“Pathfinder” (2007) Marcus Nispel
アメリカ大陸に取り残されたバイキングの少年が、ネイティブ・アメリカンによって育てられ、やがて成長して侵略者であるバイキングと戦う……といった内容の、アクション・アドベンチャー映画。
監督は『テキサス・チェーンソー』のマーカス・ニスペル、主演は『ロード・オブ・ザ・リング』でエオメルを演じていたカール・アーバン。
元ネタは1987年のノルウェー映画『ホワイトウイザード』で、これはそのリメイク(とはいえ、舞台を変えているので翻案なのかな?)なんだそうですが、寡聞にしてオリジナルについては何も知らず。
ただ、その年のアカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされているし、IMDbや米アマゾンのレビューでも、概して評判はいいですね。
コロンブスより600年前、バイキングは既にアメリカ大陸に到達していた。彼らは自分たちが入植するために、原住民であるネイティブ・アメリカンの皆殺しを企てたが、一人のバイキングの少年が、その残虐行為に絶えられず、罰を与えられた後、独り置き去りにされてしまう。
少年は、ネイティブ・アメリカンの女性に保護され、彼女の息子として育てられ、やがて逞しい青年に成長した。しかし彼は、その皆とは異なる外見や出自によってゴーストと呼ばれ、部族と完全に同化することもできずにいた。
そんなある日、再びバイキングの船がやってきた。ゴーストのの部族は皆殺しにされてしまう。辛うじて生き延びたゴーストは、交易相手だった隣村に辿り着くが、侵略者の魔の手はそこにも伸びようとしていた。
そして、襲い来るバイキングの軍団対ゴーストの戦いが始まる……ってな内容です。
発想としては、なかなか面白い。
ただし、作品の作りとしては、あくまでもモノガタリの舞台背景に、歴史的なニュアンスを持ってきたというだけで、全体のノリは完全にヒロイック・ファンタジー。全体設定から歴史モノを期待してしまうと、まったく期待はずれに終わるので要注意。
ヒロイック・ファンタジーとしては、ヴィジュアルがかなりいい線をいっているので、それだけでも充分楽しめます。DVDのジャケットからもお判りのように、完全に「実写版フランク・フラゼッタ」の趣。公式サイトを見ると、もっと良く判るかも。
特に前半部、ゴーストとバイキングが森の中や水辺で戦うシーンなんて、絵面が見事なまでにフラゼッタフラゼッタしてます。フラゼッタ風という点では、シュワルツェネッガーの『コナン』はもとより、監督から「フラゼッタを意識した」との発言があった『300』よりも、更には本家の『ファイヤー・アンド・アイス』よりも、フラゼッタっぽい(笑)。
ストーリーとしては、色々と伏線も使って、手堅くまとまってはいるんですが、ただ、設定の旨味は生かし切れていない。
二つの文化的背景を持つ主人公が、自分のアイデンティティを確立していくというネタの方は、けっこうちゃんと描かれているんですが、異文化同士の衝突という点では、残念ながら完全に掘り下げ不足。ネイティブ・アメリカンは、無辜で無力で善良な民でしかないし、敵役のバイキングも、単純で記号的な純粋悪でしかない。別に、歴史的背景を使わなくても描けるじゃん、ってな内容ではあります。
戦いとかも、盛りだくさんではあるんですが、設定から期待されるような「バイキング vs ネイティブ・アメリカン」といった集団戦は出てこない。ネイティブ・アメリカン側のほとんどは、もっぱら虐殺されて逃げ出すだけ。バイキングと戦うのは、主人公プラス数人だけなので、エピック的なスケール感はなく、あくまでも、アクション主体の内容。
アクションものとしては、手を変え品を変え様々なアイデアが繰り出されるし、テンポも悪くないし、監督が監督なので残酷描写も手加減なしだし……と、けっこう楽しめる内容です。
