『ウルフハウンド 天空の門と魔法の鍵』(2007)ニコライ・レベデフ
“Volkodav iz roda Serykh Psov” (2007) Nikolai Lebedev
ロシア製エピック・ファンタジー映画。劇場未公開のDVDスルー作品ながら、本国ではかなりの大作であったらしく、総合的なクオリティは高し。
平和な村が襲撃され、父と母が殺され、一族で唯一生き残った息子が……という、既視感たっぷりのイントロに代表されるように、アクション・アドベンチャー系のファンタジーとしては、設定等にとりたてて目新しいところはなし。また、二時間を超える尺にもかかわらず、それでもまだ内容を詰め込みすぎなので、世界観の説明に舌足らずなところがあったり、キャラクターが掘り下げ不足だったりという感も否めない。
とはいえ、風景などロケーションの雄大さや、セットの規模やモブの数など、スケール感はタップリ。CGIのクオリティも高いので、いかにもエピック・ファンタジー的な絵面や雰囲気は、存分に満喫できます。
姫君が婚礼に出立するシーンや、生け贄の儀式のシーンなどで、独特な所作やディテールを積み重ねて、異文化の肌触りを描出しようとしている姿勢も、ファンタジー作品として好ましい。
ちょっと説明不足の世界観も、超常現象などの魔法的な要素が、RPG的なアイテムの性能ではなく、多神教世界におけるそれぞれの信仰に基づいて顕現するあたり、創作ファンタジーから少し神話寄りに振れたような魅力はある。世界観と魔法がリンクしていない似非ファンタジーとは異なり、そこいらへんのセオリーは比較的硬派な印象なので、ここを掘り下げ不足なのは勿体ないなぁ。
詰め込みすぎのエピソードも、モンタージュや回想シーンを上手く使って、物足りなさや意味不明感が出るギリギリ手前で、何とかクリアできている印象。キャラクターも同様で、すごく良いというわけではないものの、かといって全く印象に残らないほどでもない。
そんなこんなで、エピック・ファンタジー好きなら、そこそこ楽しめる出来映えだと思います。少なくとも、凡百の安手のファンタジー映画よりは、質量共によっぽど満足度は高いはず。映画が無名だとか、知っているスターが出ていないとかいう理由でスルーしてしまっては、ちょっと勿体ないかも。
ただ、美術や衣装などのデザイン全般は、もう一頑張りして欲しかった。悪役の仮面や甲冑とかが、ちとダサイ(笑)。
演出等は、完全にハリウッド映画的なパターンなので、ロシア映画ならではの味わいとかは全くなし。また、完全に創作エピック・ファンタジーなので、スラブ的な雰囲気とかもなし。音楽もケルトっぽかったりするし。
ハリウッド的でクセがないという点では、『ナイトウォッチ』よりも更に薄味なので、ここいらへんは、かつてのソ連製歴史&ファンタジー映画好きとしては、ちょっと淋しい感じもしますね。アメリカ映画とは違った、独自の味わいがあるファンタジー映画という点では、2003年制作のポーランド製ファンタジー映画”Stara Basn”(邦題『THE レジェンド 伝説の勇者』)の方が、滋味があってヨロシイ。
役者は、主人公のアレクサンドル・ブハロフは、大男でヒゲで汚い長髪と、私の萌えツボを刺激する造形ながら、顔があまり好きではないタイプのせいか(笑)、あんまり印象に残らない。これがもっとタイプの役者だったら、偏愛度もアップするのに、残念。しかも、脱がないし(笑)。
ヒロインのオクサナ・アキンシナは、可愛さと凛とした美しさがあって佳良。他にもいろいろキャラは出てきますが、これといって特筆するようなものはなし。どうも全般的に「そこそこ」感に留まってしまうのが、この映画の最大の弱点かも。
個人的に一番目を奪われたのは、冒頭に出てくる主人公の親父さんなんですけどね。裸エプロン(……って書くと語弊があるか)で槌を振るう、ヒゲのマッチョの鍛冶屋さん。でも、すぐ死んじゃう(笑)。
あとは、人間じゃないんですけど、何と言っても主人公のペット……というより相棒のコウモリ! コウモリ萌え! コウモリがこんなにカワイイ映画は初めてかも(笑)。このコウモリのおかげて、個人的に映画の点数が10点以上はアップしました(笑)。
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