『ベルヴィル・ランデブー』

『ベルヴィル・ランデブー』(2002)シルヴァン・ショメ
Les Triplettes De Belleville (2002) Sylvain Chomet

 フランス、ベルギー、カナダ合作の長編アニメーション。
 孫(っても、いい歳だけど)をさらわれたおばあちゃんが、大都会ベルヴィルへ行き、往年のジャズ・コーラス・グループ「ベルヴィルの三つ子姉妹」(が歳を取った老婆三人)と一緒に孫を奪還する……という物語ですが、人情モノというわけではなく(まあ、そういう要素もなくはないですが)、基調はナンセンスとブラックユーモア。

 冒頭、スウィンギーでゴキゲンなテーマ曲に乗せて、フライシャー兄弟を思わせる白黒でグネグネ蠢くアニメーションが。その段階から既に、次々と繰り出されるヴィジュアルによる小ネタが、もう楽しいのなんのって。リムジンから降りる太った(なんてハンパなもんじゃないが)ご婦人の尻にはご主人が挟まってるし、ジョゼフィン・ベーカーは猿と化した観客に腰のバナナをむしり取られるし、フレッド・アステア(かな?)は自分のタップシューズに噛みつかれるし……(笑)。
 本編に入っても、まず、トンでもなくカリカチュアライズされた、ブッ飛んだキャラクターデザインに大ウケ。もう、ユーモアとグロの紙一重すれすれ……っつーか、客観的に見りゃ立派なグロ。丸まっこい孫が成長したときの姿とか、あたしゃもう見ただけで吹き出しちまいましたよ。
 でもって、その孫をおばあちゃんがマッサージするんですが、このマッサージがまた……(笑)。あと、風船にマッチ棒が生えたみたいな犬とか、ツール・ド・フランスに参戦中の選手の表情とか、四角いマフィアとか、トンデモナイ形の船とか、カエルのアイスキャンディーとか、もういちいち可笑しい可笑しい。

 セリフらしきセリフは殆どなく、とにかく見せる、見せる、見せる! いや〜、こーゆーのってアニメーションの根元的な魅力の一つだよなぁ。それでいて、いささかの弛緩を見せることもなく、1時間20分の長編を一気に描ききる。
 この圧倒的な表現力、まったくもって大したものです。

 画面は美麗。
 どちらかというと保守的な色彩設計ですが、同じく最近公開されたフランス産アニメーションと比較しても、『キリクと魔女』のような華麗さや、あるいは『コルト・マルテーズ 皇帝(ツァー)の財宝を狙え!』のようなケレン味とはまた違う、いかにもヨーロッパ的な(って、何のことやら)渋い魅力。オーソドックスながらも、彩度を抑えた中間調の配色が実に美しい。背景美術も素晴らしく、どのフレームを切り取っても立派に一枚の絵画となりうるような、アニメーションというメディアの贅沢さを満喫できます。ああ、絵っていいなぁ……。

 メカニック描写は3DCGが多いけれど、画面に自然に溶け込んでいて違和感はほぼない。ただ、クライマックスのカーチェイスなんかを見ていると、やはり「正確さによる不自由さ」という限界も感じてしまったのは正直なところ。あと、海とクジラに関しては、個人的にはペケ。あれならクジラは出さない方がいい。

 あと音楽ですが、これはもうサイコー! 映画館から出て、即刻サントラを購入しました。
 ロマ風のギターもカッコいいテーマソングはもちろんのこと、カンツォーネ風、スパイ映画のサントラ風、サーフ・ミュージック風、はたまた新聞紙と冷蔵庫と掃除機と自転車のスポークで奏でられる(まあ、実際の楽器は何が使われているのか判りませんが)アヴァン・ポップ/トイ・ポップ風……と、ミクスチャー具合もお見事。
 このサントラ盤、独立したアルバムとして聞いても充分オッケーなハイ・クオリティ作品なので、アヴァン系、ラウンジ系、レコメン系なんてキーワードに引っかかる方にもオススメ。特に、ジョセフ・ラカイユ(Joseph Racaille)や Tot ou Tard レーベルの音楽がお好きでしたら、ぜひどうぞ!
 ……ただし、CCCDってのはムカつくけどね。

『ベルヴィル・ランデブー』” に1件のフィードバックがあります

  1. befounddead

    ベルヴィル・ランデブー

    LES TRIPLETTES DE BELLEVILLE
    (2004年フランス/ベルギー/カナダ)
    2005/2/4@テアトルタイムズスクエア
    アニメ…

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