『君よ知るや南の獄』のフランス語版単行本、”Goku – L’ile Aux Prisonniers (volume 1)”が、当初の予定より一ヶ月遅れて、今月24日にフランスで発売されました。
本日、コピーが数部届いたんですけれど、ご覧のような装丁になっています。
中身の方は、基本的に日本語版と同じですが、仏語版にはこんな感じで、巻頭にキャラクターの紹介ページが入ってます。けっこういい感じで、お気に入り(笑)。
裏表紙の絵は、雑誌口絵「淫画」シリーズで描いたうちの一点を、トリミングで使用。先方からは「このマンガのカラー・イラストはないか?」と聞かれたんですけど、残念ながらそういうものはなかったので、自分が過去に描いたPOWネタのカラー・イラストを数点渡して、「好きなものを好きに使っていいから」とお任せしました。
この本は、版元のH&Oにとっても、長編マンガを分冊刊行するのは初めての試みなので、何とか成功して欲しいもんですが、ネットで見られるあちらのゲイショップの売れ行きベストには、早々とランクインしていたので、まずは一安心(笑)。
さて、タイトルの”Goku”ですが、これは先方から「本のタイトルを、これまでの”Gunji”や”Arena”に併せて、単語一つにしたい。それも、日本語の音読にしたいので、何か作品内容に合ったものを考えてくれないか?」というリクエストがあったので、”Tsubaki”と”Goku”の二つを提案したところ、フランス語的な音の響きという点で、後者が選ばれたという次第です。
タイトルが外国語の音読ってのは、果たしてどんなものだろうかと、ちょいと不安めいた気持ちもあったんですが、考えてみると、確か映画『戦場のメリークリスマス』の仏題が”Furyo(俘虜)”だったりするし、あちらでは割とスタンダードな発想なのかも知れませんね。
まあ、タイトルの翻訳という意味では、そもそも原題の『君よ知るや南の獄』というのは、ゲーテの詩、およびそれによるトマの歌曲『君よ知るや南の国』のパロディなわけです。
で、このタイトルには、実は狙いがある。
元ネタの詩、「ミニヨンの歌」についての知識がある方ならば、オリジナルは憧れを謳った内容であるはずなのに、その憧れの対象が「獄」というネガティブなものになっているというアンビバレントを感じられるはずです。また、歌曲の方が、かつて日本では叙情歌としてポピュラーなものであったことを知っている方なら、ノスタルジックなニュアンスの中に、禍々しい単語が混在しているという奇妙さを、やはり感じられるはず。
この矛盾が、作品のストーリー、およびテーマと呼応しあっている。ここいらへんの詳細は、日本語版単行本のあとがきで私が書いている、ポルノグラフィにおけるユートピア性とディストピア性についての件をお読みいただければ、お判りになられると思います。
そういう狙いのあるタイトルだったわけですが、そういったニュアンスを外国語にそのまま置き換えるのは、おそらく不可能でしょう。翻訳出版の話が出たときに改めて調べてみたら、どうも、この有名な「君よ知るや南の国」というフレーズ自体が、かなり意訳されたものだったようですし。
だから、今回の仏版タイトルに関しては、いちおうこちらの意図と、最終ページの引用との関連は説明しましたが、基本的には先方に丸投げでお任せしました。