『クオ・ヴァディス』(2001)イェジー・カヴァレロヴィチ “Quo Vadis?” (2001) Jerzy Kawalerowicz |
キリストの磔刑から30年ほど後のローマを舞台に、青年軍人マルクス、マルクスが恋をしたクリスチャンの少女リギア、リギアの従者で怪力のウルスス、暴君ネロ、マルクスの叔父でネロの寵臣でもある好事家ペトロニウス(『サテリコン』の著者ですな)、地下活動で布教を続けている使徒ペテロ……といった多彩な登場人物が織りなす、「人は人としていかに生きるべきか」を描く、壮大な大河ドラマ。
原作は、ノーベル文学賞を受賞したシェンキェーヴィチの同名著作。それをシェンキェーヴィチの母国ポーランドと、アメリカが合作でTVムービー化。(ただ、残念ながら私は浅学にして原作は未読ですし、また、マーヴィン・ルロイ監督、ロバート・テイラー、デボラ・カー、ピーター・ユスティノフ出演の1951年度版の映画も未見なので、それらとの比較等はできません)
監督は『尼僧ヨアンナ』の……って、これまたタイトルを知るのみで見たことはないんだけど(笑)、イェジー・カヴァレロヴィチ。
とにかく、キャラクターが良く立っている。多彩な登場人物は、いずれも魅力的。加えて物語がめっぽう面白いので、先が気になって目が離せない。さらにDVDにして3枚組、トータルで4時間半以上という長尺。連続ドラマを見る気分で(実際、内容は6話に別れている)、三日ほどかけて見れば、もう、じっくりタップリ楽しめること請け合い。
絵的には、正直TVムービー的な限界を感じさせる部分も幾つかあり。頑張ってはいるものの、それでもやはりスケール感の乏しさは否めない。特に、ローマの炎上のようなスペクタクル・シーンでは、そういった弱点が露呈してしまった感じ。
反面、コロッセオにおけるキリスト教徒たちの一大殉教シーンは、流石に物語全体のクライマックスらしく、かなり力を入れており、スケール感もスペクタクル性もあり。人々が次々にライオンに喰い殺されていくあたりの、心理的な圧迫感がある描写や、磔刑に処された人々が色鮮やかな花綱で飾られているような、ちょっと不思議な悲愴美とか、見応えもタップリ。
最近制作された史劇の中では、アクション・シーンの比重は少なく、また、カメラもあまりアクロバティックには動かないせいか、全体的には落ち着いた品の良さがあります。ただ、発色が鮮やか過ぎるのは、好みが分かれるところかも。個人的には、色彩設計はもう少し落ち着きのあるものにして欲しかったかな。ちょっと内容に対して、絵が軽い印象。
しかしまあ、「物語を楽しむ」という面に関しては、TVシリーズという長所を生かしきっており、いわゆる劇場向け長編映画を見たときとは、また別の意味での満足感があります。歴史や史劇好きの人なら、見て損はないですよ。
役者陣も、いずれもなかなかの好演。
主人公マルクス役のパヴェウ・デロングは、割と今風のハンサムさんなれど、コスチュームや立ち居振る舞いもしっかり板に付いていて違和感なし。尊大で傍若無人な若者が、他者の影響で次第に人格的に成長していく様を、上手く演じているように感じました。
リギア役のマグダレナ・ミェルツァシュは、やはりモダンな顔をした美人さん。華奢なせいもあり、清楚で純真にも見えるんですが、ただちょっと口元がユルくて淫らっぽい(笑)ので、どこか「こいつ本当はスキもんなんとちゃうか?」なんてことも感じちゃうカットも(笑)。
ネロ役のミハウ・バヨルは、悪くはないが、迫力という点ではもうひとつ。暴君のオーラやカリスマ性に乏しいので、何となく小粒感が漂う。ローマの大火を見ながら自作の歌を吟じるあたりは、滑稽さと同時に鬼気迫る狂気なんてのを期待したのだが……。
ペトロニウス役のボグスワフ・リンダは、これはお見事。単純に善とも悪とも言い切れない、ある意味で最も現代人的な感性を持つキャラクターを、魅力的かつ説得力をもって見せてくれます。物語のオブザーバー的な存在でもあるので、この役者が決まっていることが、全体の出来にかなり影響して好結果になった印象。
キロン役のイェジー・トレラもなかなかで、その卑怯な小悪党ぶりは見ていてムカツクんだけど(笑)、人物造形としては魅力的なキャラになってます。
ペトロニウスに恋する女奴隷エウニケ役の女優さんも、少ない出番ながらも、感情を奥に秘めた微笑みがステキ。個人的には、リギアよりもこっちの方が好きかも。
しかし、私的な収穫は、何といっても巨人ウルスス役のラファウ・クバッキ! いや〜、何てカワイイんでしょ!! マッチョな巨躯、むさいヒゲモジャ、強面なんだけど目は可愛くて、笑うと人が良さげな顔に……うむむむ、ツボのド真ン中でございます。もー、「おばさん、アンタを見てるだけで、ゴハン三杯いけちゃうわよ!」ってカンジ(笑)。あんまりカワイイんでググってみたら、この方、柔道の世界チャンピョンだったのね。小川直也のライバルだったそうな。どーりで、演技は大ダイコンだったわけだ(笑)。まあ「寡黙な力持ち」役なんで、ダイコンでもあんまり支障はないけど(笑)。熊系好きなら必見。(だいいち、確かウルススって、ラテン語の熊じゃなかったけか?)
責め場に関しては、まあコロッセオの一大シーンがありますが、「責め」じゃなくて「大虐殺」だからなぁ。あんまり下心が入り込む余地はありません。
それでも列挙だけしますと、前述のライオンの餌や集団磔以外にも、生きながら松明として燃やされたりするシーンがあります。あと、我が愛しのウルスス君が、裸の美女を救わんがために、巨牛と素手で一騎打ち、なーんて場面も。
あ、そうだ、もう一人マッチョな剣闘士も出てきたな。さほど見せ場はないけれど、ウルスス君と格闘したりします。
もう一つ。これは本当にどーでもいいことなんですが、思いのほか大胆なヌード・シーンもあり、「うーむ、ポーランドのTVでは、唇で乳首を挟む描写があってもオッケーなのか」と、変なトコロで感心してしまいました(笑)。