“Centurians of Rome”

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“Centurians of Rome” (1980) John Christopher

 今まで、ソード&サンダル映画のソフトについて、何度か書いてきましたが、今回はちょいと変化球です。
 いや、変化球っつーか、これは反則か(笑)。だってこれ、ゲイポルノ史劇だから(笑)。でも、そう言うと何だかキワモノのようですが、あにはからんや、これは私が見た古今東西のゲイ・ポルノ映画の中でも、三本の指に入るマイ・フェイバリット。
 とゆーわけで、今回の記事は「エロ」ですから、お嫌な方はパスするように。

 ポルノ+史劇というと、有名なのはティント・ブラスの『カリギュラ』ですよね。公開当時は日本でも話題になりましたし、ゴージャスな画面や残酷趣味などの見せ物的な面白さはありましたが、まあ正直なところ、アーティスティックという面でもポルノグラフィックという面でも、どっちつかずの中途半端さで、さほど面白い作品ではない。
 理由はいろいろありますが、私にとって最大のそれは、単に豪奢なセットの中で乱交するだけで、エロティックな表現そのものに目を見張るようなものがなかったってことです。そういう意味では、富士見ロマン文庫から邦訳が出た、ノヴェライズの方が面白かった。ペントハウス誌のオーナーにして映画の制作総指揮も努めたボブ・グッチョーネが、映画の仕上がりに不満で手を入れたとは聞きますが、私はティント・ブラスの作品は、そーゆー横槍がないはずの『サロン・キティ』でも退屈だったから、そもそもこの監督とは相性が悪いのかも知れません。
 しかし、大金を投じて(『カリギュラ』は46億円らしい)ポルノ映画を撮るってこと自体は、結果はどうあれ、その心意気に拍手したい気持もあります。

 さて、そんな『カリギュラ』の向こうを張って……かどうかは判りませんが、その翌年に公開されたのが、この “Centurians of Rome” です。もちろん『カリギュラ』ほど大金がかかっているわけではなく、それでもIMDbのトリビアには「最も高い制作費を投じた(10万ドル近い)ゲイ・フィルム」とあります。
 まぁ、いくらゲイポルノとしては破格の予算を投じていても、『カリギュラ』とは桁が二つ違うし、実際の画面もゴージャスには程遠いです。50年代後半から60年代中頃のソード&サンダル映画の、安っちいクラスの作品と比べても、ず〜っとず〜っと貧乏くさい(笑)。
 でも、それなりに頑張ってはいて、例えば、何もない野っ原にローマ風の石柱をポツンと置いて、遺跡風の雰囲気を出していたり、建物の外観とかは、どこぞの図書館だか博物館だかにありがちな、ギリシャ・ローマ風のエントランスとかを使って撮っていたり、頑張って史劇らしいムードを出そうという努力や工夫は、充分以上に感じられます。
 そして特筆したいのが、この映画は『カリギュラ』と違って、ポルノグラフィーに徹しつつ、なおかつモノガタリとしても面白いんですな。

 映画は『スター・ウォーズ』のパロディで始まります。星空を背景に「昔々、ローマからそう遠くない所で……」ってな黄色いテロップが流れる(笑)。で、舞台はローマ郊外らしき野っ原に移り、そこで畑を耕すかなんかしてる仲良し二人組、黒髪にフルフェイスのヒゲのディミトリアス(ジョージ・ペイン)と、ブロンドに口ヒゲのオクタヴィアス(スコルピオ)がメイン・キャラクター。
 二人は親戚同士で、オクタヴィアスが税金が払えなくて困っている、みたいなことを会話で説明した後、一休みしようかと昼寝する。ここで見る淫夢が、最初の濡れ場。ロマンティックな音楽……因みにこれ、富田勲の『ダフニスとクロエー』を、おそらく無断で勝手に使ってるんですが(笑)……が流れ、色照明の中、二人のヒゲ男は全裸になって愛を交わす……ってな具合。
 そこに百人隊長(エリック・ライアン)が部下と共に馬に乗ってやってくる。「税金払え」と言われ、オクタヴィアスが「金がないから払えない」と答えると、その場で取り押さえられてしまう。百人隊長は、ディミトリアスに空の財布を投げ与えて、「明日までに金を持ってこい」と命令すると、下帯一つの裸にされたオクタヴィアスを縄で縛って、馬で引いて連れて行ってしまう。
 連行されたオクタヴィアスは、百人隊長のテントの中で、「美しい、天使のようだ!」とか何とか迫られて、部下と一緒に数人がかりで凌辱されてしまう……ってのが二番目の濡れ場。その夜、ディミトリアスがオクタヴィアスを助けにテントに忍び込む。で、「俺はこいつを始末してから行くから」と、オクタヴィアスを先に逃がして、石を拾って百人隊長を殺そうとするのだが、根が善人なのか実行できない。すると百人隊長が目を覚ましてしまう。
 こうして、オクタヴィアスは脱出できるが(因みにこのシーンでは、今度はエルマー・バーンスタインの『十戒』の音楽が……)、ディミトリアスが捕まってしまう。百人隊長はディミトリアスを縛ると、「お前を奴隷に売って、その金を税金にあててやろう」とか言いながら、裸にして身体に悪戯……ってのが、濡れ場じゃないけど三番目のエロ・シーン。
 この後、ディミトリアスは奴隷の競り市に出され、そこに来ていた、いかにも退廃メイクなフェミニン系の皇帝の目に留まり、お買い上げ、他の奴隷と一緒に地下牢に繋がれて、マッチョな調教師からセックス調教の開始。いっぽうオクタヴィアスは、ディミトリアスを助けるために、自分を「美しい」と言っていた百人隊長に色仕掛けで近付くが、それをきっかけに二人の間に情が通いはじめる。その頃、調教が終わったディミトリアスは、ついに皇帝の夜伽をするために寝室に連れて行かれ、寝台の柱に縛られ……ってな具合に、話が進みます。

