『レッドナイト』

レッドナイト [DVD] 『レッドナイト』(2003)エレーヌ・アンジェル
Rencontre Avec Le Dragon (2003) Helene Angel

 劇場未公開のフランス映画。これは意外に拾いものでした。
 とはいえ、パッケージ記載の「十字軍遠征で伝説となった孤高の戦士“レッドナイト”の熱く激しい戦い!!」とゆーアオリ文句から、エピックやスペクタクル、アドベンチャー系を期待すると、拍子抜けすること間違いなし。そういった意味での見所は、全くなし。血湧き肉躍る冒険や、派手な合戦シーンなんかを期待して見たら、観賞後は間違いなく「何じゃこりゃぁ!」となります(笑)。
 にも関わらずこれは、「クッソ〜、騙された、金返せ!」ではなく、「おやおや、意外にめっけもんじゃん?」って感じの映画なんですよ。
 物語の外枠は、いちおうファンタジー系の騎士物語を踏襲しています。
 友人を「紅の竜」の炎の中から救い出したことによって、不死の英雄となった騎士レッド・ナイト。レッド・ナイトに憧れ、従者となる孤児の少年。この二人の「探求の旅」に、妻を殺されたことにより、夜ごと猪に変身する宿命を背負った勇士とか、女たらしでお尋ね者の詩人とか、詩人に恋する修道院の尼僧とか、レッド・ナイトの宿敵騎士といった、なかなか魅力的な面々が絡んでくる。
 ただこの「探求」というのが、その形こそあちらこちらの「場所」を訪れる「旅」ではあるものの、実際は「内面の探求」だというところがミソ。
 主人公のレッド・ナイトは「伝説」を身に纏った存在として登場し、その周囲には数々の謎がある。旅を通じて、謎は次第に解き明かされていきますが、そのことによって「伝説」は解体されていく。つまり、ファンタジー系の騎士物語といった、定型化されたエピックやファンタジーのフォーマットは崩れていき、代わりに個々の人物の内面が浮かび上がってくる……という仕掛けになっている。
 まあ、それだけで終わっていたら、私もさほどの興味は惹かれませんが、実はこの映画の場合、最後の最後にもう一つ仕掛けがありまして。
 こうして最終的に完全に解体された「伝説」は、実はそうやって解体されたことによって、逆に新たな「伝説」として再生するんですな。その手際の鮮やかさに、個人的にかなりグッときまして、好感度もアップ。
 いやぁ、好きだなぁ、こーゆーオチ。
 あ、因みに物語自体は、別に難解でも何でもありません。フツーに面白いオハナシ。ただ、エピック的なカタルシスとは無縁だ、というだけで。
 視覚面も、そういった構造に上手く追従していて、なかなか見応えがあります。
 冒頭で、いきなり大胆な色彩設計に目を奪われるものの、それ以降の序盤では、ヴィジュアル面でのエキセントリックさはさほどない。ただ、構図は絵画的にバッチリ決まっているし、何となく神秘感も漂う、例えて言えば、ブアマンの『エクスカリバー』の後半(パルジファルの聖杯探求のくだり)のような雰囲気です。
 旅が始まり、謎めいた要素が次々と提示されていく中盤は、大自然の中や遺跡めいた建造物の中に、慨然のものから微妙にずらしてあるような、ちょっと凝った衣装を纏った人物が配置されるという具合に、エキセントリックさが若干増してくる。ここいらへんは、パゾリーニの『王女メディア』『アポロンの地獄』や、ホドロフスキーの『エル・トポ』を、もっと軽くしたような感じ。
 そして、クライマックスに相当する旅の終焉地になると、エキセントリックさは更に増して、フェリーニの『サテリコン』のような、諧謔味や祝祭的な雰囲気も加わってくる。
 大仕掛けなセットがないので、美術を楽しむという意味では、衣装やちょっとした小道具に留まってしまうのは少し残念ですが、それらの中に明らかに日本文化からの引用が見られることとか、或いは、それらを計算された構図で自然の中に配置することで、異質感と象徴性を帯びた絵を作り上げるといったセンスなどは、小粒ながらも見所はいろいろ。
 役者は、レッド・ナイト役でダニエル・オートゥイユという大物(ですよね? フランス映画はいまいち疎いので自信なし)も出ていますが、基本的にどの役柄も寓意的な記号という側面が強いので、演技云々はあまり印象に残りません。
 それより、メインも脇役も全部含めて、顔や体つきに記号的に強烈な個性が乏しいのが惜しい。それこそ前述のパゾリーニやホドロフスキーやフェリーニや、あるいは『薔薇の名前』あたりと比較しても、登場人物がごく当たり前の外見の面々なので、どうしても「濃さ」に欠ける印象。
 まあ、真っ当な意味では、ラウル役のセルジ・ロペスという熊さんは、なかなか可愛くはありましたが(笑)。
 つまり、この映画は史劇やアドベンチャー系のような売られ方をしていますが、実質は、アート系(あんまり好きな言い方じゃないですけど)映画のファンにアピールしうるような、そんな内容なんですな。上で例に挙げたような映画がお好きなかたでしたら、満足度の大小は別としても、それなりに楽しめると思います。
 もしこの映画を、あまり予備知識なしで単館上映かなにかで見ていたら、後々になってもちょっと尾を引くような「何となく忘れられない映画」になっていそう。で、内容を忘れた頃になって、「ああ、もう一回見たいなあ」なんて思ったり。
 個人的に例えると、アルゼンチン映画の『南東から来た男』とか、ニュージーランド映画の『ビジル』とか、ロシア映画の『スタフ王の野蛮な狩り』とか、スレイマン・シセの『ひかり』とか、デッド・カン・ダンスのリサ・ジェラルドが出ていた『月の子ども』とか、そこいらへんの映画に仲間入りしていたかも(笑)。
 ただ、こうして本質と異なるような売り方をされてしまうと、その売り方で食いついた観客は失望しか得られないでしょうね。逆に、こういった映画を求めている観客には、この売り方では届かないわけで。
 まあ、「興業」や「商品」を売るためという、それなりの理由があるのは判りますけどね。でも目先ではなく長い目で見ると、結局はどちらにとっても不幸な結果しか生まれないわけで。
 残念なことです。