・クエインタンスといったゲイ・エロティック・アーティストたちも、こういった雑誌を経て世に出ています。
 ブルース・オブ・ロサンジェルスの成功は多くの模倣者を生み、更に後世には、ロバート・メイプルソープやブルース・ウェーバーやハーブ・リッツといった、コマーシャル/ファインアートの写真家にも影響を与えました。
 そんなブルースの写真集ですから、当然のことながら、エロティック・アートとしての表現は、時代に即したごく控えめのものです。
 下にリンクを貼った日本アマゾンの商品ページに、内容のサンプルが少し掲載されていますが、それをご覧になればお判りのように、その写真には、現在に生きる我々の感じるところの、ポルノグラフィー的な過激さというのは、ほぼ皆無と言っても良いでしょう。これらの写真が、当時のゲイたちにとってどれだけ「扇情的」なものであったかは、これは想像を逞しくするしかありません。
 とはいえ、ではこれらの写真が、今となってはノスタルジーの対象にしかならないものかというと、決してそうではないのが、このカメラマンのスゴいところ。ギリシャ彫刻的な「男性美」にフォーカスを絞り、ただそれのみを、堅牢なコンポジションと共に捉えた作品の数々は、被写体と画面双方の美しさによって、今なお新鮮に映ります。それらをご覧になれば、前述した後世の写真家への影響というのも、良くお判りいただけるはず。
 また個人的には、シンプルなメールヌード以外にも、数は少ないながら鞭打ち人間馬といったサドマゾヒズム的な要素が見られるのも興味深いところ。こういった傾向は、同時代のトム・オブ・フィンランドやジョージ・クエインタンスの作品でも見られます。以前こちらの記事で少し書きましたが、暴力性や被虐性といったものが、古くからマッチョイズムの表現手法の一つとして存在しているということが、この写真集でも改めて確認できます。
 本のサイズは、アナログLPジャケットくらいの大判。頑丈なハードカバーで、同じく頑丈な外箱入り。この外箱は、写真のプリントを入れるラボ袋を模したデザインになっていて、なるほど、当時ナマ写真を注文すると(フィジーク雑誌ではプリントやムービーの通信販売も行われていました)、きっとこういう袋に入ったものが送られてきたんだろうなぁ、などと偲ばれる作りになっています。
 本文の方は、屋外で撮られたもの(Outside)と屋内のもの(Inside)の二部構成。上質な紙に上質の印刷。ブルースのモデル・リストや、そのパーソナル・データを完備(本書収録作だと、有名どころでは、ジョー・ダレッサンドロの背面からのフルヌードあり)。
 そんな感じで、所有欲をしっかり満足させてくれるような、上質な造本の写真集になっています。
 それと、もう一つ特筆したいのが、これはアマゾンの商品説明には何も書かれていないんですが、オマケとしてDVDが一枚付いています。
 収録されているのは、(おそらく)当時販売されていた、ブルースが撮影したメールヌードのショートフィルム12本。内容はというと、健康的な肉体美の青年たちが、ビーチや牧場などで裸になり、ポージングしたり水遊びをしたり男同士で戯れたりする……といった、ごく他愛もないものなんですが、これが何ともノスタルジックな美しさがあってヨロシイ。
 フィルムはレストアされているらしく、多少の傷やゴミはあるにせよ、画面の揺れや明滅、トビやツブレはほぼなく良好。音声はBGMのみ。音質の良さからして後付でしょうが、画面のノスタルジックなムードともマッチしていて佳良。ヴィンテージ・ゲイ・アートのファンやメールヌード好きはもちろん、環境映像的にも楽しめそうな、なかなか優れモノの内容です。
 ご参考までに、キャプチャ画像を幾つか。こちらこちら
 そんなこんなで、決して安価ではないですけれど、豪華写真集にレアもののDVD付きなので、写真集好き、メールヌード好き、ゲイアート好きだったら、買って損はないマストな一冊ですぞ。
 あ、でもオカズを期待する人には不向きですからね(笑)。
“Outside/Inside” Bruce Of Los Angeles (amazon.co.jp)

『三羽のカラス』とか”XXL”続報とか

Sanwanokarasu_2 児雷也大画伯から、御著『三羽のカラス』を頂戴しました。ふふふ、サイン入り。役得、役得。
 大画伯のマンガは、基本的にはほのぼのラブラブ系が多いけど、今回の単行本は、ちょっとダークなヤツとか、ちょい無理矢理系とか、ボンデージのシーンとか入っていて、嬉しいなぁ(笑)。でも、もし収録作から一番のお気に入りを選べと言われたら、ハートウォーミング系の『希望町三丁目富士乃湯物語』。私の趣味からすると、意外かもしれないけど(笑)。
 それにしても、どのページもどのコマも、画面の密度が濃いこと濃いこと。おかげで、読み終わるのに、えらい時間がかかったぃ(笑)。
 あとは、凝り性の大画伯らしく、これ、装丁もレイアウトも、全部ご自分でおやりになったんでしょうね。完成原稿を、ネーム入力済み(&陰部修正済み)のQuarkXPressファイルで納品するマンガ家なんて、大画伯の他にいらっしゃるんでしょうか。
 因みに、御自身のブログで、以前、

