“Der Sohn des Scheichs” (1962) Mario Costa
ゴードン・スコット主演、アラブを舞台にしたアクション・アドベンチャー映画の、ドイツ盤DVD。伊語原題”Il figlio dello sceicco”、英題”Kerim, Son of the Sheik”。
イタリア語音声、字幕なしで鑑賞したので、細かな部分は良く判らないんですが、IMDbの解説によると、1860年代の中東で、カリフの座を狙う悪者オマールの陰謀と、オマールに妹を殺された青年カリムが、義賊となりオマールの陰謀に立ち向かう……という内容。
ゴードン・スコットは、もちろん主人公カリム役。悪のヒロイン役に、毎度お馴染みのモイラ・オルフェイ。あと、スペシャル・ゲスト的な扱いで、ゴードン・ミッチェルもちらっと登場します。
出ている面子から見ると、イタリア製ソード&サンダル映画(及びその周辺)の中でも、かなり安手な部類に入る感じですけど、この映画の場合は、どうやら全編エジプトロケを敢行しているようで、画面には、このクラスの映画とは思えない、スケール感と厚みがあります。
まず、モブの人数が多い! ほんのちょっとしたシーンでも、近景から遠景に至るまで、その他大勢の人々がフレームインして蠢いている。
おそらく、現地の人がエキストラをやっているんでしょうけど、何せ中東が舞台で、しかも制作が60年代初頭ともなると、皆さん普段から民族衣装なわけです。つまり、エキストラ用の衣装を用意する必要がなく、着の身着のままでOK。だから、これだけ大量のモブが調達できたのでは。
人だけじゃなく、動物も同様。馬やらラクダやらロバやら山羊やら、まあとにかく出るわ出るわ。馬に関しては、軍の協力もあったのかも知れません。騎馬軍団の数も、多い多い。
セットも、おそらくほとんど使っておらず、クライマックスの砦のシーンはセットだと思いますが、それ以外は、実在のモスクとか宮殿とか遺跡とかで撮っているんだと思います。市場や広場のシーンは、開発以前のカイロ旧市街(オールド・カイロ)っぽいし、オアシスや村落のシーンも、たぶん実在のもの。
室内シーンも、かなり現地のものをそのまま使っているっぽいです。インテリアから小道具に至るまで、とてもゴードン・スコットやモイラ・オルフェイが出ているクラスの映画とは思えないゴージャスさ。
また、観客が期待するような、観光映画的な側面も、しっかりぬかりなく抑えており、遠景にギザの三大ピラミッドが見えていたり、更には、サッカラの階段ピラミッドの前を、大量のアラブ騎馬軍団が駆け抜ける……なんて、実に豪華な画面も見せてくれます。
スペクタクル映画にはつきものの、エキゾチックなダンスシーンも、この映画では3回も出てきます。うち二回は女性のベリーダンスで、残念ながら音楽は映画用の劇伴に差し替えられているんですけど、映像にはしっかり、ウードやカーヌーンやダルブッカといった、アラブの伝統楽器を演奏している姿が映っています。
残る1回が、男性のダンスなんですが、これがタンヌーラというエジプトの民族舞踊でした。スーフィーの旋回舞踊のエンターテイメント版といった趣で、旋回しながらスカートのような円盤状の布を拡げ、それを身体から抜き取って頭上で廻すという踊りです。以前、エジプト舞踊の専門家の友人に、ビデオを見せて貰ったことがあり、見るのはこれで二回目。かなり印象に残っていた踊りながら、今まで再会の機会がなかったので、これは嬉しかった。加えてありがたいことに、このシーンの音楽は、ちゃんと同時録音(おそらく)されたものを使用。
こういう具合で、セットや小道具にお金を使わずに済んだのか、メイン・キャラの衣装とか、馬具とか小道具の類とかも、このクラスの映画にしては、実に上質。前述した砦とか、ダンジョンのセットなんかも佳良。
屋外に出たら出たで、前述した壮麗な建物はあるわ、ナツメヤシが林立するオアシスはあるわ、水平構図を存分に生かした砂漠のパノラマはあるわ。しかもそこを大量の人馬が駆け回るわけで、どのシーンをとっても、画面の重厚感がバツグン!
