『ヘラクレス・サムソン・ユリシーズ』(1963)ピエトロ・フランチーシ
“Ercole sfida Sansone” (1963) Pietro Francisci
ピエトロ・フランチーシ(前はフランシスキと表記しましたが、allcinema ONLINEの表記に合わせました)監督による、『ヘラクレス』『ヘラクレスの逆襲』(スティーヴ・リーヴス主演)に続く、三本目のヘラクレス映画、イタリア盤DVD。英題 “Hercules, Samson & Ulysses”。
ヘラクレス役は、リーヴスからカーク・モリスにバトンタッチ。
ヘラクレスは、弟分のユリシーズや部下を引き連れて、漁船を襲う海獣退治に出かけるが、嵐にあって遭難してしまう。難破した船が流れ着いたのは、イスラエルのガザ。そこに住むヘブライ人たちは、暴君の圧政に苦しんでおり、勇者サムソンがそれに抵抗して闘っていた。
ヘラクレス一行は、故郷へ帰る船を入手するために村を離れるが、その途中でライオンに襲われてしまう。ヘラクレスがライオンを倒して事なきをえるが、それを見た地元民の一人が、ヘラクレスをサムソンと勘違いしてしまい、一行の身柄を暴君に引き渡してしまう。一方、ヘラクレスたちが村を出てから後、暴君の使者がサムソンを探すために村にやってくる。そして、村人たちがサムソンを匿っていたことを知り、皆殺しにして火を放つ。
暴君の王宮に連れて行かれたヘラクレスは、彼がサムソンであるという誤解は解けるものの、美姫デリラの入れ知恵によって、ユリシーズたち仲間を人質にとられ、サムソンを捕らえるよう強要される……ってな内容の、ギリシャ神話 meets 旧約聖書なオハナシです。
まず冒頭から、漁船を襲う海獣が、アザラシ(トドかな?)の頭のアップとアシカが泳ぐロングをカットバックしただけで、しかも決して漁船と同時にフレームインしないっつー、あまりの絵面の安さに「ど、どーしちゃったの、フランチーシ監督!?」と、思いっきり映画の先行きが不安になります。
引き続き、ギリシャの王宮やヘラクレスの邸宅のシーンになると、今度はまあそこそこスケール感も豪華さもあるので、ちょっと一安心しますが、しかしかつての『ヘラクレス』『ヘラクレスの逆襲』のような、デリシャス・ゴージャスでリッチな味わいには程遠い。
キャストのランクが全体的に下がっているように、予算の関係もあるんでしょうが、もう一つ、今回の撮影はマリオ・バーヴァじゃないということも、かなり痛手となっている感じ。旧作と似た絵面が多いせいもあって、どうも全体的に旧作の縮小再生産といった感じが免れられない。特に、『ヘラクレス』や『ヘラクレスの逆襲』でも出てきた「例の泉」(かたやアマゾンの、かたやオンファーレの宮殿にあった、ちょっとした段差で小さな滝のようになっている「あの泉」です)のほとりのシーンなんて、「う〜ん、同じ監督でも、役者と撮影の差で、こんなにも違うものか……」と思ってしまったくらい、およそ魅力のないシーンになってしまっている。それにしてもこの泉、ソード&サンダル映画では本当にしょっちゅう出てきて、もう何回見せられたことか……(笑)。
演出自体のテンポやテイストは、テキパキと進む話、クラシカルで時に優雅さすら感じられる雰囲気、程良いノンビリ加減を醸し出すユーモア描写など、以前のフランチーシ作品とあまり変わりません。ただ、そういったテイストが「既に時代に合わなくなってしまっている」ようなギクシャク感があり、例えて言うと、ヒッチコックの『トパーズ』や『引き裂かれたカーテン』のように、どこか居心地の悪さを感じさせるのも正直なところ。
特に、村人たちが虐殺されるシーンの、掌を土壁に釘付けにすると鮮血が滴るカットや、逃げまどう子供達を弓矢で射殺すカットといった、過去のフランチーシ作品ではおよそ見られなかった残酷趣味は、かなりビックリしてしまいました。またもや “The Pirates of the Seven Seas” や『闘将スパルタカス』同様に、史劇からマカロニ・ウェスタンへという、時代の変化を感じさせます。
とはいえ、それでも凡百の安手のソード&サンダル映画よりは、演出的にも絵作り的にもワンランク上の格は感じさせますし、物語的にも、ヘラクレスとサムソンを共演させるという、元がキワモノ的な発想なわりにはさほど珍妙でもなく、娯楽作として上手く仕上がっています。
そもそも『ヘラクレス』のラストの神殿崩しのイメージは、おそらくサムソン伝説が元になっているんでしょうし、二人に共通するライオン退治をモノガタリの鍵にもってくるとか、いちおう工夫もされている。ただ、今回もラストに神殿崩しがあるんですが、これが『ヘラクレス』のフルスケールとは違ってミニチュアで、しかも実写との合成もないもんだから、イマイチ盛り上がりに欠けるのが残念。
ヘラクレスが異国に漂着するっつーと、マーク・フォレスト主演の南米のマヤだかインカだかに辿り着くっつーのもありましたが(因みに、マヤの王子役がジュリアーノ・ジェンマ)、あれなんかと比べればキワモノ臭は薄い方。「ヘラクレス vs ○○」パターンで比較しても、レジ・パークの「ヘラクレス vs 狼男」の映画なんかよりゃ、内容は百倍はマトモだし(笑)。
話自体は、お約束のテンコモリではありますが、ツボを押さえた話運びとテンポのいい展開で、フツーに楽しく見られるし、観賞後の後味も極めてハッピー。
で、この「ヘラクレス vs サムソン」というのは、「ドラキュラ vs フランケンシュタインで恐怖も二倍!」なユニバーサル・ホラー映画や、「母が二人で涙も二倍!」の三益愛子映画みたいなノリなわけで、「マッチョ二人で筋肉量倍増!」なところが見せ所なんですが、これに関してはグッド・ジョブ!