「『三匹のブタ』発売おめでとうございまーす」と。
なにその児童図書っぽいタイトル。

などとお書きになっておられましたが(え〜、いつも画伯には大先生呼ばわりされてるので、そのお返しに、ちょっと通常以上に敬語調にしてみました)、じっさい、カバーを外すとホントに児童図書っぽく見えたりして(笑)。こーゆー感じの本、学級文庫とかにあったような(笑)。
 あ〜、あといい機会なので、世間様、特にノンケさんと腐女子の皆様に一言。
 え〜、よく私の絵を「ガチムチ」呼ばわりされる方がいらっしゃいますけど、基本的に私のキャラはただの「マッチョ」でして、「ガチムチ」じゃないんですよ。ホントーの「ガチムチ」ってのは、児雷也大画伯のお描きになるような男のことを言うんです。
 さて、もう一つ書籍情報。
 以前ここで紹介して、その後ここで「amazon.co.jpでの取り扱いがなくなっちゃった」とお伝えした、世界のゲイ・アートの超マエストロ、Tom of Finlandの超豪華画集”XXL”ですが、また復活していました。マーケット・プレイスですけど、今ならamazon.co.jpで入手可能なようです。
“XXL” Tom of Finland (amazon.co.jp)
 前回、買い逃して悔しい思いをした方、いらしゃいましたら、今がチャンスかも。

やっぱり…

 先日紹介したこの本、悪い予感が当たって、やっぱり取り扱いがなくなっちゃったようです。商品ページがなくなってるし、検索してもヒットしない。
 というわけで、早めにオーダーして無事に買えた方は、ラッキーだったということで。
 アメリカのアマゾンだと、問題なく売られているので、リンクを貼っておきますね。
“XXL” Tom of Finland (amazon.com)
 しかし、どーも日本のアマゾンは、TaschenとBruno Gmunderの扱いには厳しいなぁ。
<続報>
 と思ったら、マーケット・プレイスですけど、日本のアマゾンでも復活しました。
“XXL” Tom of Finland (amazon.co.jp)

“XXL” Tom of Finland

tomoffinland_xxl
 ゲイ・アートのマエストロ、トム・オブ・フィンランドの新しい画集が、TASCHEN社から出ました。
 トム・オブ・フィンランドの作品集としては、同じTASCHEN社から、既に”The Art of Pleasure”という分厚い画集や、”Kake”などのコミックス集などが出ており、また、Tom of Finland Foundationからも、画集”Retrospective”シリーズ(全三巻)が出ていて、それらを既に所持している自分としては、この新しい画集”XXL”を買うのは、悩ましいところではありました。値段もけっこうするし、中身も、ひょっとして”The Art of Pleasure”の焼き直しかも知れないし……。

 しかし、思い切って購入してみたところ、これがスゴい画集だった!
 何と言っても、本のサイズがデカいのにビックリ! 横29センチ×高さ40.5センチ……なんてスペックだとピンとこないかもしれませんが、まあこの比較画像(笑)をご覧あれ。
tomoffinland_xxl_size
この大きさで、厚みも8センチ近くあるもんだから、まあ持っていて重いこと重いこと(笑)。

 流石にこれだけ大判だと、絵の方もド迫力です。
 1ページ1点、あるいはドカンと見開き1点の掲載は、例えそれが既に見知っている作品でも、受けるインパクトが段違いで、ページを開いた瞬間「ひゃ〜っ!」ってな感じです……って、何のこっちゃい(笑)。しかも、折り込みページもあったりして、それを拡げるともっとスゴいことになって、レザーマンたちのデュオのポートレイトが、6組12名、幅1メートル以上の横長の画面に、ずらりと並んで立っている(ま、跪いている人もいますけど)様は、もう圧倒されちゃって溜め息もの。
 中身のサンプルは、いちおうTASCHENの商品ページにありますが、それ以外にも、下絵と本描きの比較とか、
tomoffinland_xxl_draft
“Kake”のような連作画とか、
tomoffinland_xxl_kake
ポートレイトと春画のコンビネーションとか、
tomoffinland_xxl_portrait
同一テーマのバリエーションとか、
tomoffinland_xxl_variation
とにかく全ページが見応えあり。
 こんな感じで650ページ以上続くんですから、もう大満足。お腹一杯、ごちそうさま(笑)。

