『スパルタカス』(2004)ロバート・ドーンヘルム “Spartacus” (2004) Robert Dornhelm |
『スパルタカス』というと、どうしても1960年版(スタンリー・キューブリック監督作)と比較したくなってしまうのが人の情。でもまあ、TVムービー相手に、それは酷ってもんだよなぁ。
特にスケールに関しては、1960年版にはあの戦闘シーンがあるからねぇ。丘陵に整然と居並ぶモブのスゴイこと。あれを見たら、この映画に限らず、大概のスペクタクル映画は影が薄くなっちゃう。俳優陣も、あっちは主演のカーク・ダグラスはまあ置いといても(何でじゃ……って、あんまり好きじゃないのよ、私)、他はローレンス・オリヴィエ、チャールズ・ロートン、ピーター・ユスティノフ、ジーン・シモンズなんつー、錚々たる面子だもんなぁ。比べるだけ酷です。
とはいえ、この2004年版が出来が悪いとか、そーゆーわけでは決してなく、これはこれで充分に楽しませてくれる内容です。
1960年版は、スケール感のある堂々たる大作ではあるものの、エピック的な単純で骨太な部分と、近代的な人間の内面を描く部分が、いささか乖離を見せいている感が否めない、というのが私的な印象。それに比べると、今回のバージョンは全体的にこぢんまりしている分、逆に人間ドラマ的な部分に焦点がカッチリ合ってる。圧倒的なパースペクティブとか、物量のスゴさといった、スペクタクル映画的な興奮度には欠けるが、その分、ドラマ的な面白さがタップリあります。
鉱山奴隷だったスパルタカスが剣闘士養成所の所長に目を付けられて買い取られ、剣闘士としての訓練を受けつつ、やがて反乱を起こしてローマに戦いを挑むといった前半の展開は、けっこう細かな部分も含めて1960年版とほぼ同じ。これはきっと、原作としてクレジットされているハワード・ファストの小説が、こういうお話なんでしょうな。
後半、スパルタカスが反乱軍を興して以降は、若干展開が異なってきます。今回は反乱軍対ローマ軍の細かな戦闘が幾つもあり、そこにローマ側のパワーゲームが絡んできたり、反乱軍の内部も、単細胞のガリア人とか、思慮深いユダヤ人とか、ベビーフェイスだけど脱ぐとスゴいマッチョとか(笑)、キャラが立っているせいもあって、なかなか面白く進めてくれる。ここいらへんは、ちょっと『ブレイブハート』みたいな感じ。
あとまあ、あんまりネタバレになるのもアレなので詳述は避けますが、ラストもところどころちょっと変わっている。まあ、いきなり三角関係みたいな話になっちゃって「???」となるあたりは同じですが(笑)。冒頭からしつこく出てくるアレは、絶対にラスト・シーンの伏線だと思ったのに、それがなかったのは、ちと拍子抜け。
全体を通して、当然のことながらクラシック作品と比較すると展開のテンポが早いので、冗長さは全くない。ただ、その反面、悪く言えば重厚さには欠けるので、これはもうどちらが好みに合うか、人それぞれでしょう。
美術やセットは、TVムービーでこれだけ見せてくれるんだから、これはもう充分以上に合格点。細部の汚し等のリアル感などは、逆に昔の映画では無かった味わいだし、アレコレ重箱の隅つついて文句言う必要もないでしょう。
主演のゴラン・ヴィシュニックは、TVシリーズ『ER』に出てた方らしい(実は『ER』を見たことがない私)です。ルックスの方は、若干鼻の穴が目立つのが気にはなるものの(笑)、まあ「GQ」あたりの表紙を飾りそうな、スーツが似合いそうなフツーにカッコイイお方でした。ただ、正直なところ、こーゆーコスプレは似合わないな〜。特に皮鎧の剣闘士スタイルは、肩幅が足りないせいもあって、もう絶望的なまでに似合わない。その余りの似合わなさに、私同様にカーク・ダグラスがあまり好きではない相棒も「う〜ん、これだったらカーク・ダグラスの方がまだマシかも……」なんて申しておりました(笑)。
