お正月に良く聴いたCDあれこれ

Godowski『ジャワ組曲』レオポルド・ゴドフスキー
 ゴドフスキーってのは、ピアノの超絶技巧練習曲とかで有名な人らしいんですが、寡聞にしてそっちのことは良く知りません。検索してみると、何だかクラシックの中では、ちょっとキワモノっぽい扱いのようではありますが、何となくスゴそうな人ではあります。で、これはそんなゴドフスキーさんがインドネシア旅行に行った際の印象を、1920年代にピアノ組曲として作曲したものらしいです。
 聴く前は、ガムランとかをピアノで再現するようなヤツかしらんとか想像してたんですが(ホラ、何てったって超絶技巧だし)、いざ聴いてみるとフツーにキレイで聴きやすい、エキゾチックなピアノ小曲集でした。一曲目の「ガムラン」からして、いかにも西欧文化から見た東洋って感じのフレーズが頻出して、エキゾチカ好きにはかなりタマランものがあります。
 民族音楽的なアプローチを期待すると、わりと雰囲気だけという感じなので裏切られるとは思いますが(ピアノ版ガムランとかだったら、ジョン・ケージの「バッカナーレ」とかの方がオススメ)、覚えやすくキャッチーでエキゾチックなメロディーは、充分に美しくシンプルな力強さがあります。良く聴くと装飾音とかが複雑なんですが、フツーに聴いているぶんには実に流麗で、そんなヤヤコシサは微塵も感じさせないってのも、個人的には好感度大。
 そんなこんなで、自分のルーツとは直接縁がない観光音楽的な民俗楽派みたいな……って、よーワカラン説明ですが(笑)、そんな味わいがあるので、エキゾチカ好きや、お堅いことは気にしない国民楽派や民族楽派好きにオススメ。インドネシア人女性ピアニスト、エスター・ブディアルジョの演奏も、パキッと立った音の粒が気持ちいし、表現力もありながら過度に情緒に流れることもなく、個人的に好感度大。
“ジャワ組曲” ゴドフスキー (amazon.co.jp)
Still『交響曲第1番 アフロ=アメリカン/交響詩 アフリカ、他』ウィリアム・グラント・スティル
 スティルという人は、アメリカのクラシック畑において、黒人の作曲家や指揮者としてパイオニア的な存在の人らしいです。生没年は1895〜1978年ですが、自らのルーツであるアフロ=アメリカン文化の要素を、ロマン派的なクラシック音楽に組み込んだような、いわば遅れてきた民族楽派ってな感じでしょうか。
 全体の印象としては、楽曲はあくまで平明で美しく、それがシンプルな力強さになってエモーションを揺すぶられます。特に、冒頭に収録されている「イン・メモリアム〜民主主義のために亡くなった有色人種の兵士たちへ」なんて、黒人霊歌的な哀切さと軍楽的な力強さとクラシック的な雄大さや繊細さが合体していて、聴いていて思わず泣きそうになったほど。これ、すっげーオススメ。
 メインの「交響曲第1番 アフロ=アメリカン」も、ブルーズっぽいキャッチーな哀愁メロディーの第1楽章、それがよりメロウになる第2楽章、クラシックだけどミュージカルのレビューもそこのけの陽気でダンサブルな第3楽章、前述の「イン・メモリアム」にも通じる哀切な雄大さで始まりパッショネイトでドラマチックに幕を降ろす第4楽章まで、楽しさも感動もテンコモリ。これまた激しくオススメ。
 そういうわけで、ロマン派や民族楽派好きとか、ガーシュウィン好きとかならオススメ。あと、映画音楽好きにもオススメなので、クラシックは聴かないけど映画音楽は好きで、最近だとジェームス・ホーナーとかハンス・ジマーとかが好きだという方も、だまされたと思って一度トライしてみては?