 印刷は、極めて良好。前述の”Retrospective”シリーズや”The Art of Pleasure”と比較すると、それらを遥かに凌ぐ高品質で、原画の再現性はバッチリ。私は、以前トムの原画を、Tom of Finland FoundationやニューヨークのFEATUREギャラリーで目にしたことがあり、以来、あの原画の美しさと比べると、世に出ている印刷物の品質には、どうしても不満があったんですけど、この”XXL”は、そういう意味でも、これまでのベスト。
 全体の構成は、総論を冒頭に置き、以下、世に出る以前の40年代、初期スタイルの50年代、スタイルが確立された60年代、円熟の70年代、ポートレイト群などで更なる高みに達し、そして亡くなるまでの80年代、と、編年体になっていて、それらに様々な各論が、それぞれ英独仏の三ヶ国語で付いています。
 巻末には、原画の所在が行方不明になった作品リスト(図版付き)、グリーティングカード、展覧会の記録などが付属。
 造本も、高級感のある凝ったもので、カバーの絵の部分がバーコ印刷になっていて、ツヤツヤとレリーフ状に盛り上がっています。カバーを外すと、本体は黒いマットなクロス装のハードカバーで、そこにタイトルやシンボルが、黒のグロスでエンボス箔押し。本体には、リボン状の栞も付いています。そして、ご覧のようなキャリング・ケース入り。
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 というわけで、内容、品質、共に価格に見合った高品質でした。円高の今だと、逆に、これでこの値段は安く感じるくらい。
 幸い、日本のアマゾンでも取り扱っています。現時点では、まだ発刊前の予約状態になっていますが、私はそこで予約していたのが今日届いたので、そろそろ入荷するのでは。
“XXL” Tom of Finland (amazon.co.jp)
 ただ、ちょっと気になることがあって、実は以前、同じTASCHENから出た、トムの”The Complete Kake Comics”という本が、日本のアマゾンで予約を受け付けていたにも関わらず、発売直前になって、急に取り扱いがなくなってキャンセルされたことがあったんです。その例を考えると、ひょっとしたらこの”XXL”も、後になって取り扱いがなくなったりもしかねないので、入手は早めの方がいいかも知れません。
<続報>
 やっぱり、なくなっちゃいました……。
<続々報>
 と思ったら、また復活しました。
“XXL” Tom of Finland (amazon.co.jp)
<続々々報>
 と思いきや、また消滅したり復活したりの繰り返しで、もうワケワカラン状態。

“Uncensored” by Joe Oppedisano

uncensored
 Joe Oppedisano(ジョー・オッペディサーノ……でいーんだろーか、読み方は?)は、アメリカのカメラマン。
 ファッション写真からメールヌードまで、幅広く手掛けている人ですが、何と言っても私にとって魅力的なのは、BDSMやラフ・セックスの香りが濃厚な、一連の野郎系メールヌード写真です。特に、2006年にBruno Gmunderから出た第一作品集”Testosterone”は、ここ数年のメールヌード写真集の中でも、一番といっていいくらいのお気に入りでした。
 そんなOppedisanoが、第二作品集”Uncensored”を発表。「無修正」というタイトル通り、セクシャルな表現という意味では、手法の過激さが増し、いわゆるポルノ写真との境界線が、限りなく曖昧になっています。

 もちろん、前作”Testosterone”で見られたような、シンプルかつスタイリッシュなメールヌードとか、レザーやユニフォームやボンデージといったフェティッシュ味、暴力的なセックスを連想させる描写などは、今回も健在なんですが、前作はそれらが、あくまでもスタイリッシュなラインを崩さず、ポルノグラフィ的にはギリギリのところで寸止めされていたのに対して、今回はどうやら、そういったスタイルを意図的にはぎ取ったようで、より直截的で生々しく「性」を表現している。
 一例を挙げると、例えば”Testosterone”に収録されていた、廃工場内で縛られている警察官の写真は、後ろ手に掛けられた手錠、ダクトテープの猿轡、はだけたシャツと膝まで降ろされたズボンとパンツといった具合に、暴力と性の臭いを濃厚に漂わせながらも、直截的なセックスの描写は、股間に警棒をダクトテープで固定し、それを屹立させるといった具合に、あくまでも比喩的に表現されていた。
 ところが、今度の”Uncensored”では、例えば、レザーギャッグをされ、後ろ手に縛られた刺青マッチョの股間には、剥きだしの男根が隆々と勃起している。或いは、両腕を挙げてチェーンで縛られ、汚れた床に座り込んだ全裸の男が、半勃起したペニスの先から尿を迸らせ、その瞬間をカメラが捉えている。
 また、路地裏や公衆トイレでは、レザーマンや、レスリングやアメフトなどのユニフォームに身を包んだマッチョたちが、相手の性器に舌を伸ばしていたり、さらにはっきりと口中に入れていたり、はたまたリミングしていたり、と、明白なオーラル・セックスが描かれている。
 更に、グローリーホールから付きだしたペニスのアップでは、穴の周囲は白濁した液体で汚れ、公衆トイレの床に這って、尻を突き出している男の肛門からは、白い液体が噴水のように迸り、更には、少し口を開いたアヌスのアップから、白濁液が滴り落ちている、など、疑似ではあるのだろうけれど、あからさまな精液のイメージも登場する。

