『復讐無頼・狼たちの荒野』(1968)ジュリオ・ペトローニ
“Tepepa” (1968) Giulio Petroni
前回からトーマス・ミリアン繋がりで、彼主演のマカロニ・ウェスタン映画のイタリア盤DVDのご紹介。
20世紀初頭、メキシコ革命の渦中に、英国人医師ヘンリーがとある街にやってくる。街の監獄には革命派の英雄テペパが捕らえられており、明日にも銃殺刑に処せられようとしていた。処刑当日、ヘンリーはテペパを救出する。しかしそれは、テペパの命を助けるためではなく、ヘンリーの想い人だった女性がテペパに犯されて自殺した復讐として、自らの手でテペパを殺したいからだった。しかし、警察署長のカスコッロ大佐に追わているうちに、ヘンリーとテペパの間には、不思議な絆が生まれていく……ってなお話しです。
メキシコ革命を背景にしているとはいえ、政治的なヤヤコシイことが描かれるわけではなく、あくまでも、圧制者としての官と自由を求めて闘う農民というシンプルな構図の中、三人の男たちの思惑や運命が交錯していく娯楽作。
マカロニウェスタンには疎いので、良く判らないんですが、いわゆる「アウトローたちが見せる、胸の空くようなガンファイト!」みたいな要素は少な目な印象。それ系のハッタリやケレン味は、少ないほうなんじゃないだろうか。それよりも、革命に生きたテペパという男の半生を描いた歴史物、みたいな雰囲気があります。
もっとも、このテペパが実在した人物なのか、それともフィクションなのかは、調べてもちょっと判りませんでした。名前からは、何となくエミリアーノ・サパタを連想しますね。ヴィジュアル的には、チェ・ゲバラっぽい感じもある。
実在かフィクションかは横に置いても、このテペパのキャラクターは、大いに魅力的。痛快なアクション・ヒーロー的な面もあり、激動の時代に生きた悲劇の英雄的な面もあり、ひょうきんな面もあり。必ずしも善とは言えない部分や、人間的な弱さもある。加えて私は、テペパを演じるトーマス・ミリアンが好きなので(あと、ゲバラも大好き……っても、顔と雰囲気がですが)、なおさら魅了されちゃいました(笑)。
また、医師のヘンリーも良くキャラクターが立っているし、他にも、テペパに救われながら後に裏切る仲間とか、まっすぐな瞳が印象的な少年とか、回想シーンで出てくる女性の美しさとか、登場人物は魅力的な面子揃い。ドラマも、それらのキャラクターの複雑な心情が絡み合って、グイグイ引っ張られる感じで、ラストはけっこう感動的でもある。
音楽はエンニオ・モリコーネで、メイン・テーマはいかにもこの人らしい、凛々しくてちょいと泣きも入っている、メロディの立ったカッコイイ曲。ちょいとノスタルジックでトラッドな香りもあって、かなり好き。あと、映画のラストで流れる、情熱的な女性ヴォーカルによる “Al Messico che vorrei” っつー曲が、映画の後味とも相まって、えらいカッコイイです。近々、日本盤サントラCDが出るようなので、購入の予定。
主演のトーマス・ミリアンは、こりゃもう文句なしに良くって、ひょっとしたら私が見た彼の出演作の中では、このテペパ役が一番好きかも。あんまりキャラクター的にツボだったので、その百面相ぶりを見ているだけでも満足できるくらい(笑)。
医師のヘンリー役は、ジョン・スタイナー。フィルモグラフィーを調べたら、『悪魔のホロコースト』と『炎の戦士ストライカー』は見たことあるはずなんだけど、正直ちっとも覚えてない(笑)。この映画では、いかにも線の細いインテリで、しかもちょっと歪んだ部分もあるというキャラクターに、上手くハマっている感じで好印象。
敵役のカスコッロ大佐に、オーソン・ウェルズ。大物のはずですが、今回の演技は憎々しさにもカリスマ性にも欠けていて、悪役としての魅力があまりない。不明瞭にモゴモゴ喋る、ただのデブって感じで、正直イマイチです。
DVDは紙のアウターケース入りで、トップの図版がそれですが、あたしゃこれより、中身のジャケの方が好み。スクイーズのシネスコで、画質は佳良。
音声は、伊語ドルビー5.1chと、伊語モノラルと、英語モノラルの三種類。英語音声が入っているのは嬉しいんだけど、残念ながらインターナショナル版の尺が本国版より短いのか、あちこち英語音声が欠けているところがある。で、そーゆーときに自動的に伊語音声に切り替わって英語字幕が出る……なんてサービスもなく、いきなり無音になっちゃうもんだから、最初はビックリしました(笑)。
DVDと一緒にサントラCDもついていて、本来なら喜ぶべきところではありますが、前述したように国内盤CDが出るので、あまりありがたみなし。しかも、このオマケCDの収録曲数は10曲なのに対して、国内盤は18曲だし。
最後に、責め場情報。半裸の男が牛追い鞭で打たれるフロッギングのシーンあり。
実は、この映画のポスターとかには、必ずこの鞭打ちの絵が入っているので、あたしゃてっきりトーマス・ミリアンがやられるのかと思って、ワクワクしてたんですけど、実際に映画を見たら、鞭打たれるのは別の男でした(笑)。
とはいえ、こっちの被虐者もタイプ的にはOKなので、これはこれで良し。シーンとしては短いですが、けっこう痛そうだし、迫力もあります。
【追記】日本盤DVD出ました!
復讐無頼~狼たちの荒野 スペシャル・エディション [DVD] 価格:¥ 3,990(税込) 発売日:2009-10-02 |