仇役クラッススのアンガス・マクファーデンは、どっかで見た顔だと思ったら、同じくTVムービーの『アルゴノーツ 伝説の冒険者たち』(佳品)でゼウス役を演っていたお方ですな。他にも『ブレイブハート』や『タイタス』なんかでお見かけしました。自信過剰で憎々しいんだけどビミョーに小物でもある感じ、悪くないです。でもこの方、今回初めて知ったけど、首の上と下が「別人?」ってくらい雰囲気が違うのね。顔だけ見ると、さほど太っているようなカンジはしないのに、ヌード・シーンでは見事なまでの太鼓腹。思わず、撫で回したくなります(笑)。
ヒロインを演じるロナ・ミトゥラも、芯の強さと同時に凛とした気品のようなものも感じさせ、なかなか美しくて良うございました。
アグリッパ役のアラン・ベイツは、これは流石。単純に悪とも善とも言えない複雑な役どころですが、しっかり魅力的に見せてくれます。特にラスト近辺なんか、この人によって映画全体がかなり救われている印象。ただ、エンドクレジットに Dedicated to … の文字が出て、初めて知ってビックリしたんですが、この方、昨年亡くなられていたんですねぇ。個人的に、ケン・ラッセルの『恋する女たち』で魅せられて以来「出てくると嬉しい俳優さん」のお一人だったし、最近でも『ゴスフォード・パーク』やTVムービーの『アラビアン・ナイト』なんかで再会できて嬉しかっただけに、何とも残念であります。そういえば、その『恋する女たち』で一緒に素っ裸でレスリングを見せてくれたオリバー・リードも、同様の史劇『グラディエーター』が遺作になってしまったっけ。う〜む、ちょっとシンミリ。
その他、前述の「アタシ、脱ぐとスゴイんです」ベビーフェイス君(このコはかなりカワイイ)や、反乱のきっかけとなる黒人剣闘士、その他モロモロ、マッチョ好きには目のご馳走のお方たちも、まあイロイロよりどりみどり(笑)。
ああ、そういや『エクソシスト ビギニング』に引き続き、これにもベン・クロスが出てたなぁ。こっちは情けない役だった(笑)。
え〜、責め場についても書いておきましょうか(笑)。
まず主演のスパルタカス君、冒頭の鉱山シーンで、タコ殴りに鞭打ちの後、磔姿を見せてくれます。鞭打ちは打撃とシンクロして肌に赤筋が走るし、磔は位置がかなり高いことと、両脚が少し開かされていることもあって、この一連のシークエンスはなかなかヨロシイです。カーク・ダグラスみたいに着衣なんて無粋なこともなく、ちゃんと腰布一枚だし。
また、羞恥責め系ですが、ユダヤ人奴隷剣闘士が、「え〜、ユダヤ人って割礼するんでしょ〜、アタシ、割礼した○○○って見たことな〜い」とヌカすスケベ女に、腰布解いてソレを見せろと強要されるシーンなんぞもあり。私、けっこう好きです、こーゆーの(笑)。
あと、放火犯が、見せ物として磔で火炙りにされるシーンなんてのもあったっけ。
ラストの有名なシーンは、現在の技術を生かしてスゴい画面を見せてくれるかと期待していたんですが、残念ながら比較的アッサリ気味。でもまあ、絵面としては悪くなかったけど。
責め場らしい責め場はこんなもんですが、まあ奴隷剣闘士の反乱の話ですから、鎖に繋がれたり檻に入れられたり、殺し合いをさせられたりするシーンは枚挙に暇がありませんし、男の半裸もふんだんに出てきますんで、そーゆー意味でのお楽しみは盛り沢山です(笑)。
もう一つ。
1960年版では、ホモセクシュアルの要素があったことが有名(そのシーンは長らく削除されていたが、現在販売されている「完全版」DVDでは復元されている)ですが、残念ながら今回のヴァージョンでは、そこいらへんの絡みはハナっからいっさいナシ。ソッチを期待すると肩すかし食らいますんで、ご注意をば。