 もちろん、そういった路線と並行して、前作同様の、スタイリッシュで非ポルノグラフィー的な作品も収録されていはいるんですが、前作で見られたような、コンポジションの厳密さや演劇的な人工性は、かなり薄くなっている。まるで、自らの作家性というものを追求していった結果、様式美のような表層的な要素や、パブリック・ベースのファッション性から離れ、よりパーソナルでコアなもの、つまり、作家本人の、個としての欲情を最重要視する、エロティック・アートに接近しているように見える。これは、個人的に大いに好感度が大。
 また、エロティック・アートという文脈で言うと、前作でも見られた、トム・オブ・フィンランドへのオマージュ作品が、今回もしっかり入っていました。こういった、自分に影響を与えた先達、それもエロティック作家に対して、公にリスペクトを捧げるという姿勢も好きです。
 というわけで、かなりオススメできる写真集です。

 中身のサンプルについては、ちょっとこのBlogで紹介するのは憚られるので、とりあえずサンプルが見られるページにリンクを貼っておきます。でも、リンク先で見られるのは、実はこれでも「ソフト」なページだったりします。
 この写真集、ありがたいことに日本のアマゾンで扱われているので、欲しい方はお早めにどうぞ。
“Uncensored” Joe Oppedisano (amazon.co.jp)

testostrerone
 さて、ついでに前作”Testosterone”についても、今まで書いたことがなかったので、ちょっと紹介してみましょう。
 前段でも触れたように、”Testosterone”では、レザー、タトゥー、ユニフォーム、ボンデージ、スポーツ、バイオレンス……といった要素が、フェティッシュかつスタイリッシュに描かれています。
 エロティシズムの表現の違いに関しては、前段で述べたこと以外にも、”Uncensored”は、比較的「白日の下に赤裸々にさらけ出す」というようなニュアンスが強いのに対して、この”Testosterone”では、「暗がりの中にひっそり浮かび上がる」といった感じのものが多い。じっさい、写真の背景も黒バックだったり、何かが写り込んでいる場合も、”Uncensored”のそれよりも暗く沈んでいます。
 照明も、スポットライト的に明暗をくっきりと浮かびあがらせるものが多く、暗い背景とも相まって、何だかカラヴァッジオのような雰囲気があり、正直に言うと、映像的な質感だけに限って言えば、私はこの”Testosterone”の方が好みだったりもします。
 また、”Testosterone”では、取っ組み合い、殴り合い、リンチ、レイプといった暴力的なシーンを、血糊なども使って演劇的に描いた一連の作品があり、こういった傾向も好きだったんですが、残念ながら”Uncensored”では、そうした純粋暴力的な要素は後退しています。

 一方、作家性としては、”Testosterone”の段階では、まだ固まりきっていないというきらいがありました。没個性的な作品も、数は少ないものの、混じっていたし、先達からの影響も色濃かった。しかし、”Uncensored”になると、似たようなコンポジションのピンナップでも、性的な誘惑やエクスタシーを示唆する等、表現として、より挑戦的でパワフルなものになっていて、作家性も強くなった。
 つまり、改めて二冊並べて見ると、「けっこう好きなカメラマン」だったのが、「大いに興味を惹かれるアーティスト」に変わった、って感じです。
 というわけで、どちらの写真集も、単品でも充分に良い内容なんですが、二つ見比べるとより面白くなるので、機会があったら、こちらもぜひ入手をオススメします。
 こちらの内容見本は、カメラマン本人のサイトのギャラリー・ページで、収録作品がけっこう見られます。Edge Gallery、Erotic Gallery、Sport Gallery、Tom of Finlandといったコンテンツが、”Testosterone”の主な収録作。
 ただ、書籍の方は残念ながら、日本のアマゾンでは扱っていないので、こっちはアメリカのアマゾンにリンクを貼っておきます。
“Testosterone” Joe Oppedisano (amazon.com)

 さて、このJoe Oppedisano、今後はどういった方向に進むのか、そこも興味が尽きません。
 しかし、”Uncensored”のエピグラフには、フランク・シナトラの言葉が、まるで決意表明のように、力強い手書き文字で引用されています。
 内容を簡単にまとめると「自分は、自分が口に出来る量以上のものを口に入れてきたが、いつだって、口に合わないものは吐き捨てた。人間が自分自身でいられないのなら、それは無価値だ。真実を語れ、おべっかは無用だ。自分は、自分が思うままに生きてきた」といった感じ。
 これを読むと、もう大いに期待してしまいますね。

