『キング・コング』ピーター・ジャクソン
“King Kong” Peter Jackson
大阪でちょっと空いた時間があったので、これ幸いと遅ればせながら見てきました。入りが悪いと聞いていたんですが、私が見た梅田のシネコンでは、上映15分前で残席4と、ほぼ満席。
3時間を超える長尺を、飽きさせず見せる手腕には素直に感心。特に髑髏島の恐竜や虫関係の見せ場は、もうこれでもかってくらいに見せてくれて、いかにもこの監督らしいトゥー・マッチさが最高。
特に虫がね、もーマジでスゴイっつーかキモチワルイっつーか……(笑)。この一連でクルーがバタバタ死んでいくのを見ていると、今こそバローズの『地底世界ペルシダー』を実写映画化して欲しいと、切に希望しますね〜。でも、ジャクソンの無邪気さとは愛称が悪そうなので、ここはぜひポール・バーホーベン監督でお願いしたい(笑)。
ただ、人間ドラマはちょっと……。
キャラクターをじっくり描いていくのはいいし、長〜い導入もそれ自体は良く撮れていると思うんだけど、そういうアレコレがモノガタリにあまり有機的に絡んでこないから、ついつい「……コレって必要なの?」とか思っちゃう。キャラクターの行動原理の説明としては、まあ納得がいかなくもないんだけど、何から何まで隙間を埋めて説明尽くしってのも、余白がないぶんモノガタリ全体を矮小化してしまうような。
特に、ジャック・ブラック演じる映画監督に関しては、やりたいことは判らないでもないし、ジャクソン監督自身の想いもひしひしと伝わってもくるんだが、でもやっぱりそういうことをやりたいんだったら、『アギーレ 神の怒り』とか『フィッツカラルド』とか、それこそ『地獄の黙示録』(これはあんまり好きな映画じゃないんだけど)みたいな、フォーカスをそっちに絞った映画で見たい。モノガタリの骨格が、古典的な冒険物や怪獣物の映画ならば、キャラクターはもっとシンプルな方が、個人的には好みです。
というのも、そーゆー記号化されたキャラクターだったら、何をしでかそうと全く気にならないんだけど、こういう風に下手にキャラクターに現実っぽい「リアルさ」(個人的には、こういうのは現実に近いという点で「生っぽい」だけであって、それがイコール「リアル」であるとは、全く思わないけど。モノガタリと現実世界の距離感に応じて、キャラクターが「リアル」であるための尺度も変化していく、というのが持論なもので)が与えられていると、ついついこっちも無意識に「生っぽく」見てしまう。
すると、基本的にこいつらは「勝手に余所の島にきた闖入者」であり、しかも「現地人に自分たちの仲間が殺されたらショックを受けるが、自分たちが現地人を撃ち殺していることには自責の念が全くない」なので、実にイヤな連中ばかり。まあ、この時代の欧米人の感覚なら、それもリアルっちゃあリアルだけどね、危機また危機のシーンで、登場人物を応援する気になれないってのは、ちょいとツラい。
というわけで個人的には、徹底的にカリカチュアライズされている二枚目アクション・スターの役が、一番モノガタリ世界に馴染んでいて好きでした(笑)。
コングとヒロインのアンの触れ合いに関しては、これはなかなかじっくり描かれていて良かった。雪のセントラル・パーク(なのかな?)で、いきなりトレンディ・ドラマみたいになるのはビックリしたけど(笑)。
でも、ラストの悲劇は、実は意外と泣けなかった。このテの話だと、いつも怪獣やモンスターに感情移入しまくる自分としては、下手すると大泣きするんじゃないかと身構えていたんだけど、まあジ〜ンとは来たんですが、それ止まり。
これはおそらく、コングがかなり「人間っぽい」からでしょうね。つまり、悲劇は悲劇なんだけど、コングの人間っぽさ(……というか、ハッキリと「男」である、とでも言うか)ゆえに、どうも「ファム・ファタールに出会って自滅した男」に向ける憐憫のような、人間的な悲劇なわけです。かつて恐竜グワンジや金星竜イーマが死んでしまったときに感じたような、茫漠たる喪失感のような哀しみといった、人間が元凶となって引き起こされた、汎的な規模の悲劇とはタイプが違う。
まあ、こうなると趣味の問題でしかないですが、私は後者の方が好きなわけです。で、しかも『キング・コング』の場合、映画を締めるのが諸悪の根元(と、あえて明言させていただく)であるジャック・ブラックなもんで、ちょっとモヤモヤ感も残ってしまった。やっぱアイツは踏みつぶして欲しい(笑)。
というわけで、ここでもヒューマニスティックであるがゆえの、モノガタリの矮小化といった現象が起きているように感じました。
こんな具合に、かなり個人的な好き要素と苦手要素が、それも両極端が入り交じっていたもんですから、観賞後の印象も、ちと複雑。
異形の傑作のような気もするし、偉大なる失敗作のような気もする。『ロード・オブ・ザ・リング』三部作が、エモーションや映像力は別にしても、後の作品になるにつれバランス感覚は崩れていったことを省みても、この『キング・コング』が更なる「いびつさ」を見せているのも、監督の作家性としては当然の帰結なのかも知れません。
しかし、どちらにせよ「類を見ない」ことは確かなわけで、それだけでも充分に価値はあるでしょう。
でも個人的には、『旅の仲間』劇場版の、あの驚異的な完成度を思い出すにつけ、もし『ロード・オブ・ザ・リング』以前に監督が『キング・コング』を撮れていたら、今回とはまた違った大傑作が見られたかも……なんて、ついつい考えちゃいますけどね(笑)。
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1933年に製作された「キング・コング」を、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの ピーター・ジャクソン監督がCGを多用し現代版にリメイクした アクション・アドベンチャー超大作。 注目は、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでCGキャラクターの「ゴラム」を演じた ア…..
26/5/2006: 映画二題
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