最近購入した500円DVDの中から、印象深かったものを二つ。
『シシリーの黒い霧』(1962) フランチェスコ・ロージ “Salvatore Giuliano” (1962) Francesco Rosi |
1950年、シチリア島で、シチリア独立運動の闘士だった青年、サルヴァトーレ・ジュリアーノが他殺死体となって発見された。彼を殺したのは誰か? そして、彼の組織が行った「メーデー虐殺事件」の、真の黒幕は何者なのか? といった実話に基づく内容を、ドキュメンタリー・タッチで描いた作品。
とにかく画面の迫真性が良い。見ているうちに、ついこれが映画だということを忘れてしまい、ニュース映像を見ているような気になってしまうような、そんな力強さがあります。感触としては、ジッロ・ポンテコルヴォの『アルジェの戦い』なんかと似た感じ。
話としては、正直ちょっと判りにくいです。現在と過去が交錯する構成だし、ドキュメンタリー風ということもあって、いわゆる主役に相当するリード・キャラクターも存在しない。マフィアとか山賊とか憲兵とか警察とか、そんな面々が絡み合った内容なので、登場人物の立ち位置も掴みにくい感じ。フォーカスが、ジュリアーノの殺害理由と犯人探しかと思っていると、後半になって、メーデー虐殺事件の真相や黒幕へと移っていくのも、見ていてちょっと混乱してしまった。
とはいえ、前述したような映像力や演出力もあって、映画にはぐいぐいと引き込まれていきます。たとえ細部は完全に把握できなくても、ここで起こったことの「恐ろしさ」は、充分に伝わってくる。そんな「恐ろしさ」と、眩しい陽光と明るい風景という、そのコントラストも素晴らしいし、光と影による表現も、実に美しくて力強い。あと、基本的にニュース映像的な表現であるだけに、その中にふと、マンテーニャのキリスト像の活人画的な表現なんていう、ピクチャレスクな映像が出てきたりして、思わずはっとさせられたり。
ああ、あとどーでもいいことですけど(実はどーでもよくなくて、私にとっては重要なんですが)、男臭くてカッコイイ野郎どもがいっぱい出てくるのも高ポイントでした(笑)。
『バトル・フォー・スターリングラード』 (1975) セルゲイ・ボンダルチュク(前編) “ОНИ СРАЖАЛ ИСЬ ЭА РОДИНУ” (1975) Sergei Bondarchuk |
(後編 ) |
例によってヘンな邦題が付いていますが、公開時のタイトルは『祖国のために』。第二次世界大戦時、ドン川流域でナチス・ドイツと戦ったソビエト軍を描いた、ショーロホフの小説の映画化作品。
前線にいる兵士たちの細かな日常描写と、大規模な戦闘シーンがサンドイッチになった構成。ストーリーとしては、原作が未完のもののようですし、同じ原作者と監督コンビの名作、『人間の運命』みたいなドラマティックさはないですが、友情あり下ネタあり、ユーモアあり悲劇あり……といった兵士たちの日常描写は、実に等身大の人間臭さが感じられて楽しめます。かと思いきや、麻酔なしの手術シーンなんて、ホラー映画そこのけのオッカナサだし、戦友の絆なんかは感動もしちゃったり。
スペクタクル的な面に関しては、ボンダルチュク監督の撮る戦闘シーンは、『戦争と平和』の物量とカメラワークのスゴさに、とにかくビックリしたんですけど、今回のこれは、あそこまでスゴくはないものの、それでも燃えながら回転する風車の黙示録的なイメージとか、戦場でふと訪れる静寂とのコントラストとか、モンタージュで挿入されるイメージ・ショットの数々とか、やっぱり映像的な見所が盛り沢山。時として、映像表現に凝る余り、叙事が置き去りにされてしまうような感じも、やっぱり同じ。恐ろしい破壊の中にも「美」を見てしまうあたり、つくづく映像派の作家なんだなぁ、と改めて感じたり。
役者さんも粒ぞろい。メイン・キャラクターのワシーリー・シュクシンという人を始め、俳優兼監督のボンダルチュクご本人、『戦争と平和』のアンドレイ役だったヴャチェスラフ・チーホノフ、いずれも素晴らしい。IMDbを見たら、グリゴーリ・コージンツェフ版『ハムレット』のインノケンティ・スモクトゥノフスキーの名前もあったんだけど……う〜ん、どこに出てたんだろう、ちっとも気付かなかった(笑)。
そんなこんなで、実に見応えもあって楽しめたので、未見の『ワーテルロー』がますます見たくなりました。
最後に余談。この映画には、スターリングラードは全く出てきません。件のヘンテコ邦題が、『バトル・オブ……』じゃなくて『バトル・フォー……』になっているあたり、小賢しいというかこすっからいというか……(笑)。