 あらすじの紹介が長くなりましたが、こんな感じで、ジャンル・フィクションで期待されるクリシェを上手く使い、同時に要所要所をしっかり濡れ場で押さえつつ、キャラクターの性格や心情も絡めたストーリーをきちんと展開していく。内容も盛り沢山で、凌辱や縛りや鞭打ちもあれば、キスやラブラブや恋愛もあり、モノガタリ的なドンデン返しまである。
 ここまでちゃんとした「おはなし」があって、それがエロ・シーンと全く乖離していないのは、ポルノグラフィー的なモノガタリのレベルが極めて高いとゆーことで、もう「お見事!」って感じ。私が本作を、マイ・フェイバリットの一本にあげる、最大の理由がこれ。
 それと私の場合、幼少のみぎりから『十戒』やら『ベン・ハー』を見て、映画としての面白さと同時に、性的にもモヤモヤと惹かれていた……って事情もあります。
 で、映画を見た後、勝手に頭の中で「アレがあの後、あ〜なってこ〜なって……」ってなHな妄想を繰り広げて、エロい二次創作(笑)をオカズにマスターベーションしたりしてたわけですから、そーなるとこの映画は、もうある種の夢の具現化です。今からもう、20年も前になりますか、知り合いに初めてこの映画の裏ビデオを見せてもらったときは、「ひゃ〜、こんなのがホントにあったの!」と、マジでビックリかつ感激したもんです(笑)。

 あとまぁ、やっぱりポルノですからね、俳優陣がイケるかどうかってのも重要なんですが、これまた幸いなことに、私の好みに合致してる。
 昔の、まだフィルム撮りだった頃のゲイ・ポルノですから、皆さん今みたいにゴリゴリのマッチョやらビルダーやらってのではないですが、肉体労働系のナチュラルな逞しさで、これはこれでまた良きかな。顔も、メインの三人はいずれも私的にオッケーなタイプだし(特に黒ヒゲのジョージ・ペインの顔は好きだなぁ)、脇でも、ダンジョンの調教師なんかカッコいいし。
 不気味系の皇帝陛下も、他の役者とのコントラストが、逆にエロい気分をかき立ててくれるし、役者としてもけっこう見せてくれる。特にラストで見せる表情なんて、『サンセット大通り』のグロリア・スワンソンばり……までいくと褒めすぎだけど、でも、かなりの凄み。
 最近制作のゲイ・ポルノでも、こういった史劇風のものってのも、全くないわけじゃないんですが、残念ながらクオリティが、この作品の足下にも及ばないものばかりです。
 なんかね、ローマ風の衣装を付けて、それ風のセットでセックスしたりはするものの、キレイにタンニングした肌にビキニ跡がクッキリとついていたり、ラテックスのコンドームを使ってたりすると(まあ、これは仕方ないことではありますが)、興ざめも甚だしい。もちろん、モノガタリなんてあってなきが如しで、コスチューム・プレイではなく、悪い意味での「コスプレ」にしかなっていないんですな。

 あと、ハードコアのポルノビデオって、どうしても「結合部分をよく見せる」とかの工夫ゆえに、本来ならば陰になる部分にも照明を当てるから、結果として画面がフラットになりがちだったりします。まあ、上手いスタジオだとそこいらへんも上手くて、二灯三灯使いながらも陰影にはメリハリを付けて、全体も局部も共に見応えある画面作りはしていますが、そーゆー優良スタジオは限られている。
 でも、この “Centurians of Rome” は、そこいらへんがけっこう「映画的」なんですな。シーンによっては、オーラルセックスやアナルセックスをしていても、性器や結合部分が完全に影に隠れてしまっていたり、暗すぎて見えないことも多々ある。でも、それがかえってナチュラルな淫靡さを醸し出していたり、エロティックな雰囲気だったり。光と影で画面を作るという意識や、最近のAVでは見られなくなった職人的な技術が、しっかりあるという感じです。

 DVDの画質は、もちろん私が以前持っていた裏ビデオ版と比べると、問答無用の良画質ですが、こういうクラシック・ゲイ・ポルノのソフト全般と比べても、かなり佳良です。デジタル補正しているようで、映像はかなりシャープで鮮明。ただ、シャープネスをきつくかけたせいなのか、ちょっと全体的にフィルムの粒状感が目立ってしまったような、ザラザラした感じはあります。
 画質のサンプルは……う〜ん、内容が内容なだけに、キャプチャ画像をアップするのは差し控えます(笑)。どんな内容か知りたい人は、Centurians of Rome でGoogleのイメージ検索をすれば、スチル写真やキャプチャ画像が幾つかヒットするので、それを参考にしてください。
 ディスクは、プレスではなくDVD-Rですが、フルカラーのピクチャーディスク仕様。メニュー画面あり、チャプター付き。