連作『七人の侍』

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 去年個展をしたフランスのギャラリーから依頼された連作絵画、さきほど完成。個展の時は『七つの大罪』というオーダーでしたが、今回のお題は『七人の侍』。ニッポン人といたしましては、いささかコテコテ過ぎじゃないかと思いますが、フランス的にはキャッチーなんでしょうね、きっと。

 さて、『七人の侍』というお題はあるものの、テーマ的なオーダーはなかったので、そこいらへんは自分で考えなきゃいけない。連作である以上、通しテーマがあった方が、描く方としても見る人の側に立ってみても面白いし。とはいえ、まさか黒澤映画のキャラクターのポートレートを描くわけにはいかないし、この「全体のくくり」というところで、いささか悩んでしまいました。
 七という数字で、しかも日本文化を踏まえて連想するものは……と考えてみて、最初に浮かんだのは「七福神」ってヤツだったんですが、いかんせん私の男絵のテーマには合いそうにない。亀甲縛りにされている福禄寿……なんて、どう考えてもギャグにしかならないし(笑)で、。次に思いついたのは「春の七草」だったけど、これも……ねぇ(笑)。スズシロ(大根)くらいだったら、まあ何とかネタも浮かぶけど、ナズナ(ぺんぺん草)とかはお手上げ。更にゴギョウだのホトケノザだのになると、もうどんな草かも良く知らない(笑)。
 というわけで、七のつく言葉を探すために、今度は辞書をひいてみました。……どらどら。「七覚/仏教で悟りを得るための七つの要素」……面白いけどテーマとしては私には手強すぎ。「七観音/衆生救済のために七種の姿に変幻した観音」……へぇ〜、千手観音とか馬頭観音とかはこれだったのか、知らんかった。面白いけど、私よりも故・長谷川サダオ先生向きの題材だなぁ。お次は「七去/大載礼。妻を離縁できる七つの事由」……完全にハズレ。……ってな具合で、どうにも上手いネタが見つからず。

 で、きっとこれは下手に背伸びするのがいかんのだろうと思い直し、もっと素直に考えることにしました。で、身近な七というと「一週間」というのがすんなり思い浮かぶ。余りにもヒネリがないような気もするし、あんまり和風という感じもしませんが、ちょっと調べてみたら、一週間という概念が日本に入ってきたのって、平安時代と、いがいと古いんですな。てっきり近世のことかと思っていたので、ちとビックリ。
 でもって、日本における一週間の曜日の呼び方は、易教絡みの七曜(地上から視認できる移動する星)に基づいているらしい。そして、この七曜の名前は、太陽と月に陰陽五行を併せたものになっている。そうなってくると、惑星に神の名前が配されている欧米文化との差もでてくるし、陰陽五行も欧米の四大元素と比較できる面白みがある。
 更にこじつけると、日本における曜日の誕生は、前述したように平安時代。そして武士の誕生も平安時代。まあ、じっさいはこの二つの間は、優に百年以上は離れているようではありますが、細かいことを気にしなけりゃ、共通項はちゃんとあるわけで……なんて感じで、調べているうちに乗り気になったので、「七曜」というテーマで「七人の侍」を描くことに決定しました。

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 テーマさえ決まってしまえば、こっちのもの。後は、それぞれの曜日に併せてどんなネタを描くか、全体の構成とかも踏まえて、楽しくアイデア出ししていきます。
 まず、五行から外れる「月」から始まって「日」で終わる構成にして、この二つにプロローグとエピローグっぽいニュアンスを持たせつつ、間を五行に絡めたバリエーションをつけた男絵で繋いでいく感じにすると決定。それから、五行のキイワードからぱっと思いつく「描きたい」ネタを、優先して先に決めていきます。
 うん、「火」で「箕踊り」を、「土」で「土八付」を描きたいなぁ。どっちも拷問処刑ネタだから、他の曜日には、もうちょっと軽めのネタも混ぜよう。だったら「水」で「河童」ってのはどうだろう。尻子玉を抜かれる侍なんて、絵にしたらフィスト・ファックだから面白いかも。あと、土八付は横位置で描きたいから、あと一点は横位置の絵も欲しいな〜、なんて感じで進めていきます。

 全部ネタが揃ったら、ラフスケッチとかで形にしていくわけですが、今回の連作も、以前の『七つの大罪』同様、フランスのギャラリーでの展示販売のみ。日本での発表は未定なのが残念なので、ちょいとこのブログを使って、下絵を二点ほどお披露目です。