“交響曲第1番 アフロ=アメリカン” スティル (amazon.co.jp)
Yellowriver『ピアノ協奏曲 黄河、他』殷承宗、他
 これは有名ですよね。文化大革命のときに西洋音楽が禁止され、中国のクラシック音楽家たち総動員で制作された、政治的意図が明確な中華国民音楽。
 ガキの頃、NHKとかで中国のオーケストラの来日演奏の放送なんかがあると、よくこの曲が演奏されていたのを覚えています。クラシック的には完全にキワモノ扱いで、じっさい私が買ったCDの帯(NAXOS盤)の紹介も、「テンションの高いオーケストラによる導入に続き、モーレツな勢いで炸裂するピアノ・ソロによる炎の大アルペジオ、さらには絵に描いたような『いかにも中国風』の旋律の堂々と登場(中略)強烈・濃厚な中華ロマンは、そのあまりのわかりやすさゆえに聴くものをして赤面させるほど」ってな具合で、完全にギャグ扱い(笑)。だから、前述のテレビ放送を見た私が「この曲、好き」とか言うと、真っ当なクラシック好きなウチの父なんか、イヤ〜な顔をしたもんです(笑)。
 でも、この「ピアノ協奏曲 黄河」って、そういう「判りやすさ」が最大の魅力だと思います。映画音楽でもエキゾチカでも何でも好きな人なら、クラシック的にはキワモノでも、割とフツーに聴ける楽しい曲だと思います。もう、中国製スペクタクル映画を見ている気分になれます。
 加えてこのCDは、同時収録で中国のピアノ曲がいっぱい入っていまして、これがまた何とも愛らしい佳品揃い。例えば「月を追う色とりどりの雲」って曲は、高峰三枝子の「南の花嫁さん」の原曲である中国の民謡をクラシック風にアレンジしたもので、お馴染みの親しみやすく美しいメロディが、ヒラヒラと舞う蝶のごとく美しいアルペジオに飾られながら奏でられ、聴いていてウットリしちゃいます。同じく民謡をアレンジした「愉しいロソ」も、ピコピコ動き回る音の粒が、何だか子ネズミでも走り回っているようで、楽しいのなんのって。他にもモンゴル民謡をアレンジした小品集とか、どれもこれも心の琴線を擽るような、エキゾ懐かしいメロディの宝庫です。オリジナルものでも、「バレエ組曲 人魚」の一曲目のタイトルが「朝鮮にんじん」だったりすると、もうそれだけで何だか嬉しくなっちゃう(笑)。
 ってな具合で、この同時収録のピアノ小品だけでも一聴の価値あり。ゴドフスキーの「ジャワ組曲」同様にエキゾ好にはもちろん、服部良一や中華懐メロ好きにもオススメです。
“ピアノ協奏曲 黄河、他” 殷承宗、他 (amazon.co.jp)
Addiofratellocrudele『さらば美しき人』エンニオ・モリコーネ
 前にここでDVDを紹介した、ジュゼッペ・パトローニ・グリッフィ監督、シャーロット・ランプリング主演映画のサントラのリイシュー盤CDです。
 DVDの紹介時にも書きましたが、音楽は哀感を帯びた古楽風の美メロ。映画と併せるといささか饒舌に過ぎる感があったけれど、逆に単体の音楽としてはそれが強みでもあります。改めて音楽だけ聴いていると、やはりこの哀愁メロディーは良いなぁ。ハープシコードや木管で奏でられる美しい旋律、そこに控えめに寄り添って情感を盛り上げる美麗なストリングス、ときおり顔を出すスキャット(モリコーネだからエッダかな?)、ひたすらメロウで美しい。
 メロディーはキャッチーで全体の雰囲気が古楽風という点では、ニーノ・ロータの『ロミオとジュリエット』にも通じるものがありますね。あっちの方がよりスウィートですけど、全体を通して一種のポップ感や歌謡感があるあたりは似ています。ゴスなミサ風の曲まで、そこはかとないポップ感が漂っているのも、まあご愛敬(笑)。
 前にここで紹介した『ヘラクレス/ヘラクレスの逆襲』と同じDIGITMOVIESからの復刻なので、ブックレットには各国版のポスター(日本のもありました)やロビーカード、スチル写真等が掲載。プロモーション用スチルは、やっぱヌード・シーンが多いのね。ランプリングの乳首もオリヴァー・トビアスの美尻もバッチリ載ってます(笑)。
 DIGITMOVIESのサイトを見ると、昨年暮れの発売にもかかわらず、既に在庫が稀少のようなので、欲しい方はお早めにどうぞ。
“さらば美しき人” モリコーネ (amazon.co.jp)
『さらば美しき人』DVD (amazon.co.jp)