マンガとか

 宝島社・刊『このマンガがすごい! 2009』で、拙著『外道の家』が、オトコ編36位にランクインしておりました。
 確かこのシリーズでは、以前にもピックアップコーナーみたいなとこで、拙著『男女郎苦界草紙 銀の華』を取り上げていただいたことがありますが、ランキングに入ったのはおそらく初めてです。嬉しい、嬉しい(笑)。
 因みに、選者による個別ベストの方には、児雷也画伯の『仰ゲバ尊シ』と大久保ニューさんの『坊やよい子だキスさせて』という、ゲイ雑誌発のマンガが二冊入っていまして、これまたなんか嬉しいですね。
 さて、これだけではなんなので、ついでに自分が今年買って、印象深かったマンガについても、ちょっと列記してみましょうか。
 あ、でもベストとかそーゆーんじゃなくて、個人的に「これ、好き!」ってヤツを。
暁星記』菅原雅雪
 これが無事完結したってのが、私にとって、今年最大のニュースかも。いやホント、雑誌で第一話を読んで夢中になってから、掲載誌変更や単行本描きおろし形態への移行も含めて、ず〜っと、ず〜っと、続きを心待ちにしながら追いかけていたもんで……。無事完結なんて、ホント、夢じゃなかろか。
 あ、因みに半裸のガチムチキャラも、いっぱい出てきます(笑)。
天顕祭』白井弓子
 帯の「古事記ロマンファンタジー」という言葉に惹かれ、書店に備え付けられていた立ち読み用のサンプル小冊子を開いたら、主人公がカッコイイ無精ヒゲの鳶職だし、絵柄もステキだったので、そのままレジへ。実は、やはり帯に元来は同人誌発のマンガとあったので、ひょっとしてやおい風味もあるのかとヨコシマな期待感もあったんですが(笑)、そうではありませんでした。でも、そんなこととは関係なしに、内容に大満足。
 え〜、前述のヨコシマな期待感に関して、ちょっとイイワケさせていただくと、何も「女性作家の同人誌=やおい」という思いこみがあったわけではないんです。ただ、マンガの鳶さんの絵を見たら、ふと、むか〜し同人誌や「June」に、ガテン系のオッサンたちのやおい(これ、やおいやBLが「美少年マンガ」とか「耽美マンガ」とか呼ばれてた当時は、すごく珍しかったんです)を描かれていた、まのとのま(……だったと思う)って作家さんのことを連想しちゃったのだ(笑)。
らいでん』塚脇永久
 雑誌で見た新連載予告カットで一目惚れ。日頃買ったことのない月刊少年誌を買いに、思わず本屋に走りました。以来、単行本を心待ちにしており、めでたく第一巻発売時にも即購入。というわけで、「この絵、好き!」ってのがきっかけで、読んでみたら話もキャラも好きだった、というパターン。
 あ、筋肉絵好きの方にもオススメです。
夜長姫と耳男』近藤ようこ
 単行本『月夜見』で知って以来大好きで、特に『妖霊星』は、確実に、我が生涯通じてのマンガベストテンのうちの一本なんですけど、坂口安吾原作の本作もまた、やっぱりクライマックスで鳥肌が。
錆びた拳銃』谷弘兒
 かつて「ガロ」や「幻想文学」あたりで拝読して以来、好きな作家さん。寡作な方(たぶん)なので、近所の本屋さんで、この新作単行本を見つけてビックリ、即購入。『薔薇と拳銃』の印象が強いせいか、レトロと猟奇とエログロナンセンスとラヴクラフトが、渾然一体となった作風の作家さんという印象でしたが、本作では、猟奇とエログロはなし。
 表題作は、均整の取れた肉体美の二人のマドロス青年というキャラクターのせいか、どことなくコクトーやジュネの描くホモエロティシズムに通じるものを感じます。
童貞少年』やながわ理央
 ノンケさん向けエロマンガですが、この作家さんの描く少年キャラは、カワイイながらもちゃんとオトコノコオトコノコしていて、かなり好き。そんな少年たちが、ボイン(死語)なお姉さんたちに、あの手この手で筆おろしされる短編集。
 あ〜、この少年キャラで、以前ロリキャラで描いていたみたいな、「公園のホームレスに輪姦されたあげく、全員から小便を引っかけられる」話を描いてくれたら、もうサイコーなのに……って、いくら何でもそれは無い物ねだりですな(笑)。
愛玩少年』水上シン
 以前、献本でいただいた雑誌で拝読して以来、続きが気になっていた作品で、偶然アマゾンで単行本が出ているのを見つけて購入。いわゆるBLですけど、まだ「美少年マンガ」とか「耽美マンガ」とか呼ばれてた頃みたいな、ナルシスティックでお耽美な雰囲気があるところが好き。
 あと、レトロだし、軍服だし、加虐と被虐もあるし、少年は坊主頭だし……と、好きツボもイッパイ。
 う〜ん、しかし改めて最後の二つを見ると、果たして自分が本当にマッチョ系ゲイマンガ描きなのかどうか、我ながら自信がなくなってきた(笑)。

つれづれ

 会社員時代の友人夫妻二組と連れだって、リンゼイ・ケンプ・カンパニーの公演『エリザベス1世〜ラストダンス〜』を見物。生のリンゼイ・ケンプを見るのは、これが初めて。
 思いの外、ダンスよりも演劇的要素の比重が高かったのと、演出自体も比較的オーソドックスだったことに、ちょっと肩すかし感もありましたが、とにかくケンプ老の存在感が圧倒的。他のパフォーマーとレベルが違いすぎると感じてしまうほどで、なるほど、こりゃ唯一無二の人なんだな、と実感。
 そして、カーテンコール。
 パフォーマンス中の重々しい所作とは、うって変わった軽やかな足どりで、白いローブを翻しながら颯爽と会釈するケンプ老。その姿は神々しいほどに輝いており、思わず拍手にも力が入ってしまいました。
 いや〜、ご健在なうちに生のパフォーマンスが見られて、ホント良かった。