デリラと組んだヘラクレスは、自らを囮にしてサムソンを捕らえにいき、メソポタミア風の遺跡で両雄対決するんですが、このシーン、かな〜り楽しいです(笑)。
まず、ヘラクレスは、デリラに捕らえられたヘブライ人の捕虜に変装してるんですが、そこにサムソンが現れると、歌舞伎の早変わりよろしく、片手でさっと服を引き抜いて半裸になる。
で、二人のボディービルダーの取っ組み合いが始まるんですが、なんせ神話的な怪力同志ですから、柱にぶつかっちゃあ柱が倒れ、石壁にぶつかっちゃあ石壁が崩れ……といった具合に、闘うにつれて遺跡がどんどん崩壊していく。鉄棒で闘っていたのに、いつの間にか二人とも鉄棒をUの字に曲げて、相手の身体を挟み合っているシーンなんか、ほとんどギャグだし、もうなんかね、ノリはすっかり『サンダ対ガイラ』で、史劇でも何でもなく、怪獣映画を見ている味わいなのだ(笑)。
そして、お約束通りに、二人の英雄は闘いを通じて和解、仲間になるんですが、それを見てデリラ嬢が「ヤバい!」と逃げ出すと、まずサムソンが投げ縄で馬を倒し、落馬したデリラ嬢がスタコラ逃げるところを、今度はヘラクレスが投げ縄でキャッチ。で、サムソンと二人で縄をエンヤコラと引いて、捕まえたデリラ嬢をたぐり寄せる(笑)。
この後は、もうだいたいお判りですね。二人仲良く、力を合わせて悪人退治です。ここいらへんのノリは『ヘラクレス』でも『ヘラクレスの逆襲』でも見られなかったので、なかなか新鮮。
ヘラクレス役のカーク・モリスは、マチステ映画には良く出ていた人ですが、今回はフルフェイスのおヒゲさん。髭面のカーク・モリスって、私はこれで初めて見たので、ひょっとしたら貴重かも(笑)。ただ、この人は基本的にベビーフェイス、カワイ子ちゃん系の青年顔なので、正直あんまりヒゲが似合っていない。でも、他のマチステもののソード&サンダル映画で見るときよりは、何となく落ち着きや風格が増している感じはあり、けっこう頑張って演じているなぁ、という気はします。
対するサムソン役のリチャード・ロイドは、私は全く馴染みがない人で、IMDBのフィルモグラフィを見ても、三本のソード&サンダル映画を含めて、出演作は七本しかありませんでした。顔は、ミンモ・パルマーラやシルベスタ・スタローン系のイタリア顔で、私は正直いって苦手な部類ですが、筋量はけっこうあります。ただ、筋肉自慢なのは判るんだけど、必要のないシーンで、さりげに胸筋をピクピク動かしてみせたりするのが、何ともウザい(笑)。
デリラ役のリアナ・オルフェイは、スティーヴ・リーヴスの “The Avenger” とか、ゴードン・ミッチェルの “The Giant of Metropolis” などのソード&サンダル映画でお見かけした顔ではありますが、いかんせんデリラというには美貌も貫禄もオーラも不足。そうそう、珍しいところでは「映画はおそろしい DVD BOX」に入っていた『生血を吸う女』にも出てましたね。
DVDはPAL、非スクィーズのビスタ、レターボックス収録。音声はイタリア語のみ、字幕なし。特典なし、チャプターあり。画質は良好。
ま、フランチーシ監督なんで、残念ながら責め場とかは皆無ですが、こんな感じで、二人のボディビルダーの筋肉美は、タップリ堪能できます。
【追記】アメリカ盤DVD-R出ました。画質良好。
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