よく見ると、オアシスの村が襲撃されるシーンなんて、映画用に設置したと思しきテントが燃えているだけで、あとは回りで人や動物が駆け回っているだけなんですけどね。でも、村の全景自体に説得力があるのと(実在のものだとしたら当然です)、前述したように、モブや動物の物量がタップリなので、ちゃんと一大スペクタクルに見えるわけです。
いやいやホント、画面を見ているだけでも楽しい映画でした。
マッスル映画としては、ゴードン・スコットはアラブのシークの息子役なので、当然ごとく着衣なんですけど、それでもしっかり、他はみんな長袖なのに、一人だけフレンチスリーブで太い腕がむき出し。しかも、これまた一人だけ襟ぐりが深く、胸板見せもバッチリという、好サービス具合が嬉しい。
また、後半、スコット君はとっ捕まって、ダンジョンに入れられて拷問されるんですけど、その時にちゃんと上半身裸になってくれます。で、無粋な(……かどうかは知りませんが)映画だと、ピンチから脱出して逆襲に転じる際、大概また服を着ちゃうもんだから、見ているこっちとしては、「いいよ、服なんか着せなくって!」なんてブーたれたくなったりするんですが、この映画では、脱出しても上半身裸のまんま。
そしてそのまま、クライマックスの大合戦のときも、悪玉とのタイマン勝負のときも、ヒロインとのハッピーエンドのときも、エンドマークが出るまで、ず〜っと上半身裸。
いや〜、ファン心理やマニア心理を、良く判っていらっしゃる(笑)。
そんなこんなで、個人的にはかなりポイント高い映画でした。
言葉が判らないので、あまり正確なところは言えませんけど、演出のテンポも良さげで、スパスパ楽しく見られる痛快娯楽作といった感じです。
DVDはドイツ盤なので、当然PAL。リージョンコードは0。音声はドイツ語とイタリア語。字幕なし。
画面はノートリミングのシネスコで、スクィーズ収録。画質は、ちょっと粒状感があったり、若干の傷やゴミがあったりはしますが、退色は見られず、映画のジャンルと制作年代を考えれば、充分高画質と言えるでしょう。
では、最後に責め場情報。この映画で、責め場は二ヶ所。
まず、映画前半。オアシス住まいのスコット君一行が、街にやってくると、広場で公開フロッギングが行われているのを目撃します。
尺はあまり長くなく、被虐者もさほど印象に残るタイプではないんですが、基本的に公開処刑というのは、それがパブリックな場で行われているというのがキモ。
で、この映画の場合、前述したように風景のスケール感やモブの物量感がタップリなので、そのぶん公開処刑の趣も引き立ってます。被虐者が豆粒大の引きのある構図から、だんだんとアップに寄っていく見せ方など、シーンとしてはかなり魅力的。
二つ目の責め場は、お待ちかねのスコット君の拷問。これは、ダンジョンでのフロッギングで、責め自体はいたってシンプル。
とはいえ、尺がかなり長い上に、アップあり、引きあり、バックあり、フロントあり、ギャラリーあり、ヤメテヤメテと泣き叫ぶ恋人あり……と、ネットリじっくりタップリ見せてくれるので、実にヨロシイ。
また鞭痕が、安手の映画にありがちな、いかにもペンキなすりました、ってなタイプではなく、ちゃんと皮膚が破れているようなメイクなのも良いですな。
で、こうしてヒーローがひとしきり鞭打たれたあと、今度はヒロインが、ラックに縛られて引き延ばし責めにあうんですけど、当然のことながら、ヒーローはそれを止めることができないので、怒りに身をよじりながら、何とか縛めから逃れようとする。
このシーンが、「筋肉美見せ」のシーンになっていまして、ゴードン・スコットは、筋量自体はさほどないので、あまりこういうシーンには向いていないんですけど、この映画では、背筋中心のせいか、なかなか良い絵、良い筋肉美を見せてくれます。ライティングによる陰影の濃さも手伝って、筋肉の塊を蠢かせながら、ミミズ腫れの浮くテカった肌をよじる姿は、ちょいとバロック絵画的な美しさもあって、かなり色っぽい。
というわけで、責め場も満足の一本でした(笑)。