 その数日後、家の近所で大学時代の友人二人とランチ。
 互いの近況や共通の知人の情報などで、話に花を咲かせていると、誰それのご母堂が亡くなられたとか、誰それが糖尿病になってしまったとか、以前と比べて健康絡みの話題が多くなってきて、「お互いに歳をとったんだね〜」なんて笑い合ったり。
 ただ、二人とも子持ちの既婚女性なので、話題が子育てとかPTAとかになると、私は完全に置いてきぼり状態(笑)。

 家では、相変わらずDVDで映画鑑賞三昧。
 で、ここんところ数日連チャンで、『木靴の樹』『シベリアーダ』『ペレ』と続けて見ていたら、相棒から「ヨーロッパの貧しい農村の映画は、ここいらへんでやめにして、そろそろ豪華で派手なヤツが見たい!」とクレームが(笑)。
 そんじゃあ、歌と踊りとアクションがあるインド映画にしようと、『アルターフ 復讐の名のもとに』を鑑賞。社会派なテーマを、見事に大衆的な娯楽作に昇華していてお見事。
 相棒も、おおむね満足はしてくれたものの、主演のリティック・ローシャンの顔を、「目はいいんだけど、この鼻と鼻の穴はありえない。クリスチャン・ベール(どうやら、今現在これが相棒にとって「変な鼻の男優」の代名詞らしい)もビックリ」と、手厳しい評価(笑)。
 ただまあ、相棒がインド映画の二枚目男優に手厳しいのは、今に始まったことではなく、サルマーン・カーンのことは「ヒキガエルみたいな目」とか言っていたし、シャー・ルク・カーンに至っては「余りにもイヤな顔だから、顔は見ないようにしている」などと、インド映画ファンが聞いたら殴り殺されそうな暴言を吐いております(笑)。
 まあ、確かにインド映画の男優って、正直私も「う〜ん、これのどこが二枚目なんだ……」とか思うことが多いですけどね(笑)。好きな顔の男優って、アニール・カプールくらいしか思いつかないし(笑)。

 そして『アルターフ』の翌日は、何だかアジアな気分が続いていたので、タイ映画『わすれな歌』を鑑賞。で、見てから気が付いた。ヨーロッパからアジアに変わっただけで、また「貧しい農村」に戻っちゃってました(笑)。
 そうそう、その『わすれな歌』の中に、主人公の男が芸能界デビューの代償として、エロ社長に言われるままにヌード写真を撮られたあげく、男色関係を強要されそうになるシーンがあるんですけど(因みに、主人公は脱走兵という設定もあって、なかなか良い身体をしています)、その写真撮影のシーンが、履いているカラフルなビキニといい、腰に手を当てたり腕を伸ばしたりする、ミョ〜に気取ったヘンなポーズといい、相棒と二人で「まるで昔の『薔薇族』や『さぶ』のグラビアみたい!」と大ウケ(笑)。ホント、懐かしの岩上大悟先生の写真みたいな雰囲気でした。

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 本は、大日本絵画・刊の『日本甲冑史 上巻』を購入。弥生時代から室町時代までの日本の甲冑や武具を、少年雑誌で活躍した挿絵画家、中西立太(小林源文のお師匠さんなんだそうです)がカラーとモノクロのイラストで、詳細に図解している好著。
 甲冑の全体像から細かな構造、更には、その着用手順から下に着る衣のことまで、実に見やすく図解されているので、これは今後、時代物を描く際には手放せない資料になりそう。
 因みに、同じ出版社と著者による、『日本の軍装 幕末から日露戦争』『日本の軍装 1930~1945』の二冊は、以前から自分が軍人ものを描く際に、いつも手元に用意する本だったりします。
 この手の本は、図解だったり写真だったり、他にも色々と出ておりますが、このシリーズは、内容・使い勝手・値段など、様々な点からオススメです。写真ものだと、質感や雰囲気は掴めるけれど、構造とかが判りにくいことがままあるんですが、このシリーズは、カラー・イラストで全体像を見せて、細部の構造や階級章の色々など、データ的な部分はモノクロの図解で説明してくれるので、作画資料としては本当に使いやすい。

 音楽は、特に目新しいものは聴いてないですね〜。
 ここんとろ、ちょっとザラついた音が欲しい気分が続いているので、HangedupとかSilver Mt. Zionとか、それ系のポスト・ロックの旧譜を、引っ張り出してきて良く聴いています。
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 あとはまあ、サンマが安くて美味しいので、そればっか喰ってます(笑)。
 そんなこんなが、最近のワタクシ(笑)。

“The Savage Sword of Conan”

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“The Savage Sword of Conan”
 前回の画集“Conan: The Ultimate Guide to the World’s Most Savage Barbarian”に引き続き、またまた「蛮人コナン」本をご紹介。今回はアメコミ版です。

