“Die Horden des Khan” ((1962) Remigio Del Grosso
例によって、イタリア製ソード&サンダル映画のDVD(ドイツ盤)なんですが……う〜ん、久々に変なヤツを見てしまった(笑)。
伊語原題は”Ursus e la ragazza tartara”、英題は”Ursus and the Tartar Princess”で、いちおうウルスス(英語読みだとアーサス)ものなんですが、実はウルスス君は脇役で、主役は別だったりします(笑)。
ストーリーは、タタールの侵攻を受けているポーランドで、捕虜になったマッチョな樵のウルスス(この時点で既に変)とポーランドの王子(こっちが主役)が、奴隷にされているポーランド人たちと脱出し、大戦闘の末に勝利する……ってな内容。で、そこにポーランドの王子とタタールのお姫様と恋やら、樵のウルススと攫われた息子との再会やら……ってなエピソードが、挟まっていく。
まあ、これだけだったら、さほど変テコでもないんですが、サービス精神旺盛というか、それらに加えて、西洋史劇の「お約束」シーンが、節操なくドバドバ投入されるんです、この映画。
例えば、ポーランドの捕虜たちはキリスト教徒で、タタールはその棄教を迫るなんてエピソードがある。で、これが、捕虜たちが洞窟で秘密裏にミサを行っていたところ、タタールの姫が愛する男を慕って忍んで行き、やがて主催の神父が捕らえられ、両腕にタールを塗られて火責めにされているところを、賛美歌と共に、一天にわかにかき曇り、雷鳴が轟き豪雨が降って火を消し止め、それを見て姫は改宗を決意し……ってな、『クォ・ヴァディス』や『ベン・ハー』のつまみ食いみたいな塩梅。
かと思えば、タタールの姫を巡って、ポーランドの王子とハーンの部下の恋の鞘当てなんてのもあり、これがまた、中世騎士ものよろしく、馬に跨り槍を構えて、一対一の御前試合。他にも、ウルススと姫の侍女の悲恋だの、実は娘思いだったタタール将軍の悲劇だの、とってつけたような「泣かせる」シーンが、ロクな前振りもなくトートツに入ってくる(笑)。
もちろん、肉体派男優の売り的な見せ場も、抜かりなく、しかし珍妙に配されています。
そもそも鎧兜で完全武装して銃までぶっ放しているポーランド軍の中に、一人だけ、まさかり振りかざした肌も露わなマッチョ(つまり、樵のウルスス君)が混じってるという絵面からしてヘンテコなんですけど、周囲は剣で斬り合っているのに、ウルスス君だけは、相手をねじ伏せたり投げ飛ばしたりの肉弾戦。更に、タタールの生き残りが樹に登って隠れようとしたところを、怪力で幹を揺すぶって振り落とす……なんて展開は、もうギャグかと(笑)。
他にもウルスス君は、捕虜仲間と一緒に洞窟に脱出口を掘っていて、その怪力で巨岩を担いで引っこ抜くとか、無事脱出した後も、まさかりと怪力で橋桁を弛ませて、追っ手を阻止したりしますが、ストーリーのメインには殆ど絡んでこない役なので、英雄大活躍じゃなくて、単なるオマケ、刺身のツマ程度にしか見えない(笑)。
また、昔のエピック映画に欠かせない、音楽や踊りのサービスもきっちりあるんですが、これの入り具合が、またヘンテコ。
脱出口を掘っている捕虜たちは、バラライカを持った見張りを一人立てていて、その演奏でタタールの巡回が来たかどうか知らせるんですけど、その巡回がバラライカの演奏を気に入って、暢気なことに、自分たちの宴会に連れていくんですな。で、捕虜たちは、そこに踊りの名手や怪力ウルススを同行させて、見事なコサックダンス(かなりの上手さで見応えはありましたが)を披露し、敵の気を弛ませたところで、逆襲に転じて武器を強奪、脱出に成功する……って、展開がマヌケ過ぎるだろう(笑)。
他にも、広場でエキゾチックな歌と踊りが繰り広げられる、けっこう大規模なシーンもあるんですが、どうやら他の映画からの流用らしく、これまたトートツなことこの上ない(笑)。
スペクタクルな見せ場、つまり大戦闘シーンとかも、いちおうあることはあるんですが、これまたやっぱり、全て他の映画からの流用。
で、その結果、クライマックスの、タタール軍対ポーランド軍の大決戦シーンで、主人公一行が何をしているかというと、山小屋に隠れて、食事を作ったり昼寝したりしながら、窓から戦況をチェックしているだけなのだ(笑)。まあ、流石に最後の最後には、彼らも外に打って出ますが、戦闘に加わると言ったって、ただ、俳優と青空以外は何も写っていない、剣を振りかざしているクローズアップが、モブシーンの合間に入るだけです(笑)。
という具合に、安手なクセに変にテンコモリなので、もうシッチャカメッチャカ(笑)。
いやぁ、久々にヘンテコなヤツ、見ちゃったなぁ(笑)。ツッコミどころだらけで、実に楽しかった(笑)。
ウルスス役は、ジョー・ロビンソン。IMDbによると、有名なレスリング一家の息子で、本人もヨーロッパ・チャンピオンになったレスリング選手だそうな。ソード&サンダル映画だと、”Taur, il re della forza bruta (Tor: Mighty Warrior)”や”Le Gladiatrici (Thor and the Amazon Women)”などに出ているらしいですが、いずれも未見。
なかなか立派な身体で、ボディービルダー系と比べると筋量は少ないですけど、個人的には、このくらいの自然な筋肉の方が、セクシーさは感じますね。顔は、とりあえず今回はフルフェイスのおヒゲさんなので、ぎりぎりクリア(笑)。でも、ヒゲがなかったら、きっと見向きもしないタイプ(笑)。
主役のポーランドの王子は、エットレ・マンニ。フィルモグラフィーを見ると、けっこうソード&サンダル系では見ている映画も多いんですけど、すいません、ちっともお顔が記憶にゴザイマセン(笑)。
タタールの姫役に、海外で活躍した日本人女優のはしり、ヨーコ・タニこと谷洋子。ソード&サンダル系では、前にここで紹介した”Samson and the Seven Miracles of the World”、それ以外でも、日本盤DVDが出ているスタニスワフ・レム原作のSF映画『金星ロケット発進す』(これはなかなか面白かった!)などで拝見しております。今回、改めて見ると、ちょっとチャン・ツィイーに似ているような気も。
ま、映画が映画ですんで、役者的な見所は皆無です(笑)。ジョー・ロビンソンの半裸だけ(笑)。
責め場の方は、前述の神父の火責めの他にも、広場でセント・アンドリューズ・クロスに磔にされているポーランド人捕虜のシーンがあります。
神父同様、これも両腕に薪が巻かれて火を点けられているという、ちょっと変わった火責めになってるんですけど、これは、タタールのヨーロッパ侵攻の際、そういう処刑があったという逸話でもあるんでしょうかね? 日本だと、元寇の際、捕虜が掌に穴を開けられて、そこに縄を通して吊されたという、有名な伝承(因みに私は、この話を小さい頃に父から聞かされました)がありますけど、ちょっとそれを連想しました。
あと、これはおそらく他の映画からの流用シーンだと思いますけど、タタールに攻め込まれた村で、捕らえられた村の男たちが、上半身裸で杭に磔にされているってなシーンも出てきます。
そんなこんなで、肝心のウルスス君の責め場がないのは物足りませんが(笑)、公開処刑好きとしては、そこそこお得感はあったかな。