まあ、主人公が悩み多きキャラクターで、しかもさほど強者というわけでもないせいもあって、シンプルな爽快感には欠けるとか、その分、頭脳戦っぽい要素が入るんですが、これも、引っかかる方がマヌケっぽい感じだとか、悪役として魅力的なキャラクターがいないとか、ストーリー的なツッコミどころも色々あるとか、贅沢を言い出せばきりはないけど、世の中にはもっとヒドい映画が幾らでもあるし(笑)。
映像的には、極端に彩度を落とした色調とか、黒みが多く深い陰影とか、多用されるスローモーションとか、ヴィジュアルにはこだわりを持って作られています。鎧兜のデザインなんかも、なかなかカッコいい。
ただ、ムードはあるけれどケレン味はなく、様式美的な要素もさほどないので、個人的な趣味から言うと、もうちょいプラスアルファが欲しい感じ。
また、監督のマーカス・ニスペルは、前に『デュカリオン』を見たときにも感じたんですけど、画面のムードはいいんだけど、演出がそれに流れすぎの感があり。『テキサス・チェーンソー』のときは、もうちょっとタイトだったような気がするんだけどな。
主演のカール・アーバンは、フラゼッタの絵と比べると筋量は少ないですけど(笑)、それでもなかなか立派な裸身を、ふんだんに見せてくれます。基本的には、さほど好きな顔じゃないけれど、ヒゲ+長髪+ヨゴレ+腰布……といったトッピングの良さもあり、個人的には充分佳良。
ヒロイン役のムーン・ブラッドグッドは、角度によっては、ちょっと青木さやかに見えたりもしましたが(笑)、スッキリとした凛々しさがあり、役柄にも合っていて佳良。
他には、キャラクター的なものもあって、先導者(pathfinder)役のオジサン、主人公と行動を共にする笛吹きの男、主人公のライバル的な男なんかが印象に残ります。
バイキングの方は、兜で顔の判別がほとんどつかないことや、キャラクターが立っていないこともあり、役者さんの印象は、ほぼゼロ。エンド・クレジットを見て、初めてTV版コナン役者のボディービルダー男優、ラルフ・モーラーが出ていたと知ったんですが、未だにどのバイキングだったのか判らない(笑)。
DVDはアメリカ盤、リージョン1、スクィーズのワイド、音声は英語とスペイン語とフランス語、字幕は英語とスペイン語。
オマケは、監督のオーディオ・コメンタリー、削除シーン、メイキング・クリップ数種、予告編数種。
前回に引き続き、これも何だかそのうちDVDスルーで、日本盤が出そうですな。
最後に、責め場情報。
主人公のライバルのネイティブ・アメリカン戦士が、バイキングに捕らえられ、上半身裸の後ろ手縛りで、焚き火の上に逆さまに吊られて火あぶりにされるシーンあり。ここはけっこうヨロシイので、火あぶりフェチ(そんなヤツはいねぇよ、と思われるかもしれないけれど、いるんですよ、そういう人も!)なら、見て損はなし。
もう一つ、長老が二本の立木の間に大の字に吊されて、馬裂きにかけられるシーンもありますが、着衣だし、決定的瞬間はフレームアウトしちゃうので、それほど面白みはなし。
あと、映画のそこかしこで虐殺シーンがある内容なので、半裸の男が殺されたり、死体が吊されたりといったシーンは、ふんだんにあります。残酷ものオッケーだったら、そこいらへんは見応えがあるかも。
おっと忘れてた、追記追記。
少年が背中を鞭打たれるシーンもありました。裸の背中にCGIで鞭痕が刻まれていきますが、ミミズ腫れなんて生易しいもんじゃなく、まるで切り傷のような痕で、けっこう迫力あり。
“Pathfinder (Unrated Edition)” DVD (amazon.com)
【追記】『レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者』の邦題で日本盤DVD出ました。
レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者 [DVD] 価格:¥ 1,490(税込) 発売日:2010-06-25 |
レジェンド・オブ・ウォーリアー 反逆の勇者 [Blu-ray] 価格:¥ 2,500(税込) 発売日:2010-07-02 |