 現在、コナンのコミックスは、米ダークホース社から、私の知っている限りでは4つのシリーズで刊行中です。”Conan Ongoing series”と”Conan miniseries”と銘打たれた2つが新作、”The Cronicles of Conan”と”The Savage sword of Conan”が復刻本。
 まあ、流石に私もそれらをコンプリート買いしているわけじゃありません。全部合わせると20冊以上にはなるしね。で、だいたいは好みのアーティストが描いている本だけ、ぽちぽちツマミ買いしているんですが、今回紹介する”The Savage Sword of Conan”シリーズだけは、今のことろ一番のお気に入りでコンプしてます。

 私も最近知ったんですが、かつてコナンのアメコミ版は、同じマーヴェルから”Conan the Barbarian”と”The Savage Sword of Conan”の二種類が出ていたらしいです。で、”Barbarian”の方が本文もカラーの普通のアメコミ(ちょっと語弊があるけれど、まあいわば低年齢層向け)で、本文が白黒の”Savage Sword”がアダルト向けというラインだったらしい。因みに、前述のダークホース刊の4種のうち、”The Cronicle of Conan”が、この”Barbarian”をリマスタリング(っつーか、彩色をデジタルでやり直したというか)して合本にしたシリーズです。

 で、アダルト版の方の”Savage Sword”の合本版ですが、現時点では3冊が刊行済みで、4巻が近日発売予定。
 書影を見ての通り表紙はカラー(当時の表紙絵を使用)ですが、本文はわら半紙っぽい紙に黒の一色刷り。ちょいと耐久性に不安がある紙質ではありますが、印刷そのものは、粗悪な紙に見られがちな、にじみやかすれ等はいっさい見あたらず、極めてクリアーな品質。本文中に、当時の雑誌の表紙がモノクロで掲載されているんですが、これもグレーの階調がきちんと出ているので、ひょっとしたら見た目よりちゃんとした紙なのかも知れません。
 ページ数は、一冊当たり驚きの550ページ近く。薄い用紙なのに本の厚みは2センチ以上あって、見応えタップリ。

 さて、私が何故この”SavageSword”シリーズを気に入っているかというと、それはやはり絵の魅力、これに尽きます。白状しちゃうけど、私はアメコミって、もっぱら「見る」だけで、ほとんど「読む」ことはないです(笑)。
 そして、このシリーズの絵は、やはりアダルト向けラインだったせいか、いわゆる昔のアメコミ風とは異なった、もっと作家性の強い、コミックの絵というよりは「ペン画」を思わせるものが多く、これが実に何とも良いのですよ。

 では、具体的な絵の話。
 アメコミでは、様々な作家が同じシリーズを描き継ぐのが常ですが、私が何と言っても大好きなのは、ペンシラーがジョン・ブシェマ、インカーがアルフレッド・アルカラというコンビ。(日本のマンガと異なり、アメコミの制作はシステマチックに分業化されていて、鉛筆で絵を描く人とインクでペン入れする人、別々のアーティストだったりします)
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 まあ、上のサンプル画像を見ればお判りと思いますが、ハッチングの強弱だけで、明暗から立体感から質感から、ダイナミックかつ繊細に見せてくれて、もうペン画として本当にクオリティが高い。全コマこんな調子で描かれているもんだから、ページをパラパラめくっているだけでウットリです(笑)。しかもね〜、内容は半裸のマッチョだし、しょっちゅうとっ捕まって縛られたりするし(笑)。

 他にも、魅力的なアーティストは沢山います。
 1巻を例にとると、ページは少ないんですが、ペンと鉛筆のミクスチャーで魅せる、ジェス・ジョドロマンの絵は見逃せない。
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筆のタッチがダイナミックな、パブロ・マルコスも良い感じ。
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 もちろん、バリー・ウィンザー・スミスも描いているし(ただ正直なところ、私は彼のコミック版の絵は、その世評の高さほど好きではないです。一枚物のイラストレーションは、すごく良いと思うんだけど、コミックになると、顔の造形のクセの強さやデッサンの弱さが気になるし、出来不出来のムラも大きいような気がします)、お懐かしや、アレックス・ニーニョも描いている。
 他にも一枚絵で、ニール・アダムス、ジェフリー・ジョーンズ、エステバン・マロート……と、ツルモトルーム版『スターログ』の愛読者にはタマラナイ名前が並びます(笑)

 2巻では、やはり相変わらずジョン・ブシェマ+アルフレッド・アルカラが絶好調で、しかも嬉しいことに本の8割方はこのコンビの作画。
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ニール・アダムス+ザ・トライブのコンビも見応えあり。
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 3巻では、上でちょっと苦言を呈してしまったバリー・ウィンザー・スミスが、今度は本領発揮で素晴らしい作画を。
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太目の線でコントラストを効かせた、アーニー・チャンも良い。
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一枚絵だけど、1巻で既出のジェス・ジョドロマンの再登場も嬉しいところ。
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 というわけで、興味のある方は、まず1巻を入手してみることをオススメします。それが気に入ったら、2巻3巻も気に入ること間違いなし。
“The Savage Sword of Conan vol.1” (amazon.co.jp)
“The Savege Sword of Conan vol.2” (amazon.co.jp)
“The Savage Sword of Conan vol.3” (amazon.co.jp)
(何故かアマゾンでは3巻の書影が違っている……)
 ただ、ひとつだけ惜しいのは、当時のカバー画がモノクロで収録されているところ。いちおう、表紙と裏表紙に一点ずつカラーでも掲載されているんだけれど、せっかくなら全部カラーで見たかった。
 あ〜あ、画集の紹介のときに紹介した、お気に入りのアール・ノーレムの表紙絵なんか見てると、特にそう思っちゃうんだよなぁ……残念。

