『キングダム・オブ・ヘブン』ディレクターズカット版

Kingdomofheaven 劇場公開時にここで、条件付きながら絶賛したリドリー・スコット監督の『キングダム・オブ・ヘブン』ですが、劇場公開時に削除された本編50分を復活させたディレクターズ・カット版のDVDが、昨年暮れに出たのをお正月のお楽しみにとっておいたんですが……もう大傑作 だった〜!!
 
 前回の記事で「多少の瑕瑾」として挙げた気になるポイントは、ことごとくクリアです。
 まず、導入部のエピソードの増加が嬉しい。これによって人物の因果関係がクリアになり、同時に主人公バリアンの心情も、より切実なものに感じられます。おかげで、前に書いたような「こちらの感情が置いてきぼりにされてしまう感じ」は、きれいに払拭されました。……まあ、欲を言えば、もっと長くてもいいと思うけど(笑)。エルサレム以前2時間とエルサレム以降3時間で計5時間とか、セルゲイ・ボンダルチュクの『戦争と平和』並みの、全7時間とかでも良くってよ(笑)。
 エルサレム以降も、様々なちょっとしたエピソードが追加されて、それによってキャラクターたちの「魅力的ゆえに『もっと見たい』感が強くなるのに、前述の時間不足もあって描き込み不足」といったポイントもクリア。特に、ヒロインのシビラと、劇場版では完全にカットされていたシビラの息子のエピソードの復活は大きい。
 劇場版だと、シビラというキャラクターの心情がいまいち掴みにくく、モノガタリへの絡み方にも少々ぎこちなさがあり、同時にバリアンにも、内面の深さに物足りなさを感じる部分がありました。そのせいもあって、ついこの二人の動き方を見ていて「……もうちょっと別の手段もあったんじゃない?」なんて感じてしまう部分もなきにしもあらずだったんですが、前半のバリアンの描写と中盤のシビラの描写が共に増加したことで、それらの瑕瑾や違和感がキレイに払拭されています。
 こうして、メインのキャラクター二人にしっかり芯が通ったことと、その他のキャラクターたちも軒並み描写が深くなったことで、基本的に群像劇であるモノガタリが、もう文句なしの内容になった。オマケに、他の美点は前回述べたように数知れずですから、もう怖いモンなしの出来映えです。
 しかし、改めて見ても映像の深い美しさには惚れ惚れするので、こーなるとブルーレイ・ディスクの再生環境が欲しくなっちゃうなぁ(笑)。でも、我が家は狭いし、予算もない(笑)。
 そうそう、字幕の情報不足って点は、前に通常の劇場公開盤DVDが出たときから、ある部分は改善され、ある部分はそのままでした。例えば、「サラディン」表記はそのままですが(要だけ「サラーフ・アッディーン」に「宗教の救い」というルビがあったか)、New Jerusalemはちゃんと訳されてたり。
 DVDソフトとしては、本編のみになってしまったのは、ちと残念。
 とゆーのもこの映画は、時代背景の知識がそれなりにあるとないとでは大違いで、まあ、歴史映画ってのは概してそうですが、この映画の場合、扱っているテーマが現代にそのまま通じているものでもあるので、尚更そういう感が強くなる。「遠い昔の、知らない世界の人々のモノガタリ」ではなく、確実に「現在の世界と繋がった世界、繋がった人々のモノガタリ」なんですな。
 で、前に発売された「二枚組<特別版>」ってDVDには、特典ディスクにそこいらへんを絡めたドキュメンタリー番組が入っていて、これがそれなりに鑑賞の助けになった。ウチの相棒は、劇場で一緒に見たときは「面白いけど、正直ちょっとピンとこない部分あり」ってな反応だったけど、「二枚組<特別版>」を買って、特典ディスクを先に見て、それから改めて再び本編を見たら「すごい、感動倍増!」ってな反応になったんで。
 で、今回の「ディレクターズ・カット版」DVDですが、北米盤には、日本盤にはない特典ディスクが二枚ついているようです。どうやらこれはメイキングらしく、歴史背景の開設があるかどうかは判りませんが、内容はどうあれ、好きな映画だと特典映像も見たくなるのがファンの常(笑)。削られてしまったのは、やっぱり残念。
 かと思えば、前の「二枚組<特別版>」には、日本盤オリジナル特典とかで、オーランド・ブルーム来日写真集なる小冊子が付いていたんですが、これがまた「……(苦笑)」ってな感じでねぇ(笑)。来日記者会見とかのプレス用のスナップショットを集めただけのシロモノで、工夫もへったくれもありゃしない内容だった(笑)。『トロイ』のときの、オリジナル・メモパッドとかの方が、実用的なだけまだマシだったかも(笑)。
 つくづく、日本盤DVDは不幸な映画です。
 ただまあ、歴史背景云々は、『キングダム・オブ・ヘブン 公式完全ガイド』って本がなかなか好著なので、そっちで補完する手もアリ。
 まあ、そんなこんなはありますけど、だからって映画の品質に変化があるわけじゃないし、私は劇場公開版も「その年に見た映画のベスト1」でしたが、今回のディレクターズ・カット版で、もう「エバーグリーンの名作!」に昇格。……あ、でもこれ、シビラ役のエヴァ・グリーンと紛らわしいな(笑)。素直に「歴史に残る傑作!」にした方が良かったか(笑)。
『グラディエーター』で史劇ブームの再来の口火をきった監督が、そのブームの終わり(……史劇好きとしては認めたくないけど、終わりっぽいよね、こーゆー大作ブーム)に、これだけの作品を再びモノにしたのは、改めてスゴイ。
 さて、今年も何か面白い史劇映画は見られるかな。
 とりあえず、フランク・ミラーの『300』は、モノガタリは「スパルタ vs ペルシャ」のテルモピュライの戦い、主演は筋肉増量半裸ヒゲつきのジェラルド・バトラー、他にも裸のマッチョがウジャウジャ、しかも血まみれ、監督はザック・スナイダーってだけで、もうガチで楽しみにしてるんだが……ちゃんと公開してくれるんでしょうね?
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