“1612” (2007) Vladimir Khotinenko
前にここやここで触れた、ロシア製大作史劇。制作はニキータ・ミハルコフ。
先日アメリカ盤DVDが出たので、購入して英語字幕付きで鑑賞。これでようやく、どういった話だったのかが判りました(笑)。
とはいえ、それでも私の英語力では、まだかなり難かしくて……例えば、映画のイントロからして、こんな感じです。
1604年、逃亡修道士グレゴリー・オトレピエフは、イヴァン雷帝の遺児ドミトリー1世を僭称し、ポーランド王ジグムント3世の後ろ盾を得て、ロシア皇帝(ツァーリ)ボリス・ゴドゥノフに反旗を翻す。
この、偽ドミトリーは、ロシア正教ではなくカトリックを奉じていた。そしてローマから、偽ドミトリーを支援し、同時にロシアへの布教を狙って、ポーランド人神父アントニオが遣わされる。
翌1605年、ボリス・ゴドゥノフが急逝し、その妻と息子は、ポーランド軍によって惨殺される。
偽ドミトリーはモスクワに入城し、ロシアを支配下に収めるが、暴政によって人々の反感を買い、わずか一年にしてツァーリの座を追われてしまう。人々は、偽ドミトリーの遺体を焼き、骨を砕き、大砲に詰めて西の空(ポーランド)に発射する。
こうして、ロシアが混迷を極める中、1610年、新たなツァーリとして、ポーランドの王子で、やはりカトリックのヴワディスワフが即位する。
しかし、この新ツァーリはロシアへは赴かず、戴冠式も玉座が空のまま執り行われる。見物人の一人が、この空虚な戴冠式と、非ロシア正教徒をツァーリとして戴くことに異を唱えるが、すぐに警備のポーランド兵に捕らえられてしまう。
祝いの鐘が打ち鳴らされ、祝砲が打ち鳴らされる中、異を唱えた男は舌を切り落とされ、ロシアの人々の上には、空の玉座とポーランド軍が君臨する……。
……といった背景説明が、約10分のアヴァンタイトルで一気に説明されるもんだから……いや、字幕のスピードが、速いこと速いこと(笑)。一回見ただけじゃ、30%くらいしか理解できませんでした(笑)。
でも、いざ本編が始まると、モノガタリの中心には、少年時代にポーランド軍に家族を殺された主人公が、鎖に繋がれた農奴の身でありながらも、知恵と度胸と運命の偶然によって、やがては歴史の転換に重要な役割をもたらす人物になる……といった骨が一本通っているので、これは単純に娯楽作的に面白いです。
キャラクターも、ハンサムで頭のいい主人公を筆頭に、その親友であり、コメディ・リリーフ的な役割も担うコサック青年、ボリス・ゴドゥノフ一族の唯一の生き残りでありながら、今は政治的道具としてポーランド軍と行動を共にしているクセニヤ皇女、そのクセニヤを支配し、同時に主人公の家族の仇でもある、ポーランド軍のコサック首長、主人公に運命の転換をもたらすスペイン人傭兵……と、魅力的な面々が揃っています。
ただ、モノガタリの構成要素は、かなり複雑です。
まず、イントロ部分に象徴されるように、ストーリーを構成するグループの数が多く、かつ、それぞれの立ち位置が複雑なんですな。描かれるテーマも、自由、戦争、民族、宗教、愛、etc……と、多岐に渡るし、世界観も、正義や悪といった単純なものではない。
こういった、多彩な要素が渾然一体となって、骨太の大河ドラマになっているという印象なので、近作で言うと『キングダム・オブ・ヘブン』に近い感じ。恋愛の描き方が「オトナ」なのも、それっぽいし、そういえば主人公の顔も、ちょっとオーランド・ブルームに似てるかも。
ただ、『キングダム・オブ・ヘブン』が、シリアスな歴史劇に徹していたのに対して、この”1612″は、そういった要素もありつつ、もっと軽い痛快娯楽系の要素もあり、更には、ちょっとファンタジーが入った伝奇系の要素もあったりします。
これだけ盛り沢山だと、大いに見応えがある反面、いささか盛り込みすぎのきらいはあって、尺は2時間半近くあるけど、それでもまだ足りない。3時間は欲しかったかなぁ。
でも、退屈するどころか「もっと見たい!」と思ったんだから、やっぱすごく面白かったわけで。
前述したように、キャラクターに魅力があるし、役者さんたちもいい。モノガタリも、フィクション的な明快なカタルシスと、リアリズム的な冷徹さが、いい塩梅で共存している。
見せ場も、前に紹介したときに書いたように、とにかく、スペクタクル的に最大の見所のナヴァロク(……でいいのかな? 英語でNavalok、露語でНаволок)攻城戦(前回これを「モスクワ」と書いちゃってるあたり、自分がいかに内容を理解できていなかったかが偲ばれます)は、物量、展開、迫力、モノガタリ的な高揚感と、ホントここだけでも見る価値あり。
美術や衣装も100点満点、映像表現的にも、美麗な詩情あり、手加減なしの残酷ありで、そのどちらもがハイ・クオリティ。
というわけで、個人的には大満足。
劇場公開は、もう諦めてますから、何とか日本盤DVDだけでも出して欲しいもんです。
でも、先日の“Stara Basn”(THE レジェンド 伝説の勇者)に続いて、これまた待望していた、ジェラルド・バトラーの“Attila”(覇王伝アッティラ)や、はたまた、前にここで紹介した“Pathfinder”(レジェンド・オブ・ウォーリア 反逆の勇者)も、日本盤DVDが出る(どれもウムムな邦題ばっかだけど……)ようなので、この”1612″も、望みがゼロってわけじゃないですよね、きっと。
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