ダニエル・レンツ(Daniel Lentz)

 前回、ダニエル・レンツを引き合いに出したので、ついでにレンツのアルバムの中から、お気に入りのものをご紹介。
cd_daniel-lentz-missa
“Missa Umbrarum”
 アンビエント好きにオススメしたい一枚。
 1曲目”O-KE-WA”は、低くゆったりと刻まれる微かなドラムや、繊細な音響効果に乗せて、12声のコーラスが、テキストを詠唱のように歌いあげる、ちょっと東洋的な雰囲気のある曲。とても瞑想的で心地よい。
 2曲目”Missa Umbrarum”(影のミサ)は、「キリエ・エレイソン」といったミサの典礼文を、音節ごとに分断・解体・再構成しながら歌う8声と、ワイングラスを使った様々な音響(鐘のようだったり、鈴のようだったり、ヒスノイズのようだったり、言われなければワイングラスだとは判らないような、不思議な音)と、それらの互いの干渉による118の音響効果(作曲者はSonic Shadows〜音の影と呼んでいる)からなる大曲。繊細で複雑な響きを持ち、なおかつ極めて美しい音楽。必聴。
 3曲目”Postludium”は、グラスハープによる幽玄なドローンの合間に、コーラスが浮かんでは消え浮かんでは消えする、これまた瞑想的な雰囲気を持つ曲。
 4曲目”Lascaux”は、まるでシタールのようなグラスハープのドローンの合間に、”Missa Umbrarum”でも聴かれた鐘のようなワイングラスの音響効果が絡む、アンビエントとして聴いても極上の逸品。
 このアルバムは、とにかくひたすら静謐で美しいので、ブライアン・イーノやハロルド・バッドが好きだったら、絶対に聴いて損はなし。

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“b.e.comings”
 表題曲”b.e.comings”は、様々な楽器による単音とテキストの断片が、マルチトラックのデジタル・レコーダーで、目まぐるしく複雑に組み合わされていく作品。
 他の4曲、”Song(s) of the Sirens”、”Midnight White”、”Slow Motion Mirror”、”Butterfly Blood”は、音節で分断されたテキストが、テープ・ディレイによって次第に再構成されていき、最終的にテキストの原型に戻って完成するという作品。
 前者には、ミニマル的な陶酔感や高揚感があり、後者には、美しく幽玄な雰囲気があります。それと同時に、どちらも分解されたテキストが、次第に組み合わさって文学的な詩として完成していくという、プロセスの面白さも味わえる。
 このCDでは、まず最初の5トラックで、最終的に完成形されたサイクル部分のみを聴かせ、残りの5トラックで、それらの曲を改めて、最初のサイクルから完成するまで、完全に収録する……という、ちょっと変な構成になっています。曲をシステマティックに「理解」するためなんでしょうけど、正直、個人的には余計なお世話という感じがします。
 でも、そういったロジカルな要素を抜きにしても、純粋に音楽として美しいというのが、レンツの音楽の良いところ。

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“On the Leopard Altar”
 ミニマル・ミュージック好き、テクノ好き、エレクトロニカ好きにオススメしたい一枚。
 1曲目”Is It Love”は、シンセサイザーのスピーディーなアルペジオと、細かく分断されたコーラスが、複雑に絡み合いながら、幻惑的に展開していきます。目眩くような中にポップ感もあるのがいい。80年代のニューウェーブを好きな方なんかにもオススメ。
 2曲目”Lascaux”は、前述のアルバム”Missa Umbrarum”に収録されている曲と同じ。極上アンビエント。
 3曲目”On The Leopard Alter”は、ピアノの演奏やシンセサイザーの音響をバックに、ヴォーカルが牧歌的なメロディーを穏やかに歌うという、かなりフォーク〜ポップス風の感触の曲。ちょっと、ヴァージニア・アストレイ、ケイト・セント・ジョン、ヒューゴ・ラルゴなんかを思い出しました。
 4曲目”Wolf Is Dead…”は、”Is It Love”と同様の構成。
 5曲目”Requiem”は、キラキラしたシンセサイザーのアルペジオに、低い鐘のような音響と低音域のコーラスがゆったりと寄り添う、内省的な雰囲気が漂う小品。
 全体的に聴きやすいアルバムです。
 オマケ。
 1986年、バンクーバー万博用に制作されたという、映像作品”Luminare”。音楽がダニエル・レンツ。前述のアルバム”On The Leopard Altar”に収録の”Is It Love”です。