『キング・フォー・バーニング』

キング・フォー・バーニング [DVD] 『キング・フォー・バーニング』(1994)トム・トエレ
“Konig der letzten Tage” (1993) Tom Toelle

 16世紀中頃、宗教改革時代のヨーロッパを舞台に、ドイツの都市ミュンスターに立てこもり、千年王国を築こうとした再洗礼派の悲劇を描いた、ドイツのテレビ映画。

 主人公は、信徒のリーダーであり自称預言者であるヤン・ボケルソン。再洗礼派の力を危険視したカソリックは、軍を派遣してミュンスターを包囲する。城壁に閉ざされた世界の中、やがてボケルソンの力は市長をも凌ぎ、自ら王として君臨する。彼は一夫多妻制を認め、反抗する者は処刑という恐怖政治を施行するが、同時に包囲された市内では食料が不足して飢餓が襲いかかる。そしてついに軍隊が突入し、血みどろの悲劇の幕が……ってのが、大まかなあらすじ。
 画面は極めて重厚。いわゆるテレビドラマ的な画面の狭さをほとんど感じさせない、たっぷり引きのある構図。時代の雰囲気や内容に良く合った、程良く沈んだ色調。衣装や美術も凝っていて、いかにも中世ヨーロッパらしい「不潔感のある豪奢さ」が良く出ています。絵的に時代物の雰囲気を楽しむという点では、ほぼ満点の出来映え。
 ただ惨劇の描写は、これはテレビものの限界か、近年の映画と比べるとかなり大人しいです。虐殺にしろ処刑にしろ、目を背けたくなるような無惨さや力強さはなく、あくまでも「こういうことがありました」という説明以上にはなっていない。まあこの間の『パッション』みたいなのは例外としても、例えば『薔薇の名前』や、あるいは『1492・コロンブス』あたりと比べても、ぜんぜんソフトなので、そういうのが苦手な方には良いでしょうが、個人的には、この題材だったらもうちょっと「禍々しさ」を感じさせて欲しかったかな。
 物語も面白いし、しかもこれが史実となるとますます興味深いんですが、どうも全体に駆け足で、説明不足の感が残るのは残念。
 特に、キャラクターの描写にそれが顕著で、例えば主人公は、それが狂信者にせよ誇大妄想狂にせよ、あるいは単なる権力欲に満ちた人物にせよ、かなり複雑で面白いキャラクターのはずなんですが、どうも内面描写が不足しているせいで、あまり説得力がないし感情移入もしにくい。彼がなぜ再洗礼派に入信したかということすら、良く説明されないし。これは他の登場人物、例えば物語のオブザーバー的な役割である主人公の級友や、主人公以前に再洗礼派のカリスマであった預言者や、その妻といったキャラクターも同様。役者さん自体は、それぞれ雰囲気に合っていてイイ感じなので、何とももったいない感じです。
 しかし、ひょっとしたらこれは、『ファイアー・アンド・ソード』の時に書いたのと同様に、このDVDは短縮バージョンなのかも知れません。IMDbで調べても、残念ながらランニング・タイムが明記されていないのではっきりとは判らないのですが、テレビのミニシリーズだとは書かれているので、その可能性は大かも。もし完全版があれば見てみたいなぁ。
 あと、特筆すべきは音楽。暗い翳りや哀感を帯びたドラマチックで重厚なストリングス、教会音楽を思わせるゴシックな雰囲気のコーラス(ゴシック期の音楽という意味ではなく、あくまでも雰囲気として「ゴシックっぽい」ってこと)、どこか恐ろしげにズンズン響く打楽器などなど、たっぷり楽しませてくれます。
 スコアを書いたのは、コッポラの『ドラキュラ』やポランスキーの『ナインスゲート』と同じ、ポーランド人作曲家ヴォイチェフ・キラール。これらのスコアが好きな人だったら、ぜったいこの『キング・フォー・バーニング』の音楽も気に入るはず。
 で、サントラがあったら欲しいな〜、なんて諦め半分で探してたら、純正のサントラじゃないけど見つかっちゃった(笑)。これに関しては、後ほど詳述。
 というわけで、全体的には多少の不満はありつつも、美術や音楽の素晴らしさ、題材の興味深さなどを併せると相殺される感強しなので、こういった内容の映画に興味のある方でしたら、見て決して損はないと思います。
 余談ですが、『刑事ジョン・ブック 目撃者』で描かれていたアメリカのアーミッシュも、確か再洗礼派の流れを汲む一派だったと思うので、同じ宗教コミューンの行き着く先の違いなどを考えると、またいろいろと感慨深いものがあります。
 では、恒例の「責め場」紹介。例によって、嫌な人はこの段は飛ばしてください(笑)。
 この映画では「焼けたヤットコで肉を引きちぎっていく」処刑が見れます。
 まあ前述したように過激さはなく、肌を挟むヤットコ、苦悶する顔のアップ、火傷痕のメイク……といった、あくまでも昔の映画に良くある「そのものズバリは映さない」タイプの表現。今どきの映画風の、CGや特殊メイクでスゴイものを見せてくれる……なんてことはない。でも個人的には、受刑者がヒゲ面&腰布一丁というダブルコンボだし、公開処刑だし、あんまり映画で見たことのないシーンだし、けっこう嬉しい儲けもの(笑)。
 もう一つ、鉄檻に入れての晒し刑なんてものもあるんですが、これは動物園みたいにフツーの檻の中に、完全着衣のまま入れられているだけなので、あまり興趣はかき立てられなかったなぁ。人型のカゴに入れて城壁から吊しでもしてくれれば、もっと良かったんだけど(笑)。

 さて、前述の音楽ですが、サントラ盤は見つからなかったものの、代わりにコレを見つけました。
wojcieck_kilar
 ヴォイチェフ・キラールの映画音楽を、ポーランド国立ラジオ交響楽団が演奏しているアルバムです。指揮はアントニー・ウィット。……知らないけど(笑)。
 これに『キング・フォー・バーニング』こと “Konig der letzten Tage” からのスコアが、5曲入っていました。映画を見て心に残った曲は全部入っていて、私的には大満足。改めて聞いても、う〜ん、やっぱり良いわぁ。映画のタイトルバックでかかる “Intrada” なんてホントいい曲。ゴシック・ホラー好きには、コーラス入りの “Sanctus” とか “Mizerere” の暗黒っぷりなんかタマンナイし。
 他に収録されているのは、前述のコッポラの『ドラキュラ』から6曲、ポランスキーの『死と処女(おとめ)』から3曲、どうやら日本未公開らしいポーランド映画 “The Beads of One Rosary” と “Pearl in the Crown” から、それぞれ1曲と2曲。いずれも劣らぬ良い曲揃いなので、興味のある方にはぜひオススメ。
 レーベルはクラシックの廉価版で有名なNAXOS。タイトルは”Bram Stoker’s Dracula and Other Film Music by Wojciech Kilar”、カタログ・ナンバーは8.557703。
 NAXOS JAPANのサイトでは見つからなかったので、国内盤(ってもここのはいつも、輸入盤に解説付きの帯を付けたものですけど)は出ていないのかもしれませんが、輸入盤ならamazon.co.jpで「クラシック」で検索すると簡単に見つかります。

『キング・フォー・バーニング』」への3件のフィードバック

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