“Conan: The Ultimate Guide to the World’s Most Savage Barbarian”

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“Conan: The Ultimate Guide to the World’s Most Savage Barbarian”

先日ここで “Conan, The Phenomenon: The Legacy of Robert E. Howard’s Fantasy Icon”という、ロバート・E・ハワードが生み出した「蛮人コナン」の図像的イメージを、その誕生から現在に至るまで辿った画集を紹介しましたが、最近また、それとは別の切り口のコナン本を入手したので、そのご紹介。
 どんな内容の本なのかというと、まず、日本でも発売されているような、歴史物のムック本を想像してください。『ビジュアル図解・××史』みたいな、地図や写真、出土品や想像図なんかをタップリ使って、テキストでそれを補足する……みたいなタイプの大判本。
 そんな感じで、ハイボリア時代と蛮人コナンの生涯を、編年体で解説した、フルカラー&ハードカバーの大判本です。

 トッド・マクファーレンによる序文に続き、「ハイボリア時代とは」「地図」「主な神々」なんつー、ファンタジー設定好きには嬉しくなっちゃうような導入を経て、いよいよコナンの一代記が、「キンメリア時代」「盗賊時代」「傭兵時代」「黒海岸時代」などなど綴られていきます。で、そこで出てくるイベントやキャラクターなどが、後述するような様々な図版で紹介されていく……ってな構成。
 資料性という意味では、こういったコナンの物語を年代記的に体系化するという行為そのものが、ハワードの死後に別の作家によって行われた、いわば二次創作とも言えるような行為なので、果たしてこういった内容の本に、どれほどの正当性があるかどうかは疑問です。
 しかしまあ、そういった原理主義的な考え方はともかく、これは、一人の作家が生み出したキャラクターが時と共に一人歩きを始め、その結果生まれたキャラクター・ブックだと考えればいいでしょう。
 アメコミなんかが好例ですが、こういった、キャラクターを軸として、そこにある種のファン心理が収束していき、結果として個人の創作力を越えた広大なユニバースが形成されていくというのは、創作の一つの姿や可能性として、作家としてもかなり興味深いものがありますね。

 さて、コナンやハイボリア時代ってのは架空のものですから、もちろん遺跡だの出土品だのがあるわけじゃない。
 しかし、そこはそこ、1930年代初頭にハワードの筆によって誕生して以来、様々な作家とメディアに受け継がれながら、現在にいたるまで長い歴史のあるコナンのことですから、ヴィジュアル資料は多岐豊富なわけです。この本では、小説版の表紙絵からアメコミ版の決めゴマ、アンティーク調の創作地図からゲーム版の美術設定ボードと思しき図像まで、古今の様々な作家による様々なコナン像が、これでもかこれでもかってくらい、ふんだんに収録されております。その豊富さといったら、私も初めて見るような絵ばっかり。
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 ただ、純粋な画集として楽しむには、図版の作者のクレジットが明確ではなかったり、レイアウト効果重視でトリミングや切り抜き版を多用していたり……と、難点もなきにしはあらず。
 しかし、それでもこの膨大な図版枚数と、それらをまとめて見る機会の少なさという点を考えると、そういった難点も相殺して余りあるという印象。参考にアップしたサンプル画像をご覧頂ければ判りますが、全ページこんな感じで、それが160ページ以上続くんですから、満足度はかなり高い。

 また、画集的な意味で、特に個人的に嬉しかったのは、収録作家陣の豊富さ。カバー絵を描いている、私も大好きなアレックス・ロスから始まって、もちろんフランク・フラゼッタやボリス・バレジョーなんて有名どころもあるんですけど、それより今まであまり見る機会のなかった、アダルト・アメコミ版のカラー表紙絵の方が、扱いも大きく多数収録されていること。
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 クレジットがないので良くは判りませんが、私の判ったところでいうと、前にここで紹介したことのある、男性向けパルプ雑誌の表紙絵とかも描いていたイラストレーター、アール・ノーレムの描くコナンなんか、実にヨロシイですな。サンプル画像にある、怪物に組み伏せられているヤツとか、手鎖で女の上に立っているヤツとかがそうです。

 そんなわけで、前回のコナン本に引き続き、これまたマッチョ絵好きにはオススメできる画集でした。
“Conan: The Ultimate Guide to the World’s Most Savage Barbarian” (amazon.co.jp)